スマホの取り合い
その後、美月は内山と共に1階へと下りて行った。するとどういうわけか宮木と小山が美月のスマホを
取り合っており、それを四之宮と陽子が黙って見ているというわけのわからない光景を目撃する。だが
その前に美月はどうして自分のスマホがここにあって、なぜそれを取り合っているのか理由を知りたか
った。
「あらっ、美月ちゃん。おかえりなさい」
「あぁ…ただいま」
「予知通り、この時間帯でしたね。無事に目覚めて何よりです」
「それより陽子。あの二人はいったい何を…「見ての通り、美月ちゃんのスマホを取り合ってるのよ。
まぁ、そもそもの原因は四之宮さんなんですけどね」
「四之宮さんが?なんで?」
陽子から詳しい話を聞くと、瀬楽から美月のスマホを受け取り本人に返して欲しいと頼まれた四之宮。
だが勝山に頼まれたことを優先したためにスマホを美月に渡すことが出来なかった。陽子の予知で
内山が約一時間半には起きて戻ってくるとのことで、待っている間に今朝本部で行った会議での内容
を四之宮は三人に話した。陽子が聞いても大丈夫なのかと宮木と小山は思ったが今回は協力者という
ことで陽子がいても何も問題はないと四之宮は告げる。話が終わったのは約一時間後で内山が目覚め
るまで残り後三十分となり、小山が勝手にテレビの電源を入れて見ていると、四之宮がポケットに手
を入れて一台のスマホを取り出してテーブルの上に置いたことがすべての始まりだった。
「先輩、それ…」
宮木はすぐに食らいついた。明らかに四之宮のスマホではないと分かったし、それと似たような物を
つい最近見ていたから。
「菊馬のスマホだ。今朝霜月に事情を説明しに行った時、瀬楽から菊馬に渡してくれって頼まれたん
だが…ばたばたしていてすっかり返しそびれてしまったんだ」
「四之宮さんっ!すみません、そのスマホ少しだけ貸していただけませんか?」
「はぁっ!?」
「あぁ、いいぞ。だが預かり物だから壊すなよ?」
「はい!ありがとうございます」
小山は美月のスマホだと知ると先程まで見ていたテレビを消して、四之宮から美月のスマホを受け取
ると目をキラキラと輝かせた。
「え~どれどれ。ん~この感じだとまだ新しいな。…最近変えたばかりなのかな?」とスマホをあら
ゆる角度から見て独り言を呟く小山に宮木が口を挟む。
「柊先生が前のケータイをぶっ壊して、仕方なくスマホに変えたんだよ」
「あぁ~そうなんだ…って、詳しいな宮木」
「本人から聞いたんだよ。電話もメールにも出ないから電源でも切ってるのかなって思ったらまさ
かの…「ちょっと待って!お前…まさか菊馬さんの連絡先知ってるの?」
「って今更?まぁ元は妹尾があいつに連絡先を教えたのがきっかけだけど…って聞いてる?」
「…ほんとだ、妹尾の連絡先もあるな」
「ちょっと何勝手に見てんのさっ、怒られるだろ?」
「いや、連絡先の方見てるだけだって。え~っと電話帳の件数は「やめろって小山っ」
「う~ん~僕の予想では20件超えてると思ってたけど…予想以上に少ないな」
電話帳を確認すると登録されているのはわずか10件程度で小山は少し拍子抜けしてしまう。
「もう十分見たでしょ。早く返せって」
「うわっ、ちょっとやめてよ。菊馬さんのスマホ壊しちゃうじゃん」
スマホを無理やり奪い取ろうとする宮木に小山は必死に彼女のスマホを守る。
「だったら素直に返しなよ」
「嫌だっ」
「返せ」
「嫌だっ」
「返せってば!!」
…というわけで、現在も二人はスマホの取り合いを続けているというわけである。
「情けない…」
「っていうか二人はどうして止めないの?」
「特に止めても何も得られないので。四之宮さんが止めるのかと思ってましたけどあの状態でして。
美月ちゃんそろそろ二人を止めてもらえませんか?」
「えっ、私が止めるの?」
「もちろん。美月ちゃんしか止める人はいませんから」
「あぁ…そう」
仕方なく美月は宮木と小山のいる場所まですたすたと歩いて行き、喧嘩を止めることに。声を掛ける
と二人は先程までの言い争いが嘘かのようにピタッと止み、小山は持っていたスマホを彼女に返すと
連絡先の交換を求めてきた。すると宮木は「ダメダメダメっ!ぜーったいにダメっ!」とすかさず
連絡先交換を阻止しようと間に入る。
「えぇ~なんでだよ。別にいいじゃんか」
「ダメなものはダメっ」
「あっ、あの…「菊馬」
「四之宮さん。二人がまた喧嘩を…「放っておけ。それよりもお前に教えておかなきゃならないこと
がある」
「はっ、はい…なんでしょうか?」
「俺はこれから本部に戻るが、その間は宮木と妹尾が護衛に当たる。外に出る時はどちらかに付いて
もらえ。あと勝手だが、瀬楽からお前のスマホを預かった際に俺の連絡先を登録しといた。もし何
かトラブルがあったらそれで俺に連絡しろ」
「あっ…はい」
「宮木っ、四之宮さんが連絡先を…「先輩はいいのっ!」
「そんなぁ~内山ぁーー助けて」
「…あのバカっ」
小山に助けを求められた内山。だが内山は見ない振りをして頭を抱え込んでしまう。唯一の味方に
見放された小山はただただ彼の名前を叫ぶしかなく、それからしばらくして四之宮は小山と内山
を連れて特殊部隊へと戻って行ったのであった。




