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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
柏学院高等学校
218/362

才川と橋本、夜の女子トーク…


 午後7時。小森は橋本と一緒に夕飯の支度をしていた。ちなみに作っているのはオムライスで、小森は

 野菜を包丁で細かく切っていた。二人共制服の上にお揃いのエプロンを付けていて、まるで姉妹のよう

 である。


「才川さんって、ご飯とかいつもどうしてるんですか?ご自分で作ったりとかします?」と、橋本が

 作業しながら小森に尋ねてくる。

「あぁ…授業がある時は友達と一緒に食堂でご飯食べてるから、自分で作ったりはしないよ」

「そうなんですか?なんか自炊してそうな感じがしましたけど…」

 橋本はどうやら小森が自炊しているように見えたらしい。だが、彼らは寮生活をしているので

 自炊などほとんどしないのだ。


「えっ、そうかな?橋本さんは一人暮らししてるから料理にはもう慣れてる?」

「そうですね。仕事が忙しかったりすると疲れてやる気なくなっちゃいますけど、出来るだけ自炊する

 ようにはしていますよ」

「そっか。やっぱり仕事終わった後に料理するのってしんどいよね」

「えぇ。でも今のうちに少しずつしていけば、いつかきっと役に立つ時がきますから」

「そうだね。芦達君に料理出来るって自慢できるしね」

「そっ…って、なんでそこで芦達先輩が出てくるんですか?!」

「えっ、違うの?」

「違いますよっ、何言ってるんですか!?」

「ごめんごめん」


 橋本はうっかり『そうですね』と言いそうになったが、間一髪であった。だが、小森は『惜しい。も

 うちょっとだったのに』と思いつつも、次のチャンスを狙おうと密かに考えているのであった。

 それから作ったオムライスを食べ終わって少し時間を置いた後、橋本・小森の順にお風呂へと入り、

 寝る準備をするのだが…。


「今日は一緒に寝ましょう、才川さん」

「えっ!?」


突然、橋本から一緒に寝ましょう宣言をされた小森。女体化しているとはいえ、こんなこと許される

はずはなく…。


「いや、僕寝相悪いから橋本さんに何かしたらまずいというかなんというか…」と、何でもいいから

 理由を付けてお断りしようとする小森。すると橋本は…。


「それでも構いません。今日だけで良いのでお願いします」

「…分かった。今日だけ、ね」

「ありがとうございます」


 小森は今日だけということで、橋本のお願いを聞き入れることにした。布団一式に枕を二つ並べて

 寝ることになったが、距離がかなり近いこともあって『大丈夫かな…』と心配する小森。電気は

 橋本の要望で薄暗めにしているので何かあった際は対処することが可能だが、それで安心とは言え

 ない。


「才川さん…起きてますか?」

 すると橋本が小森に声を掛ける。もう寝てしまったと思っていたが、どうやらまだ起きていたようだ。

「…うん。どうしたの?」

「いえ…自分から言い出してなんですが、その…全然眠れなくて」と小さな声で答える橋本。

 

「じゃあ何か話す?話してたらそのうち眠たくなってくると思うし」

「そうですね。じゃあ…何を話しましょうか」と、小森の提案によりお喋りすることになった。

 

「うーんー…あっ、好きな人の話とかはどう?」

「才川さん」

 橋本は小森を睨みつけた。それを見て小森は「違うって。僕の好きな人の話だよ」と訂正する。

「えぇ~怪しい~」

「本当だって」

「まぁ…いいでしょう。才川さんの好きな人って確か美月さんって人でしたよね?」

「うん、そうだよ」

「…どんな人なんですか?」


 女の子同士ということは置いといて、橋本は小森に尋ねた。橋本にその気はないのだが、『同い年の

 彼女が想う人』がどういう人物なのかは気になっていたのだ。


「うーんーそうだな。まとめて言うなら…すごく優しい人になるのかな?」

「いや、私に聞かれても…」

「可愛くて、料理上手で、世話焼きで、頑固で、怒るとものすごく怖くて、照れ屋さんで、アニメとか

 ゲームとか好きで…自分のことよりも友達や他の人のことを優先しちゃう人なんだけど」

「世話焼きって…なんか近所のおばさんみたいですね?」

 橋本のその言葉で、小森はカチンと頭にきてしまう。


「美月は僕達と同い年だよ。おばさんじゃないよ!」

「あぁ、すみません。例えで言っただけで決してそういうつもりで言ったんじゃないんですよ」と、

 先程の発言について謝罪する。


「だとしても、美月はおばさんじゃない」

 だが、彼の機嫌は直らない。よほど『おばさん』と発言されたことが気に食わなかったようだ。


「だから謝ってるでしょ。許してくださいよぉ~」と橋本が言い終えると同時に、小森は布団から出て

 起き上がる。


「えっ、ちょっ…何してるんですか?」

「写真を探してる。美月のスマホだから一枚ぐらい写真入ってないかなって」と小森はスマホを操作

 しながら橋本の質問に答えた。薄暗い部屋とはいえ目には良くないことには違いなく、橋本はすぐに

 電気を明るくして小森へと近寄るのだが…。


「才川さん、手が止まってますよ?」

 橋本がスマホ画面を覗くと、彼の手は止まったままだった。それを指摘されて小森は「ちょっと、

 勝手に見ないでよっ」とスマホを彼女の目が届かないように隠すが、もう遅い。


「才川さん、いくら美月さんのスマホだからって勝手に見るのはどうかと思いますよ?」

「っ!?だっ、大丈夫だよ。美月は優しいし…「でも怒ると怖いんですよね?そんな人が保存してる

 写真を勝手に見たって知られたら、才川さん嫌われるんじゃないですか?」

「なっ!?」


 橋本の言葉に小森は『自分のスマホに保存された写真を見たことがばれてしまった』時の想像を

 勝手にしはじめた。


 『なんで勝手に見たのよっ!夜月のバカっ!もう知らないっ!!』…と。


「確かに…勝手に見るのはよくない、よね」

 効果は絶大だった。


「でしょ?いくら好きな人でも嫌われるようなことをしちゃだめですよ」

「…うん」

「じゃあ、布団に戻りましょう。明日も学校がありますから」

「そうだね。明日も調べないといけないし、勝負のこともあるからね」

「…えぇ。負けませんよ」

「それは僕も一緒だよ、橋本さん」


 

 楽しい会話をしていても勝負は絶対負けられない。互いの意思を確認したところで今度こそ二人は

 就寝したのであった。…しかし、そんな彼女達の勝負は悲しくも引き分けという形で終わってしまう

 ことになるとは本人達も想像しなかっただろう。



 翌朝、小森が午前5時と早めに起床。それにつられて橋本も起床することとなった。

 いつもなら6時に起床して天気予報を確認。その後、制服に着替えて学校へ行くというのが橋本の

 日課である。そのため、『早すぎぃ…』とねぼけまなこで時間を確認するがいつもの調子で

 テレビを点けてしまう。


 「…えっ?」

 彼女の目に最初に飛び込んできたのはニュース速報で、10代後半の女子高生と男子生徒の遺体が

 発見されたというものだった。


 「どうしたの、橋本さん?」とそこへ洗面所から戻って来た小森が橋本に声を掛ける。

 「才川さん…」

 

 橋本は小森に視線を向けることなく、テレビから目が離せられなかった。なぜなら遺体が発見された

 男女は剛力鉄と百ノ里胡桃だったのだから…。



 「剛力先輩と百ノ里先輩が……そんなっ…」

 橋本の目には大量の涙がこぼれた。昨日話していた先輩達がこんなことになるとは思いもしなかった

 のだから仕方ない。特に剛力に対しては、ニュースを見た現時点でも信じられなかった。そんな彼女

 に、小森はどう言葉を掛けたらいいのか分からなかった。しかし、これと似たようなことを思い出し

 …。


 「橋本さん」と泣いている橋本に声を掛けてから、彼は包み込むように彼女を優しく抱き締めたのだ。

 「さっ、才川さん…?」

 

 橋本は突然の彼の行動に驚いているようで混乱している様子。だが、小森は黙ったまま離そうとしな

 いので…「あの…離してください」とお願いするのだが、やはり彼は黙ったまま。

 

 「才川さん…聞いてますか?」と先程よりも大きな声で尋ねると、少ししてから「うん…聞いてる」

 と、彼はようやく橋本を解放した。


 「どうしたんですか?突然…」

 「ごめんね。自分でいろいろと考えてはみたんだけど自信がなかったから…先輩の真似をしてみた

  んだ」

 「真似…ですか?」

 「うん。でも今の僕じゃ効果ないかもって今更ながら思った。女の子同士で抱き締めあっても正直、

  嬉しくないよね?」と小森は橋本に苦笑いを浮かべる。そんな彼に橋本は…。


 「そんなことありません。びっくりしましたが…だいぶ落ち着きました。ありがとうございます、

  才川さん」

 「…そっか」

 

 小森は少しほっとした。泣いている橋本のために自分は今どうすべきかと考えても、やはり…『泣か

 ないで』としか言葉が浮かばない。だがあの時と同じようなことはしたくない。だから彼は宮木の

 真似をした。他に方法が思いつかなかったこともあるが、それでもこのままじっと黙って見守るより

 はマシだと考えたから。橋本の『落ち着いた』と言う言葉を聞いて、『自分のしたことは間違いじゃ

 なかった』と感じたのであった。

 


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