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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
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36.魔力波動と記憶喪失事件

<<ミディア>>

 私が悩んでいると、ヤシュワントさんが私に声をかけてきた。

「とりあえず、君を友人の元に帰してあげよう。

 みんな、すごい心配しているからね。」

 そうだ、ラーファ達のことをすっかり忘れていた。

 早くみんなのところに帰らないと・・・

「私がこの子をラーヴォルンまで送ってきます。」

 どうやら、ヤシュワントさんが私を送ってくれるらしい。

 ということは、ウィルト王子とはここでお別れなのかな?

 そう思っていたら、

「俺も一緒に行くよ。」

 どうやらウィルト王子もついてきてくれるらしい。

「でも、その前に・・・」

 ウィルト王子とヤシュワントさんの体が光ると、元の仮装の姿になった。

「こうしないと、色々と目立っちゃうからな。」

 ウィルト王子はそう言って、ニコッと笑った。

 でも、ウィルト王子の素顔が見られないのは、ちょっと残念だ。

「じゃあ、行くぞ。」

 ウィルト王子はそう言うと、魔法を放つ。

 次の瞬間、私達は光に包まれて、気がついたら、エルフィーゼの塔から少し外れた場所に到着していた。

「さすがに、魔法で街の中に入ると目立ちすぎるからな。」

 どうやら、ウィルト王子はあまり目立ちたくないらしい。

 まあ、王子だもんね。

 でも、その恰好は別の意味で目立ってるけどね。

 送迎用カルチェに乗って北街まで行く間、みんなの視線がずっと2人に集中していた。

 2人とも全く気づいていないみたいだけど、その恰好、すごい目立ってるよ。

「私が君の友人がいる場所まで案内します。」

 北街に到着すると、ヤシュワントさんがそう言って先頭に立つ。

「じゃあ、俺はミディアちゃんの後ろをガードするかな。」

 ウィルト王子はそう言って、私の後ろに立った。

 私は、ヤシュワントさんとウィルト王子に挟まれた状態で、北街の人ごみの中を入っていくことになった。

 相変わらず北街はすごい人で賑わっていたけど、動物に仮装した大男が怖かったのか、みんな道を開けてくれた。

 でも、みんなの視線がこっちに集中して、すごい恥ずかしい。

 リーブルガルト広場にたどり着くまでの時間が、これほど長く感じられたことはなかった。


 リーブルガルト広場に到着すると、ようやく隊列が解除された。

 よかった、これで少しは目立たなくなる。

 そう思ってホッとしていると、向こうからラーファ達が走ってきた。

「みんな。」

「ミディア、大丈夫?

 どこも怪我していない?

 なにか酷いことされてない?」

 ラーファが私に駆け寄るなり、私の無事を確認してきた。

「ウン、私なら大丈夫だよ。」

「よかった・・・本当によかった。」

 ラーファはそう言って私に抱きついてくると、そのまま号泣してしまった。

 こんなに号泣するラーファを見るのは、これが初めてだった。

「ラーファ・・・ゴメンね、心配かけちゃって。」

 でも、ラーファはなかなか泣き止まない。

「ラーファは、本当にミディアのことを心配してたんだぞ。」

 そう言うエレーネ先輩の目からも涙がこぼれていた。

「ミディア・・・本当に無事でよかった。」

 アイは私の背中に抱きついて、やっぱり号泣していた。

 そっか、みんな、私のことをこんなにも心配してくれたんだ。

 そう思ったら、なんだかすごい嬉しくなって、私の目からも自然に涙がこぼれていた。


 しばらくして、エレーネ先輩とアイは落ち着いてきたけど、ラーファはいつまで経っても収まる気配がなかった。

「もう、ラーファ、いつまで泣いてるのよ。」

「だって・・・ミディアばっかり・・・どうしてこんなひどい目に・・・」

 ラーファはそう言って、ずっと私のために泣いてくれた。

 確かに、こないだから酷い目に合ってばかりだ。

 でも、そのたびに私はラーファやみんなに助けられてきた。

 みんなが本気で私のことを心配してくれているのがわかって、実はすごい嬉しかったりするんだよ。

 こんなことを言ったら怒られそうだから、みんなには言わないけどね。


「実は、君達に話したいことがある。」

 ウィルト王子が私達に話しかけてきた。

 何だろう、私達に話したいことって?

 そう思い、つい、さっきまでの調子で

「私達に話したいことって、何でしょうか、ウィルト王子?」

と聞いてしまった。

「ミディア、今、ウィルト王子って言わなかった?」

 エレーネ先輩が驚いた表情で、私に聞いてきた。

「確かに、ウィルト王子って言いました。」

 アイもそう言って、私の方を見てきた。

 さっきまで号泣していたラーファも、驚いて顔を上げていた。

 しまった、つい、さっきまでの調子でウィルト王子の名前を出しちゃった。

 さらに、エレーネ先輩が

「ということは、やっぱりこっちの大きい方はヤシュワントさんだったんだ。」

と言ったもんだから、私達の会話を聞いてた周囲の人達がざわざわし始める。

 へえ、ヤシュワントさんって、結構有名人なんだな。

「とりあえず、場所を変えましょうか?

 こんなこともあろうかと、おいしい料理が食べられるお店を予約してあります。

 そのお店の個室を借り切ってますので、積もる話はそこでできると思います。」

 ラーファ達と一緒にいた女の子が、ウィルト王子にそう言った。

 ていうか、すごいかわいい女の子だなあ。

 ウィルト王子と親しげに話しているけど、もしかしてウィルト王子の恋人なのかな?

 そう思った瞬間、なんかすごい胸が苦しくなった。

 あれっ、この気持ちは一体なんだろう?

「でかしたぞヤシュラム。

 とりあえず、そこに行こう。

 ミディアちゃん達もお腹が空いているだろうし、食事をとりながら話そう。」

 そう言えば、ベイ・カロッサにエルフィーゼの塔の探検と続いて、夕飯がまだだった。

 でも、お腹よりも今は胸が苦しい。

「行こう、ミディアちゃん。」

 ウィルト王子がそう言って、私に向かって手を差し出してきた。

 そのウィルト王子の優しい笑顔を見た瞬間、さっきまでの胸の苦しみは一瞬で消え去ってしまった。

 何だったんだろう、さっきの苦しみは?

 でも、今はもう苦しくないし、とりあえず深く考えないでおこう。

「ハイ、ウィリーさん。」

 私はウィルト王子が差し出してきた手を握り返す。

 そして、ウィルト王子と一緒にお店に向かって歩きだす。

 でも、ラーファ達は、なぜかポカーンとした表情で、ずっとこっちを見ていた。

「どうしたの?

 みんな、早く行こうよ。」

 私がそう言ったら、ようやくみんな後をついてきたけど、やっぱりこっちを見ていた。

 私の背中に何か変なものでもついているのかな?

 でも、もし、そうだとしたら、ラーファが取ってくれるだろうし、3人でひそひそ話しているのを見た感じでは、そういうのではなさそうだ。

 3人で一体何を話しているんだろう?

 少し気になるなあ。


 ヤシュラムさんが予約していたというお店の前に到着すると、私達は驚いた。

 なぜなら、そこは北街で最も有名な高級料理店だったから。

 店内に入って、店員に案内されるけど、私達、なんかすごい場違いな場所に来たような気がする。

 大きな部屋に通されると、店員さんがメニューを持ってくる。

 メニューに書かれている金額を見て、私達は絶句した。

 一番安い一品料理を頼んだだけで、私達のお小遣いが全部飛んでいくくらいの金額だった。

 さすがにこんな高い料理頼めないよ。

 そう思っていたら、ウィルト王子が

「あっ、心配しないで。

 ここの支払いは俺達でもつから。」

 そう言ってくれた。

「本当ですか?」

 エレーネ先輩はそう言うと、早速メニューをめくり始める。

 エレーネ先輩は前からこの店の料理を食べてみたかったらしく、遠慮なしに色々と注文し始めた。

 なんか、少し恥ずかしくなった。

 エレーネ先輩、さすがに少しは遠慮してほしい。

「本当にありがとうございます。」

 私がお礼を言うと、ウィルト王子は

「なあに、これくらいお安い御用さ。」

 そう言って、ニコッと微笑んだ。

 その笑顔を見て、また私の体はカーッと熱くなった。

 ダメだ。

 さっきから、ウィルト王子の笑顔を見るたびに、なんか体が熱くなってくる。

 一体これは何なんだろう?


「ミディア・・・ねえ、ミディア。」

 ラーファに声をかけられて、ハッと我に返る。

「ラーファ先輩、さっきからミディア、少し変じゃないですか?」

「ええ、そうね。」

 ラーファとアイがそう言って、私の方を見る。

「えっ、私、全然変じゃないよ。」

「いや、本人が変じゃないって言う時は、大抵変な時だから・・・」

「えっ、そうなの?」

「まあいいわ。

 それはそうと、実は今日はエレーネがデザートを一品奢ってくれるそうなの。」

 ラーファがそう言うと、さっきまで勢いよくメニューをめくっていたエレーネ先輩の動きが止まった。

「えっ、本当ですか、エレーネ先輩?」

 アイが嬉しそうにエレーネ先輩の方を見る。

「さあて、エレーネに何を奢ってもらおうかな?」

 ラーファがニヤリと笑いながら、メニューをめくる。

「確かに奢るって言ったけど、このお店で奢るのは勘弁してよ。

 今度別の機会に必ず奢るから、ここだけは勘弁して。」

 エレーネ先輩がそう言って思い切り頭を下げると、

「冗談よ。」

ラーファはそう言って、ニヤリと笑った。

 私達、いつの間にエレーネ先輩に奢ってもらえることになったんだろう?

 一体何があったのかわからないけど、ラーファも意地悪だなあ。


 こんな感じでいつものように話していると、

「あの、できればさっさと本題に入りたいんで、さっさと注文してもらえないだろうか?」

 ヤシュワントさんが、少し気まずそうに私達に声をかけてきた。

 そうだった。

 ここに来たのは、ウィルト王子から大事な話があるからだったっけ。

 いつもみたいにゆっくりメニューを探している場合じゃなかった。


 それからメニューを注文して、しばらくすると、料理が運ばれてきた。

 どれも一流のシェフが作ったって感じの料理で、まるで芸術品だった。

 本当に私達がこんなの食べてもいいのかな?

 それに、ウィルト王子のおごりということもあって、みんな遠慮なく注文していたけど、本当にこんなに頼んじゃって大丈夫なのかな?

「よし、これで全部来たな。」

 ウィルト王子は注文した品が全部来て、店員が部屋の外に出たことを確認すると、仮装を解いた。

 ウィルト王子が姿を現した瞬間、ラーファ達は驚いた表情になった。

「本当にウィルト王子だったんだ。」

 アイが驚いた表情でそう言う。

 まあ、普通は驚くよね。

「やっぱり、こっちはヤシュワントさんだったか。」

 エレーネ先輩はそう言って、ニヤリと笑う。

 一方のヤシュワントさんの方はと言うと、なぜか気まずそうにエレーネ先輩の方を見ていた。

 エレーネ先輩とヤシュワントさんって、一体どういう関係なんだろう。

「ヤシュワント、この子と知り合いなのか?」

 私の疑問をウィルト王子が聞いてくれた。

「ええ、まあ・・・」

 ヤシュワントさんは、それだけ言うと

「そんなことより、早く本題に入りましょう。」

と言って、さりげなくごまかそうとしたけど、ウィルト王子は首を横に振った。

「そんなに慌てて話すこともないだろう。

 それに、他の人は、お前達のことを知らないだろう。

 話の前に、我々の自己紹介をするのが普通だろう。」

「まあ、確かに・・・そうですね。」

 ヤシュワントさんは小さく頷いた。


「じゃあ、まずは俺からだな。」

 ウィルト王子はそう言って、自己紹介を始めた。

「俺はウィルト・リーヴァ。

 リーヴァ王国の第3王子だ。」

「やっぱり、本物の王子だったんだ。」

 アイはそう言って、改めて驚いていた。

 続いて、ウィルト王子の隣にいたヤシュワントさんが挨拶する。

「俺の名前はヤシュワント・カーティス・モンフェルン。

 リーヴァ王国正規軍の一員だ。

 今回は、ウィルト王子の護衛でここに来た。」

「本当に護衛だったの?

 その割には、随分と演奏が上手だったじゃない。」

 エレーネ先輩がそう言って、ヤシュワントさんを冷やかす。

 本当にエレーネ先輩とヤシュワントさんって、一体どんな関係なんだろう?

 後でエレーネ先輩に確認しよう。

 次に、ヤシュワントさんの隣に座っている、さっきのかわいらしい女の子が自己紹介を始める。

「みなさん、初めまして。

 ボクの名前は、ヤシュラム・ラーム・モンフェルンと言います。

 ボクもリーヴァ王国正規軍で、今はヤシュワント隊長の下で働いています。

 年はラーファさんより一つ上の18歳だけど、気軽にヤシュラムちゃんって呼んでくれていいですからね。」

 何だろう、この人だけちょっと調子が狂うな。

 でも、すごいかわいい女の子だ。

 同性の私が見ても、思わず息を呑むくらいのかわいさだ。

 こんなかわいい子まで、リーヴァ王国軍なんて信じられないよ。

「ヤシュラムさんは女の子なのに、どうしてリーヴァ王国軍に入ろうと思ったんですか?」

 私がヤシュラムさんにそう聞くと、それを聞いていたウィルト王子がプッと吹き出す。

 あれっ、私、何かおかしいことを言ったかな?

 そう思っていたら、次の瞬間、ヤシュラムさんから衝撃的な発言が飛び出した。


「えーっと、実はボク、男なんです。」

「えーーーーーっ!!!!!!」

 ある意味、黒服にさらわれたことよりも衝撃的だったかもしれない。

 だって、目の前で微笑んでいる子は、どう見ても女の子にしか見えなかった。

 服装も女の子っぽいし、声だって普通に女の子の声だった。

「男の人って歳取ると声変わりするはずよね?」

 ラーファもかなり驚いていた。

 確かに、男の人は10代の途中で声変わりして、男の子の声になるはず。

「えーっと、ボクの場合はどうやらなかったみたいですね。」

 ヤシュラムさんはそう言って、ニコッと笑う。

 やっぱり、どう見ても女の子だよ。

「まあ、驚くのも無理はない。

 今までヤシュラムを見た人で、驚かなかった人はいなかったからな。」

 ウィルト王子がそう言った。

 その様子だと、こういう光景にも見慣れているようだ。

「ヤシュラムはヤシュワントの部下なので、一緒にいることが多いのだが、最近そのことが一部の人達の間で話題になっていてな。」

 ウィルト王子がそう言うと、ヤシュワントさんが慌てた表情になる。

「そんな話はどうでもいいでしょ。」

「最近では女性の間でヤヤ・コンビなんて言われているらしい。」

 ウィルト王子がそう言うと、ヤシュワントさんは頭を抱える。

「アハハハハ・・・そっか、ついにヤシュワントさん、結婚相手が見つからないからそっちに走っちゃったか。」

 エレーネ先輩は大笑いしていた。

「それだけは断じてない。」

「でも、ヤシュラムさんって、そんじょそこいらの女の子よりもずっとかわいいよ。」

「でも、あいつは男だ。」

「そんなの小さな問題じゃない。」

「いや、小さくはないだろ。」

「ヤシュラムさんはどうなの?」

「ボクは隊長さえよければ・・・」

 ヤシュラムさんがそう答えると、ヤシュワントさんは再び頭を抱える。

「お前がいつもそう言うことを言うから、周りがヤヤ・コンビなんて言ってくるんだぞ。」

「まあ、落ち着きましょう。

 今はヤヤ・コンビの話よりも、もっと大事な話があったでしょ。」

 ヤシュラムさんがそう言うと、ヤシュワントさんもいつもの冷静さを取り戻す。

 そういえば、私達に何か大事な話があるって言ってたからね。

 でも、正直言うと、ヤヤ・コンビの話の方が少し気になった。

 だって、目の前に並ぶ2人は、どこからどう見ても男女にしか見えないからね。

「これは・・・男の子同士ってのもありかも。」

 私の隣に座っていたアイがポツリとそう呟いて、何やら妄想を始めた。

 どうせまた、いかがわしい事でも考えているのだろう。


「そうだな、そろそろ始めるとするか。」

 ウィルト王子はそう言うと、真剣な表情で私達の方を見る。

 その瞬間、さっきまでの冗談めいた空気がスーッと一気に消える。

 みんな、ウィルト王子が何を話し出すのか、緊張した面持ちで見つめていた。

 すると、ウィルト王子は、いきなりスクッと立ち上がると、

「ミディアちゃん、そしてみなさん。

 このたびは本当にすまないことをした。」

 そう言って、いきなり私達に頭を下げた。

「どうして、ウィルト王子が謝るんですか?」

 私がウィルト王子にそう聞くと、

「それは、私から代わりに説明させてもらう。」

 ヤシュワントさんがそう言って、説明を始めた。


「君達は当事者なので、王子からは全て話すように言われている。

 でも、今から話すことは他の人には絶対に話さないでほしい。」

「わかりました。

 他の人には話さないようにします。」

 私がそう言うと、ヤシュワントさんは話し始めた。


「事の発端は、今から30日ほど前になる。

 その日の未明、モンフェルンの魔導観測所で、巨大な魔力波動が観測されたことからすべては始まった。」

「えっ!?」

「魔力波動については、みんな知っていると思っていいのかな?」

 ヤシュワントさんが私達に聞いてくるので、私達は「もちろん」と答えた。

 とは言っても、魔力波動は理論レベル15で習ったばかりの知識なので、結構難しいんだけど。


 アトゥアはマーシャントで満たされていて、私達の魂はアトゥアのマーシャントを吸収して生命活動を行っている。

 そして、私達の魔力の源となっているのも、このマーシャントだ。

 私達が魔法を使うと、小さな波が発生する。

 ここで言う波とは、音波でも電波でもなく、マーシャントを伝わる波のことである。

 これが魔力波動と呼ばれているものだ。

 アトゥアでは、日常生活で多くの人が魔法を使っているから、その数だけ多くの魔力波動が発生している。

 もっとも、私達が日常で使う程度の魔法だと、できる波も大したことなく、通常は他の波とぶつかってすぐにかき消されてしまう。

 魔力波動は放った魔法の魔力が大きくなればなるほど大きくなる。

 つまり、巨大な魔力波動がモンフェルンで観測されたということは、誰かが何らかの巨大な魔法を使ったということになる。

 でも、それが私達と一体何の関係があるんだろう?


「魔力波動の計測がモンフェルンで行なわれて200年になるが、国内でこれほどの巨大な魔力波動が観測されたのは初めてのことらしい。

 計測された魔力波動を元に、使われた魔法の予測魔力を計算したところ、とんでもない数字が出た。

 正確な数字はここでは伏せさせてもらうが、魔力を単純にエネルギーとして使用した場合、このリーヴァ王国を瞬時に消滅させることができるほどの魔力だと思ってくれればいい。」

「えっ!?」

 ヤシュワントさんの話を聞いて、みんなの表情が強張った。

 私も、背筋に寒気が走った。

 そんな凄まじい魔法が国内で使われたのだとしたら、リーヴァ王国軍が動くのもわかる。

「そして、その後の魔導研究所の計測により、魔力波動の発生源がラーヴォルンであることが判明した。」

「えっ!?」

「ラーヴォルン政府にもラーヴォルンに駐在している王国調査員にも確認したが、その日にラーヴォルンで何か巨大な魔法が使われた気配は全くなかったらしい。

 しかし、これだけの魔力波動が発生している以上、何らかの巨大魔法がラーヴォルンで使われたのは間違いない。

 その後、さらに魔導研究所の調査により、重要な情報を得ることができた。」

 魔力の源であるマーシャントは、情報の記録という性質を持っている。

 私達が普段使っているイデアは、このマーシャントの性質を使ったものだ。

 魂は生前からの人の行ないを全て記録しているらしいが、それもこのマーシャントの性質が用いられていると言われている。

 だから時々、詠唱者の感情が魔力に記録されることがある。

 強い感情であればあるほど、魔力に感情が記録されることがあるらしい。

 もっとも、通常はほとんどの魔力は魔法で消費されてしまうので、感情が記録された残留魔力はほとんど残らない。

 それに、魔力波動に情報が記録されることはないはず。

 なぜなら、魔力波動はあくまで波であり、マーシャントそのものではないのだから。


「この魔法を使った人物は、よっぽど強い感情と強い魔力を持っていたのだろう。

 一部の魔力が魔力波動によって運ばれたことで、術者の感情と思わしき情報を観測することができた。

 と言っても、ほとんどノイズに近い状態ではあったが。

 だから、魔力から術者を特定することはできなかった。

 だが、ノイズの中からいくつか強く発信されているキーワードを特定することができた。

 そのキーワードというのが、『ミディア』と『コトネ』だった。」

「えっ!?」

 全員、驚いた表情になった。

 どうして、私と琴音の名前が?

 琴音の名前を知っていると言うことは、術者は琴音の存在を知っているってことになる。

 でも、琴音が来てから、そんな大きな魔法が使われたことなんて一度も見たことがない。

 でも、変なことだったら、一回あった。

 そう言えば、あれが起こったのも、今から30日ぐらい前だったはず・・・

 ここまで来て、私はある事件のことを思い出していた。

「まさか、記憶喪失事件・・・」

 どうやら、ラーファも同じことを思ったようだ。

 ラーファがポツリとそう言ったのを、ウィルト王子は逃さなかった。

「それは、一体どういう事件だ?」

 ウィルト王子が、すかさずラーファに迫る。

 でも、ラーファはどこまで話したらいいのか悩んでいるようだった。


 記憶喪失事件と言うのは、私達が琴音のことを忘れてしまった事件のことだ。

 正確に言うと、前日の午後からの記憶がなくなり、さらに琴音についての記憶がなくなってしまった。

 だから、この事件のことを説明するには、琴音のことを話さないといけない。

 でも、ウィルト王子に琴音のことを話してもいいのかな?

 ただでさえ、魔力波動から琴音という名前が出てきていることだし、ここは琴音のことを話さない方がいいような気がする。

 下手に話して、琴音に変な疑いがかかっちゃうと、琴音がかわいそうだからね。

 それに多分、あの事件に関しては、琴音も被害者だと思うから。

 私達が記憶喪失になっていた間、琴音に何が起こったのか、未だに琴音は話してくれない。

 その話題になると、琴音が真っ青になってしまうから、それ以上聞くのをためらってしまい、私達も琴音に何が起こったのか未だに知らない。

 でも、あの様子からして、きっと琴音はすごい怖い目にあったんだと思う。


 ラーファが答えに躊躇しているので、代わりに私が答えることにした。

「魔法の発動があったのが今から30日前って言ってましたよね。

 ちょうどその頃、私達の記憶の一部が喪失したことがあったんです。」

 私がそう言うと、ウィルト王子は驚いた表情を浮かべた。

「一部の記憶って、どういった記憶なんだ?」

「前日の午後からの記憶がほぼ全部です。」

 とりあえず、今は琴音のことは伏せておこう。

「記憶がなくなったのは、君達だけなのか?」

「さあ、他の人達に確認したわけではないので・・・」

 そう言えば、ラヴィおばさんとかどうだったんだろう?

「それで、その後、記憶は戻ったのか?」

「ハイ、多分・・・」

 とは言ったものの、本当は完全に記憶が戻ったのか、私自身もよくわからない。

 未だにその前日に何やっていたのか、はっきりしない時間帯がある。

 あの日は、ラーファがいなくなって、パニックになっていたから・・・

 そういえば、ラーファはどうしていなくなったんだろう?

 単に私が忘れているだけなのか、それともまだ記憶喪失のままなのか?

 私にもよくわからない。


「そうか。」

 ウィルト王子は頷くと、ヤシュラムさんの方を見る。

「これで調査項目が一つ増えたな。」

「そうですね。」

 ヤシュラムさんが小さく頷いた。

「話を続けてくれ。」

 ウィルト王子がそう言うと、ヤシュワントさんが続きを話し始めた。


(1)エルフィーゼの塔

ラーヴォルン北街のはずれにある100階建ての巨大な塔。

昔は軍事要塞施設で、今でも何箇所かにはその時の名残が残っている。

未だに多くの謎を残しており、安全が確認できていないフロアは、今でも立ち入り禁止になっている。

そのため、塔内は魔法転移装置で移動することになっている

北街の観光名所の一つとなっている。


(2)リーブルガルト

ラーヴォルン北街の中央にあるイベント施設

様々なイベントで使用されることが多く、最近ではハ―メルトンのコンサートでも使用された。

アトゥア最大のイデアトゥア施設を備えているため、イデアに関するイベントや学術研究等でもよく使用される。


(3)魔力波動

魔法を使った時に発生するマーシャントの波のこと

魔力波動の大きさは、使用する魔力が大きくなればなるほど大きくなる。

アトゥアはマーシャントで満たされているので、発生した魔力波動はアトゥア中に伝播していく。

ただ、よほど大きな波でない限り、通常は他の波に打ち消されてしまう。


(4)マーシャント

マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。

生命や星は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。

地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。


(5)イデア

様々な用途で使用される魔法媒体のこと。

マーシャントの情報を記録する性質を利用している。

ミディア達が使うイデアは、主に映像を記録した映像イデアのことを指す。


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