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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
87/254

41.ルフィル・カロッサ2日目(2)

<<琴音>>

 昨日と同じように、今日も少し遅くにラーヴォルンにやってきた。

 もちろん、今日も日花里ちゃんとニコちゃんと一緒に眠っているので、きっと2人も一緒にこの光景を見ているだろう。

 私達が来た時は、ちょうど遺跡でまた儀式のようなことをやっていたため、ものすごい人で賑わっていた。

「相変わらず、こちらからの眺めは壮観だなあ。」

 いつもだったらもう少し眺めているかもしれない。

 でも、今日は気になることがあったので、早々に遺跡を後にして、そのままルーイエ・アスクに向かうことにした。

「ゴメンね、琴音。」

 昨日の別れ間際のミディアちゃんの言葉が、すごい気になっていた。

 今日はルフィル・カロッサに行けないって、一体どういうことだろう?

 もしかして、急な用事ができて行けなくなったのかな?

 色んなことを頭に駆け巡らせながら、私はルーイエ・アスクへと急いだ。


 結論から言うと、私の予想は当たっていたらしい。

 ミディアちゃんの部屋に行っても、ラーファちゃんの部屋に行っても、誰もいなかったので、もしかして2人だけで遊びに行っちゃったのかと少し焦った。

 でも、1階に行くと、すぐにミディアちゃんとラーファちゃんを見つけることができた。

 2人とも、なんだかものすごい忙しそうだった。

「あっ、琴音。」

 私の姿を見かけたミディアちゃんが、私に声をかけてくれたけど、従業員さんに呼ばれると、慌てて向こうの方に行ってしまった。

 ラーファちゃんの方は、お店の方ですごい勢いで働いていた。

 でも、いつもと違って結構苦労しているみたいだった。


 もしかして、2日目に遊びに行けなくなったのって、ルーイエ・アスクの手伝いをしなくちゃいけなくなったから?

 まさか、ラーファちゃんのお父さんかお母さんが倒れたとか。

 でも、昨日、ルーイエ・アスクと連絡取っていたようには見えなかったけどなあ。

 こっちにはルティアという魔法で、遠くの人ともテレパシーで会話ができる。

 だから、もし家からそんな知らせが来たら、2人とも真っ青になって慌てて帰りそうな気がするけど、昨日は私が帰るまで普通に一緒に遊んでいたからなあ。


「あっ、琴音、ここにいた。」

 いつのまにか、私の背後にミディアちゃんが立っていた。

 結構お疲れのようだ。

「ミディアちゃん、これは一体どういうこと?」

 私が尋ねると、ミディアちゃんは笑顔でこう言った。

「今日はね、私とラーファがルーイエ・アスクの1日社長なんだよ。」

「えーーーーっ!?」

 ビックリした。

 まさか、1日経ってラーヴォルンに来てみたら、まさかミディアちゃんとラーファちゃんが社長になっているなんて思わなかった。

「だから、今日は悪いけど、琴音と遊ぶ時間が、ほとんどないと思うの。」

「そ、そうなんだ。」

 でも、それだったら、もっと早く言ってくれたらよかったのに。

 そうすれば、ルフィル・カロッサ2日目は遊びに行けないと、もっと早くから諦めもついていたのに・・・

 でも、ミディアちゃんの話によると、どうやら社長になるのを決めたのは昨日のことだったらしい。

 そりゃあ、事前に話せないわけだ。


「でも、どうしていきなり社長になるなんて決めたの?」

 ミディアちゃんに話を聞こうと思ったけど、ちょうどその時、従業員がミディアちゃんを呼びに来てしまった。

「ゴメンね、琴音。

 詳しいことは明日話すから、今日はエレーネ先輩とアイと一緒にベイ・カロッサに行ってきて。」

 ミディアちゃんはそう言い残すと、そのまま去って行ってしまった。

 なんか、心がモヤモヤする。

 今まであれだけ散々ルフィル・カロッサについて話を盛り上げておいて、直前になって行けなくなったとか、やっぱり理由を聞かないと納得できないよ。


「続きは私から説明するよ、琴音。」

 私に声をかけてきたのはラーファちゃんだった。

 ラーファちゃんも結構お疲れのようだった。

「ラーファちゃん、お疲れのようだけど大丈夫?」

「いつもより結構キツイけど、休憩時間ももらえたし、私なら大丈夫よ。

 お父さんもお母さんも、普段からこんなに多くの仕事をしてたのね。

 いつも仕事を手伝っていたはずなのに、全然気づかなかった。」

 ラーファちゃんは大きく深呼吸をして、少し乱れていた呼吸を整えてから、話を続けた。

「それで、今日のことなんだけどね。

 実は、ミディアが私の両親にベイ・カロッサに行ってもらうために言い出したことなんだよ。」

「えっ!?」

 どうしていきなりそんな事を言い出したのだろう?

 そう思っていたら、ラーファちゃんが理由を話してくれた。


「琴音は昨日、40代の観光客が多いって話を聞いた?」

 そう言えば、そんな話を聞いたような気がする。

「実は私の両親は、今年42歳でね。

 ミディア、その話を聞いて、自分達だけ遊んでいていいのかって思ったみたい。

 それで、私に言ってきたの。

 明日は私達でルーイエ・アスクの仕事をして、お父さんとお母さんにはベイ・カロッサに行ってもらおうって。」

「そうだったんだ。」

 相変わらずミディアちゃんは、すごい優しいなあ。

 きっと私だったら、そんなこと全く考えないで、2日目も遊びに行ってたと思う。

「そんなわけで、今日は私達は琴音といっしょに遊びに行くことができないの。

 本当にゴメンなさい。」

 ラーファちゃんはそう言って、私に向かって深く頭を下げた。

「そんな、謝らないでよ。

 お父さんお母さんのために、2人とも立派だよ。

 それにひきかえ、私は・・・」


 その瞬間、頭の中に中学時代のことがよぎる。

 私が荒れるきっかけとなったのは、お父さんと大ゲンカしたことが理由だった。

 今でもあの時のお父さんのことを思い出すと、許せない気分になる。

 でも、あのケンカ以来、私はお父さんとは一度も会っていない。

 なぜなら、あの後すぐに、お父さんはアメリカに単身赴任で行ってしまって、一度も帰ってこないからだ。

 そして、結局、一度も会うことがないまま・・・


「どうしたの、琴音?」

 ラーファちゃんの声で、ハッと我に帰る。

 今、私は何を考えていたんだろう?

 お父さんと会うことがないまま・・・なんだって言うんだろう?

「ウウン・・・何でもない。」

 私がそう返すと、ラーファちゃんは立ち上がる。

「もう仕事に戻っちゃうの?」

「これでも、今日は社長だからね。」

 ラーファちゃんはそう言って、クスッと笑う。

「お仕事頑張ってね。」

「ありがとう、琴音。」

 ラーファちゃんはそう言うと、仕事に戻っていった。


 ラーファちゃんのおかげで、大体の事情はわかった。

 でも、これからどうしよう?

 私と会話ができるのは、このアトゥアではミディアちゃんとラーファちゃんだけだ。

 ミディアちゃんは、エレーネちゃんやアイちゃんと一緒に遊んでと言ったけど、会話ができないんじゃ遊びようもない。

 でも、ミディアちゃんもラーファちゃんもいつも以上に一生懸命働いているし、邪魔するのも悪い。

 ここにいたら、きっと私のことを気にしちゃうだろうから、とりあえず外に出よう。

 私はそう思い、ルーイエ・アスクの出口へと向かう。

 その時だった。

 ルーイエ・アスクのロビーに設置してあったイデアフィールズの映像が、目に飛び込んできた。


『昨日のベイ・カロッサで、衝撃映像が撮影されました。

 グラド・ルガンテを飛び回る女の子の映像です。』


 そう言って映し出された映像には、グラド・ルガンテを飛んでいる私の姿があった。

「えっ、これって・・・もしかして、私!?」

 どうして、こっちで私の映像が!?

 こっちの世界では、ミディアちゃんとラーファちゃん以外に、私の姿は見えず、撮影することもできないはずだよ。

 それなのに、どうして私の映像が放送されてるの?


『専門家の多くは、彼女がルフィルである可能性が極めて高いと話しています。』


 えっ、私がルフィルって、一体どういうこと?


『未踏のグラド・ルガンテにいることから、彼女がルフィルでほぼ間違い無いでしょう。』


 なんか、私が勝手にルフィルにされていく。

 昨日、覆面にグラド・ルガンテに連れていかれただけなのに・・・

 まさか、この映像は覆面の仕業か!?

 こんなことができるとしたら、私達をグラド・ルガンテに連れて行った覆面だけだ。

 でも、一体何のために?

 番組の中では、色んな人が私のことを話していた。

 ルフィルがこんなに可愛い女の子だなんて思わなかったって言われた時は、少し恥ずかしかった。

 でも、多くの人は、あまり私に対していい印象を抱いていないようだった。

 やっぱり、こんな小娘がルフィルだとわかって、ルフィル信仰に熱心な人達は怒ってるんだろうな。

 最初はそう思っていた。

 でも、彼らが不機嫌な理由は別のところにあった。


『見てください。

 ルフィル・カロッサをとても楽しんでくれているようです。』

 私の飛び回る姿を見て司会者がそう言うと、別の人が不機嫌な表情で机を思い切り叩いた。

『何が楽しんでるだ。

 アトゥアを危機にさらしておいて、よくもこんなに楽しそうに遊び呆けていられるな。』

 えっ、アトゥアの危機ってどういうこと?

『そうだ、彼女がもっとしっかりとルフィルの役割を果たしていれば、こんなことにはならないんだ。』

 男性はそう言うと、画面にグラフを表示した。

 そのグラフの意味がわかった瞬間、私は殴られたような衝撃を受けた。


 それは、ラーヴォルンの限界寿命のグラフだった。

 ここ数年、限界寿命が急激に低下していた。

『今年は、一気に5歳も低下して、ついに限界寿命は48歳まで下がってしまいました。

 つまり、我々は50年生きられないと言うことです。』


 その話を聞いた瞬間、以前、ミディアちゃんが言ったことが頭をよぎった。


「私達にはあまり時間がないかもしれない。」


 それって、まさかそういうことだったの?

 限界寿命がどんどん下がっていて、もしかしたらミディアちゃん達は長生きできないかもしれないってこと?


『原因は明らかでしょう。』


 男の人はそう言うと、もう一つのグラフを出した。


『これは、アトゥア中で観測されたマーシャントの総量をグラフ化したものです。

 御覧の通り、10年ほど前から急激に低下している。

 そして、それに伴い、限界寿命も低下している。』


 以前聞いたことがある。

 人間の魂は、体に定着するために、マーシャントと呼ばれる生命エネルギーを消費しているのだと。

 そして、そのマーシャントを宇宙から星に運んでくるのがルフィルの役割だってことを。

 そのマーシャントの量が減ると、魂は肉体にい続けることができなくなり、肉体から離脱してしまう。

 男の人の話によると、今、アトゥアで急増している死因は、魂が肉体に定着できなくなる脱魂によるものが圧倒的に多いらしい。

『昨日のルフィル・カロッサは、40代の観光客が多かったと聞きます。

 彼らは、もしかしたらこれが最期になるかもしれないルフィル・カロッサに来て、ルフィルが住んでいると言われているグラド・ルガンテを、一体どんな思いで見つめていたのでしょうか?』


 40代の話が出た瞬間、さっきのミディアちゃんとラーファちゃんの話が頭をよぎる。

 2人とも、とても親孝行な優しい女の子だなとぐらいにしか思わなかった。

 これが最後になるかもしれない。

 ミディアちゃんとラーファちゃんは、今、一体どんな思いで働いているんだろう?

 今知った事実は、私にとってあまりにも重すぎた。

 まさか、アトゥアがそんなことになっていたなんて・・・

 ルフィル・カロッサに遊びに行きたいという気分はもう完全に消え去っていた。

 それにしても、どうしてミディアちゃんもラーファちゃんも、こんな大事なことを今まで私に話してくれなかったのだろう?


『ルフィルには、もっとしっかりと働いてもらわないといけませんね。』

 番組のコメンテーターは私の映像に向かってそう言うと、それを見ていた多くの人が一斉に賛同した。

『先程、ラーヴォルンから戻られたウィルト王子が、結婚可能年齢を18歳から16歳に引き下げる法案を議会に提出されました。

 もしかしたら、これも近年の寿命低下を考慮されてのことかもしれません。』

『こんなことになっているのも、全部このルフィルのせいだ。』

 すると、番組を見続けていた一部の人達が、突然怒り出した。

「ルフィルに対する数々の暴言、もう我慢できん。」

「マーシャントが減っているのは、この星の寿命が近いからであって、ルフィル様のせいじゃない。」

「貴様ら、ルフィル信者だな。

 まだそんなでたらめを信じているのか?」

 番組を見ていた人達の間で口論が始まり、やがて殴りあいのケンカへと変わっていった。

 そして、それを見たルーイエ・アスクの従業員が慌ててこちらに向かってくる。


 多くの人が、私の映像に向かって罵詈雑言を浴びせかけていた。

 違う、私はルフィルじゃない。

 それなのに、なんか私のせいみたいになってる。

 みんなが私の映像に向かって非難するのを見て、私はその場から逃げ出した。

 いつの間にか、勝手にルフィルにされて、アトゥアの寿命低下の原因にされている。

 どうして、こんなことになっちゃったんだろう?

 ミディアちゃんとラーファちゃんに詳しい話を聞きたかった。

 でも、今日の2人はとても忙しそうで、声をかけることすらはばかられた。

 気がついたら、私は建物の外に飛び出していた。

 街の外には相変わらず大勢の人で溢れかえっていた。

 でも、昨日までと完全に見方が変わっていた。

 この人達は一体どんな思いで、このルフィル・カロッサに来ているんだろう。

 昨日はあんなに楽しかったのに、今日はなんだかすごい怖く感じて、私は人気の少ない方へと向かって行った。


 気がつくと、いつの間にか夕方になっていた。

 そろそろ2日目のベイ・カロッサが始まる時間が近いからか、大勢の観光客が、橋のかかる方へと流れていく。

 でも、私はとてもそんな気分にはなれなかった。

 1年で5歳も寿命が下がるなんて、ただ事じゃない。

 しかも、死因は病気でも事故でもなく、魂が体に定着できなくなることが理由だっていう。

 初めてラーヴォルンに来て2か月ぐらいになるけど、まさか、そんなとんでもないことになっているとは思わなかった。

 そう言えば、こっちでお年寄りの姿を一度も見たことがない。

 ラーファちゃんやエレーネちゃんの両親がものすごい若く見えたから、こっちの人は年をとっても老けにくいんだと思ってた。

 そうじゃなかった。

 多分、お年寄りと呼ばれる人達は、このアトゥアにはいないんだ。


 私は、目の前の流れ行く人をボーッと見つめながら、色んなことをずっと考えていた。

 でも、ふと視線に見慣れた人の顔が飛び込んできて、ハッと我に返った。

「あれは、エレーネちゃん?」

 大勢の人がベイ・カロッサの行なわれる方に歩いて行く中、一人反対の方向に歩いて行くエレーネちゃんの姿が見えた。

 よく見ると、エレーネちゃんの顔に泣いた跡があった。

 一体どうしたんだろう、エレーネちゃん?

 昨日はあんなに元気だったのに・・・

 本当はミディアちゃんやラーファちゃんに知らせるべきなのかもしれない。

 でも、今はミディアちゃんとラーファちゃんの邪魔をしたくなかった。

 私が、エレーネちゃんの様子を見るしかない。

 それに、私も今日は遊びたい気分じゃないからね。

 私は、エレーネちゃんの後をついて行くことにした。


 エレーネちゃんは人気のない海岸に行くと、1人佇んでいた。

 時々、何かを思い出しては、涙を流していた。

 いつも元気なエレーネちゃんに、一体何があったんだろう?

 でも、私の声は、エレーネちゃんに届かない。

 だから、こうやって見守ることしかできない。

 それに、落ち込んでいるのは、私も同じだった。

 だから、エレーネちゃんと一緒にいるのは、ある意味ちょうどよかった。


 日が暮れて、遠くの方から花火の音が聞こえてくる。

 どうやら、2日目のベイ・カロッサが始まったらしい。

 遠くの方に魔法の橋がかかるのが見えた。

 本当だったら、私もみんなと一緒に参加していたはずだった。

 どうして、こんなことになっちゃったんだろう?

 エレーネちゃんもさっきからずっと泣いてるし。

 でも、ミディアちゃんとラーファちゃんがいない今、私にはどうすることもできなかった。


<<ヤシュラム>>

 遠くの方で、花火が打ち上がる音が聞こえて来た。

 どうやら、2日目のベイ・カロッサが始まってしまったらしい。

 昨日は色々と任務はあったけど、なんだかんだでベイ・カロッサを楽しむことができた。

 初めて来たけど、すごいお祭りだった。

 今日もやると聞いていたので、是非とも参加したかったんだけど、残念ながらそういうわけにはいかなくなってしまった。

「彼はどんな状況ですか?」

 ボクが同じ特殊部隊のメンバーに尋ねると、渋い顔のまま返事した。

「相変わらず、さっきから倒れたまんまだな。」

「そうですか。

 あと、この部屋の2階にあった2人の死体については、なにかわかりましたか?」

「1人は25歳前後の女性で、もう1人は3歳の女の子だ。

 2人とも、そこに倒れている男の家族のようだ。」

「やっぱりそうですか。」


 なんとも酷い話だ。

 楽しいルフィル・カロッサの夜に、まさかこんな惨劇が起こるとは思わなかった。

 ボクは、夜中に外に出て行ったラーファさんのことが気になって、表に出たところで、強力な魔力の発動を感じた。

 それで、慌てて魔力の発生源であるここまで飛んできた時には、既にこうなっていた。

 ちなみに、あの魔力を感知した数名の野次馬が集まってきていたけど、憲兵隊と名乗って、何とか追い返した。

 本物の憲兵隊は、それから1時間ぐらいしてからやって来たけど、彼らにも事情を説明して帰ってもらった。

 何せ、今、目の前に倒れている人が目覚めたら、恐らく憲兵隊でも歯が立たないだろうから。

 余計な被害を出さないためにも、ここはボク達が対処するのがいいと判断した。

 そんなわけで、昨日の夜からずっと寝ずに現場検証をしていて、気がついたらベイ・カロッサが始まる時間になっていた。

 流石に少し疲れたなあ。

 今日はゆっくりと布団で眠りたい。


「それで、2人の死因はやっぱり・・・」

 同僚に死因について尋ねると、予想していた通りの答えが返って来た。

「ああ、2人ともメッサーを打ち込まれて死んでいる。

 あと、そこで倒れている男からエヴィラル痕が検出された。」

 予想していたこととはいえ、結果を聞いて思わずため息が出た。

 つまり、これはメッサー・エヴィラルを使えるメッサニアによる仕業ということになる。

「自分の家族にメッサーを撃つなんて、メッサニアに堕ちたら本当にもう人間じゃないんだな。」

 同僚がポツリとそう呟いた。

 どうやら同僚は、父親が妻と子供にメッサー・エヴィラルを撃ち込んだと思っているらしい。

 まあ、仕方がないかな。

 彼は今はボクと同じ部隊に所属しているけど、ボクと違ってメッサニア殲滅部隊にはいたことないから、メッサニアについてあまり知らないのだろう。


「父親も誰かにエヴィラルを撃ち込まれたんですよ。」

 ボクがそう言うと、同僚の表情が強張る。

 まあ、強張るのも無理はない。

 それって、最悪の話だからね。

 さっき、父親のエヴィラル痕を見せてもらったけど、あれはできてから時間が浅い。

 だから、昨日の夜に家族全員、メッサニアに襲われて、彼だけが生き残ったと考えるのが妥当だ。

 それに、エヴィラルは最強のメッサーであるため、苦痛もその後の快楽も長い時間続く。

 人にもよるが、快楽から意識が冷めるのに早くても1日、長い人になると2日以上になることもあるらしい。

 今、目の前で倒れている男は、時々体をピクピク動かしているが、あれは射精する時の動きだ。

 股間が異様にベットリ濡れていることから、この男はもう何度も射精し続けているんだろう。

 意識がないのは、精神は別の場所に飛ばされているからだと言われている。

 放置しているのは、触れるだけで彼が絶頂に達して、激しく暴れるからってのもあるんだけど、それだけじゃない。

 一番の理由は、彼を隔離する施設がこの近くにないからだ。

 メッサニアが最後に発見されたのが20年前ということもあって、ラーヴォルンの近くにあった隔離施設は閉鎖されてしまったからだ。

 それに、目が覚めたら色々と聞いてみたいこともあるからね。


「まさか、例のメッサニアの仕業か?」

 同僚が怯えた表情でボクに尋ねてくる。

 彼は色んな特殊任務で戦闘の経験は豊富だけど、やっぱりメッサニアは怖いのだろう。

「いえ、これは恐らく別のメッサニアの仕業でしょう。」

 ボクがそう言うと、同僚は怯えの表情を浮かべた。

「つまり、例のメッサニア以外に、この家族を殺したメッサニアが、このラーヴォルンのどこかに潜んでいると?」

「案外、今頃はお祭りを楽しんでいるかもしれませんね。」

 ここは彼の気持ちをほぐすためにも、軽いジョークを言ってみたんだけど、同僚はボクの話を最後まで聞かずに、血相を変えて飛び出して行った。

 どうやら、他のメンバーを呼びに行ったみたいだ。

 やれやれ、きちんと最後まで話を聞いてほしかったな。


 それにしても、今回の事件はかなり変だ。

 通常、メッサニアは一度に大勢の人間に襲いかかる。

 でも今回は、周囲にこれだけのお店や家があるにも関わらず、被害にあったのはこの一軒だけだ。

 あと、メッサニアは成功したメッサニアが正気を取り戻すのを待つ習性がある。

 これは、目覚めたメッサニアにメッサーを撃ってもらうためだ。

 だから、多くの場合は、事件現場でメッサニアを捕まえることができるのだけど、今回はメッサー・エヴィラルを撃った後、さっさと姿を消してしまった。

 せっかく1人成功したのに、どうしてメッサニアは彼が目覚めるのを待つことなく姿を消してしまったのだろう?

 まさか、大勢の野次馬が押し寄せて来たから逃げた?

 いや、むしろメッサニアにとっては、これ以上ないチャンスのはずだ。

 それとも、メッサニア殲滅部隊に所属していたボクが近づいていることに気づいたから?

 さすがにそれはないかな。

 ボクは隊長と違ってそんな有名人じゃないし、ラーヴォルンに来るのも今回が初めてだ。

 メッサニアがボクのことを知っているとは思えない。

 これはボクの直感だけど、なんかこれは只ならぬ事件のような気がする。

「ここ20年発見されなかったメッサニアが出現して、被害者まで出てしまった。

 しかも、まさか別のメッサニアがラーヴォルンに潜んでいるとは、ボクも予想してませんでした。

 これは、もしかすると、かなりマズいことになるかもしれませんよ、ウィルト王子。」


<<アイ>>

 結局、エレーネ先輩がベイ・カロッサの会場に姿を現わすことはなかった。

 おかげで、エレーネ先輩のお母さんやラーファ先輩の両親が来るまで、お父さんと一緒に並ぶ羽目になってしまった。

 一人で並ぶよりは退屈しなくていいんだけど、その間、お父さんの下ネタジョークをずっと聞かされる羽目になった。

 それから、しばらくしてエレーネ先輩のお母さんが来て、お父さんの下ネタジョークは終わったんだけど、エレーネ先輩のお母さんはエレーネ先輩が来ていないことに驚いていた。

「あの子・・・まさか・・・」

 気のせいかもしれないけど、エレーネ先輩のお母さんもあまり元気がないようだった。

 もっとも、お父さんが下ネタジョークを言うと、

「もういい年になるのに、アンタは相変わらずね。」

 エレーネ先輩のお母さんは、そう言ってクスッと笑った。

 もしかして、お父さんもエレーネ先輩のお母さんが元気がないことに気がついて、元気づけるために冗談を言ったとか・・・

 いや、多分、違う。

 お父さんは周りの空気とか全然読めない人だから、きっと素で言ってるだけだろう。

 でも、それでも、それでエレーネ先輩のお母さんが笑ったから、まあよしとするかな。


 その後、交代してもらって、エレーネ先輩を探しに行ったけど、結局見つけることができなかった。

 あと、こっそりルーイエ・アスクに寄ってみると、ミディアとラーファ先輩が働いていた。

 声をかけようと思ったけど、いつもよりもかなり忙しそうだったので、声はかけずにルーイエ・アスクを出た。

 それからも結構探し回ったんだけど、エレーネ先輩を見つけることができなかった。

 そして、結局エレーネ先輩を見つけることができないまま、ベイ・カロッサが始まってしまった。


「アイーシャ、ゴメンね。

 随分とエレーネを探してくれたみたいで。」

 エレーネ先輩のお母さんに謝られた。

「いえ、いいんです。

 それにしても、エレーネ先輩、どこに行っちゃったんだろう?」

「エレーネには、あとでたっぷりと説教しておくからね。」

「いえ、本当に気にしなくていいですから。」

 でも、エレーネ先輩がいないのは、正直少し辛い。

 だって、私以外全員大人だし。


「アイーシャ、一緒に飛ぼう。

 お父さんが抱っこしてあげるよ。」

 お父さんがそう言って、私に背後から抱きついて来た。

 その様子を見たラーファ先輩のお母さんの表情が変わった。

「アンタ、まさか娘に手を出してないでしょうね?」

「嫌だなあ、こんなの親子のスキンシップですよ。」

「そう思ってるのはお父さんだけだよ。

 恥ずかしいから、離れてよ。」

 私がそう言うと、お父さんは離れてくれたけど、なんかすごい寂しそうな表情でこっちを見ていた。


「今からこれだと、アイーシャが結婚する時はきっと号泣するだろうな。」

 ラーファ先輩のお父さんが、笑いながらうちのお父さんにそう言うと、

「私の目が黒いうちは、アイーシャは絶対に嫁には出さない。」

 そう言って、また私に抱きついて来た。

 あーもう、うっとおしい。

 お父さんを何とか引き剥がそうとするけど、今度は簡単には剥がれてくれなかった。


「まあ、俺もその気持ちはわかるけどな。」

 ラーファ先輩のお父さんがそう言った。

「やっぱり先輩も、ラーファちゃんやミディアちゃんを嫁に出したくないでしょ?」

 お父さんがそう言うと、ラーファ先輩のお父さんは苦笑する。

「そりゃあ、いつかいなくなっちゃうと思うと寂しいけどさ。

 でも、やっぱり、俺は2人にはしっかりした人と結婚して、幸せな家庭を築いてほしいと思うよ。

 できれば、俺の生きている間にね。」

「嫌だよ。

 せっかくのベイ・カロッサなのに、暗くなるようなこと言わないでくれよ。」

 ラーファ先輩のお母さんが、ラーファ先輩のお父さんをたしなめる。

 やっぱり、みんな、気にしてるんだ。

 実は、私もすごい心配している。

 だって、お父さんは、私にとって、たった一人の家族だから。

「大丈夫、アイーシャが結婚するまでは、お父さん頑張って生きてるからさ。」

 お父さんが、私を抱きしめながらそう言った。

「お父さん・・・さっき、自分の目が黒いうちは、私を嫁に出さないって言ってなかった?」

 私がそう言うと、お父さんは頭を抱えてうずくまってしまった。

 なんか、すごい頭の中で葛藤しているようだった。


 でも、お父さんのおかげで、少し気持ちが楽になった。

 心配しなくても、私が結婚するのは、まだまだ先だと思うよ。

 だって、私、まだ男の人を好きになったことが一回もないからね。

 今だって、一番好きなのはラーファ先輩だから・・・

 ラーヴォルンでは同性婚は認められているけど、ラーファ先輩と結婚したいのかどうか、私にもよくわからない。

 ラーファ先輩のこと、そういう風に考えたことなかったから・・・

 まあ、そんなわけで、きっと私は結婚するのに時間がかかると思うよ。

 だから・・・それまでせいぜい長生きしてね、お父さん。


「それにしても、本当にお母さんに似て来たな。

 そうだ、アイーシャ、お父さんと結婚しよう。」

「・・・・・・」

「あとな、帰ったら、もう一度昼間の苦悶の表情を見せてくれ。

 本当にお母さんに似ていて、すごい可愛かったぞ。」

「・・・・・・」

 なんか、お父さんのことを心配していたのがバカバカしくなってきた。

 本当に、お母さんはどうしてこの人を結婚相手に選んだのだろう?


(1)ルーイエ・アスク

ラーファの両親が経営する宿泊施設。

施設内にはレストランもあり、比較的大きな宿泊施設のように思えるが、これでもラーヴォルンの宿泊施設の中では小さい部類に入るらしい。


(2)ルフィル・カロッサ

ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。

毎年秋に開催される。


(3)ベイ・カロッサ

ルフィル・カロッサ最大のイベント

北街と南街から魔法の橋をかけて、橋を渡るイベント

2つの大陸の平和を祈るために、2つの橋は交差するようにかけられる

そして、交差点では、平和を祈る「エミレフィーユ」と言う言葉で挨拶を行なう。


(4)グラド・ルガンテ

アトゥア唯一の浮遊大陸。

しかし、これまで誰も上陸できた人はおらず、いつからかルフィルの住む島として神聖視されるようになった。

グラドとは、神聖な人や場所につける称号で、ルフィル説が定着するようになってから、グラド・ルガンテと呼ばれるようになった。


(5)ルフィル

星の生命の流れを導く存在。

死にゆくものの魂を天に返し、生まれゆく者の魂をこの星に導くための存在。

アトゥアでは、自分達が生きていられるのは、ルフィルのおかげと思っている人達が多く、ルフィル信仰が盛んである。


(6)イデアフィールズ

放送電波を受信して、映像や音声に変換する機械

また、映像イデアを再生したり、放送を映像イデアに記録することもできる

地球におけるテレビやビデオに相当する。


(7)マーシャント

マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。

生命や星は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。

地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。


(8)メッサーとメッサニア

メッサーとは大量のマーシャントを圧縮して魂に打ち付ける魔法で、禁呪指定されている魔法

死亡率が6割以上もあるが、生き残ると至高の快楽が得られると言われている

メッサーと呼ばれる魔法は多く存在し、中でもエヴィラルと呼ばれる魔法は、メッサーの中でも最高の快楽を得られる魔法として有名である

メッサーの至高の快楽に取りつかれた人達のことをメッサニアと呼んでいる

一時期、メッサニアの存在はアトゥアを恐怖に陥れたが、アトゥア中の国々が団結して撲滅運動を行なってきたため、メッサーとメッサニアの恐怖は以前よりは小さくなった。

しかし、今でも相当数のメッサーとメッサニアが潜んでいると言われている。


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