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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
柏学院高等学校
211/362

昼食は猫と一緒に?


 午前の授業が終わった後、生徒達は弁当派と学食派に分かれて何人かの生徒が食堂へと向かうため

 我先にと教室を慌ただしく出て行く。小森も学食派なので財布を持って教室を出ようとすると、浅川

 に声を掛けられる。


 「才川さんも学食?」

 「あっ、うん」

 「じゃあ、私達と一緒だね。倉野も学食だからちょうどいいかな~って思ってさ」

 「浅川早くしないと…「分かってるって。一緒に行きましょ、才川さん」

 「あっ…うん。ありがとう」

 

 こうして、小森は浅川・倉野と一緒に食堂へ行くことになった。廊下を走るわけにはいかないのだが、

 それでも早歩きで進むこと約5分~10分。食堂へ着くと席は既に他の生徒や教師により埋まって

 いた。特殊部隊訓練棟・本部の食堂と同じだと思っていた小森だったが、柏学院の食堂はやや狭い。

 そして席数も圧倒的に少ないことから、出来上がった物を冷めないうちにと外に出る生徒をちらほら

 と見かける。

 

 「分かってはいたけど、これじゃあ座れそうにないね」

 「だから言ったのに…」

 「まぁ、でも食堂から教室まで結構距離あるから仕方ない。才川さん、食券買いに行こう」

 「あっ、うん」


 小森は浅川に右手を引っ張られて食券を買いに行く。正直倉野は、「俺いなくてもいいんじゃ…」と

 独り言を呟くも二人の後を追ったのであった。

 


 ちなみに学校の敷地内ならどこで食べても自由とされている。なので教室や食堂ではなく外で食べ

 る生徒も中にはいる。しかし、時季的に外は寒いため今はほとんどの生徒が教室・食堂で食事を取る

 中、二人の男女は人気のない静かな場所で野良猫と共に昼食を取っていた。


 「今日、うちのクラスに転校生が来た」

 「転校生?それも普通科に?」

 「うん。女の子で美人さん」

 

 男子にそう言いながら、野良猫の頭を右手で撫でているおっとり系女子。

 彼女の名前は徳井美央とくいみお。小森と同じく普通科一年一組の生徒で、動物好き。

 特に一番好きなのは猫で、よく近所の野良猫を探し回っては遊んでいた。そんな徳井の話を聞いてい 

 るクール系男子は、松崎千秋まつざきちあき。彼は進学科一年一組の生徒なのだが、徳井とは

 あることがきっかけで知り合い、現在こうして一緒に昼食を取る仲となった。


 「みんな新しい人にいろいろ聞いてた。休み時間とかに」

 「転校生だからだろ。最初のうちだけだ、人間が個人的に興味を示すことなんて」

  松崎は最後に冷たい言葉でそう返すと、徳井は野良猫を撫でるのをやめて松崎の方に顔を向ける。


 「松崎」

  小さな声で彼の名を呼ぶ徳井に、松崎は静かに視線を向ける。

 

 「私は松崎のこと、良い人だって信じてるよ」

 「…」


 何を言うのかと思い身構えていた松崎だったが、なんだか損した気分になってしまう。

 けれどそんなことを本人の前で言うわけにもいかず…。


 「前にも言ったが、俺はお前と友達になったつもりはない。ここにいるのはただの気まぐれだ」

 「…松崎のうそつき」

 「あっ?」

  徳井の放った言葉にカチンときたのか、松崎は鋭い目つきで睨む。すると…。

 「私じゃないよ。チャマリさんが言ってるんだよ」


 徳井が隣にいた野良猫を抱っこして、松崎にそう言った。明るい茶色と白が混じったどこにでもいる

 毛色で、丸まった姿がまりのように見えたことから彼女が命名した。


 「…そうか。じゃあチャマリを寄こせ」

 「いや」

 「寄こせっ」

 「チャマリさん、ダッシュで逃げて!」


 徳井は抱っこしていたチャマリを離す。チャマリは徳井の言葉に驚いたのか、それとも松崎が放つ

 殺気を本能的に察知したのか、すぐさま走ってどこかへ行ってしまった。


 「…ちっ。逃げられたか」

 「チャマリさん、しばらくここには来ないね」

 「来ない方がいいだろ。ここは…あいつらが来る場所じゃない」

 「それはそうだけど……あっ」

 

 松崎と話している途中、徳井は遠くからこちらへとやってくる一匹の黒猫を見つける。


 「クロマメだ」

 「黒豆?…あぁ~何かと思えば黒猫か」

 

 これも彼女が付けた名前である。食べ物の黒豆から取ったらしいが、知らない人が聞けば松崎のよう

 に驚いてしまう。徳井はクロマメの元まで走って行くと、しゃがみこんでクロマメの頭と背中を優し

 く撫でて「どうしたの?」と優しく声を掛けた。それから約1分もしない間に彼女達は別れ、徳井は

 松崎の元まで戻って来た。


 「何話してたんだ?」

 松崎はなんだか先程と様子が違うと感じ、戻って来た徳井に尋ねるも返事が返ってこない。

 「おい?聞いてんのか?…おい!」

 「あっ。…ごめん、何?」

 

 全然気づいてなかったのか、徳井はやっと松崎の声に反応する。


 「…どうしたんだ?あの黒猫と何を話してた?」

 「あぁ、うん。たまたま寄ったから顔見に来たって」

 「そうか」

 「うん。あっ、もうそろそろ教室に戻らなきゃ。松崎、また明日ね」

 

 徳井は松崎から逃げるように、自分の荷物を持つと走って自分の教室まで一人戻って行った。

 徳井の後ろ姿をただ黙って見届けた後、松崎は自分も教室に戻るためにスタスタと歩いて行ったの

 であった。


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