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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
81/254

35.現れた王子様

<<ラーファ>>

「やっと見つけました。」

 目の前の女の子は小さな声でそう呟いた。

 どうやら、ルティアを使って、誰かに連絡を入れているみたいだった。

「ラーファ。」

 彼女の様子を伺っていたエレーネが私の耳元で小声で囁いてきた。

「なに、エレーネ?」

「もしかしたら、アイツ、ミディアをさらった連中の仲間なんじゃないか?」

 エレーネがそう言った瞬間、私の中で何かが切れた。

 エレーネは多分、私に警戒させるために言ったんだと思う。

 でも、それを聞いた瞬間、私の心の中は怒りでいっぱいになって・・・

 気がついたら、私は目の前の少女の胸ぐらを思い切りつかんでいた。

「えーっと、離してもらえませんか、ラーファさん?」

 目の前の少女は表情を変えることなくそう言った。

 なんだ、この子は?

 この状況で、どうしてこんなに平然とした表情でいられるんだ?

 いや、そんなことよりも、コイツ、どうして私の名前を知ってる?

 間違いない。

 コイツは、やっぱりミディアをさらった連中の仲間だ。

 そう確信した瞬間、私の怒りは爆発した。


「ミディアを返せ!!!」

「ラーファ!?」

 エレーネはすごい驚いた顔で、こっちを見ていた。

 エレーネがポケットにしまっていたはずのナイフが、いつの間にか私の手の中にあって、そして私が目の前の少女の喉元にナイフをつきつけていたからだ。

 私だって、自分がこんなことをするなんて思ってなかった。

 でも、今は、どうしても目の前の相手に怒りをぶつけずにはいられなかった。

「どうして・・・どうして、ミディアばかり狙うのよ!?

 あの子ばかり、どうしてこんな目に合わないといけないのよ!?

 せっかく、ベイ・カロッサで立ち直ったっていうのに、どうして・・・どうしてよ!?」

 私はさらにナイフを、少女の喉元に近づける。

 でも、少女は表情を変えることなく、私にこう言った。

「勘違いしてますよ、ラーファさん。

 ボクはあなた方の敵ではありません。」

「じゃあ、どうして私の名前を知ってるのよ!?」

「ああ・・・それはですね。」

 少女はそう言った後、チラリと横を見る。

 その少女の視線の先には、動物の格好をした例の音楽団の姿があった。

 そう言えば、あの音楽団の1人が、やたらとミディアにまとわりついていたけど、まさか、ミディアをさらうために近づいたってこと?


「我々が、君達のことを調べていたからだ。

 ラーファ、こんなことをしている場合じゃない。

 すぐにミディアを助けないと、取り返しのつかないことになるぞ。」

 音楽団の中で一番大きな男の人が、私にそう言った。

 えっ、この人達は一体何を?

「ラーファさん、落ち着いてください。

 ボク達は、あなた達を助けに来たんです。」

「えっ!?」

 私達を助けに来たって、どういうこと?

 一体、何が一体どうなってるの?

 混乱している私のナイフを持つ手が緩んだのを確認した少女は、スッとすり抜けるように、私の拘束から脱出した。

 手の力が緩んでいたとは言え、その鮮やかな脱出ぶりに、私は驚いた。

 それに、ナイフを喉元に当てられても表情一つ変えていなかった。

 この子、一体何者なんだろう?


「エレーネ。」

 さっきの大男が、エレーネの名前を呼んだ。

 この人達、私とミディアだけじゃなく、エレーネのことまで調べていたなんて。

「ハ、ハイ・・・」

 突然、名前を呼ばれて、エレーネも驚いていた。

「お前の持っているイデアトロン探知機を貸せ。」

「えっ!?」

 エレーネは驚いていた。

 エレーネがイデアトロンを使っていることも知っていたなんて、一体、この人達は何者なんだろう。

 エレーネは言われるまま、大男にイデアトロン探知機を渡す。

 大男は探知機でミディアの位置を確認する。

「どうやら、お前の想定位置からは、少しずれているようだな、ヤシュラム。」

 そして、少女に向かってそう言った。

 どうやら、この少女の名前はヤシュラムって言うらしい。

 少しずれているって、一体どういうことだろう?

 ってそんなこと言ってる場合じゃない。

「そんなことよりも、早くミディアを・・・」

「大丈夫だ。既に動いている。」

「そのようですね。」

 ヤシュラムは、音楽隊の方を見て苦笑する。

 よく見ると、メンバーの数が一人足りない。

 そうだ、ミディアにプロポーズしていた人がいない。

「全く、困ったお方だ。」

「話を聞いた時には驚きましたが、まさか本気だったとは思いませんでした。」

「じゃあ、我々も合流するぞ。

 ヤシュラムは、この子達を頼む。」

「わかりました。」

 大男はそう言うと、他のメンバーを率いて、ミディアの元に向かおうとする。

 がその時だった。


「ちょっと、待って。」

 エレーネが大男に声をかけた。

「なんだ?」

「ねえ、あなたって、もしかして・・・」

 瞬間、ギクッて擬音が聞こえてくるほど、露骨に大男が固まった。

「わ、我々は先を急ぐので、これで失礼いたすでござる。」

 大男はそう言うと、慌ててその場から立ち去って行った。

 なんか、最後、変な口調になっていたような気がする。

 一方、エレーネはというと、なぜかニヤニヤと笑っていた。

「エレーネ、さっきの人知ってるの?」

 エレーネに聞いてみると、

「ウン、多分、間違いないと思う。」

 エレーネはニヤニヤした表情のまま頷いた後、

「大丈夫、ラーファ。

 ミディアはきっと無事に帰ってくる。」

私に向かって力強くこう言った。

 どうやら、エレーネはさっきの大男のことをものすごい信頼しているらしい。

 さっきの大男が何者かわからないけど、エレーネがここまで信頼している人であるなら、私も信じてみよう。

 お願い、ミディアを無事に連れ戻して来て。


<<ミディア>>

 気がついたら、私は見たことのない森の中にいた。

 この状況、グラド・ルガンテの時と似ている。

 でも、さっきと違うのは、私一人しかいないってことだ。

 私は一体どこにいるんだろう?

 とりあえず、周囲の様子を探ってみよう。

 さっきも同じような状況だったからか、こんな状況だってのに、不思議と落ち着いていた。

 自分でも不思議だった。


 とりあえず、まずは状況を整理してみよう。

 さっきまで、リーブルガルト広場でラーファとエレーネ先輩を待っていた。

 そうしたら、観光客の女の人に声をかけられて、確か船乗り場の場所を聞かれたんだっけ。

 私がその人を船乗り場まで連れて行くことになって、一緒に船乗り場に向かっていたんだけど、突然寄りたい場所が見つかったって言って、細い路地に入ったんだっけ。

 私も女性と一緒に路地に入って、しばらく一緒に歩いていたら、突然足元が光だして・・・

 気がついたら、私はここにいた。

 多分、あれは転移魔法だと思う。

 だとしたら、私をここまで魔法転移させたのは、一体誰?

 まさか、私が道案内していた女の人?

 それとも、他の人?

 でも、どうして私をこんなところに?


 その時だった。

 突然、周囲に黒服と黒マントをつけた人が魔法転移で現われた。

「えっ!?」

 現れたのは、一人だけではなかった。

 気がついたら、私は大勢の黒服の人達に囲まれていた。

「だ・・・誰ですか?」

 恐る恐る声をかける。

 でも、全員無言のまま、私との距離を詰めてきた。

 怖くて逃げ出したかったけど、周りをぐるりと囲まれているから、どこにも逃げることができない。

 とその時、黒服の一人が声を上げた。

「ターゲットから微弱な魔法反応が・・・」

 これは、さっき道案内していた女の人の声だ。

 てことは、あの女の人が私をここまで転移させたってこと?

「これは、イデアトロンか。」

 今度は男の人の声が聞こえて来た。

「あの服の中から反応がする。」

「誰かに気づかれると、厄介だ。

 とりあえず、服を破いて、イデアトロンを潰せ。」

「了解。」


 黒服の一人はそう言うと、一気に私の目の前まで近づいてきて、私の服に手をかけた。

 私は怖くて、身動き一つできなかった。

 黒服が私に何か話しかけてきたけど、何を話しているのか、私にはさっぱりわからなかった。

 この言葉は、リーヴァ王国の言葉じゃない。

 じゃあ、この人達は、まさか他の国から来た人達?

 黒服は、私の衣服を乱暴につかんできた。

 どうやら力づくで私の服を一気に引き裂こうとしているみたいだけど、私は怖くて全く動けなかった。

 でも、その時だった。

 突然目の前に真っ赤な光が現われると、私の目の前にいた黒服を思い切り突き飛ばした。

「何だ、一体!?」

 突き飛ばされた黒服が、起き上がってこちらを見る。

 気がつくと私は、いつの間にか、あの動物の仮装をした人に抱きかかえられていた。

 この人は、ベイ・カロッサが始まる前に、私に声をかけて来た人で、よく覚えていた。

「ウィリーさん!?」

「やあ、ミディアちゃん。久しぶり。」

 ウィリーさんはそう言って、私にウィンクをした。

 私の頭の中は、すっかり混乱モードだった。

 全く知らない場所に飛ばされて、謎の黒服に囲まれたと思ったら、ウィリーさんが飛び出して来て、私を助けてくれた。

 一体、ここで何が起こってるんだろう?

「全く、テメエらは女の子の扱い方も知らないのか?」

 ウィリーさんはそう言って、黒服をにらみつけた。

 しかし、黒服はウィリーさんの言葉には全く反応せず、すかさず態勢を整える。

「ミディアちゃん、しっかり捕まってて。」

 ウィリーさんはそう言うと、黒服達に向かって煙を放った。

 これは煙幕魔法だ。

 ウィリーさんは黒服達の視界を煙幕で遮ると、私を抱えたまま、すごいスピードでその場を走り抜けた。


 気がついたら、私達は別の場所にいた。

 さっきの黒服達の姿は見えない。

 どうやら、ウィリーさんのおかげで逃げることができたみたいだ。

 でも、相変わらず森の奥にいる状況に変わりはなかった。

 ここは、一体どこなんだろう?

「ミディアちゃん、大丈夫か?」

 ウィリーさんがそう言って、私の顔を覗き込む。

 そこで、ようやく私は自分がウィリーさんに抱きかかえられたままであることに気づいた。

「あのう・・・降ろしてもらえませんか?」

「僕はもう少しこうしていたかったんだけどなあ。」

 ウィリーさんはニコッと笑いながら、名残惜しそうに私を降ろしてくれた。

「あの、ここは?」

「北街から少し離れた場所だよ。」

「じゃあ、早くラーヴォルンに戻らないと・・・」

「そうだね。

 でも、さっき逃げるのに、かなりの魔力を使っちゃってさあ。

 ちょっと休憩させてくれないかな。」

 ウィリーさんはそう言ったけど、とても魔力切れになっているようには見えなかった。

 本当に魔力が切れてたら、アイみたいに立っているのもやっとの状態になるはず。

 でも、ウィリーさんは、さっきまで私を抱えて走ってたし、今も全然疲れてなさそうだった。

 本当に魔力切れなのかな?

 ウウン、そんなことより、ウィリーさんはどうしてこんな人気のない森にいるんだろう?

 少し前まで、光の道の交差点で演奏していたはずなのに・・・


「どうして、ウィリーさんはこんなところにいるんですか?」

 私がそう聞くと、

「そりゃあ、ミディアちゃんを追いかけてきたからに決まってるだろ。」

「えっ!?」

 もしかして、私、ずっとウィリーさんにつけられていたってこと?

 それはなんかすごい怖い。

「えっと、なんかすごい誤解されてるようだけど・・・

 別にずっとミディアちゃんをつけていたわけじゃないよ。」

 私の考えていたことにウィリーさんは気づいたようで、慌てて否定した。

 私、何も言ってないのに・・・

 本当に、私って考えていることがすぐ顔に出るんだなあ。

 これは気をつけないといけない。

「実は俺達、リーブルガルト広場で演奏することになってたんだよ。」

「えっ、そうだったんですか?」

 全然気づかなかった。

 でも、あれだけ多くの人がいたら、気づけなくても仕方がないかも。

「その準備をしている時に、女の人と一緒に広場から離れていくミディアちゃんをたまたま見かけてね。

 その時ミディアちゃんと一緒にいた女の人から変な魔力を感じたから、もしかしたらと思って追いかけてきたんだよ。

 いやあ、間に合ってよかった。」

 そうだったんだ。

 ウィリーさん、私のために、わざわざここまで追いかけて来てくれたんだ。

「でも、私のために、どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 私がウィリーさんに聞くと、ウィリーさんはニコっと笑って答えた。

「前も言ったと思うけど、俺、ミディアちゃんに一目ぼれしちゃったからね。

 愛する人を助けに来るのに、理由なんかないさ。」

「えっ!?」

 あれっ、なんか、すごい体が熱い。

 そう言えば、昼間もそんなことを言ってたけど、あの時はただ怖いだけで何も考えられなかった。

 でも、今は、どうしてこんなに体が熱くなるんだろう?

 この人は私のことをすごい想ってくれていて、私のためにここまで追いかけて来てくれて、私の命を救ってくれた。

 そう思ったら、体がカーッと熱くなった。

 変だ、なんかすごい胸がドキドキする。

 あれっ、私、どうしたんだろう?


「俺、本気でミディアちゃんに惚れちゃったみたいなんだ。

 だから、俺と結婚してほしい。」

 えっ、まさかのプロポーズ!?

 付き合うとか通り越して、いきなり結婚まで行っちゃうの?

 突然のことに、私は思い切り動揺していた。

「で、でも・・・私・・・まだ16歳だし・・・

 そ、それに・・・私、ウィリーさんのことをまだよく知らないし・・・」

「わかってる。

 だから、俺、ミディアちゃんが18歳になるまで待ってる。

 それまで、時間をかけて、お互いのことを知ろう。」

「ウィリーさん・・・」

 どうしよう、さっきから胸のドキドキが止まらない。

 初めて会った時、この人は、ここから先は踏み込んでほしくない境界線を、平気で踏み入って来る人だと思った。

 その認識は、今でも間違ってなかったと思う。

 だって、この人は、まっすぐな気持ちで、私の心にどんどん入り込んでくるから。

 でも、不思議と今はそれが不快と思わない。

 それどころか、私の体をカーッと熱くする。

 こんなの、始めてだ。

 私、本当にどうしちゃったんだろう?

「どうかな、ミディアちゃん?」

「わ、私・・・」


 その時、黒服が一斉に魔法転移で私達の前に姿を現した。

 どうやら、私達の後を追いかけて来たらしい。

 でも、さっきより少し人数が減っていた。

 私をここまで連れてきた女の人は、ここにはいないようだった。

「まさか、こんな場所でちんたらやってるとは思わなかったぞ。」

 黒服の一人がそう言うと、再び私達は黒服達に包囲されてしまった。

 でも、ウィリーさんは、

「せっかく、ミディアちゃんとの水入らずの時間を邪魔するとか、君達も野暮だなあ。」

と余裕の笑みを見せながらそう言った。

 どうして、こんな絶体絶命の状態なのに、ウィリーさんは笑ってなんていられるんだろう?

「貴様、ふざけるなよ。」

 黒服達はそう言いながら、徐々に包囲を狭めてくる。

「ウィリーさん。」

 私は怖くなって、思わずウィリーさんにしがみついた。

 すると、ウィリーさんは

「大丈夫だ、ミディアちゃん。

 この勝負、俺達の勝ちだ。」

 ウィリーさんはそう言って、ニヤリと笑った。

「さっきお前達は、こんな場所って言ったよな?

 そう、お前達はもっと疑問に思うべきだった。

 どうして、俺達がこんな場所にいたのかを。」

 ウィリーさんがそう言った瞬間、黒服達の周囲を包囲するように、一斉に大勢の人達が魔法転移で姿を現した。

 その中には、ウィリーさんの仲間の音楽隊の人達がいた。

 でも、ほとんどは憲兵隊のようだった。

 いや、違う。

 服に描かれている紋章・・・あれは確かリーヴァ王国の紋章だ。

 てことは、もしかしてあれはリーヴァ王国軍?

 どうして、リーヴァ王国軍がここに?


「貴様・・・まさかこれが目的でここに!?」

「せっかくルフィル・カロッサで盛り上がってるのに、ラーヴォルンで貴様らと争うわけにはいかないからな。

 だから、貴様らが追いかけてくるのを、ここで待っていたんだよ。

 王国軍が待ち潜んでいたこの場所でな。」

「リーヴァ王国軍を動かせるとか、貴様、一体何者だ?」

 黒服が尋ねると、ウィリーさんはニヤリと笑いながら、仮装を解いた。

 仮装が解けた瞬間、私も黒服達も言葉を失ってしまった。

 この仮装って魔法でやってたんだとか、そんなことは、ウィリーさんの素顔を見た瞬間に全て吹き飛んでしまった。

 なぜなら、ウィリーさんの素顔は、ニュースとかでよく見たことのある顔だったから。

「俺の名前は、ウィルト・リーヴァ。

 リーヴァ王国の第3王子だ。」

 ウィルト王子の姿を見て、黒服達は明らかに動揺していた。

「まさか、リーヴァ王国の王子とは!?」

「ヤシュワント、全員捕まえろ。」

 リーヴァ王子がそう言うと、音楽団の中で一番大きな人が仮装を解除した。

 すると、すごい目つきの鋭い男の人が現われた。

「ヤシュワントだと!?」

 さっきのリーヴァ王子の正体がわかった以上に、黒服達は動揺していた。

「抵抗しなければ、命まで奪うことはしない。

 だが、あくまでも抵抗すると言うのであれば・・・」

 ヤシュワントさんはそう言うと、すごい大きな剣を構える。

 あんな大きな剣、今まで見たことないよ。

「こうなったら、せめてミディアの始末だけでも・・・」

 黒服はそう言うと、私にだけ狙いを定めて攻撃を仕掛けてきた。

 しかし、ウィルト王子が魔法を放つと、近づいてきた黒服は全員吹き飛ばされてしまった。

 それでも、他の黒服は一斉にこっちに向かってきた。

 でも、ウィルト王子は平然としていた。

 なぜなら、一瞬、凄まじい風が起こったかと思うと、いつの間にか私達の前にヤシュワントさんがいたからだ。

 そして、ヤシュワントさんが剣を鞘に収めると、こちらに向かって来ていた黒服達は全員一斉に倒れた。

 えっ、まさか、これ全部、ヤシュワントさんがやったの?

 何が起こったのか、全く見えなかった。

 このヤシュワントって人、なんかすごい。

「全員を拘束しろ。」

 ヤシュワントさんの命令で、王国軍が倒れている黒服達を拘束していく。

 戦いは、あっという間に終わっていた。


「王子、ご無事でしたか?」

 ヤシュワントさんがウィルト王子に尋ねる。

「やっぱり、お前ってすごいんだな。

 お前の名前を出しただけで、相手は動揺していたぞ。」

「そんなことより、一人で戦場に飛び込んでいくの、いい加減に辞めてください。

 どれだけハラハラしたと思ってるんですか。」

「悪い悪い。

 でも、この役目は誰にも譲りたくなかったんだ。

 惚れた女の子は、やっぱり自分の手で守りたいじゃん。」

 ウィルト王子はそう言って、二ッと笑う。

 私はそのリーヴァ王子の笑顔を見て、また体がカーッと熱くなった。

「ですが、全員がここに来ていたわけではないようですね。

 一部は、我々がここで待ち伏せしていたことに気づいて、撤退し始めたようです。」

 ヤシュワントさんはそう言うと、周囲の兵士達に残りの黒服達を捜索するように命令していた。

 私はまた混乱していた。

 いきなり黒服の人達にさらわれたと思ったら、ウィルト王子がやって来て、その後にはリーヴァ王国軍までやってきて・・・

 本当に一体何が起きているんだろう?

 でも、まずはウィルト王子に、助けてもらったお礼をしておかないと・・・


「あ、あの・・・ウィルト王子・・・」

「ウィリーでいいよ。

 父上や兄者達からはそう呼ばれてるからな。」

 でも、王族の愛称を私が呼んでもいいのかな?

 ウィルト王子にそう聞くと、

「ウン、問題ない。」

 さわやかな笑顔でそう言った。

「それに、せっかくルフィル・カロッサで盛り上がってるのに、俺の名前が出ちゃったら、水を差しちゃうからな。」

 つまり、今回のラーヴォルンの訪問は、あくまでもお忍びってことにしたいってことだね。

「じゃあ、ウィリーさん・・・」

「何かな、ミディアちゃん?」

 ウィリーさんは私の方を見る。

 でも、私は恥ずかしくて、ウィリーさんの顔を真っ直ぐに見れなかった。

 本当に、さっきから私、すごく変だ。

「今日は、本当に助けてくれてありがとうございました。」

「いや、そんなことより、俺との結婚のこと、本気で考えてくれないかな。」

 ウィルト王子はそう言って、優しく微笑んだ。

 また、私の体の奥が熱くなった。

 本当に私、どうしちゃったんだろう?

「えっと・・・だから、まだ結婚とかは・・・」

「わかってる。

 さっきも言ったけど、今すぐに答えを出さなくてもいい。

 どうせ、今すぐには結婚できないんだし。」

 確かに、リーヴァ王国では結婚できる年齢は男女ともに18歳からなので、私はまだ結婚できない。

 でも、それがまさか救いになるとは思わなかった。

 昨日まで、誰からも告白されたことのないごくごく平凡な私が、いきなりプロポーズされるなんて。

 しかも、相手はリーヴァ王国第3王子。

 普通の結婚とはわけが違う。

 本当にどうしたものだろう?


用語集

(1)ルティア

意識間での意思伝達を行なう魔法。

意識は魂が体に憑依した時にできるものなので、魂から直接使うことも可能である。

本来はテレパシーだけの魔法だけだったが、最近では拡張されて仮想の魔法世界に意識を転送する魔法としても使われる。

魔法世界は個々の街や国単位で持っており、ラーヴォルンの場合はラヴォルティアという魔法世界が存在する。


(2)イデアトロン

イデア技術を利用した探知機。

つけた人のいる場所のみならず、使い方によっては話していることや、今何をしているかなどがわかってしまう。

そのため、プライバシーを著しく侵害するアイテムと言うことで、ラーヴォルンでは使用が禁止されている


(3)リーブルガルト

ラーヴォルン北街の中央にあるイベント施設

様々なイベントで使用されることが多く、最近ではハ―メルトンのコンサートでも使用された。

アトゥア最大のイデアトゥア施設を備えているため、イデアに関するイベントや学術研究等でもよく使用される。


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