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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
獅鳳院凛音、那賀嶋碧音、芦達真一郎の正体
196/362

夜の保護棟で・・・

 その頃、保護棟にいる黒澤はまだ自分の部屋でぐっすり眠っていた。外では既に木のツタが侵食して

 大変なことになっているのだが、彼ら保護組生徒は全く気がついていない。誰かが部屋を訪ねて来て

 外のことを知らせない限りは…。


 ピンポーン~!

 「Zzz……」

 

 インターホンが鳴っても、起きない黒澤。だがそれでも何度も何度も、ピンポーン、ピンポーン、ピ

 ンポーン!!と鳴り続けると…「あぁーもう!誰だよ、こんな時間にっ!」とさすがに目が覚め、

 黒澤はベッドから勢いよく起き上がった。


 だが、外にいる人物はインターホンをひたすら押し続けた。そして玄関扉のロックが解除され、勢い

 よくガチャン!!と開かれたことによってようやくインターホンの音は止んだ。


 「ったく、うっせぇなぁっ!今何時だと思ってんだよっ!?」とすぐさまインターホンを鳴らした人

  物に怒鳴りつける黒澤。だが、その人物は彼の怒りに対して驚くことも、すぐさま謝罪することも

  出来なかった。なぜなら…黒澤を訪ねて来たのは小森だったからだ。


 「…って、なんだ?薄暗いじゃねぇかよもうっ!」と黒澤はすぐに玄関近くにある電気をカチッと

  点けた後、ようやく黒澤は小森の姿を目にする。


 「なんだ、小森だったのかよ。こんな時間になんかよ…うじがぁああああああああああああああああ

  ああああああああああああ!?????????????????」


 黒澤は小森から何の説明もなく血を吸われてしまったため、とんでもない悲鳴をあげてしまう。

 そしてその悲鳴は保護棟中に響き渡ったのであった…。


 

 「いてぇ…いてぇよぉ…」


 黒澤の血を吸ったことにより、小森は声が出せるようにはなったが、突然首筋を噛まれてしまった

 ことで黒澤は注射を超えるほどの痛みを覚えて涙を流していた。事情を知っているからとはいえ、

 緊急事態とはいえ、自分がしたことに対して小森は「ごめんね。すぐ治るから」と声を掛け、彼の

 頭を優しく撫でることしか出来なかった。


 「治る治らねぇの問題じゃねぇよ。すげぇ痛かったんだぞ?いきなり噛まれたんだぞ?ガブって噛

  まれたんだぞ?」と小森の胸をポコポコと叩く黒澤。

 「…ごめん」

 「謝って済む問題じゃねぇぞっ!責任を取れ、責任をっ!」

 「責任?」

 

 『責任』と聞いて小森は確認のため、「それって…結婚すればいいの?」と黒澤に聞いてみた。

 すると…。


 「はぁっ!!?何言ってんだよ、お前はっ!?」

 「えっ、違うの?『責任を取れ』って、結婚するってことじゃないの?」

 「それは相手が女だったらの話だろ?それに、必ず責任を取れってのが結婚しろってことになるとは

  限らねぇんだしさ」

 「あぁ…そっか」

  黒澤に言われて納得した様子の小森。でもそうなれば黒澤の言う『責任を取れ』というのはいった

  いどうすればいいのだろうか?と考えていると…。

 

 「ってかお前。もし俺が本気で『結婚して責任取れぇー!』つったら、お前はどうするつもりだった

  んだよ?」と黒澤が冗談半分で小森に聞いてきた。すると小森の返答は…。


 「蓮がそれで許してくれるって言うなら、僕は別に…「断れよっ!」

  てっきり黒澤は『美月が好きだから結婚は出来ない』とか『男の子同士の結婚は…』とかその他

  もろもろの理由で断る予想をしていたのだが…予想をはるかに超えた返答に黒澤は一時思考停止

  状態となった。



 

 「話が逸れちゃったけど…蓮、僕と一緒に来てくれないかな?」

 「あぁ…構わねぇけど、こんな時間にいったいどこへ行くんだ?」

 「瀬楽達がいる男子寮。本当なら美月と蓮みたいにスマホを使って連絡が取れれば良かったんだけど

  …「それだったら、俺のやつ貸してやるよ。瀬楽ならまだこの時間起きてるはずだからさ」と黒澤

 は一度部屋に戻ってベッドに置いてあるスマホを持って小森のいる玄関へ。

 

 「あれ?なんか瀬楽からきてるな」

 それは『今すぐ外に出て!あと連絡先知ってる訓練生、正隊員にすぐ回して!』と言う桐島からの

 チャットメッセージだった。このメッセージを見た二人の反応は…。


 「なんだこれ?」

 「やっぱり…」

 「えっ?なんだよ、やっぱりって?」

  

 「蓮、今すぐ下に下りよう」と小森は黒澤の腕を引っ張って連れて行こうとする。

 「あぁっ、待て待てっ!懐中電灯取ってくっから待てって!」


 それから黒澤は制服に着替えて準備を整えて部屋を出た後、小森と共にエレベーターへと向かった。


 「つーかさ、夜の廊下ってこんなに薄暗かったか?…俺の気のせいか?」

 「いや、それは気のせいじゃない。前にこの時間帯で起きて部屋から出た時は、あそこの蛍光灯が

 点いてた。けど今は点いてない」


 現在保護棟は非常電源に切り替わり、セキュリティーには何の問題もない。

 廊下が薄暗いのは通常使っている蛍光灯の電力がストップしたために、非常灯が点灯しているから。

 薄暗こうとも懐中電灯なしで歩けるぐらいは可能である。


 「なぁ、俺達だけ外に出て良いのか?他の皆を起こしに行った方が良いんじゃ…」

 「いや、大丈夫。蓮の部屋を訪ねた時、セキュリティーがちゃんと動いてるかどうか確認したし。

  それに保護組の皆を全員を起こすとなるとかなり時間が掛かるからね。下手に起こしたら蓮みたい

  に怖がっちゃうかもしれないし」

 「はぁっ!?俺は別に怖がってなんかいねぇよっ!」

 

 だが、黒澤は小森の手を握ったまま離れようとはしなかった。強がってはいるけれど、やはり怖いの

 だろう。小森はそこまで追究することはせず、話を変えることにした。


 「まぁ、とにかく。まず僕達がすることは下に下りて外の様子を見に行くことかな。窓から見えない

  以上、外がどうなってるか分からないし」

 「…そうだな」

 

 エレベーターが到着して、二人はすぐ中へと入る。そして小森が1階のボタンを押し、その次に

 扉を閉めるボタンを押そうとしたその時、ガシャン!!と突然窓ガラスが割れる大きな音がした。

 その音を聞いて黒澤と小森は一瞬何が起こったのか分からなかったが、とりあえずエレベーターから

 降り、窓ガラスが割れた場所まで戻って行くと、そこには富崎の姿が。


 「いっててててっ…」

 「おいあんた、大丈夫か?」と黒澤が富崎に声を掛ける。

 「ん?あぁ、大丈夫。俺、身体は丈夫な方だから」と黒澤に話し、ゆっくりと立ち上がる富崎。


 「えっと…保護組の黒澤蓮君、だよね?菊馬チームの」

 「そうだけど…あんた誰だ?」

 「あぁ、警戒しなくていい。俺は特殊部隊正隊員富崎チームの富崎刃。君達の安否を確かめに来たん

  だ、彼女と一緒、にっ!???」とそこへ一人の少女が後ろから富崎の頭を左手でグーにしてげん

 こつを食らわせた。そして「このクソ正隊員!いったいどこに着地してんだよっ!!」と先輩である

 富崎に対して怒りを露わにする。


 自分達と同じ特殊部隊の制服を着て右手にはスケートボードを脇に抱えている彼女。それはまさしく

 美月だった。


 「いったたたっ…いきなりなにしやがるんだっ、このクマ!」

 菊馬→きくま→きを抜くとくまになるから、『クマ』となる。普通なら鬼と言うべきじゃないのか

 とも思うが、彼のあだ名センスはどこかずれている。


 「誰が熊ですか?あれほど屋上に着地してほしいって頼んだのに…ひどいじゃないですか、富崎先輩」

 「いやぁ、それだと屋上の扉をぶっ壊さないといけないし。それになんかカッコ悪いじゃん。せっか

  く要家からここまでぶっ飛んできたわけだし、どうせならカッコよく登場したいと思ってさ」

 「あんたはどこかのアクション俳優か何かなんですか?」と美月が富崎に言うと視線を割れた窓ガラ

  スへと向ける。


 「あ~あ。こんなにしちゃって…先輩が弁償してくださいよ?」

 「えっ、俺が払うの!?」

 「当たり前じゃないですか。先輩の能力のせいで窓ガラスは犠牲になったんですから」

 「えぇ…保護棟って結構金掛かってるって聞くし、いくら取られるんだ?」

 「さぁ?」

 

 恐らく五千円とか一万円では済まされない値段にはなるだろうとは誰もが予想出来たことである。


 「って、そんなことよりクマ。ここには黒澤君と小森君しかいないけど…「おい兄ちゃん。さっき

  から美月のこと熊呼ばわりしてんじゃねぇよっ!ぎったぎたにされてぇーのか?」と富崎に威嚇

  する黒澤だったが…「蓮、今は武器持ってないからぎったぎたに出来ないよ?」と小森の言葉で

 黒澤は「あっ…そうだった。すっかり忘れてた」と落ち込んでいると、美月は反対に「良かった…」

  とほっとするのであった。

 


 「えっと…改めて聞くけど、あと一人はどこにいるのかな?ここにいないってことはまだ部屋で寝て

  るんだろ?」

 「そうですね。ここは7階なので5階まで下りないといけません。彼女が住んでるのは5階なので」

 と美月が説明すると「えっ、そんなっ!?…それだったら5階に着地した方が良かったなぁ…」と

 今度は富崎が落ち込んでしまう。それを見た美月はめんどくさく思いながらも…「あぁ~でも、7階

 に着地しなかったら蓮達とすれ違ってたかもしれないし。それはそれで良いんじゃないですか?」と

 言うと、「あっ、そっか!?それがあったな」とあっと言う間に復活した富崎。


 「よし。じゃあ階段で5階まで下りるぞ、クマ、ハース、ナイト君」 

 「はっ、ハース?」

 「黒澤君のことだ。蓮は『はす』とも呼べる。だからハースだ」

 「あぁ~はすだからハース…「ちょっと待てよ!なんで俺と美月は変なあだ名なのに、小森だけその

  まんまなんだよっ!?おかしいだろ、それっ」と黒澤が突っ込む。


 「えっ、だって……ん?」

  黒澤に返事を返そうとした富崎だったが、何かに気づいて階段の方に視線をぱっと向ける。それを

  見た美月が「どうしたんですか、富崎先輩?」と心配そうに声を掛けると…。

 

 「…何かいる」

 「えっ?どこですか?」と美月も富崎が見ている方向に自分も視線を向け、他の二人はよく分からな

 いが、とりあえず辺りを見渡す。だが…。


 「先輩、何もいませんけど…」

 「気のせいじゃないのか?」

 「いや、気のせいなんかじゃない。間違いなく何かいる…」

 

 だが、その姿はまるで見えない。いるはずなのに見えないというのは、透明人間ということなのだろ

 うか?それとも…自分達が見落としているだけなのかと、富崎はそう考える。

 

 「…美月、危機回避でなんとか出来ねぇの?」

 「そう言われても…夜月はどう?何かいそうな感じ…気配とかする?」

 「…」

 「ん?ねぇ、ない…」と美月が再び声を掛けようとした時、突然小森は美月の左肩をガシッ!!と

  思い切り掴んだ。あまりにも突然すぎて美月は思わず「きゃあああああっ!????」とまるで

  おばけでも見たかのような悲鳴を上げてしまう。



 「どうした、菊馬っ!?」とここで富崎が普通に美月を呼ぶ。

 「なっ、ななななっ、夜月がいきなり、わっ…私の肩をガシッ!!って強く…」

 「はぁ?なんだよ、驚かさ…」

 『ないでくれよ』と富崎が言い終える前に、突然小森が富崎の頭を右手で思い切り叩く。


 「いってぇえええええええーーーーーー!????????何すんだ、このコーモリ!!」と叩かれ

 た頭を両手で擦る富崎に小森は、「あっ…すみません。ちょうど先輩の頭に止まってたんで、つい…」

 と説明して謝罪する。


 「えっ、何が止まってたって?」

 「あれです」

 「えっ…」


 小森が指さしたその先には……雪のように真っ白い蜘蛛くもがいた。

 

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