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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
75/254

29.ベイ・カロッサ

<<ミディア>>

「琴音・・・目を開けてみて。」

 ギュッと目をつぶってしゃがみこんでいる琴音に、そっと声をかけた。

 すると、琴音はゆっくりと目を開けた。

「何、これ!?」

 琴音は目の前の光景に驚いていた。

 まあ、驚くよね。

 私も初めて見た時は、すごい驚いたからね。

 機械から発射されたのは、巨大なエネルギーの球体だった。

 その球体は、光の軌跡を残しながら、目的地であるエルフィーゼの塔に向かって、ゆっくりと移動していた。

「あの球体の通った後に、何か残ってるよ。」

 琴音が私に聞いてくる。

「あれは、魔法で作った光の道だよ。

 あの魔法球体が、ここからエルフィーゼの塔まで光の道を作ってるんだよ。」

「光の道って・・・まさか、あれがベイ・カロッサ?」

「ウン、あの光の道がベイ・カロッサ。

 これから、南街と北街を結ぶ光の道をみんなで渡るんだよ。」

 私がそう言ったら、琴音はすごい驚いた表情になった。

「ええっ、あの光の道って、渡れるの!?」

「どうして、みんなここで並んでるのか、これでわかったでしょ。」

「ウン、すごい素敵なイベントだね。」

 琴音は、目を輝かせながら、光の球体を見つめていた。

 その光の球体のさらに上空を、グラド・ルガンテが移動していた。

「でも、ここに並んでいる人みんな、あの橋を渡れるの?」

 琴音が前を見つめたまま、私に尋ねてきた。

 すると、それを聞いていたラーファが、

「さすがにそれは無理。」

と即答した。

「えっ、そうなの?」

「ウン、見ての通り、結構大きな橋なんだけど、さすがにこれだけの人が一度に乗ったら橋が耐えきれないから、人数制限を行っているんだよ。」

「前の人が向こうまで渡りきったら、次の人が渡れるんだけど、みんな、なかなか渡ろうとしないから、結構待たされることになるんだよ。」

「じゃあ、後ろの方に並んでいる人達って。」

「恐らく、相当待つことになるだろうね。

 それでも、今年のベイカロッサには、どうしても参加したいんだろうね。」

「なるほど、それでエレーネちゃんとアイちゃんは朝からずっと並んでいたんだ。

 エレーネちゃんとアイちゃんに感謝だね。」


 しばらくして、光の球体がラーヴォルン海峡の真ん中辺りまで道を作ったあたりで、再び歓声が起こった。

「ねえ、琴音、あっちの方を見て。」

 琴音にそう言って、北街の南にある小さい山の方を指した。

 琴音は、その方向からも同じように、光の球体が発射されたことに気づいた。

「ねえ、ミディアちゃん、もしかして、あれも?」

「あれは、北街から南街に来る人のための道だよ。

 2つの光の道は、ラーヴォルン海峡の真ん中で交差するようになっているんだよ。」

「へえ、すごいね。」

 琴音は目を輝かせながら、目の前の光景に夢中になっていた。

「2つの道を交差させるのは、北街のあるルーガティス大陸と南街のあるナルヴァティア大陸の友好を願ってのことなんだよ。」

「へえ、そうなんだ。」

「最近は、ルーガティス大陸にあるヴェルク帝国と、ナルヴァティア大陸にあるガルティア帝国との対立が激しいから、切実よね。」

 ラーファがため息交じりにそう言うと、琴音が不安そうな表情を浮かべる。

「ヴェルク帝国とガルティア帝国って、そんなに仲が悪いの?」

 ラーファの気持ちもわかるけど、今日はルフィル・カロッサ。

 せっかくのお祭りなんだから、琴音を不安がらせるようなことを言っちゃダメだよ。

 今日は、琴音に思いっきり楽しんでいってもらうんだからね。

「きっと大丈夫だよ。

 だって、こんなに多くの人達が、平和を願って参加しているんだから。」

 私がそう言うと、

「ウン、そうだよね。

 ミディアちゃん達皆の祈りは、きっと届くと思うよ。」

 琴音は笑顔でそう言った。


 そうだ、大陸の友好で思い出した。

 琴音に大事なことを話すのを忘れていた。

 何から何まで、当日までの秘密にしちゃったから、色々と話さないといけないことがあって大変だ。

「そうだ、琴音、これから、みんなで光の橋を渡るんだけどね。

 あの光の交差点で、北街から来る人と会った時には、エミレフィーユって挨拶するんだよ。」

「エミレフィーユ?」

「意味は、さっき話したようなことだよ。

 2つの大陸が、ウウン、それだけじゃなくてアトゥアが平和であってほしいという祈りが込められた言葉だよ。」

「へえ、そうなんだ。

 エミレフィーユ、覚えたよ、ミディアちゃん。」

 琴音はそう言って、ニコッと笑った。


 2つの光の球体が作り上げた魔法の道は、ラーヴォルン海峡の真ん中で交差して、さらに進んでいく。

「ねえ、北街からの道は、どこにつながる予定なの?」

 琴音が海峡の方を見たまま、私にそう聞いてきた。

「私達の学校より少し高い場所に小さな公園があってね。

 そこにつながる予定なんだよ。」

「その公園って、私行ったことないよね。

 今度、連れてってよ。」

「えっと、多分、今日行けると思うけど。」

「えっ?」

「ベイ・カロッサでは、南街から北街に渡った後で、北街から南街に渡るからね。」

「そっかあ、じゃあ、公園にも行けるんだね。」

 琴音はそう言いながらも、視線はずっとラーヴォルン海峡の方に釘付けになっていた。

 どうやら、琴音はベイ・カロッサのことをすごい気にいってくれたようだ。


 しばらくすると、ラーヴォルン海峡に2つの光の橋が完成する。

 辺りは暗くなり始めていて、それが光の橋を一層際立たせていた。

 すると、カウントダウン前まで演奏していたウィリーさん達が、なぜか列の先頭の方へとやってきた。

 えっと、まさか、ウィリーさん達って・・・

 とその時だった。

 突然、上空のグラド・ルガンテがライトアップされる。

 さらに上空を飛んでいる飛空船が、ライトアップしているみたいで、会場から一斉に感嘆の声が上がる。

 そして、そのタイミングでウィリーさんが、会場に響き渡るほどの大声で話し始めた。

「ベイ・カロッサへようこそ。

 今日のベイ・カロッサがいつもと違うのは、もうみんなもわかっていると思う。

 今、我らの頭上には、グラド・ルガンテが、ルフィルがおられる。

 だから今宵は、ルフィルへの感謝の気持ちを、みんなで存分に表そう。

 そして、思い切り楽しもう。」

「オーーーーーーーーーーーッ!!!」

 ウィリーさんの演説で、再び会場はヒートアップする。

「さあ、行こう。」

 ウィリーさんの合図と同時に演奏が始まる。

 北街と南街から同時に花火が打ちあがる。

 そして、その花火と同時にウィリーさん達が光の橋を演奏しながら渡り始める。

 その後を、並んでいた人達が続いて、一斉に光の道に向かって歩き始めた。


「驚いた。

 あの人、今年のベイランサーだったんだ。」

 ラーファがそう言った。

 私も驚いていた。

 まさか、ウィリーさんがベイランサーだったなんて・・・

「ベイランサー?」

 琴音が首を傾げる。

「ベイ・カロッサの先頭を歩く人のことだよ。

 先頭を歩く人だけに、今までは派手な魔法のパフォーマンスをする人が多かったんだけど・・・」

「まさか、今年は音楽団とはね。

 そう言えば、音楽団って今までありそうでなかったわね。」

 ラーファは驚いた表情でそう言った。

「でも、よく考えたら、魔法パフォーマンスなんかよりも、こっちの方が盛り上がるよな。」

 エレーネ先輩は音楽にノリノリの様子だった。


 そうこう話しているうちに、私達は、光の橋のすぐ近くまでやってきていた。

「ねえ、ミディアちゃん、一緒に渡ろうよ。」

「そうだね、琴音。」

「どうせなら、みんなで一緒に一歩を踏み出すわよ。」

 私達の話を聞いていたラーファが、エレーネ先輩とアイにそう言った。

「ウン、そうだね。」

「じゃあ、みんな、手をつないで。」

 私達5人、横に並んで手をつないだ。

 私の横には、もちろん琴音がいた。

 琴音に触れることはできないけど、しっかりと手をつないでいた。

「じゃあ、行くよ。せーの。」

 ラーファの合図と同時に、みんな光の橋に向かって大きな一歩を踏み出した。

「さあ行こう。」


 私は今年で4度目のベイ・カロッサだけど、何度体験しても、この光の橋を渡る時間は心が躍る。

 私はラーファと琴音と一緒に、光の橋からの景色を見て、感動していた。

 一方、最初こそおとなしく歩いていたエレーネ先輩とアイだったけど、周りの人達が飛び回っているのを見て我慢できなくなったようで、気がつくと、いつの間にか2人とも橋の周りを飛び回っていた。

「まあ、今日は近くに橋があるから、疲れたらここで休憩すればいいわよ。」

 ラーファが苦笑しながらそう言った。

「ひゃっほう!!!」

 光の橋の周りでは、色んな人が飛び回っていた。

 今日は音楽団の音楽もあるせいか、音楽に合わせて飛び回る人が多かった。

 その飛び回る人の上空には、無数の花火が打ちあがっていて、その中をライトアップされたグラド・ルガンテがゆっくりと進んでいた。

 今回は、上空にグラド・ルガンテが飛んでいるためか、グラド・ルガンテに向かって派手なパフォーマンスをする人が多かった。

 私はラーファと琴音と一緒に、光の道から上空の景色を眺めていた。


「あの花火って、もしかして魔法?」

 花火を見ていた琴音が、私に尋ねてきた。

「ウン、そうだよ。

 よくわかったね。」

「へえ、こっちでは、花火も魔法を使うんだね。」

 琴音はそう言って、上空の景色をしばらく見つめていた。

「すごい・・・まるで夢の世界みたい。」

 琴音は目を輝かせていた。

「まさに、琴音にとっては夢の世界だよね。」

 私がそう言ったら、琴音はニコッと笑った。

「まあ、眠ってこっちに来ているんだから、私にとっては夢の世界なんだけどね。

 それにしても、すごいよ。」

 琴音はずっと上空の景色に見惚れていた。

「琴音、上ばかり気にしているようだけど、あっちを見て。」

 私が北街の方を指す。

 そこには、日が暮れ始めて、明かりがつき始める北街の姿があった。

「もちろん、南街も。」

 今度は下の方を指す。

 そう、私達は今ちょうど南街の上空を歩いているところだ。

 そして、南街も徐々に明るくなっていた。

「琴音、海も見てごらん。」

 ラーファが海を指す。

 ベイ・カロッサの下には、監視船の他にも、たくさんの観光船があった。

 観光船の賑やかな明かりが、普段は真っ暗なラーヴォルン海峡をまぶしく照らしていた。

「すごいよ・・・こんな景色、今まで見たことないよ。」

 琴音の目から、涙がこぼれる。

 やっぱり、琴音のことだから、泣くと思ったよ。

 前から思ってたけど、景色に感動して涙を流せるって、琴音はすごい感受性の強い子なんだと思う。

 琴音は泣き虫に思われるのが嫌みたいだけど、私は琴音のそういうところって、すごい素敵だなあって思うよ。


「ほら、泣いてないで、私達も思いっきり楽しむわよ。」

 ラーファはそう言うと、突然私の手を掴んだ。

「ラーファ?」

「ミディア、一緒に空を飛ぼう。」

「えっ、でも、私、まだ空を飛べないし・・・」

「大丈夫、私がミディアを持ち上げるから。」

 さっきまで、空を飛んでいたアイが、いつの間にか私の背後に立っていた。

「アイで大丈夫かなあ?」

「失礼な、こう見えても私の飛空魔法は優秀なんだよ。」

「冗談だよ、アイ。

 じゃあ、アイ、お願いね。」

「任しといて。」

 アイは私を背後から抱きかかえると、ゆっくりと浮かび上がった。

「ミディア、大丈夫?」

 ラーファは、私達に向き合った状態で、同じ速度でゆっくりと浮かびあがっていた。

「ウン、大丈夫。」

「じゃあ、行こうか。」

 ラーファが私の手を引っ張ると、ゆっくりと進みだす。

 アイがラーファの速度に合わせて、私を運んでくれた。

「ミディアちゃん。」

 そして、私とラーファとアイのすぐそばを、琴音が飛んでいた。

「いつもは一人で空を飛んでるけど、今日はみんなが一緒だから、すっごい楽しいよ。」

 琴音が笑顔でそう言った。

「ところで、エレーネ先輩は?」

「ああ、エレーネなら、あそこよ。」

 ラーファの向いた方を見ると、いつの間にかエレーネ先輩が私達を撮影していた。

「なんせ、ベイ・カロッサだからね。

 エレーネは、ついでにいろいろ撮影したいって言ってたわね。」

 エレーネ先輩の家はイデアショップで、ラーヴォルンの映像イデアを販売している。

 そっか、エレーネ先輩にとっては、今はお仕事の時間でもあるんだ。

 それにしても、あれだけの撮影機材、一体どこに持っていたんだろう?

 そのことを、エレーネ先輩に尋ねてみると、

「うちの撮影スタッフが、私達のすぐ後ろに並んでいたんだよ。

 ラーファは知ってるよな?」

「普段から撮影に出かけていて、お店にほとんどいない人のことよね。」

「そう、その人のこと。

 ミディアとアイは、多分これが初めてだよな?」

 確かに、全く見たことのない人だった。

 私達の後ろにたくさんの荷物を持った男の人が並んでいたのには気づいていた。

 そんなに荷物持って何するつもりなんだろうって思ってたけど、まさか撮影用の機材だとは思わなかった。

 エレーネ先輩のお店の人だし、一応挨拶くらいしておこうかな思ったけど、なんかすごい撮影に夢中だったので、声をかけるのもはばかられた。

「ああ、その人なら放っておいていいよ。

 そのうち紹介するから、無理に挨拶とかしなくていいよ。」

 エレーネ先輩にそう言われたので、とりあえず声をかけずにそっとしておくことにした。


 撮影しているベイ・カロッサの映像は、多分そう遠くない日にイデアショップに並ぶ日が来るだろう。

 とはいえ、私達の映像をイデアショップで売るのは、さすがに勘弁してほしいけど・・・


「大丈夫、ミディア達の映像は、ちゃんと別枠で撮ってるから。」

 私の心を見透かしたかのように、エレーネ先輩がそう言った。

 なぜ、私の思っていることが、エレーネ先輩にばれたのだろう。

「いやあ、ミディアって顔にすぐ出るからね。」

 それ、さっき琴音にも言われたけど、そんなに私は顔に出やすいのかな?

「そんなこと今は気にしないで、もっと楽しもうよ、ミディアちゃん。」

「ウン、そうだね。」

「じゃあ、行くよ。」

 アイはそう言って、ラーファと一緒に速度を上げる。

「ちょっと・・・速いよ。」

「これくらい大丈夫だって。」

 アイがそう言うと、

「じゃあ、私も・・・」

 私と並んで飛んでいたラーファが、いきなり私の体に抱きついてきた。

 そして、私はラーファとアイの2人に抱きかかえられる格好になった。

「えっと、2人とも何をするつもりかな?」

 私がラーファとアイに尋ねると、

「じゃあ、もっと速く飛ぶわよ、アイ。」

「任せてください、ラーファ先輩。」


 次の瞬間、私の体は2人によって、凄まじい速度で空中を進みだした。

「ちょっと、ラーファ、アイ・・・」

 あまりの速度に、私はパニックになっていた。

「行くよ、宙返り。」

「きゃああああああ!!!」

 それから、ラーファとアイは、私の体を抱えたまま、空中を回ったり、光の橋の下をくぐったり、あちこちの場所を飛び回った。

 最初はすごい怖かった。

 でも、しばらくすると、私もこの速度に次第に慣れてきたようで、周りの景色を見るくらいの余裕は持てるようになっていた。

 それにしても、本当にきれいな景色だ。

 それに、みんなすごい楽しそうだ。

 琴音も、楽しそうに飛び回ってる。

 ラーファとアイは、私を楽しいところに連れてってくれる。

 エレーネ先輩は、そんな私達のことをずっと撮影していた。

 きっと、映像の中の私達は、すごい楽しそうにしてるんだろう。

 本当にすごい楽しい時間だ。

 こんなに笑ったの、久しぶりかもしれない。

 こんな素敵な時間を、みんなと一緒に過ごせて、本当に私は幸せだ。

 そんなことを思ったら、なんだかすごい胸が熱くなった。


「どうしたの、ミディアちゃん!?」

 琴音が驚いた様子で、私の方を見ていた。

「えっ!?」

 そして、それでようやく気づいた。

 いつの間にか、私の目から涙がこぼれていることに。

「ミディア、怖かったの?」

 アイが不安そうな表情で、私に聞いてきたから、思わず笑ってしまった。

「ウウン、そうじゃないよ。」

 私は涙をぬぐって、笑顔を見せた。

 もしかしたら、琴音が景色を見て涙を流す時って、いつもこんな気持ちになるのかな?

「ラーファ、アイ、もっと高く飛んで。」

「よーし、来た。」

 ラーファとアイは、笑顔で私のリクエストに答えて、空高くまで飛んでくれた。


 私達は、北街と南街が見渡せるくらいの高い場所に来ていた。

 とはいえ、さすがにグラド・ルガンテには届かなかった。

「私達の力じゃ、これくらいの高さまでが限界だよ。

 ゴメンね、ミディア。」

 ラーファがそう言って謝ったけど、私にとっては十分すぎる高さだった。

 下を見ると、いろんな光が輝いていた。

「本当に、夢みたいな時間だ。」

 琴音はそう言って、また涙を流していた。

「ウン、本当にそうだね。」

 気がついたら、私の目からも涙がこぼれていた。

「琴音の泣き虫がミディアにも移っちゃったかな。」

 ラーファが私の方を見て、そう言った。

「ウン、そうかもしれない。」

 私がそう言うと、ラーファとアイはクスッと笑った。

「私は本当は泣き虫じゃないんだよ。」

 琴音は涙をぬぐいながら、必死に反論していたけど、それじゃあ説得力ゼロだよ。

 それに、泣き虫でも別にいいじゃない。

 いつもこんな素敵な気持ちになれるなんて、むしろ琴音の泣き虫がうらやましいくらいだよ。


「そろそろ、橋に戻ろう。」

「そうだね、ラーファ。」

「じゃあ、交差点の手前に降りるよ。」

 それから、ラーファとアイは私を光の橋まで連れてってくれた。

 2人に抱えられて飛んでいる時間があまりにも心地よくて、それが終わってしまうのが少し寂しいと思った。

 でも、2人とも何も言わないけど、多分、魔力の限界が近いんだと思う。

 アイが時々苦しそうな表情を浮かべているし、これ以上を望むのは酷というものだ。

 ラーファとアイのおかげで、本当に楽しい時間を過ごすことができた。

 ありがとう、ラーファ、アイ。

 そして、みんなのおかげで、私の中で新しい目標ができたよ。


「来年のルフィル・カロッサまでに、頑張って飛空魔法をマスターするよ。」

 光の道に戻ってから私がそう言うと、ラーファとアイは驚いた表情になった。

「でも、飛空魔法って、確かレベル10だよね。

 ミディアって、今レベル5でしょ。

 魔法検定は年に4回しかないし、今のミディアのレベルからじゃ、全部ストレートで合格しても届かないよ。」

 確かに、アイの言う通りで、魔法検定だけではどう頑張ってもレベル10には届かない。

 でも、アイは大事なことを1つ忘れていた。

「繰り上げ検定ね。」

 どうやらラーファは、私の考えていることに気づいたみたいだ。

 私達の学校には、通常の魔法検定とは別に、繰り上げ検定という制度がある。

 これは、先生がレベルアップしても問題ないと判断した生徒に対して、通常よりも早い段階で検定を行う制度だ。

 理論レベルのアップの時には、よくお世話になった。

 私は13歳でレベル1からやり直しだったけど、この制度のおかげで1年後にはレベル10まで上がることができた。

 技能レベルは全然ダメだったけど、今なら技能の方でも駆け上がれそうな気がする。


「そっか、ミディアちゃん、新しい目標ができたんだね。」

 琴音はそう言って、喜んでくれた。

「じゃあ、私も何か新しい目標を探してみるよ。

 それで、また1年後に勝負しようよ。」

 琴音が笑顔でそう言った。

 そう言えば、魔法に自信が持てるようになったのは、あの勝負がきっかけだった。

 琴音のおかげで、魔法が使えるようになったようなものだ。


「じゃあ、また勝負しよう。」

「ウン。」

「でも、今度もきっとミディアが勝つわよ。」

 ラーファがなぜか自信満々にそう言った。

 いや、実際に勝負をするのは、私と琴音なんだけど・・・

 それに、正直、私にとって勝敗なんてどうでもよかった。

 私にとっては、琴音と競い合っている時間が、最高に楽しい時間なんだから。


用語集

(1)ベイ・カロッサ

ルフィル・カロッサ最大のイベント

北街と南街から魔法の橋をかけて、橋を渡るイベント

2つの大陸の平和を祈るために、2つの橋は交差するようにかけられる

そして、交差点では、平和を祈る「エミレフィーユ」と言う言葉で挨拶を行なう。


(2)グラド・ルガンテ

アトゥア唯一の浮遊大陸。

しかし、これまで誰も上陸できた人はおらず、いつからかルフィルの住む島として神聖視されるようになった。

グラドとは、神聖な人や場所につける称号で、ルフィル説が定着するようになってから、グラド・ルガンテと呼ばれるようになった。


(3)ルーガティス大陸

ラーヴォルン北街のあるアトゥアで一番大きな大陸

ルーガティス大陸にはリーヴァを含めたいくつかの小国家があるが、北方の大半はヴェルク帝国の領土である


(4)ナルヴァティア大陸

ラーヴォルン南街のあるアトゥアで2番目に大きな大陸

リーヴァ王国の東側に、ガルティア帝国が存在する


(5)ヴェルク帝国

アトゥアで一番大きな帝国

リーヴァ王国北方にある帝国で、もう一つの大陸にあるガルティア帝国と対立している。

そのため、ガルティア帝国と接しているリーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(6)ガルティア帝国

アトゥアで2番目に大きな帝国

リーヴァ王国東方に広がるナルヴァティア大陸を支配している帝国で、アトゥアの覇権をめぐってヴェルク帝国と対立している。

ヴェルクと同様に、リーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(6)ベイランサー

ベイ・カロッサの先頭を歩く人のこと。

始まる前に、簡単な演説を行い、参加者の気分を高揚させる。

毎年、抽選で選ばれている。


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