美月は能力者?
四之宮チームと共に美月は車を使って特殊部隊本部へとやって来た。
柊家からかなり離れているし、美月が特殊部隊の存在を知ったのはつい最近と
いうこともあって学校よりも広くて大きな建物を目の当たりにしてぼう然と
立ち尽くしていた。
「何してる?置いてくぞ?」
「あっ、はい。すみません!」
四之宮に声をかけられ慌てて彼らの後を追う美月は、本部内へと入って行った。
もちろんすぐに入れるわけでもなく、特殊なカードキーを差し込んで認証された
ら今度は指紋認証・顔認証等を機械で行っており、横で見ていた美月はめんどくさいなぁ~という目で彼らを見ていた。
美月は部外者のため、どうしたらいいのかと思っていると四之宮がてきぱきと
作業をして美月に「新規登録を行うから機械の指示に従え」と言われて一瞬
疑問に思ったが、よく分からないので「はい」と答え、機械のアナウンスに従って彼女自身の指紋と顔を登録し、「新規登録完了しました」と言われて
「えっ?終わり?」
美月はカードキーが自販機のようにどこからか出てくるのかと思い込んで
いたのか、少しショックを受けていた。
「カードキーは後でもらえるよ。それより、また置いていかれるよ?」と
宮木に言われてまた慌てて追いかける美月。宮木もその後に続いて四人は
エレベーターで最上階へと向かったのである。
そして最上階へと到着し、ある大きな部屋の扉が目の前に現れる。
四之宮が先頭となり扉の前に立つと、扉は自動的に開かれた。
「うわっ、すごい…」
「監視カメラを使って顔認証と生体反応を確認した上での自動扉だよ」
妹尾は美月に説明しているのを聞いて宮木は「こんなのいらないと思うんだけ
どねぇ~」と愚痴を言っていると、四之宮が彼らの方を向いて、「お前達、
さっさと入れ」と注意されてしまい、中へと急ぎ足で入ると扉は自動的に
締まりロックされる。
「おぅ。帰って来たか~」
「先生!?どうしてここに?」
部屋の中にいたのは二人の男性で、その一人は柊先生だった。
「ここに用事があってな~あと、お前を迎えに行くってのも兼ねて」
「用事?」
美月が柊先生にそのことを尋ねようとすると、もう一人の男性が口を開いた
ため聞くことができなかった。
「私が彼を呼び出したんだ」
「えっと…貴方は?」
「私の名は杉村哲。特殊部隊の取締役並びに特殊部隊訓練
学校の校長を務めている者だ。君が、柊と生活している菊馬美月君だね?」
「そうです。はじめまして…杉村さん」
美月は杉村に自分のフルネームを呼ばれ返事をしたものの、初対面で大人の
男性ということもあり、少し緊張が走る。
「今回の件について、警察にはきちんと私の方から叱っておいた。少しでも
早く我々に連絡してくれれば、君は巻き込まれずに済んだはずだとね。
その際、どこか怪我をしたということはないかね?」
「いえ、してません」
「今回の事だけではない。君はこの間にもスケートボードで飛行中、見知らぬ
男に捕まり危うくは落下しかけたり、買い物した帰りにひったくりに遭遇し
被害女性のバッグを取り返そうとしたとも聞いている。それを含めて、どこか
怪我をしてはいないのかな?」
杉村は美月にまるで取り調べをしているかのような口調で質問してくる。
それは柊先生にも四之宮・妹尾・宮木にも十分伝わっていた。
杉村の質問に美月は少し間を開けて口を開いた。
「確かにスケートボードから落ちそうにはなりましたが、訓練生の方に助けて
もらったので怪我はしていませんでした。ひったくりの際も犯人に殴られそう
になりましたが、妹尾さんが助けてくれましたのでその際も怪我はしません
でした」
「…なるほど」
こんなことを聞いていったい何になるのかと美月は杉村をまっすぐな目で
見つめていた。そうすると杉村からまた彼女に質問をする。
「君は…能力者なのかね?」
それを聞いた杉村以外の全員が反応した。
通常の人間が使う能力以外に力を発揮できる人間のことをで
例えで言うなら動物と会話が出来たり、空を飛ぶことができたり、
かなり遠く離れた場所にいる人間をまるで近くで見ているかのように
見えるなどの能力を持つ人間を「能力者」という。
ちなみに過去や未来等が見える・感知するという人間のことを「超能力者」
といい、基本的には「能力者」「超能力者」と分けられ後々種類別に名前で
管理されているのだ。
「私は能力者なんかじゃありません」
「命が危険なのにも関わらず、自らの意思でひったくりを取り押さえようと
するには勇気がいる。それに相手は自分よりも背の高い男性で力比べでも
敵わないと判断するはず。それなのに君は迷うことなくひったくりから被害者
のバックを取り戻そうとした」
「目の前で目撃してしまった以上、黙ってほっておくわけにはいかなかった
んです」
「そうかね。では…これを見てもらおうかな?」と杉村が机の上に置いていた
ノートパソコンを開いてカチャカチャといじっていると後ろからスクリーンが
現れ、ぱっと映像が映し出された。
それは、あのひったくり犯と美月が映し出されていた。
「これはいったい…」
「近くの監視カメラから撮影された映像で、警察の協力を得て入手した」と
言いながら杉村は監視カメラの映像を再生する。
再生されて、10秒立たないうちに止められまた元に戻して美月に
こう言った。
「ここ。君はひったくりの攻撃を素早く避けているのが分かる。
もう一度再生しよう」と再生を押してまた見せられる。
「彼はひったくりの常習犯でね。それと少しかじった程度らしいがボクシング
をしていたということも聞いている。かじった程度かもしれないが、それでも
経験者の攻撃をか弱い女の子がまるでそれを見切ったかのように交わすなんて
…私にはとても信じられないんだがね」
美月は追い詰められている。
これだけの証拠が揃っているのにどうして自分は能力者じゃないと言い張る
のか?とそう言われているようだった。
すると彼の隣で黙っていた柊先生がすかさず助け舟を出した。
「哲。そのくらいで勘弁してやれ」
「先生…」
「柊、私は彼女に「能力者」かと問いかけているだけだ。決して弱い者いじめ
をしているわけではない」
「分かってるよ、それぐらい。でも、美月が「能力者」じゃないって言って
るんだから、それでいいじゃねぇか」
それはフォローなのかよく分からないが、とりあえず助けてくれているという
ことだけが美月には理解できた。
四之宮達三人は、口出しすることもなくただ黙って美月達を見ていることしか
できなかったが…。
「話は以上だ。だが、柊とはもう少し話したいことがある。せっかくだから
四之宮君、彼女を本部の中を案内してやってくれ。終わり次第こちらから
連絡する」と杉村さんの言葉を聞いて四之宮は承諾し、美月は四之宮達と一緒に部屋を出て本部内を案内してもらうこととなったのであった。
部屋には柊先生と杉村の二人のみとなり、すぐさま杉村が柊先生に向かって
本題を話しだす。
「どういうつもりだ、瑞生。話が違うじゃないか?」
「本人が言い張ってるんだから仕方ないだろ?あいつにもいろいろあるんだ
よ」
「まったくお前は…。あの事件があって装備開発職を辞めてから何をしてる
のかと思ったら、見ず知らずの少女を引き取って一緒に生活するなどと」
「俺はあいつを捕まえなきゃいけねぇからな。それにあいつも親の仇(かた
き)を討ちたいと思うし、あのまま一生を終えるなんてかわいそうだったし
な」
「だが、お前一人だけで適う相手ではないだろう?それにお前と違って…
兄貴の方は超能力者なんだからな」
「だから今、それに対応できる物をこつこつと開発してんだよ。元装備開発
者をなめんなよ~」と杉村に子供っぽい口調で言い張る柊先生。
それが気に食わないのか、杉村はますます顔が強張っていた。
「とにかく。俺は美月の意思を尊重する」
「…勝手にしろ」
「それでもしあいつが自分のことを認めて、ここに入りたいと望んだら
その時は頼む」
「仮に認めたとしても、入った後が大変だ。それに、この時期ではいろいろ
と問題も起きるだろう。仮にも、入るとしたらの話だがな」
柊先生と杉村はそれから約1時間ほど、今後のことについて話しこんだ
のであった。




