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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
獅鳳院凛音、那賀嶋碧音、芦達真一郎の正体
202/362

家に戻るか、残らないかの選択


 小森が女体化したという話を聞いて本来の目的をすっかり忘れてしまった大庭兄弟。

 だが宮木によって正気に戻ったところで美月の容体について四之宮から一通り説明を受けた。

 その後、達己が「仕事に戻ります」と四之宮に告げると育巳と共に病室を後にする。

 それから少しして宮木が「なんか納得がいかないって顔してたね、あの二人」と妹尾に向かって話し

 かけると、妹尾は「そうだな」と返事を返す。

  

 「まぁ、言わなかったってことは確証がないのか…それとも他に何か思うことがあるのかもね」

 「なんだよ、その何か思うことって…」

 「さぁ?適当に言っただけだよ」

 「適当って…お前なぁ」


 妹尾は宮木の言葉に、真剣に聞いて損したとばかりに溜め息をついた。

 そんな二人の後輩を四之宮と小森は、何もすることもなく静かに聞いていたのであった。

 


 その頃、特殊部隊では獅鳳院の能力により生長した木のツタの清掃を行っていた。

 獅鳳院の能力により生長したのだから元に戻すことも可能かと思われていたが、範囲が広すぎたため

 に彼女の力ではどうにも出来なかったので、正隊員数名と訓練生・保護組とで清掃活動をすることに

 なったのである。ただし、芦達以外の訓練生と保護組に関しては詳しい事情を聞かされておらず、

 獅鳳院凛音が責められたり、悪口を言われたりすることはなく清掃活動は午後4時で無事終了した。


 清掃活動を終えた後、獅鳳院は芦達に声を掛けた。寮には戻らず人気のない場所へと移動すると、 

 獅鳳院は小さな声で芦達に「…ありがとね。いろいろしてもらって」とお礼の言葉を口にする。

 それを聞いた芦達は「俺は君から聞いたことをそのまま話しただけで、特に何もしてないぞ?」と

 話す。


 「それでも助けてもらったことに変わりはないわ」

 獅鳳院は芦達に感謝せずにはいられなかった。彼がいなければ、今頃自分はどうなっていたか

 分からなかったからだ。


 「君は、これからどうするつもりだね?」

 「とりあえず、迷惑かけちゃったわけだし…またバイト暮らしに戻るわ」

 

 元々彼女は能力金融の取引を成功させるためだけに特殊部隊に入隊してきた。しかし芦達に知られて

 説得されてしまった今、彼女がここに居続ける理由もない。なので特殊部隊を辞めて、またバイト暮

 らしの生活へと戻るしかないのだ。


 「…そうか」

 芦達は獅鳳院の言葉に嘘はないことを確認すると、ズボンのポケットからメモ帳とボールペンを

 取り出してすらすらと何かを書いた後、それをちぎって獅鳳院に手渡した。


 「…なにこれ?」

 「俺の連絡先だ。困ったことがあればいつでも連絡してきてくれ」

 「良いの?」

 「あぁ。俺に出来ることなら、いつだって君の力になろう」

 

 だが彼は、本来この言葉を別の人物にしたかった。しかし、その人物とはまだ顔を合わせてさえもい

 ない。いったい自分は何のためにここに来たのだろうと考えていた時、着信メロディーと思われる

 音楽が聴こえてきた。


 「えっ…なに?」

 突然聴こえてきた音楽に獅鳳院は思わず辺りを見渡す。


 「あぁ、すまない。俺のケータイだ」と芦達はズボンのポケットから自分のスマホを取り出して

 見る。すると…。


 「…非通知」

 

 普通なら非通知や電話帳に登録されていない電話番号から掛かって来た場合は、無視をする。

 だが芦達は、この『非通知』をある人物からの電話として認識していた。だから迷うことなく『非通

 知』の電話に出て、「もしもし?」と声を掛ける。


 「どうも。数時間ぶりですね、真一郎殿」

 「…やはり貴方でしたか」

 「いやぁ~安心しましたよ。真一郎殿の連絡先を聞いて電話を掛けてみたものの、真一郎殿は私の

  電話番号を知らないのだと今更気づきましてねぇ~。まぁ、その心配はいらなかったみたいです

  が」

 「今度はいったい何の用だ?」

 

 この男が自分に電話をしてきたのには、何か理由があるはずだ。

 

 「いえ、そんな大した用事ではないのですが…真一郎殿が通われていた高校って、確か…かしわ

  学院でしたよね?」

 「…なんですか?どうしてここで、俺が前まで通っていた高校の話になるんです?今はそんなこと

  関係ないはずでしょ?俺が聞きたいのは…「柏学院高等学校は有名な芸能人や、金持ちの子息令嬢

  に頭の賢い少年少女達が数多く通っている有名な私立高校。真一郎殿は特殊部隊ここに来る前

  までは、そこの高校の進学科二年に在籍していたんでしょ?」


 男が言っていることは全て事実だった。

 芦達は特殊部隊に入隊するまで、柏学院高等学校の進学科に通う普通の高校二年生だった。

 誕生日が3月31日とぎりぎりのため、現時点の年齢は美月達と同じく16歳。だが芦達はそのこと

 を獅鳳院や小森などのクラスメイトには話していない…というよりも気にしていない。

 だが、今はそんなことよりも、どうしてこの男が自分の通っていた高校のことをぺらぺらと語りだし

 たことの方が問題だ。


 「おい。まさか貴方…学校にいるのか?」

 「…」

 「質問に答えろっ!!」

 

 芦達は思わず電話の男に向かって大声を上げた。それを近くで聞いていた獅鳳院は芦達の怒鳴り声

 にビクッ!と身体を震え上がらせるも、黙って見守り続けた。

 

 彼がいったい誰と話しているのかは分からない。だけど逃げるわけにもいかなかった。

 

 「真一郎殿にご報告したいことがあります」

 「俺は質問に答えろと言ったはずだぞ?」

 「華原誠史かはらせいじ。真一郎殿と同じクラスだった華原誠史殿が、先程救急車で病院に

  運ばれました」

 「…なっ」


 なんだって…?


 「芦達?…どうしたの?」

 獅鳳院は芦達の様子に異変を感じ、声を掛ける。だが芦達は彼女の声に返事を返すことが出来なか

 った。


 「さすがの真一郎殿でも、ご友人の命が今にも消えそうだと言う時に駆け付けないわけにはいきませ

  んよね?二年間とはいえ、華原殿とは仲が良かったのですから」

 「…卑怯者ひきょうものめ」

 「真一郎殿、貴方は何か勘違いしています。私は華原殿に手を出してはいません」

 「俺に嘘は通じない。それは貴方も良く知っているはずだ。貴方は俺に嘘をついている!」

  

 芦達の能力は嘘を見抜くことが出来る。だが宝正のテレパシーや飯沼のオーラとはまた別の

 特殊系超能力者だ。


 「…やれやれ。真一郎殿とのお喋りは疲れますな。人は誰しも必ずどこかで嘘をつく。嘘をつかない

  人間なんてこの世には存在しない。真一郎殿、貴方だってお祖父さんやご両親に嘘をついて特殊

  部隊に入隊したんでしょ?内緒にしておかないと、絶対に反対されると分かっていたから」

 「…」


 芦達は反論することが出来なかった。

 

 「これは貴方が嘘をついた罰なのです。真一郎殿がお祖父さんやご両親に嘘をついたから、華原殿

  が階段から転落したんですよ。もしこのまま真一郎殿が戻らなければ、華原殿だけでは済まなく

  なるかもしれませんよ?」

 「…」

 「もう一度言いますよ、真一郎殿。今すぐに元いた高校にお帰りください」

 

  

 それはもう、完全に脅迫だった。

 新たな犠牲者が出る前に、とっとと戻れと言う警告。芦達は自分の家に戻るか、それともこのまま

 特殊部隊に残るかの選択を急遽きゅうきょ、行わなければならなくなったのであった。

 

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