表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
94/254

48.敵の目的と新しい謎

<<琴音>>

 確かに、聞きたいことはたくさんある。

 でも、まずはラーファちゃんの無事を確認するのが先だ。

「ねえ、ラーファちゃんは無事なの?」

 私が訊ねると、ラーファちゃんもどきは怪しい笑みを浮かべながら、

「ええ、この子なら大丈夫よ。」

 そう言った。

「あなたじゃなくて、本物のラーファちゃんだよ。」

「あら、この体は、本物のラーファの体よ。

 今は私がこの子の体を借りてるだけってこと。」

 つまり、ラーファちゃんの体に、覆面2号が憑依しているってこと?

 覆面2号にラーファちゃんの憑依を許すとか、覆面は一体何をやってるんだろう?

 まさか、覆面2号と戦って負けたとか・・・

 それは、私が考えられる中でも、最悪の事態だ。

(ねえ、覆面・・・一体どうなってるの?)

 私は頭の中で覆面に向かって念じる。

 だが、覆面からの応答は全くなかった。

(そんな・・・まさか・・・)

 もし、目の前の敵が、覆面を倒すほどの化け物だとしたら、私にできることなんて何もない。

 いや、まだ覆面が倒されたと決まったわけじゃない。

 ここは冷静に話を切り出さないといけない。


「覆面と・・・会ったんですか?」

 私がそう聞くと、ラーファちゃんもどきは怪しい笑みのまま小さく頷く。

「ええ、会ったわよ。

 お前の覆面とは話がついたから、こうして姿を現したのよ。」

「話がついた?」

「ええ、覆面から色々と話は全て聞かせてもらったわ。

 おかげで、色々と収穫があった。」

 えっ、まさか、覆面と話をしただけなの?

 覆面は相当激怒していて、攻撃する気満々だったような気がするんだけど・・・

 さっきから覆面からの応答がないし、本当に信じていいのだろうか?


「話している間、時間を止めていたからね。

 お前達にとっては、一瞬でしかなかったと思うけど・・・」

「時間を止めてただと!?」

 話を聞いていたヴィルトワさんが驚いた表情を浮かべる。

「そんなに驚くことないでしょう?

 まあ、そんなわけで覆面とは無事に話がついて、こうやってお前達と話をしているってわけよ。」

「覆面はどうしたの?」

 私が訊ねると、ラーファちゃんもどきがクスッと笑う。

「まさか、覆面のことが心配なの?」

「心配というかなんと言うか・・・」

 私は覆面によって、意識だけがラーヴォルンに来ている状態だ。

 だから、もし覆面が死んでたりしたら、私の意識は地球に戻れずに、ずっとラーヴォルンに残ったままになってしまう。

 冷静に考えたら、もしかして、今って、私にとってすごい危機的な状況なのでは?

「もしかして、私が覆面とバトルでもしてたと思った?

 まあ、向こうは相当怒ってたけどね。

 大丈夫、覆面とは平和的に話をしてただけだから。

 でも、今は、覆面には琴音に話しかけないようにお願いしてるのよ。」

「一体、何のためにそんなことを?」

 私がそう訊ねると、さっきまで怪しい笑みを浮かべていたラーファちゃんもどきの表情から笑みが消える。

「それはね、琴音、あなたについて、私が色々と知りたいからよ。」


「私のことを知りたい?」

「そう。

 でも、琴音も色々と私に聞きたいことがあるでしょう?

 だから、まずは、先に私が琴音の話を聞いてあげるわ。

 今なら、あなたの疑問に、私が何でも答えてあげるわよ。」

 なんか、お悩み相談室みたいなノリになってきたな。

 でも、思ってたよりは、怖い人ではなさそうで。少しだけホッとした。

 じゃあ、答えてもらおうかな。

「どうして、私を攻撃したんですか?」

 私がそう訊ねると、ラーファちゃんもどきは無表情のまま、こう言った。

「それは、この子を守る必要があったからよ。」

「ラーファちゃんを守るため?」

「私には、とても大事な目的があってね。

 そのためにここにいるんだけど、私の目的達成のためには、この子を守る必要があったのよ。」

 覆面2号とラーファちゃんって、一体どういう関係なんだろう?

 アトゥア中を震撼させる凄まじい魔力を持っている人が、どうしてただの学生であるラーファちゃんを守る必要があるんだろう?

 覆面2号の目的って一体何なんだろう?

 なんだか、わけがわかんなくなってきた。


「あなたとラーファちゃんは、一体どういう関係なんですか?

 あなたの目的にラーファちゃんが何の関係があるって言うんですか?」

 考えても仕方がないので、ラーファちゃんもどきにぶつけてみることにした。でも、

「悪いけど、それについては答えられないわ。」

 ラーファちゃんもどきは、そう言って、答えることを拒否した。

 さっき、何でも答えるって言ってたのに・・・

 まあ、覆面も自分の目的を教えてくれなかったし、こういう答えが返ってくるんじゃないかとはうすうすは思ってたよ。

「でもね・・・これは、覆面と色々話をしてわかったことだけど・・・

 どうやら私は目的を達成することができたらしい。」

「はあ?」

 思わず変な声が出てしまった。

 覆面から話を聞いて、自分の目的が達成できたことがわかったって、この人の目的って一体何なんだろう?


「それで、他に質問は?」

 ラーファちゃんもどきが、怪しい笑みを浮かべて、私に訊ねてくる。

 ていうか、さっきの話はもう終わりなの?

 この調子だと、何を聞いても、さらっと流されていく感じがするなあ。

 でも、話を聞いた限りでは、ラーファちゃんはやっぱりこの人に利用されていただけみたいだ。

 それはそれで大変なことなんだけど、ラーファちゃんが私達を攻撃していないということは、これではっきりした。

 じゃあ、次の質問だ。


「ラーファちゃんは、どうしてマーシャント干渉の話をしたら、真っ青になったんですか?」

 私がラーファちゃんもどきに訊ねると、ラーファちゃんもどきは一瞬困った表情を浮かべる。

「それは、この子に直接訊ねたらどうかしら?」

「そんなこと・・・聞けるわけないでしょ。

 ラーファちゃんにマーシャント干渉の話をしただけで、真っ青になっちゃうし・・・

 それに、あなたまで動き出しちゃうでしょ?」

「・・・・・・」

「ラーファちゃんにマーシャント干渉の話をしただけで、どうしてあなたまで動くんですか?」

 私がそう言うと、ラーファちゃんもどきは、またしても少し困惑した表情になる。

「さっきも言ったでしょ。

 私の目的達成のためには、どうしてもこの子を守る必要があったのよ。」

「マーシャント干渉の話をしたら、どうしてあなたがラーファちゃんを守らないといけなくなるんですか?」

 私がそう尋ねると、ラーファちゃんもどきはため息を一つつく。

 そんなに話すことがはばかれるようなことなんだろうか?


「仕方がないわね。

 この子のプライベートな問題だけど、少しだけなら話してもいいかしら?」

 ラーファちゃんもどきはそう言って、何故かヴィルトワさんの方を見る。

「なぜ、俺に訊ねる?」

「フフフッ、わかってるくせに。」

「・・・・・・」

 ラーファちゃんもどきが怪しい笑みを浮かべるのと対照的に、ヴィルトワさんの表情がどんどん険しくなっていく。

 もしかして、ヴィルトワさんは全部知ってるの?

 前にも思ったけど、ヴィルトワさんとラーファちゃんって、一体どんな関係なんだろう?


「ねえ、琴音はマーシャント干渉について、どれくらい知ってる?」

「正直に言うと、どういうものなのか、全く知らない。」

「マーシャントについては?」

「そっちは大体知っている。」

 私がそう答えると、ラーファちゃんもどきは、マーシャント干渉について説明してくれた。


「マーシャントは命の源であり、魔法の源でもあることは知ってるわね。

 でも、それ以外にもマーシャントは、情報の記録という性質を持っている。

 例えば、魂には生まれてから死ぬまでの全ての行動が記録されているけど、これもマーシャントの性質が利用されていると言われている。」

「えっ、魂に全部記録されているの?」

 私が驚いた表情でそう言うと、ラーファちゃんもどきはニヤリと笑みを浮かべる。

「そう、あんなことやこんなことも、何もかも全部、魂には記録されるのよ。

 琴音はここの人間じゃないけど、魂は全ての生物で同じだろうから・・・」

「じゃあ、私の魂にも・・・」

「全部記録されているでしょうね。」

 最悪だ。

 じゃあ、私の魂には、過去のかなりダメな出来事も、バッチリと記録されているってことだ。

 もしかしたら、魂の色も澱んでいるかもしれない。

「過ぎたことを悔やんでも、魂の記録は消えないわよ。」

 そんなことはわかってるけど、この事実は知りたくなかった。


「話を続けるわよ。

 マーシャントは、周囲の情報を記録する性質を持っている。

 そして、マーシャント干渉は、マーシャントに記録されている情報にアクセスするための魔法。

 主に考古学者が、古い地層に残っている残留マーシャントの情報を読み取ったりために使う魔法よ。」

「そうなんだ。」

「でも、このマーシャント干渉は使い方を誤ると、とんでもないことになる。

 例えば、人間の魂は周囲のマーシャントを吸収している。

 この時、人間に強い感情が発生した場合、周囲のマーシャントにその感情が記録されることがある。

 もし、マーシャント干渉を使える者が、人間を対象にそれを使ったら、どうなると思う?」

「まさか、その人の魂の記録が全部読み取られてしまう?」

「さすがに、それはないわ。

 人間の魔法で、魂の記録を直接読み取ることは絶対にできない。

 でも、周囲のマーシャントの記録だったら、読み取ることはできる。

 感情が強ければ強いほど、マーシャントにはっきりと記録されて、読み取りやすくなる。」

「てことは・・・その人が今考えていることがわかってしまうってこと?」

「そういうこと。

 つまり、マーシャント干渉は、人のプライバシーを侵害しかねない危険な魔法ということになるわけよ。

 だから、マーシャント干渉を使う場合は、どの国でも厳しい審査を受ける必要がある。

 マーシャント干渉の用途についても、厳しく制限されている。」

「つまり、マーシャント干渉は、地層の残留マーシャントに対して使ってもいいけど、人間に対して使ってはいけないってこと?」

「そういうこと。」

 ということは、エレーネちゃんが提案した、私に向かってマーシャント干渉を使うってのはダメってことになるね。

 でも、それでどうして、ラーファちゃんが真っ青になって逃げだす必要が・・・

 とここまで考えて、私の脳裏にある考えがひらめく。

「まさか、ラーファちゃんは・・・誰かに、マーシャント干渉を!?」

 私が訊ねると、目の前のラーファちゃんもどきは小さく頷いた。

「そう、この子は、昔マーシャント干渉で、自分の思考を暴かれたことがあるのよ。」


 なるほど、そう言うことだったんだ。

 ラーファちゃんがなぜマーシャント干渉に怯えていたのか、ようやくわかった。

 どんな思考が暴かれたのかわからないけど、恥ずかしい思考とかだったら、確かにトラウマものだ。

 でも、一体誰がそんなことを?

 その時、エレーネちゃんが話していた人物の名前が頭に浮かぶ。

「まさか、ラーファちゃんにマーシャント干渉をかけたのって・・・リリムさんって人?」

 私が訊ねると、ラーファちゃんもどきの表情が険しくなる。

「そう、リリム・フリージア・モンフェルン。

 彼女がラーファにマーシャント干渉をかけたのよ。」


 つまり、マーシャント干渉だけでなく、リリムさんって名前が出てきたから、ラーファちゃんが真っ青になったんだ。

 リリムさんとマーシャント干渉のセットは、ラーファちゃんのトラウマ直撃だったんだ。

 でも、仮にそうだとしても、それで目の前にいるラーファちゃんもどきが、巨大魔法を使って私を攻撃しなければならないほどの出来事とは思えない。

 私がそう思っていると、

「琴音は思い出したくない記憶ってない?」

 ラーファちゃんもどきが私に訊ねてくる。

「そんなの、一つや二つじゃ収まらないよ。」

 私がそう答えると、ラーファちゃんもどきはクスッと笑う。

「人間なんて誰でもそうでしょ。

 思い出したくない記憶なんてたくさんある。

 でも、何かのきっかけで、嫌な記憶を思い出してしまうことだってある。」

「ラーファちゃんの場合は、リリムさんとマーシャント干渉が、そのきっかけだってこと?」

「そういうことよ。

 でもね、ラーファの場合は、単に嫌な記憶を思い出しただけでは済まないのよ。」

「えっ、それって、一体どういうこと?」

 一体、ラーファちゃんにどんな秘密があると言うんだろう?

 それがわかれば、この目の前の存在とラーファちゃんとの関係もわかるかもしれない。

 私は、ラーファちゃんもどきが続きを話すのを待っていた。でも、


「話はここまでよ。」

 ラーファちゃんはそう言って、一方的に話を打ち切ろうとしてきた。

「待って、こんな気になるところで話を止めないでよ。」

 でも、ラーファちゃんもどきは首を横に振る。

「残念ながら、これ以上は話せないわ。

 この子のためにもね。」

「ラーファちゃんのため?」

 そんなことを言われると、ますます気になる。

「あと、今の話は、ミディア達には話さない方がいい。」

「どうして?」

「話したら、きっとお前は後悔することになる。

 お前もラーファも、そしてミディア達も、みんなが不幸になる。」

「不幸になるってどういうことよ?」

 私が食い下がると、ラーファちゃんもどきはヴィルトワさんの方を見る。

「どうしても知りたかったら、そこにいるヴィルトワにでも聞くことね。」

「ヴィルトワさんに?」

「俺が話すとでも思っているのか?」

 ヴィルトワさんが、ラーファちゃんもどきを睨み付ける。

 でも、その様子を見たラーファちゃんもどきは、なぜか満足げに笑みを浮かべる。

「そうよね。

 ラーファのことを考えたら、話せるわけないわよね。」

 ラーファちゃんもどきがそう言うと、ヴィルトワさんの表情が一層険しくなる。

「どうして、貴様があの事を知っている!?」

「あなたも薄々は気づいているんでしょう?」

 ラーファちゃんもどきはそう言って、怪しい笑みを浮かべる。

「まさか、あの魔法術式か!?」

「そう、あれは私がやったことよ。」

 ラーファちゃんもどきがそう言うと、ヴィルトワさんは驚いた表情を浮かべる。


 さっきから、2人の会話の内容がさっぱり理解できない。

 ヴィルトワさんの言う「あの事」とか、「魔法術式」とか、後でヴィルトワさんに確認しないと・・・

 私は、わけがわからないまでも、2人の会話に出てきた重要そうなキーワードをしっかりと頭に叩き込んでいた。

 多分、ラーファちゃんもどきは何も教えてくれないだろう。

 だから、後でヴィルトワさんに聞くしかない。


「それにしても、あなた、よくこの子の前に平然と顔を出せたわね。

 あんな酷いことをこの子にしておいて。」

「ラーファに何かあったことは、守護人からの報告で知っていたからな。

 一度様子を見る必要があった。」

「久しぶりの再会はどうだった?

 この子は、あなたと再会して、気分が悪くなったみたいだけど。」

 ラーファちゃんもどきはそう言ってニヤリと笑う。

「俺は、ラーファに嫌われても仕方がない。

 それだけのことを、ラーファにしたのだからな。」

 一体、ヴィルトワさんはラーファちゃんに何をしたって言うのだろう?

 ヴィルトワさんと出会った時のラーファちゃんの様子は、明らかにおかしかった。

 人の顔を見て、気分が悪くなるなんて、よっぽどのことがあったに違いない。

「でも、この子の本当の気持ちはどうなんだろうね?」

「どういうことだ?」

「この子は多分、あなたのことを心の底から憎みきれていない。

 心の底から憎むことができたら、もっと楽になれただろうに。」

 さっきまで怪しい笑みをずっと浮かべていたラーファちゃんもどきだったけど、なぜかこの時だけは、少し悲しそうな表情を浮かべた。

 本当、この人は、ラーファちゃんの一体何なんだろう?

 この3人の間で、過去に一体何があったんだろう?

「貴様・・・本当に何者だ?」

 ヴィルトワさんがラーファちゃんもどきに訊ねる。

 すると、ラーファちゃんもどきの表情が、先程までの怪しい笑みに戻る。

 そして、ヴィルトワさんの隣で、2人の会話を聞いていた私の方に視線を移した。


「ごめんなさい、琴音。

 ついつい2人にしかわからないことを、熱く語っちゃって。

 退屈だったでしょう?」

「ウウン、そんなことは・・・」

「でも、これだけは言っておくわね。

 こんなことになったのは、琴音、全部あなたのせいよ。」

 突然、ラーファちゃんもどきが、そう言った。

 さっきまでと同じ怪しい笑みを浮かべているけど、心なしか少し眼光が鋭くなったような気がする。

「えっ、どういうこと?」

「あなたのせいで、今この子は危機的な状況にあるっていうことよ。」

「ラーファちゃんが?」

 確かに、さっき、ラーファちゃんは真っ青になって飛び出してったけど・・・

 でも、危機的な状況ってどういうこと?

 ラーファちゃんに一体何が起こってるって言うの?

 私がラーファちゃんに何をしたって言うの?

 リリムさんにマーシャント干渉を使ってもらおうとエレーネちゃんが言ってたことを話しただけじゃない。

 それで、なぜこんなに責められないといけないの?


「どうして、私のせいなんですか?」

 カチンと来て、気がついたら思わず声を荒げていた。

「琴音がラーヴォルンにさえ来なければ、こんなことにはならなかった。」

 ラーファちゃんもどきの顔から、笑顔は消えていた。

 眼光が一層鋭くなったような気がする。

「こんなことって、どういうことよ?」

「お前が来たことで、この子はトラウマを2度もえぐられる羽目になった。

 そして、ヴェルク帝国とガルティア帝国まで動いてしまった。

 お前さえ来なければ、こんなことにはならなかった。」

 ラーファちゃんもどきにそう言われて、私の中で何かがプツンと切れた。

「何でもかんでも人のせいにしないでよ。

 大体、ヴェルク帝国とガルティア帝国が動き出したのは、アンタが偽ラーヴォルンなんか作ったからでしょ?

 どうして、あんなことをしたのよ?」

「お前に直接攻撃できるんだったら、あんな面倒なことしないで、直接攻撃で済ませていたわよ。

 でも、私はお前に直接触れることができない。

 お前を連れてきている覆面を駆除することも考えたわ。

 でも、アイツの強さは一目でわかった。

 私が全力で戦っても、勝てるかどうかわからない。

 いや、そんなことよりも、私と覆面が全力で戦ったら、アトゥアが滅びかねない。

 それだけは避けないといけなかった。」

 アトゥアが滅びかねないって、覆面も覆面2号もそんなに強いのか。

 時間止めたり、偽ラーヴォルン作り上げたりしてるから、それくらいのことができても不思議じゃないけど・・・

 カッとしてたとはいえ・・・とんでもない人相手にキレてたんだな、私。


 ラーファちゃんもどきの強さを知り、さっきまでの怒りがスーッと引いていく。

 さすがにケンカを売る相手が悪い。

 そう思った。でも、

「要は、琴音がラーヴォルンに来たくなくなれば、問題は全て解決する。

 そう考えて、それで思いついた作戦が、あの偽ラーヴォルンだった。」

 このラーファちゃんもどきの発言で、再び私に怒りスイッチが入ってしまった。

「だから・・・ミディアちゃん達にあんなひどいことをしたの!?」

「ひどいことって、たかがコピーでしょ。」

「たかが・・・コピーだと・・・ふざけんな!!!」

 気がついたら、私は大声で怒鳴りまくっていた。

 コイツにとっては、たかがコピーだったかもしれない。

 でも、例えコピーであっても、あのミディアちゃん達は、本物と同じだった。

 本物と全く同じように、私に話しかけて来てくれた。

 私にとっては、本物のミディアちゃん達と、全く同じだった。

 そんなにミディアちゃん達に、あんな残酷なことが平気でできるなんて・・・

 コイツは、私達と同じ人間じゃない。

 途中から、涙がこぼれてきて・・・それでも、私は怒鳴り続けた。

 いつしか、声を発しているのは、私だけになっていた。

 ラーファちゃんもどきは、私の変貌ぶりに驚いていたみたいだった。


「気が済んだ?」

 しばらくして、怒鳴りつかれた私に、ラーファちゃんもどきがそう言ってきた。

「まだまだ、全然足りないよ。」

「そう。」

 ラーファちゃんもどきは苦笑する。

 この至近距離で、私の怒鳴り声を聞かされて、さしものラーファちゃんもどきも、心なしか疲れているように見えた。

「琴音、あなたは私のしたことを責めるけどね。

 あなたさえいなければ、こんなことにはならなかったのよ。」

「それ、さっきも言ってたけど、そんなのわからないでしょ?」

 でも、ラーファちゃんもどきは小さく首を横に振る。

「いいえ、あなたが来なかったアトゥアでは、この子はこんな目に合わなかったわ。」

「まるで見てきたみたいに言うね。」

「そうよ、あなたがいないアトゥアを私はずっと見てきた。」

「えっ!?」

 ラーファちゃんもどきの話に、思わず驚いた声を上げてしまった。

 私のいないアトゥアをずっと見てきたって、どういうこと?

 この人は一体何を言ってるんだ?


「でも、覆面と約束しちゃったからね。

 今後、私は、お前がラーヴォルンに来ることを、妨害しない。」

「えっ!?」

 意外な言葉に驚いた。

 覆面と約束したって言ってるけど、ラーファちゃんもどきは本当は納得してないみたいだ。

 それでも、約束を交わしたと言うことは、もしかして力関係は覆面の方が上なんだろうか?

「まあ、私の目的が達成されて、もうこの子に固執する必要もなくなったからってのもあるけどね。」

「自分の目的が達成できたから、もうラーファちゃんは用済みってこと?」

「まあ、そんなところね。」

 ラーファちゃんもどきはニヤリと笑いながらそう言う。

 そのラーファちゃんもどきのにやけ顔に、再び怒りMaxになった。

 でも、ラーファちゃんもどきは、私が怒っている姿を見ても、表情一つ変えることなく、私に話しかけてきた。


「ところで琴音、お前はこのアトゥアをどう思う?」

「とても素敵な世界だと思う。」

「ラーヴォルンに来て、お前はこのアトゥアで起こっていることを色々知ったはず。

 それでもなお、お前はアトゥアを素敵な世界だと思う?」

「ウン、そうだよ。」

 私がそう答えると、なぜかラーファちゃんもどきは溜息をつく。

「そう・・・じゃあ、お前はもうしばらく、ここでアトゥアの真実について知る必要があるわね。」

 アトゥアの真実を知るって、まだこれ以上、何かとんでもない真実があるとでも言うのか?

「そろそろこの子に体を返してあげないとね。

 これ以上は、この子の体力が持たないだろうから・・・」

 ラーファちゃんもどきの体が光り出す。

「じゃあね、琴音。

 またいつか、合いましょう。」

 スッとラーファちゃんの体から、何かが抜け出す。

 それと同時に、ラーファちゃんが倒れそうになる。

 でも、ヴィルトワさんが駆け寄り、意識のないラーファちゃんの体を支えた。

「ラーファちゃん、大丈夫?」

 大声でラーファちゃんに呼びかけてみるけど、ラーファちゃんからの応答がない。

 すぐに、ヴィルトワさんがラーファちゃんの容態を確認する。

「大丈夫だ、ラーファは意識を失っているだけみたいだ。」

「本当?」

「ああ、もう少ししたら、すぐに目を覚ますだろう。」

 よかった、ラーファちゃんが無事で。


 色々と話したけど、結局、覆面2号が何者で、何の目的でラーファちゃんを操ってたのか、わからないままだ。

 全部明らかにしてスッキリしたかったのに、モヤモヤ感がもっと増えた気がする。

 こうなったら、続きはヴィルトワさんに話を聞くしかない。

「ヴィルトワさん、さっきラーファちゃんもどきが話していたことって・・・」

 ヴィルトワさんにそう尋ねると、ヴィルトワさんの表情が険しくなる。

「アイツ・・・一体何者だ?

 アイツがどうしてあの時のことを?」

「ヴィルトワさん、過去にラーファちゃんに何があったか知ってるんですか?」

 私は思い切ってヴィルトワさんに訊ねてみる。でも、

「さあな。」

 ヴィルトワさんは、なぜかシラを切ろうとする。

 さっきの会話で、ヴィルトワさんが何か知っていることは明白なのに、なぜ隠そうとするんだろう?

 そう思ってたら、ヴィルトワさんが私に話しかけてきた。


「琴音、さっきアイツが話したことは、エレーネ達には話さないでくれ。」

「どうしてですか?」

「さっき、アイツも話してただろ。

 話したら、みんなが不幸になる。」

「私は・・・みんなに全部話すよ。」

 みんなに秘密を作るのも秘密にされるのも、もうこりごりだ。

 大体、ラーファちゃんに何があったのかもわからないのに、秘密も何もあったもんじゃない。

 でも、私がそう言ったら、ヴィルトワさんは今まで一度も見せたことのない鋭い眼光で、私を睨みつけてきた。

「もし、みんなにこのことを話すと言うのであれば、今から俺はお前の敵になる。

 俺の持てるすべての力を使って、お前をラーヴォルンから排除するため、攻撃を開始する。

 それでも話すか?」

 背筋に寒いものが走った。

 今まで男の人に、こんなにも直接的な敵意を向けられたことなんてなかったから、恐怖のあまり、私は何も言えなくなってしまった。


「琴音、ラーファ。」

 ミディアちゃんの声が聞こえてくる。

 どうやら、ヴィルトワさんが魔法でみんなを呼んだらしい。

「ラーファ!!!」

 エレーネちゃんは、倒れているラーファちゃんを見つけると、慌てて駆け寄ってくる。

「大丈夫、気を失っているだけだ。」

 ヴィルトワさんがそう言うと、エレーネちゃんはホッとした表情を浮かべる。

「とりあえず、家まで運ぼう。」

 ヴィルトワさんはそう言って、ラーファちゃんをおぶさろうとするが、

「兄貴がおぶさったら、ラーファが恥ずかしがるだろ。」

 エレーネちゃんはそう言って、ヴィルトワさんの代わりにラーファちゃんをおぶさる。

 そして、みんなと一緒にルーイエ・アスクに向かって歩き出した。

「琴音も一緒に帰ろう。」

 ミディアちゃんが私に声をかけてくる。

「ウン・・・」

 帰り道、ミディアちゃん達は、私に何があったのかを聞いてきた。

 でも、ヴィルトワさんの敵意に満ちた表情が思い浮かび、結局、私は何も話すことができなかった。


(用語集)


(1)マーシャント

マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。

生命や星は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。

地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。


(2)魂

すべての魂は、マーシャントから生まれてくる。

魂はそれぞれ独特の色を持っており、同一の色を持つ魂は存在しないと言われている。

色とは魂のマーシャントスペクトルを色で表したもので、単色ではなく複数の色を組み合わせたものであるが、わかりやすいからか、いつからか色と呼ばれるようになった。


(3)マーシャント干渉

マーシャントに記録した情報を読み取るための魔法群の呼称

マーシャント干渉のカテゴリには複数の魔法が存在するが、どれも非常に難易度が高い。

軍事的利用以外では、考古学者が遺跡や地層の残留マーシャントの情報を読み取るために使用する。

他人の思考を読み取ることができるため、一般人が使う場合には用途が厳しく限定されている。


(4)守護人

特殊な魔法により、意思を持った魔法。

大抵は術者の意識、魂の一部を魔法術式によって対象にかける。

対象に何らかの危機が訪れた場合に、守護人は発動する。

守護人は対象を脅威から守るために様々な行動を起こすが、実際にどういう行動を起こすかは守護人による。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ