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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
95/254

49.突然の訃報とそして・・・

<<ミディア>>


 あの事件から数日が経った。

 ヴィルトワさんの話によると、あの日、琴音とヴィルトワさんの前に、琴音を攻撃した敵が姿を現したらしい。

 もっとも、ラーファの体に憑依していたらしく、その正体については全くわからなかったらしい。

 敵は今後は琴音を攻撃しないと言ったらしい。

 もしかしたら、琴音を連れてきている覆面のおかげなのかもしれないけど、詳細はよくわからない。

 でも、もう攻撃を受けなくて済むんだから、もう少し琴音も喜んでもいいものだけど、あまり嬉しそうじゃなかった。

 それどころか、その時の話について、琴音は私達に一切話してくれない。

 心なしか、少し怯えているようにすら思える。

 でも、そうだとしたら、一体何に?


「ミディア、準備できた?」

 ラーファが部屋に入ってくる。

 ラーファはもうすっかり元気になっていた。

 でも、あの時のことは、全然覚えていないらしい。

 マーシャント干渉のことも覚えていないかどうか聞いてみたかったけど、そうするとまたラーファが真っ青になって飛び出してしまうかもしれない。

 こないだの一件で、私達は記憶喪失事件で失っていた記憶を、ほぼ完全に取り戻していた。

 だから、エレーネ先輩もアイも、マーシャント干渉については、今後一切ラーファの前では話さないようにしようと話していた。

 一体、ラーファが何を怯えているのかわからないけど、あんなラーファはもう見たくないからね。

「準備できてるよ。」

 私はそう言って、ラーファと一緒に部屋を出る。

 階段を降りると、下ではレームおじさんとラヴィおばさんが喪服を着て待っていた。

 そして、私とラーファも、喪服を着ていた。

 そう、今日はこれからみんなでお葬式に出かけることになったのだ。


「とうとうフリージアさんも亡くなっちゃったか。」

 レームおじさんがため息混じりにそう言う。

 フリージアさんは、最近、何かと話題に出てくるリリムさんのご両親だ。

 実は、昨日、ラヴィおばさんの元に、リリムさんのご両親が亡くなったと言う連絡が入った。

 私はリリムさんにもそのご両親にも会ったことはないけど、ラーファ達は色々と親交が深かったらしい。

 そんなわけで、今日は学校を休んで、みんなでお葬式に参列することになった。

 アトゥアの限界寿命はどんどん低下していて、今では48歳まで下がってしまった。

 そして、リリムさんのご両親は、今年48歳だったらしい。

 つまり、限界寿命が来て、亡くなったってことなんだろう。

 こういうことがあると、嫌でも考えてしまう。

 ラーファの両親は、今年42歳。

 あと数年で、ラーファの両親も・・・


「ミディア、行くわよ。」

 ラーファに声をかけられて、ハッと我に返る。

 ダメだ、こんなことを考えちゃ。

 だって、ラーファの両親は、今はまだ生きているんだから。

 今は、毎日楽しく生活することだけを考えよう。


 私がお葬式に出るのは、3年前の両親のお葬式以来だ。

 もっとも、両親のお葬式の時のことは、私はあまりよく覚えていない。

 なぜなら、あの時は、私自身記憶をなくしていたから、精神的にそれどころではなかったというのもある。

 お父さんとお母さんのお葬式と言われても、肝心の2人の記憶が全くないわけで、どうしたらいいのか途方にくれていたのを覚えている。

 あれから3年、お葬式に出席したことは全くなかった。

 でも、レームおじさんやラヴィおばさんが葬式に出かけるのは、よく見かけた。

 2人の同級生だったり、お世話になった人達のお葬式だったらしい。

 2人が葬式に出かけるたびに、いつもラーファの表情が曇るのが印象的だった。

 やっぱり、気にするなという方が無理な話だ。


 ラーヴォルンは観光都市で、毎日大勢の観光客が訪れる。

 だから、お葬式を開くのは、中心街からかなり外れた場所にある大きな葬儀場と決まっていた。

 私達は、普段はあまり通らない道を歩いて、葬儀場に向かう。

 葬儀場には大勢の人が来ていた。

 その中には、エレーネ先輩やアイの姿もあった。

 エレーネ先輩は、号泣していた。

「エレーネ、フリージアさんにとても懐いてたからね。」

 そう言うラーファの目にも、涙が溢れていた。

「ラーファもちゃんとお別れして来たら?」

 私がそう言うと、ラーファは涙を拭って、小さく頷いた。

 そして、エレーネ先輩のところへと向かって行った。


「やっぱり、ミディアも来ていたんだ。」

 喪服に身を包んだアイが、こちらにやってくる。

「ウン、アイも来てたんだ。」

「私はリリム先輩と面識がないんだけどね。

 私のお父さんが、フリージアさんにお世話になっていたらしくてね。」

 リリムさんのご両親は、イデア関連のアイテムのお店を経営していて、空想士のアイのお父さんは色々とお世話になっていたらしい。

「私も面識はないんだけど、ラーファとエレーネ先輩が、色々とお世話になったみたいだからね。」

 ラーファやエレーネ先輩が尊敬していたというリリム先輩のご両親。

 最近はあまり会うことがなくなったけど、昔はしょっちゅうリリム先輩の家に遊びに行ってたらしい。

 リリム先輩が卒業して、モンフェルンに行ってしまってからも、2人はよく遊びに行っていたらしい。

 きっと2人にとっては、もう1人のお父さんとお母さんみたいな存在だったんだろう。

「実はね、私のお父さんも、さっきまで号泣してたんだよ。

 あんなお父さん、初めて見た。」

 アイが少し苦笑しながらそう言った。

 アイのお父さんといえば、私達に怖い映像とか見せて喜んでいる変な人だった。

 アイにも、よく変態的なことを言って、怒られている、かなり変な人だった。

 そんな人が、人目も憚らずに号泣している姿を見て、アイは驚いたという。

「とても、人望がある人だったんだなあ。」

 私もアイも、大勢の弔問客を見て、そう思った。

 ただ、一つ気になることがあった。

 いや、それは多分、私だけでなく、葬式に参列しているみんなが思っていることだと思う。

 それは、この葬式に、娘であるリリム・フリージア・モンフェルンの姿がないことだった。


 葬式が終わった後、私はいつもの4人で帰路についていた。

 ラーファのご両親は、話があるので、もう少しだけ残るとのことだった。


「どうやら、リリムさんとは連絡がつかなかったらしい。」

 エレーネ先輩がそう教えてくれた。

 エレーネ先輩の話によると、リリムさんは今は考古学者で、アトゥア中に探索に出かけているらしい。

 だから、今もどこかに探索に出かけているんじゃないかという話だった。

「自分の両親が亡くなったってのに、帰ってこないなんて・・・

 私だったら、どんな状況でも絶対に帰ってくるよ。」

 アイが、強い口調でそう言った。

 アイにとっては、両親の葬式に出ないなんてことは考えられないことなんだ。

「それはそうと、お2人とも、きちんとお別れできましたか?」

 アイがさっきまで遺影に向かって号泣していたラーファとエレーネ先輩に尋ねる。

「ええ、ちゃんと挨拶して来たわよ。」

 ラーファはそう言って、ニコッと笑う。

「私も挨拶してきたけど・・・ちょっと気を抜いたら、また泣きそうになる。」

 一方、エレーネ先輩は、まだ目を潤ませていた。

「でも、いつまでも泣いてたら、フリージアさんに怒られちゃうからな。」

 エレーネ先輩はそう言って、自分の両頬を手で軽く叩く。

「じゃあ、私の部屋にでも来ますか?

 多分、もうすぐ琴音も来るだろうし。」

「そうだな、じゃあ、着替えたら、すぐにミディアの部屋に行くよ。」

 私達は遊ぶ約束をしてから、一旦別れることにした。


 私は、ラーファと一緒にルーイエ・アスクに戻っていた。

 帰り道、ラーファはほとんど何も話しかけてこなかった。

 やっぱり、リリムさんのご両親が亡くなって、ショックなのだろうか?

 そう思っていた時だった。

(ミディア・・・聞こえるか、ミディア?)

 頭の中に、人の声が聞こえてくる。

 この声は、エレーネ先輩の声だ。

 ルティアという魔法を使って、私にテレパシーで呼びかけて来たのだ。

(エレーネ先輩、何ですか?)

(おお、繋がった。

 こないだ魔法検定で合格したばかりだから、少し心配だったよ。)

 エレーネ先輩はそう言って苦笑する。


 先日、私は繰上げ検定を受験して、何とか合格することができた。

 正直、受験前はドタバタしていたので、ヤバイかもと思っていたんだけど、なせばなるものだと思った。

 その時、受験して合格した魔法が、このルティアだった。

(大丈夫ですよ。

 今の私は、ラヴォルティアにだって行けますよ。)

 ラヴォルティアとは、魔法空間に作られた仮想都市のことだ。

 ラヴォルティアには、自分の意識をルティアで飛ばして行くのだが、色々とあって、まだラヴォルティアには行けてない。

 今度、みんな一緒にラヴォルティアで会おうと話してるんだけど、昼間は琴音がいるし、琴音を1人だけにしちゃうのもかわいそうだから、やるとしたら夜かな。

(でも、ラヴォルティアはまた今度な。

 それより今は、ラーファのことが聞きたいんだ。)

 エレーネ先輩は、やっぱりラーファのことを気にしているようだった。

 私達はマーシャント干渉の方にばかり気を取られていたけど、もしかしたらリリムさんの方にも何かあるのかもしれない。

 エレーネ先輩はそう思っているようだった。


(大丈夫・・・と言いたいところですけど、行く前は少し緊張していたみたいでした。

 今は、いつものラーファですけど・・・)

 隣を歩くラーファを横目でチラリと見ながらそう答える。

(そっかあ、実は少し心配していたんだ。)

 エレーネ先輩はホッとした口調でそう言う。

(ラーファも、私と同じで、リリム先輩のことを、すごく尊敬してたし、大好きだったはずなんだよ。

 でも、もしかしたら、私の知らないところで、何かあったのかもしれないなあ。)

(とりあえず、今は何事もないようで、よかったです。)

(じゃあ、着替えたら、すぐに遊びに行くからな。

 琴音も来ているだろうし、こんな日は思い切り遊ぶに限る。)

(そうですね。)

 エレーネ先輩の言う通りだ。

 なにもしなかったら、きっと悲しいことばかり考えてしまうに違いない。

 葬式の後で、限界寿命のことを考えるなって言う方が無理だし。

 お昼には琴音も来るし、今日は思い切り遊ぼう。


 家に戻って、昼食をとっていると、琴音がやってきた。

「ミディアちゃん、ラーファちゃん、こんにちは。」

 琴音は今日も元気一杯だ・・・と言いたいところだけど、あの日以降、何か少し変な気がする。

 何が変かと聞かれても困るけど、強いて言うなら、なんか無理して明るく振舞っているって感じがする。

 敵の攻撃の心配がなくなったのに、もしかして何か別の悩み事でも抱えているのだろうか?


「ところで、今日は学校なかったの?」

 琴音が私に尋ねてくる。

 確かに、いつもであれば今は学校から帰ってくる時間だ。

 それに、壁に掛けている喪服も、琴音は気になっているようだった。

 昼食を取りながら、私は午前中にリリムさんのご両親のお葬式に出かけていたことを話した。

 でも、リリムさんの名前が出てきた瞬間、琴音の表情に緊張が走った。

「それで、ラーファちゃんは大丈夫だったの?」

 やっぱり、琴音もラーファのことを気にしているみたいだった。

「少し緊張してたみたいだったけど、大丈夫だったよ。」

「そう、よかった。」

 琴音はそう言って、ホッと胸を撫で下ろした。


「やっほー、ミディアいる?」

 とそこに、突然、アイが乱入してきた。

「もう、今昼食中だよ。」

「どうやら、そうみたいだね。」

「食べ終わるまで、琴音と話でもしててよ。」

 私はそう言って、昼食を続けようとした。

 でも、アイは首を横に振った。

「それがさ、ヴィルトワさんに借りてた視力と聴力を返しちゃったから、今は琴音の姿が見えないし、話すこともできないんだよね。

 琴音って、もう来ているの?」

「ウン、私の隣に・・・」

 とその時、琴音の表情が真っ青になっていることに気づく。


「どうしたの、琴音?」

「まさか、ヴィルトワさんが言ってたことって・・・」

 どうしたんだろう、琴音の様子がおかしい。

「もしかして、エレーネちゃんも視力と聴力を?」

 琴音が私に尋ねてくる。

 私がそのままアイに尋ねると、アイはウンと頷いた。

 それを見て、琴音はさらに真っ青になった?

「琴音?」

「ヴィルトワさんは・・・もしかして、私を孤立させるつもりじゃ・・・」

 琴音はかなり怯えているようだった。

 まさか、ヴィルトワさんがそんなことをするはずがない。

 琴音が言ってたことをアイに話すと、アイも同じことを思ったようで、

「違うよ。

 さすがのヴィルトワさんも、長い間、他人に視力と聴力を貸すのは疲れるらしくて、一旦返して欲しいって言われただけだよ。

 イデアグラルの日には、また貸してくれるって言ってたから。」

 アイがそう言うと、琴音は少しホッとしたようだった。

「それにしても、他人に視力と聴力を貸すって、どんな感覚なんだろう?」

「さあ、見当もつかないわね。」


 それから食事を終えて、しばらくするとエレーネ先輩もやってきて、ようやくいつものメンバーが揃った。

 でも、午前中にお葬式があったこともあって、いつもと違い、部屋の空気がいつもより少し重たかった。

「それはそうと、もうすぐ魔法研修よね。」

 ラーファが何とか明るくしようと、魔法研修の話を持ち出してきた。

 魔法研修は、他の学校に行って、共同で魔法訓練を行う1年に1回のイベント。

 でも、普段ラーヴォルンの外に出ることのない私達にとっては、貴重な旅行イベントでもあった。

 しかも今年の魔法研修は首都モンフェルン。

 リーヴァ王国の中で最も大きな都市で、ラーヴォルンに匹敵するほどの様々な観光スポットがある街だ。

 だから、学校でも、みんな研修内容そっちのけで、自由時間にどこに遊びに行こうなんて話をしている生徒が多かった。

「これで、魔法検定さえなけりゃなあ。」

 エレーネ先輩が苦笑しながらそう言う。

 魔法研修期間は、研修時間以外は比較的自由に過ごせる。

 でも、研修期間最後の日に、魔法検定が行われるため、それが気になって、ほとんどの人は自由時間も修行や勉強をする羽目になる。

 もっとも、今年はモンフェルンだから、どうなるかわからないけど・・・


「そう言えば、もうグループは決まったの?」

 ラーファが私に尋ねてくる。

 魔法研修はグループで行動する。

 学年と研修レベルが近い人達で、学校側がランダムで決定するため、私達は同じグループになることを祈るしかない。

 でも、今年は私とアイの祈りは通じたようで、

「今年は私達は同じグループに入れたよ。」

 アイが嬉しそうにそう言った。

 その一方で、ラーファは大きなため息をつく。

「私達は、またしても別の班よ。」

「本当、私達は同じグループにならないよな。」

 どうやら、ラーファとエレーネ先輩は別のグループに振り分けられたらしい。

 私が魔法研修に参加するのは、これが3回目だけど、2人が同じグループになったところを一度も見たことがない。

 2人に話を聞いたら、同じグループになったのは、どうやら5年前が最初で最後らしい。

「あの時、ようやく同じグループになれて、大喜びしたはずだったんだけどなあ。

 魔法研修で大ゲンカしちゃってなあ。

 もしかしたら、あれが原因で同じグループに入らないように操作されてるのかもね。」

 エレーネ先輩が苦笑する。

 それにしても、ラーファとエレーネ先輩が大ゲンカとは珍しい。

 一体、何があったんだろうか?

 でも、そのことを聞こうとしたら、

「その話はやめて。」

 ラーファが強く拒否したので、それ以上何も聞けなくなってしまった。

 エレーネ先輩も、それ以上何も話そうとしなかった。


 なんだろう、この感じ?

 まるで、あの時と同じ緊張感だ。

 もしかして、これも触れてはならない過去なのかな?

 再び部屋の空気が重くなった。

 琴音は心配そうに、辺りをキョロキョロしていた。

 あの日以降、琴音はラーファのことを異様なまでに気にするようになっていた。

 確かに、琴音の言う敵にラーファは囚われていたらしいので、心配するのもわかるけど・・・

 でも、少し過剰すぎると思った。

 琴音は、自分の発言で、ラーファが少しでも反応すると、すぐに謝罪していた。

 これには、ラーファも困っているようで、

「最近の琴音、なんか変じゃない?」

と言ってくるほどだった。

 そして、今はどうしたらいいのかわからず、ひたすらオロオロしていた。


「魔法研修もいいですが・・・その前に何か大きなイベントを忘れてませんか?」

 静寂を破ったのは、アイだった。

「おお、そう言えば、もうすぐイデアグラルだったな。」

 アイの話題に、エレーネ先輩が乗っかろうとするが、どこかぎこちない。

「え、えっと、イデアグラルって何だっけ?」

 琴音はと言うと、以前聞いたイデアグラルに関する質問で、話の流れを変えようと必死だ。

 ラーファのことを気にかけてくれるのはいいことだけど、これじゃなんか腫れ物扱いだよ。

 でも、さっきみたいに、ラーファが何に反応するかわからない以上、こうなってしまうのは仕方のない流れなのかもしれない。

 もしかしたら、5年前のケンカってのも、リリムさんやマーシャント干渉と何か関係があるのかもしれないけど、あまりにもNGワードが多すぎるよ。


「ミディア、イデアグラルは絶対見に来てよ。」

 アイが私にそう言ってきた。

 アイは何とか空気を変えようと必死に話を盛り上げようとしていた。

「当日は、みんなで見に行くからね。」

 私がそう答えると、アイはニコッと笑った。

「ところで、アイってイデアグラルには何を展示する予定なの?」

 ラーファがアイに尋ねる。

 どうやら、いつものラーファに戻ったようで、みんなホッと胸をなでおろしたようだ。


 そして、安心したからか、話の内容が自然とアイの展示物の方へと向かう。

「私、特別区画以外の展示物が想像できないよ。」

「失礼な、私にだって、全年齢対象の展示物ぐらい作れるってーの。」

「ハイハイ、それで、今回は一体どんなものを展示する予定なのかな?」

 エレーネ先輩がそう尋ねると、アイは自信満々に答えた。


「今回の私の出展作品は、人形劇だよ。」

「えっ!?」

 全員が驚いていた。

 まさか、アイが人形劇をやるなんて、誰も思ってなかったのだろう。

「人形劇ってことは・・・まさか、イデアルディを使うのか?」

 エレーネ先輩がアイに訊ねると、アイはウンと頷いた。

 イデアルディは、普段は何も描かれていない人型をしたただの小さな人形だ。

 でも、術者が魔法で、イデアルディにイメージを注入することで、イメージ通りのキャラクターに変身させることができる。

 空想士を目指す人達は、空想力を鍛えるために、イデアルディを使うことが多いって言われてる。

 もしかしてアイ、本気で空想士を目指す気になったのかな?

「人形劇の舞台である仮想空間の作成は、さすがにお父さんに頼んだけど、それ以外は全部私がやるんだよ。」

「えっ、やるって、もしかして・・・」

「そりゃあ、人形劇だし、その場で実演するしかないでしょ。」

 まあ、言われてみればそうなんだけど、大勢のお客さんの見ている前で実演とか、アイって意外と勇気あるなあ。

「一応、朝に1回、昼に2回公演する予定。

 さすがにそれ以上は、私の集中力が持たないからね。」

「いやあ、でも、すごいよ。

 絶対にみんなで見に行くからな。」

 エレーネ先輩も、アイに感心していた。

 私もアイのことはすごいと思った。

 でも、どうしても、一つだけ気になることがあった。


「ところで、アイがやる人形劇って、どんな内容なの?」

 そう、人形劇の話の内容が、どうにも気になって仕方がなかった。

 アイのことだから、いやらしい話になってないといいんだけど・・・

 でも、私が訊ねると、なぜかアイはニコッと笑って、私の方に近づいてきた。

「今回の人形劇ね、実はミディアに見てほしくて作った話なんだ。」

「えっ!?」

「だから、絶対に見に来てね。」

 アイはそう言って、ニコッと笑った。

 私に見てほしい話って、一体何だろう?

 でも、アイがそこまで言うのであれば、これは期待してもいいのかな?


「おい、どうした!!!」

 突然、下の方から大きな声が聞こえてきた。

 これはレームおじさんの声だけど、いつもとなんか様子が違う。

「一体どうしたの?」

 ラーファが慌てて部屋を飛び出していく。

 一体どうしたんだろう?

 少し不安に思い、私も部屋を出ようとした時だった。


「お母さん、お母さん!!!」

 ラーファの悲鳴に似た声が聞こえてくる。

 これはただ事ではないと思い、慌てて1階に下りると、ラーファが倒れているラヴィおばさんを抱きかかえていた。

「ラーファ・・・ラヴィおばさん、どうしたの?」

「わからない・・・突然、倒れたって・・・」

 ラーファはラヴィおばさんを抱きかかえたまま、茫然としていた。

「すぐに病院だ。」

 レームおじさんが、すかさず病院に連絡を入れる。

「まさか・・・お母さん・・・」

 ラーファが今にも泣きそうな表情で、そう呟く。

 午前中のお葬式のことが、嫌でも頭に浮かんでくる。

 でも、レームおじさんもラヴィおばさんも、まだ42歳だよ。

 限界寿命までには、まだ時間があるはずだよ。

 でも、冷静に考えたら、全員が限界寿命まで生きられるなんて保証は、どこにもないんだ。

 限界寿命は、平均的な魂強度を持つ人間の魂が消費するマーシャント量と、現在のアトゥアのマーシャント量の変化を元に計算された寿命年齢で、かなり精度が高い。

 でも、実際には、魂強度の差によって、寿命に若干のばらつきがあるって話を聞いたことがある。

 それに、限界寿命は、あくまで怪我や病気にかからなかった人間が生きられる年齢の目安でしかない。

 だから、もし病気にかかっていたとしたら、限界寿命よりも先に死ぬ可能性だって十分あるわけで・・・


 さっきから、最悪の考えばかりが、頭の中を流れていた。

「ミディアちゃん、大丈夫?」

 琴音が、私に声をかけてくれてたけど、私の頭の中までは届いてこなかった。

 倒れているラヴィおばさんに、ラーファはすがりついて泣いていた。

 でも、私は・・・ただただ呆然とその光景を見つめ続けていた。

 おばさんが倒れて、大変なことになっているのに・・・私は泣くこともなく、その場に立ち尽くしていた。


(用語集)

(1)マーシャント干渉

マーシャントに記録した情報を読み取るための魔法群の呼称

マーシャント干渉のカテゴリには複数の魔法が存在するが、どれも非常に難易度が高い。

軍事的利用以外では、考古学者が遺跡や地層の残留マーシャントの情報を読み取るために使用する。

他人の思考を読み取ることができるため、一般人が使う場合には用途が厳しく限定されている。


(2)イデア

様々な用途で使用される魔法媒体のこと。

マーシャントの情報を記録する性質を利用している。

ミディア達が使うイデアは、主に映像を記録した映像イデアのことを指す。


(3)モンフェルン

リーヴァ王国の首都

ラーヴォルンから北東に約800km離れたところにある内陸の街

王国政府や中央議会、王国軍の施設や魔法施設や産業施設など、ありとあらゆる機能が集まっている

海からは遠いが、近くに大きな湖がある


(4)ラヴォルティア

ラーヴォルンが用意した仮想空間

ラヴォルティアに意識だけを転送することで、実際に会わなくてもいつでもコミュニケーションが取れる

ミディアがまだ使えないので、ラーファ達はあまり使っていない。


(5)イデアルディ

イデアルディは、何も描かれていない人型をした小さな人形のことである。

術者が魔法で、イデアルディにイメージを注入することで、色んなキャラクターに変化させることができる。

空想士を目指す人達は、空想力を鍛えるために、イデアルディを使うことが多いと言われてる。


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