才能に特化した連中の集まり
「宮木、あれから熊木さんには会ったのか?」
「会ったよ。もう少し調査してから帰るって言ってた」
「…そうか」
「大丈夫だよ。黙って帰る子じゃないと思うし、そのうち会えるって」
「いや俺は別に「はいはい。照れ隠しは良いよ」
妹尾が熊木に会いたがっているかについては分からないが、どうも彼女のことが気になっているら
しく宮木は慰めの言葉を入れるも、素直じゃない彼の言葉に呆れて「照れ隠しは良い」と言った後
は食べることに集中した。ペロリと食べ終えた後、宮木は妹尾に会議のことを尋ねる。
「ねぇ妹尾、さっきの会議のことなんだけどさ~どう思う?二人の生徒の死因のこと」
「あぁ、血を抜かれたって話だろ?それなのに遺体には刺された跡がなかったっていう不思議な話」
「そのことなんだけどさ…犯人はどうして遺体の血を抜く必要があるのかな~って」
「確かに。ふつうだったら刃物なんかを使ったりするのに…なんで血を抜いたんだろうな?」
「血が欲しかったんじゃないかな?」
「えっ?」
突然彼が変なことを言いだしたので、妹尾は軽く驚いた。
「身近な人間にいるでしょ?血を飲むことで回復するって奴が」
「それ…小森のことを言ってるのか?」
「他に誰がいるの?言っとくけど小森が犯人って証拠はないけど、犯人は間違いなく吸血鬼能力者
である可能性が高い。あれ以外に血が必要な能力なんて聞いたことないからね」
食堂を出た後、二人は保護棟にある小森の部屋を訪ねてみた。だが彼は留守らしく応答がないので、
確認のために宮木が美月に連絡を取ると、「彼は自分と一緒にいる」と返事が来たので6階にある美
月の部屋へ訪ねると、そこには彼女が言った通り小森の姿があった。
「…なんで小森が美月の部屋にいるわけ?」
「宮木、そんなに怒らなくても良いだろ?それより、さっきの食堂での話をしろ」
小森の姿を捉えた瞬間に宮木の機嫌が悪くなるものの、妹尾が先程の話をしようと持ちかける。
「あの…いったいどういうことなんです?」と美月は二人に尋ねる。
宮木からスマホに連絡が来た際は「小森、今どこにいるか分かる?」としか言ってなかったの
で、どうして小森のことを聞いてきたのか分からなかったのである。
「知ってるかもしれないけど、槻ノ木学園男子生徒殺人事件について俺達と鮎川チーム、勝山チーム
が担当することになってね」
「その遺体はなぜか全身の血を抜き取られて死んでた。普通血を抜くってなれば、注射器か何かを
使わなくちゃいけない。それなのに遺体にはその針を刺した跡が残ってなかったんだよ」
「それってまさか…吸血鬼能力?」
美月はここまでの話を聞いて確信した。この二人が小森を訪ねた目的を…。
「たぶんそれで間違いない、と僕は思うよ?」
「それで…夜月を疑ってるんですか?槻ノ木学園の生徒を殺害した犯人だって、宮木さん達はそう言
いたいんですか!?」
「まぁまぁ。菊馬さん落ち着いて。まだそうと決まったわけじゃないから」
「妹尾甘い」
「あのなぁ…別に俺は「分かってるよ。美月、これは仕事なんだ。警察と同じように事件が起きれば
、人を疑うのは当たり前なんだよ?仲間を信じたい気持ちも分かるけどさ」
「…っ」
美月は宮木に反論することはなかったが、彼から目を逸らして唇を軽く噛む仕草からして気持ちの良
いものではなかったと見られる。仕事だからと言い聞かせて美月に話したものの、やはりまだまだ
なりたてと言うこともあるので感情が優先してしまうらしい。
「で、小森に聞きたいんだけど…槻ノ木の男子生徒二人が殺害された時間帯、どこでなにしてた?」
妹尾が分かりやすいように最初に殺害された男子生徒とその次に殺害された男子生徒の死亡推定
時刻を小森に教えると…ノートにすらすらと書いて『美月と一緒にいた』と答える。
「…美月、本当なの?」
「本当です。信じられないなら、監視カメラの映像とかで確認を取れば分かると思いますよ」と
そっぽ向いたまま答える美月に、宮木はここで監視カメラの存在を思い出し「あぁ~そういえば」
と妹尾の方を向いて言う。
「ニュースで見ましたけど、二人の男子生徒は学年も違うし友人達も会ったことはないって言ってま
したから顔見知りの犯行はまずない。だとしても、夜月が槻ノ木学園まで行ってその二人を殺害す
る理由がいったいどこにあるって言うんですか?」
「あの菊馬さん…「妹尾、止めたらますます機嫌悪くなる」と宮木は妹尾の口を慌てて手で塞ぐ。
『美月怒ってる?』
「別に怒ってなんかない。変なこと聞かないでくれる?声なし」
『ごめんなさい』
やっぱり怒ってる。と誰もが思った。
「宮木さん達の話を聞くと、声なしが疑われるのも無理はないとは思います。でももし犯人が彼なら
…わざわざ自分が疑われるような殺し方をするでしょうか?」
「まぁ確かにそうだな」
「監視カメラの映像が確認出来れば、夜月のアリバイは証明される。そうなると、彼の他に存在する
吸血鬼能力者の仕業ということになります、よね?」と美月は宮木の方をギロッと睨む。それを
見て妹尾は彼の前へと出て「菊馬さん。ごめんね、気を悪くしてしまったみたいで…。俺達これか
ら監視カメラの映像見せてもらえるよう頼みに行って来るよ。ほらっ、宮木行くぞ」と妹尾は宮木
の腕を引っ張って玄関へと向かう。
「お邪魔しました」と妹尾が二人に向かって叫んだが、宮木は黙ったまま彼と一緒に部屋を出て行く。
「こらっ、いつまで落ち込んでんだよ。警備室行ってアリバイ確認するぞ?」
妹尾は宮木の腕を離し、エレベーターへと歩いて向かった。
「…別に落ち込んでるわけじゃ」
「その顔は落ち込んでる顔だよ。俺を止めなくても機嫌直らなかったな?すごく睨まれてたし」
「うん。すごく怖かった…」
ギロッと睨まれて、ぞっとした。
「あの二人って付き合ってるのかな?」
「はぁ!??何言ってるの?」
妹尾が変なことを言いだしたために、宮木は立ち止まって思わず叫んでしまう。
「いや。夜、一緒の部屋にいるし…「ないよ!ない、絶対にないって!」
「分からねぇぞ?必ずしも菊馬さんがお前を選ぶとは限らないだろ?お前はそう望んでるかもしれな
いけどさ」
「美月が…小森と…。そんなの嫌だ」
「嫌って言っても本人達が決めちゃったらどうしようもないだろう?」
「だって21歳の美月は僕のことが好きだって言ってたんだよ?それなのに16歳の美月は小森を
選ぶって言うの?!」
「それは知らなかったけど…本当ならお前は死んでた。そして熊木さん達はこの世界にやって来て
お前と世界を救った。能力に代償と欠点があるように未来を変えることによって、いろいろと変
わってくるものがある。人はいつかは死ぬし、それがいつなのかは分からない。失うことによっ
て、その人の大切さを思い知らされるのと一緒でさ…」
「じゃあ今の美月にとっては、小森の方が大切な存在になってきてるってこと?」
「そうなんじゃないか?未来が変わったわけだし」
「…」
じゃあ、僕達は…。
『私は……私は貴方に死んでほしくないんです。生きてほしいんです…』
世界を救った。彼女の目的は達成された。だけど…世界と僕の命を救ったことによって未来が大きく
変わって、僕の知る16歳の美月は小森を…。
「おい、しっかりしろって。まだそうと決まったわけじゃないし、もし二人が付き合ってたら奪い
取ればいいだけで…」
「妹尾ってそんな奴だったの?ずっと一緒に過ごしてきたけど…奪い取りだなんて」
宮木は妹尾に引いていた。
「例えばの話だろっ!例えばの!」
「まぁその時はその時でなんとかするよ。さ~てと、小森のアリバイ証明のために行きますかね~」
「あっ…あぁ」
宮木は無理に明るく振る舞ってはいるが、かなり落ち込んでいる。だが、今は小森のアリバイを証明
するために監視カメラの映像を確認しなければならないので、二人はエレベーターへと乗り、6階を
後にしたのである。
宮木と妹尾が部屋を出た後、美月と小森は槻ノ木学園でのことを話していた。
「美月、二人が話してた槻ノ木学園ってなに?」
「って、知らなかったのか…。槻ノ木学園は私立で中等部・高等部とある有名な学校で、中等部の
男子生徒と高等部の男子生徒が何者かによって殺されちゃったんだよ。ニュースでは死因について
は言ってなかったけど…遺体から血が抜かれたことが原因だったみたい。それで貴方が疑われた」
「僕そんなことしてないんだけど「分かってるわよ、そんなこと!誰も疑ってなんかない。宮木さん
達はどうか知らないけど、とにかく貴方は犯人じゃない!」
「…うん。でも」
「でも、なによ?」
「その男子生徒を殺した犯人は…僕と同じ能力を持ってる可能性があるんだよね?」
「吸血鬼能力以外に血に使い道がある能力者なんている?私はここに来るまで能力に関してド素人
だったから分からないけど…たぶん夜月と同じ吸血鬼能力でしょうね」
「…そっか」
「ん?どうしたの?」
「僕…その槻ノ木学園に行ってみたい」
「えっ!?なんで?」
いきなり小森が学校に行ってみたいと言い出したので、美月は驚いた。
「会えるかもしれない…からっ。その犯人に」
「犯人に会いたいって、ずいぶんと変わり者だね?でも、夜月。学園には宮木さん達だけじゃなくて
他の正隊員の人もいるんだよ?疑われてる人間が学園の周りをうろちょろしてたら、ますます犯人
かもって疑われる。やめといた方がいいよ」
「…そっか」
「鮎川さんは知ってるけど、勝山チームって聞いたことないし。その人達が貴方をどういう目で見る
かも気になるよ。もしかしたら警察の取り調べってことになったら…」
美月は刑事ドラマの映像を頭に浮かばせて、勝手に想像し始める。疑わしき人間は「署で詳しい話
を聞かせていただけませんか?」と言って警察に行って取り調べをさせられ、ひどい場合は「貴方
がやったんじゃないんですか?」と言われたりすることも…。
「じゃあ、僕の代わりに行ってくれる?」
「はい?」
「僕がそこに行けないなら…美月が代わりにその学校へ行ってみてくれる?」
「まぁ…それなら、大丈夫だと思うけど」
犯人は小森と同じ吸血鬼能力者の可能性があると聞いてから、彼の様子は明らかにおかしかった。
だけど美月はしつこく聞くのもどうかと思いあえて深く聞くことはしなかったが、とりあえず明日
授業が終わり次第、槻ノ木学園へ行くことにしたのである。
翌朝。槻ノ木学園に特殊部隊と警察が到着し理事長と校長に挨拶した後、次は全校集会で話をした。
午前は警察・午後からは特殊部隊が周辺をパトロールするらしい。だけど、これで新たな犠牲者が
出ないという保障はなく、夜の外出は控えるようにと告げられた。
「なぁなぁ、特殊部隊って何?」
休み時間に入って、窓の外を眺めてクラスメイトの男子は隣にいた友人の男子に尋ねる。
「お前知らねぇのか?警察より厳しいっていうエリート部隊だよ」
「マジで?!そりゃすげぇなぁ~どうやったらなれるんだろ~」
「あははっ。お前には絶対無理だからあきらめろって」
「わかんねぇだろ!」と男子二人組の会話を聞いて、恵は心の底から呆れてしまう。
こいつらは、特殊部隊の本当の意味を知らない。警察より難関で入隊するのも難しいとされるエリ
-ト部隊。その『難関』の部分は、厳しい審査を通り普通の人間が持っていない存在を生まれなが
らにして持つ、言わば『才能』。超能力や能力に関することを専門に取り扱う『才能』に特化した
連中の集まり…それが特殊部隊だ。無能力者が入れる場所じゃないんだよ。
もちろん、この僕も…特殊部隊には入れないんだ。




