表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
90/254

44.遺跡の中で待っていたもの

<<琴音>>

 昨日から、わからないことや不安なことがいっぱいあり過ぎて、心がずっとモヤモヤしていて、すごい嫌な気分だ。

 だから、色々と話を聞きたいのに・・・またお預けだ。

 ルフィル・カロッサみたいに楽しいことでお預けを食らうのは別にいいんだけど、不安なことでお預けを食らうと、すごいイライラする。

 でも、聞けるチャンスが2回もあったのに、躊躇してしまった私も悪い。

 だって、いざ聞こうとしたら、なんか聞くのが怖くなったから・・・


「ねえ、ラーヴォルンの限界寿命がどんどん下がってるって本当なの?」

 こんなことを聞いたら、ミディアちゃん達は一体どんな表情になるだろう?

 ミディアちゃんもラーファちゃんも、今日はすごい楽しそうにしてたのに、私の発言で、その場の空気が一気に凍りついてしまうかもしれない。

 そう思ったら、なかなか聞くことができなかった。

 でも、よく考えたら、限界寿命が本当なのかをミディアちゃん達に聞くのもおかしな話だ。

 イデアフィールズの番組でやっていたことなんだから、限界寿命の話は本当のことなんだろう。

 だとしたら、私がミディアちゃん達に聞きたかったことはなんだろう?

 きっと私自身、ミディアちゃん達に何を聞きたかったのかを整理できていないんだ。

 だから、うまく話が聞けないんだと思う。

 ここは一度整理しよう。

 限界寿命が低下しているのは事実として、私はミディアちゃんに何を聞きたかったんだろう?

 どうも、うまく考えがまとまらない。

 多分、心がざわざわするせいだろう。

 花火大会の辺りから、妙に心がざわざわして、ずっと落ち着かない。

 でも、どうしてこんなに心がざわついているのか、その理由がはっきりわからない。

 ダメだ、また余計なことを考えてしまっている。

 とりあえず、心がざわつく理由は置いといて、今はミディアちゃんに何を聞くかをはっきりさせないと。

 多分、私は、ミディアちゃん達に何かを確認したかったんだ。

 でも、一体何を確認したかったんだろう?


「琴音、私の話、ちゃんと聞いてる?」

 ラーファちゃんの大声で、ハッと我に返る。

 どうやら、ラーファちゃんは、遺跡の隠し部屋の位置を私に話してくれてたみたいなんだけど、考え事してて全然聞いてなかった。

「ゴメンね、ラーファちゃん。

 ちょっとボーッとしてた。」

 私がそう返事すると、ラーファちゃんはすごいイラッとした表情を見せた。

「琴音、アンタやる気あるの?」

「ゴ、ゴメン・・・」

 こんなに怒ったラーファちゃん、初めて見た。

 よっぽどエレーネちゃんのことが心配なんだな。

「ちょっと、ラーファ、そんなに怒ったら、琴音がかわいそうだよ。」

 ミディアちゃんが何とかラーファちゃんをなだめてくれた。

「もう一度説明するから、今度はちゃんと聞いててよ。」

「ウン、わかった。」

 私が返事すると、ラーファちゃんはさっきしたであろう遺跡の隠し部屋の入口についての説明をもう一度始めた。


「遺跡の後ろが高く切り立った崖になってるでしょ。

 で、崖の真ん中あたりに、大きな木が生えている場所があるでしょ。

 あの木を3歩ほど左に行った場所に隠し部屋の入口があるわ。」

「えっ、あんな高いところに!?」

 ラーファちゃんの言われた場所を見てみたけど、ここからだとただの崖にしか見えなかった。

 どうして、あんな変なところに隠し部屋の入口があるんだろう?

「じゃあ、行ってくるよ。」

「頼むわよ。

 もしエレーネがいたら、すぐに戻ってきて、私に教えてね。」

「ウン、わかった。」

 とりあえず、エレーネちゃんを探しに行こう。

 質問は、エレーネちゃんを見つけてからすればいい。

 私は気を取り直して、ラーファちゃんから教わった場所に向かうことにした。


 それから、私はラーファちゃんの教えてくれた壁の前までやってきたけど、見た目にはただの壁にしか見えなかった。

 それにしても、前から思ってたんだけど、こうして見ると、ルフィルの遺跡って結構危ないところにあるなあ。

 もし、台風とかで崖が崩れたら、ふもとにある遺跡はペシャンコになっちゃうと思うんだよね。

 もしかして、遺跡になっちゃったのって、崖崩れで潰れちゃったからだったりして。

 でも、ラーヴォルンってあまり雨が降らなさそうだから、もしかしたら台風とか来ないのかもしれない。


 じゃあ、とりあえず壁に入ってみるとするかな。

 こういう時は、私の体は本当に便利だ。

 どこにでもすり抜けられるからね。

 私は、壁の中に飛び込んだ。

 しかし、土があるだけで、部屋らしきものは見えてこない。

 もしかして、ラーファちゃん、場所間違えたのかな?

 でも、しばらく進むと、突然空間が現れた。

 これは、明らかに人工的な通路だ。

 ちょっとずれてたみたいだけど、本当に隠し通路があったよ。

 しかも、土の中にあるのに、ほのかに明るい。

 何やらよくないものが出てきそうな感じがして、少し怖くなった。

 エレーネちゃん、こんなところによく一人で来れるなあ。

 ていうか、どうやってこの隠し通路まで来てるんだろう?

 もしかしたら、開けゴマみたいな呪文で、入口が開く仕組みなのかもしれない。

 でも、遺跡でそんなことをしたら、すごい大騒ぎになると思うんだけど・・・

 エレーネちゃんのお兄さんは、どうやってこの通路を発見したんだろう?


 通路は一本道で、ずっと長く続いていた。

 一体どこまで続いてるんだろう?

 でも、しばらく進むと、彼方に明かりが見えてきた。

「もしかして出口に着いちゃったかな?」

 最初はそんな心配をしたけど、しばらく進むと、どうやら出口ではなく、奥に部屋があって、その部屋から漏れてきた明かりだと言うことがわかった。

 部屋に明かりがついているってことは・・・やっぱりここにエレーネちゃんがいるんだ。

 そう思い、部屋に飛び込もうと思ったけど、少し冷静に考えて思いとどまる。

 あの部屋にいるのは、本当にエレーネちゃんなのだろうか?

 もしかしたら、魑魅魍魎の類がいるのかもしれない。

 なんてったって、ルフィルの遺跡だからね。

 何が出てきてもおかしくない。

 でも、ラーファちゃんに頼まれた以上、確認しないわけにはいかない。

 まずはそーっと部屋を覗いて、エレーネちゃんがいるかだけを確認しよう。


 こういう時には、やっぱり私の体は便利だ。

 どこにでもすり抜けられるし、壁の中にも潜めるからね。

 慎重に壁の中を進んで、部屋の中が見えるくらいまでの位置にたどり着く。

 部屋の中を覗き込むと、明かりがついた部屋の中で、男の人が椅子に座って、何やら本を読んでいた。

 こんなところで読書って・・・

 でも、静かだし、読書するには快適な場所かもしれない。

 とりあえず魑魅魍魎の類はいなさそうなので、少し安心しながら部屋の中を見渡す。

 すると、部屋の奥にあるベッドで、誰かが眠っているのが見えた。

 でも、色々と物が置いてあって、ここからじゃ見えない。

 仕方がないので、見える位置まで壁の中を移動することにした。

 この人は一体何者なんだろう?

 移動している間、男の人のことばかり考えていたけど、ベッドが見える位置に来て、ベッドに眠っている人物の姿を見た瞬間、私は凍りついてしまった。


 ベッドの中では、エレーネちゃんが眠っていた。

 でも、眠っているエレーネちゃんは、どう見ても衣服を着用しているようには見えなかった。

 よく見ると、ベッドの横には、昨日エレーネちゃんが来ていた服が畳んで置いてあった。

 これって、まさか・・・

 エレーネちゃんが泣いていたところを、あの男の人にここまで連れ込まれて・・・そして・・・そして・・・

 最悪の考えが頭をよぎって、気がついたら、


「エレーネちゃん!!!」


 私は大声を上げて、エレーネちゃんの元に駆け寄っていた。

「エレーネちゃん、大丈夫!?エレーネちゃん!?」

 でも、エレーネちゃんは目覚めない。

 エレーネちゃんには私の姿も見えないし、声も聞こえないのだから、当然だ。

 でも、私は声を上げずにはいられなかった。

 ラーファちゃん達に知らせに行こうとか、そんな考えは頭からすっ飛んでしまっていた。

「エレーネちゃん、起きてよ。エレーネちゃん。」

 私は、ただひたすらエレーネちゃんの名前を呼んでいた。

 最悪の想像が頭から離れない。

 どうして、こないだから不安になることばかり続くんだ?

 エレーネちゃん、お願いだから起きてよ。


「さっきからうるさいなあ。

 一体何事だ?」

 さっき、本を読んでいた男の人が、こちらにやってくる。

 そして、男の人は、私の方に視線をやると、私に向かってこう言った。

「君は一体誰だ?」

 心臓が止まるかと思うくらい、ドキッとなった。

 まさか、この人、私の姿が見えてる?

「えーっと、君、どこかで見たことが・・・

 あっ、そうか、こないだイデアフィールズの番組でやってたルフィル様だった。」

 男の人はそう言うと、私に向かって頭を下げる。

「これはこれはルフィル様。

 こんなむさ苦しいところにようこそ・・・ってここは元々ルフィル様の場所だったか。」

 目の前の男の人はそう言ってニコッと笑う。

「違う、私はルフィルじゃない。」

「ルフィル様じゃないとしたら、君は一体何者なんだ?」

 男の人はそう言って、私に訊ねてくる。


「ウウン、うるさいなあ。」

 とそこに、エレーネちゃんが目を覚ます。

 エレーネちゃんは体を起こすと、下着は身につけていたけど、それ以外は何も身につけていない状態だった。

「うわあ、エレーネちゃん、男の人がいるのに起きちゃダメ。」

 でも、私の声がエレーネちゃんに聞こえるわけがなく、エレーネちゃんはそのままベッドから起き上がってしまった。

 男の人は下着姿のエレーネちゃんの方に近づいていく。

 これって、まさか・・・

「エレーネちゃん、逃げて!!!」

 私は必死に叫ぶけど、エレーネちゃんは全く逃げようとしない。

 もしかして、怖くて逃げることもできないのだろうか?

 だとしたら、私が何とかしないと。

 ここで、ようやく私はラーファちゃんのことを思いだす。

「待っててね、エレーネちゃん。

 今すぐ、ラーファちゃんに知らせて、助けてもらうからね。」

 私がそう言って、部屋を飛び出そうとしたその時だった。


「エレーネ、年頃の女の子なんだから、もう少し恥じらいってもんがあってもいいんじゃないか?」

 男の人がエレーネちゃんに向かってそう言った。

 えっ、まさか、この人ってエレーネちゃんと知り合いなの?

 そう思っていたら、

「誰も来ない密室で、目の前で年頃の女の子が下着姿になってるのに、どうしてそんなに平然としていられるかなあ?

 なんか、女としての魅力がないみたいで、少し傷つくよ。」

 エレーネちゃんはそう言ってぷくっとふくれる。

 こんなエレーネちゃん見るの、初めてだ。

「いや、妹の裸見て興奮したらマズいだろ。」

 えっ、妹・・・てことはまさか、この人ってエレーネちゃんのお兄さん?

「チェッ、どうせ私は全然色気のない女だよ。」

「色気のある女性になりたかったら、まずは服を着ろ。」

 男の人はそう言って、エレーネちゃんに服を渡すと、エレーネちゃんは不満そうに着替え始める。


「ところで、兄貴、さっき誰と話してたの?」

 服を着ながら、エレーネちゃんがお兄さんに話しかけると、お兄さんはニヤリと笑みを浮かべる。

「実は、今ここに、もう一人いるって言ったら、エレーネ信じるか?」

 普通だったら、遺跡の中でこんなこと言われたら、幽霊の類がいると思って怖がるところだけど、

「えっ、本当に?

 どこ、どこにいるの?」

 そこはエレーネちゃんだ。

 目を輝かせて、部屋の中をキョロキョロ見渡していた。

「今、俺の目の前にいるよ。」

「えっ、本当に?

 でも、私には何も見えないけど・・・」

「そうか、エレーネには見えないのか。」

「なんか悔しい。」

 今日のエレーネちゃん、なんかテンション高いなあ。

 昨日ずっと泣いてたのが嘘みたいだ。


「じゃあ、俺の視覚と聴覚の一部を、エレーネに貸してやる。」

 エレーネちゃんのお兄さんはそう言うと、エレーネちゃんの頭に手を当てて、何やら呪文を唱え始める。

 そして、しばらくすると、エレーネちゃんのお兄さんの手が一瞬だけ強く光った。

「これで、エレーネにも俺の見ているものが見えるし、俺の聞いている音も聞こえるはずだ。」

「本当だ。兄貴の目の前に人がいる。

 って、まさか琴音!?」

 エレーネちゃんはそう言って、私に話しかけてくる。

 どうやら、本当にエレーネちゃんにも私の姿が見えているみたいだ。

「ウン、そうだよ、エレーネちゃん。」

 私がそう言うと、エレーネちゃんは満面の笑みを浮かべる。

「琴音の声が・・・私にも聞こえた。

 やったあ、やっと、琴音と会話ができた。

 今までラーファやミディア経由でしか会話できなかったから、すごい嬉しい。」

「私も、エレーネちゃんと会話ができて、すごい嬉しい。」

「でも、どうしてこんなところにいるんだ?」

「ラーファちゃんに教えてもらったんだよ。

 エレーネちゃんが家に帰ってこなかったから、みんなすごい心配してるんだよ。

 特に、ラーファちゃんはすごい心配してるんだから。」

「そっか、みんなに心配かけちゃったなあ。」

 エレーネちゃんはそう言って苦笑する。


「エレーネ、こちらの女の子は知り合いなのか?」

 エレーネちゃんのお兄さんがそう言うと、

「ウン、この子は由姫咲 琴音。

 遠い地球って星から来た私達の親友だよ。」

 エレーネちゃんがそう言ってニコッと笑った。

 エレーネちゃんが言った私達の親友って言葉に、なんかすごい胸が熱くなった。

 だって、エレーネちゃんとは直接会話できなかったから、どうしても親密度は直接会話ができるミディアちゃんやラーファちゃんに劣ってしまう。

 でも、エレーネちゃんは、何の迷いもなく、私のことを親友と言ってくれた。

 今まで、一度も会話したことのない私のことを・・・

 だから、それがとても嬉しくて嬉しくて・・・

「おいおい、琴音、何で泣いてるんだよ。」

 エレーネちゃんは驚いていた。

「だってえ・・・」

「ハハハ・・・琴音って本当に泣き虫なんだな。」

「泣き虫じゃないよ。」

 本当に私は泣き虫じゃないんだよ。

 これは、さっきの親友発言が不意打ちすぎただけなんだよ。

 でも、すごい嬉しかった。


「そっか、エレーネの親友か。

 じゃあ、俺もちゃんと挨拶をしておかないとな。

 俺の名前は、ヴィルトワ・ヴォルティス・ラーヴォルン。

 そこにいるエレーネの兄です。」

 ヴィルトワさんはそう言って、私に向かってお辞儀をする。

「ゆ、由姫咲 琴音と言います。

 よろしくお願いします。」

 私も、あわててヴィルトワさんにお辞儀を返す。

「でも、どうして兄貴には琴音の姿が見えるんだ?

 私には全然見えないのに・・・」

「さあな、どうしてだろうな?」

「私の方が琴音との付き合いが長いのに。」

 エレーネちゃんは少し不満のようだった。

 でも、本当にどうして、ヴィルトワさんに私の姿が見えるんだろう?

 これで、私の姿が見える人は、ミディアちゃん、ラーファちゃん、ヴィルトワさんの3人になった。

 私の姿が見える人と見えない人の違いは一体何だろう?

 少し気になったけど、今はそれよりももっと気になることがあった。


「と、ところで、エレーネちゃん、さっき裸で寝てたみたいだけど・・・」

 私が恐る恐るそう聞くと、エレーネちゃんはなぜかニヤリと笑いだす。

「あちゃあ、琴音に見られちゃったかあ。

 私と兄貴との禁断の愛を。」

「き、禁断の・・・愛・・・だと!?」

 それって、つまり、エレーネちゃんとお兄さんがそういう関係ってこと?

 いや、世の中には色んな恋愛があってもいいと、私は思うんだよ。

 思うんだけど・・・さすがにこれにはビックリした。

「えーっと、琴音。

 エレーネの言うことを真に受けないでね。

 単にコイツが服のままで寝るのが嫌だって言って、服を脱いで寝てただけだから。」

 ヴィルトワさんはそう言うと、エレーネちゃんはため息を一つつく。

「こんな絶世の美少女が目の前で裸でいたのに、全くの無反応だなんて・・・兄貴、男として大丈夫か?」

「自分のことを絶世の美少女って言うか。」

「でも、兄貴にとって、私は自慢の妹なんでしょ。」

「まあ、それは否定しない。」

 ヴィルトワさんがそう言うと、エレーネちゃんは満面の笑みを浮かべる。

 こんな嬉しそうなエレーネちゃんの笑顔、初めて見たかも。

 どうやら、2人が禁断の恋愛関係にあるってのは、エレーネちゃんの冗談のようだ。

 でも、とても仲のいい兄妹であることは、今のやりとりだけでよくわかった。


「よかった。

 昨日、エレーネちゃんがずっと泣いてたから、私、すごい心配だったんだよ。」

 私がそう言ったら、エレーネちゃんは少し恥ずかしそうな表情に変わる。

「えーっ、もしかして、昨日泣いてるところ、ずっと琴音に見られてたのか。

 なんか、恥ずかしいところ見られちゃったなあ。」

「結局、私が帰るまで、エレーネちゃんはずっと泣いてたけど、もしかしてその後にお兄さんと会ったの?」

「ウン。

 実はさ、昨日の朝、お母さんとヤシュワントさんの話を聞いちゃってね。

 ヤシュワントさんが、兄貴がイルキスで消息不明になったって話すのを聞いて、頭の中が真っ白になっちゃったんだ。」

「そうだったんだ。」

「それで、ずっと泣いてたんだけど、夜になって突然、私の目の前に兄貴が姿を現してさ。

 最初は幻でも見たのかなって思ったけど、現れたのは本物の兄貴だった。

 で、家に帰りたくないって言ったら、兄貴がここまで私を連れて来てくれたんだ。」

「そうだったんだ。」

「あの時のエレーネ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになって、すごいことになってたな。」

 ヴィルトワさんがそう言ってクスッと笑うと、エレーネちゃんの顔が赤くなる。

「だって、本当に嬉しかったんだもん。」

「エレーネには心配かけちゃったな。」

「そうだよ、次は南の方に行くって言ってたじゃんか。

 どうしてまたイルキスなんかに行ってるんだよ?

 しかも、リーヴァ王国の特殊部隊なんかと一緒に?」

 エレーネちゃんが顔を赤らめたまま、少し怒った表情で、ヴィルトワさんに尋ねる。

 エレーネちゃんは怒ってるのかもしれないけど、今のエレーネちゃん、なんかすごいかわいい。


「実は、前にイルキスに行った時に、少し気になるものを見てしまってね。

 南の島に出かける前に、モンフェルンに寄った時に、そのことをヤシュワントに話したんだよ。

 そしたら、ヤシュワントが、今の話をウィルト王子にも話してほしいと言い出してな。

 同じことをウィルト王子に話したら、国王にまで話が行って、特殊部隊を送るって話まで進んで、俺まで行く羽目になったんだ。」

「気になるものって、何を見たんですか?」

 私はヴィルトワさんが何を見たのかが気になったので、聞いてみた。

 でも、

「そんなのどうでもいいよ。

 何を見たのか知らないけど、そんなの断っちゃえばよかったんだよ。」

 エレーネちゃんは少し怒った表情でそう言った。

 だから、私はヴィルトワさんにこれ以上話を聞くことができなくなってしまった。

「そうしたかったんだけど、さすがに国王命令を断ることはできなかったよ。」

「本当にすごく心配したんだから・・・」

「悪かった。

 今回の件で俺も疲れたし、当分、外に出かけるのは控えようかなって思ってる。」

「本当?

 じゃあ、もうずっとラーヴォルンにいてくれる?」

「ずっといるかどうかはわからないけど、しばらくはゆっくりしたいと思ってる。」

「やったあ。」

 エレーネちゃんは嬉しそうに、ヴィルトワさんに抱きつく。

 普段、私達の前だと、頼れるお姉さんって感じのエレーネちゃんだけど、ヴィルトワさんの前のエレーネちゃんは、まるで子供みたいだ。

 こういう感じのエレーネちゃんは、なんか新鮮だなあ。


「あーでも、イルキスの報告をしに、一度モンフェルンに行く必要があるな。」

「そんなのほっとけばいいよ。」

「いや、さすがにそう言うわけにはいかんだろ。」

「兄貴はなんか変なところで真面目だなあ。」

 エレーネちゃんはため息をつく。

 多分、エレーネちゃんはヴィルトワさんにモンフェルンに行ってほしくないのだろう。

 行ったら、また国王命令でイルキスに行くように命じられるかもしれない。

 そうなったら、ヴィルトワさんはきっと行ってしまうだろう。

 多分、エレーネちゃんはそうなることを恐れているんだと思う。


「そんなことより、ラーファが心配してるんじゃないのか?」

「そうだった。

 でも、ラーファにすごい怒られそうで嫌だなあ。」

 エレーネちゃんがそう言うと、ヴィルトワさんは笑いだす。

「なんだ、久しく見ない間に、ラーファの尻に敷かれてるのか?」

「そんなんじゃないよ。」

 エレーネちゃんが慌てて否定する。

 そっか、ヴィルトワさんはラーファちゃんのことも知ってるんだ。

「でも、今でもエレーネの一番大切な親友なんだろう?」

 ヴィルトワさんがそう尋ねると、エレーネちゃんは迷うことなく

「ウン、そうだよ。」

 そう答えた。

「じゃあ、さっさと帰るぞ。」

「いや、でも、心の準備がまだ・・・」

「往生際が悪い。」

 ヴィルトワさんはそう言うと、何やら地面に描き出す。

 てこれは、まさか魔法陣?

 まさか、ラーヴォルンで魔法陣を見ることができるとは思わなかった。

 でも、冷静に考えると、こっちは魔法があるんだし、魔法陣ぐらいあってもおかしくないか。

「今から、誰もいない場所に転移する。

 琴音、君もこっちに来て。」

 ヴィルトワさんはそう言うと、私にも魔法陣の中に入るように言った。

「もしかして、私も転移できるの?」

「君を転移できるかどうか、俺にも確証はない。

 でも、俺には君の姿が見えてるから、もしかしたらできるかもしれない。」

 確かに、ヴィルトワさんは私の姿が見えてるし、ヴィルトワさんなら私に魔法をかけることができるかもしれない。

「でも、ダメだったら、自力で帰ってほしい。」

「ウン、わかった。」


 私達が魔法陣の中に入ると、ヴィルトワさんは魔法を唱え始める。

 しばらくすると、魔法陣が白く輝きだす。

 この光の中に消えて行くような感覚は、エルフィーゼの塔の魔法転移と同じだ。

 しばらくすると、視界が真っ白になって、気がついたら、私達は見たことのある場所にいた。


「ここはルーイエ・アスクのイベントルームじゃんか。

 どうして、こんなところに?」

 エレーネちゃんがヴィルトワさんに尋ねる。

 私達のいた場所は、こないだラーファちゃんとアイちゃんのお誕生会を開いた部屋だった。

「ルフィル・カロッサも終わったんだし、魔法を使ったことがバレたら怒られちゃうだろう。

 誰もいない場所を探したら、ここしかなかったんだよ。

 どうやら、今は誰も使ってないようでよかった。」

「そっか、そうだよね。」

 どうやらエレーネちゃんも納得したみたいだった。

 個人的には、せっかく魔法が使えるのに、普段は魔法を使っちゃダメとか、なんか色々ともったいないと思う。

 まあ、ラーヴォルン特有の事情があるみたいだから、私がとやかく言うことじゃないけど。

「どうやら私も転移できたみたい。

 エレーネちゃんのお兄さんって、すごい人だね。」

 私がそう言うと、

「そうでしょそうでしょ。

 兄貴は本当にすごいんだから。」

 エレーネちゃんは自慢げにそう言った。

 でも、ヴィルトワさんは首を横に振った。

「いや、琴音を転移させたのは俺じゃない。

 俺の魔法転移に合わせて、誰かが琴音を転移させたみたいだ。」

「えっ、そうなの?」

 そんなことができる人物は一人しかいない。

 多分、覆面がやったんだろう。

 でも、そんなことまでわかっちゃうなんて、やっぱりヴィルトワさんってすごい人だと思う。

「そんなことより、さっさとラーファのところに戻るぞ。」

「しゃあないね。

 ラーファに素直に怒られに行くかな。」

 エレーネちゃんはそう言ったけど、なんか笑顔ですごい楽しそうだった。


 エレーネちゃんに元気が出て、本当によかった。

 これで、私が気になっていたことの一つは解消された。

 でも、新しく気になることが一つ増えてしまった。

 ヴィルトワさんがイルキスで見たものって、一体何だったんだろう?

 どうしてこんなに気になるのかわからないけど、すごい心がざわざわする。

 だから、ヴィルトワさんにちゃんと確認したかったんだけど・・・

 エレーネちゃんがすごい楽しそうにしている姿を見たら、そんなことを聞けるわけもなく、私のモヤモヤは膨らむ一方だった。


(用語集)

(1)ルフィル

星の生命の流れを導く存在。

死にゆくものの魂を天に返し、生まれゆく者の魂をこの星に導くための存在。

アトゥアでは、自分達が生きていられるのは、ルフィルのおかげと思っている人達が多く、ルフィル信仰が盛んである。


(2)ルフィル・カロッサ

ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。

毎年秋に開催される。


(3)イルキス地方

ヴェルク帝国北方にある地域で、万年氷で覆われている。

資源が豊富らしく、極寒の地であるにも関わらず様々な産業が栄えている。

ガルティア帝国の国境沿いにあるため、大きな軍事基地がある


(4)モンフェルン

リーヴァ王国の首都

ラーヴォルンから北東に約800km離れたところにある内陸の街

王国政府や中央議会、王国軍の施設や魔法施設や産業施設など、ありとあらゆる機能が集まっている

海からは遠いが、近くに大きな湖がある


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ