47.来たるべき時が来た
<<琴音>>
「実はあの日、私はもう一つのラーヴォルンに行ってたんだ。」
「もう一つのラーヴォルン?」
ミディアちゃんが首を傾げる。
他のみんなも、私の言ってることがわからないといった感じだった。
「あの日、私はいつもと同じように、覆面によって、ラーヴォルンに連れてこられた。
でも、そのラーヴォルンは・・・偽物だったんだ。」
「ラーヴォルンの偽物って・・・どういうこと?」
「覆面は、私をラーヴォルンに連れてきたつもりだった。
でも、そこは、何者かが本物そっくりに作り上げた偽物のラーヴォルンだったの。」
私がそう言うと、部屋にいた全員が驚いた表情に変わる。
「とりあえず私は、そいつのことを覆面2号って呼んでるんだけどね。
覆面の話だと、偽ラーヴォルンは覆面2号が魔法で作り上げたものだって言ってた。」
私はそう言って、ヴィルトワさんの方を見ると、ヴィルトワさんの表情が険しくなる。
「確かに、魔法でラーヴォルンの複製の仮想世界を作り上げることはできる。
でも、街一つを作り上げ、街に住んでいる人も全て複製を作り上げるとなると・・・
桁外れの膨大な魔力が必要になる。
どんなすごい魔導士でも、一人で作り出すことなんてまず絶対に不可能だ。」
ヴィルトワさんは険しい表情のままでそう言った。
「でも、あの魔力波動が、ラーヴォルンの複製を作り出すための魔力によって発生したものだとしたら、確かに納得がいきますね。」
ヴィルトワさんから話を聞いたヤシュラムさんがそう言って頷く。
「でも、そのラーヴォルンの複製を作り上げた者は、一体何の目的でそんなことをしたのでしょうか?」
ヤシュラムさんが私に聞いてくる。
「覆面が言うには、覆面2号はどうやら私をラーヴォルンから追い出したかったみたいなんです。
でも、私に直接攻撃することはできない。
だから、私を偽物のラーヴォルンに誘導して、そして・・・」
それから起こったことが、頭の中に鮮明に蘇ってきて、思わず言葉に詰まる。
あの時の、ミディアちゃんの絶望しきった表情・・・
そして、憲兵隊が、ミディアちゃんに向かって、巨大な刀を振り下ろすところ・・・
思い出しただけで、背筋に寒いものが走り、涙が出てきそうになる。
「琴音、大丈夫?」
ミディアちゃんが心配そうに私の方を見る。
私のことを気遣ってくれるミディアちゃんの表情が視界に入ってきた瞬間、思わず泣きそうになった。
あれは偽物のラーヴォルンの出来事で、本物のミディアちゃんに起こったことじゃない。
「大丈夫・・・私なら全然大丈夫だよ。」
私は気を取りなおして、話を続けることにした。
「私が着いた時、ちょうど下校時間だった。
私は学校帰りのミディアちゃん、エレーネちゃん、アイちゃんと合流したんだけど・・・
その後、憲兵隊がやってきて、みんな憲兵隊に捕まえられちゃったんだ。」
「えっ!?」
ミディアちゃん達は驚いた表情になる。
「みんな、憲兵隊の建物に連れて行かれて、全員別の部屋に入れられた。
私はミディアちゃんのいる部屋に入って、ミディアちゃんを励まそうとしたんだけど・・・」
再び言葉に詰まる。
頭では偽物の出来事だとわかっているんだけど・・・やっぱり、ここから先を話すのは辛い。
でも、ここで話すのをやめてしまったら、結局、また解決できないで終わってしまう。
一回大きな深呼吸をする。
すると、少しだけ気分が楽になった。
「しばらくすると、ミディアちゃんのいた部屋に、憲兵隊の人達が入ってきて・・・ミディアちゃんに聞いたんだ。
『コトネという・・・スパイを知ってるか』って」
「えっ!?」
再び、みんな驚いた表情に変わった。
「偽物のラーヴォルンで、私は・・・スパイにされていたんだ。
だから・・・スパイである私と仲良くしていたミディアちゃん達が・・・憲兵隊に捕まったんだ。
憲兵隊は、ミディアちゃんに刀を突きつけて・・・
10数えるうちに出てこないと、ミディアちゃんに刀を振り下ろすって言ったんだ。
でも・・・あの部屋で、私の姿が見えるのも、私の声が聞こえるのも、ミディアちゃんだけで・・・
私が必死に声を張り上げても・・・憲兵隊の人には全然聞こえなくて・・・
そうこうしているうちに・・・憲兵隊は10数え終えちゃって・・・
憲兵隊は・・・ミディアちゃんに向かって・・・刀を・・・刀を・・・」
ダメだ、もうこれ以上話せない。
頬に涙に伝うのを感じた。
私・・・いつの間に泣いてたんだろう?
それに、さっきからすごい息苦しい。
呼吸するのって、こんなに難しかったっけ?
「大丈夫だよ、琴音。」
「ミディアちゃん・・・」
「私は、ちゃんと生きてるでしょ?」
「ウン、ミディアちゃん・・・ミディアちゃん・・・」
私はミディアちゃんに抱きついて、人目もはばからずに号泣してしまった。
「大丈夫だよ、琴音・・・大丈夫。」
ミディアちゃんは、私に触れることはできなかったけど・・・
でも、私が泣き止むまで、ミディアちゃんは優しく私を抱きしめてくれた。
「まさか、私達が記憶を失っている間に、そんなことが起こってたなんてな。」
エレーネちゃんも驚いていた。
一方で、ヴィルトワさんとヤシュラムさんは、私の話を聞いて、何やら考えているようだった。
「もう大丈夫だよ、ありがとうミディアちゃん。」
ミディアちゃんのおかげで、少しだけ落ち着くことができた。
「琴音さんは、もう落ち着いたみたいですか?」
ヤシュラムさんがヴィルトワさんに訊ねる。
「だいぶ、落ち着いてはきたけど・・・まさか何か質問でもあるのか?」
「ええ、まあ・・・」
ヤシュラムさんがそう言うと、ヴィルトワさんはため息をつく。
「やれやれ、お前は本当に仕事熱心だな。」
「そんなことはないですよ。
ただ、どうしても気になることがあるもので・・・」
「確かにな。」
どうやら、ヴィルトワさんも、ヤシュラムさんと同じで、何か聞きたいことがあるみたいだった。
いつもだったら、ここで逃げ出したくなってたかもしれない。
でも、話す前に覚悟を決めたからね。
ここまで話しちゃったし、さっき、思い切り泣いて少しスッキリできたし・・・
こうなったらとことんまで付き合ってあげるよ。
「その偽物のラーヴォルンを作った人ですが・・・その人はどうして琴音さんを追い出そうとしたのですか?」
ヤシュラムさんが私に聞いてきたけど、それはむしろ、私の方が聞きたいくらいだ。
どうして、覆面2号は私をラーヴォルンから追い出そうとするのか?
一体、何のために?
「琴音がラーヴォルンに来たのは、その事件が起こる少し前なんだよな?」
ヴィルトワさんが私に聞いてくる。
「ハイ、そうです。」
「そいつは多分、琴音が来た最初の日から、琴音の存在に気づいていたんだろうな。
事件が起こるまでに時間が空いたのは、偽ラーヴォルンを作り上げるために時間がかかったせいか、あるいは・・・」
「琴音さんに来てほしくない理由が、突然できたからでしょうか?」
ヤシュラムさんが、ヴィルトワさんに向かってそう言う。
「自分で言っておいてなんだが、前者はないな。
魔力波動が観測されたのは、記憶喪失事件が発生した日だ。
つまり、偽ラーヴォルンを一晩のうちに作り上げたってことになる。
偽ラーヴォルンを計画的に作成するのであれば、魔力波動が発生しないように周到に準備することもできたはずだ。
偽ラーヴォルンを作り上げるほどの膨大な魔力を一気に集めたら、魔力波動が発生して、周囲に観測される恐れがあることは、術者もわかっていたはずだ。
だが、術者が魔力波動を観測されるリスクを知った上で、それでも使ったのだとしたら・・・」
「琴音さんを攻撃しないといけない理由が、突発的に発生したということになりますね。
それにしても、一晩でラーヴォルンの複製を作成するとはね。
そんな凄まじいことができる存在は、私の知る限りでは一人しかいません。」
えっ、ヤシュラムさん、犯人に心当たりがあるの?
でも、心当たりがあるのは、ヤシュラムさんだけではなさそうだった。
なぜなら、ヤシュラムさんの話を聞いて、ミディアちゃん達も頷いていたから。
まさか、みんなも心当たりがあるってこと?
「ミディアちゃんも、もしかして誰が犯人なのかわかるの?」
ミディアちゃんに訊ねると、ミディアちゃんは少し困惑した表情で頷いた。
私が知りたかった敵の正体が、まさか、こんなに簡単に判明するなんて思わなかった。
「それは、一体誰なの?」
私が訊ねると、ミディアちゃんは小さな声でこう言った。
「このアトゥアで、そんなことができる存在と言ったら・・・ルフィルしかいないよ。」
ミディアちゃんが言ったことに、私は少なからず衝撃を受けていた。
ルフィルとは、アトゥアに命の源であるマーシャントを導き、アトゥアに生命をもたらす存在。
アトゥアの人達から神のように崇められている存在。
そんなアトゥアの神みたいな存在から、どうして私は攻撃されなければならないのだろう?
ていうか、覆面2号の正体って、もしかしてルフィルなの?
「ルフィルは、基本的に人間社会には干渉しないと言われている。
だが、そのルフィルが動いたとしたら、もしかしたら琴音に何か重大な脅威を感じたのかもしれない。」
ヴィルトワさんがそう言う。
私はただラーヴォルンに遊びに来ているだけで、アトゥアの脅威になることなんて何もしていない。
でも、もしかしたら、私が何も知らないだけで、私の知らないところでアトゥアに脅威を与えているのかもしれない。
私の知らないところと言ったら、思い当たるのは覆面しかいない。
もしかしたら、ルフィルが脅威を感じたのは、私ではなく覆面の方かもしれない。
それなら、私も納得がいく。
私は、覆面が何の目的で私をラーヴォルンに連れて行くのか、未だに何も知らされていない。
もし、覆面が、私の知らないところで、何かアトゥアの脅威になるようなしているのだとしたら・・・
「やっぱり・・・私はもうラーヴォルンに来ない方がいいのかな?」
思わず口に出てしまった。
でも、今度は、私の発言を聞いても、ミディアちゃん達は俯くだけだった。
さっきまで、ミディアちゃん達は、これからも私に来てほしいと言ってくれた。
でも、今度は、ミディアちゃん達は、私に「そんなことはない」と言ってくれなかった。
みんな、暗い表情のまま、俯いていた。
そっか、アトゥアでは、ルフィルは神様みたいな存在なんだよね。
そのルフィルが、私を拒絶しているんだとしたら、ミディアちゃん達が、私にまた来てほしいなんて言えるわけがない。
アトゥアに住む人達にとって、ルフィルは私が思っている以上に大きな存在なんだ。
しばらく、部屋に沈黙が続く。
「まだ、琴音が脅威と決まったわけではない。」
沈黙を破ったのは、ヴィルトワさんだった。
ヴィルトワさんの発言を聞いて、ミディアちゃん達は勢いよく頭を上げる。
「どういうことですか?」
すかさずミディアちゃんがヴィルトワさんに訊ねる。
「仮にルフィルが攻撃したと仮定してだ。
本当に琴音に脅威を感じているのであれば、どうして琴音を攻撃し続けないんだ?
まだ琴音はラーヴォルンに来ているのに、たった一回で終わらせるのはおかしいだろう。」
「確かに・・・そうですね。」
「ルフィルが何を考えてるかなんて、俺にはわからないけど・・・
もし、俺がルフィルだったら、琴音が来なくなるまで、何度も攻撃し続ける。
でも、そうしないってことは、もしかしたら、琴音を追放しようと考えたのは、一回だけなのかもしれない。」
「じゃあ、もうルフィルは、琴音のことを脅威とは思ってないってことですよね?
これからも、琴音はラーヴォルンに来てもいいってことですよね?」
ミディアちゃんが矢継ぎ早にヴィルトワさんに訊ねる。
そのミディアちゃんの勢いに、さしものヴィルトワさんも少し困惑しているようだった。
もしかして、ミディアちゃんは、ルフィルが今は私のことを脅威と思っていないってことにしたいのかな?
さっきからの2人の会話を聞きながら、色々と頭の中で考えていた。
敵が続けて私を攻撃してこないのは、もしかしたら覆面が私を守ってくれているからかもしれない。
私が知らないだけで、もしかしたら、もう何度も攻撃を受けているのかもしれない。
でも、そんなことを考えていると
(琴音、敵からの攻撃は、あれ以降一度も発生していない。)
頭の中に覆面の声が聞こえてきた。
どうやら敵から攻撃を受けたのは、あの一回だけらしい。
だとしたら、どうして敵は、あの時だけ私を攻撃してきたのだろう?
「まだ、これが本当にルフィルの仕業だと確定したわけじゃない。
俺達が思いつく巨大魔法を使える存在がルフィルしかいないから、ルフィルの仕業じゃないかって話になっているだけだ。
もしかしたら、俺達の知らないところに、ルフィル級のすごい存在がいるのかもしれない。
例えば、琴音を連れてきている覆面のようにな。」
「確かに・・・」
「いずれにしても、琴音が攻撃を受けたのは、今のところその一回だけなのだろう?
だとしたら、俺達はもう少し当時の状況をよく知る必要がある。
きっとその中に、琴音を攻撃する理由が隠されているはずだ。」
ヴィルトワさんがそう言った瞬間、私は偽ラーヴォルンで聞いた話を思い出していた。
「そう言えば、あの事件の前の日・・・」
どうやら、ミディアちゃんも思い出したみたいだ。
「突然、ラーファがいなくなって、みんなで探したよね?」
ミディアちゃんがそう言うと、エレーネちゃんとアイちゃんは頷いた。
「えっ、私が?」
でも、ラーファちゃんはきょとんと首を傾げていた。
そっか、ラーファちゃんは覚えていないんだ。
「ラーファ、覚えてないの?」
「ウン、全然・・・」
ラーファちゃんがそう言うと、ミディアちゃんは驚いていた。
「でも、どうしてラーファがいなくなったんだっけ?」
エレーネちゃんが訊ねると、ミディアちゃんは口ごもってしまう。
そっか、みんな、まだ完全に記憶が戻ったわけじゃないんだ。
この事件に関しては、みんな、あまり話したがらなかったから、今の今まで全く気付かなかった。
だとしたら、あの日起こったことについて知っているのは、私だけということになる。
「私が偽物のラーヴォルンに行った時、あっちのミディアちゃん達は、ラーファちゃんが行方不明で探していると言ってた。」
私がそう言うと、ミディアちゃん達は驚いた表情になる。
「まさか、偽物のラーヴォルンのミディア達には、全ての記憶が残っていたのか?」
ヴィルトワさんが私に聞いてきたので、私は小さく頷く。
「それで、偽物の私達は、琴音になんて話したの?」
ミディアちゃんが私の方を見る。
ラーファちゃんも、エレーネちゃんも、アイちゃんも、私の方を見ていた。
きっと、ここで私が本当のことを話したら、みんなの記憶は完全に戻るだろう。
でも、そうなったら、ラーファちゃんは・・・
私の話を聞いても、ラーファちゃんが平気だったのは、多分、前日の記憶が残ってないからだ。
だとしたら、私の話を聞いて、記憶を全て取り戻したら、ラーファちゃんは・・・
でも、何度も考えたけど・・・敵が動き出したきっかけは、これしか思いつかない。
敵とラーファちゃんに何の関係があるのか、さっぱりわからないけど・・・
だとしたら、決着をつけるためにも、もう一度再現するしかない。
ここまで来た以上、もう後には引けない。
ゴメンね、ラーファちゃん。
「あの日、みんなは私をラーヴォルンの色んな場所に案内してくれた。
私が帰った後、みんなはデザートのお店に入って休憩したって言ってた。
そこで、みんなは、私と会話する方法について話してたみたい。」
「そうなんだ。」
ミディアちゃんが他人事のように頷く。
どうやら、まだ思い出せてないらしい。
ラーファちゃんをチラッと見る。
どうやら、ラーファちゃんもまだ思い出せていないようだ。
「あっ、まさか・・・」
エレーネちゃんが小さくそう呟くのが聞こえた。
もしかして、エレーネちゃんは思い出したのだろうか?
だとしたら、きっとエレーネちゃんは、私を止めようとするはず・・・
でも、ここで話を辞めるわけにはいかない。
「待って、琴音。それ以上は・・・」
私の予想通り、エレーネちゃんが慌てて止めようとしたけど、それを遮るように私は、みんなに続きを話した。
「そこで、エレーネちゃんが、リリムっていう人に頼んで・・・
マーシャント干渉という魔法を使って、私の意識にアクセスしようって話したの。
そうしたら・・・」
「ダメよ!!!」
突然のラーファちゃんの大声に、私の話がかき消される。
「ラーファ!?」
ミディアちゃんがラーファちゃんに声をかけるが、ラーファちゃんの表情は真っ青で、体が震えていた。
「どうしたの、ラーファ?」
ミディアちゃんが、ラーファちゃんに近づこうとする。
でも、ラーファちゃんはミディアちゃんを思い切り突き飛ばすと、そのまま部屋の外に飛び出してしまった。
「あの時と同じだ。」
部屋を飛び出すラーファちゃんの姿を見て、ようやくミディアちゃんも全てを思い出したようだ。
「早く追いかけよう。」
エレーネちゃんが慌ててラーファちゃんを追いかけようとするけど、ヴィルトワさんがそれを制止する。
「ラーファは俺が追いかける。
ヤシュラムは、この子らを頼む。」
そう言うヴィルトワさんの表情に、ヤシュラムさんは何かを察したみたいで、
「わかりました。
くれぐれも気をつけてください。」
ヤシュラムさんの表情も、険しい表情に変わった。
「私は、ラーファちゃんを追いかけるね。」
私はミディアちゃん達にそう言い残すと、部屋を飛び出す。
「お願い琴音、ラーファを連れ戻して。」
部屋の中から、ミディアちゃんの声が聞こえてくる。
きっとミディアちゃんは、またラーファちゃんがいなくなってしまうんじゃないかって、すごい不安なんだと思う。
でも、今度は私が絶対にラーファちゃんを連れて戻る。
だって、これは私が起こしたことだから。
外に飛び出して、辺りを見渡すと、走り去っていくラーファちゃんの後姿が見えた。
ラーファちゃんは、ルフィルの遺跡がある方向に走って行った。
まさか、ラーファちゃんはルフィルの遺跡に向かってるの?
でも、どうして遺跡なんかに?
(ついに捉えた。)
突然、覆面の声が頭に飛び込んでくる。
(何を捉えたの?)
(お前に攻撃を仕掛けていた敵だ。
やはり、ラーファのいる方に向かっているようだ。)
(ラーファちゃんのいる場所って・・・まさかルフィルの遺跡?)
(そうだ。
待ってろ、琴音。
今度こそ全ての決着をつけてやる。)
(待って、ラーファちゃんをケガさせないでね。)
でも、それっきり覆面の声が返ってくることはなかった。
ラーファちゃんが戦いに巻き込まれていないといいんだけど・・・
ラーファちゃんが心配だ。
とにかく、ルフィルの遺跡へ急ごう。
ルフィルの遺跡は、見た目はいつもと同じ様子だった。
でも、何かが違うような気がした。
そうだ、人が全くいない。
いつもだったら、観光客が何人かいるし、遺跡を管理している警備員もいたはず。
でも、今は全く人がいない。
これは明らかにおかしい。
「気をつけろ、琴音。」
背後からヴィルトワさんの声が聞こえてくる。
どうやら、ヴィルトワさんもここまで追いかけて来たらしい。
「気をつけろって、どういうこと?」
「ここは、何者かが作った、別の空間だ。」
「えっ!?」
ヴィルトワさん曰く、私は気がつかないうちに、何者かが作った異空間の入口に入り込んでしまったらしい。
私が異空間に入っていくのを見て、ヴィルトワさんも慌てて追いかけて来たらしい。
「このルフィルの遺跡って、もしかして・・・」
「間違いなく、偽ラーヴォルンを作った人物の仕業だろう。」
ヴィルトワさんは周囲を警戒しながらそう言った。
とその時、目の前の空間が突然光り出す。
この感じ、私がラーヴォルンから帰る時と似ている。
そんなことを考えていたら、光の中からなんと、ラーファちゃんが姿を現した。
「ラーファちゃん。」
よかった。
ラーファちゃんは、どうやら無事みたいだ。
でも、ラーファちゃんの様子が、さっきまでの怯えた様子と違う。
なんか笑ってるし、それに雰囲気がいつもと違う感じだ。
「琴音、それにヴィルトワさん。
わざわざこんなところまで私を追いかけて来てくれてありがとう。」
ラーファちゃんは怪しい笑みを浮かべながら、私達に向かってそう言う。
「誰だ、貴様は!?」
ヴィルトワさんがラーファちゃんを睨みつける。
今ので私にもわかった。
目の前にいるのは、ラーファちゃんじゃない。
ラーファちゃんの姿をした何者かだ。
思い当たる人物は、一人しかいない。
「まさか、あなたが、私を攻撃した・・・」
「そう、私があなたを攻撃したのよ。」
目の前のラーファちゃんもどきが、笑いながらそう答えた。
「ラーファちゃんを返して。」
「まあ、そんなに慌てないで。
あなたもいろいろと私に聞きたいことがあるでしょう?
今なら、色々話してあげることができるわよ。」
ラーファちゃんもどきが、ニヤリと笑いながらそう言った。
(用語集)
(1)ルフィル
星の生命の流れを導く存在。
死にゆくものの魂を天に返し、生まれゆく者の魂をこの星に導くための存在。
アトゥアでは、自分達が生きていられるのは、ルフィルのおかげと思っている人達が多く、ルフィル信仰が盛んである。
(2)アトゥア
ミディア達が住む世界のこと。
幾つかの国が存在し、エレーネ曰く秘境と呼ばれる場所が存在するらしい。
(3)マーシャント
マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。
生命や星は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。
地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。
(4)魔力波動
魔法を使った時に発生するマーシャントの波のこと
魔力波動の大きさは、使用する魔力が大きくなればなるほど大きくなる。
アトゥアはマーシャントで満たされているので、発生した魔力波動はアトゥア中に伝播していく。
ただ、よほど大きな波でない限り、通常は他の波に打ち消されてしまう。




