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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
保護組新担任登場と四之宮光の過去
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風の噂と大庭兄弟の過去

 その後、美月達が待つ会議室へと向かった宮木達は早速報告するに当たって美月が狙われていた可

 能性があることも伝える。

 「なるほど。確かにその可能性はあり得ますね」

 「でしょ?」

 「しかし、それは横永さんじゃなくても良いはず。もし宮木様の言う通り狙撃者が菊馬様を狙ってい

  たのなら近くにいた私達の誰かを狙ってもおかしくありません。なのにどうしてたまたま出てきた

  横永さんを撃とうとしたのでしょうか?」

 「そっ、それは…」

 「だから言っただろ。考えすぎなんだって」

  他のメンバーに関しては黙って聞くのみ。だが飛鳥の話はまだ終わっていない。


 「ですが…先程のお二人の話を聞けば私達を襲った男五人は金目当てで動いていた。そして狙撃者に

  ついては何も知らない。恐らく雇い主は男に声を掛けた後に狙撃者に仕事を依頼したんだと思われ

  ます。そして声を掛けた男は仲間を引き連れて私達のいる部屋へとやって来た」

 「ふむふむ。別の仕事を依頼したわけだな」

 「問題はその仕事の内容だが…」と岸本が飛鳥に視線を向ける。


 「考えられるのは二つ。一つ目は、宮木様の言う通り狙いは菊馬様だったこと。その理由について

  はまだ何とも言えません。二つ目は…私宛ての脅迫状を横永さんに渡したという少女の素性を

  見てしまったために、口封じで横永さんを狙っていた可能性です」

 「う~ん~段々分からなくなってきたぞ」

 「でも飛鳥先生。その女の子も雇われたはずだって…「仕事が終われば用済み。ですが…彼女には

  まだやるべき仕事が残っていたとしたら。顔を見た横永さんは雇い主からしたらまずいはずです。

  もし彼女が捕まれば、特定されるかもしれませんので念には念を入れたということでしょう」


 「そうだな。美月がいなかったら横永さんって人は殺されてたわけだし」と柊先生が言う。

 「というわけです。まだ可能性の段階ですが…「はいはい。すぐにマンションに戻って聞いてきます

  よ。行くよ、妹尾」

 「あっ、あぁ」

 宮木と妹尾は再びマンションへと向かうため美月達を置いて会議室を退室。それを見届けた後、飛鳥

 が美月達に向けて話しかける。


 「さぁ。後は宮木様達に任せて菊馬様達は午後の授業に出てくださいね」

 「えぇ~なんでだよ。先生」

 「午前中は出られませんでしたが、午後の授業には必ず出席しないと後で困るのは黒澤君達なんで

  すよ?お休みの日に勉強だなんて嫌でしょ?」

 「いっ…嫌だ」

 「黒澤、ここは大人しく授業を受けよう。どの道午前の分を取り戻さないといけないしな」と瀬楽が

  黒澤の右肩に左手をポンッと軽く乗せて呟く。他のメンバーは当然のことだと思ってはいたので

  彼のように反論はしなかった。


  午後の授業に出席する前に訓練棟の食堂でいつも通りメンバーで昼食を取ることに。するとそこへ

  桐島が美月の姿を目撃し、慌てて声を掛けて来た。いったい何事かと他の訓練生達が桐島に注目

  するも、彼はそんな事全く気にしておらず美月の右腕の怪我について尋ねられる。美月は桐島の

  問いかけに「あぁ。ちょっと仕事でね」と答えた。周りの目もあったので詳しいことは言えなかっ

  たが、それでも桐島は彼女を心配するも宝正に「ご飯食べる時間がなくなるから」と言われたため

  桐島に「また教室で」と告げて別れたのであった。


  そして授業が終わり、食堂で夕食を食べていると一人の正隊員が美月の姿を見つけるとすぐさま

  近寄り声を掛けてきた。


  「美月ちゃん」と呼ばれ美月は後ろを振り向くと、そこには明智の姿があった。

  「明智さん。お疲れ様です」

  「怪我したって風の噂で聞いたんだけど、大丈夫?」

  「かっ、風の噂?…そっ、そうなんですか」

  「うん。宮木君達も外出してるみたいだし、ちょっと様子を見ようと思ってね」

  「ふむ。ようするに、邪魔者がいない今がチャンスだと」

  「瀬楽君、人聞きの悪いこと言わないでくれるかな?」


  だが瀬楽が言っていることは当たっているようなものだった。

  風の噂とやらで菊馬が怪我したことを知った明智は、その噂が本当かどうかを確かめるため、彼女

  と親しい宮木と妹尾に話を聞こうとしたが外出していて確認が取れなかった。デパートの件以来、

  二人は会うことはなかったので久し振りに会いに行こうと考え、仕事が終わった後すぐに本部から

  訓練棟にある食堂まで歩いて向かって行ったのである。だが風の噂を聞いたのは明智だけではなく

  、彼らの耳にも届いていた。

  


  「明智先輩」

  「ん?」

  「「お疲れ様です」」

  明智の次に現れたのは勝山チームの小山と内山。小山が最初に声を掛け、明智が振り返ると小山と

  内山は息ぴったりに告げる。


  「…やぁ、小山君内山君。君達も風の噂で?」

  「えぇ。あと明智先輩みたいな人が菊馬さんに付きまとわないかどうかの見張りも兼ねて」と

  内山に言われて明智は「なにそれ?僕、不審者扱いされてるの?」と少しばかりショックを受ける。

  

  「いや、それよりも変質者に近いかもしれませんよ?」と明智に向けて言う正隊員。

   だがそれは小山でも内山でもない。その声の主は…大庭育巳。その隣には兄の達己の姿も。



  「それどういう意味かな?育巳ちゃん」

  「そのままの意味ですよ、明智先輩。あれだけ能力を使っていればそう言われるのも無理はない  

   かと」

  「育巳、言いすぎだぞ」

  「ほらほら君の大好きなお兄ちゃんが言いすぎだって言ってるよ?」

  「明智先輩がいったいどういう性癖を持とうと俺達には関係ないことです。ですが…菊馬はやめて

   おいた方が良いと思います」

  「それは…宮木君のお気に入りだからかい?」

  「隼士以外にも菊馬に好意を持ってる奴はいますよ」

  「それって小山君と内山君とか…あと、君とか?」

   

  明智の言葉に全員は驚いた。小山と内山のこともそうだが、達己が美月に好意を持っているので

  はないか?ということに対してだ。だがそれを聞いて弟の育巳は黙っているはずがない。

  「ちょっと、兄上を中に入れないでくださいっ!兄上は関係ありません」

  「なんで育巳ちゃんが言うの?僕が聞いてるのは君の大好きな達己兄上の方なんだけど」と明智に

  言われてしまい育巳は黙り込んでしまう。自分のために弟が明智に反論する姿を見て達己は閉じて

  いた口をゆっくりと開く。

 

  「育巳の言う通りですよ。俺は隼士達の中には含まれません」

  「そうかな?君ってあんまり女子と仲良くしたがらないじゃん。なのに美月ちゃんとは話すし、

   彼女が入院した時だって育巳ちゃんと一緒にお見舞いに行ったりしてさ」

  「仕事でたまたま近くまで来たからついでに寄っただけです。それより明智先輩…どうしてその

   ことをご存じなんです?このことを知っているのは見舞いに来ていた隼士と浦瀬。そして俺と

   一緒に仕事をしていた育巳だけのはずですが…」

  「っ!?」


  「そうですよ。あの日あそこにいたのは宮木先輩と浦瀬先輩だけだった。どうして明智先輩が

   知ってるんです?ちゃんと説明してください」

  「…君達がお見舞いに行った日に、僕もあの病院にいたんだよ。でも入れる状況じゃなかったか

   ら引き返して来た、ただ…それだけのことだよ」

  

  三人がそう話していると瀬楽が霜月に小声で話しかける。

  「なんか止めた方が良さそうな気がするけどどうする?」

  「どうするって言われても…「このまま黙って見てて、もし先輩達が喧嘩しちゃったらどうする

   んだ?」

  「その時は全力で止める…けど、勝てる気がしないな」と霜月は自信がなさそうに呟く。すると

  それを聞いていた黒澤が霜月と瀬楽に「大丈夫だって。俺と小森が絶対に止めるから」と話に割り

  込むのだが…。

  「「それだけは絶対にダメだ」」と瀬楽と霜月に却下させられてしまう。

  「なんでだよー」

  

  それは聞くまでもないことだ。


  「美月、どうするんだ?」

  「聞かないことにする」

  「えっ、いいの?美月ちゃん」

  「誰がどう想おうとその人の自由だからね。私がどうこう言っても解決しないもん」

  「確かにそうだけど…」

  

  誰が自分のことを想っていようともその人の自由。そして自分はそのことについては何も言う

  つもりはないと、美月は明智達の話を耳で聴きながらご飯をぱくぱくと食べ続ける。


  「大庭、やめろって。菊馬さん達とか他の訓練生達も見てるしっ…だからそのっ」

  「守」

  「はいっ」

  「少し黙っててくれ」と達己に睨まれてた小山はあまりの怖さに「はっ、はいっ!」と声を上げて 

   しまう。それを見て内山は「バカっ」と小さな声で呟く。


  「明智先輩。俺にとって菊馬は可愛い後輩です。それ以外は何もありません。…菊馬」

  「はい…なんですか?」

  「明智先輩が言っていることは気にしなくていいからな」

  「…分かりました」


  美月にそう告げると、達己は明智達に何も言わず食堂を出ようと歩き出す。それを見た育巳は「

  待ってください、兄上」と達己の後を追いかけたのであった。


  

  「兄上、待ってください。…兄上!」

  育巳は何度も達己に待ってくれと叫んだ。だが達己は一向に止まろうとしないので、育巳は走り

  達己の行く道を阻むと、ようやく足を止めた。


 「兄上…」

 「育巳、何の真似だ?」 

 「何度も待ってほしいと言ったのに、兄上が足を止めてくださらなかったからです」

 「…すまん。どうしてもあの場から離れたくて、つい」

 「明智先輩のお言葉を気にする必要はありません。あの人は兄上をからかっていただけです」

 「そうだな。俺が最初、隼士に菊馬と仲良くしているのを珍しいと思った時のように…明智先輩にも

  そう見えたのかもしれない」

 「そうですよ。だから兄上が気にする必要は全くないんです」

 「…あぁ。そうだな」

 

 

 育巳は、達己が美月に好意を持っていないという発言を信じていた。自分が尊敬する兄が…なんて

 ことあるわけがないと。だがそんな自分のことを信じる大切な弟に、兄の達己は明智に言われたこ

 とをずっと頭の中でぐるぐると考えていた。今まで彼の中での優先順位は弟が一番の達己。それは

 彼だけでなく家族の中でも同じことだった。


 達己と育巳の実家は剣道をやっていて、二人は幼い頃から祖父と父の指導を受けていた。だが

 素質は弟の方が良いとされたために、達己は祖父から剣道以外のことでも厳しく見られていた。

 祖父の言うことは絶対だったので、両親も反論することが出来ずその結果達己は肩身の狭い思い

 をし続けてきた。彼にとって学校が唯一家族に縛られない、育巳と二人きりの時間を邪魔されない

 唯一の場所だった。一つ違いだったがそれでも達己は短い休み時間のすべてを弟のために使った。

 いじめられていないか、授業にはついていけているのか、友達と上手く言っているかなどとほとん

 ど達己が育巳に質問攻めで、育巳から達己に質問するということは全くなかった。


 原因は二人の祖父にあった。頑固者の祖父の言うことに逆らえる者は誰もいない。だから育巳は

 祖父の言われたことをきちんとした。そしてやらなくていいと言われたことはパタリとやらなくな

 った。でなければ祖父に叱られる。それは絶対に嫌だったので両親に言われたことよりも祖父に言わ

 れたことの方が当時の彼にとって一番上であり、絶対にやり遂げなければならないことで兄の達己の

 ことは今のように仲が良いとは言えなかった。そんな二人が現在のように仲良くなったのは育巳が

 中学に入るとすぐ剣道部に入部したのだが祖父に教えてもらったことが全く通じず、反抗期と言う

 ことで育巳は両親・祖父・兄の言うことを全く聞かなくなってしまった。言われたことをしていれば

 それで良いはずだった。これまで祖父や父に学んだことを思い出し全力を尽くした。だが育巳は知ら

 なかったのだ。自分の上に父と祖父がいるように、他にも強い人間が何人もいるのだと…。筋が良い

 ・才能があるのは自分だけではないのだと、まさに大きな壁にぶち当たってしまったのだ。そして

 とうとう祖父が育巳を両親の前で怒鳴りつけた。すると達己はすぐさま祖父を止めようとするが

 逆に祖父に「邪魔だ、どいてろ」と老人とは思えないぐらいの力でタンスが置かれている場所まで

 達己を突き飛ばした。それを見た育巳はすぐに兄の元へ駆け寄ろうとするが祖父に腕を掴まれ「まだ

 話は終わってないぞ」と言われてしまう。


 祖父は達己のことなどどうでも良かった。筋が良いだけで達己を厳しい目で見て、両親も祖父の言う

 ことに従うしかなくただ黙って見ているだけで駆け寄ろうともしない。そんな冷たい家族に育巳は

 「こんなのおかしいだろ」と初めて自分の気持ちを外に出した。そしてここで育巳は気合操作の能力

 に目覚めることに。祖父に捕まれた腕を振り払い兄の元へと駆け寄った。兄はタンスに身体を強く

 打ち、座り込んでいたが命に別状はなく特に怪我などはしていなかった。


 それから祖父の言うことは絶対という規則は、育巳によって終止符を打たれることとなる。これから

 は自分のことは自分で考えて決める。そして今度は兄のために自分が尽くす番であると…。

 だから達己が特殊部隊に入ると行った時も育巳が後からついて行った。兄が行くなら自分も行くと

 決めた。祖父と両親に反対されても、育巳は聞こうとせず兄と同じ道を歩んだのである。そんな家庭

 で育ったせいか二人はお互いの想いが強すぎて、自分の恋愛ともなるとあまり興味がない。だが、

 友人の恋愛となると今までとは違う一面が見られるということでそこは興味を示す。正直なところ、

 達己は自分が美月に好意を持っているとは思えないがもしかしたらという可能性もあるため、彼女

 と会った時のことなどを思い出していたが…やはりそんなわけがないという結果が出てしまった。


 

 「菊馬には申し訳ないことをしたな」

 「気にしすぎですよ。それに彼女言ってましたよ?誰がどう想おうとその人の自由だって」

 「…そうか」

 「兄上」

 「ん?」

 「…いえ。やっぱりなんでもありません」

 「なんだ?言ってみろ」

 

 「仮にもし兄上に好きな人が出来たなら僕は…兄上を応援します」

 「…」

 「僕も成人しましたし、いつまでも兄上の側にずっと引っついて行くわけにはいきませんから。

  だから兄上にもし好きな人が出来たら…僕は「育巳、そんな悲しいこと言わないでくれ。確かに

  実の兄弟でもずっと一緒にいることは難しいし、この先どうなるか分からない。でも、俺にはお

  前の言う好きな人はいない。例えいたとしても、俺がお前から離れることはないよ」

 「兄上…」

 「だから心配することはないんだよ、育巳」

 「…はい」


 その後、大庭兄弟はいつも通り仲良く男子寮へと歩いて帰って行ったのであった。

  

 

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