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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
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5.仲直り

<<ミディア>>

 そうこうしているうちに、レベル3の教室に着きました。

 レベル3の教室にいるのは、私より年下の子ばかりです。

 私以外全員が一桁の年齢の子ばかりです。

 だから、実技の授業は、いつも受けるのが恥ずかしくて、正直受けたくありません。

 ちなみに、アイの魔法実技はレベル15です。

 これは、私達の年齢だと飛びぬけて高いレベルです。

 私達の年齢だと、レベル12前後が普通だそうです。

 でも、アイはそれでもさらに上を目指しているようです。

「だって、早くラーファ先輩やエレーネ先輩と同じレベルになりたいんだもん。」

 そう、ラーファとエレーネ先輩はレベル17で、ずば抜けてるんだよね。

 これまでの卒業生の最高レベルが18らしいけど、ラーファとエレーネ先輩は余裕で抜くだろうって言われています。

 やっぱり、ラーファとエレーネ先輩はすごい。


 レベル3では、炎の魔法を学習します。

 炎の魔法は、魔法の中で一番簡単で、全ての魔法を使いこなすにあたっての基礎となる魔法だそうです。

 だから、炎の魔法だけ、レベル3とレベル4の2レベルに渡って学習することになっています。

 もちろん、今日の授業も炎を起こす魔法の訓練ですが、私は炎どころか、種火すらつけることができません。

 元々、レベル1もレベル2もお情けでクリアさせてもらった私なので、レベル3のクラスでは年下の子にもあっさり抜かれる始末で、本当に情けないです。

 私がレベル2をクリアしたのは15歳の時だったけど、普通だったら8歳でクリアするレベルだそうです。

 そして、レベル3も8歳レベルらしい。

 本当に情けない。

 どうして私は、こんなに魔法が使えないのだろうか?

 結局、今日の授業でも一度も炎を起こすことはできませんでした。


「そ、そう落ち込まないの。」

 授業が終わると、アイがわざわざ教室まで迎えに来てくれました。

 でも、私、レベル3の最年長記録を更新中だし、明るくなれるわけがありません。

「次は理論の授業だし、早く教室に行こう。」

「ウ、ウン。」

 私はアイに連れられるまま、レベル3の教室を出ます。

 ちなみに、魔法理論に関しては、前回の魔法検定で、私はアイと一緒にレベル15に昇格しました。

 レベル15はラーファやエレーネ先輩も同じです。

 2人は理論は苦手だって言ってたけど、それでもレベル15だよ。

 2人の年齢だとレベル13が平均レベルなのに、それを軽く上回ってるんだから。

 ラーファもエレーネ先輩も、本当にすごいよ。

「何言ってるのよ。アンタの方がよっぽどすごいわよ。」

 以前、ラーファがそう言ってくれたけど、私は実技が全然ダメだから、せめて理論だけでもレベルアップしないと。

 私を学校に通わせてくれているレームおじさんやラヴィおばさんに申し訳ないよ。


 教室につくと、中にはラーファとエレーネ先輩が既に来ていました。

 いつもだったら、仲良く隣の席に座るんだけど、今日はすごい気まずい。

 実技のことで落ち込んでいて、教室でラーファと会った時のことを全く考えてなかった。

「ミディア、こっちに座ろう。」

 アイはそう言うと、私をラーファ達のいる席とは反対の方の席に引っ張っていった。

 そして、一番端っこの席に座った。

「ミディア、まだラーファ先輩と話しにくいんでしょ。」

 アイはニコッと笑いながら、私にそう言った。

 なんだかんだで、アイは私に優しくしてくれる。

 本当は大好きなラーファの隣に座りたいはずなのに。

「ゴメンね、アイ。」

「いいよ、確かにラーファ先輩は大好きだけど、ミディアのことも大好きだからね。」

 ぶわっ

 不覚にも、アイの言葉で涙を流してしまいました。

 どうして、こんな時にそんなことを言うんだよ。

「ちょっと、ミディア!?」

 アイが驚いてる。

 まあ、驚くよね。

 私だって驚いてるんだから。

 でも、アイの言葉、本当にうれしかったよ。


 そうこうしているうちにチャイムが鳴って、魔法理論の授業が始まりました。

 魔法理論とは、魔法を使うにあたって必要な様々な知識を学びます。

 レベル15になると、さすがに難しくて、私もアイも理解するのが難しいことが多いです。

 特に私は、このレベルの魔法を使えないので、理論だけ聞いてもなかなかイメージすることが難しくて大変です。

 ちなみに、16歳は私とアイだけです。

 ほとんどが18歳の上級生ばかりなので、ここもやっぱり少し居づらいですね。

 まあ、一人じゃないだけ、まだマシなんだけど。


「やっと終わったあ。」

 授業が終わって、アイが大声でそう言った。

 私もくったくたです。

 レベル15の理論は、正直私達には難しすぎるかもしれません。

 私もアイもついていくのがやっとです。

「これは、10日後の試験はきついなあ。」

 アイはそう言うと、思い切り頭を抱えています。

 私も頭抱えたかった。

 レベル14のままでよかったよ。

 どうして、調子に乗って、レベル15なんかに上がっちゃったんだろう?

 それは・・・やっぱりラーファに追いつきたかったから。

 私にとって、ラーファは憧れだし、早く追いつきたい存在だった。

 だから、理論だけでも追いつけた時には、本当にうれしかった。


「ハハハ・・・ダメだ。」

 私がそう言うと、アイが小さく頷いた。

「そうだよな。難しすぎるよなこれ。」

「ウウン、そうじゃなくて・・・」

 やっぱり、ラーファが一緒じゃないと私はダメだ。

 そう思い、ラーファの座っている席の方を見ると、何とラーファも私の方を見ていた。

 目と目が合ってしまった。

 どうしよう?

 何か逸らしづらい。

 そう思ってたら、突然ラーファが席を立ちあがり、こっちにやって来た。

「えっ!?」

 ラーファは小走りで駆け寄ってくると、私の手にしがみついてきた。

「ゴメン、私もう無理。

 ミディアとケンカしたままなんて無理。」

 ラーファはそう言うと、私にギュッと抱きついてきました。

 私だって、ラーファと仲良くしたいよ。

 私にとって、ラーファは姉のような存在で、友達でもあって、憧れの存在でもある大切な人だ。

 できれば、私だってラーファと仲直りしたいよ。

 でも、琴音だって私の大事な友達。

 だから、ラーファにも琴音と仲良くなってほしい。

「ラーファ、琴音と仲良くしてくれる?」

 私がそう言うと、ラーファは困惑した表情のまま固まってしまった。

 ラーファの頭の中で相当の葛藤があるみたいだった。

 やっぱり、ラーファと琴音は仲良くできないのかな?

 でも、しばらくすると、ラーファは表情を緩めて、私にこう答えてくれました。

「わ、わかった。努力はしてみるよ。」

「本当!?」

「ウ、ウン・・・でも、私、自信ないよ。」

「大丈夫、琴音はラーファと仲良くなりたがってたし、きっと大丈夫だよ。」

 今度は私がラーファに抱きついた。

「琴音と仲良くしようとしてくれてアリガトね。

 あと、怒鳴ったりしてゴメンね。

 ヒドイこと言ってゴメンなさい。」

 自然と謝罪の言葉が出た。

 どうやって謝ろうかと悩んでいたのか嘘みたいに、自然と謝ることができた。

 よかった、ラーファと仲直りができた。

 結局、私とラーファの初めてのケンカは、一日も経たずに終わってしまいました。


「ねえ、ミディア?」

 突然、私の背中を、アイが指ですっとなぞってきました。

「ひゃあっ!?」

 不意にやられたので、思わず変な声を上げて、のけぞってしまった。

「な、何するの?」

「ねえ、さっきから出てくるコトネって誰?」

 そういや、アイに説明するのを忘れてた。

 でも、どうやって説明しよう?

 ありのまま説明するしかないかな。

「琴音は、二ホンという国から来た女の子だよ。」

「二ホン?アトゥアにそんな国あったっけ?」

 アイは首を傾げていました。

 琴音の話によると、二ホンはアトゥアにはないみたいなんだけどね。

「で、ミディアとラーファにしか見えない女の子なんだって。」

 エレーネ先輩が補足してくれたけど、それを聞いてアイは怪訝な表情を浮かべていました。

 無理もないかな。

 信じてと言う方が無理かもしれない。

 でも、私とラーファには、琴音が見えるんだよ。

 アイは怪訝な表情を浮かべていたけど、しばらくして私にこう言ってきました。

「じゃあ、私にも、その琴音って人を紹介してよ。」

 アイはやっぱり半信半疑のようです。

 でも、紹介してと言われても、アイに琴音の姿が見えるかどうか、私にはわかりません。

「ミディア、やるだけやってみよう。」

 ラーファの言葉に、私は少し驚いた。

 さっきまで、あんなに怖がっていたのに、まさか背中を押してくれるとは思わなかった。

 ラーファのおかげで、少し勇気が出ました。

「ウン、じゃあ、紹介するね。」

 私がそう言うと、ようやくアイは笑顔を見せてくれた。

「ハイ、でもまだ授業終わってないから、教室に移動な。」

 エレーネ先輩に言われて時計を見ると、もう休み時間が終わる時間になっていました。

「いけない、早く教室に行かないと。」

 私達は、慌てて次の授業のある教室に向かいました。


 私達の学校は、授業があるのは午前中だけです。

 午前最後の授業は、一般理論です。

 魔法実技と魔法理論はレベル別に授業がありますが、一般理論は学年別に授業が行われます。

 一般理論では魔法以外の様々な知識について学びます。

 年齢によって内容は変わってきますが、私達の学年ではいろんな職業に必要な基礎的な知識を学びます。

 ちなみに今は、経営学を学習中です。

 昔は、ラーヴォルンやアトゥアの歴史や地理、自然観察、外国語の学習とかありました。

 自然観察は、結構好きだったなあ。

 牧場とかに見学しに行ったり、学校の外に出ることが多かったからね。

 一般理論は半年に1回試験があるけど、別に点数が悪くても、補習を受けさえすれば進級できるので、魔法の授業と比べたら軽視されがちです。

 でも、私にとっては、魔法よりもむしろ一般理論の方が大事かもしれない。

 最近、そう思うようになりました。

 特に学校を卒業後の進路を決める時に、とても大事になってくると思います。

 こんな実技の成績では、私は魔導士にはなれないだろうし、居候の身で進学するわけにもいけません。

 ルーイエ・アスクに就職するのか、他の道に進むのかはわかりません。

 でも、私は魔法が苦手だから、きっと魔法関連の道にはいかないでしょう。

 だから、私にとっては、魔法の知識よりもむしろ一般理論の知識の方が大事になるような気がするのです。

 多分、教室の中で一般理論の授業は真剣に受けているのは、私を含めた一部の生徒だけだと思います。

 ちなみにアイは、この時間はいつも熟睡タイムになっています。


 授業が終わると、学年ごとに簡単なミーティングがあり、それで帰宅になります。

 ほとんどの生徒の家族は、ラーヴォルンで何らかの仕事をしているので、午後からは家に帰って、みんな家の手伝いをすることになっています。

 でも、聞くところによると、真面目に家の手伝いをしている生徒はあまりいないそうですが・・・

 そう言えば、ラーファもルーイエ・アスクの仕事を結構さぼってるし・・・

 ちなみに、授業は午前中だけですが、学校は毎日あります。

 学校がお休みになるのは、こないだのルフィル・コスタのような行事がある日だけです。

 もっとも、ラーヴォルンは年中行事があるので、結果的にお休みが多くなるんだけどね。

 授業は午前中で終わるので、そのまま家に帰って昼食をとる人も多いです。

 でも、私達はいつもお昼は一緒に食べてから帰ります。

「友達と親睦を深めるのも大事なことだよ。」

 ラヴィおばさんはそう言って、私達の昼食代を出してくれます。

 もっともラーファ曰く、

「お母さんはああ言ってるけど、本当はお店が忙しくて、昼食を作っている暇がないだけだから。」

だそうです。

 ラヴィおばさんのレストランはお昼すごい混むし、仕方がないかな。


「今日はどこに食べに行く?」

 エレーネ先輩が私達に聞いてきます。

 公共区画には学生のためのお店がたくさんあるので、私達は毎日いろんなお店に食べに行っています。

 学生向けの安くてボリュームがあっておいしいお店が結構多いので、毎日飽きることがありません。

 この日は、アイが今まで行ったことのないお店に行こうと言い出し、そのお店に行くことになりました。

「ねえ、ミディア?」

 お店に向かう道すがら、ラーファが声をかけてきました。

「なあに、ラーファ?」

「私、頑張ってみるね。」

 ラーファは、もう一度私にそう言ってくれました。

 でも、ラーファの手は、すごい震えていました。

 本当に、ラーファ、琴音のことが怖いんだな。

 でも、一度お話すれば、きっとラーファだって琴音のことが好きになってくれると思う。

 だから、ラーファと琴音が仲良くなれるよう、私が頑張らないとね。

「ウン、アリガト、ラーファ。」

 震えているラーファの手をギュッと握りしめる。

 すると、ラーファは少し安心したのか、震えが収まった。

「私に任せて、ラーファ。」

「ウ、ウン・・・わかった、ミディア。」

 いつもは、私がラーファに頼ってばかりなんだけど、今日は私がお姉さんでラーファが妹みたいだ。

 でも、たまにはこういうのも悪くないかもね。


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