31.エルフィーゼの塔の探検
<<琴音>>
(何だ?)
私が念じると、覆面の応答がすぐに返ってきた。
(えっと、実はですね。
今、ルフィル・カロッサでエルフィーゼの塔まで来ているんだけど・・・)
(魔法転移か。)
私が説明する前に、どうやら覆面は全てを察したらしい。
(どうしてわかったの?)
驚いて覆面に尋ねると、
(ルフィル・カロッサでエルフィーゼの塔と言えば、塔内探検だからな。
察しはつく。)
そうなんだ。
ていうか、覆面、随分とルフィル・カロッサのこと詳しいね。
まあ、覆面は地球とアトゥアを行き来しているんだし、ルフィル・カロッサに詳しくても当然か。
(それでね、私もエルフィーゼの塔を探検してみたいんだけどね。
私も魔法転移装置で転移されるようにしてくれないかな?)
私がそう頼むと、
(いいだろう。)
覆面から意外な回答が返ってきた。
(えっ、いいの?)
正直、また「アホか。」の一言で切り捨てられると思ってたので、これにはかなりビックリした。
(ただし、条件がある。)
(えっ、条件?)
(私が選んだ魔法転移装置だけ、特別に許可してやろう。)
(覆面が選んだ魔法転移装置だけって、どういうこと?
もしかして魔法転移装置ってたくさんあるの?)
私がそう言うと、覆面の溜息が聞こえてきた。
(なんだ、お前、探検の詳細を知らないのか?)
そう言えば、魔法転移装置で見て回るだけとしか聞いていない。
他にも何かあるんだろうか?
(魔法転移装置は、基本的に各フロアに複数あって、どれを使うかでルートが変わる。
中には1階に転移されて、強制的に探検終了になってしまう転移装置もある。)
(それって、ただのトラップじゃん。)
(ここの運営は、平気でそういうことをやるからな。
まあ観光客が多いから、効率よくさばくために必要なことなのだろう。
どうせ探検するなら、お前も色々な場所を見て回りたいだろう?
だから、できるだけ多くの場所が見れるように、私が魔法転移装置を選んでおいてやろう。)
なんだ、今日の覆面!?
妙に優しくて、逆に少し怖い。
(でも、どれが覆面の選んだ魔法転移装置ってわかるの?)
(お前達にしか見えない光で、魔法転移装置を照らしておく。
俺が選択した魔法転移装置は青色に光っているはずだ。
逆にそうでないのは赤色に光らせておく。)
(もし、赤色の魔法転移装置に入ってしまった場合は?)
(その場合は、お前の友人だけが転移されて、お前はその場に取り残されることになる。)
つまり、私がみんなと一緒にエルフィーゼの塔を探検するには、覆面の用意した青色ルートを通るしかないってことか。
でも、それだと、ミディアちゃん達も青色ルートで探検することになってしまう。
ミディアちゃん達はそれで納得してくれるだろうか?
(ミディア達を説得することだな。)
どうしよう?
覆面は自分の利益にならないこと以外は、絶対にしない人だ。
つまり、この青色ルートは覆面にとって何らかの利益があるからやってくれるわけで、それ以外のルートは絶対に認めてくれないだろう。
ミディアちゃん達を説得するしかないかな。
せっかくの楽しいルフィル・カロッサに水を差すようなことにならないといいけど・・・
(わかった。みんなを説得してみるよ。)
(それでいい。)
覆面との会話はそこで終わった。
目を開けると、ミディアちゃん達も他の観光客も、ある一方向を見つめていた。
みんなの見つめる視線の先には、ライトアップされたグラド・ルガンテの姿があった。
私達がベイ・カロッサで楽しんでいる間に、いつの間にかグラド・ルガンテはラーヴォルンの上空を通り過ぎていた。
「次に会えるのは5年後かあ。」
ミディアちゃんが少し寂しそうにそう呟いた。
「イデアフィールズで見ることはできるけど、やっぱり生の迫力は全然違ったなあ。」
ミディアちゃんとは対照的に、エレーネちゃんは笑顔でそう言った。
そっか、グラド・ルガンテ、もう行っちゃうんだ。
もし、本当にルフィルが住んでいる場所で、今日のベイ・カロッサを見ていてくれたとしたら、すごい楽しんでくれただろうな。
今日のベイ・カロッサは最高に楽しかったからね。
私達の楽しい気持ちは、きっとルフィルにだって伝わったはずだよ。
これで見納めと思うと少し名残惜しいけど、今日はまだまだみんなと楽しみたいからね。
とはいえ、さっきの話、どうやってみんなに説明しようかな?
「ミディアちゃん。」
「あっ、琴音。」
ミディアちゃんがそう言うと、グラド・ルガンテを見ていたラーファちゃん達も、私の方を向いた。
ここはもう素直に説明するしかないな。
「みんな、実は―――」
それから、私はミディアちゃん達に覆面がつきつけてきた条件を説明した。
正直、嫌な顔されると思ってたんだけど、
「何それ、すごい面白そう。」
エレーネちゃんがそう言うと、ミディアちゃんも
「今年はもっと色んなところを見て回れそうだね。」
と喜んでいた。
「私達のルートは、琴音を連れてきている謎の覆面に託されるってわけか。
確かに面白そうね。」
正直、ラーファちゃんが一番嫌がると思ってたのに、まさかそんな回答が返ってくるとは思わなかった。
「何でもいいから、早く行きましょうよ。」
アイちゃんは探検が待ちきれないといった感じだった。
「じゃあ、今回は琴音ルートで探検ね。」
ミディアちゃん、琴音ルートじゃなくて覆面ルートだから。
探検ルートを勝手に決められて、もっと嫌がるかなと思ってたのに、なんか逆にすごい盛り上がってしまった。
というわけで、私達は、探検側の列に並んだ。
ここには探検ルートの魔法転移装置以外に、1階まで降りる魔法転移装置があるが、そっちの方に並んでいる人の方が多いのに少し驚いた。
「エルフィーゼの塔の探検しない人も結構いるんだね。」
ミディアちゃんにそう聞くと、
「初めてラーヴォルンに来た人は、多分、北街を観光したいんだと思うよ。
今、北街では、色んなイベントをやってるみたいだし。
探検は、結構時間かかっちゃうからね。」
へえ、そうなんだ。
私も北街はあまり来たことがないから、変な覆面の条件を呑むくらいだったら、そっちの方がよかったかもしれない。
どんなイベントをやってるのか、すごく興味があるし。
「いやあ、楽しみだよな。
琴音を連れてきている謎の覆面に、全てのルートが託されているわけだからな。
エルフィーゼの塔は広すぎて、私達でもまだ全部回れてないところもあるし。
何か面白いものが見られるといいな。」
さっきから、エレーネちゃんはすごい楽しそうなんだけど、私は不安で仕方がなかった。
自分の利益しか考えないあの覆面が、ルートを決めている。
そんなルートに、本当にみんなを連れてっていいのかな?
もしかしたら、また悪いことにみんなを巻き込んじゃうかもしれない。
「あのう・・・やっぱり、エルフィーゼの塔の探検は・・・」
「琴音、すごい楽しみだね。」
ミディアちゃんがニコッと微笑んでそう言った。
どうしよう?
今更、探検するのやめたいって言える雰囲気じゃないぞ、これは。
そうこうしているうちに、気がつくと最初の魔法転移装置の前まで来てしまった。
探検の始まりの魔法転移装置だけど、これは特に青く光っていなかった。
多分、選択の余地がないから光ってないのだと思うんだけど、本当に大丈夫なのかな?
「じゃあ、行くよ、みんな。」
ラーファちゃんの合図で、私達は魔法転移装置の上に乗る。
「じゃあ、転移するぞ。」
係員の人がそう言うと、魔法転移装置が光り出して、私達は光に包まれる。
あれっ、この感じ・・・何かと似ているような・・・
やがて光が収まり目を開けると、私達はどこか別のフロアに転送されていた。
「おお、ここは50階だ。」
エレーネちゃんがそう言った。
ここには屋上から転移された人達がたくさんいて、フロアの中にはお店とかもたくさん出ていた。
時間的に食事をとっている人の姿が結構目立った。
「あっ、琴音もちゃんと転送されてるね。」
隣にいたミディアちゃんが、私の方を見てそう言った。
転送後に、真っ先に私のことを確認してくれるとか、やっぱりミディアちゃんは優しいなあ。
「そっか、琴音も転送されてるか。よかったよかった。」
エレーネちゃんが笑顔で頷く。
「それで、これから私達はどこへ・・・」
ラーファちゃんはそう言いかけて、ある方向を見つめたまま固まってしまった。
あれっ、どうしたんだろう?
そう思い、ラーファちゃんの視線の方に視線を向けると、そこにはなんと青白い光の玉が浮かんでいた。
「もしかして、あれが私達を連れてってくれるの?」
ミディアちゃんが私に聞いてきた。
てことは、ミディアちゃんにも、あの光の玉が見えているってことか。
「ウン・・・多分・・・」
「おお、なんか光ってるぞ。」
「なんかすごいことになってますね。」
えっ、これはエレーネちゃんとアイちゃんの反応だ。
まさか、この光って2人にも見えてるの?
「エレーネ先輩とアイにも見えているんですか?」
同じことをミディアちゃんも思ったらしい。
「ウン、バッチリ見えるよ。」
アイちゃんが笑顔でそう答えた。
どうやら、覆面が気を利かせて、私達全員に見えるようにしてくれたらしい。
(だったら、私の姿もみんなに見えるようにしてくれたらいいのに・・・)
頭の中で覆面に強く抗議してみたけど、覆面からの反応は全くなかった。
本当に都合の悪いことには反応してくれないんだから・・・
「あっ、動き出したぞ。」
青い玉をじっと見つめていたエレーネちゃんがそう言った。
「私達も行くわよ。」
「行こう、琴音。」
それから、私達は青い玉の後を追いかけて、走り続けた。
青い玉は、部屋の片隅にある魔法転移装置の方へと進んでいった。
「あれに乗ればいいんだよね?」
ミディアちゃんが私に聞いてきた。
「ウン、多分・・・」
「じゃあ、行こう。」
しかし、この魔法転移装置の前には、既に多くの人達が並んでいた。
「ここに並んでいる人達は、当たりを引いたね。」
エレーネちゃんが笑顔でそう言った。
でも、覆面の選んだルートが本当に当たりかどうか、覆面以外誰にもわからない。
もしかしたら、大外れかもしれない。
本当にみんなを巻き込んでしまってよかったのかな?
今更ながら、そんなことをぼんやり考えていた時だった。
前に並んでいる人達の会話が聞こえてきた。
「さっき、ニュースで今年のルフィル・カロッサの来場客数が発表されたぞ。
なんと、例年の3倍以上だってさ。」
「道理でどこに行っても、人で溢れかえってるわけだ。」
「あと、今年の特徴は、40代の観光客が多いらしい。」
「そっか・・・まあ、そうなるわな。」
「・・・・・・」
あれっ、会話が終わってしまった。
どうして今年は40代の観光客が多いんだろう?
すごい気になるところで終わっちゃったんだけど、会話していた人達は、それ以上その話をすることはなく、別の会話に移ってしまった。
もしかして、ラーヴォルンに中年のアイドルでも来ているのかな?
日本でも、おばさんにやたらと人気のある演歌歌手とかいるからね。
気になったので、ミディアちゃんに聞いてみようと思ったんだけど、ミディアちゃんはラーファちゃんと何やら話をしていた。
「ねえ、ラーファ。
明日のことなんだけどね・・・やっぱり・・・」
なんか、ミディアちゃんの表情、さっきまでと違って少し暗い感じがするように見えるんだけど、気のせいかな?
「わかっているわよ。
ミディアのことだから、きっとそう言うと思ってたわよ。
もちろん私も協力するわ。」
「ありがとう、ラーファ。」
「どうして、ミディアがお礼を言うのよ。
本当は私の方がお礼を言わないといけないのに・・・
ミディア、本当にありがとう。」
ラーファちゃんはそう言うと、ミディアちゃんに頭を下げた。
私には、さっきから2人が何の話をしているのかさっぱりだ。
とりあえず、ミディアちゃんに話を聞いてみようと思ったけど、ちょうどその時、魔法転移装置の順番が回ってきた。
なんか、さっきから色々とタイミングが悪いなあ。
「さあみんな、張り切って行くよ。」
エレーネちゃんだけは、いつもの元気なエレーネちゃんだった。
私達はエレーネちゃんに急かされて、慌てて魔法転移装置に入る。
屋上と違って、ここには係の人がいないので、自分達で魔法転移装置を動かさないといけない。
でも、エレーネちゃんは慣れた手つきで、魔法転移装置を起動していた。
「じゃあ、行くよ。」
エレーネちゃんの合図と同時に、魔法転移装置は輝き始めて、気がついたら次の場所に移動していた。
「ここは、65階の螺旋階段だ。」
到着するなり、エレーネちゃんがそう言った。
何でも、65階から70階まで、塔の外側に螺旋階段があるらしい。
それにしても、到着してすぐに場所を特定できるエレーネちゃんって、一体何回この塔に登ったんだろう?
「どうして、こんな高い所にわざわざ外の螺旋階段なんて作ったんでしょうか?」
ミディアちゃんがエレーネちゃんに尋ねると、エレーネちゃんは首を傾げる。
「さあね。
昔の人の考えることはよくわからん。」
「ここから、地上の敵目がけて魔法攻撃でもしたんじゃないですか?」
アイちゃんが下を覗き込みながらそう言ったけど、誰も納得していないようだ。
「飛空魔法で敵に乗り込まれる可能性だってあるわけだし、やっぱりよくわからん。」
エレーネちゃんはそう言って首を傾げていた。
結局、螺旋階段が作られた理由はわからずじまいだけど、螺旋階段からの景色は最高だった。
「青い光、螺旋階段を登っていくね。」
ミディアちゃんが、階段を登って行く青い光を指した。
「でも、ここからだと塔の周りの景色、全部見ることができるからいいわね。」
ラーファちゃんは塔の景色を楽しんでいた。
確かに、ここからだと、遠くに見える北街の夜景も、光の橋も、北側の山も全て見ることができる。
景色を見るには最高の場所だった。
でも、長く続くこの螺旋階段は、今のアイちゃんには、結構きつかったみたいだ。
68階まで登った辺りで、アイちゃんは完全にへばって、動けなくなってしまった。
肩で大きく息をしていて、相当疲れているのが一目でよくわかった。
「大丈夫、アイ?」
ミディアちゃんが心配そうに、アイちゃんに声をかけていた。
「何とか・・・大丈夫・・・」
アイちゃんはそう言うけど、とても大丈夫そうには見えない。
「すぐそこに青い魔法転移装置あるぞ。」
一足先に70階まで上がっていたエレーネちゃんが、私達に早く来るように手招いていた。
なんか、エレーネちゃんだけ、ベイ・カロッサの前よりも元気な感じがする。
「じゃあ、アイ、また私がおぶってあげる。」
ラーファちゃんがそう言うと、アイちゃんは慌てて首を横に振った。
「さすがに、ラーファ先輩にこれ以上負担をかけるわけには・・・」
「そんなこと考えなくていいわよ。
今日は、アイのおかげで、すごく楽しいベイカロッサになったからね。
ありがとう、アイ。
これは私からのささやかなお礼なんだから、遠慮なく私に甘えてほしい。」
「ラーファ先輩・・・ありがとうございます。それじゃ遠慮なく。」
アイちゃん、すごい嬉しそうだ。
それにしても、ベイ・カロッサの後半から、ラーファちゃんのテンションが高い。
これって、やっぱり、ミディアちゃんが対人恐怖症を克服できたからかな?
まあ、ミディアちゃんは元々接客とかやってたわけだし、きっかけさえあれば立ち直れると思ってたけどね。
私の人見知りとはわけが違う。
私の人見知りは、不治の病だからね。
「よし、行こう。」
70階に到着した私達は、エレーネちゃんに急かされて、すぐに次の魔法転移装置で移動することとなった。
次は・・・正直驚いた。
だって、到着したら、いきなり海の中だったから・・・
「何ここ!?」
驚いている私の姿を見て、ミディアちゃんがクスッと笑った。
「ここは、イデアトゥアの部屋だよ。
確か、75階だったよね?」
「ああ、ここは75階の奴だね。」
エレーネちゃんがそう答えた。
75階の奴ってどういうことだろう?
そのことをラーファちゃんに聞くと、
「ああ、エルフィーゼの塔には、イデアトゥアの部屋が全部で4つあるのよ。
75階、76階、78階、79階にね。
それぞれ、水、風、空、大地のイデアトゥアが展示されてるのよ。」
イデアトゥアは、ハ―メルトンのコンサートでも見たけど、こんな風に中に入るのは初めてだ。
イデアトゥアとはイデアを使った仮想空間技術とのことだけど、これはすごい。
あまりにもリアルすぎて、本当に海の中にいるみたいで、少し息苦しく感じる。
「本当に海の中にいるみたいだよ。
魚もたくさん泳いでいるし・・・」
「ああ、それはイデアヴォルンよ。」
「イデアヴォルン?」
また聞きなれない言葉が出てきた。
イデアって名前がついているってことは、これもきっとイデアの技術なんだだろう。
「イデアヴォルンは仮想生物を作る技術のことよ。」
なんと、仮想世界だけでなく、仮想生物まで作れるとは・・・
「イデアトゥアでも生物を作れなくはないけど、あれはあくまでも仮想空間の作成がメインだからね。
イデアトゥア上で動く生物の作成は、イデアヴォルンという技術を使うのよ。」
ラーファちゃんが、丁寧に説明してくれた。
「じゃあ、この魚一匹一匹がイデアヴォルンで作られてるの?」
「そういうこと。
それぞれのイデアヴォルンに、イデアニマという魂を入れることで動かしているの。
イデアニマには魚の思考パターンとかが組み込まれていて、イデアヴォルンはその思考パターンに従って動作しているのよ。」
私達の周りをいろんな種類の魚がたくさん泳いでいるけど、これ全部作るのにすごい時間と手間がかかっているんだなあということはよくわかった。
ちゃんと魚一匹一匹の動きが違うし、天敵っぽい魚が来たら逃げたりしているからね。
「次の魔法転移装置を見つけたぞ。」
海の奥の方から、エレーネちゃんの声がかすかに聞こえてきた。
でも、エレーネちゃんの姿は見えなかった。
代わりに、青い光の残像が残っていた。
どうやら、これを辿って行けば、エレーネちゃんの元にたどり着けるみたいだ。
それにしても、探検が始まってからのエレーネちゃんの元気っぷりには驚かされる。
そんなに覆面ルートが楽しみなのかな?
「全く、エレーネは少し張り切り過ぎよ。」
ラーファちゃんはため息をついていた。
「私達もエレーネ先輩のところに行こう。」
ミディアちゃんに言われて、私達は青い光の残像を辿って、エレーネちゃんのいる場所へと向かう。
でも、しばらくすると、急に周りが暗くなり、一気に深海まで沈んだような錯覚に陥った。
足がつかず、深海に落ちていくような錯覚に、私はパニック状態になった。
「琴音、大丈夫?」
隣を歩いていたミディアちゃんが、心配そうに私の方を見ていた。
「ちょっとビックリしたよ。」
「体は大丈夫?」
「えっと・・・ちょっと息苦しいかな。」
素直にそう話すと、ミディアちゃんがやっぱりと言った感じで私に言った。
「イデアトゥア自体は、ただの仮想空間を作る技術なんだけどね。
イデアトゥアがあまりにもリアルだと、人体が錯覚を引き起こして、色々と影響が出たりすることがあるんだよ。
琴音はイデアトゥアの経験が少ないし、もしかしたらって思ったんだけど・・・」
「ウン、さっきから息苦しいし、耳がキーンってなってる。」
まあ、本当の深海に沈んだら、この程度じゃ済まないとは思うけどね。
「すごい深い海に潜っているように見えるけど、本当はただ部屋の中を歩いているだけだからね。」
ミディアちゃんはそう言うけど、やっぱり結構キツイかも。
人間って、見えるもので簡単に騙されちゃうもんなんだなあって思った。
ただの仮想空間ってわかってても、ここまでリアルだとかなりキツい。
最初に海の部屋に来た時には、結構大勢の観光客がいたけど、いつの間にか私達だけになっていた。
きっと、みんなこうなることがわかってるから、こんな深海の底まで来ようなんて思わないだろう。
「あと、もう少しだよ。」
ミディアちゃんは、真っ暗な深海の底で青く輝く魔法転移装置に到着するまで、私に付き添ってくれた。
ラーファちゃんはと言うと、アイちゃんをおぶさって、一足先に魔法転移装置に到着していた。
「おっ、やっとミディアも来たか。
てことは琴音も一緒だろうから、ようやくこれで全員揃ったな。」
「まさか、こんな深海に魔法転移装置があるとは思わなかった。」
よく見ると、ラーファちゃんも少し苦しそうな表情を浮かべていた。
私に付き添ってくれていたミディアちゃんも苦しそうにしていた。
もしかして、ミディアちゃん達もイデアトゥアの影響を受けてるってこと?
ミディアちゃん達にまで影響が出る場所にってことは、小さな子供とかが入ったら間違いなく影響出そうだ。
もしかして、ここって実はかなり危険な場所なんじゃないだろうか?
運営の人はもうちょっと、魔法転移装置の設置場所を考えるべきだと思う。
「この魔法転移装置を見つけたのって、多分私達が初めてだろうね。
こんな深海があるなんて、今まで知らなかったし。
さあ、次はどこに連れてってくれるのかな?」
ただ一人、エレーネちゃんだけが、いつもと変わらない元気を見せていた。
エレーネちゃんが魔法転移装置が起動すると、私達は光に包まれて、また別の場所に転移された。
用語集
(1)エルフィーゼの塔
ラーヴォルン北街のはずれにある100階建ての巨大な塔。
昔は軍事要塞施設で、今でも何箇所かにはその時の名残が残っている。
未だに多くの謎を残しており、安全が確認できていないフロアは、今でも立ち入り禁止になっている。
そのため、塔内は魔法転移装置で移動することになっている
北街の観光名所の一つとなっている。
(2)グラド・ルガンテ
アトゥア唯一の浮遊大陸。
しかし、これまで誰も上陸できた人はおらず、いつからかルフィルの住む島として神聖視されるようになった。
グラドとは、神聖な人や場所につける称号で、ルフィル説が定着するようになってから、グラド・ルガンテと呼ばれるようになった。
(3)イデアトゥア
イデアを使った仮想空間技術
空間そのものを、別の仮想空間に作り上げるための技術である
高度な技術を持つ空想士によって作られることが多い
(4)イデアヴォルン
イデア技術を使った仮想生物作成技術
イデアトゥアで作った仮想空間上で動かすための仮想生物を作成する
(5)イデアニマ
イデアヴォルンに吹き込む疑似魂。
イデアニマの設定によって、イデアヴォルンの行動や性格が変わる。




