謝って済むなら警察や特殊部隊はいりませんよ!
宮木が出かけた先は、柊家だった。
呼び鈴を鳴らしたがどうやら故障しているらしく、何度押してもピンポーンと
いう音が鳴らない。それで玄関の扉を叩こうとしたら…
バキンッ!
「あっ…」
なんと扉に穴が開いてしまったのだ。
元々中古物件の古い建物だったからかもしれないが、宮木の力に扉が耐えきれなかったのかもしれないけれど、それでも穴を開けてしまったことに変わりはなく参ったな~と宮木はとりあえず叫ぶことにした。
「すみませーん。誰かいませんかー?」
叫んでからすぐに柊先生が部屋から出てきて、玄関まで歩いてきた。
「はいはーい…って、ありゃりゃ」
玄関の方に顔を向けて、扉に穴が開いていることに気が付いた。
「やぁ、宮木君。どうしたの?今日は仕事じゃなさそうだけど」
「今日は非番です。呼び鈴壊れてたので扉を叩こうとしたんですけど…
ちょっと力が強かったみたいで」
「まぁ、元々古い建物だったし気にしなくていいよ。美月に用事かい?」
「いや、その…まぁ、そんな感じです」
さすがにホットケーキを食べに来ました。なんて言えるはずもなかった。
「美月なら部屋の掃除してるけど、中で待っとくかい?」
「はい。お邪魔します」
宮木は美月が戻ってくるまで待たせてもらうことにし、家の中へと入って
行った。
通されたのは、柊先生の部屋。
また何か発明しているらしく、機械類が机の上に置かれていた。
「仕事してていいですよ?」
「いや。ちょうど休憩しようと思っていたから気にしないでくれ。それに
あれはもうすぐ完成するやつだから」
「今度は何を作ってるんです?」
「おぉ?宮木君、俺の作った発明に興味ある?」
宮木はただ話すことがないので単純な質問をしただけなのだが、柊先生は
そんなこともせずに乗ってしまう。とりあえず、話がややこしくならないよう
に宮木は黙っておくことにした。
「今作ってるのは、能力者専用の制限装置だよ。といっても、美月が体調よ
くならないとテストできないからまだ使えないんだけどね」
「彼女は貴方に引き取られてからずっと発明品のテストを?」
ここで宮木は柊先生に質問する。
「いいや。知っての通り、手術してからしばらくの間は身体に馴染むまで
リハビリしてたんだ。そんで退院してこの家に来て、「なんだ、このゴミ屋敷
は!???」って怒鳴られて約…二週間?ぐらいかけて二人で掃除したって
わけ」
「それって…「いやぁ~不動産屋に安い物件はないかって聞いたらこの家進め
られて下見もせずに購入したんだ。それで美月と一緒に見たらゴミ屋敷だった
ってわけ。笑っちゃうよね~あはははははっ」
「いや、笑いごとじゃないですよ」
さすがの宮木もこれに関しては引いていた。
普通なら下見ぐらいするはずなのに、安いだけで勝手に決めて購入する人が
いるわけがない。美月でなくても怒らざるにはいられないだろう。
中古物件のゴミ屋敷に住むなんて、誰も住みたくはないのだから。
「まぁ、昔話はこれぐらいにして。せっかく宮木君が遊びに来てくれたこと
だし。美月を待っている間、ちょっと俺の手伝いしてくれる?」
「はっ。はぁ…」
その頃、美月は風呂・洗面台・そして自分の部屋と掃除を終わらせていた。
「さて~あとは先生の部屋と台所…」と美月が先生の部屋へと向かおうとした
時だった。
バキンッ!!!!!
「なっ、何!?」とすぐ近くの窓から外を見ると、そこには柊先生と宮木が
外に出ており、なんとすぐそこには大木が折れてしまっているのだ。
しかし、ここからだと美月には先生しか判断できず、隣にいるのが宮木なのか
さえ判断することはできなかった。
「いったい何してるのよ」と慌てて美月も外へと向かって走って行った。
「う~ん~まだ改良が必要だな」
「それでも、まだ全然力出せてないですよ?」
「だが今のままだと、一般人にはダメージが強すぎる。今よりもっと制御
出来るようにしないと」
「これでも十分だと思うのに」
「ちょっと先生、いったい何してるんですか!?」と大きな声で二人の元へ
と走って駆け付ける美月。
「おう、美月。掃除は終わったのか?」
「あんな音聞いて呑気に掃除なんかできませんよ!それより先生、扉に大きな
穴が開いてましたけど何したんですか?」
「いやぁ…それは」
「あと、なんで宮木さんがここにいるんです?また四之宮さんに言われて来た
んですか?」
「今日は非番だよ、休み。服装が違うだろ?見て分からないわけ」
宮木は美月に向かってそう話すと、美月はそれに負けずにこう言ったのだ。
「聞いただけですよ。いちいちイライラするような喋り方をしないでくださ
い!」
「まぁまぁ、美月。怒るとまた体調が悪くなるぞ?」
「元はと言えば先生のせいでしょ!?」
美月は掃除の邪魔をされたことでイライラが募り、二人に怒りをぶつけてい
た。体調がまだ優れていないにも関わらず、頑張って掃除しようとしているの
に邪魔されれば誰だって怒るのは当然のこと。
「良いですか?二人は私の掃除が終わるまで扉の修理でもしといてください。
一秒たりとも発明品に手を触れたり、冷蔵庫の中身を物色してつまみ食いした
りしたら、約一か月間二人には家の掃除当番を隅々にさせますからね!」
「そっ、そんな…」
「えーなんで僕まで」
「それが嫌なら言うことを聞きなさい!いいですね?」
「「はっ…はい」」
男達は彼女の命令に従い、掃除が終わるまでの間は扉の修理を真面目に
やったのでありました。
それから約一時間後にして美月が掃除から戻って来た。
「掃除終わりました。扉の修理終わりましたか?」
「あぁ、終わったよ。こんな感じでどうだ?」と柊先生が扉を持ち上げて
美月に見せる。
「なんかぼろいっていうのが丸分かりですね?まぁ、いいでしょう」
「ねぇ、おなかすいた。何か食べさせてよ、ホットケーキとか」
「勝手に来ておいてなんなんですか?やっぱりホットケーキ目当てだったん
ですね?」
美月には宮木の考えていることなどお見通しだった。
それに、この間の話で聞いていたから予想はついていたのだろう。
「だって妹尾は文句いうならあげないとか言われるし、お金ないし…
それにあの時食べたホットケーキ本当に美味しかったから忘れられなくて
もう「ホットケーキ病」なんだよ!」
「なんですか、それ?病院行って診てもらった方が良いんじゃないですか?」
「もうなんでも良いから、何か作って!おなかすいた!」と宮木が美月に
抱きついて、まるで子供のように駄々をこね始めた。
「ちょっとやめてください。セクハラで訴えますよ?」
「嫌だよ。何か作ってくれないと離さないから」と腕の力を強くし始めた。
「いいいっ。痛い!痛い痛い痛いっ!宮木さん、加減!加減して!腕が折れ
る!折れるから!」
「おなかすいたぁ~」
「分かった、分かったから!作るから、とにかく離して!腕が折れたら作れる
物も作れないから離してぇ!!!!」
そしてようやく解放された。
「あぁ…痛かったぁ…」
これは一種の脅迫だと美月は思った。
それから台所へ移動して、エプロン袖を通していると宮木が美月を急かす。
「早くしてよ。おなかすいた」
「はぁ…はいはい。で、何が食べたいんですか?」
「ホットケーキ」
「結局そうなるんですね?ホットケーキは三時にしましょう。お昼は残り物
でなんとか作りますから、それで我慢してください」と冷蔵庫の中身を確認
しながら宮木に伝えると、またしても宮木が文句をつけてきた。
「えぇ~残り物なんて嫌…「だったら、ホットケーキ作りませんよ?」
嫌だ、と言う前に美月は反撃を仕掛けた。これ以上の文句は言わせないと
言わんばかりの怖い目をして威嚇する。
「…分かったよ。それでいい」
むすっとしていたが、ホットケーキが食べられなくなるのは嫌らしく
渋々承諾する。
「よろしい」
それはまるで、子供のしつけをする母親のようなな風景だった。
柊先生は昼食が出来るまで自分の部屋で作業すると美月に伝えて台所を立ち去
り、宮木と美月の二人だけが残された。
「それで何作るの?」
座って待っているだけは退屈で、美月が何をしているのか近くまで様子を
見に来た宮木に美月は少々近いと思いながらも質問に答える。
「卵と冷やごはんが残っていたので、チャーハンでも作ろうかと」
そういうと一番下を開けて野菜類を取り出すと、「僕、野菜嫌いなんだけど」
「そんなこと言ったら身長伸びませんよ?」
「いいよ。もう成長期過ぎてるし~」と開き直っていた。
宮木は美月よりも身長は高いが、妹尾よりは背が低い。
四之宮は彼よりもちょっと高めで、並んでいても別に気にしてないのである。
「そういえば、宮木さんって何歳なんですか?」
宮木が野菜嫌いと聞いつつも、ピーマン・人参・玉ねぎと包丁
で細かく切りながら質問する美月に「って、話聞いてるの!?野菜嫌いだって
言ってるのに!」と宮木はまず彼女が野菜を刻んでいることに突っ込むのだ
った。
「目に見えないぐらいにはいきませんが、細かくしておきますから我慢して
食べてくだい」とにこりと笑顔で宮木に答える美月。
野菜を通常よりも細かく刻んだあとは、フライパンを取り出し油を入れて
中火で野菜を炒めていく。
「それでいったい何歳なんですか?」
「はぁ…21だよ」
「えっ?成人してたんですか?」
「あんた、それどういう意味だよ」
予想が大いに外れて美月は炒めながら宮木に顔を向けて聞く。
童顔と子供っぽい性格で幼く感じており、年上だと分かりつつも2つか3つの差だとばかり思っていた部分が彼女にはあったのだ。
「いえ。そうですか…ってことは妹尾さんもですか?」
「そうだよ。同い年」
質問しながら、今度は卵を割って野菜と一緒に炒めていく。
「四ノ宮さんはやっぱり年上ですか?」
「先輩は僕達とは2つ上の23だよ」
「…老けて見えますね?」
「お前、それ絶対に本人の前で言うなよ?」
それから、冷ご飯を入れ塩コショウを入れてさらに炒めて数分後。
火を止めてお皿に三等分にして分ける。
「はい。できましたよ」
「なんか少なくない?」
「仕方ないですよ。残り物なんですから」
「まぁ、ホットケーキがあるからなんとかなるかな」と美月からチャーハンを
受け取ってすぐにテーブルへと置いてパクパクと食べる。
「はぁ…さて、先生の分を持っていこう」
美月は柊先生の分を部屋まで持っていくため台所をいったん出て行った。
「おう、できたか。ありがとう」
「じゃあ、私はこれで」
そして台所に戻った時、美月は思いもよらぬ光景を目にしてしまう。
「あぁ!???」
なんと宮木が美月の分のチャーハンを勝手に食べていたのだ。
「ちょっと、私の分まで食べないでくださいよ!」
「置いておくから悪いんでしょ?」
「先生の分を持って行った後に食べようと思ってたのに、ひどいですよ!
大食いにもほどがありますよ!」
美月は目に涙を浮かべていた。
「分かったよ。返せばいいんでしょ?」と残ったチャーハンを返そうとする
が、美月がそれで許すはずがなかった。
「いりませんよ!もう知りません、宮木さんなんか大っ嫌いです!
もうホットケーキ作ってあげません!」と泣きながら自分の部屋へと逃げるように走り去って行った。
それを聞きつけて「おい、どうした?」と柊先生が様子を見に来た。
「そりゃあ、宮木君が悪いな。いつものあいつだったらまだどう対応してた
かは分からないが、体調がまだ良くなってないし朝のことがあったから普段
より余計にイライラしたんだろうな」
「だからって…あんなに怒らなくても良いのに」
「宮木君だって自分が食べようとしているものを他の人間がそれを食べちゃったら嫌だろ?」
「…嫌だ」
「だろ?いくら物足りないからといって食べちゃダメだ。例えそれが「能力」
の代償だったとしてもね」
宮木は通常の人間の何倍もの力を出せる、いわゆる「怪力」。
見かけによらず大食いなのはこのためで、一回使えばあっという間に消費して
しまうので日頃からいっぱい食べておかないと身体がもたないのである。
美月の「危機回避能力」に関しては、自分の身に生命の危機・あるいは
人体に影響を及ぼす損傷であった場合に発動される。
しかし、使えば使うほど彼女の体力は消耗して脳にかなりのダメージを食ら
ってしまうのが欠点だ。
代償というのは、「超能力」「能力」に関わらず誰しも必ず持っている。
個人差によるしさまざまだが、中には能力の使いすぎで寿命を縮ませてしまったり身体の一部を失ったりするという例が数多く存在する。
「宮木君、今からでも遅くない。謝りに行こう」
「無理ですよ。かなり怒ってたし…許してもらえるわけないですよ」
「言ってみるだけ言ってみよう。俺も一緒に付いてってやるから」
柊先生の説得によって、宮木は美月に謝ることを決心した。
美月は部屋で一人、ベッドにうつ伏せになり寝ていた。
コンコン。
「美月、ちょっといいか?」と柊先生の声を聞いて、すぐに身体を起こす
美月。泣いていたせいか目は真っ赤になっており、ベットから出て立ち上がり
扉に向かって歩いていく。
「なんですか?」と少しだけ開けて聞いてくる。
すると、柊先生の後ろに隠れていた宮木が美月と顔を合わせようとするが
美月は目をそらしてしまう。やはりまだ怒ってるみたいだ。
「やっぱり…怒ってる?」
「当たり前ですよ!人のご飯勝手に食べといてこっちはお腹ぺこぺこですよ!
どうしてくれるんですか!?」
「まぁまぁ、美月落ち着け。宮木君はお前に謝りたいって言うから聞いてあ
げてくれないか?」
「謝って済むなら警察や特殊部隊はいりませんよ!」
「じゃあ…どうしたら許してもらえる?」
「知りませんよ!とにかく私機嫌悪いんでとっとと帰ってください!」
バタン!!と美月は勢いよく扉を閉められた。
「あぁ、もぉーーやっぱりだめじゃないですかぁーー!!!!」
「宮木君、落ち着いて。大丈夫だよ、元気になればきっと許してもらえるから
」
「さっきの見たでしょ!?目はそらされるし、謝りたいって言っても許して
もらえないし…」
とうとう宮木も泣き出してしまった。
傲慢な彼でもあんな言われようをしてしまえば、その性格を
保つことが出来ず、弱虫さんになってしまうのだ。
「大丈夫だよ。だから泣かないで、ねっ?」
結局、宮木は本来の目的を果たすことが出来ず
しょんぼりと寮へ帰って行ったのであった。




