瀬楽達との再会
それから美月は、四之宮に説明してもらいながらいろいろな場所を見て回った。
図書館や食堂にトレーニングルーム等があり、ここは本当に特殊部隊の本部なのかと思うぐらいに…。
「次は訓練棟に行く」
「訓練棟?」
「特殊部隊訓練生が普段授業を受けてる場所のことだよ。本部の隣にあるんだ」
四之宮に聞いたのに、なぜか宮木が美月の質問に答えた。
「それ見れば、あんたも喋る気になるんじゃない?」と嫌みを付け加えられ
美月の先程の好感度は見事にその言葉で取り消しにされてしまう。
妹尾は「まだ言ってるよ」と小さな溜め息をつき宮木を呆れたような目で
見ていた。もう怒る気力もないみたいだ。
連絡橋を通り、本部から訓練棟へと中に入る際もまたカードキーと認証を
行い、ようやく中へと入ることが出来た。
すると今度は本部とは違って賑やかな声が耳に自然と入って来た。
「今は休憩中か…。もう少ししたら実技が始まるから見学してもらえるよう
担当に話を付けてくる。菊馬を頼むぞ」
「はい(はーい)」
四之宮は二人に告げると一人でどこかに向かって歩きだした。
いったいどこへ行くのだろうかと見ていると、美月に気づいた一人の少年が
彼女に近づいて声をかけてきた。
「おーい。そこのお嬢さん」
「えっ?」
「お~、やっぱり。俺の見間違いじゃなかったみたいだな」
美月は声をかけられてどきっとしたが、声がした方に振り向くとそこには
顔見知りの少年、瀬楽が近くに立っていた。
瀬楽は偶然にも美月によく似た少女を目撃し、確認のためこうして彼女に
声をかけてきたのである。
「あっ、こんにちは」
「久しぶりだな。えっと…」
「菊馬美月」
「おぉ~そうだった。菊馬美月だったな」
瀬楽は美月の名前を覚えていなかったらしく、言葉に詰まっていた所を美月に
言われてなるほどと言うように右手をぐーにし、左手の手のひらで受け止めて
ぽん!とする。
「なに、二人は知り合いなの?」
「おぉ~宮木先輩に妹尾先輩。いつからそこに?」
「さっきからずっといたよ。目、ちゃんと見えてるの?」と宮木が瀬楽に
突っ込みを入れる。
「すみません。菊馬しか目に入っていませんでした」
瀬楽は素直に宮木に謝ると、妹尾が瀬楽に疑問に思っていたことを尋ねて
見る。
「ところで、瀬楽。霜月と綾小路は一緒じゃ
ないのか?」
「あぁ、あの二人は…「瀬楽!」
そこへ、タイミングよく現れた二人は美月が瀬楽と一緒に初めて会った少年。
もう一人は初対面で、小さな少女であった。
「瀬楽、こんなところにいたのか?単独行動は禁止だって何度言ったら
分かるんだ」
「ごめん、隊長。菊馬によく似た女子がいたもんだから確かめずにはいられ
なくて」
「はぁ?…って、あっ」
瀬楽の方しか目に見えてなかったのだろう。彼は瀬楽に言われて見渡す際に
美月を見つけて一瞬硬直した。どうやら彼は瀬楽の冗談だと思っていたらしい。
「こんにちは。この間はお世話になりました」と美月は少年にお礼して深く
頭を下げる。
「あぁ、いえ。僕は大したことやってないので…助けたのは瀬楽ですから」
「相変わらずだね。霜月は」
「ってあれ?!宮木先輩に妹尾先輩、いつからいたんですか!?」
「お前もかよ。瀬楽にも言ったけど、さっきからずっとここにいたよ」
まったく失礼だね君たち。と宮木は不機嫌になってしまった。
わざとではないと分かっていてもやはり嫌なのだろう。
「そういえば菊馬は綾に会うの初めてだよな?」
「あっ、うん」
「紹介するよ。我らがアイドルの綾小路~…えっと…」
またしても瀬楽が言葉に詰まった。
どうやら人の名前を覚えるのが苦手らしい。あまり会話したことがない美月の
名前を覚えてないということならまだしも、チームメイトの名前を覚えてない
というのは…少し異常である。
「瀬楽、綾に謝れ」
「ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。いつもどおり綾って呼んで」と心優しい綾小路は笑って
彼を許した。
「ありがとう、綾。これからもチームとして仲良くしよう!」
「うん」
その会話を隣で聞いていた霜月は、二人を遠くから温かい目で見ているよう
な感じで見守っていた。他の三人は、この状況にどう突っ込みを入れたらいい
のかまるで分らずただ黙って見ていたのである。
「で、どうして菊馬はここにいるんだ?もしかして訓練生にでも入るのか?」
「いや私は…「ただの暇つぶしだよ。連れの人がお偉いさんと話してるから
その間に見学してるってだけ」
美月が話そうとした際に宮木が割り込んできたため、美月は言葉を発するの
をやめざるを得なかった。それを聞いた瀬楽が宮木に質問する。
「連れの人って…柊って科学者のこと?」
「そうだよ。って…あぁ、そっか。こいつと最初に出くわした訓練生って
瀬楽達のことだったんだ」
今頃気づいた宮木は、それで美月と瀬楽達が顔見知りであることがやっと
理解することが出来たのだった。妹尾に関してはとっくに気づいていたが、
宮木にまだ怒っているからということもあって、あえて彼に教えようとは
しなかった。
「悪い、待たせたな」
そこへ四之宮が戻って来た。そして、人数が増えていることに気が付き、
瀬楽達に声をかける。
「お前達、そろそろ休憩時間が終わるぞ。早く戻れ」
「はい、ありがとうございます!瀬楽、綾戻るぞ」
「はーい。じゃあ、またな。菊馬」
「またね」
「あっ、うん。また」
別れの挨拶をした後、瀬楽と綾小路は隊長の霜月に続いて走って行ってしまっ
た。
「ずいぶんと仲良くなってるじゃない。訓練生に入ってチームにでも入れて
もらったら?」
それを見ていた宮木が美月にまたしても突っかかってくる。
またしてもしつこいと思った美月は宮木に反撃をしかけようとすると、四之宮
に止められてしまう。
「宮木。そろそろ実技が始まる。そのぐらいにしろ」
「…はーい」と不満そうだが、隊長の指示に従う宮木。
「菊馬、付いてこい。今から訓練生の実技授業が行われるから実技室へ向か
うぞ」
「あっ。はい」
こうして、美月は訓練生の実技授業が行われるという実技室へと四之宮達と
共に向かったのだった。




