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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
88/254

42.まさかの組み合わせ再び

<<琴音>>

「琴音ちゃん、大丈夫?」

 朝起きると、ニコちゃんが私の顔を覗き込んでそう言った。

「大丈夫だよ。

 それより、ゴメンね。

 今日は全然楽しくなかったよね。」

「ウウン、いいよ。

 それよりも、ラーヴォルンって大変なことになってるんだね。」

「私の映像が残ってて、私が勝手にルフィルにされているし、わけがわからないよ。」

「それに、エレーネちゃんが泣いてたのも気になるね。」

「ウン。」


 本当は2日目も楽しい思い出になるはずだったのに、私もニコちゃんも朝から重く沈んでいた。

 こんなはずじゃなかったのに・・・

 ラーヴォルンで一体何が起こってるんだろう?

 きっと、覆面なら色々と知っているはずだ。

 覆面に色々と話を聞いてみたくて、さっきから念じてみたけど、覆面からの返事はなかった。

「それにしても日花里ちゃん、起きるのが遅いね。」

 ニコちゃんがそう言うと、私の隣でまだ眠っている日花里ちゃんの顔を覗き込む。

「そう言えば、いつもはラーヴォルンに行った日は一緒に目が覚めていたと思うんだけど・・・」

 いや、前にも私の方が先に起きて、日花里ちゃんが目覚めるのを待っていたことがあったっけ。

 じゃあ、そんなに気にすることもないかな。

「もうすぐ日花里ちゃんも起きるだろうから、朝ごはん用意してくれるよう、おばさんに言ってくるね。」

 ニコちゃんは元気よく起き上がると、そのままの勢いで部屋を出ていった。

「ニコちゃんは元気だなあ。」

 でも、ニコちゃんのおかげで、私の気分も少し晴れてきた。

 とりあえず、日花里ちゃんが目覚めたら、日花里ちゃんにも謝らないとね。

 あとは、日花里ちゃんに心配かけないようにしよう。

 隣で眠る日花里ちゃんの顔を見ながら、そんなことを考えていた。


<<日花里>>

「ここは一体どこ?」

 さっきまで、琴音の見ていたラーヴォルンの映像が途切れたと思ったら、いつの間にか私はどこかの暗い部屋の中にいた。

 この部屋、どこかで見覚えがある。

 でも、はっきりと思い出せない。

 一体どこなんだろう?

 そう思っていたら、部屋の奥から覆面を被り黒いフードのついたローブを着た人が姿を現した。

「えっ、何!?」

 恐怖のあまり、体がすくむ。

 得体のしれない暗い部屋に、謎の覆面。

 私はいつの間にか、この覆面に誘拐されたのか?

 でも、一体いつ?

 昨日、私は琴音達と一緒に花火大会を見た後、家に戻って寝たはず。

 まさか、家に忍び込んで私を誘拐したのか。

 もし、そうだとしたら、一緒にいた琴音やニコも危ないかもしれない。

 そんなことを考えていたら、覆面が私に話しかけてきた。


「久しぶりだな、日花里。」

「えっ!?」

 覆面が私にそう言ってきた。

 ていうか、何だろうこの声は?

 明らかに作り物っぽい声だ。

 一体、こいつは何者だ?

 そう思っていたら、覆面が私の方に近づいてきた。

「そうか、そう言えばお前の記憶を消したままだったな。

 今、お前に返してやろう。」

 次の瞬間、覆面の手が光ると、私に向かって光が放たれる。

 とっさのことに、私はよけることもなく光を受けてしまった。

 でも、光を受けても、体に何の異変もなかった。

 そう、体は・・・

 でも、頭の中は、以前の記憶を鮮明に思い出していた。

 そうだ、この目の前にいる覆面こそが、琴音をラーヴォルンに連れて行ってる人物だった。

 以前、覆面にここに連れて来られて、私はその時の記憶を奪われたんだった。

 道理で思い出せないはずだ。


「全部思い出したか?」

 覆面が私に尋ねてくる。

「ええ、全部思い出したわよ。

 あの時の感情までね。」

 私の記憶を奪おうとする覆面に対する怒りの感情が、記憶と一緒に蘇ってきた。

 でも、力で私が覆面に勝てるわけがない。

 ここは頭を働かせて、覆面に一泡吹かせてやろう。

 そう思い、覆面を睨みつける。


「それで、どうして私の記憶を返してくれたの?」

 すると、覆面はしばらく沈黙した後、口を開いた。

「あの時のお前の推理の答えあわせをしようと思ってな。」

 答えあわせのために、私の記憶を戻したってこと?

 私の記憶を奪ったり戻したり・・・どこまで私をバカにするつもりだ、この覆面は。

 さっき蘇った怒りの感情がまだ残っていた私は、思わず覆面に向かって暴言を吐きそうになる。

 しかし、頭の中のもう1人の冷静な私が、先ほどの覆面の発言を聞いて、怒り狂う私を制止した。


 覆面が今言ったことを、頭の中で反復していた。

 確か、覆面は答えあわせをしようと言った。

 答えあわせは正解がないとできないことだ。

 ということは、もしかして・・・

「答えあわせって、まさか犯人がわかったってこと?」

 琴音を偽のラーヴォルンに連れていき、ミディアちゃん達の記憶を奪った事件の犯人を?

 覆面に尋ねると、覆面は小さく首を縦に振った。

「そうだ。」

 そっか、ついに犯人がわかったのか。

 じゃあ、私と答えあわせなんてしないで、さっさと犯人を捕まえにいけばいいのに、どうしてこんなところで私と答え合わせをしようなんて言い出したんだ?

「まず、お前の推理をもう一度まとめてみよう。」

 覆面はそう言うと、以前私が立てた推理の内容を話し始めた。


「お前の推理では、あの事件の犯人はヴェルク帝国だったな。」

 あれは、当時の限られた情報の中で、精一杯考えて出した結論だった。

 けど、今改めて覆面に言われると、少し恥ずかしくなった。

 今考えると、非常にぶっ飛んだ推理内容だと思う。

「どうせ、私の推理はハズレだったんでしょ。」

 私が自嘲気味にそう言うと、覆面は

「そうだ。」

 即答してきた。

 ええ、そうでしょう。

 あの時、たった3回しかラーヴォルンに行ったことのない私が立てた推論なんて、所詮その程度でしょうよ。

 でも、覆面はすぐに話を続けた。

「だが、あながちバカにできる内容でもなかった。」

「えっ、どういうこと?」

「そうか、琴音もお前も、昨日起こったことを知らなかったな。」

 昨日って、もしかしてルフィル・カロッサ1日目のこと?

 何が起こったって、楽しかった記憶しかないけど。

 でも、今日、琴音がラーヴォルンに行ったら、なんか色々と変わっていたな。

 特に限界寿命のことは、私もショックだった。

 そのことを覆面に聞かないといけない。

 でも、私が尋ねる前に、覆面は昨日、琴音が帰った後にミディアちゃん達に起こったことを話し始めた。


 その話の内容は、私にとって衝撃的なものだった。

 琴音が聞いたら、きっとショックを受けるだろう。

「ミディアちゃんが、ヴェルク帝国にさらわれたって・・・

 しかも、その原因は、あの時、犯人が偽ラーヴォルンを作った時にできた魔力波動とやらが、アトゥア中で観測されたため!?」

「お前の推理通り、琴音という存在を求めて、ヴェルク帝国が動き出した。

 ついでに言うと、ガルティア帝国もだが。

 だから、お前の推理は全く的外れというわけではなかった。」

 覆面はそう言ったけど、そんなの喜べるわけがない。

 むしろ大外れしていてくれた方が、どれだけ気が楽だったか。

 私1人が恥ずかしい思いをすればよかっただけだ。

「昨日はリーヴァ王国軍が何とかヴェルク・ガルティアの両軍を撃破したようだが、リーヴァ王国は2大帝国にとって、ただの小国に過ぎないからな。

 このままで済むとは思えない。」

「だから、琴音をルフィルに仕立てあげたの?

 本来、映るはずのない琴音の映像をわざと残して。」

「随分と察しがいいな。

 あと、映像を見たリーヴァ王国のウィルトという王子が、面白い話を作り上げていてな。

 それにも協力してやろうと思ったのだ。」

 ウィルト王子の面白い話って一体何だろう?

「琴音もお前も気づいていないようだが、ウィルトが話を作った後で、あの映像に少し加工を追加した。

 特殊な魔法フィルタを通してみると、琴音の制服に、向こうの言葉で『コトネ』という名前が見えるようにしてある。

 難易度はそれほど高くはしていないので、恐らく、ヴェルク帝国もガルティア帝国も、すぐに気づくだろう。」


 まさか、そんな細かい細工までしてあったとは・・・

 魔力波動で観測された名前が『コトネ』で、そしてグラド・ルガンテの映像で飛び回っている琴音の制服に書かれている名前も『コトネ』

 ヴェルク帝国もガルティア帝国も、間違いなく琴音をルフィルと思うだろう。

 そんなことをして、一体覆面は何がしたいんだろう?

「ヴェルク帝国もガルティア帝国も、ルフィル信仰が盛んな国だ。

 リーヴァ王国が、ルフィルである琴音のいる場所とわかれば、むやみに手を出しては来ないはずだ。」

 なるほど、覆面はリーヴァ王国を守るために、こんな手の込んだことをしたのか。

 でも、その方法はすごい危険だと思う。

「ラーヴォルンがルフィルの降臨する場所だとわかったら、むしろ両国が自分達の領土にしようと攻めてくる可能性はないの?

 ラーヴォルンをルフィルの聖地にするとか言って。」

 私は別に宗教を否定するつもりはない。

 でも、宗教が戦争の原因になることを知っている。

 地球の戦争の歴史のほとんどがそうだからだ。

 だから、アトゥアのルフィル信仰が地球の宗教と同じ性質のものであるならば、アトゥアでも同じことが言えるはずだ。

 だが、覆面は首を横に振った。

「いや、それはありえない。」

「どうして?」

「理由は2つある。

 まず、リーヴァ王国はヴェルクとガルティアの狭間にある国だ。

 どちらかが侵略に動いた時点で、世界大戦に発展することは避けられなくなる。

 例え、裏で両国政府が手をつないでいたとしてもだ。」

 えっ、両国政府が手をつないでいるって、どういうこと?

 ヴェルク帝国とガルティア帝国は対立してるんじゃないの?

「仮に侵略はないとしても、今後も特殊部隊によって、ミディア達が襲われる可能性はある。

 だが、ミディア達がルフィルの親友となれば、話は変わってくる。

 ウィルトの立てた計画はなかなか面白い。」

 なるほど、ウィルトって人が立てた計画って、そういう内容だったのか。

「つまり、ルフィルの親友であるミディアちゃん達が襲われなくなるってこと?」

「そういうことだ。」

 覆面はそう言ったけど、果たしてそんなにうまく行くだろうか?

 私は少し懐疑的だ。


「そして、もう1つの理由は、ルフィル信仰に聖地は存在しないということだ。」

 覆面の話によると、人間がルフィルの聖地を勝手に地上に作ることは、ルフィルに対する冒涜になるらしい。

 それに、ルフィルはアトゥアを見守るために、よく地上に降りることがあるらしく、アトゥア中に遺跡が残っているのもそのためらしい。

 意外と人間に身近な存在なんだね、ルフィルって。

「強いて聖地と言うのであればルフィルが住んでいるグラド・ルガンテだが、あそこは人間は入れないからな。」

 えっ、グラド・ルガンテって本当にルフィルの住む場所だったんだ。

 でも、そうだとしたら、人間の行けない場所にどうして琴音やミディアちゃん達は行けたんだろう?

 理由はわかっている。

 覆面が琴音達を連れて行ったからだ。

 それじゃあ、琴音をグラド・ルガンテに連れて行くことができた覆面って、一体何者なんだろう?


「人間が行けるはずのない場所に、どうしてあなたは琴音達を連れて行くことができたの?

 あなたは一体何者なの?」

 私がそう尋ねると、覆面の会話がピタリと止む。

 この覆面の反応を見て、私の脳裏にある考えが思い浮かぶ。

 覆面の正体は、もしかしてルフィルなんじゃないだろうか?

 そうだとしたら、覆面がグラド・ルガンテに行ける理由もわかる。

 でも、どうしてルフィルが琴音をラーヴォルンに連れて行くのかがわからない。

 琴音をラーヴォルンに連れて行って、ルフィルに何のメリットがあると言うのだろう?


 私の質問は覆面にとってよっぽど都合が悪かったのか、しばらく沈黙を守り続けていた。

 しかし、しばらくすると重い口を開いた。

「よかろう。

 あの事件の犯人を教えるついでに、お前にはいくつかの情報を開示しよう。」

 覆面はそう言うと、話を続けた。


「今、アトゥアには2人のルフィルが存在する。」

「えっ!?」

 覆面の話に私は驚いた。

 てっきり、覆面はルフィルの話から逸らしてくるものと思ってたから・・・

 それにしても、アトゥアにルフィルが2人いると言われても、それがどういうことなのか私にはよくわからない。

 私は琴音と違って、ラーヴォルンに毎日行けるわけじゃないし、ラーヴォルンのことにそんなに詳しいわけでもないのだから。

「ルフィルって何人もいるものなの?」

「いや、本来は1つの星にルフィルは1人だけと決まっている。

 つまり、今のアトゥアは、非常に特殊な状況ということだ。」

「そうなんだ。」

 なるほど、ルフィルが2人ねえ。

 どうしてそんなことになったのかはわからないけど、何となく話が見えてきたような気がする。

「まさか、こないだの事件を起こした犯人って・・・」

 私がそう尋ねると、予想した通りの答えが返ってきた。

「そうだ。

 あれは片方のルフィルが起こしたことだ。」


 冷静に考えたら、もっと早い段階で気づいてもよさそうなものだった。

 以前、覆面と会話した時に、偽のラーヴォルンを丸ごと作り上げるなんてことは、人間にできることではないって言っていた。

 でも、ルフィルは、星に大量のマーシャントを導く存在。

 つまり、ルフィルは膨大な量のマーシャントを扱える存在ということだ。

 そして、マーシャントは魔力の源でもある。

 ルフィルであれば、膨大な魔力を使った魔法を使うこともできるはずだ。

 どうして、もっと早く気づかなかったのだろう?


「私が琴音達をグラド・ルガンテに連れて行けば、きっと奴は動き出す。

 そう思ったのだが、結局、奴は動かないままだった。」

 覆面の話を聞いて、私は衝撃を受けた。

 まさか、琴音やミディアちゃん達は、ルフィルを釣るための餌として、グラド・ルガンテに連れて行かれたってこと?

 本当に、この人は琴音を守るつもりがあるのだろうか?

 琴音をルフィルに仕立て上げたのも、大方もう一方のルフィルに対する嫌がらせってところだろう。

 覆面はやたらと犯人のルフィルに執着しているような気がする。

 これって、やっぱりそう言うことなんだろう。


「そして、あなたがもう一方のルフィルですね。」

 私がそう尋ねると、覆面は再び沈黙する。

 この反応・・・間違いない。

 覆面の正体は、もう1人のルフィルだ。

 道理で、グラド・ルガンテに行けるわけだ。

 だとしたら・・・

「2人のルフィルの争いに、琴音は巻き込まれたということ?

 どうして琴音が?」

 覆面はずっと沈黙したままだった。

 都合の悪いことには、ダンマリを決め込むつもりか。

 だが、しばらくすると、覆面は口を開いた。

「私の正体を暴こうとするのも結構だが、日花里、今は琴音のことを第一に考えてほしい。

 お前にここまでの情報を開示したのは、そのためだ。」

「ここで琴音の名前を出すなんて卑怯よ。

 それに、本当に琴音のことを思ってくれるのであれば、全て話してほしい。」

 だが、覆面は、この話について、それ以上話してはくれなかった。

 そして、話を強引に琴音の話に変えてきた。


「さっきも話したが、お前には琴音のことを第一に考えてほしい。

 最近、琴音の様子が少しおかしいと感じたことがあるだろう?」

 覆面はあくまでも話を逸らすつもりのようだ。

 でも、これ以上追及して、覆面を怒らせたら、また記憶を消されそうだ。

 残念だけど、これ以上の追及は諦めるしかない。

 それに、私も琴音のことで、少し気になることがあったから、ちょうどよかった。

「最近、琴音と昔の話をすることがあったけど、時々記憶がかみ合わないことがあった。

 それに、昨日の花火大会の様子も少し変だった。」

 妙に、私やニコに甘えてくると思ったら、


「ねえ、2人とも、これからも私と一緒にいてくれる?」


 突然、こんなこと言い出したりするし。

「もしかして、琴音の身に何か起こってるの?」

 だが、これについても覆面はすぐに答えようとはしなかった。

 結局、これじゃあ何もかもわからないままだ。


 突然、体が光り出した。

 これってまさか、目が覚める時の反応?

 まさか、また記憶が消されるのだろうか?

 でも、覆面は今度は私の記憶を消すとは言わなかった。

 代わりに、とても大事なことを私に話してくれた。

「お前の記憶を戻して、色々と情報を開示したのは、お前に琴音を助けてほしいからだ。

 琴音を助けられるのは、一番の親友であるお前しかいない。」

「琴音を助けるって、一体どういうこと?」

「琴音の精神が、今とても不安定化している。

 琴音の精神が安定化するまで、昔の記憶に触れないでほしい。」

「えっ、琴音の精神が不安定化?」

 確かに昨日の様子は少し変だったけど、そんなに覆面が気にすることなのだろうか?

 大体、昔の記憶にどうして触れてはいけないのだろうか?

 琴音の昔の記憶が、私の知ってる記憶と食い違うから?

 大体、どうして琴音の記憶が私と食い違っているの?

 その時、私の中にある考えが浮かんだ。

 それは、とても恐ろしい考えだった。

 私の体は輝いて、今にも目覚めそうだった。

 でも、これだけは聞いておかないと。

「ねえ、今の琴音は―――」

 でも、こちらの質問に被せるように、覆面が私に話してきた。

「恐らく、これから琴音はとても辛い体験をすることになるだろう。

 その時、琴音を支えられるのは、親友であるお前だけだ。」

 覆面の話を聞いた瞬間、頭の中から質問としようとしたことが、一瞬で吹き飛んでしまった。

「琴音が辛い体験をするって、一体どう言うこと?」

 どういうことなのか、覆面に問いただそうとしたけど、遅かった。

 視界は真っ白になり、気がついたら、目の前に琴音の顔があった。


「おはよう、日花里ちゃん。」

 琴音は、私が目覚めるのをずっと待っていたようだ。

「お、おはよう、琴音。」

 先程までの覆面との会話の記憶が鮮明に残っているせいか、思わず動揺してしまう。

「どうしたの、日花里ちゃん?」

 琴音が不思議そうに首を傾げる。

「大丈夫よ。そんなことより、お腹すいたわね。」

 私がそう言うと、琴音はニコッと笑った。

「日花里ちゃんがそう言うと思って、ニコちゃんがおばさんに朝食を作ってくれるよう頼みに行ってくれたよ。」

 その時、遠くからニコの声が聞こえてきた。

「琴音ちゃーん、日花里ちゃん起きた?」

「ウン、今起きたところだよ。」

 琴音が大声でニコに返す。

「じゃあ、朝食の準備ができてるから、早くこっちに来て。」

「ウン、わかった。」

 琴音はそう言うと、私に「一緒に行こう。」と言ってきた。

「ちょっと汗かいちゃったから、私は着替えてから行くわ。」

「わかった、じゃあ、先に行ってるね。」

 琴音はそう言うと、部屋を出て行った。


 一人部屋に残った私は、服を着替えながら考えていた。

 これから琴音にとって辛いことが起こる。

 その時、琴音を助けられるのは私だけだと覆面は言っていた。

 その辛いことというのは、こちらの世界で起こることなのか、それともラーヴォルンで起こることなのか?

 せめて、それだけでも知りたかったけど、その前に目が覚めてしまった。

 でも、私にできることなんて、そんなにない。

 せいぜい、琴音の話し相手になってあげることぐらいだ。


 それに、もう一つ、琴音のことで気になることがあったんだけど・・・

「さっき、覆面に聞こうとしたことって、何だっけ?」

 どうしても思い出せない。

 てことは、もしかすると覆面に記憶を消されたのかもしれない。

 でも、前と違って、それ以外の情報は全て頭の中に残っている。

 今回、覆面はかなりの情報を私に話してくれた。

 これらの情報を、私が琴音に話すとは考えていないのだろうか?

 それとも、琴音に話してもいいってことだろうか?

 覆面の考えていることがわからない。

 あと、琴音の精神が不安定化って、一体どういうことだろう?

 今朝の様子を見る限りでは、いつもの琴音だったけど・・・


 それからのことは、あまり覚えていなかった。

 食事を取った後、ニコのおじさんにバス停まで送ってもらって、今は帰りのバスに乗っているけど、それまで琴音やニコと何を話したのかほとんど覚えていなかった。

 覆面との会話のことが、頭から離れなかったからだ。

「日花里ちゃん、もしかして疲れてる?」

 ボーッと考え事をしていた私に、琴音がそう話しかけてくる。

「ウン・・・まあ、ちょっとね。」

「そう、私も疲れちゃったから、ちょっと寝るね。」

「今寝たら、ラーヴォルンに行っちゃうんじゃないの?」

「まあ、その時はミディアちゃん達の寝顔でも楽しんでくるよ。」

 琴音はそう言うと、隣の席で目をつぶる。

 しばらくすると、琴音は隣で寝息を立て始める。

 今日の琴音は元気があまりないようだった。

 いや、元気ではあるんだけど、無理に元気を作っているとか、そんな感じだ。

 まあ、ラーヴォルンであんなことがあったのだから、仕方がないとは思うけど・・・

 でも、それで精神が不安定化しているかというと、少し違うような気がする。

 琴音の過去に触れるな・・・か。

 とりあえず、ここは覆面の言う通りにしてみるかな。

 覆面に従うのは癪だけどね。

 しばらく、昔話は控えよう。

 でも、心配なのはニコだな。

 あの子にも釘を刺しておかないとね。

 でも、どうやってニコを説得しようかな?


(用語集)

(1)ルフィル・カロッサ

ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。

毎年秋に開催される。


(2)ヴェルク帝国

アトゥアで一番大きな帝国

リーヴァ王国北方にある帝国で、もう一つの大陸にあるガルティア帝国と対立している。

そのため、ガルティア帝国と接しているリーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(3)ガルティア帝国

アトゥアで2番目に大きな帝国

リーヴァ王国東方に広がるナルヴァティア大陸を支配している帝国で、アトゥアの覇権をめぐってヴェルク帝国と対立している。

ヴェルクと同様に、リーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(4)ルフィル

星の生命の流れを導く存在。

死にゆくものの魂を天に返し、生まれゆく者の魂をこの星に導くための存在。

アトゥアでは、自分達が生きていられるのは、ルフィルのおかげと思っている人達が多く、ルフィル信仰が盛んである。


(5)グラド・ルガンテ

アトゥア唯一の浮遊大陸。

しかし、これまで誰も上陸できた人はおらず、いつからかルフィルの住む島として神聖視されるようになった。

グラドとは、神聖な人や場所につける称号で、ルフィル説が定着するようになってから、グラド・ルガンテと呼ばれるようになった。


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