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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
97/254

51.イデアグラル

<<ミディア>>


 イデアグラルの朝は、あいにくの小雨が降っていた。

 もっとも、天気予報によると、午後からは秋晴れになるそうなので、私達が出かける頃には雨が上がっているだろう。

 今日はイデアグラルのある日なので、学校はお休みだ。

 秋は、色々と行事があるおかげで、休みの日が多くて、とてもありがたい。

 とはいえ、午前中は家のお手伝いをしていたので、結構忙しかった。

 ラヴィおばさんが入院しているので、レームおじさんがいつもの倍以上働いていたけど、やっぱりラヴィおばさんの抜けた穴は埋められていないようで、他の従業員に結構助けられていた。

 ラヴィおばさんには、早く元気になって、戻ってきてもらわないと、ルーイエ・アスクの経営も厳しいようだ。

 でも、また過労で倒れられても困るし、やっぱり私も少し仕事の量を増やした方がいいのだろうか?

 そんなことを考えていると、ラーファが病院から戻ってきた。

「お母さん、明後日退院だって。」

 ラーファからの知らせを聞いて、レームおじさんも従業員もみんな喜んでいた。

「よかった、ラヴィが帰ってきてくれないと、仕事が回らなくて困ってたんだ。」

 レームおじさんが喜んでいたのは、元気になってくれたことよりも、仕事のことの方が大きいようだ。

「お父さん、またお母さんを過労で倒れさせたいの?」

 すかさずラーファが、レームおじさんに向かって怒る。

「そうだな。

 私も少しラヴィに頼りすぎてたかもしれんな。」

 レームおじさんもかなり反省しているみたいだった。

 ラヴィおばさんが退院したら、仕事の分担を見直すと私達に約束してくれた。

 ついでだから、私達の仕事量についても見直すように、レームおじさんに話したけど、


「お前達は、今は一生懸命勉強して遊ぶのが仕事だ。」

 そう言って、今まで通りでいいと言われてしまった。

 でも、ラーファは納得いかないようで、

「私達はルーイエ・アスクの後継者なんだし、そろそろ本格的に色々とやらせてくれてもいいんじゃない?」

 レームおじさんに食い下がった。

 ルフィル・カロッサの一日社長の時も一生懸命頑張っていたし、ラーファは両親のことになると、凄い力を発揮する。

 きっと今回のことで、ラーファにも思うところがあったのだろう。

 ていうか、私「達」って、さりげなく私までルーイエ・アスクの後継者にされてる?

 ウウン、嫌ってわけじゃないし、むしろ嬉しいと思ってる。

 でも・・・本当に私がルーイエ・アスクの後継者になってもいいのかな?

「わかった、じゃあ、ラヴィが考えたら、みんなで仕事の分担について話し合おう。」

 レームおじさんが、ラーファに根負けしてそう言うと、ラーファも納得したのか、笑顔で頷いた。


 昼食を取り終わると、琴音がやって来た。

「やっほー、ミディアちゃん。」

 今日の琴音は、久しぶりにテンションが高い。

 最近の琴音は、挨拶も

「ミディアちゃん、こんにちわ。」

と少し大人しめだった。

 きっと、ラヴィおばさんが倒れたことを気にしてくれて、いつもよりもテンションを低めにしてくれてたんだろう。

 あと、夏休みが終わって、いきなりテストがあったらしく、昨日まで勉強で疲れたとも言ってたっけ。

 でも、ラヴィおばさんはもうすっかり元気になったし、テストも今日で終わったらしく、これからイデアグラルに出かけるということもあって、琴音のテンションはいつも以上に高かった。

 このテンションの高さは、ルフィル・カロッサの時以来じゃないだろうか?


「イデアグラルって、どんなイベントなのか、今から楽しみだよ。」

 そう言う琴音は、本当に楽しそうだ。

「イデアに関するイベントで、いろんな人がイデアに関するものを出展しているから、結構楽しめると思うよ。」

「でも、まずはアイちゃんの人形劇だね。」

「ウン。」

 その後、部屋で出かける準備をしていると、ラーファとエレーネ先輩が部屋に入ってきた。

 エレーネ先輩、いつの間に来たんだろう?

「ミディア、準備できたか?」

 エレーネ先輩は、待ちくたびれたと言わんばかりに急かしてくる。

 最初は、そんなにアイの人形劇を早く見たいのかな?


「今日、ハーメルトンのイデアトゥアの一部が展示されているらしいんだよ。

 だから、早く行こうぜ。」

 ハーメルトンとは、エレーネ先輩とラーファが大好きな音楽グループの名前だ。

 エレーネ先輩の話によると、こないだのコンサートの時に使われたイデアトゥアの一部が体験できるらしい。

 どうやら、エレーネ先輩のお目当ては、ハーメルトンのイデアトゥアのようだ。

 一方、ラーファはというと、エレーネ先輩ほど態度には出していなかったけど、時々そわそわした様子を見せていた。

 どうやら、ラーファもハーメルトンのことで頭が一杯みたいだ。

 2人ともハ―メルトンの大ファンだから仕方がないんだけど・・・少し、アイが不憫になった。


 イデアグラルは、北街のリーブルガルトで開催される。

 そのため、北街行きの船はどの船も満員状態だった。

「ふう、きつかったあ。」

 思わずため息が漏れる。

「いいよなあ、琴音は楽そうで。」

 エレーネ先輩が琴音の方を見てそう呟く。

 エレーネ先輩に琴音が見えるってことは、ヴィルトワさんは視力と聴力をエレーネ先輩に貸してくれたってことだ。

 ヴィルトワさんが約束を守ってくれるかどうか、琴音は不安に思っていたので、話しかけてくるエレーネちゃんを見て安堵していた。


 船を降りて、ようやくすし詰めから解放された私達だけど、到着した私達の前には、ものすごい人の数が待ち構えていた。

「イデアグラルって、こんなに人が集まるイベントだったっけ?」

 前にアイの作品見に行った時は、こんなに人が集まってなかったようにも思うけど・・・

「本来は、ただのイデア作品の展示会だから、これほど人が集まるイベントじゃないんだけどね。」

 ラーファも、この人の数には驚いているようだった。

「今年はハーメルトンのコンサートで使用されたイデアトゥアが見られるから、ファンが一斉に集まったんだろうな。」

 エレーネ先輩が苦笑しながらそう言う。

 リーブルガルトに向かう途中で見かけた人達は、みんな何かしらのハ―メルトンのグッズを持っていた。

 ハーメルトン人気、恐るべしだ。

 でも、こないだのコンサートは、初めて聞いた私でも感動したくらいだから、これだけ大勢のファンがいたとしても不思議ではない。

 あの時のイデアトゥアも、たしかに素敵だった。

 アイの人形劇が終わったら、私もハーメルトンのイデアトゥアを見に行こうかな。


 リーブルガルトの入口は、すごい行列ができていた。

 もっとも、今回、私達は出展者であるアイからの招待状を受けているので、私達は招待者専用の通路から入ることになっていた。

「あの行列を並ばなくていいのは、ありがたいよな。」

 エレーネ先輩がそう言う。

 私は行列を見て、ハ―メルトンのコンサートのことを思いだした。

 あの時は、これと同じかそれ以上の行列に並んで、コンサート会場に入った時はもうクタクタだった。

 スイスイ中に入っていけた琴音が、少し羨ましかったのを覚えている。


 リーブルガルト内部の建物は、いくつものブースができていた。

 各ブースでは、様々なイベントが行われていて、人だかりができていた。

 また、壁には多くのイデアフィルが飾っていた。

 芸術的なものから、少し変わったものまであったけど、さすがに審査を通過した物ばかりでレベルが高そうなものばかりだ。

「アイのブースは、確か2階だったわよね。」

 ラーファはマップを見て、アイのブースの位置を確認していた。

「他のブースはどこも人が一杯だけど、アイのところは大丈夫かな?」

 少し心配になって、そう言うと、

「アイのところだけガラガラだったら、私達で慰めてやろうぜ。」

 エレーネ先輩がそんなこと言うから、ますます不安になってきた。

 でも、ラーファは、

「大丈夫よ、この日のために、アイはすごい頑張ってた。

 きっと、アイのブースも満員に決まってる。」

 自信満々にそう言った。

 この場にアイがいて、今のラーファの言葉を聞いたら、嬉し涙を流しそうだ。

「そうだよ、ミディアちゃん、エレーネちゃん。

 私もきっとアイちゃんの人形劇は満員だと思うよ。」

 琴音もそう言った。

「ウン、そうだね。」

 私達がアイを信じてあげないでどうするんだ。

 きっと、アイのブースだって満員に決まってる。


 そんな感じでアイのブースに向かっていた私達だけど、アイのブースに着いた私達は驚いた。

「すごい、超満員だ。」

 午前中の公演の評判がよかったのか、単に他のブースの客が流れてきただけなのかはわからないけど、これはすごい。

「あっ、ミディア。」

 私達の姿を見つけたアイが、こっちにやってくる。

「すごいな。

 超満員じゃないか。」

 エレーネ先輩がそう言うと、アイは思わず苦笑する。

「なんで、こんなに一杯なんでしょうね?」

 どうやら、ここまでの超満員になるとはアイも思っていなかったようで、少し困惑しているようだった。

 舞台の横には、巨大スクリーンが設置されているけど、あれは人が多いために、後ろの人にも見えるようにと、運営側が急遽設置してくれたものらしい。

「席は全部埋まってるみたいだから、私達はここから見させてもらうわね。」

 ラーファがそう言うと、

「ああ、それなら心配なく。

 ちゃんと、予約席を3つ取ってありますから。」

 アイはそう言って、私達を最前列にある予約席と書かれた席に連れて行った。

「ありがとう。

 でも、こんなことしちゃっていいの?」

「いいのいいの。

 だって、今回の話は、みんなに見てほしくて作ったお話だから。」

「前にもそんなこと言ってたよね。

 だから、私、結構楽しみにしてるんだよ。」

「えへへ、期待しててね。

 あと、琴音は、好きなところで見てくれていいよ。」

 アイが琴音に向かってそう言う。

 どうやらヴィルトワさんは、アイにもちゃんと視力と聴力を貸してくれてたみたいだ。

「ウン、私はミディアちゃんの隣で見せてもらうね。」

 琴音はそう言って、私とラーファの席の間にやってきた。

「じゃあ、そろそろ午後の公演の準備しないといけないから。」

 アイはそう言うと、舞台袖の方に走っていった。


「あれっ、今回アイちゃんがやるのって、人形劇だよね?」

 琴音は舞台の方を見て、なぜか首を傾げていた。

「ウン、そうだけど?」

「あの人形劇の舞台、人が入るにしては、少し小さいような気がするんだけど・・・」

「人が入る?」

 琴音が何を言ってるのかよくわからない。

「人形を操る人が隠れる場所がいると思うんだけど?」

 琴音の話によると、どうやらニホンの人形劇は、舞台に人が隠れていて、手で人形を操るらしい。

 なるほど、だから、琴音は違和感を感じてるんだ。

「アイがやる人形劇は、アイが魔法で操るんだよ。」

「魔法で?」

「だから、術者であるアイは、基本舞台にずっと立ってるんだよ。」

「へえ、魔法で人形を操るんだ。

 それは楽しみだね。」

「それだけじゃないわよ。」

 私達の話を聞いていたラーファが、話に入ってくる。

「魔法で人形を操作しながら、ストーリーを進行しないといけない。

 イデアルディのイメージづけとかは、さすがに前日までに終わらせてると思うけど・・・

 キャラクターごとに声を使い分ける必要もあるし、結構大変だと思うわよ。」

「へえ、そうなんだ。」

「でも、アイは、それを午前中にやってのけたのよ。

 だから、こんなに大勢のお客さんが来ているんだろうし。」

「そうだね。

 何だか、すごい楽しみになってきたよ。」

 琴音がそう言って、ニコッと笑う。

 ちょうど、そのタイミングで、それまで明るかった舞台の照明が消えて、暗くなる。


「これより、本日2回目の人形劇を始めたいと思います。」

 舞台にアイが登場すると、客席から一斉に拍手が起こる。

 こんなに大勢の観客の前で、これからアイは人形劇をやるんだ。

 アイの人形劇なのに、なんか私まで緊張してきた。

 しばらくすると、舞台が完全に真っ暗になる。

 照明を消しても、ここまで真っ暗にはならない。

 これは、恐らくイデアトゥアを使ってるんだろう。

 いよいよ、アイの人形劇の開始だ。

 と思ったけど、いつまで経っても、話が始まらない。

 あれ、アイ、どうしたんだろう?


<<アイ>>


 午前中の公演は、最初の公演だったけど、特に緊張することもなく、ミスもなくスムーズにこなすことができた。

 でも、この2回目の公演は、1回目とは比べものにならないくらい、すごい緊張していた。

 理由はわかってる。

 ミディアが見ているからだ。

 そもそも、今回の人形劇は、ミディアに見てもらいたくて作ったお話だ。

 でも、私の人形劇を見終わった後、ミディアがどんな感想を抱くだろう?

 そんなことを考え出したら、全身の緊張が取れなくなってしまった。

 これは、少々マズいかもしれない。

 そう思ってたら、

(アイ、大丈夫?)

 頭の中にミディアの声が聞こえてきた。

 もしかして、私が緊張しているってわかったのかな?

(大丈夫よ、楽しみにしててね。)

(ウン。)

 まったく、開幕直後の舞台の人間に、ルティアで話しかけて来るなんて、非常識もいいところだってーの。

 でも、ミディアのおかげで、さっきまでの緊張はなくなっていた。

 よし、やろう。

 真っ暗な空間の中に、一体の人形を登場させる。

 どことなくミディアの雰囲気を持つ、この人形が、この物語の主人公だ。


『この少女の名前は、ミディ。

 ミディは、3年前に交通事故で両親を失い、自身も記憶を失ってしまった。

 そんなミディを見かねたある一家が、ミディを家に引き取ることになった。

 これは、ミディとその家族の物語である。』

 真っ暗だった舞台が、ルーイエ・アスクに切り替わる。

 人形劇用に、若干コミカルに描かれたルーイエ・アスクが舞台に映し出される。

 よし、ここまでは完璧だ。

 セリフもしっかり言えてるし、イデアトゥアの切り替えのタイミングもバッチリだ。

 大丈夫、もう緊張していない。

 最高の人形劇にするから、そこから見ててね、ミディア。


<<ミディア>>


(ねえ、あの人形って・・・)

 私は人形劇を見ながら、ルティアでラーファとエレーネ先輩と会話していた。

(どうみても、ミディアよね。

 名前もミディだし・・・)

(ていうか、設定がまんまミディアじゃないか。)

 ラーファとエレーネ先輩は、少し呆れている口調だった。

 私はというと、舞台でスポットライトを浴びている自分そっくりの人形に少し困惑していた。


『ミディを引き取ったルーイ夫妻は、街で旅館を経営していた。

 ルーイ夫妻には、ラーラという女の子がいた。

 ラーラはミディより、一つ年が上だったので、ミディの世話を一生懸命見ていた。

 最初は心を閉ざしていたミディも、ルーイ夫妻やラーラのおかげで、次第に心を開くようになった。』


(今度は、ラーファとルーイエ一家が出てきたぞ。)

 エレーネ先輩がため息混じりにそう言う。

(なんか、自分の人形が舞台に出てると、この席に居づらいわね。)

 どうやらラーファも、私と同じことを思ったようだ。

 それにしても、アイは、どうしてこんな人形劇にしたんだろう?


『「ミディ、そろそろ学校に行くわよ。」

「待ってよ、ラーラ」

 2人は、いつしか、本物の姉妹のように仲良くなっていった。』


(2人の声、結構似てたな。)

(まさか、アイが魔法を使って、私達の声を演じてるの?)

(すごい・・・)

 人の声を真似する魔法があることは知ってるけど、そういった魔法は学校では習わない。

 これは多分、アイがお父さんに教えてもらったんだろう。

 お話はともかく、アイがこの日のためにすごい頑張っていたことは、今の魔法を見ただけでもよくわかった。

 一方、お話の方はというと、エレーネ先輩のそっくりな人形も出てきて、楽しい日常生活の話が続いてた。

 なんか、自分達の日常が、人形劇でみんなに公開されてるみたいで、少し恥ずかしい。

(これは一体、なんの罰ゲームだ?)

 エレーネ先輩も恥ずかしいからか、ルティアで聞こえてくる声が若干上ずっていた。


『こうしてミディは、みんなと楽しい日々を過ごすうちに、明るくて素敵な女の子へと変わって行った。

 でも、ある日のこと・・・

 ミディがいつものように、お風呂から上がって、部屋に戻る途中で、ルーイ夫妻の部屋を通った時のことだった。

 部屋からルーイ夫妻の会話が聞こえて来た。


「ミディが元気になってくれて、本当によかったよ。」

「ミディのおかげで、ラーラも明るくなったしね。」

「あとは、これで、ミディがお父さんって呼んでくれたらなあ。」

「そうなってくれたら、本当に最高ね。」


 ミディは2人の話を聞いて驚く。

 ミディは、ルーイ夫妻を本当の両親のように慕っていた。

 でも、ミディは2人のことを、どうしてもお父さんお母さんと呼ぶことができなかった。』


 人形劇の話の内容に、私を少なからず動揺していた。

 確かに、私は、レームおじさんもラヴィおばさんも大好きだし、本当の家族のように慕っている。

 でも、あの2人にお父さんお母さんって言ったことは、今まで一度もない。

 どうして、アイはこんな話を?

 その時、以前のアイの言葉を思い出した。


「今回の劇は、ミディアに見てほしくて作った劇だから、絶対に見に来てね。」


 まさか、アイは、これを私に伝えたくて、劇を作ったの?

 これはアイがずっと思っていたこと?

 いや、多分違う。

 私が2人のことを何て呼ぼうと、多分アイにとってはどうでもいいことだ。

 だとしたら、もしかしてラーファ?

 でも、隣で見ているラーファも、劇を見てすごい驚いてるし・・・

 だとしたら・・・まさか、本当にレームおじさんとラヴィおばさんが言ったのかな?

 2人が、私にお父さんお母さんって呼ばれたいって?

 2人に本当の家族だと認められたみたいで、すごい嬉しい気持ちになった。

 でも、私は・・・

(ミディア・・・)

 ラーファが、ルティアで話しかけてきた。

 多分、劇の内容についてだと思うけど、私は返事をしなかった。

 今は、アイの人形劇の方が気になったからだ。


『どうして、私は2人のことを、お父さんお母さんと呼べないのだろう?

 本当の両親じゃないから?

 今更、呼び方を変えるのが恥ずかしいから?

 多分、どちらも正解だと思う。

 でも、完全な正解じゃない。

 じゃあ、なぜ?

 ウウン、本当はわかってる。

 私に、本当の両親の記憶がないからだ。

 私は、お父さんとお母さんの記憶を取り戻したい。

 でも、このままルーイさんのことを両親だと認めてしまったら、どうなるだろう?

 ルーイさんも、ラーラも、みんなとっても優しくて、素敵な人達だ。

 もし、本当の両親の記憶を取り戻せないまま、そんな素敵な人達と家族になってしまったら・・・

 きっと私は、その幸せの日々にどっぷり浸かってしまい、本当のお父さんとお母さんの記憶を、忘却の彼方に置き去りにしてしまうだろう。

 唯一生き残った私が、両親のことを忘れてしまったら、誰も両親のことを思い出さなくなってしまう。

 そんなの絶対ダメだ。』


 アイの人形劇の話に、私は大きく動揺していた。

 多分、これは図星だ。

 自分が気づいていなかっただけで、きっと私は、この主人公と同じことを考えていたに違いない。

 だから・・・こんなにも動揺しているんだ。

 でも、どうしてアイは、私の気持ちに気づいたのだろう?

 私自身ですら気づいていなかったと言うのに・・・


『それ以降も、ミディはルーイ夫妻のことを気にしつつも、楽しく毎日を過ごしていた。

 しかし、ある日のことだった。

「お父さん、お母さん。」

 突然、ルーイ夫妻は倒れてしまった。』


(まさか、アイ、ラヴィおばさんが倒れたことまで、人形劇のネタにしたのか?)

 エレーネ先輩は驚いているようだった。

 ラーファは何も反応しなかった。

 もしかしたら、すごい怒ってるのかもしれない。


『ミディとラーラは、ルーイ夫妻の看病を懸命に行った。

 だが、2人には限界寿命が迫っていた。

「ラーラ、私達がいなくなっても、ミディと2人で仲良くやっていくのよ。」

「ヤダ、お母さん、そんなこと言わないで。」

「そうだよ。

 2人にはもっともっと長生きしてもらわないと・・・」

「本当は2人が大人になるまで見守りたかったんだけどね。」

「嫌だ、そんなこと言わないで・・・」

「そうだよ。そんなこと言わないでよ・・・お母さん。」

「えっ!?」

 ルーイ夫妻は、驚いた表情で、ミディの方を見る。

 すると、ミディは、

「お願いだから、もっともっと長生きしてよ、お父さん、お母さん。」

 気がついたら、ミディは、ルーイ夫妻に向かって、お父さんお母さんと叫んでいた。

 自分でもよくわからない。

 でも、感情が溢れて来て・・・気がついたら、そう呼んでいた。

「ミディ・・・」

「2人はもう、私にとってお父さんとお母さんなんだよ。

 お願いだから、私をまた1人にしないで。」

「ミディ、ありがとう。」

「せっかくミディが、私達のことをお父さんお母さんと認めてくれたんだ。

 頑張って長生きしないとな。」

 ミディの言葉に、ルーイ夫妻は涙を流して喜んだ。

「ありがとう、ミディ。

 これで、私の夢がかなった。」

 ラーラはそう言って、ミディを抱き寄せる。

「ラーラ。」

「これからは、ミディは私の妹よ。」

「ウン、ラーラお姉ちゃん。」


 ミディとラーラは向かい合って、熱いキスを交わした。

 こうして、ミディはルーイ夫妻の家族になり、ルーイ一家は限界寿命を迎えるその時まで、幸せな時間を過ごしたのであった。

 おしまい。』


 人形劇が終わると、会場から凄まじい拍手が沸き起こった。

 正直、こんなに拍手が起こるような内容なのか、私にはわからない。

 でも、後から聞いた話によると、限界寿命が迫る家族が1つになっていく話に、胸を打たれたって人が多かったらしい。

 確かに、私も色々考えさせられた。

 レームおじさんとラヴィおばさんにも、限界寿命が迫っている。

 やっぱり、私も人形劇みたいに、2人のことをお父さんお母さんって呼んだ方がいいのかなとか・・・

 でも、その前に、どうしても1つだけ言いたいことがあった。


(なんで、最後、私とラーファがキスしてるの?

 どう考えてもおかしいでしょ。)

 最後のシーンを見て、思わずルティアで叫んでしまった。


「どうでした、私の人形劇は?」

 公演が終わった後、アイが恐る恐る私達の元にやってきた。

 恐る恐るということは、多分、アイもラヴィおばさんの病気ネタはマズイとは思っていたのだろう。

 あのシーン以降、ラーファは無口になったけど、やっぱりラーファ怒ってるのかな?

 でも、ラーファは笑顔を浮かべると、

「ウン、よかったよ。」

 アイに向かって、そう言った。

 これには、アイもエレーネ先輩も驚いていた。

「なあ、ラーファ、おばさんの病気の話はいいのか?」

 エレーネ先輩がラーファに尋ねる。

「この話って、お母さんが倒れる前に考えた話なんでしょ?」

 ラーファがアイにそう聞くと、アイは小さく頷く。

「一応、ラヴィおばさんにも確認したんですけど、気にすることないって言ってくれたので・・・」

「わざわざ、お母さんに確認まで取ったの?

 そんなことしなくてもよかったのに・・・

 大丈夫よ、アイ、私は気にしてないから。」

 ラーファがそう言うと、アイは安堵した様子を浮かべた。

 そして、アイは私の方を見て、

「それで、どうだった、ミディア?」

 私に感想を聞いてきた。


(用語集)


(1)イデアグラル

毎年秋にリーブルガルトで開催される最大のイデアイベント

イデアに関する作品であれば、魔導士・空想士といったプロから、学生や一般人まで、誰もがイデア作品を出展できる

近年は応募者が多いため、厳正な審査で出展者が決められている


(2)イデア

様々な用途で使用される魔法媒体のこと。

マーシャントの情報を記録する性質を利用している。

ミディア達が使うイデアは、主に映像を記録した映像イデアのことを指す。


(3)イデアルディ

イデアルディは、何も描かれていない人型をした小さな人形のことである。

術者が魔法で、イデアルディにイメージを注入することで、色んなキャラクターに変化させることができる。

空想士を目指す人達は、空想力を鍛えるために、イデアルディを使うことが多いと言われてる。


(4)イデアトゥア

イデアを使った仮想空間技術

空間そのものを、別の仮想空間に作り上げるための技術である

高度な技術を持つ空想士によって作られることが多い


(5)ルティア

意識間での意思伝達を行なう魔法。

意識は魂が体に憑依した時にできるものなので、魂から直接使うことも可能である。

本来はテレパシーだけの魔法だけだったが、最近では拡張されて仮想の魔法世界に意識を転送する魔法としても使われる。

魔法世界は個々の街や国単位で持っており、ラーヴォルンの場合はラヴォルティアという魔法世界が存在する。


(6)限界寿命

平均的な魂強度を持つ人間の魂が消費するマーシャント量と、現在のアトゥアのマーシャント量の変化を元に計算された人間が生きられる寿命年齢のこと

魂強度の個体差によって、寿命に若干のばらつきがあるが、計算精度はかなり高い。


(7)リーブルガルト

ラーヴォルン北街の中央にあるイベント施設

様々なイベントで使用されることが多く、最近ではハ―メルトンのコンサートでも使用された。

アトゥア最大のイデアトゥア施設を備えているため、イデアに関するイベントや学術研究等でもよく使用される。


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