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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
91/254

45.モヤモヤする気持ちの中で

<<琴音>>

 その後、私達は、ルーイエ・アスクからルフィルの遺跡へと歩いて行った。

 ミディアちゃん達は、ルフィルの遺跡の反対側から私達が来るのを見つけると、驚いた表情でこちらに駆け寄ってきた。

「どうして、こっちから琴音達が来るの?」

 まあ、ミディアちゃん達が驚くのも無理はないかな。

「エレーネ。」

 ラーファちゃんは、エレーネちゃんに一直線に突進すると、そのままの勢いでエレーネちゃんに思い切り抱きついた。

 そのラーファちゃんの行動に、エレーネちゃんも少し驚いていた。

「おいおい、どうしたんだ、ラーファ。」

「どうしたじゃないわよ。

 みんな、すごい心配してたのよ。」

「そっか、ラーファに心配かけちゃったな。

 ゴメンな。」

「そんな軽い謝罪で許すと思ったら、大間違いよ。」

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。」

「とりあえず、二ホンの謝り方で、私達に謝ってもらおうかしら。」

「ニホン流の謝り方って、どうやるんだ、琴音?」

 エレーネちゃんが私の方を見る。

「多分、2人は土下座のことを言ってるんだと思う。

 こう座ってね。

 頭を床にこすりつけながら、『申し訳ございません』って謝るんだよ。」

 私が土下座しながら説明すると、エレーネちゃんはプッと笑い出す。

「アハハハハ、ニホンの謝り方ってすごいんだな。」

「いや、これは最大級の謝罪の場合に使う行為だよ。」

「なるほど、最大級ね。

 でも、ここだとさすがに厳しいから、ルーイエ・アスクに戻ってからでいいかな、ラーファ?」

 エレーネちゃんはそう言って、ラーファちゃんに尋ねる。

 でも、ラーファちゃんも、隣にミディアちゃんも、驚いた表情で固まっていた。


「エレーネ、どうして琴音と会話できてるの?」

 どうやら、ラーファちゃんもミディアちゃんも、エレーネちゃんが私と会話できていることに驚いているみたいだった。

「ああ、これかあ。

 実は、例の部屋に行ったら、なぜか琴音と話せるようになったみたいなんだよ。」

 エレーネちゃんったら、また、口からでまかせを・・・

 でも、エレーネちゃんの冗談に、ミディアちゃんもラーファちゃんも、そしてアイちゃんも驚いていた。

「私も琴音と会話したい。

 ラーファ先輩、今すぐ私をその部屋に連れてってください。」

 アイちゃんは、真顔でラーファちゃんに頼みだし、

「あの部屋に・・・そんな力があったなんて・・・」

 ラーファちゃんは真顔で驚いていた。

「じゃあ、アイも行けば、私達、みんな琴音と会話できるようになるね。」

 ミディアちゃんはすごい喜んでいた。

 みんな、あっさりとエレーネちゃんの話を信じちゃうんだね。

「ちょっと、エレーネちゃん、これどう収拾するつもりなの?」

「あははは、こんなに信用するとは思ってなかった。」

 これには、エレーネちゃんも苦笑いするしかなかった。


「実は、これはさ・・・」

 エレーネちゃんが本当のことを話そうとした時、エレーネちゃんの背後にヴィルトワさんが姿を現す。

 そのヴィルトワさんの姿を見た瞬間、なぜかラーファちゃんの表情が強張る。

「どうして・・・あなたがここに・・・?」

「やあ、久しぶりだね、ラーファ。」

 ヴィルトワさんは、ラーファちゃんに向かって、ニコッと微笑む。

 でも、対照的に、ラーファちゃんの表情はどんどん強張っていく。

 ラーファちゃん、一体どうしたんだろう?


「えーっと、エレーネ先輩、こちらの方は?」

 ミディアちゃんがエレーネちゃんに尋ねる。

「ああ、これは私の兄貴だよ。」

「ええっ、エレーネ先輩のお兄さん!?」

 ミディアちゃんは突然のヴィルトワさんの登場に驚いていたけど、気を取り直してヴィルトワさんに挨拶をする。

「初めまして。

 私、ミディア・スフィルラン・ラーヴォルンといいます。

 今はルーイエ・アスクでラーファと一緒に生活しています。」

「へえ、ラーファと一緒に暮らしてるのか。

 そりゃあいい。」

 何がいいのかよくわからないけど、ヴィルトワさんは満足そうな笑みを浮かべる。

「相変わらずだな、兄貴は。」

 そんなヴィルトワさんを見て、エレーネちゃんはなぜか苦笑する。

「ねえ、相変わらずってどういうこと?」

 こっそりエレーネちゃんに尋ねると、

「兄貴は、昔から女の子同士が仲良くしているのを見るのが大好きなんだよ。」

「へえ・・・」

 ヴィルトワさんて、もしかして最近日本で増えている百合好きな男の子なんだろうか?

「なんか、お前が言うと、いかがわしさが増すんだよ。」

「でも、事実じゃん。」

「かわいい女の子が仲良くしている光景を見ると、心が洗われるだろう?」

「じゃあ、私とラーファで、兄貴は何度も心を洗われたってことだな。」

「かわいい女の子って言ってるだろう?」

「ちょっと、それって私やラーファはかわいくないってこと?」

「さっき、ラーファとミディアで心が洗われるって言っただろう。

 もう、あとはわかるな。」

「私とラーファがダメで、ラーファとミディアがOKってことは・・・

 もしかして、私がダメってこと?

 ヒドイよ兄貴。」

 エレーネちゃんは顔を膨らませる。

 そのエレーネちゃんの表情を見て、ヴィルトワさんは笑いだす。

 やっぱり、ヴィルトワさんがいる時のエレーネちゃんは、いつもと少し違うなあ。


「どうしたの、ラーファ?

 なんか、顔色が悪そうだけど・・・」

 ミディアちゃんが、ラーファちゃんに声をかける。

 さっきからラーファちゃんの様子がおかしい。

「何でもない。大丈夫よ。」

 ラーファちゃんはそう言うけど、傍から見ていても顔面蒼白って感じで、おまけになぜか冷や汗をかいているみたいで、気分がすぐれないのは一目瞭然だった。

 ヴィルトワさんの姿を見かけてから、ラーファちゃんの様子がおかしい。

 ミディアちゃんから、ラーファちゃんはヴィルトワさんのことが好きだって聞いてたんだけど・・・

 これは初恋の相手と再会したって感じではない。

 まさか、過去にドロドロの恋愛模様があったとか?

 いや、さすがにこの2人でその展開は想像しづらいんだけど・・・

「ところで、どうしてエレーネ先輩は琴音の姿が見えるようになったんですか?」

 アイちゃんがエレーネちゃんに尋ねる。

「そっか、そう言えばそれ話すのまだだった。」

 エレーネちゃんはそう言うと、ようやくみんなに本当のことを話した。


「自分の視覚と聴覚の一部を貸すなんて、そんなことができるんですか?」

 ミディアちゃんもアイちゃんも驚いているところを見ると、ヴィルトワさんがやったことは相当高度な魔法らしい。

「ヴィルトワさんに琴音の姿が見えるのは、やっぱりすごい魔法を使ってるからですか?

 ヴィルトワさんが凄い伝説の天才魔導士だって噂は本当だったんだ。」

 アイちゃんが少し興奮気味にそう言う。

 そんなアイちゃんを見て、ヴィルトワさんは苦笑いを浮かべる。

「別に俺は琴音を見るために魔法を使ってないよ。」

「えっ、そうなんですか?」

「なぜ、俺に琴音の姿が見えるのかは、俺にもわからないんだよね。

 それより、俺っていつの間に伝説の天才魔導師になったんだ?」

「学校の先生が色んな伝説を聞かせてくれましたよ。」

「へえ、例えば?」

 こんな感じで、アイちゃんとヴィルトワさんの会話が弾んでいく。

 エレーネちゃんは楽しそうにそれを聞いていて、時には会話に参加していた。

 でも、ラーファちゃんは完全に上の空で、顔の冷や汗はどんどん増えているようだった。

 ミディアちゃんは、2人の会話を聞いていたけど、やっぱりラーファちゃんの様子が気になるようで、時折ラーファちゃんの方をチラチラ見ていた。


「ラーファ、本当に大丈夫?」

 たまりかねたミディアちゃんがラーファちゃんに声をかけると、ラーファちゃんは首を横に振る。

「ゴメン、ちょっと気分悪いかも・・・」

「じゃあ、家に帰ろう。

 私も帰るから・・・」

「ウン・・・」

 ミディアちゃんは、話で盛り上がっているエレーネちゃんとアイちゃんに声をかける。

「あのう、話が盛り上がっているところ申し訳ないんですが、ラーファの気分がすぐれないみたいなので、私達は帰りますね。」

 ミディアちゃんがそう言うと、エレーネちゃんとアイちゃんはラーファちゃんの方を見る。

「大丈夫か、ラーファ?」

「大丈夫ですか、ラーファ先輩?」

 でも、ラーファちゃんの視線は、完全にヴィルトワさんを指していた。

 ラーファちゃんの視線にヴィルトワさんも気づいたようで、ラーファちゃんに声をかける。

「気分が悪いんだったら、家に帰って安静にした方がいい。」

「・・・そうさせてもらいます。」

 ラーファちゃんはヴィルトワさんにそう言うと、ルーイエ・アスクに向かって歩き出す。


「ラーファ。」

 家に帰ろうとするラーファちゃんをヴィルトワさんが呼び止める。

「俺が撮影してきたイデアは、全部見ているか?」

 そして、ラーファちゃんに向かって妙なことを尋ねる。

「ええ、全部見ていますよ。

 それがあなたとの約束でしたからね。」

「そうか・・・ならいい。」

 ヴィルトワさんはラーファちゃんの返事に納得したのか、再びアイちゃんとの会話に戻っていった。

 そう言えば、ラーファちゃん、いつもエレーネちゃんのお店でイデアを購入してたけど、あれってヴィルトワさんとの約束だったの?

 今、初めて知った。

 離れ離れの片思いの相手が撮ってきた風景を、一途に集めているラーファちゃん。

 こう言うと、すごい甘酸っぱい恋愛って感じがするんだけど、今のラーファちゃんを見ていると、どうもそんな感じには思えない。

 片思いの相手と出会って、気分が悪くなるなんて、ちょっと考えられない。

 やっぱり、2人の間にドロドロの愛憎劇があったのかな?


「待って、ラーファ。」

 ミディアちゃんがラーファちゃんの後を慌てて追いかける。

「私も行くよ、ミディアちゃん。」

 私もミディアちゃんとラーファちゃんの後を追いかけようとしたんだけど、

「えーっ、琴音も行っちゃうの?

 せっかく話ができるようになったのに・・・」

 エレーネちゃんがすごい不満そうな表情でこっちを見ていた。

「いいよ、琴音はエレーネ先輩やアイと一緒にいてあげて。」

 ミディアちゃんはそう言うと、ラーファちゃんを追いかけて行ってしまった。

 今日はミディアちゃんやラーファちゃんから色んな話が聞けると思っていたのに・・・

 結局、何の話を聞くこともできなかった。

 どうしてこうなっちゃうんだろう?

 結局、この日は心のモヤモヤが解消されることがないまま、ラーヴォルンを去ることとなった。



<<ミディア>>

 本当にラーファはどうしちゃったんだろう?

 朝はすごい元気だったんだけどな。

 これって、やっぱりヴィルトワさんと再会したからなのかな?

 ラーファとヴィルトワさんの間に一体何があったのか気になるけど、今のラーファにそれを聞くのは無理だ。

「ゴメンねミディア、心配かけて。」

 ラーファが私に謝る。

 でも、心なしか、さっきよりは元気になったみたいだ。

「ウウン、それよりも今日は家に帰って安静にしていよう。」

「そうね。」


 でも、家に着く頃には、ラーファはもうほとんどいつもの調子を取り戻していた。

 それから、ラーファの部屋で2人で色々と話をした。

 その頃には、ラーファはもう完全にいつものラーファに戻っていた。

 今ならヴィルトワさんのことが聞けるかも・・・

 でも、聞いた瞬間に、また気分を害されても困るし・・・

 ああ、なんかすごいモヤモヤする。

 聞きたいことが聞けないって、こんなにもモヤモヤするものなんだ。

 その時、私は話を聞きたいと言っていた琴音のことを思いだした。

「しまった、後で琴音の話を聞くって言ってたのに、すっかり忘れてた。」

 もしかして、琴音もずっとこんなモヤモヤした気分を抱えた状態なのかな?

 だとしたら、琴音に悪いことしちゃったな。

「もう外は暗くなり始めてるし、さすがに琴音は帰っちゃったでしょうね。」

 ラーファの言う通り、外は暗くなり始め、街には明かりが灯り始めていた。

 昨日はお仕事で全く琴音の相手ができず、今日もほとんど琴音と会話ができないまま終わってしまった。

 このままじゃ絶対にダメだ。

「明日こそ、絶対に琴音の話を聞こう。

 このままだと、本当に琴音に申し訳ないよ。」

「そうね、今日はあの子のことをおざなりにしちゃったからね。

 琴音が私達に何を聞きたいのかわからないけど、明日は琴音の話を聞く日にしよう。」

「ウン。」


 自分の部屋に戻ると、窓から外の景色を眺める。

「琴音・・・きっと怒ってるだろうなあ。」

 沈んでいく夕日を眺めながらそんなことを考えているうちに、ふと嫌な予感にかられる。

 まさか、琴音、怒って、もうラーヴォルンに来ない・・・なんてことないよね?

 でも、一度気になり始めると、嫌な予感が収まることはなく、どんどん悪いことばかり考えてしまう。

 琴音、明日こそは絶対に絶対に話を聞くから・・・

 だから、明日もラーヴォルンに来て・・・お願い・・・

 気がつくと、私は沈みゆく夕日に祈るようにお願いしていた。


 コンコン

 部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 返事をすると、部屋にラーファが入ってきた。

「ミディア、夕飯できたって。」

 ラーファは夕飯ができたことを、私に伝えに来たみたいだ。

 でも、私の顔を見るなり、ラーファは

「琴音だったら、きっと大丈夫よ。

 明日もいつもみたいに、その窓から勢いよく飛び込んで来るわよ。」

「今日はあんまり勢いよくじゃなかったけどね。

 明日は、琴音と色んなことをお話しして、またいつもみたいに元気な琴音に戻ってほしいんだ。」

「そうね。

 でも、今思い出したんだけど、確か繰り上げ検定って明後日じゃなかったっけ?

 明日は少しは練習した方がいいんじゃないの?」

「ウウン、明日は琴音との約束を一番にしたい。」

「そっか、ミディアがそうしたいんだったら、それでいいと思う。」

 ラーファはそう言って、私の考えに賛同してくれた。

 確かに繰り上げ検定は、実技レベルを上げたい私にとって、またとないチャンスだ。

 でも、琴音はそれ以上にもっと大事な、私の親友だ。

 だから、今は琴音の方を優先したい。

 琴音、明日こそは話を聞くから、絶対にラーヴォルンに来てね。

 私は心の中でもう一度そう祈った。


<<琴音>>

 結局、何も聞くことができないまま目覚めて、モヤモヤした一日を過ごすことになった。

 お昼に日花里ちゃんが遊びに来たので、昨日会ったことを話すと、

「最近の琴音、何か少し神経質になりすぎじゃない?」

と言われてしまった。

 確かに、最近の私は少し神経質なのかもしれない。

 でも、それだけ私にとって限界寿命の話はショックだったということなのだろう。

 他にも、最近なぜか漠然とした不安を感じるようになっている。

 でも、一体何に対して不安を感じているのか、自分でもよくわからない。

 こんな感情になったのは、生まれて初めてかもしれない。

 正体のわからない何かに不安を感じるなんて・・・

 この感情は、一体どこから現れてくるのだろう?


「琴音、今日泊まっていってもいい?」

 日花里ちゃんが笑顔で話しかけてくる。

 どうやら日花里ちゃんは、旅行から帰ってきてからも楽しい夏休みを満喫しているようだ。

 私も少しは日花里ちゃんを見習わないといけない。

「ウン、いいよ。」

 私がそう答えると、日花里ちゃんは手持ちのカバンから小さなノートを取り出した。

 なぜ、ノートを?

 もしかして、夏休みの宿題を気にしてくれてるのだろうか?

 確かにいつもは日花里ちゃんのお世話になったけど、今年は違う。

「日花里ちゃん、私、もう夏休みの宿題は全部片づけたよ。」

 でも、私がそう言うと、日花里ちゃんは首を横に振った。

「違うわよ。

 琴音、ミディアちゃん達に何を聞きたいのか、ハッキリしないんでしょ?

 だから、ノートに書いてみたら、少しは整理できるんじゃないかと思ってね。」

「なるほど、それはいい手だ。」


 それから、私は日花里ちゃんと一緒に、ノートに聞きたいことをまとめてみることにした。

「まず、限界寿命に関係した話であることは間違いないんだよね。」

「ウン、それは間違いない。」

「確かに、あの話はショックだったわね。」

 どうやら日花里ちゃんも、限界寿命の話はショックだったみたいだ。

 ラーヴォルンだけではなく、アトゥアに生きる人の限界寿命が、どんどん短くなっていて、ついに48歳まで下がってしまった。

 しかも、ここ10年ぐらい、ずっと下がり続けているそうだから、これからも下がり続ける可能性が高い。

 つまり、ミディアちゃんは、もしかしたら40歳まで生きられないかもしれない。

 寿命が自分の年齢に迫ってくる恐怖って、どんな感じなんだろう?

 きっと、この恐怖は、高齢化社会に生きる私には理解できない恐怖なんだろう。


「琴音が限界寿命の話を知ったのは、イデアフィールズの番組で知ったんだよね?」

「ウン、そうだよ。」

「どうしてミディアちゃん達は琴音に限界寿命のことを話してくれなかったんだろう?」

 日花里ちゃんが私に聞いてくる。

 そのことは私も気になっていた。

 私がラーヴォルンに行くようになってから2か月ぐらい経つけど、ミディアちゃん達から限界寿命の話が出てきたことは一度もない。

 でも、気になるのは、そこではなかったような気がする。

「日花里ちゃんは、もし寿命が縮んで長生きできないとわかったらどうする?」

 私がそう尋ねると、日花里ちゃんは首を傾げる。

「さあ、こればかりは実際になってみないとねえ。」

 やっぱり、日花里ちゃんも想像しづらいようだ。

「ガンとかで余命いくばくもない状態と同じだと考えたら・・・多分、怖いとは思うだろうね。」

「そうだね。」

 日花里ちゃんは、今まで話したことをノートに書いて行く。


「あと、他に気になることは?」

 日花里ちゃんが私に訊ねてくる。

「あとは、いつの間にか私がルフィルにされていることかな。

 グラド・ルガンテの映像が番組で流れてたんだけど、映ってたのは私だけだった。

 ミディアちゃん達も一緒にいたはずなのに・・・」

「なるほど。」

「でも、あれはきっと覆面の仕業だろうね。」

 私がそう言うと、日花里ちゃんのペンの動きがピタッと止まる。

 心なしか、日花里ちゃんの表情が少し強張ったような気がする。

「日花里ちゃん?」

「えっ、ああ、何でもないよ。」

 日花里ちゃんは気を取り直すと、私に続けて話すよう促した。


「あの番組によると、アトゥアの限界寿命が低下している理由は、アトゥアのマーシャントの量が減ってるからだって言ってた。

 日花里ちゃんはマーシャントって知ってる?」

「あの番組は私も見ていたから、何となくはわかるわよ。

 生物が必要とする生命エネルギーのようなものでしょ。

 それで、確か魔法のエネルギー源でもあったわよね。」

「そう、そのマーシャントを宇宙からアトゥアに運んでくるのがルフィルの仕事なんだって。」

「で、なぜか琴音はルフィルになっていて、琴音がサボっているから、アトゥアの寿命が短くなっているってことになってたわね。」

「そうなんだよ。

 私、何も悪いことしてないのに、次の日にはアトゥアを滅ぼそうとしている大悪人にされてたんだよ。」

 私が怒りながらそう言うと、日花里ちゃんはクスッと笑う。

「まあまあ、琴音の姿が見えるのはミディアちゃんとラーファちゃんだけなんだし、他の人がどう思うとあんまり気にすることないんじゃない?」

 そっか、日花里ちゃんは知らないんだった。

 昨日、私の姿が見える人が、もう一人増えたことを。


「へえ、エレーネちゃんのお兄さんも、琴音の姿が見えるんだ。」

 昨日あったことを話すと、日花里ちゃんは驚いていた。

「それはそれで驚くことなんだけど、2人が3人になっただけだし、とりあえず今は置いておきましょう。

 で、ここまでの内容をノートにまとめてみたけど、何か思い浮かんだ?」

 日花里ちゃんは、まとめたノートを私に手渡す。

 私は、日花里ちゃんのノートをじっくりと眺めてみた。

 でも、

「やっぱり、思い出せない。」

 あの日は、他にもエレーネちゃんが泣いていたりと、色んな事がありすぎた。

 ミディアちゃんとラーファちゃんが両親の代わりに一日社長になった理由を想像して、すごいブルーな気分になったのは覚えている。


「ミディアちゃんとラーファちゃんが両親の代わりに働いてたのって、やっぱり限界寿命と関係あるのかな?」

 私がそう呟くと、突然日花里ちゃんが

「それだ。」

 強くそう言った。

「えっ、何が?」

「琴音がミディアちゃん達に聞きたいことよ。

 これは私の直感なんだけど、多分、そこが出発点なんじゃないかな?

 きっと、その質問の先に、琴音の聞きたいことがあるような気がする。」

 日花里ちゃんの言う通りかもしれない。

 私はそこで何かを感じて、そしてその後の花火大会で漠然とした不安を抱えるようになって、ミディアちゃん達に聞きたいことができたんだと思う。

 でも、この質問って結構ヘビーな質問だよね。

 限界寿命に触れるのみならず、ラーファちゃんの両親が限界寿命に近いことを、嫌でも認識させてしまう。

 私の不安を解消するためとはいえ、こんなことを聞いてもいいのだろうか?

「まあ、聞くも聞かないも、琴音の自由よ。

 どうやら、私にできることはここまでのようね。」

 日花里ちゃんはそう言って立ち上がる。

「日花里ちゃん?」

「今日は琴音の部屋に泊まるから、色々と準備しないとね。」

 日花里ちゃんはそう言うと、着替えとかを取りに一旦家に帰った。

 部屋に残されたノートを眺めながら、私はミディアちゃんに聞くべきかどうかを考えた。

 でも、どんなに考えても、結局答えが出ることはなかった。

 30分ほどして、日花里ちゃんが着替えとかを持って、部屋に戻ってきた。


 それから、日花里ちゃんと部屋でゲームしたり、色んな話をしたりした。

 でも、限界寿命の話に日花里ちゃんが触れることはなかった。

 私はどうすればいいんだろう?

 友達を不安な気持ちに叩き落としてでも、質問をするべきだろうか?

 結局、寝る時間になっても、結論を出すことはできなかった。

「琴音、おやすみ。」

 日花里ちゃんはそう言うと、私の手を握った状態でさっさと眠ってしまった。

 私も結論は出なかったけど、睡魔には勝てずに、気がついたらラーヴォルンに来ていた。


「とりあえず、ミディアちゃん達に会ってから考えよう。」

 いつものように結論を先送りにして、まずはミディアちゃんの部屋に行くことにした。

 確か、今日から学校のはずだから、もしかしたらまだ帰ってきていないかも。

 そんなことを考えながら、ミディアちゃんの部屋に入る。

 でも部屋には、私の予想に反して、ミディアちゃんが待っていた。

 いや、正確にはミディアちゃんだけでなく、ラーファちゃんもエレーネちゃんもアイちゃんもいて、なぜかみんな正座していた。

「みんな、どうしたの?」

 私がそう尋ねると、みんな一斉に私に向かって土下座する。

「琴音、昨日は本当にゴメンなさい。」

「ちょっと、お願いだから土下座はやめてよ。」

「本当に昨日はゴメンね。

 今日はちゃんと琴音の話を聞くから。」

 ミディアちゃんは私にそう言ってくれた。

 でも、本当に聞いてもいいのだろうか?

 聞いて、みんなの気分を害したりしないだろうか?

 この期に及んで、未だに決心がつかない私だったけど、そんな私の気持ちに気づいたのか、ラーファちゃんが私に話しかけてきた。

「実は私、琴音が何を聞きたいのか、何となく察しはついてるのよ。」

「実は、私も・・・」

 ラーファちゃんに続いて、ミディアちゃんもそう言った。

「えっ!?どうして!?」

「だって、琴音、私達に聞きたいことがあるって言ってたのに、聞くのをためらってたでしょ。

 昨日、あれから色々考えたんだけど、琴音が私達に聞くのをためらうようなことって、あのことしかないなあって思ったんだ。

 琴音は私達に気を遣ってくれているのかもしれないけど、私達なら大丈夫。

 だから、遠慮なく話して、ね?」

 ミディアちゃんが笑顔でそう話してくれるのを見て、思わずまたうるっと来てしまった。

 でも、今は泣いちゃダメだ。

「ありがとう、ミディアちゃん。」

 おかげで、私の覚悟も決まったよ。

「じゃあ、色々聞かせてもらうね。」

 私はそう言うと、今まで聞くのをためらっていた質問を、ミディアちゃんに向かって投げかけることにした。


(用語集)

(1)ルーイエ・アスク

ラーファの両親が経営する宿泊施設。

施設内にはレストランもあり、比較的大きな宿泊施設のように思えるが、これでもラーヴォルンの宿泊施設の中では小さい部類に入るらしい。


(2)アトゥア

ミディア達が住む世界のこと。

幾つかの国が存在し、エレーネ曰く秘境と呼ばれる場所が存在するらしい。


(3)イデアフィールズ

放送電波を受信して、映像や音声に変換する機械

また、映像イデアを再生したり、放送を映像イデアに記録することもできる

地球におけるテレビやビデオに相当する。


(4)マーシャント

マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。

生命や星は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。

地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。


(5)ルフィル

星の生命の流れを導く存在。

死にゆくものの魂を天に返し、生まれゆく者の魂をこの星に導くための存在。

アトゥアでは、自分達が生きていられるのは、ルフィルのおかげと思っている人達が多く、ルフィル信仰が盛んである。


(6)グラド・ルガンテ

アトゥア唯一の浮遊大陸。

しかし、これまで誰も上陸できた人はおらず、いつからかルフィルの住む島として神聖視されるようになった。

グラドとは、神聖な人や場所につける称号で、ルフィル説が定着するようになってから、グラド・ルガンテと呼ばれるようになった。


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