52.ミディアの決意
<<アイ>>
私は今、すごい緊張していた。
今回の人形劇はミディアのために作ったようなもので、そして、目の前に劇を見終わったミディアがいる。
もし、怒っていたらどうしよう?
恐る恐るミディアの方を見ると、ミディアは俯いていた。
「どうして・・・」
ミディアが口を開く。
やっぱり、怒ってるのかな?
「どうして、最後、私とラーファがキスしてるの?
だって、姉妹でキスなんて、どう考えてもおかしいでしょ!?」
「ええっ、そこ!?」
まさか、最後のキスの話が、最初に出て来るとは思わなかった。
ていうか、私がミディアに気にしてほしかったところは、そこじゃないんだけど・・・
「だって、最後に幸せのキスして終わるってのが、ハッピーエンドのテンプレだし。」
「そのテンプレ、今回使う必要あったの?
琴音もラーファもエレーネ先輩も変だと思いますよね?」
「いや、そこは別に・・・」
「むしろ、私は感動した。」
「私も・・・まあ、いいんじゃないかと・・・」
「なんで!?」
ミディアは、エレーネ先輩とラーファ先輩と琴音の返事に絶句していた。
ていうか、いつまで最後のキスに拘ってるの?
「キスは置いといて、他の話はどうだった?」
私がそう尋ねると、ミディアは再び俯いてしまう。
「ねえ、アイ・・・劇でレームおじさんとラヴィおばさんが話していたことって、本当のこと?」
ミディアは俯いたまま、私に話しかけてきた。
私がミディアに返事をしようとしたけど、
「本当よ。」
私よりも先にラーファ先輩が答えた。
「私、お父さんとお母さんが、ずっとミディアにそう呼ばれたがってることを知ってた。
ミディアも大分私達と打ち解けてきたし、いつかは本当の家族になって、ミディアからそう呼ばれたいって。」
「だから・・・あんなこと言ったの?
私と本当の家族になりたいって・・・」
「そうよ。」
「でも、あれ以降、何も言ってこなかったよね。」
「これは、ミディアの気持ちの問題だし、無理強いだけはしたくなかったのよ。
それに、ミディアのスフィルラン家を守りたいって気持ちもわかるからね。」
ラーファ先輩は、ミディアにそう言ってから、私の方を見た。
「それにしても、アイは、どうやってこのことを知ったの?」
「実は、2日目のルフィル・カロッサで、2人が話しているのを聞いちゃったんです。
ベイ・カロッサを渡り終わって、エルフィーゼの塔に到着して、少し休憩していた時に、2人がミディアのことを話してて・・・
おじさんもおばさんも、さっきラーファ先輩が話していたようなことを話してました。
でも、私は、どうしても2人の気持ちを、ミディアに伝えたくなって・・・
帰ってから、慌てて人形劇の話を変えることにしたんです。」
だって、限界寿命が迫っていて、いつ2人が亡くなってもおかしくない。
この気持ちを伝えないまま、2人が死んじゃったら、きっと2人も辛いだろうし、ミディアも辛いと思うから。
「ミディアがもし、余計なお節介だと感じたんだったら、謝るね。」
「ウウン、2人の気持ちを教えてくれて、本当にありがとう、アイ。
人形劇の私が語っていたこと、多分、今の私が思っていることなんだと思う。
でも、どうして、アイは私の気持ちに気づいたの?
私自身ですら気づいていなかったことなのに・・・」
ミディアは驚いていた。
でも、ミディアの考えていることなんてお見通しよ。だって、
「伊達に3年間友達やってきてないわよ。
多分、ミディアだったら、こんなこと考えてるんじゃないかなって、何となく思っただけよ。」
「そうなんだ。」
ミディアはそう言うと、すくっと席から立ち上がる。
「アイ、今日は本当に素敵な人形劇をありがとう。
私、行きたいところができたから、今日は帰るね。」
そう言うミディアは、心なしか落ち込んでいるように見えた。
どうして、ミディア、落ち込んでいるんだろう?
その元凶は、間違いなく私の人形劇だとは思うんだけど、落ち込む理由がわからない。
「私達、これが終わったら、ハ―メルトンのイデアトゥアを見に行くって約束してたでしょ。」
ラーファ先輩が、慌ててミディアを引き止める。
私は人形劇のことで夢中だったから気づかなかったけど、今日って、ハ―メルトンのイデアトゥアが展示されてるんだ。
なるほど、道理で人の数が多いと思った。
「ゴメンね・・・他に行きたい場所ができたから、それは、エレーネ先輩と2人で見て来て。」
ミディアはそう言うと、そのままブースから出て行ってしまった。
「私、ミディアちゃんと一緒に行くね。」
琴音が慌てて、ミディアを追いかけようとする。
「琴音、ミディアのこと、お願いね。」
ラーファ先輩が琴音にそう言うと、琴音は力強く頷いて、ミディアの後を追いかけて飛び出していった。
ミディア、行きたいところができたって言ってたけど、一体どこに行くつもりなんだろう?
本当にこれでよかったのかな?
今更ながら、私は自分のやったことに、少し不安になっていた。
<<ミディア>>
リーブルガルトからの帰り道、私はずっと上の空だった。
船を降りて南街に着いたタイミングで、初めて琴音が私について来ていることに気づいたくらいだ。
「琴音は、みんなと一緒にイデアグラルを見に行けばよかったのに。」
「イデアグラルは、明日も明後日もやってるんでしょ。
それよりも、今はミディアちゃんのことが心配だよ。」
どうやら、琴音は私のことを心配してくれているみたいだった。
でも、私は、別に落ち込んでいるわけではない。
むしろ、レームおじさんとラヴィおばさんの気持ちを知って、嬉しくなったくらいだ。
でも、2人の気持ちに、私はどう向き合えばいいのだろう?
私は、さっきからずっと、そのことばかり考えていた。
人形劇の私が話していたことを思い出す。
『もし、本当の両親の記憶を取り戻せないまま、そんな素敵な人達と家族になってしまったら・・・
きっと私は、その幸せの日々にどっぷり浸かってしまい、本当のお父さんとお母さんの記憶を、忘却の彼方に置き去りにしてしまうだろう。
唯一生き残った私が、両親のことを忘れてしまったら、誰も両親のことを思い出さなくなってしまう。』
この3年間、私はお父さんとお母さんの記憶を取り戻せないまま、楽しい日々を過ごしてきた。
でも、いつかは、自分の記憶喪失と向かい合わないといけないとは思っていた。
でも、そのいつかが、まさか今日やってくるとは思わなかった。
だから、あの場所に行こうと思う。
1年に1回しか行かないと決めていたあの場所に・・・
「ミディアちゃん、ルーイエ・アスクを通りすぎちゃうよ。」
ルーイエ・アスクを通り過ぎる私に、琴音は慌てた様子で、声をかけてくる。
「さっき、寄りたいところがあるって言ったでしょ。
私の寄りたいところ、この道のずっと先にあるんだ。」
この道は、いつも学校に行く時に使う道だ。
でも、今日はこの道をさらに奥へと突き進む。
琴音は黙って私について来ていた。
そう言えば、琴音にはまだ、あの場所を教えていなかったっけ。
じゃあ、ついでに、琴音に教えておこう。
私にとって、とても大切なあの場所を・・・
目的地に到着すると、琴音は驚いていた。
「ここって・・・墓地!?」
「ここにね、私のお父さんとお母さんのお墓があるんだよ。」
「まさか、お墓参りに来たの?」
まあ、お墓参りってのは、間違いではないんだけど、少し違う。
「私ね、昔は何かあるたびに、ここに来ていたんだ。
特に、みんなと打ち解けられなかった最初の半年ぐらいは、ほぼ毎日ここに来ていた。」
「ミディアちゃん・・・」
「でも、みんなと仲良くなれて、今の生活に慣れてきてからは、来るのを控えるようにしてるんだよ。
いつまでも、お父さんとお母さんに頼り切っているようじゃダメだって思ったからね。
だから、お父さんとお母さんに約束したんだ。
ここに来るのは、1年に1回だけにするって・・・」
「じゃあ、今日がその1年に1回の日?」
「ウウン、毎年、私の誕生日に、ラーファやレームおじさん、ラヴィおばさんと一緒にお参りに来てるんだ。
だから、今日は今年で2回目になっちゃうんだよね。
でもね・・・どうしてもお父さんとお母さんに会って、話したいことができたから・・・」
「じゃあ、私、ここで静かにしているから、お父さんとお母さんといっぱい話してね。」
「ありがとう、琴音。」
両親の眠るお墓の周りを少し掃除をしてから、私は手を合わせて、2人に話しかけた。
お父さん、お母さん・・・
私はどうしたらいいんだろう?
私は、レームおじさんとラヴィおばさんが大好きだ。
そして、そんな大好きな2人が、私にお父さんお母さんって呼んでほしいと思ってくれている。
アイの人形劇を見た時、2人にルーイエの家族だと認めてもらえたみたいで、すごい嬉しかった。
でも、2人のことをお父さんお母さんって呼んじゃったら・・・
私は多分、本当のお父さんとお母さんの記憶を思い出すことなく、幸せな日々に浸かってしまう。
でも、私は、本当のお父さんとお母さんのことも思い出したい。
私はどうしたらいいの?
(今夜、夢の中で待っている。)
突然、頭の中に女の人の声が聞こえてきて、私は思わず頭を上げる。
これは、お母さんの声だ。
初めて聞く声なのに、なぜか私はそう確信していた。
「どうしたの、ミディアちゃん?」
琴音が私に話しかけてくる。
「今ね、お母さんの声が聞こえてきたんだ。
今夜、夢の中で会おうって。」
「本当に!?
だったら、お母さんと思いっきり話してくるといいよ。」
琴音は、そう言って、すごく喜んでくれた。
今まで、何度かお母さんの夢を見たことはあるけど、話すどころか顔すらわからない状態だった。
だから今度は、お母さんの顔が見られるといいなあ。
そして、色んなことをいっぱい話したい。
その晩、お母さんと会えることを期待しながら、私はいつもより少し早めに就寝した。
「ミディア・・・ミディア・・・」
しばらくすると、優しそうな女性の声が聞こえた。
昼間聞いた声を同じ声・・・お母さんの声だ。
目をゆっくり開けると、目の前に長くて美しい金髪の女性が立っていた。
いつもと違って、今度は顔がはっきりと見える。
「もしかして・・・お母さん?」
恐る恐る尋ねると、目の前の女性はコクリと頷く。
「ようやく・・・会えた。」
その瞬間、頭の中にあったものが、全て吹き飛んでしまった。
「お母さん・・・お母さん!!!」
気がつくと、私はお母さんに抱きついて泣いていた。
「あらあら、ミディアはもう16歳なのに、甘えん坊ね。」
「だって・・・だって・・・」
色々話したいことがあったはずなのに、感情ばかりが溢れて来て、言葉が思いつかない。
でも、ずっと求めていたお母さんが、目の前にいる。
だから・・・今だけは、感情に身を任せてもいいよね?
「落ち着いた?」
お母さんが、私に訊ねてくる。
あれから、私は多分小一時間ぐらい、ずっとお母さんに抱きついていたと思う。
まるで、小さな子供みたいに甘える私を、お母さんは優しく抱きしめてくれた。
「もう大丈夫。」
おかげで、私は大分、いつもの冷静さを取り戻すことができた。
「それで、私に話したいことがあるんでしょ?」
お母さんは、優しい笑顔のまま、私に訊ねてくる。
「ウン、実は・・・」
私は、今悩んでいることを、全部お母さんに打ち明けた。
すると、お母さんはなぜかクスッと笑った。
「ミディアは本当に優しい子ね。
私達はもう死んでしまっているのに、私達のことを気にかけてくれている。」
「ウウン、これは私がそうしたいからなんだよ。
私は、お父さんとお母さんのことを思い出したいし、スフィルラン家だって守りたい。
だって、スフィルラン家は、私とお父さん、お母さんをつなげてくれている唯一の証なんだから。」
「でも、ラーファのご両親のことも大好きなんでしょ。」
「今日の人形劇で、2人の気持ちを知って、家族と認められたような気がして、すごく嬉しかった。」
「なんだ、そこまで思ってるんだったら、何も悩む必要ないじゃない。」
お母さんは、あっけらかんとそう言う。
「でも・・・いいのかな?
今の幸せに浸かってしまったら、きっと、私はお父さんやお母さんのことを思い出さなくなってしまう。
それに、スフィルラン家もなくなってしまう。
お母さんはそうなってもいいの?」
私はお母さんに、自分の悩みをぶつけてみた。
すると、お母さんは、やはりあっけらかんとした表情のまま答えた。
「いいよ。」
「えっ!?」
私は一瞬耳を疑った。
まさか、お母さんは、スフィルラン家がなくなってもいいと思ってるの?
だって、スフィルラン家は、私とお父さんお母さんがつながっている唯一の証なのに・・・
でも、お母さんは、首を横に振る。
「私とミディアをつなげているものは、ここにあるでしょ。」
お母さんはそう言って、自分の胸を指さす。
「もしかして、血?」
「そう、あなたと私は、血で結ばれている。
これは、私達が家族と言う確かな証なのよ。」
確かに、お母さんの言うことはわかる。
でも、普段、血は体内を流れていて、目に見えない。
仮に自分の血を見るようなことがあっても、多分真っ青になるだけで、家族のつながりを感じることなんてまずないだろう。
私は、もっとわかりやすい証が欲しかった。
そして、今の私に残されている唯一の証が、スフィルランという名前だった。
でも、お母さんは、スフィルランがなくなっても構わないという。
どうして、そんなことを言うんだろう?
そう思っていたら、お母さんが私に話しかけてきた。
「実はね、ミディアの中に、私の魂のかけらがあるの。」
お母さんの言葉に、私は驚いた。
それって、以前エレーネ先輩が話していた守護人って存在では・・・
「そう、私は、ミディアの守護人。
もしものことがあった場合に備えて、生前の私がミディアを守るために用意しておいた魂のかけら。
私は、この3年間、ずっとあなたを見守ってきた。」
そうだったんだ。
お母さんは、死んでからも、ずっと私のことを見守ってくれてたんだ。
嬉しさのあまり、また涙がこぼれそうになる。
「時々、お母さんの夢を見ることがあったけど・・・
あれってまさか、守護人のお母さんがやってたの?」
「そう、あれは私の仕業よ。」
「だったら、今回みたいに、ちゃんと私の前に出て来てくれたらよかったのに・・・
そうしたら、もっと早くお母さんと会って、色々お話したかったのに・・・」
「せっかくミディア、友達やルーイエさんと仲良くなれたのに、私が姿を表したら、ミディアはまた心を閉ざしちゃうんじゃないかって思ってね。
だから、ミディアの実生活に影響ないように、あえて顔を見せないようにしてたのよ。」
「そうだったんだ。」
「今の私は、ただの守護人だけど・・・この3年間、ミディアのことをずっと見守ってきた。
だから、今のミディアがどういう気持ちなのか、よくわかってるつもりよ。」
お母さんはそう言うと、私をギュッと抱きしめた。
「ミディア、私の一番の願いは何だと思う?」
「もしかして・・・私のこと?」
私がそう答えると、お母さんは思わず苦笑する。
「もしかしなくても、あなたのことしかないでしょ。
私の一番の願いは、ミディアが幸せになること。
だから、いつまでも、死んでしまった私達に縛られていてはダメよ。
目の前に、幸せが転がっているんだったら、一生懸命掴みに行きなさい。」
「お母さん・・・」
お母さんの言葉に、胸が熱くなって、また私は泣きそうになった。
「それに、私ね、今、すごい嬉しいの。
ミディアが毎日楽しそうに暮らしていて、本当に・・・
ラーファのご両親は、本当にいい人達ね。」
「ウン・・・」
「自分の娘を安心して任せることができる人に出会えたことが、私、本当に嬉しいの。
ミディアも、あの2人のことが大好きなんでしょ?
だったら、さっさとルーイエの家に入っちゃいなさい。」
お母さんはそう言って、私の頭を優しく撫でる。
「お母さんは・・・それでいいの?」
「まあ、悔しくないと言えば、嘘になるけどね。
本当は、私がミディアのことを、大人になるまで育てたかった。
一緒に笑ったり泣いたり、時には怒ったりケンカしたりして、ミディアと一緒に過ごしたかった。
でも、今の私は、ただの守護人。
ミディアを守ることはできても、ミディアの親としての役割を果たすことはできない。
だから、たまにこうやってミディアと話せるだけでいいの。」
お母さんの気持ちを聞いて、私は涙をこらえることができなかった。。
相変わらず記憶は戻らないけど、昔から私はお母さんに愛されて育ったんだ。
私の中に、お母さんの守護人がいることが、何よりの証だ。
お母さんのおかげで、完全に迷いはなくなった。
「お母さん・・・これからも夢に出て来てくれる?」
「もちろん。」
「ありがとうお母さん、私、ルーイエの家族になるね。」
私がそう言うと、
「ウン、それでいい。」
お母さんは、安心したようにそう言った。
「でも、私、絶対にお父さんとお母さんのことも、思い出して見せるからね。」
「ありがとう。
でも、あなたは未来だけ見つめて生きていきなさい。
ミディアが私達のことを忘れてしまったとしても、私はミディアのことを、ずっと見守っててあげるから。」
「お母さん・・・」
「あーでも、エッチなことをしている時は、できるだけ見ないでおいてあげるからね。」
一瞬、聞き間違えたかと思った。
でも、どうやら聞き間違いではないようだった。
優しいお母さんの笑顔と言動のギャップに、私はすっかり混乱してしまった。
「な、な、な・・・何言ってるの!?
私、エッチなことなんてしないもん。」
「大丈夫よ。
もう少し大人になったら、ミディアもするようになるから。」
お母さんはそう言って、ニコッと笑った。
せっかくの感動的な再会だったのに、突然なんてことを言い出すんだろう。
「ミディアは、かなりの恥ずかしがり屋だからね。
でも、そういう子ほど・・・」
「お母さん!!!」
「ハイハイ、わかったから、そんな目で睨まないで。」
お母さんは苦笑して、それ以上話すのをやめてくれた。
普通の親子の会話って、もしかしてこんな感じなのだろうか?
だとしたら、お母さんとそういう会話ができたことを喜ぶべきなのかもしれない。
いや、でも、今度はもっと普通の会話をしたい。
突然、お母さんの体が光り出す。
これは、琴音がラーヴォルンから帰る時に発生する現象とよく似ていた。
「そろそろ、ミディアが起きる時間のようね。」
「もっと色々話したいことあったのに・・・」
「それはまた、今度の機会にとっておこう。」
お母さんのその言葉に、私はすごい嬉しくなった。
だって、それって、またお母さんと会えるってことだから・・・
「じゃあ、明日・・・」
私がそう言いかけると、お母さんは首を横に振る。
「今の私は、魂のかけらでしかないから、そう何度も夢にやってくることはできないの。
だから、次がいつになるかは、約束できない。」
「それでも、次はあるんだよね?」
「ええ、それは約束する。」
お母さんの体が、さらに光り出す。
琴音と同じ現象だとしたら、もう少しでお母さんは消えてしまう。
「だから、ミディア・・・あなたは自分の幸せのことを第一に考えるのよ。」
「ウン、約束するよ、お母さん。だから・・・」
でも、その続きを、お母さんに話すことはできなかった。
次の瞬間、目の前が真っ白になって・・・気がついたら、私は目を覚ましていたから。
ありがとう、お母さん。
お母さんと約束した通りに、私、幸せを掴みに行くね。だから・・・
「だから・・・また、夢に出て来てね、お母さん。」
夢で最後にお母さんに言えなかったことを、小さく呟いた。
一階に下りて顔を洗い、居間に行くとラーファが既に食事を取っていた。
「やっと起きたわね、ミディア。
今、ミディアの分も用意するわね。」
ラーファはそう言うと、私の朝食を取りに席を立つ。
どうやら、私はいつもより少し寝坊をしてしまったらしい。
でも、それはつまり、それだけ長くお母さんと一緒に話せたと言うことだ。
今日だけは、寝坊をした自分を褒めてやりたいと思った。
「ねえ、ラーファ、レームおじさんはどこ?」
「お父さんなら、病院に行ったわよ。
今日は、お母さんの退院する日だから、色々やることがあるみたい。」
そうだった。
今日は、ラヴィおばさんの退院日だった。
じゃあ、ちょうどいい。
レームおじさんとラヴィおばさん、2人に話そう。
気がついたら、私は部屋を飛び出していた。
「ちょっと、いきなりどうしたの、ミディア!?」
私の朝食の準備をしてくれていたラーファは、驚いた表情でこっちを見ていた。
ゴメンね、ラーファ。
でも、今はこの気持ちを、早くレームおじさんとラヴィおばさんに伝えたい。
私は、病院に向かって全力で駆け出していた。
病院に着くと、ちょうどレームおじさんとラヴィおばさんが、退院の手続きをしている最中だった。
「ミディア、どうしたの、そんなに息を切らせて?」
私に気づいたラヴィおばさんは、すごい驚いていた。
目の前にレームおじさんとラヴィおばさんがいる。
きっと、いつもの私だったら、緊張して、うまく話せなかったと思う。
でも、今日の私は、自分でも驚くぐらいに、不思議と落ち着いていた。
だから、自分の気持ちを、素直に2人に伝えることができた。
「私、ルーイエの家に入りたいです。
だから、私を家族の一員にしてください。
レームおじさん、ラヴィおばさん・・・
じゃなくて、お父さん、お母さん。」
最初は、唐突な私の発言に驚いていた2人だったけど・・・
私のその言葉は、2人にとって、私が考えていた以上に嬉しいものだったみたいで、
「もちろん大歓迎よ、ミディア。」
ラヴィおばさん・・・ウウン、お母さんは涙を流して喜んでくれた。
お父さんは、お母さんの背中で、やっぱり泣いていた。
「ミディア。」
背後から、ラーファが私に抱きついてきた。
どうやら、私の後を追いかけてきたらしい。
「もう、ラーファ、髪の毛ボサボサだよ。」
「だって、急にミディアが飛び出していくのが悪いんじゃない。」
ラーファの声も涙声だった。
そっか、ラーファも、私の話、聞いてたんだ。
私がルーイエの家に入ることに、みんな涙を流して喜んでくれた。
私、こんなにもルーイエの人達に慕われていたんだな。
お母さんの言った通り、私は幸せ者だ。
私は、新しいお父さんとお母さん、そしてラーファに向かって、改めて挨拶をした。
「不束者ですが、これからは、ルーイエ家の一員として、よろしくお願いします。」
この日、私の名前は、ミディア・スフィルラン・ラーヴォルンから、ミディア・ルーイエ・ラーヴォルンに変わった。
(用語集)
(1)イデアグラル
毎年秋にリーブルガルトで開催される最大のイデアイベント
イデアに関する作品であれば、魔導士・空想士といったプロから、学生や一般人まで、誰もがイデア作品を出展できる
近年は応募者が多いため、厳正な審査で出展者が決められている
(2)イデア
様々な用途で使用される魔法媒体のこと。
マーシャントの情報を記録する性質を利用している。
ミディア達が使うイデアは、主に映像を記録した映像イデアのことを指す。
(3)ルフィル・カロッサ
ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。
毎年秋に開催される。
(4)ベイ・カロッサ
ルフィル・カロッサ最大のイベント
北街と南街から魔法の橋をかけて、橋を渡るイベント
2つの大陸の平和を祈るために、2つの橋は交差するようにかけられる
そして、交差点では、平和を祈る「エミレフィーユ」と言う言葉で挨拶を行なう。
(5)エルフィーゼの塔
ラーヴォルン北街のはずれにある100階建ての巨大な塔。
昔は軍事要塞施設で、今でも何箇所かにはその時の名残が残っている。
未だに多くの謎を残しており、安全が確認できていないフロアは、今でも立ち入り禁止になっている。
そのため、塔内は魔法転移装置で移動することになっている
北街の観光名所の一つとなっている。
(6)限界寿命
平均的な魂強度を持つ人間の魂が消費するマーシャント量と、現在のアトゥアのマーシャント量の変化を元に計算された人間が生きられる寿命年齢のこと
魂強度の個体差によって、寿命に若干のばらつきがあるが、計算精度はかなり高い。
(7)守護人
特殊な魔法により、意思を持った魔法。
大抵は術者の意識、魂の一部を魔法術式によって対象にかける。
対象に何らかの危機が訪れた場合に、守護人は発動する。
守護人は対象を脅威から守るために様々な行動を起こすが、実際にどういう行動を起こすかは守護人による。




