仲直りしたはいいけど、いきなりすぎて思考停止しちゃったよ!
出勤して早々に警察から、能力者と思われる集団が暴れまわっているとの
連絡を受けて四之宮チームが現場へと向かっていた。
「敵は四人と少ないが全員が能力者だった場合は厄介だ。既に負傷者も出ているからこれ以上増やさないためにも全力で向かうぞ」
「「はい」」
その頃の柊家では、美月は自分の部屋で二度寝。
柊先生はまだ制御装置の改良に悩まされていた。
「…ん。お腹すいたな」
時刻はもうすぐ12時。まだ眠たいが、空腹には勝てず起き上がって
何か作ることにした。
部屋を出て台所へと向かい、冷蔵庫の中を確認すると中身は空っぽだった。
「あぁ…そういえば昨日全部使っちゃったんだった。起きたついでに買い物
行こう。どうせ行かないといけないし」
柊先生がいるが、彼に任せるといらないものまで買ってしまうので
美月本人が直接買い物に行くしかなかった。
部屋にいる柊先生に買い物に行ってくると伝えて、スケートボードに
乗って商店街まで通常モードで向かっていった。
その商店街では、またしても大変なことになっていた。
「誰か助けてー!」
30代の女性が覆面を被った男に人質にされ、ナイフを突きつけられていた。
警察が人質の解放を求めるが、全く聞く耳を持たず「近寄るな!」と警察官
数名に威嚇する。
すると男が持っていたナイフが突然ブルブルと震え始め、次第には彼の手から
抜け出そうとする。
「えっ?なんだっ!?…うわっ!?」
力を入れるが負けてしまい、ナイフは宙へと浮いてどこかへと飛んで行く。
その先には妹尾がいてナイフは彼の手へと収まった。
「ちっ、能力者かっ!?おい、やっちまえ!」と背後にいた三人を妹尾に
襲わせるが、どこかから出てきた宮木と四之宮によって三人のうち二人が取り押さえられ、もう一人は妹尾に圧力をかけられて戦闘不能になる。
それを見ていた男は怖くなり、人質の女性を解放し走って逃げ去ってしまう。
「待て、逃げるな!」と警察官が慌てて男の後を追う。
四之宮達は取り押さえた三人を慎重に警察に明け渡すため、後を追うことは
しなかった。
毎回毎回、どうしてこう事件が多発的に起きているのか良く分からないが
それでもほっといたら治安が悪化するのみで何の解決にもならないので、
今日も警察と特殊部隊が協力してなんとか事件を解決するのであった。
美月は、スケートボードに乗ってスーパーへと到着していた。
「えっと…まずは」と買い物メモを見ながら、カートをかごに乗せて
前進していく。
「野菜やっぱり高いなぁ~。やっぱり安い日に買わないとだめねぇ。
値引きしてあるやつあるかな?」と値引き野菜が置かれている場所へと
移動する。
「こらっ!待ちなさい!!」
「っ!?」
するとなにやら騒がしい声が聞こえてきたので、顔を向けると
警察官二名が一人の覆面を被った男を追いかけていた。
美月に気づいた男はすかさず美月に狙いを定めて捕まえようとする。
「そこのガキ、こっちこい!」
美月は空のカートを男に向かって思いっきり飛ばした。
しかし、男は素早く避けて逆に警察官に当たってしまい一人が倒れてしまう。
「っ!?」
カートを飛ばしてから気が付いた。
スケートボードが邪魔でカートの下に置いていたことを忘れていたのだ。
これが元で彼女はこの場を全速力で走らなければならないことになってしま
い、その結果、男に腕を掴まれて人質に取られてしまう。
「全員、その場を動くな!動くとこのガキの首をへし折るぞ!」
警察官がすぐに本部へと無線で連絡し、それを近くにいた四之宮チームが
本部より連絡が行き届く。
「たった今連絡があった。どうやら取り逃した犯人により、10代と思われる
少女が人質に取られたらしい」
四之宮の報告により、宮木は嫌な予感がした。
「まさか…」
「その少女は犯人に捕らわれる際、買い物カートで撃退しようとしたらしい。
そのカートの下にはスケートボードが置いて…」
「僕行きます!」と宮木はすぐさま走り出した。
「おい、宮木!」
「妹尾、俺達も行くぞ!」
「はい、四之宮さん。待てよ、宮木!」
先走った宮木に続いて四之宮と妹尾も続いて向かっていった。
スーパーでは、音楽だけが流れるのみで辺りはシーンと静まった空気と
なっていた。
「近づくなよ。近づくとガキの命はないぞ」
犯人は美月を人質に逃走するつもりらしい。取り押さえようにも美月がいる
ため近づくことすらできない警察官は、悔しい思いをしていた。
男は美月が逃げられないように強く身体を固定し、そのまま出口へと向かっ
ていく。
しかし、それは一瞬で終わる。
「みっ…宮木」
突然一人の少年が入ってスーパーの中へと入って来たのである。
「さっきのガキか。ちょうどいい、このガキの命が惜しかったら俺の仲間
を解放…ぶはっ!??」
男の言葉を聞かず、宮木は彼の腹部に右手拳を食らわせた。
あっという間の出来事で美月は宮木の方をただじっと見ているしかなかった。
男が倒れたところで警察二人が男を取り押さえ、連行して行った。
残された美月は宮木に気まずいながらも「あっ…ありがとうございます」と
言ってすぐさま立ち去ろうとすると、彼に右腕を強く掴まれて動けなくなって
しまう。
「いたっ」
力が強くて痛みが走る。
「離してください」
「嫌だ。話を聞いてくれるまで離さないから」と力を強くする。
「痛い痛い!分かったから離してください。本当に痛いんだって!」
だけど、すぐにとはいかず事情聴取が済んでから話すこととなり
終わった時には既に夕方となっていた。
「昨日は本当にごめん。せっかく作ってもらったのにあんたの分まで
取っちゃって…その…反省してます」
「そう言われても困ります」
すると、妹尾が二人の元へと駆けつけてきた。
四之宮はまだ警察官と話し込んでいるようで、心配になって様子を見に来た
らしい。
「菊馬さん。気持ちは分かるけど、俺からもお願いだ。宮木を許してやってく
れ」
「妹尾さん。でも…」
「こいつ、いつも朝起きたら俺に食べ物ねだってくるのに今日はそれを一回
も口にしていないんだ。食欲がないって言ったけど、俺達がなんとか説得して
軽く食事を取らせたけどね。それでも全然食ったうちに入らないんだ」
「えっ?そんなっ、どうして!?」
知り合って間もない美月にも心配される宮木は、大げさだと思っていたが
そうも言えずにただ黙っていた。
「こいつの能力は食べないと身体に影響を及ぼす可能性があるんだ。だから、
少しでも食べておかないといざという時に発揮できないし、自分の身も守れ
なくなってしまう。食欲旺盛なのはそのせいで、
けして悪気があったわけじゃないんだ。そりゃあ、口は悪いし、我ままなやつ
だけど、こいつの力はいざという時に頼りになるし、時々可愛らしいこと
してキュンってなったりするところがあって…「って、なんだよ。そのキュン
って!?気持ち悪いよ!」
「なんだよ。俺はお前をフォローしてるんだぞ?」
「それは嬉しいけど、その可愛らしいとこってちょっと違くない?」
「えっ?そうか?」
「そうか?じゃないよ。そうだよ!」
なにやら話が脱線してしまい、美月は一人蚊帳の外
になってしまった。だが、美月は彼らの会話を聞いて怒っていることが
ばかばかしくなってしまい、いつの間にか怒りは静まっていた。
「だいたい、可愛らしいところってなんなの?」
「えっとそれは…」
「出てこないのかよ!」
「あの…」
「「ん?」」
「もういいですか?買い物、まだ終わってないんで」
「あぁ~もう、妹尾のせいだぁー!」
「なんで俺なんだよ。元々お前が原因だろうが!」
「ホットケーキの素とか買いたいので、荷物持ちしてください」
「「えっ?」」
「もうすぐ暗くなるので、スケートボード使うの怖いし。だから、家まで
送るついでに荷物持つの…手伝ってください」
それを聞いた二人はお互いの顔を見合ってから、「やります」と返事を出し
美月の買い物を手伝うことになった。するとそれを聞いた美月は宮木に
向かってこう付け足したのだ。
「宮木さん、右腕が動かなくなりましたから非番の時にでも良いので
手伝ってください」
「えっ!?」
その翌日、美月は病院へ行きレントゲンを撮ると、骨にヒビが入っており
しばらくの間は激しい運動などは控えるようにと言われた。
掃除洗濯はと聞くと、「しないでください」と言われてしまい、またしても
さぼり病になってしまうと美月は頭を抱えるのだった。
事件から一週間後、特殊部隊の男子寮。
「じゃあ行ってくる」
「えっ?どこに…「ボランティアだよ」と宮木が朝早くから起床し、部屋を
出てすぐ柊家と向かっていった。
柊家にお邪魔してすぐ柊先生に部屋へと誘われて、宮木は緑色の指抜き手袋
を渡される。
「なんですか、これ?」
「この間の制御装置だよ。使いやすいように指抜き手袋に取りつけた」
実際の制御装置は手の甲の部分(五本指の根本部分の下の辺り)に小さな
丸い物が埋め込まれており、それによって力の加減を調整するという。
「この間とは違って、まず最初に思いっきり力を入れてくれるか?握力テストみたいに」
宮木はとりあえず、柊先生の言われた通りに両手共にグーをして同時に
思いっきり力を加える。その時間は約10秒から20秒ほど。
「はぁ…はぁ…これでいいんですか?」
「うん。それで、手のひらを見てくれるか?何か書いてない?」と
グーにしていた手をゆっくりと広げると、そこには数字が書かれてあった。
「それが君の握力だ。それを元にこの装置が時と場合によって力を制御
できるようにプログラムしていくんだ。仕事の時に思い切り出せるように、
逆に非番の時とかは抑えるようにってね」
すると、美月がカップめんの入れ物を持って柊先生の部屋にやって来た。
「先生、ちゃんと洗ってから袋に入れてください」
どうやら捨て方が悪かったようで、それを注意しに来たみたいだ。
右腕はまだ包帯が巻かれており、左手で物を持っている。
「あぁ~ごめんごめん」と美月の注意にうっかり~と言う感じで謝る
柊先生に「もう!」とお怒りのご様子な美月。
すると柊先生があることを思いつき宮木に話しかける。
「宮木君、試しに美月を思いきり抱きしめてみてよ」
「えっ?」
「先生、なんてこと言ってるんですか!?さっきの恨みかなにかですか?」
宮木はまだ指抜き手袋をはめている。だが、美月は制御装置に関しては
全く知らないために柊先生がいったい何を考えているのか分かっておらず、
絶体絶命のピンチに追い込まれていた。
「遠慮はいらない。やっちゃえ!」とまるで他人事と言うべきか、楽しそうに
していると言うべきかとりあえず美月は柊先生を恨んだ。
この怪力のせいで怪我したというのに、思いきり抱きしめられたら今度は
ヒビじゃすまない。ヒビが大きくなって骨折だ。
だが逃げようともせずに話し合いという名の賭けをとった美月。
「宮木さん、私のお願い聞いてくれたらホットケーキ三枚にします。
だから先生の言うこと聞かなっ…いで…ぎゃああ!?????」
話し合いはむなしくも残念な結果となり、美月は宮木に思いきり抱きしめら
れてしまう。
だが、美月はぎゅっと目を瞑っていた瞳をぱちぱちとさせる。
「あっ…あれ?」
すぐに痛みが走ると思っていた美月だが、それは全く持って感じず
なにが起こったのかさっぱりわからなかった。
「どうだ、美月。痛いか?」
「…痛くない」
「だってさ。どうだ宮木君?」と柊先生の言葉を聞いて美月を解放して
振り返る宮木は「思いきり力を入れましたけど、押し潰す感覚はないですね」
とはっきりと答えた。
「うんうん、とりあえず成功かな」
柊先生は満足そうに微笑んだ。しかし美月は話に付いていけずに柊先生に
「ちょっと、いったいどういうことなんですか?」と説明を求めた。
「あぁ。彼が装着している指抜き手袋が今回、俺が作った物で能力制御装置
が組み込まれているんだよ。だから、思いきり力を入れてもお前は痛くなかっ
たってわけだ。理解したか?」
「はぁ?なんですかそれ!?そんな便利な物なんで早くに作らないんです
か?そしたら私、こんな怪我しなくて済んだかもしれないのに!!」
納得するどころか逆ギレしてしまった美月。
柊先生は「あちゃ~助けて宮木君」と彼の背中に隠れてしまう。
「って、僕を盾に使わないでくださいよ!」と逃げ出そうとするも
逃げられず、結果的に柊先生を助けるはめになってしまったのであった。
そして時間はあっという間に経ち、待ちに待った三時がやってきた。
「はい。できましたよ」
「って、本当に三枚にしたんだね?いいの?」
「私と先生の分ですから、遠慮しないで食べてください」
美月がそういうと「じゃあ遠慮なく」と宮木は嬉しそうにホットケーキに
かじりついた。
「美味しい」
「それは良かった」
そしてあっと言う間に食べ終えて、開いた皿類を美月が素早くとって
洗い出す。
するとそれを見ていた宮木が立ち上がり、美月の方へと近づく。
「なにかすることある?」と自分から手伝いを買ってでたのだ。
初めての際はまったくしようとしていなかったため、美月は少し動揺する
ものの「あっ…じゃあ、そこの布巾使っていいから洗ったお皿とか
拭いてくれる?」と言うと、美月から皿を受け取って布巾を掴んで拭いてい
く。
いったいどういう風の吹きまわしだろうかと宮木を見ながら仕事をしている
と、彼がこっちを向いたので瞬時に洗い物へと目を戻す。
「あのさ」
「なっ、なに?」
さっき見てしまったことを言われるだろうかと、違う意味で心臓バクバクの
美月。しかし、彼が言いたかったことは予想をはるか斜め上だった。
「僕のお嫁さんになってよ」
美月は、思わず洗っていたフォークを床に落としてしまった。
そして思考も同時に停止して、彼の顔をじっと見ていた。
宮木が突然訳の分からないことを言い出して、思考が停止した彼女に
右手を横にし上下へとちらつかせて「おーい」と呼びかける。
すると数秒遅れで「はっ!?」となり美月は現実世界へと戻り、
宮木にもう一度聞く。
「すみません。もう一回言ってもらえますか?」
「だから、僕のお嫁さんになってよって」
「やっぱり聞き間違いじゃなかったぁー!??」
美月は現実を受け入れるしかなかった。
「いや、別に嫌なら嫌って言えばいいよ。でないと、気まずいだけじゃん?」
「そういう問題じゃない。というか、そもそもどうしてお嫁さんなんですか
?普通なら「僕と付き合って」じゃなくて?」
美月の言う通り、好きな相手に告白するとなれば「好きです、付き合って
ください!」が普通なのに対し、彼は付き合うじゃなくお嫁さん。つまり
結婚相手になってほしいと言ったのだ。長年の付き合いならまだ分からなくも
ないが、知り合って半年も経っていない美月に「僕のお嫁さんになってよ」
などと言うのは明らかにとは言えないが、少しハードルが高すぎである。
「いいじゃん、別に。それにお嫁さんの方が告白っぽくていいんじゃない?」
「いや「お嫁さん」だとプロポーズの言葉になってしまいますよ?」
この人、告白の意味が全く理解できてないんじゃ…と美月は疑問に思う。
「それで、返事は?今すぐ聞きたいんだけど、早く決めてくれる?」
いきなり言ってきて返事を早くしろなどという男性がこの世に彼以外で
存在するのだろうか?
ドSで大食いで我がままな成年男性は…恐らく彼しかいないのではないだろう
か?




