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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
柏学院高等学校
210/362

普通科一年一組の転校生、才川愛


 翌日、午前9時35分。柏学院高等学校一年一組は担任の葉波浅子はなみあさこと副担任の

 元橋琴莉もとばしことりによっていつもどおりHRが行われた。最初は華原の転落について語られ

 たが、学校側は事件制はなくただの事故だったとして生徒達に伝えられた。


 「えぇ…生徒会長のこともありましたので、皆さんも階段の上り下りには気をつけるようにお願いしま

  す。それともう一つ、皆さんにお伝えすることがあります。突然ですが、この普通科一組に新しく

  転校生が入ることとなりましたので、皆さん仲良くしてくださいね」

 

 華原の転落についてを語った後、本当に突然の転校生話に一組生徒達はざわめき始めた。

 時期や高校ということもあって珍しいこともあるのだろう。『転校生だって』『男子かな?それとも

 女子?』と言う言葉が飛び交う。


 「はいはい、静かにしてください。…元橋先生、お願いします」

 葉波先生の掛け声に生徒達のざわめきは沈み、元橋先生が扉を少し開けて「入っていいわよ」と廊下

 にいる転校生に向けて声を掛ける。そうすると一人の女子生徒が教室の中へと入って来た。葉波先生

 から「こっちに立ってね」と指示された場所へとスタスタと移動する。

 

 「はい。では、自己紹介の方をお願いします」

 「あっ、はい。えっと…さっ、才川愛さいかわあいと言います。皆さん、よろしくお願いします」

  

 転校生才川は短い自己紹介を終えるとすぐに頭を深く下げる。それを聞いた生徒達は彼女に温かな

 拍手を送ったのだった。


 「ありがとうございます。才川さんの席は左側一番後ろの空いている席です。委員長、副委員長、

  後はよろしくお願いしますね」

 「「はい」」

 「では席の方へ」


 葉波先生にそう言われ、席へと一人向かおうとする才川に一人の女子生徒が席を立って彼女に近づい

 てきた。黒髪ボブヘアーで上着は脱いでブラウス・リボンのみと、いかにも活発系だ。


 「副委員長の浅川美紀あさかわみきです。席まで一緒に行きましょう」と、才川の右手を掴んで

 席の方へ誘導する浅川。


 「かっこいいぞ、浅川~」

 「ますます惚れちゃうねぇ~」


 友人だろうか、女子生徒二人にそう言われると「あぁ~はいはい。その話は後で聞くから」と言って

 才川を無事席へと誘導した後、自分の席へと早歩きで帰って行った。二人が席に着いたのを確認する

 と、早速一時間目の授業が行われたのである。


 …そして一時間目終了後の休み時間になると、副委員長の浅川が一人の男子生徒と一緒に才川の元

 へやって来た。身長は165cmと男子としてはやや低め、雪のように白い肌、中性的な顔立ち。

 室内のせいだろうか、彼も上着を着ておらずブラウスにネクタイといったラフな格好をしている。


 「才川さん、紹介するね。うちのクラス委員長の倉野透くらのとおる君」

 「どっ、どうも…初めまして」

 緊張しているのか才川を目の前にして身体が震えている倉野。それを隣で見ていた浅川が彼に声を

 掛ける。


 「ちょっとどうしちゃったの?いつもと全然違うけど」

 「いやだって、こんなにかわっ…「あぁ~はいはい、だいたい分かりました。他の男子達もあんた

  と同じみたいだし、本当だらしがないわねぇ~」

 

 浅川は深いため息をついた。だが男子達だけとは限らず、女子までもが才川に注目を集めていた。

 同じ女子としては『何よ、可愛いからって』と嫉妬するかと思いきや、そうではないようで…。


 「才川さん転校してきたばっかりだから、お昼休みか放課後にでも学校内を案内するよ」

 「あっ…うん。ありがとう」

 「倉野、逃げんじゃないわよ?」

 「わっ、分かってるよ」

 「よろしい。じゃあ才川さん、またね」


 浅川は倉野と一緒に自分の席へと戻った。それを確認すると、才川は…。


 『あぁ…緊張したぁ。まさか芦達君の学校に入れるなんて思ってもみなかったし、でも橋本さんとの

  こともあったからそれはそれで良かったんだけど…やっぱりこの姿ではちょっとなぁ~』

 

 才川愛。それは本当の名前ではなく、芦達が学校に潜入するにあたって付けられた偽名だ。

 芦達家の遠い親戚として学校の理事長に話をつけて、小森を『才川愛』として柏学院の普通科へと

 転入させたのである。だがここで問題なのは鞄や制服類。突然だったのですぐに用意できるはずがな

 いと思っていたのだが、どういうわけか制服もサイズぴったりで必要な物は全て芦達が用意してくれ

 た。ちなみに小森の制服スタイルは、ブラウスにリボンと一緒ではあるが下に黒タイツを使用してい

 る。


 

 その頃、橋本は教室を出て剛力と話していた。学年が違う二人ではあるが、下駄箱に小さな手紙を

 入れれば簡単なこと。もちろん橋本が先輩の剛力に対してそんなことをするわけがない。手紙を書

 いたのは剛力の方だった。


 「昨日、芦達と一緒にいた女の子がいただろ?あの子、今日からうちの学校の普通科に入ったらしい」

 「普通科に?進学科ではなく?」

 「入れただけでもすごいじゃないか。まぁ、それも芦達のおかげだろうけど…」


 そう、昨日の今日でそんなことが出来るはずがない。

 だが橋本はてっきり小森は進学科に入るとばかり思っていたが、普通科と聞いて本当に驚いていた。

 

 「まぁ、普通科だろうと進学科だろうとこの際どうでもいい。橋本、あの転校生に気をつけろよ?

 芦達の知り合いだからってあれこれぺらぺら喋ったらどうなるか分からねぇからな。それに華原のこ

 ともあるし、もしかしたら芦達に何か頼まれてるかもしれない。もしそうなら…」

 「剛力先輩?」

 「あっ、すまん。こっちの話だ」


 剛力は橋本にそう言うと左手に付けている腕時計を見て、「そろそろ時間だな。戻るぞ」と先に

 歩き始めた。


「あっ、はい!」

 橋本は剛力の最後に呟いた言葉が気になったが、授業に遅れるのはよくないと思いすぐ彼の後を

 追って行ったのであった。

 


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