メールの相手はいったい誰なのか?
温泉から上がった後、二人は服に着替え売店で牛乳を購入する。
ゴクンゴクン…。
「あぁ~風呂上りの牛乳。これが酒ならもっと良いのに」
「飲酒運転はダメですって」
「分かってるわよ。だがら牛乳で我慢してるんじゃない」
「そっ、そうですよね。すみません、余計なことを」
「別に。もう少ししたら移動するわよ。お腹すいたし」
「そういえば夕ご飯食べずに来ましたもんね」
「貴女、中華とかイケる?あそこに行きたいんだけど」と浦瀬が指を差す方向に中華料理の店が
あった。
「はい。大丈夫だと思います」
「そっ。じゃああそこに行きましょう」
中華料理店の中に入ると女性店員がすぐに美月達を空いている席に案内。その後すぐに水とおしぼり
を持って来て「ご注文がお決まりになりましたら、こちらの呼び出しボタンを押してください」と
女性店員は立ち去る。
「麻婆豆腐・酢豚・海老チリ・天津飯・八宝菜…」
「それ…全部頼むんですか?」
「違うわよ。食べたいけど値段高いからどっちにしようか悩んでるの」
「確かに高いですよね」
「菊馬は何を頼むか決まったの?」
「私はチャーハンと餃子を頼もうかと「少なっ!?貴女それで大丈夫なの?」
「はい。あまり食べ過ぎるとおなか壊しちゃうので」
「ふ~ん~まぁ、いいわ」と浦瀬が呼び出しボタンを押すと、女性店員がすぐにやって来て浦瀬か
ら注文を聞き終えると復唱し確認を取った上で立ち去る。それから数分後、注文した料理が全部
揃ったところで二人は食べ始めるのだが、浦瀬はその前に自分が頼んだ海老チリを三つほど美月
のチャーハン皿に乗せる。
「これぐらいなら食べれるでしょ?」
「あっ…はい。ありがとうございます」
他に浦瀬は天津飯と麻婆豆腐を注文しており、美月に海老チリを渡した後はすぐに天津飯をパク
パクと食べていた。
美月は彼女の食べっぷりを見ていると、何だがある人に似ているなと思ってしまう。もちろん
気のせいかもしれないが…そう見えてしまう。どうしてだろうか?
「くしゅん!!」
正隊員男子寮。宮木は自分のベッドで横になっていると突然くしゃみをして起き上がる。
「どうした?風邪か?」とテーブルで雑誌を読んでいた妹尾が宮木に声を掛けると「ん~分かんない
」と宮木はティッシュを一枚掴むと鼻を思い切り噛む。
「気を付けろよ。これから寒くなってくんだから」
「分かってるよ。あのさ妹尾、明後日のことなんだけどさ~先輩がいない間、どうしたらいいと
思う?」
「お前は指揮するタイプじゃないだろ?一か月ならともかくたったの一週間じゃないか」
「いやいや一週間でも長いって。今までこんなことなかったからどうしようって…これでも焦って
るんだよ?」
「まぁ確かに。でも大丈夫だろ?」
「…だといいけど」
それは数日前のこと。四之宮が二人を仕事終わりに会議室に呼び出したのだ。
『えっ、一週間有給を取るんですか?』
『あぁ。お前達には迷惑を掛けるかもしれないが』
『それは構いませんけど。先輩、一週間有給取ってどうするんです?』
まさか旅行ですか?と宮木が尋ねる。
『宮木。何もそこまで聞く必要はないだろ?』
『だって気になるじゃん』
『…どうしても、確かめたいことがあるんだ。それで子供の頃に住んでいた場所と親戚の家を訪ね
ようと思っている』
よほどの深い事情があるのだと二人はそれ以上四之宮に聞こうとはしなかったが、本当は気になって
仕方がなかった。
有給を取ってまでして彼が確かめたいことはいったい何なのかと。
「あぁ~食った食ったぁ~」
「食べましたね」
「運転するのめんどくさい~。菊馬代わりに運転して」
「いや無理です。免許持ってないのに」
「あぁ~そうだったわね」と言うと浦瀬は立ち上がり、「行くわよ」と美月に声を掛ける。
「あっ、はい」
この場合先輩である浦瀬が奢るべきなのだが、会計は自分達が食べた物だけを支払った。その後、
浦瀬の車で約二時間掛けて特殊部隊へと戻ったのである。
「今日はありがとうございました」
「いいのよ。じゃあおやすみ~」
「はい。おやすみなさい」
保護棟の前で美月を下ろし、浦瀬は駐車場へと向かい車を止める。
「あぁ~疲れた」
「お疲れ様です」
「…海老名。あんたどうしてここに?」
「いや。たまたま外に出かけてたもので」と海老名は証拠にコンビニの袋を見せる。
「ふ~ん~そう」
「ところで菊馬さんとのデートはどうだったんですか?」
「はぁ!?デートって何よ。デートって!」
「あれ?違うんですか?飯沼から聞きましたよ。菊馬さんを呼び出したって」
「あいつ…」
「怒らないでください。もし何かあった時のために聞いておいた方が良いと思って無理にお願い
したんです」
「ドラマとかじゃないんだから、行く先に事故や事件が起きるとは限らないわよ」
全く失礼しちゃうわね。と浦瀬は不機嫌になる。
「すみません。でもお二人共無事に帰ってきて何よりです。それに楽しかったみたいで」
「ふんっ」
「お詫びに女子寮まで送ります。もう真っ暗ですし」
「そっ。じゃあついでにこの鞄を持って」
「あぁはい」
海老名に鞄を預けた後、浦瀬はポケットからスマホを取り出してすたすたと歩きはじめる。
「浦さん。歩きスマホはダメですよ」
「時間確認するだけよ。すぐに終わるわ」と浦瀬は海老名に告げた後、再び目線をスマホに向ける。
「ん?」
「どうしたんですか、浦さん」
「…あっ、ううん。なんでもないわ」
「そう、ですか?」
「…」
そして正隊員女子寮の前へ送り届けた後、海老名はまっすぐ男子寮へと戻って行った。浦瀬はすぐに
自分の部屋に戻る。時刻確認の際、浦瀬のスマホに一件のメールが入っていた。そのメールを全文
読み終えた彼女は…。
「…何考えてるのよ、あいつ」




