46.琴音が聞きたかったことと、そして・・・
<<琴音>>
「実は、こないだね・・・」
私がみんなに話し始めようとしていたその時だった。
コンコンコン・・・
部屋にノックの音が聞こえてくる。
また・・・ですか。
思わずため息が出てしまう。
「ハイ。」
ミディアちゃんもため息交じりに返事する。
ミディアちゃんが扉を開けると、その向こうにはヤシュラムさんとヴィルトワさんが立っていた。
「えっ、ヴィルトワさんとヤシュラムさん?」
ミディアちゃんが驚いた表情を浮かべる。
「えっと、いきなり押しかけてすみません。
実は、今日は皆さん集まって、琴音さんのお話を聞くって、この人から聞いたので、ぜひボクも話を聞きたいなあと思いまして。」
ヤシュラムさんはそう言って、ヴィルトワさんの方を見る。
ていうか、なぜジト目なんだろう?
「兄貴、どうして言っちゃうかな。」
エレーネちゃんがヴィルトワさんの方をきっと睨みつける。
いや、別に秘密にしておく必要はないんだけど・・・
「いやあ、実はこの近くのカフェで、ヤシュラムとバッタリ会っちゃってさ。
まさか、ラーヴォルンにヤシュラムが来ているとは思わなかったよ。」
ヴィルトワさんは、あっけらかんと笑いながら、エレーネちゃんに弁解する。
「どうせ兄貴のことだから、自分を見逃してもらうために、琴音のことをヤシュラムさんに話したんじゃないの?」
「ど、どうしてそのことを・・・」
どうやら、エレーネちゃんの話したことは図星だったらしい。
「ていうかさ、兄貴、ヤシュラムさんと知り合いだったの?」
「ああ、モンフェルンでヤシュワントと会った時にな。」
「そうだったんだ。」
「もっとも、最初に会った時は、リーヴァ王国の兵士だとは思わなかったけどな。
かわいい服を着てたし、常にヤシュワントの隣にいたから、最初に会った時は、とうとうヤシュワントにも恋人ができたかって思った。」
「やっぱり、兄貴もそう思ったんだ。」
なんか、2人の会話が脱線しかけている。
このままだと、今日もまた話をすることができなくなってしまう。
「まったく・・・街中でヴィルトワさんの姿を見かけた時は、思わず目を疑いましたよ。
本当にどうしてラーヴォルンにいるんですか?」
ヤシュラムさんが再びジト目でヴィルトワさんの方を見る。
「ま、まあ、そのことについては、また今度ゆっくり話すから・・・
そんなことより、今は琴音の話だろう。」
ヴィルトワさんはそう言って、私の方に話を引き戻してくれた。
多分、苦し紛れだとは思うんだけど、こっちに話を戻してくれてありがとう、ヴィルトワさん。
「それに、俺も異世界から来た琴音の話を聞いてみたかったし。」
ヴィルトワさんはそう言って、私の方を見てニコッと笑う。
どうやら、ヴィルトワさんも、異世界人である私の話に興味があるらしい。
こういうところは、やっぱりエレーネちゃんのお兄さんだな。
「実は、ボクもいくつか琴音さんに聞きたいことがありましてね。
もしよろしければ、ボクも一緒にお話を伺ってもよろしいですかって琴音さんに聞いてもらえますか?」
ヤシュラムさんが、ミディアちゃんにそう言う。
「ヤシュラムさんがああ言ってるけど、どうする、琴音?」
ミディアちゃんが私に訊ねてくる。
正直言って、私はヤシュラムさんが苦手だ。
それに、ヤシュラムさんは私に聞きたいことがあると言ってた。
一体、私に何の質問をするつもりだろう?
初めてヤシュラムさんと会った時の、怖い顔を思い出して、背筋に寒いものが走る。
でも、ここで私が嫌だと言ったところで、きっとヤシュラムさんはすんなりと引き下がってくれないだろう。
それに、ヤシュラムさんはリーヴァ王国の兵士だって言ってたし、もしかしたらみんなの知らないことも話してくれるかもしれない。
「ウン、いいよ。」
私は考えた末に、ミディアちゃんにそう答えた。
「琴音はOKだって言ってます。」
「そう、それはよかったです。」
「でも、まずは琴音の話が先ですからね。」
ミディアちゃんはヤシュラムさんに強く念を押すと、
「わかってますよ。ボクは最後で構いませんから。」
ヤシュラムさんはそう言って、部屋の隅に座り込んだ。
「ゴメンね、昨日から色々と邪魔が入っちゃって。」
ミディアちゃんがそう言って私に謝る。
「ウウン、ミディアちゃんが謝ることじゃないよ。」
それより、私には一つ気になることがあった。
「ねえ、ヴィルトワさんも部屋に入ってきたけど、ラーファちゃん大丈夫?」
こっそりラーファちゃんに尋ねてみると、ラーファちゃんは小さく頷く。
「昨日は不意を突かれたけど、今日は気持ちの整理はできてるし、もう大丈夫よ。」
ラーファちゃんは笑顔でそう答えたけど、やっぱりどこか表情が硬い。
本当にラーファちゃんとヴィルトワさんの間に何があったんだろう?
「じゃあ、琴音、お願い。」
ミディアちゃんがそう言うと、みんな一斉に私の方を注目する。
私の姿が見えないアイちゃんとヤシュラムさんも、みんなの視線の方、つまり私の方に視線を向ける。
こんだけ大勢の人に注目されて、少し恥ずかしくなった。
でも、ようやく訪れたチャンスだ。
ここでちゃんと聞いておかないと、また聞けないで終わってしまうかもしれない。
私は勇気を出して、ミディアちゃん達に向かって話した。
「実はこないだ、イデアフィールズの番組で聞いちゃったんだ。
アトゥアの人達の限界寿命がどんどん下がって、ついに50歳を切っちゃったって話を。」
「やっぱり・・・その話だと思ったよ。」
私の話を聞いて、ミディアちゃんがそう言った。
「その話を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になっちゃって・・・
だって、ラーヴォルンにずっと来てたけど、全然そんなことになってたなんて知らなかったから・・・」
「そりゃあ、私達がずっと黙ってたからね。」
エレーネちゃんが、あっけらかんとそう言った。
「どうして、黙ってたの?」
私はエレーネちゃんに尋ねる。
でも、それに答えてくれたのは、エレーネちゃんではなくミディアちゃんだった。
「全部、私のわがままだよ。」
「ミディアちゃん?」
「実はね、今年の限界寿命が発表されたのって、記憶喪失事件の少し後だったんだよ。」
「えっ、そうなの?」
「ウン、あの時は色々とあったばかりだったし、もし限界寿命の話を琴音に話したら、今度こそ琴音が来なくなっちゃうかもしれないって、私すごく不安になっちゃって・・・
で、そのことをみんなに話したら、じゃあこのことは琴音には黙っておこうって話になったんだよ。」
「そうだったんだ。」
「でも、そのミディアが、琴音の前で時間がないかもしれないなんて言いだした時は焦ったけどね。」
ラーファちゃんが苦笑しながら、ミディアちゃんに向かってそう言う。
ああ、そう言えば、私に時間がないかもしれないって言ったの、ミディアちゃんだったね。
「あれは、考えてたことが、思わず口に出ちゃって・・・私もちょっと焦ったよ。
本当にゴメンね。」
「いいわよ、謝らなくて。
それより、琴音、他にも聞きたいことがあるんでしょ?」
ラーファちゃんが私にそう言うと、
「さっきも言ったけど、私達のことなら気にしないでいいから、何でも聞いてね。」
ミディアちゃんもそう言ってくれた。
次の質問は、聞こうかどうか少し悩んでたけど、そう言ってくれるのであれば、お言葉に甘えて聞いてみるかな。
「ミディアちゃんとラーファちゃんが、ルフィル・カロッサ2日目に突然社長就任したのってね。
やっぱり限界寿命と関係あるのかな?」
聞いちゃった。
私にとってはかなり勇気のいる質問だったんだけど・・・
でも、ミディアちゃんもラーファちゃんも、私の心配とは裏腹に全然平気そうだった。
「前にも話したと思うけど、私の両親はどちらも今年42歳でね。
2人とも限界寿命が近づいてきているし、ずっと何かしてあげたいとは思ってたの。
でも、何も思いつかなくてね。
だから、ミディアが一日社長のアイデアを出してくれた時、これだって思ったの。
ルフィル・カロッサの日は、いつもルーイエ・アスクが大忙しで、2人とももうずっと長い間、ベイ・カロッサに参加できてないって言ってたからね。
だから、今年ぐらいは2人にベイ・カロッサに参加して楽しんでほしいって思った。
でも、そのせいで、琴音には色々と迷惑かけちゃって、本当に悪かったと思ってる。
琴音、本当にゴメンなさい。」
ラーファちゃんは私に向かって頭を下げる。
「そんな、謝らないでよ。」
やっぱり、そうだったんだ。
そうとも知らずに、私はドタキャンされたことを、心のどこかでずっと不満に思ってた。
「本当、私って、心が小さいなあ。」
思わずそう呟くと、
「ウウン、ドタキャンした私達の方が悪いんだよ。
本当はもっと早くに決めておけば、琴音に不愉快な思いをさせることもなかった。
本当にゴメンね、琴音。」
ミディアちゃんは私にそう言って謝ってくれた。
「でも、2人ともすごく喜んでくれて、従業員のみんなもすごく喜んでくれてね・・・
本当にやってよかった。」
その時のことを思い出したのか、ラーファちゃんの目が潤んでいた。
「行き場のない私を養ってくれて、レームおじさんにもラヴィおばさんにもすごく感謝してたから・・・
だから、何かお礼がしたいとずっと思ってた。
だからね・・・2人が喜んでくれて、本当に嬉しかった。」
気がつくと、ミディアちゃんの目も潤んでいた。
これまでも、ミディアちゃんやラーファちゃんが泣くところを何度か見てきたけど・・・
こんなミディアちゃんとラーファちゃんの表情を見るのは、これが初めてだった。
きっと、嬉しさや悲しさや不安が複雑に混ざり合った、そんな感じの涙なんだろう。
私は、限界寿命の話を知ってから、2人がどんな思いで毎日を過ごしてるんだろうって思ってた。
普段、明るいミディアちゃんとラーファちゃんしか見てなかったので、2人とも案外平気なのかなって思ってた。
そんなわけなかった。
やっぱり、2人ともすごい不安なんだ。
でも、2人とも、普段はそんな不安な気持ちを見せることなく、私の前では明るい笑顔を見せてくれた。
ミディアちゃんも、ラーファちゃんも、エレーネちゃんも、アイちゃんも、毎日明るく楽しく過ごしていたから、私はそんなことになってるなんて夢にも思わなかった。
私だったら、きっと不安で押しつぶされてしまってるだろう。
「ほーら、泣かない。もう、本当にミディアったらかわいいんだから・・・」
ラーファちゃんの隣にいたミディアちゃんに抱きついて、脇をくすぐる。
「ちょっと、エレーネ先輩、くすぐらないでくださいよ。」
「何を言うか、ここがいいんだろ、ここが。」
「やめてください・・・ア、アハハハハハハ・・・」
「何やってるのエレーネ、それは私の役割よ。」
ラーファちゃんが少し興奮した様子で、エレーネちゃんに代わろうとする。
「ラーファ、やめて。」
ミディアちゃんが、やんわりとラーファちゃんを拒絶すると、ラーファちゃんは拗ねた表情を浮かべる。
そんなラーファちゃんの表情を見て、ミディアちゃんとエレーネちゃんは思わず吹き出す。
「ハアハア・・・さっきのミディアとエレーネ先輩で、なんかすごい興奮しちゃった。」
そして、なぜか、アイちゃんは少し興奮していた。
でも、いつもと違ったのは、
「ああ、確かにいいものを見せてもらった。」
ヴィルトワさんがアイちゃんの意見に頷いたことだった。
「ちょっ、兄貴まで何てこと言うかな?」
エレーネちゃんが驚いた表情でヴィルトワさんの方を見る。
みんなが楽しく笑う声が聞こえてくる中、私だけ戸惑っていた。
みんな、どうしてそんなに楽しそうにしていられるの?
寿命が迫っていると言うのに・・・
みんな、怖くないの?
私なんか、わけのわからない不安で押しつぶされそうなのに・・・
そっか・・・ようやくわかった。
私がみんなに聞きたかったことって、多分このことだったんだ。
「どうして・・・どうして、そんなに楽しそうに笑えるの?」
「琴音?」
ミディアちゃんが少し驚いた表情で、私の方を見る。
「生きられる年齢が、どんどん下がってるんでしょ。
それなのに、ミディアちゃん達は、どうしてそんなに楽しそうに笑えるの?
ウウン、ミディアちゃん達だけじゃない。
ラーヴォルンに住んでいる人達は、どうしてみんな毎日一生懸命頑張れるの?
みんなは怖くないの?
一生懸命頑張って生きたところで、どうせ・・・」
しまった、つい感情に任せて、どうせなんて言っちゃった。
ていうか、今、私は何を言おうとしたんだ?
もしかして、『どうせ、すぐに死んじゃうのに』って言おうとしたのか?
私は、なんて無神経なんだろう。
もし、そんなことを言ったら、みんなどんな気持ちになるだろう?
言葉に出さなくてよかった。
でも、ミディアちゃんは、私が言おうとしたことを理解したようで、ニコッと笑いながら、私に話しかけてきた。
「ウン、琴音の言いたいことはわかるよ。
確かに、一生懸命勉強したって、魔法をいっぱい覚えたって、多分、私達は長生きできない。
もしかしたら、予想していたよりも早くに死んじゃうかもしれない。
だったら、頑張る必要なんてないって思うのが普通だよね?」
「ゴメン・・・私、そんなつもりで・・・」
「それで楽しい人生を過ごせるんだったら、私はそれでもいいと思う。
でもね、私はきっとそんな人生、絶対に楽しくないと思う。」
ラーファちゃんがそう言う。
「だって、それって、迫ってくる寿命に怯え続けるだけの人生だからね。
毎日怯えて生きるだけの人生なんて、私は絶対に嫌だね。
私は、どんなに短い人生になるってわかってても・・・
ウウン、短い人生になるんだったら、猶のこと、一分一秒を大切に毎日を楽しく生きていきたい。」
エレーネちゃんがそう言う。
「私は、みんなといっぱい楽しい思い出を作って、天に召される時は、私の人生はこんなに楽しかったんだって胸を張りたい。」
アイちゃんがそう言う。
「寿命に怯えて生き続けるよりも、一生懸命頑張って、笑ってかけがいのない楽しい日々を過ごす。
多分アトゥアに生きている人達みんなが、そう思ってるんじゃないかな。
だから、みんな、頑張れるんだと思う。」
ミディアちゃんはそう言って、ニコッと笑う。
その笑顔を見た瞬間、私の心の中に渦巻いていた闇が晴れたような気がした。
私は・・・なんて弱いんだろう
私なんか、得体のしれない不安感にずっと怯えて過ごしていたというのに・・・
みんな、本当に強いなあ・・・
アトゥアの人達って、本当に強いなあ。
「そして、私達のかけがいのない楽しい日々に、もう琴音は欠かせない存在なんだよ。
だから、これからもラーヴォルンに来てくれる、琴音?」
ミディアちゃんが、不安そうに私にそう聞いてくる。
「そんなの・・・当たり前じゃない。
だって、私にとっても、ラーヴォルンで過ごす時間は、かけがえのない楽しい時間なんだから。」
「ありがとう、琴音。」
ミディアちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
ミディアちゃんは、限界寿命のことを知ったら、私が来なくなるかもって心配してたみたいだけど、そんな心配することないよ。
だって私、ますますラーヴォルンが、ミディアちゃん達のことが大好きになっちゃったから。
「あーあ、また琴音泣いちゃったよ。
話には聞いてたけど、本当に琴音って涙もろいんだな。」
エレーネちゃんがそう言って苦笑する。
どうやらまた、私は泣いてしまったらしい。
「いいなあ、私も見たいなあ。」
アイちゃんはそう言って、ヴィルトワさんの方をじっと見る。
そんなアイちゃんの視線に、ヴィルトワさんは思わず苦笑する。
「やれやれ仕方がないな。
本当は2人に視覚と聴覚を貸すのは、結構きついんだけどなあ。」
ヴィルトワさんはそう言いながらも、アイちゃんの頭に手をあてると、エレーネちゃんの時と同じように魔法を唱え始める。
そして、魔法が終わると、アイちゃんは私の方を見る。
「やったあ、私にも琴音が見えた。
そして、泣いてる琴音、すごい可愛い。
なんか興奮してきた。」
どうやら、アイちゃんにも私の姿が見えるようになったみたいで、大喜びしていた。
でも、私が泣いている姿を見て興奮するのは、やめてもらいたい。
なんか、ミディアちゃん達のおかげで、今までの不安が全部吹っ飛んだ。
私もミディアちゃん達を見習おう。
私も、不安に怯えるだけの日々を過ごすのはやめよう。
毎日、一生懸命楽しんで、一生懸命生きよう。
心の底からそう思えた。
「みんな、今日は本当にありがとう。
私、なんかすごい勇気が出てきたよ。」
私がそう言うと、みんな笑顔で返してくれた。
「ヴィルトワさん、私にも視覚と聴覚を貸してくれませんか?」
私達が喜んでいる脇で、ヤシュラムさんが、ヴィルトワさんに頼んでいた。でも、
「さすがに3人は無理だ。」
さしものヴィルトワさんも、3人に視覚と聴覚を貸すのは厳しかったみたいだ。
ヴィルトワさんに断られると、ヤシュラムさんは思わずため息をつく。
「やれやれ、仕方がないですね。
それはそうと、どうやら琴音さんのお話は終わったようですね。
だったら、今度は私が琴音さんに話を聞いてもよろしいですか?」
ヤシュラムさんは、ミディアちゃんに尋ねると、ミディアちゃんが私の方を見る。でも、
「いいえ、まだ話は終わってません。」
私がそう言うと、ミディアちゃんは驚いた表情に変わる。
どうやら、ミディアちゃんも私の話は終わったと思ってたらしい。
まあ、一番聞きたかったことは聞けたし、私の不安も解消できたから、これで終わってもよかったんだけど・・・
いや、やっぱりここで終わっちゃダメだ。
だって、ミディアちゃん達は私の大事な友達だから、本当のことを知っておかないとダメだ。
「ミディアちゃん、ルフィル・カロッサ一日目、私が帰った後に一体何があったの?」
こないだ、ヤシュラムさんが、ミディアちゃん達を守るために残っていると言ってた。
でも、リーヴァ王国の兵士であるヤシュラムさんが、どうしてミディアちゃん達を守ってるの?
きっと、何かとんでもないことが起こったからに違いない。
「そっか、そう言えば、そのことも琴音に話してなかったね。
これは別に隠してたわけじゃなくて、話すタイミングがなかっただけなんだけどね。」
ミディアちゃんはそう言うと、私が帰った後に起こったことを全て話してくれた。
ミディアちゃんがヴェルク帝国の特殊部隊に襲われたこと
その特殊部隊からミディアちゃんを守ったのは、ウィルト王子率いるリーヴァ王国軍だったこと
ミディアちゃんが襲われた理由は、ラーヴォルンでとてつもない巨大な魔力波動が観測されたからで、魔力から私とミディアちゃんの名前が観測されたからだということを。
せっかく、ミディアちゃん達のおかげで不安な気持ちが解消されたと言うのに、私の心の中は再び不安な気持ちでいっぱいになってしまった。
多分、巨大な魔力と言うのは、私が覆面2号と呼んでいる謎の敵が作ったラーヴォルンの複製に違いない。
覆面によると、あの記憶喪失事件は、覆面2号が私をラーヴォルンから追放するためにやったことだという。
だとしたら、ミディアちゃんは、私のせいで襲われたようなものじゃないか。
私がラーヴォルンに来たことで、みんなを危険な目に合わせてしまったんだ。
本当に・・・私はラーヴォルンに来てもいいのだろうか?
「まさか、琴音、もうラーヴォルンに来ないなんて言わないよね?」
まるで私の考えていることを見透かしたかのように、ミディアちゃんが私に訊ねてくる。
「でも、私のせいで、みんなを危険な目に合わせるわけには・・・」
「さっき、私、言ったよね?
私達の楽しい日々に、もう琴音は欠かせない存在だって。
お願い、琴音。
私達のことを思ってくれるんだったら、これからもラーヴォルンに来てください。」
ミディアちゃんはそう言って、私に頭を下げる。
よく見ると、ラーファちゃんとエレーネちゃんもアイちゃんも、不安そうな表情でこちらを見ていた。
「ミディアちゃん・・・わかったよ。」
私がそう言うと、ミディアちゃん達はすごく喜んでくれた。
確かに、私が来ることで、みんなを危険に巻き込んでしまうかもしれない。
でも、それを承知で、みんなが来てほしいというのであれば、私はこれからもラーヴォルンに来たい。
ウウン、何より私がみんなに会いたい。
私のことで、みんなが喜んでくれるのを見て、なんだかすごく胸が熱くなった。
「実は、私の聞きたかった話というのは、皆さんの言うところの記憶喪失事件についてです。」
そこにヤシュラムさんが割って入ってくる。
すると、ミディアちゃん達の表情からスーッと笑顔が引いていく。
「えっと、皆さんに勘違いしないでほしいんですけど・・・
私は、何も皆さんの友情を引き裂こうって思っているわけじゃないですからね。」
みんなの表情に気づいたヤシュラムさんが苦笑しながらそう言う。
「でも、その時の話は・・・」
ミディアちゃんはそう言って、私の方を見る。
そっか、私がその時の話をしたがらないことを、ミディアちゃん達は気にかけてくれてるんだ。
そんなミディアちゃん達の様子を見て、ヤシュラムさんも察したらしい。
「皆さんの気持ちはよくわかります。
しかし、ヴェルク帝国やガルティア帝国が動き出してしまった以上、これはもはや皆さんだけの問題では済まないのです。
私達は、リーヴァ王国の国民を守るためにも、真実を知る必要があるのです。」
確かに、事はもう、私とミディアちゃん達だけの問題では収まらない。
ヤシュラムさんの言うことは正しい。
「政府は、両国と水面下で交渉を行なってますが・・・現状では厳しい状況と言わざるをえません。
どうやら、ヴェルク帝国もガルティア帝国も、わが国が強力な魔導兵器を完成させたと考えているようです。
もちろん、政府は魔導兵器の開発を否定していますが、強力な魔力波動がアトゥア中で観測されているので、全く信用されていません。」
この数日で、まさかそんな大変なことになっていたとは思わなかった。
私の存在で、謎の敵が巨大魔法を使い、それが観測されたことで、ヴェルク帝国とガルティア帝国が動いてしまった。
ここまで話を聞いて、私はヤシュラムさんが私に何を聞きたいのか、何となくわかった。
「私が琴音さんに聞きたいことは、ただ一つです。
あの日、ミディアさん達が記憶喪失になった日、琴音さんはどこで何をやっていたのですか?」
ヤシュラムさんがそう言った瞬間、鼓動が激しくなったのが、自分でもわかった。
やっぱり、そのことだったか。
でも、あの日の出来事は、今までミディアちゃん達にですら話していない。
よりにもよって、あの時のことを私に話せと言うのか?
「琴音・・・大丈夫?」
ミディアちゃんが心配そうに私の顔を見る。
多分、今の私は怯えた表情になってるんだろう。
「琴音・・・無理して話さなくてもいいよ。」
ラーファちゃんもそう言ってくれた。
しかし、
「このままだと、またミディアさん達が襲われる可能性があります。
ミディアさん達を助けるためにも、琴音さん、お願いします。」
ヤシュラムさんはそう言って頭を下げる。
「どうやら、俺がラーヴォルンにいない間に、とんでもないことになってたみたいだな。」
私達の話を聞いていたヴィルトワさんも、険しい表情になっていた。
多分、ヴィルトワさんはエレーネちゃんのことが心配なんだろう。
どうしよう?
私は、あの日の出来事を話すべきなんだろうか?
いや、話すべきなんだろうけど・・・今でもあの時のことを思いだすのが怖い。
できれば、あの時のことを記憶から消してほしいくらいなのに・・・
どうしても話さないといけないのだろうか?
悩んでいたその時だった。
(琴音・・・今こそみんなに真実を話す時だ。)
突然、頭の中に覆面の声が聞こえてくる。
(今こそってどういうこと?)
(ここで、お前が真実を話せば、きっと敵は動き始める。)
(えっ、敵が動き始めるってどういうこと?)
(思い出せ。
あの記憶喪失事件の発端は何だったかを。)
覆面にそう言われ、私はあの時の記憶を探る。
(もしかして、ラーファちゃん?)
(そうだ。
だから、お前があの時の話をすれば、絶対にラーファは動く。)
それって、まさか覆面はラーファちゃんが敵だって言いたいの?
でも、複製先のラーヴォルンに、ラーファちゃんの姿はなかったし、まさか本当にラーファちゃんが?
いや、ラーファちゃんが敵なわけがない。
私は、何をバカなことを考えてるんだろう。
(言っておくが、私はラーファが敵だとは言ってないぞ。)
私の考えを見透かすように、覆面がそう言った。
(じゃあ、一体誰が?)
(それを、今から暴くのだ。
大丈夫、今度は私が監視している。
絶対に敵の動きを逃しはしない。)
覆面が力強くそう言う。
でも、私は不安をぬぐい切れなかった。
(仮に、敵が見つかったとして・・・覆面はどうするつもりなの?)
(それは、敵次第だ。)
それって、つまり、覆面2号の出方次第では、戦闘になるかもしれないってこと?
相手はラーヴォルンの複製が作れるほどの巨大な魔力の持ち主だ。
そして、多分、覆面もすごい魔法が使える強さだろう。
そんな2人が、もしラーヴォルンで戦闘を始めたら・・・きっとラーヴォルンはただでは済まない。
(もしかしたら、敵と戦うかもしれないってこと?このラーヴォルンで?)
(それは心配するな。
敵がお前を追放しようとしたのは、ラーヴォルンを守るためだ。
敵もラーヴォルンでの戦闘は好まないだろう。)
私を追放しようとしたのは、私からラーヴォルンを守るためってどういうことだろう?
少し引っかかるけど、そういうことだったら、ラーヴォルンで戦闘はないだろう。
ラーヴォルンで戦闘して、ラーヴォルンをメチャクチャにしちゃったら本末転倒だもんね。
(大丈夫だ・・・私を信じろ。)
覆面がもう一度強い口調でそう言った。
本当に、覆面を信じてもいいのかな?
覆面はなんだかんだで私のことを気にかけてくれてるし、だったら私も・・・
(それに、お前がこれからもラーヴォルンに来たいのであれば、これはいつかはくぐりぬけないといけない問題だ。
ここで解決すれば、もうお前がラーヴォルンにくるのを邪魔する者はいなくなる。)
確かに、覆面の言う通りだ。
覆面2号の問題を解決しない限り、私はいつまでも覆面2号の存在に怯え続けないといけない。
決着をつけよう。
正直、あの時のことを思いだすのは辛いけど・・・頑張って話そう。
それが、私の戦いだ。
(わかったよ。
でも、本当にラーヴォルンに被害を出さないでよ。)
(わかってる。任せておけ。)
覆面は力強く答えた。
「わかりました。
あの日あったことを、みんなにお話しします。」
私がそう言うと、ミディアちゃん達は驚いた表情を浮かべる。
「本当に、大丈夫なの、琴音?」
ミディアちゃんは私のことを心配してくれていた。
その隣では、ラーファちゃんも私のことをすごく心配してくれていた。
そのラーファちゃんの表情を見て、私は確信する。
大丈夫、ラーファちゃんは黒幕なんかじゃない。
だから、私の話を聞いても、ラーファちゃんに何も起こらない。
私は一回大きく深呼吸をして、あの日起こったことをみんなに話し始めた。
(用語集)
(1)イデアフィールズ
放送電波を受信して、映像や音声に変換する機械
また、映像イデアを再生したり、放送を映像イデアに記録することもできる
地球におけるテレビやビデオに相当する。
(2)ルフィル・カロッサ
ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。
毎年秋に開催される。
(3)魔力波動
魔法を使った時に発生するマーシャントの波のこと
魔力波動の大きさは、使用する魔力が大きくなればなるほど大きくなる。
アトゥアはマーシャントで満たされているので、発生した魔力波動はアトゥア中に伝播していく。
ただ、よほど大きな波でない限り、通常は他の波に打ち消されてしまう。




