表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
83/254

37.明かされた真実と衝撃映像

<<ミディア>>

 ヤシュワントさんは話を続けた。

「魔力波動の観測は、リーヴァ王国だけでなく、他の国でも行なっていているのだが、アトゥアには特に魔力波動に敏感な国が存在する。

 それが、ヴェルク帝国とガルティア帝国だ。

 両国とも魔力波動の計測を通じて、敵国の魔導兵器の動向を探っていたからな。

 だから、今回の魔力波動には、両国とも相当衝撃を受けたらしい。

 これほどの凄まじい魔力波動を、まさかリーヴァ王国から観測されるとは思ってなかったのだろう。

 しかも、今回の魔法は、これだけの凄まじい魔力波動を放っているにも関わらず、ラーヴォルンでのマーシャント低下が全く観測されなかった。

 普通、これだけの魔力を消費したら、魔力の源であるマーシャントは一時的とはいえ大幅に低下するはず。

 そして、ラーヴォルンに住んでいる人達に、何らかの影響が起こると考えるのが普通だ。

 だが、ラーヴォルンでのマーシャントの低下は発生していなかった。

 そのことを知って、両国は戦慄した。

 これはもしかしたら、アトゥアのマーシャント量に縛られることない、巨大な魔法を自在に撃てる新型魔導兵器ではないか?

 もしリーヴァ王国が新型魔導兵器の開発に成功したとしたら、両国にとって新しい脅威が発生したことになる。

 そんなわけで、ヴェルク帝国とガルティア帝国が、すぐにリーヴァ王国政府に対して魔力波動の説明を求めてきた。

 だが、今回のこの魔力波動については、我々も全く事態を把握していなかった。

 両国にそのことを話すと、両国はすぐに調査に協力するので調査部隊を派遣したいと申し出てきたが、彼らの調査部隊は軍隊に等しい。

 国内で両国の調査部隊が武力衝突でも行おうものなら、国民に大勢の犠牲が出てしまうだろう。

 いや、そればかりか、それを口実に両国が本格的に侵略してくる可能性もあった。

 彼らは、新型魔導兵器の可能性を考えてたからな。

 新型魔導兵器を手にした国がアトゥアの覇権を握ると考えれば、多少の無理をしても侵略してくるだろう。

 もちろん、そんなことになったらリーヴァ王国は滅んでしまう。

 だから、我々が調査を行ない、その調査結果のすべての情報を両国に開示すると言う条件で、とりあえず両国には納得してもらうことにした。」


 ヤシュワントさんの話を聞いて、私達は表情を強張らせていた。

「まさか、そんな大事になっていたなんて・・・」

 ラーファが驚いた表情でそう言った。

 巨大な魔力波動の発生によって、ヴェルク帝国とガルティア帝国が動きだし、リーヴァ王国は両国の板挟みになっていた。

「我々は魔導研究所の情報を元に、とりあえずキーワードの一つである『ミディア』を特定することにした。

 そして・・・それがミディア、君だ。」

 ヤシュワントさんはそう言って、私の方を見る。

「本当に私なんですか?」

「ラーヴォルンに、ミディアと言う名前の人は、実は一人しかいないんだ。

 つまり、君だけってことだ。」

 そうなんだ。

 確かに、同じ名前の人に会ったことないって思ってたけど、まさかラーヴォルンに一人だけとは思わなかった。

 まあ、仮に他にミディアという名前の人がいたとしても、もう一つのキーワードが『コトネ』である以上、術者のターゲットは私で決まりなんだけどね。


「まあ、そんなわけで、ミディアの方は簡単に特定できたわけだが、問題は『コトネ』の方で、色々調査しつくしたが皆目見当がつかなかった。

 人の名前以外にも、会社や組織の名前や施設や建物の名前を全て洗い出してもらったが、結局はわからなかった。

 そこで、君達なら何か知っているのではないかと思い、我々は君達を調査するための調査員を送り込んだ。

 それが、リッカ・モンディールだった。」

「リッカ!?」

 私達全員に戦慄が走る。

 まさか、リッカさんがリーヴァ王国政府の送り込んだ調査員だったなんて思わなかった。

「だが、その結果、君達を怖い目に合わせることになってしまった。

 本当にすまなかった。」

 ウィルト王子はそう言って、私達に頭を下げた。

 そっか、最初にウィルト王子が私達に頭を下げたのは、そういうことだったんだ。

「王子、ここは私が頭を下げる場所でしょ。」

 ヤシュワントさんがそう言うと、ウィルト王子は

「この調査を依頼したのは、我々王国府だからな。

 俺が謝るのが筋ってものだろう。」

と言った。

 ヤシュワントさんは小さく頷き、私達に事情を説明してくれた。

「リッカ・モンディールは、私の部下で特殊任務をこなす工作員だったんだ。

 ただ、優秀な部下ではあったんだが、いささか人格に問題があってな。

 本当は送り込みたくなかったんだが、ヴェルク帝国とガルティア帝国が動き出したことで、多くの兵士が国境に配備されてしまってな。

 他に空いている人がいなかったんだ。

 リッカには大人しく調査だけして戻って来るようにと念を押していたんだが、まさか君達に危害を加えるとは思わなかった。

 本当に君達には迷惑をかけてしまった。

 すまなかった。」

 ヤシュワントさんはそう言って、もう一度私達に向かって頭を下げた。

「ただ、リッカは色々と問題を起こしてくれたが、きちんと『コトネ』の正体は暴いてくれた。」

 ヤシュワントさんはそう言うと、私達に見たことのあるイデア映像を見せてくれた。

「それは・・・ラーファが念写したイデア。」

 そう、前にラーファにお願いして、琴音の姿を念写してもらったイデアだった。


「このイデアに映っている女の子が、コトネでいいのか?」

 ヤシュワントさんが私達に聞いてきた。

 どうしよう?

 これを認めてしまったら、琴音の存在を認めてしまうことになる。

 そうなったら、琴音はどうなっちゃうんだろう?

 確かに、私達には琴音に触れることはできない。

 でも、リーヴァ王国には優れた魔導士がたくさんいるって聞くし、もしかしたら琴音を拘束することもできるかもしれない。

 そうなったら、琴音と会えなくなってしまうかもしれない。

 そんなことを思ったら、私は何も答えられなくなってしまった。


「その子が、琴音です。」

 私の代わりに答えたのは、ラーファだった。

「ラーファ!?」

「ミディア、こうなったら全部話すしかない。」

「でも・・・」

「琴音のことを話して、琴音が何の害もない存在であることを知ってもらうしかない。」

「そんなことして、琴音と会えなくなってしまったら、どうするの?

 ラーファは、琴音と会えなくなってもいいの?」

「いいわけないでしょ。

 でも、ここでうやむやにしても仕方がないでしょ。

 向こうはもう琴音のイデアを持ってるのよ。」

「ラーファ・・・」

 確かにラーファの言う通りかもしれない。

 でも、私は、琴音には何も考えずにラーヴォルンに遊びに来てほしかった。

 私達と琴音は毎日楽しく遊んでいただけなのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう?


「じゃあ、この子が琴音で間違いないんだな。」

 ヤシュワントさんが、もう一度私達に確認してくる。

「ハイ、その子が琴音で間違いありません。」

 ラーファはそう言った後、一通り琴音について説明を始めた。

 琴音は地球という星から来た女の子で、私とラーファにしか見えないこと。

 琴音を連れてきているのは、琴音曰く謎の覆面であって、琴音自身には何の力もないこと。

 琴音は昼間に来て、夕方には帰ること。

 琴音は私達と遊んでいるだけで、アトゥアに害するようなことは一切行っていないこと。

 ラーファが話している間、ウィルト王子達は、ラーファの方をじっと見つめていた。

 3人とも、すごい真剣な表情でラーファの話を聞いていた。

 きっと、ラーファから色々と琴音の話を聞き出したいんだろう。

 何せ、王国調査員が調査しても全くわからなかったって話だし・・・

 ラーファの説明が終わると、ウィルト王子達は驚いていた。

 そりゃあ、いきなり別の星から女の子が遊びに来ているなんて話をされたら、誰だって驚くだろう。

「ミディアちゃん、その琴音って子は、本当に君達と遊びに来ているだけなのかい?」

「ハイ・・・そうです。」

 私がそう答えると、ウィルト王子は小さく頷いた。

「わかった。

 今はミディアちゃんを信じよう。」

 ウィルト王子はそう言ってくれた。

 きっと、私を安心させるために、そう言ってくれたんだろう。

 でも、本当に琴音はこれからもここに来て大丈夫なんだろうか?

 私は一抹の不安を拭い去ることができなかった。


「ところでヤシュワントさん。」

「なんだ?」

「今日、ミディアを襲った人達・・・あの人達は一体何者なんですか?」

 ラーファがヤシュワントさんに尋ねると、ヤシュワントさんは一瞬困惑の表情でウィルト王子の方を見る。

 でも、ウィルト王子が小さく頷くと、ヤシュワントさんはラーファの質問に答えてくれた。


「今日、ミディアさんを襲ったのは・・・ヴェルク帝国の特殊部隊です。」

 私も、ラーファも、言葉を失った。

 身なりからして只者ではないと思っていたけど、まさかアトゥア最大のヴェルク帝国の特殊部隊とは思わなかった。

 実際に被害にあった私ですら、すぐには信じられない話だった。

「それだけじゃない。

 君達が入ったエルフィーゼの塔には、ガルティア帝国の特殊部隊が入り込んでいた。

 もっとも、君達はガルティアの設置した魔法転移装置をことごとく回避していたようだが。」

「えっ!?」

 今回のエルフィーゼの塔の探検は、琴音を連れてきている覆面が決めたルートを辿るものだった。

 もしかして、覆面は、ガルティアの設置した魔法転移装置から私達を守るために、ルートを設定してくれたのかな。

 もし、そうだとしたら、琴音を連れてきている覆面に感謝しないとね。

「他にも、ラーヴォルン周辺や北街南街の要所に、ヴェルク・ガルティアの特殊部隊が入り込んでいた。

 どうやら、あの2か国に我らの回答を待てと言っても、無駄だったらしい。」

「ヴェルクとガルティアの目的は、あの巨大な魔力波動を生み出した魔法とそれを放った存在だ。

 そのために、術者と一番近い存在と思われるミディアちゃんを拉致しようと考えたのだろう。」

 ウィルト王子が話した内容は、私に恐怖を与えた。

「も、もしかして・・・私は、これからもヴェルク帝国やガルティア帝国から狙われるかもしれないってことですか?」

 私が怯えているのに、ウィルト王子も気づいたみたいだった。

「大丈夫、そうならないように俺が絶対にミディアちゃんを守るから。」

 ウィルト王子が力強く私にそう言ってくれた。

 そのウィルト王子の言葉に、私は思わず涙が出そうになった。

「ウィルト王子・・・」

「ミディアちゃん・・・」

 気がついたら、私とウィルト王子は互いを見つめあっていた。

 ウィルト王子から目が離せない。

 こんなことって、初めてだ。

 でも、ウィルト王子を見ていると、なんだかすごい安心できる。

 そして、なんだか体の奥がギュッと熱くなってくる。


「オホン。」

 ヤシュワントさんの大きなせき払いが聞こえてきた。

 その瞬間、まるで魔法が解けたように私とウィルト王子は我に返った。

 隣にいたラーファ達は、驚いた表情で私の方を見ていた。

「どうしたのミディア?顔が真っ赤よ。」

「えっ!?」

 ラーファに言われるまで、自分の顔が真っ赤だって気づかなかった。

 そんなに私の顔は真っ赤なんだろうか?

「さてはミディア、ウィルト王子に惚れちゃったか?」

 エレーネ先輩が私を冷やかすようにそう言ってきた。

 でも、私がエレーネ先輩の冷やかしを否定しないでモジモジしていると、さすがのエレーネ先輩も驚いた表情になった。

「えっ・・・マジですか?」

「ていうか、ミディアちゃんに惚れたのは俺の方なんだけど。」

 ウィルト王子がそう言うと、ラーファ達が驚いた表情になった。

「ミディアちゃんが18歳になったら、俺はミディアちゃんと結婚したいって言ったんだ。」

「ええーーーっ!!!」

 ウィルト王子の話を聞いたラーファ達がすごい声を上げた。

「本当なの、ミディア?」

 そして、すぐさまラーファが私に確認してくる。

「えっと、ウィルト王子からプロポーズされたのは本当だよ。」

 私がそう答えると、ラーファは驚いた表情で固まっていた。

 なんか、心なしかショックを受けているように見えた。

 どうしてラーファがショックを受けているんだろう?

「それで、ミディアはどう返事したの?」

 一方、アイの方は、すごい興味津々の様子で私に聞いてきた。

 でも、そう言えば私、まだウィルト王子に返事を返してなかったっけ。

 そう思い、ウィルト王子に話しかけようとしたら、

「今はプロポーズの話よりも、もっと大事な話があるのではないでしょうか?」

 ヤシュラムさんが笑顔のままウィルト王子に向かってそう言うと、ウィルト王子の表情がひきつった表情に変わった。


「そ、そうだったな。話を元に戻すとするか。」

 ウィルト王子、どうしたんだろう?

 まさか、ヤシュラムさんが怖いとか?

 さすがにそれはないかな。

 でも、さっきのヤシュラムさん、表情こそ笑顔のままだったけど、なんかすごい迫力を私も感じた。

 もしかして、ヤシュラムさん、怒ってるのかな?

 でも、確かに今は、プロポーズの話よりも、もっと大事な話があるからね。

 でも、ウィルト王子、さっきからラーファの方をチラチラ見ているのはなぜだろう?

「えっと、私の顔に何かついてますか?」

 ウィルト王子の視線に気づいたラーファがウィルト王子に尋ねると、ウィルト王子は何でもないと慌てて首を横に振った。

 そして、ウィルト王子は続きを話し始めた。


「さっきの話の続きなんだが、正直言うと、最初は両国がこんなに大きく動き出すとは思わなかった。

 ヴェルク帝国とガルティア帝国が、ミディアちゃん一人を誘拐するために動き出すなんて考えられなかった。

 だが、その考えを改めたのは、ルフィル・カロッサの数日前から、ヴェルク帝国とガルティア帝国で妙な動きがあったことを知ってからだった。

 両国がグラド・ルガンテの来る日に行なわれるルフィル・カロッサを大々的に宣伝し始めた。

 確かに、今年のルフィル・カロッサは例年と違って貴重なイベントだったが、我々は両国がそれを大々的に宣伝する状況に不自然さを感じていた。

 強いルフィル信仰を持つ両国のことだし、グラド・ルガンテの存在は両国にとって特別なのかもしれないと考えることもできる。

 だが、旅行希望者の旅費の全額を国家が負担するってのは、さすがにやりすぎだ。

 おかげで、ヴェルク帝国とガルティア帝国からの来訪者数が過去最大に達するほど、大勢の観光客がリーヴァ王国に殺到した。

 この不自然な政策と人の流れを見て、何となく両国の企んでいることが見えてきた。

 恐らく、これだけ大勢の観光客が殺到したら、国境の検問は緩くなると考えたのだろう。

 仮に緩くならなかったとしても、絶対に隙は生まれる。

 それはほんのちょっとの隙かもしれないが、特殊部隊ならばその一瞬の隙を突いてかいくぐることができる。

 結果的に、観光客に混じって、大勢の特殊部隊のリーヴァ王国内への侵入を許してしまった。」

 確かに今年のルフィル・カロッサでは、ヴェルク帝国やガルティア帝国からの観光客をよく見かけた。

 でも、まさか、それが私を捉えるための作戦だったなんて・・・

 ウィルト王子の話を聞いても、にわかには信じられなかった。

「ただ、こちらも敵の特殊工作部隊が侵入してきていることを想定して準備していた。

 こちらの特殊部隊を両国境沿いに配備して、怪しそうな連中を追跡して、どこに潜んでいるかをチェックするように命じた。

 その結果、かなりの数の特殊部隊が侵入していることが確認できた。

 敵の狙いは恐らくミディアちゃんだと考えた我々は、ルーイエ・アスクを真っ先に狙ってくると睨んで、事前に周囲に特殊部隊を配置しておいた。

 実は、ルーイエ・アスクの宿泊客の中にも、何人かうちの特殊部隊がいる。

 ルフィル・カロッサが始まる前に、動き出す可能性も考慮した。」

「まさか、うちの宿に、王国軍の特殊部隊が泊まってるとは思いませんでした。」

 これにはラーファも驚いていた。

「その客の一人って、実はボクなんですけどね。」

 ヤシュラムさんが笑いながらそう言うと、ラーファはさらに驚いた表情になった。

 私もビックリした。

 いくら大勢のお客様が来ているとはいえ、私もラーファもヤシュラムさんの姿を一度も見たことがなかったからだ。

 一体いつからルーイエ・アスクに泊まっていたんだろう?


「ルーイエ・アスク周辺を徹底的にガードしたことで、さしもの敵も、ルフィル・カロッサ当日まで手を出すことができなかったようだ。

 だとしたら、敵はルフィル・カロッサ当日、ミディアちゃんが無防備になった瞬間を狙って襲撃してくるだろう。

 とはいえ、彼らの拠点はほぼ把握していたので、ほとんどは動き出す前に王国軍によって潰すことができた。

 我々は音楽隊に変装しながら、ベイ・カロッサに参加していたミディアちゃんの様子をチェックしていた。

 さらに、南街に潜んでいた特殊部隊を壊滅させたヤシュラムに、こっそり後をつけさせておいた。」

「そうだったんですか。」

 私達がベイ・カロッサを楽しんでいる間、まさかそんな戦いが起こっていたとは、夢にも思わなかったよ。

 もしかして、山頂で私に一緒にベイ・カロッサに行こうって言ったのって、私を守ってくれるためだったのかな?

 だとしたら、ウィルト王子に悪いことしちゃったなあ。

 それにしても、見た目はかわいい女の子にしか見えないのに、ヤシュラムさんってすごい強いんだね。

 敵の特殊部隊を壊滅させるとかすごいよ。

 そして、私達のことを、ずっと見守ってくれてたんだ。


「でも、途中で君達の気配が消えた時は、さすがのボクも焦ったけどね。」

「えっ、私達の気配が消えたって、どういうことですか?」

「エルフィーゼの塔で君達が探検している後を追いかけてたんだけど、75階で突然、君達全員の気配が消えてしまってね。

 最初はガルティア軍に捕まっちゃったのかと思ったけど、ガルティアの特殊部隊が動き出す気配もなかったし、彼らも驚いていた様子だったからね。

 とりあえず探検のゴールである100階まで行って、君達の気配をずっと探っていたんだ。

 そうしたら、突然1階に現れたから、すごいビックリしてね。

 慌てて100階から降りて、君達を追いかけたんだよ。

 でも、突然君達が1階に現れたから、ガルティアの特殊部隊も動き出しちゃってね。

 お掃除するのに手間がかかっちゃって、結局、ボクが君達を見つける前に、ミディアさんは敵にさらわれてしまった。」

 お掃除って、それってガルティア帝国の特殊部隊のことですよね?

 ヤシュラムさんって、笑顔でさらりと怖いこと言うなあ。

 それにしても、75階で私達の気配が消えたってどういうことだろう?

 75階って、確か海のイデアトゥアだったはず・・・

 そう言えば、あの海のイデアトゥア・・・途中で突然深海に変わったけど、もしかしてあの時に既に別の場所に飛ばされていたのかな?

 その後に見た大地、風、空のイデアトゥアも、エルフィーゼの塔とは別の場所・・・もしかしたら、あの時既に私達はグラド・ルガンテにいたのかもしれない。


「あの、ヤシュラムさん、あの時は、その・・・ゴメンなさい。」

 突然、ラーファがヤシュラムさんに頭を下げた。

 えっ、どうしてラーファがヤシュラムさんに謝ってるんだろう?

「ウウン、むしろこちらこそゴメンなさい。

 僕がお掃除に手間取って、途中で見失ったりしなければ、ミディアさんの誘拐を防ぐことができたんです。」

「あの連中は国境沿いに潜んでいた特殊部隊で、今回一番手ごわいとわかっていたからな。

 ただ、連中も仲間が次々と壊滅させられて、こちらの特殊部隊があちこちに潜んでいることに気づいていただろうから、街中で露骨にミディアちゃんをさらいに行くような真似はしないだろうと思っていた。

 だが、その予想はまんまと外れた。

 連中は旅行者のふりをしてミディアちゃんに近づいて、そしてミディアちゃんを目的地まで誘導して、魔法転移させることに成功した。」

「ううっ・・・本当にゴメンなさい。」

 なんか、ウィルト王子の話を聞いているうちに、コロッと騙された自分がバカに思えてきて情けなくなった。

 でも、そんな私の様子を見て、ウィルト王子が慌てて首を横に振った。

「違う、これはミディアちゃんの善意に付け込んだ連中の卑劣な罠だったんだ。

 ミディアちゃんが謝る必要なんてないんだ。」

「ウィルト王子・・・」

「俺達はリーブルガルト広場で演奏会の準備をしながら様子をうかがっていたけど、ミディアちゃんが女性と一緒に移動するのを見て、慌てて追いかけたんだ。

 女性から異様な魔力を感じたからね。

 でも、間に合わずに、結局ミディアちゃんはさらわれてしまった。

 間に合わなくて、本当にゴメン。」

 ウィルト王子はそう言って、私に謝った。

「でも・・・ウィルト王子は私を追いかけてきて、助けてくれました。」

「まあ、最悪の事態もあらかじめ想定はしていた。

 敵がミディアちゃんを誘拐するとしたら、使われる手段は魔法転移しかないと考えていた。

 でも、実際にミディアちゃんが魔法転移で誘拐された場合でも、一度は領土内を転移先に選ぶと予想はしていた。

 長距離の魔法転移は身体的負荷が大きすぎるからね。

 連中の目的はあくまでミディアちゃんを生きたまま誘拐することだし、だとしたら一度は領土内に転移させるしかない。

 だから、万が一のことを想定して、予想地点にあらかじめ王国軍を配置しておいたのだ。

 まあ、実際に転移された座標は、予想座標と少しずれていたので、俺がミディアちゃんを救出した後、予想座標まで移動して待っていたってわけだ。」

「じゃあ、あの時、あの場所で休憩してたのは・・・」

「別に魔力が尽きたわけじゃなくて、あの周囲で王国軍が待ち構えていたからだよ。

 ヤシュワント達との合流地点もあそこだったから、待ってただけってことだ。」

「そうだったんですか。」


「結果的に、今回は我々の作戦は大成功に終わった。

 ヴェルク、ガルティア双方の特殊部隊を一網打尽することができたからな。

 とはいえ、これですべてが解決したわけではないが・・・」

 もしかして、私はこれからもヴェルク帝国やガルティア帝国に狙われるのだろうか?

 私が不安に思っていると、ウィルト王子が

「ヴェルクとガルティアは、真相を突き止めるまで、何度でも特殊部隊を送り込んでくるだろう。

 それを止めるには、あの魔力波動についての真相を突き止めて、ヴェルクとガルティアに情報を提示する必要がある。

 だから、君達の知っている『コトネ』についての情報をもっと教えてほしいんだ。

 特に、魔力波動が発生した日の『コトネ』の行動を、もっと教えてほしい。」

 ウィルト王子はそう言った。

 でも、琴音は私にとって大事な親友だ。

 私は自分の安全のために、琴音のことを話さないといけないのだろうか?

 なんか、友達を売るみたいで、すごい嫌な気分になった。

 それでも、自分が助かるためだったら、仕方のないことなのだろうか?


「あの、さっきネビル将軍から連絡が入りまして、大至急イデアフィールズを見るようにと。」

 突然、ヤシュラムさんがウィルト王子にそう言う。

「ネビルから?

 どうして直接俺に連絡してくれないんだ?」

「さあ、それをボクに聞かれましても。」

「まあ、それもそうだな。」

 ウィルト王子は気を取り直すと、部屋に備え付けのイデアフィールズをつける。

 すると、映像と一緒に大声が聞こえてきた。


「ご覧ください。

 これは、先程、飛行船から撮影したグラド・ルガンテの映像ですが、なんと人の姿が写っています。」

 そして、映し出されたイデアフィールズの映像を見た瞬間、私達は思わず大声を上げてしまった。

「琴音!?」

 イデアフィールズの映像には、空を飛び回る琴音の姿が写っていた。

 そんな、どうしてイデアフィールズに琴音の姿が映っているの?

「どうして、私達の姿は映っていないのよ。」

 一方で、エレーネ先輩は、映像を見てガックリしていた。

 それを聞いていたヤシュワントさんが驚いた表情でエレーネ先輩に話しかける。

「エレーネ、まさか、君達も一緒にいたのか?」

「ウン、そうだよ。

 エルフィーゼの塔を探検していたはずが、いつの間にかグラド・ルガンテにいたんだよ。

 これって、やっぱり、琴音の覆面の力によるものなんだろうね。」

 エレーネ先輩が落ち込んだ表情のままでそう言うと、ヤシュワントさんも、ウィルト王子も驚いた顔になった。

「まさか、今まで誰も入れなかったグラド・ルガンテに行ってたとはな。

 道理でヤシュラムが気配を見失うわけだ。」

 ウィルト王子はそう言うと、何やら真剣に考え始めた。


 イデア・フィールズには、グラド・ルガンテに映る琴音の映像がずっと流れていた。

 それだけ衝撃的な出来事であることはわかるんだけど、これがアトゥア中に放送されていると思うと、少し琴音が可哀想な気がした。

 エレーネ先輩は私達が映ってないことにガッカリしているみたいだけど、私はホッとしていた。

 タダでさえヴェルク帝国とガルティア帝国から目をつけられる状態になっていると言うのに、これ以上目立ったら困ってしまう。


「まさか、ルフィルがこんな少女だとは思いませんでした。」

 番組の出演者の発言が流れてくる。

 プッ、琴音、いつの間にかルフィルにされちゃってるよ。

 グラド・ルガンテの映像に琴音だけが映っていたことといい、明日、琴音が聞いたら、きっと驚くだろうな。

 そんなことを思いながら、番組を見ていた時だった。


「これだ!!!」

 ウィルト王子が突然大声を出して立ち上がった。

 番組に夢中だった私達は、ウィルト王子の大声にビックリしてしまった。

「な、なにが、これなんですか?」

 恐る恐るウィルト王子に尋ねると、

「琴音にはルフィルになってもらおう。」

 ウィルト王子はニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。


用語集

(1)ヴェルク帝国

アトゥアで一番大きな帝国

リーヴァ王国北方にある帝国で、もう一つの大陸にあるガルティア帝国と対立している。

そのため、ガルティア帝国と接しているリーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(2)ガルティア帝国

アトゥアで2番目に大きな帝国

リーヴァ王国東方に広がるナルヴァティア大陸を支配している帝国で、アトゥアの覇権をめぐってヴェルク帝国と対立している。

ヴェルクと同様に、リーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(3)マーシャント

マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。

生命や星は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。

地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。


(4)リーブルガルト

ラーヴォルン北街の中央にあるイベント施設

様々なイベントで使用されることが多く、最近ではハ―メルトンのコンサートでも使用された。

アトゥア最大のイデアトゥア施設を備えているため、イデアに関するイベントや学術研究等でもよく使用される。


(5)エルフィーゼの塔

ラーヴォルン北街のはずれにある100階建ての巨大な塔。

昔は軍事要塞施設で、今でも何箇所かにはその時の名残が残っている。

未だに多くの謎を残しており、安全が確認できていないフロアは、今でも立ち入り禁止になっている。

そのため、塔内は魔法転移装置で移動することになっている

北街の観光名所の一つとなっている。


(6)イデアフィールズ

放送電波を受信して、映像や音声に変換する機械

また、映像イデアを再生したり、放送を映像イデアに記録することもできる

地球におけるテレビやビデオに相当する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ