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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
85/254

39.海水浴と花火大会

<<琴音>>

 ラーヴォルンでとんでもないことが起こっている。

 そんなことを全く知らない私は、少し遅い朝食をとった後、日花里ちゃん、ニコちゃんと一緒に海水浴に来ていた。

「徒歩でこんなに大きな海水浴場に来られるなんて、なんかすごい羨ましいよ。」

 私がそう言うと、ニコちゃんは「そうでしょそうでしょ。」となぜか満足そうな笑みを浮かべていた。

 ニコちゃんの親戚の家から徒歩で数分のところに、大きな海水浴場があったので、私達は家で水着に着替えてから、海水浴場まで来ていた。

「でも、帰りは結構な登り道だから、大変なんだよ。」

 ニコちゃんはそう言って、歩いてきた道の方を振り返る。

 一緒に振り返ると、確かに結構な坂道になっている。

 これは海水浴で体力を使い果たすと、帰りは結構きついかもしれない。


「へえ、なかなかきれいな海水浴場じゃない。」

 海水浴場に到着するや、日花里ちゃんが周りを一望しながらそう言った。

 海の向こうには、小さな島が見えるけど、ニコちゃん曰く、あれは小さな無人島らしい。

 今日は天気も良く、見晴らしもいいせいか、その向こうにはかすかに陸のようなものが見えた。

「あれって、やっぱり蜃気楼かな?」

 私が日花里ちゃんに尋ねると、日花里ちゃんは首を傾げた。

「どうだろう?

 蜃気楼って、もっと揺れているイメージがあるけど、そんな感じじゃないからなあ。」


 私と日花里ちゃんが景色を見ながらそんなことを話していると、隣にいたニコちゃんがなぜかため息を一つついた。

「ここの海、結構きれいでいい場所だと思ったんだけど、なんかラーヴォルンを見た後だとかなり霞むなあ。」

 確かに、初めてラーヴォルンに行った時って、ラーヴォルンの景色の美しさに目を奪われるよね。

 私もそうだったから、よくわかる。

 でも、こっちの海水浴場だって、十分素敵な海水浴場だと思う。

 ニコちゃんがそう思うのは、多分ここに何度も来ているからだと思う。

「何言ってるの、ニコちゃん。

 ここもすごい素敵な場所だよ。」

「でもさあ、ラーヴォルンと比べると、どうしても・・・」

「私はここからの景色、すごく素敵だと思うわよ。」

 ほら、日花里ちゃんもそう言ってる。

「大体、ラーヴォルンはこっちの世界と比較するためにあるんじゃないよ。

 そんなこと言ってたら、もうラーヴォルンに連れていってあげないからね。」

 私がそう言ったら、ニコちゃんは慌てて私に謝る。

 まあ、ついこないだまで、私もラーヴォルンに夢中だったから、人のことは言えないんだけどね。

 確かにラーヴォルンは美しい世界だけど、こっちにも美しい景色がたくさんある。

 今回の旅行で、私はそう思うようになっていた。


「そんなことより、さっさと泳ぐわよ。

 ただでさえ朝起きるのが遅くて、あんまり泳ぐ時間ないんだから。」

 日花里ちゃんはそう言うと、一足先に海に入っていった。

 今日の日花里ちゃんは、いつも以上にアクティブだ。

 そして、日花里ちゃんの水着もすごいアクティブだった。

「まさか、日花里ちゃんが黒のビキニとはね。」

 ニコちゃんが日花里ちゃんを見て驚いていたけど、私も同感だった。

 日花里ちゃんのことだから、てっきり私と同じようなワンピース水着だと思った。

「琴音ちゃんの水着もすごいかわいいね。」

 ちなみに、ニコちゃんの水着もビキニだった。

 海水浴場を見渡すと、結構ビキニの女性が多かった。

 みんな、当たり前のようにビキニとかで泳いでいるけど、恥ずかしくないのかな?

 ビキニって布面積的には下着と同じなわけで、個人的には下着で外に出ているのとなんら変わらないように思うんだけど・・・

 日花里ちゃんもニコちゃんも、なんかすごいね。

 私なんか、これでもかなり恥ずかしいんだから。


 そんな思って見ていたら、日花里ちゃんがすぐに海から上がってきた。

「水、すごい冷たいよ。」

 日花里ちゃんはそう言って、歯をガタガタ震わせていた。

「えっ、そんなに冷たいの?」

「まあ、8月の中旬だから、結構冷たいかもね。」

 ニコちゃんは準備運動をしながら、冷静にそう言った。

 ていうか、一人だけちゃっかり準備運動を終えてるし・・・

「よし、じゃあ先に行ってるね。」

 ニコちゃんはそう言って、海に入っていく。

「やっぱり、これくらいの温度がちょうどいいよ。」

 ニコちゃんはそう言って楽しそうに泳ぎ始める。

 その一方で、日花里ちゃんはというと

「これだから海は嫌なのよ。

 温水プールに行きたかった。」

「ま、まあ・・・私達も準備運動すれば、きっと体があったまって、ちょうどいい水温になるよ。」

 怒る日花里ちゃんをなんとかなだめて、私は日花里ちゃんと準備運動を行って、海に入っていった。


 最初こそ怒っていた日花里ちゃんだったけど、次第に水温にも慣れてきたようで、30分もしたら私達と一緒に海の中で楽しそうに遊んでいた。

 ちなみに運動音痴の日花里ちゃんは、泳ぎがあまり得意じゃない。

 というか、ほとんど泳げない。

 だから、突然深くなったりする場所がある海に行くのを嫌がっていた。

 そんなわけで、私は事前にニコちゃんに深いところに行くのはやめておこうと話していた。

 最初、ニコちゃんは若干不満そうだったけど、浅いところでも結構楽しく遊べるもので、私達は海水浴を思い切り満喫していた。


「そろそろお腹すいたね。」

 ニコちゃんがそう言いだす。

 時計を見ると、いつのまにか午後2時を過ぎていた。

 少し疲れたし、ちょうどお腹も空いていたので、私達はビーチパラソルの下でお昼を取ることにした。

 昨日、ニコちゃんが海水浴に行くと話したら、ニコちゃんのおばさんがお弁当を作っていてくれた。

 私達の分まで作ってくれていて、私達はビーチでおばさんのお弁当をおいしく頂いた。

 しかし、ニコちゃんはお弁当だけでは満足できないようだった。

「個人的には、海水浴に来たら、海の家の焼きそばが食べたかったんだけどなあ。」

 まあ、海水浴と言えば海の家みたいなところがあるからね。

 今日来た海水浴場には大きな海の家があって、お昼を過ぎているにも関わらず大勢の海水浴客で賑わっていた。

 そして、お店の方から、香ばしいソースの香りがこちらまで漂ってきていた。

「確かに・・・おいしそうだね。」

「じゃあさ、焼きそば1パックだけ買って、3人で分けて食べようよ。」

「それいいね。」

 結局、私達はお店からの匂いに負けて、焼きそばを1パック買うことにした。

 しかし、あれだけおいしそうに感じた焼きそばの香りだったのに、実際に買ってきた焼きそばはすっかり冷めていて、正直あまりおいしくなかった。

「まあ、こんなものよね。」

 焼きそばを食べ終わった日花里ちゃんが、ため息を一つついた。

 こんだけ海水浴客が大勢いるんだから、作り置きしておくのは仕方がないんだけど、どうやら相当時間が経ったものを掴まされてしまったようだ。

「気を取り直して、泳ぎに行こう。」

 焼きそば購入を提案したニコちゃんは、話を逸らすかのように海へと向かった。

 でも、さすがにお弁当に焼きそばでお腹いっぱいなので、

「私はもう少しだけ休憩するよ。」

と言うと、日花里ちゃんも一緒に休憩すると言い出し、結局ニコちゃんも休憩する羽目になった。


「ねえ、ニコちゃん、今晩の花火大会って、どこでやるの?」

 とりあえず、焼きそばのことを忘れるために、今晩の花火大会の話を振ることにした。

「どこって、ここだけど・・・」

「えっ、ここなの?」

 まさか、海水浴場で花火大会をやるとは思ってなかった。

「正確には、ここから少し離れたところから打ち上げられるんだけど、ここからでもよく見えるよ。

 家からでも結構花火が見えるから、いつもは家で見てるんだけど、今日はここで見ようよ。」

「家から見えるんだったら、家でゆっくり見た方がいいじゃん。」

 日花里ちゃんがそう言う。

 私も日花里ちゃんと同じ意見なんだけど、ニコちゃんは

「確かに家からでも花火は見えるけど、家からだとライブ感みたいなものがないんだよ。」

「はあ、ライブ感ですか。」

「そう、他のお客さんと一緒に同じ花火を見て、一緒に感動し楽しむライブ感だよ。」

 まあ、確かにニコちゃんの言う通りかもしれない。

 でも、日花里ちゃんはニコちゃんに向かって、

「どうせ、この辺にたくさん夜店が出るんでしょ。」

と言うと、ニコちゃんはバレたかと苦笑いする。

「そんなわけで、夕方あたりから、この辺、人が増えだすから、早めに着替えておいた方がいいと思うよ。」

 ここから見る花火がそんなにきれいだったら、他の人もここに大勢やって来るだろうし、そう考えると泳げる時間はもうあまりなさそうだった。

 大勢の人達に水着姿を見られるの、恥ずかしいからね。


 それから2時間ほど遊んだ後、私達は近くの建物でシャワーを浴びて、服に着替えた。

「少し遊び足りなかったわね。」

 日花里ちゃんは少し不満を漏らしていたけど、裏を返せば、それだけ楽しかったってことだろう。

「琴音はあまり楽しめなかったみたいね。」

「えっ?」

「琴音ちゃん、もしかしてつまらなかった?」

「いや、そんなことないよ。すごい楽しかったよ。」

 私は慌ててニコちゃんにフォローした。

 どうして、日花里ちゃんは私が楽しめなかったなんて言い出したんだろう。

「だって、琴音、海に来たら、いつも私のことをほったらかしにして、遠泳してたでしょ。

 でも、今日は全く遠泳しなかったし、もしかして気になってるのかなあって思って。」

「何が?」

「ミディアちゃんのことよ。」

「ウン、まあ少しはね。

 でも、私はすごい楽しんでたつもりだけどなあ。」

 確かに遠泳しなかったけど、それは日花里ちゃんに遠慮したからであって、決して楽しくなかったからじゃない。

 それに、正直言うと、日花里ちゃんに言われるまで、ミディアちゃんのことをすっかり忘れていた。

「もう、琴音ちゃんはこっちで遊んでいる時まで、ミディアちゃんのこと考えちゃって。

 なんか妬けちゃうなあ。」

 ニコちゃんがジト目で私の方を見つめる。

「いや、だから、私、楽しんでたって。」

「本当に?」

 ニコちゃんが、じっと私を見つめる。

「だから、本当だってば。」

 私がそう言うと、

「よろしい。」

ニコちゃんはそう言ってニコッと笑った。


 それから花火大会が始まるまでの間、私達は海からの景色を楽しみながら、色んなことを話した。

 でも、中学の頃の話になると、なぜか話がかみあわないことがあった。

「中学の時、絶対に日花里ちゃんと一緒に花火大会に行ったよ。」

「そんなことなかったわよ。

 大体、中学の時、私が花火大会に誘っても、琴音はつまらなそうだからいいって断ったじゃない。」

 今は中学の時に花火大会を見に行ったことについて、私と日花里ちゃんの記憶がかみ合っていなかった。

 前もそうだったけど、どうして私と日花里ちゃんで、中学時代の記憶に差があるんだろう?

「いや、でも・・・確かに見に行った記憶があるんだよ。

 私と、日花里ちゃんと、もう一人・・・」

「もう一人?」

 あれっ、誰だっけ?

 全然思い出せない。

「中学の時の琴音って、私としかまともに会話しなかったでしょ。」

「まあ、それを言われたら、そうなんだけど・・・」

 じゃあ、私のこの頭の中にあるこの記憶は一体何だろう?


「時々話には聞いてるけど、本当に中学時代の琴音ちゃんってすごかったんだね。

 でも、チョイ悪の琴音ちゃんにも会ってみたかったなあ。」

 ニコちゃんがそう言った瞬間、別の記憶が思い浮かんできた。


「琴音ちゃんのそういうチョイ悪なところって、私、結構憧れてるんだよね。」

 誰だろう、この子は?

 顔も思い出せないし、どこでの会話なのかも思い出せない。

 声だけしか聞こえないけど、多分、今の女の子がさっき話していたもう一人の子だ。

 心なしかニコちゃんと声が似ているような気がしたけど・・・まさか・・・

「ねえ、もしかして、私、実は中学の時、既にニコちゃんと友達だったとか・・・」

 私がそう言うと、ニコちゃんは驚いた表情になった。

「私が琴音ちゃんと友達になったのって、高校に入ってからじゃない。」

「・・・だよね。」

 だったら、このもう一人の女の子は誰なんだろう?

「きっと、琴音が脳内で作った友達でしょ。」

「私は、脳内で友達を作るような趣味なんてないよ。」

 ウン、そんな趣味はなかったはずだ。

 でも、どうして中学の記憶が、こんなに日花里ちゃんとかみ合わないんだろう?


「中学の時と言えばさあ。」

 ニコちゃんが突然別の話題を振ってきた。

「世界中であの動画がすごい話題になったじゃない。」

「あの動画?」

 世界中でそんなに話題となるような動画なんてあったっけ?

「ああ、あったわね、人類滅亡動画。」

「人類滅亡動画?」

 それはまた物騒な動画だなあ。

 でも、そんな動画流行ってたかなあ。

「ねえねえ、人類滅亡動画って何のこと?」

 私がそう聞いたら、日花里ちゃんとニコちゃんは驚いた表情になった。

「えっ、ウソ、琴音、この動画のことも覚えてないの?」

「まさか、琴音ちゃん、中学時代は全くネットもテレビも見てなかったとか。」

「いや、さすがにそんなことはないけど・・・」

「だったら、どうして知らないの?」

 ニコちゃんは目を丸くしていた。

 いや、そんなに知らないとダメなくらい話題になったんだろうか?

「確かに、琴音とその動画のことについて話したことなかったわね。

 だって、琴音、学校にもロクに来なかったからね。

 でも、まさか、全く知らなかったとは思わなかった。」

 日花里ちゃんも驚いていた。

 だから、そんなに知らないとダメなくらいの出来事なわけ?

 たかが動画一つ知らないだけで、こんなに2人に驚かれるとは思わなかった。


「で、どんな動画だったの、それ?」

 私がそう聞くと、日花里ちゃんが説明してくれた。

「時間は約30分ぐらいの動画なんだけどね。

 内容はタイトル通りで、世界で戦争が起こって、人類が滅亡するって動画よ。」

 フーン、要はパニック映画だよね。

 そんな動画がどうして世界的に有名になったんだろう。

 そう思っていたら、日花里ちゃんが続きを話してくれた。

「ただね、この動画には実際の人物や基地が多く出てきてね。

 主要な国の軍事機密が、動画内で一気に暴露されちゃったらしいのよ。」

「この動画、色んな言語で翻訳された動画が世界中に一斉に動画配信されたんだよ。

 しかも、アメリカとロシアと中国だけは、違うバージョンの動画が流れたんだって。

 例えば、アメリカ版だとロシアや中国の軍事基地の詳細な情報が多かったらしいけど、ロシア版だとアメリカと中国の情報が、中国の動画にはアメリカとロシアの情報が多く載っていたらしい。

 当時、この三カ国が緊張状態にあったこともあって、その内容のリアルさに、大勢の人が一斉にこの動画の内容に興味を惹かれたんだけど、ある日世界中の動画サイトから一斉に削除されたのよ。

 この一斉削除には政府の介入があったって言われてる。

 内容が内容だし、世界中で一斉に削除されたってことから、多くのネットユーザの注目を一斉に浴びることになった。

 でも、動画配信サイトからは動画が削除された理由の説明が一切ないまま、その後も動画が何度も一斉削除されて、それで世界中のネットユーザが怒り出した。」

「あー、なんかその後の展開が読めて来たぞ。」

 ネットって、たまに理不尽な出来事があった時に、ネットユーザが団結してそれに対抗しようとすることがあるけど、多分これもそのパターンだと思う。

「そのあと、投稿者が再びアップした動画が一斉に理由なき削除が行われると、世界中のネットユーザが一気に燃え上がった。

 動画を保存していた人達が次々とアップし始めて、三カ国版も色んな人が字幕をつけて世界中にアップし始めたのよ。

 当然、運営は動画の削除だけでなく、投稿者のアカウント削除までやったりしたけど、焼け石に水状態で、次から次へと動画がアップされていった。」

「一時期、消すと増える動画なんて言われてたよね。」

 ニコちゃんが笑いながらそう言う。

 消すと増える動画って・・・一体どれだけの勢いでアップされてたんだろうか?

「そうこうしているうちに、他のメディアサイトにまで飛び火して、ついにはテレビでニュースになるほどまで広がった。

 そんな中、タイミングがいいのか悪いのか、緊張関係にあったアメリカとロシアと中国の首脳会談が行われることになってね。」

 なんと、そこまで大事に発展していたとは・・・

「首脳会談で3か国は友好をアピールしていたけど、それにはあの動画の影響もあったって言われている。

 動画で軍事機密のほとんどをバラされた3カ国が、とりあえず今の緊張関係を緩和させる方向に舵をとったんじゃないかってね。

 あの動画がなかったたら、もしかしたらあの動画みたいに本当に戦争になってたかもしれない。

 これは我々の勝利だって、ネットだけでなく世界中がすごい盛り上がったんだよ。」

 へえ、そんなことがあったんだ。

 ていうか、私達の世界って、そんな緊張状態にあったんだ。

 私って、自分の住んでいる世界のことは本当に何にも知らないんだなあ。


 あれっ、どうしたんだろう?

 世界が平和になってよかったはずなのに、どうしてこんなに心がざわめくんだろう?

「そうだ、その時の世界滅亡動画、あとで琴音ちゃんに見せてあげるね。

 私も確か、ダウンロードしてたはずだから、こっちの家のPCにもあったはずだよ。」

「ウ、ウン、ありがとう。」

 ニコちゃんにそう言ったものの、さっきから私の心の中はざわめきたっていた。

 一体、私は何を動揺しているんだろう?

「まあ動画はまた後ね。まずは花火をしっかり楽しもう。」

「そ、そうだね・・・」

「琴音、なんか顔色悪そうだけど大丈夫?」

 日花里ちゃんが私の顔を覗き込む。

「だ、大丈夫だよ。」

 とは言ったけど、さっきの心のざわめきは一体何だったんだろう?

 でも、その後、自然と話は花火大会に変わったので、私もそれ以上気にすることなく2人と話を続けることにした。

 そうこうしているうちに、いつのまにか辺りは暗くなっており、周囲には大勢の花火を見に来た人達で賑わっていた。

 そして、ニコちゃんが楽しみにしていた夜店もたくさん出ていた。


「じゃあ、私、ちょっと夜店で何か買ってくるよ。

 私はたこ焼き買うけど、琴音ちゃんと日花里ちゃんは何がいい?」

 早速、ニコちゃんは夜店に向かおうとしていた。

 本当に、夜店、楽しみだったんだね。

「じゃあ、私はイカ焼きで。」

 日花里ちゃんはまた渋いのを選ぶなあ。

「じゃあ、私はお好み焼きで。」

「わかった。じゃあ、買ってくるね。」

 とはいえ、3人分の食べ物をニコちゃん1人で持つのは流石に大変だと思い、

「ニコちゃん、私も一緒に行くよ。」

と言ったんだけど、ニコちゃんは

「ウウン、私1人で買ってくるから別にいいよ。

 それより2人にはこの場所を死守してほしい。」

 ニコちゃんは私達に力強くそう言ってきた。

 確かに、どんどん人が増えてきて、私達の周りの自由空間は狭くなっていく一方だった。

 私とニコちゃんが買い物に行ったら、日花里ちゃんだけでこの場所を防衛しないといけない。

 今の人の増える勢いを考えると、3人分の場所の確保を1人でやるのは厳しそうだ。

「ウン、わかった。私達に任せておいて。」

 私がそう答えると、ニコちゃんは笑顔で頷いて、夜店目指して人ごみの中に消えて行った。


「夜店に並ぶのはニコ一人で十分でしょ。」

 なんか、日花里ちゃん、ニコちゃんに対してたまに辛辣な時があるんだけど、本当に仲がいいんだろうか?

「本当に人でいっぱいになってきたね。」

「まあ、この花火大会はこの辺じゃ有名な花火大会だからね。

 周辺地域からも結構来ているみたいよ。」

「そうみたいだね。

 あと、思っていたよりもカップルが少ないね。」

「そう?結構いると思うけど。」

 日花里ちゃんはそう言うけど、私は色んな雑誌で花火大会はカップルの巣窟って書いてる記事を見ていたので、むしろ少ないと感じた。

 代わりに、私達みたいに友達同士で来ている人や家族で来ている人、あとは外国人の姿も結構あった。


 ニコちゃんは夜店で並んでいるのか、それとも人混みでここがわからなくなってしまったのかわからないけど、なかなか戻ってこなかった。

 そうこうしているうちに、花火大会のアナウンスが流れ始めて、今にも花火大会が始まりそうな雰囲気へと変わっていった。

「ニコちゃん帰ってこないね。」

「下手に注文なんて頼んだから、お腹が空いて来たわね。」

「そうだね。」


 その時、近くの空でヒュルルルという花火の打ち上がる音がなる。

 そして、夜空に大きな花火の大輪を咲かせ始めた。

「あーあ、ついに始まっちゃったよ。」

「仕方ないわね。

 ニコは放っておいて、私達だけで花火を楽しもう。」

 日花里ちゃんはそう言って、次々と打ち上がる花火の方に視線を向ける。

 まあ、ニコちゃんのことを気にしたところで、この人混みの中じゃどうしようもないし、私も日花里ちゃんと一緒に花火を見ることにした。

 しばらく、打ち上がる花火を、私と日花里ちゃんは無言で見続けていた。

 でも、しばらくすると、日花里ちゃんが私に話しかけて来た。

「ねえ、琴音、こないだベイ・カロッサでも花火上がってたよね。」

「ウン。」

「ベイ・カロッサって、すごい素敵なイベントだったけど・・・」

「花火だけ、なんか物足りなかったよね。」

 私がそう返すと、日花里ちゃんは一瞬驚いた表情でこっちを見る。

「えっ、もしかして琴音も思ってた?」

「ウン、やっぱり、花火はこうじゃないとね。」

「ラーヴォルンの花火は単調なのばっかりだったでしょ。

 少し物足りなかったわね。」

「それに、音もなんか軽かったでしょ。

 こっちの花火は打ち上がったら、ズンって重低音が来るでしょ。」

「迫力が全然違うよね。」

 どうやら、私と日花里ちゃんの意見は同じみたいだった。

 花火に関しては日本の圧勝だ。

「この花火・・・ミディアちゃん達にも見せてあげたいな。」

 私がそう言うと、日花里ちゃんも頷いた。


 それからも、次々と色んな花火が打ち上がる。

 私は日花里ちゃんと一緒に、空の花火を楽しんでいた。

「おお、ナイアガラだ。」

「これ、テレビや動画でしか見たことないやつだよ。

 まさか、ここでナイアガラが見られるとは思わなかったよ。」

 天から降ってくる無数の炎は、まさにナイアガラと呼ぶにふさわしいものだった。


「えっ!?」

 突然、視界から花火の映像が消え去り、代わりに頭の中に真っ赤な光景が浮かんできた。

 見える映像はノイズだらけで、場所も状況もはっきりとわからないのに、なぜかすごい怖い光景に思えた。

 そして、なぜか私の隣には日花里ちゃんが、もう一方の隣にはもう一人の友達が一緒にいたような気がする。

 それにしても、どうしてこんなに周囲は真っ赤なんだろう?

 そうだ、さっきの花火みたいに、確か空から・・・


「琴音ちゃん、見つけた。」

 突然、背後から誰かに肩を掴まれ、ハッと我に返る。

 すると、そこにはくたびれきっていたニコちゃんが立っていた。

 どうやら、ちゃんと頼んだものは買ってきてくれたみたいだ。

「もう、どの店もすごい並んでて、しかも買ったらすごい人ごみで、途中から2人の居場所がわかんなくなっちゃってさ。」

「やっぱり迷子になってたのね。」

「そんなわけで、買ってきたんだけど、彷徨ってるうちにすっかり冷めちゃったよ。」

 ニコちゃんが申し訳なさそうにそう言う。

「いいわよ。そんなことより、ニコも一緒に花火を見よう。」

「ウン、そうだね。」

 ニコちゃんはそう言って、日花里ちゃんの隣にいこうとした。

 でも、すぐに私の方を見る。

「どうしたの、琴音ちゃん、私の手をギュッと掴んで・・・」

「えっ!?」

 自分でも気づかなかった。

 いつのまにか、ニコちゃんの手を掴んでいた。

 それだけじゃない。

 もう一方の手では、日花里ちゃんの手をギュッと握りしめていた。

「どうしたの、琴音?」

 日花里ちゃんが不思議そうに私の方を見る。

「もしかして、私が隣にいないと寂しいとか?

 いやあ、ついに私と琴音ちゃんの仲もそこまで深まったか。」

 ニコちゃんはそう言って喜んでいたけど、それでも私が手を離さない様子を見て、私の顔を覗き込んできた。

「どうしたの琴音ちゃん?」

「あっ、ゴメン。これじゃ動けないよね。」

 私は慌ててニコちゃんの手を放す。

 でも、ニコちゃんは日花里ちゃんの横でなく、私の隣に座ってくれた。

 私は日花里ちゃんとニコちゃんに挟まれて花火を見ることになったけど、なぜかすごい安心できた。

「じゃあ、買って来たものを渡すね。

 琴音ちゃんはお好み焼きだったよね?」

「ウン。」


 それから、私達はニコちゃんが買って来てくれた食べ物を食べながら、花火を満喫した。

 2人と一緒に見る花火は、本当にすごい楽しい時間だった。

 だから、花火が終わってしまった時、少し寂しさを感じ、そのせいでさっき一瞬見た映像のことを思い出してしまった。

 なんの映像かはっきりとわからないのに、すごい胸がドキドキする。

 そして、気がついたら、私はまた2人の手をギュッと掴んでいた。

「なんか今晩の琴音は、妙に甘えん坊だね。」

 日花里ちゃんがそう言って、私の頭を優しく撫でる。

「えっ、これはキマシ展開じゃないの?」

 ニコちゃんが冗談っぽくそう言ったけど、ゴメン、全然笑えそうもない。


「ねえ、2人とも、これからも私と一緒にいてくれる?」


 私が2人に小さな声でそう尋ねると、ニコちゃんも不安そうな表情に変わった。

「どうしたの、琴音ちゃん?何か心配事でもあるの?」

 そのニコちゃんの心配そうな声で、私はハッと我に返った。

 せっかく楽しかった花火大会なのに、2人を心配させちゃダメだ。

「じょ、冗談だよ。

 もしかして、ニコちゃん、本気にした?」

「あっ、もしかして、今の冗談だったの?わかりずらいよ。」

「ゴメンゴメン。」

 私が謝ると、ニコちゃんの表情に笑顔が戻った。

 でも、日花里ちゃんは私の手を握り返してこう言った。

「心配しなくても、あと2年は同じ高校に通い続けるんだから。

 例えクラスが替わっても、いつだってこうやって会えるわよ。」

 日花里ちゃんはそう言って、私の頭をまた優しく撫でてくれた。

「今日の日花里ちゃん・・・なんか私のお姉ちゃんみたいだ。」

「そういう琴音は、幼い妹みたいだ。」

 私達はそう言って見つめ合うと、おかしくなって笑い合った。

 それを見ていたニコちゃんが

「つまり、これはキマシ展開ということ?」

と言って来たので

「「違う。」」

 2人でツッコむと、今度はニコちゃんは満足げに微笑んだ。


用語集

(1)ベイ・カロッサ

ルフィル・カロッサ最大のイベント

北街と南街から魔法の橋をかけて、橋を渡るイベント

2つの大陸の平和を祈るために、2つの橋は交差するようにかけられる

そして、交差点では、平和を祈る「エミレフィーユ」と言う言葉で挨拶を行なう。


(2)ルフィル・カロッサ

ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。

毎年秋に開催される。


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