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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
74/254

28.トイレと告白とカウントダウン

<<琴音>>

「遅いぞ、2人とも。」

 合流するなり、エレーネちゃんが2人にそう言った。

 少し怒っているみたいだ。

「ゴメンゴメン、ミディアと琴音がグラド・ルガンテに夢中になって、なかなか動かなくてね。」

「ゴメンなさい・・・」

 ミディアちゃんが謝ると、エレーネちゃんはニコッと笑った。

「いや、別に怒ってないから。

 そんなことより、琴音はどんな格好で来たのか早く教えて。」

 どうやら、エレーネちゃんは私の衣装がずっと気になっていたらしい。

 まさか、会って早々、いきなり私の衣装のことを聞かれるとは思わなかった。

「今日の琴音、制服の上にマントしてて、顔にかわいい絵も描いてるんだよ。」

 ミディアちゃんがエレーネちゃんとアイちゃんに私の服装を説明していた。

「へえ、ぜひ見てみたいなあ。」

 エレーネちゃんはそう言うと、ラーファちゃんの方に視線を移す。

 エレーネちゃんの熱い視線に気づいたラーファちゃんは、思わず苦笑する。

「ハイハイ、じゃあ早速念写するね。」

 ラーファちゃんはそう言って、私のすぐ近くまで顔を近づけて、私のことをじっくり観察し始めた。

 私はすごい恥ずかしくなって、顔を隠したくなったけど

「ダメよ、琴音、じっとしていて。」

 ラーファちゃんに釘を刺されてしまい、じっと立っているしかなかった。

 ていうか、絶対に顔近すぎだよ。

 一番最初に念写してもらった時は、こんなに顔近づけてこなかったし、絶対にこんなに顔近づけなくても念写できると思う。

 きっとこれは、私が恥ずかしがるのを知っていて、ラーファちゃんがわざとやっているんだと思う。

「琴音、なんか顔赤いよ。」

 横でこっちを見ていたミディアちゃんにそう言われた。

 わざとだとわかってるのに、反応してしまう自分が悔しい。

 でも、ラーファちゃんみたいなかわいい女の子に、こんな至近距離でマジマジと見つめられたら、誰だって顔赤くなるよ。


「もういいわよ。」

 ようやく拷問とも思える時間から解放されて、思わず私はその場にへたり込んでしまった。

「琴音、大丈夫?」

 ミディアちゃんが心配そうに私に声をかけてくれた。

 私のことを心配してくれるのは、ミディアちゃんだけだ。

 エレーネちゃんとアイちゃんはというと、ラーファちゃんが念写したイデア映像を見て盛り上がっていた。

「相変わらず、ラーファの念写する琴音って少しエロいなあ。」

 エレーネちゃんがそう言った。

 多分、真っ赤な表情で悶え気味の私の表情が念写されてるんだろうけど、そりゃあ誰だってああなるよ。

「きゃあ、何、この顔の絵、すごいかわいい。」

 アイちゃんは、私の顔に書かれたかぼちゃのお化けに見とれていた。

「これはニホンのどういうイベントで行なわれる仮装なんだ?」

 エレーネちゃんに聞かれて、思わず答えに窮してしまった。

 というのも、ハロウィンのことについて、私はあまり知らない。

 ここ数年で、急速に盛り上がりを見せるようになっていたハロウィンだけど、流行に疎い私は、どういうお祭りなのかよくわかっていなかった。

 こんなことだったら、寝る前にウィキペディアで調べておくんだった。

「琴音、どうしたの?」

 ミディアちゃんが不思議そうに私の方を見る。

 どう返そうか悩んだけど、わからないものはわからないので、ここは素直に答えることにした。

「このマントはハロウィンってお祭りの衣装なんだけど、日本で最近流行り出したから、私もよく知らないんだ。

 今度来る時に、ちゃんと調べておくね。」

 私の話したことを、ミディアちゃんがエレーネちゃんに伝えると、エレーネちゃんは驚いた表情を浮かべた。

「もしかして、ニホンって新しいお祭りが次々と生まれては消えていく文化なのか?」

 いや、そんなことはない。

 でも、日本のお祭り事情の全てを私は把握しているわけじゃない。

 だって、ハロウィンのこと、全然知らなかったし・・・

「そ、そんなことはないと思うけど・・・」

 とりあえず、そう答えておくことにした。

 ラーヴォルンに来て、エレーネちゃんから日本の色んなことを聞かれるけど、そのたびに私は実は日本のことを何も知らないんだなあと痛感させられる。

 でも、ハロウィンは明らかに日本の文化じゃないから、知らなくても仕方がないよね。

 とりあえず、ハロウィンについては、明日までにウィキペディアで勉強しておこう。


<<ミディア>>

 しばらく琴音の服装で盛り上がっているうちに、トイレに行きたくなってきた。

「エレーネ先輩、ここにトイレってありますか?」

「ああ、そこ真っ直ぐ行ったところに大きな建物あるだろ。

 あそこにトイレがあるぞ。」

「ウン、わかった。」

 トイレに行こうとして、ふと周りを見渡すと、そこは大勢の見知らぬ人達で溢れかえっていた。

 全身に緊張が走るのを感じた。

「あ、あの・・・ラーファ・・・」

 緊張に耐えきれなくなって、思わずラーファに声をかけてしまった。

「ん?なあに、ミディア?」

 ラーファはエレーネ先輩と何やら楽しそうに話しているようだった。

 エレーネ先輩にはずっと並んでもらってたし、2人の会話を遮るのもなんか悪い。

「えっと・・・なんでもない。」

 ラーファにはそう言って、とりあえず列を飛び出した。


 私、またラーファに頼ろうとしていた。

 ずっと、ラーファには申し訳ないと思っていた。

 あの事件があってから、部屋に1人でいるのも、見ず知らずの人と会うのも怖くなってしまった。

 どうしても怖くて、気がつくと、いつの間にかラーファに頼るようになっていた。

 ラーファは優しいから、何も言わずに私と一緒にいてくれる。

 でも、その優しさにいつまでも甘えてちゃダメだ。

 それにしても・・・

「まさか、ラーファに頼りきってる間に、1人でトイレにも行けなくなっていたなんてね。」

 自分がすごい情けない人間に思えた。

 すぐそこにあるトイレに1人で行って帰ってくるだけなのに、どうして私はこんなに怖がっているんだろう?


「ミディアちゃん。」

 気がつくと、いつの間にか、私の隣に琴音がいた。

「琴音・・・」

「私も一緒にトイレに行くよ。」

 琴音はそう言うと、いつものように私に抱きついてきた。

「ミディアちゃん。

 私ね、ミディアちゃんが辛い時は、もっとみんなに頼ってもいいと思うんだよ。」

「琴音?」

 琴音には何も話してないのに、どうして琴音は私の今の気持ちに気づいたんだろう?

「ミディアちゃんって、顔に出るから、すぐにわかるよ。」

「えっ!?」

 私って、そんなに顔に出る方なんだ。

 じゃあ、もしかして、みんなにもばれちゃってるのかな?

 もしかして、琴音はそれで私についてきてくれたってこと?

 本当は恥ずかしかったから、ずっと隠しておきたかったんだけど、なんだかみんなに私が悩んでることバレちゃってるみたいだから、もう素直に琴音に話すことにした。

「琴音、実はね、私、1人でいるのが、すごい怖いと思うようになっちゃったんだよ。」

「そうなんだ。」

「それにね、知らない人がたくさんいる場所に1人でいるのも、すごい怖いの。」

「そっか。」

 琴音は優しい笑顔のまま小さく頷いた。

「16歳にもなって変だよね?

 琴音も私のこと、変に思うでしょ。」

「あんなことがあったんだし、仕方がないと思うよ。

 本当はミディアちゃん、今も怖いんでしょ?」

「ウン。」

「やっぱり、そうだったんだ。

 じゃあ、ミディアちゃんはもっとみんなに頼らないとタメだよ。」

「えっ!?」

 これは正直予想外だった。

 みんなに甘えてばかりじゃダメって言われると思ってたのに、もっと頼れって言われるとは思わなかった。


「でも、今だってラーファに頼りきっているし、いつまでも甘えているのは・・・」

「それは、怖さを克服できた人が言うことだよ。

 ミディアちゃんはまだ全然克服できていないんでしょ?

 それなのに、ミディアちゃん1人で頑張ろうとしても、むしろ周りに心配かけるだけだよ。」

 確かに琴音の言う通りかもしれない。

 でも、本当にいいのかな?

 これまでだって、ラーファやエレーネ先輩、それにアイにはずっと頼ってばっかりなのに。

「ミディアちゃんがどうしても1人じゃ厳しいと思った時には、遠慮なくみんなに助けてもらったらいいんだよ。

 前から思ってたんだけど、ミディアちゃんは少しみんなに遠慮しすぎだよ。

 助けてもらう時は、ガッツリ助けてもらわないと。」

「でも、それじゃ、みんなに頼ってばかりで、なんだかみんなに悪いよ。」

 私がそう言うと、琴音は小さく首を横に振った。


「もちろん、手を借りるだけじゃないよ。

 みんなが困っている時には、今度はミディアちゃんが手を差しのべてあげるんだよ。

 困った時には、お互いに助け合う。

 それが友達ってもんでしょ。」

 琴音はそう言って、ニコッと笑った。

「琴音・・・」

「本当は、私が真っ先にミディアちゃんに手を差し伸ばしたいんだけどね。

 ここでの私は、空気みたいな存在だから、見ているだけで何にもできないんだよね。」

「ウウン、そんなことない。

 琴音がこうやって近くで話してくれたおかげで、すごい元気が出てきたよ。」

「そう、よかった。」

 琴音はそう言って、ニコッと微笑んだ。

 本当に、琴音の言葉は、私にすごい元気をくれた。

 みんなが私を助けてくれたように、みんなが困っている時には、今度は私がみんなを助けてあげればいいんだ。

 正直、私がみんなの役にどれだけ立てるかわからないけど、でも私にできることだって、きっとあるはずだ。

 どうして、こんな当たり前のことに気づけなかったのだろう?

 琴音のおかげで、なんだかすごい気分がスッキリした。

 そして、気がつくと、あれだけ遠くに感じていたトイレの前にたどり着いていた。


「ミディアちゃん、大丈夫?

 よかったら、個室に一緒に入るよ。」

「えっと・・・いや、それはさすがに、遠慮しておくよ。」

 確かに、1人でいるのは怖いけど、さすがにトイレの個室まで一緒は遠慮したい。

「そりゃあ、そうだよね。」

 琴音はそう言って笑った。

 まあ、でも、せっかく一緒にトイレに来たんだから、琴音も誘ってみるかな。

「ついでに琴音もトイレに入っていったらどう?」

 私がそう言うと、琴音は苦笑する。

「いや、私眠ってる最中だし、今トイレに入ったら、色々とマズイことが起きそうな気がするんだよね。」

「アハハ・・・確かにそうだよね。」

 そうだった。

 琴音が眠って、こっちに来ていることを忘れていた。

 確かに、トイレに入るのはマズいかもね。

「じゃあ、私、トイレに入るから、琴音はここで待っててね。」

「ウン、わかった。」


 トイレを済ませて、手を洗っていると、周りから歓声が聞こえてきた。

 何だろうと思ってトイレを出ると、動物の仮装をした人達が広場の中央で楽器を持って集まっていた。

「何だろう、あの人達?」

 もしかして、何か演奏でも始めるのかな?

 そう思って見ていたら、そのうちの1人がこちらを見た。

「あっ!」

 その人は小さな声を上げると、こっちに向かって歩いてきた。

 それで、私もあの人が昨日ぶつかった人であることに気づいた。

「ミディアちゃん、あの人達だよ。

 昨日海岸で演奏してた人達。」

 琴音が私にそう言った。

 じゃあ、昨日ぶつかった人が演奏していた人なんだ。

 なんてすごい偶然だろう。


 とそんなことを考えているうちに、いつの間にか昨日ぶつかった人が、私の目の前まで来ていた。

「やあ、また会ったね。」

 男の人はそう言って、ニコッと笑った。

「えっと、あなたは・・・」

「あっ、そういえば、名前を言ってなかったね。

 俺の名前はウィリーって言うんだ。

 よかったら君の名前も教えてくれない?」

「えっと・・・ミディア・・・です。」

「よろしくね、ミディアちゃん。」

 ウィリーさんはそう言うと、いきなり私の肩を抱き寄せた。

「えっ!?」

 突然のことに、私はパニックになった。

「昨日も話したけど、俺さあ、君に一目惚れしちゃったみたいなんだよね。

 でさあ、もしよかったら、今夜のベイ・カロッサ、俺と一緒に参加しない?」

 なんだろう、この人は?

 昨日、たまたまぶつかっただけの相手に対して、どうしてここまで気安く話しかけて来れるのだろう?

 こんなにグイグイ来るタイプの人と話すのはこれが初めてだった。

 何て言うか、この人は、ここから先は踏み込んでほしくない境界線を、平気で踏み入って来る人のような気がした。

 そう思ったら、何だかとても怖くなった。

 只でさえ、今の私は対人恐怖症ぎみなのに、そんなことを考えてしまったから、頭の中は大混乱になってしまって、もう目の前の人に対して、どう答えたらいいのかわからなくなってしまった。

「えっと・・・あの・・・」

「そんなに慌てなくていいよ。

 落ち着いて、落ち着いて。」

 ウィリーさんはそう言ったけど、私は、どうしたらいいのかわからなくなっていた。


「ミディア、大丈夫?」

 いつの間にか、ラーファが私の隣に立っていた。

 ラーファは、私の体に手を伸ばすと、自分の方へと力強く引き寄せてくれた。

 多分、私がパニックになっているのを見て、琴音が慌ててラーファを呼びに行ってくれたんだろう。

「ラーファ・・・」

 ラーファの顔を見た瞬間、ホッとして、思わず涙がこぼれた。

「ええっ!?」

 私が涙をぬぐう姿を見て、ウィリーさんは驚いていた。

 ウィリーさんは、どうして私が泣いているのか、わからないという表情だった。

 きっと、ウィリーさんは、いつもああいう感じで、女の子に接しているんだろう。

 でも、私にとっては、あまりにも衝撃的すぎた。

 だって、男の人にあんな風に抱き寄せられたこと、今までなかったから。

 ウィリーさんは、申し訳なさそうな表情になっていたけど、ウィリーさんは悪くない。

 私がパニックになっただけだから・・・

 そう言いたかったけど、ウィリーさんに声をかける勇気がどうしても出てこなかった。


「この子は私達と一緒にベイ・カロッサに参加するんで、すみませんけど、これで失礼します。」

 私の代わりに、ラーファがウィリーさんにそう言った。

 そして、ラーファは私の手を引いて、みんなの並んでいる場所まで連れてってくれた。

「ありがとう、ラーファ。」

「もう大丈夫よ、ミディア。」

 ラーファはそう言って、私に向かって微笑んでくれた。

 でも、私は情けない気持ちでいっぱいになってしまった。

 たったこれだけのことで、パニックになって、泣いてしまうなんて・・・

 今度も、結局、全部ラーファに頼ってしまった。

 本当に、私は、一体どうしちゃったんだろう?


「まあ、ミディア・・・あんまり気にするな。」

 エレーネ先輩は戻ってきた私にそう言って、優しく頭を撫でてくれた。

 ラーファやアイも、私のことを励ましてくれたけど、どうしても元気になれなかった。


<<琴音>>

 ミディアちゃんが、また落ち込んじゃっている。

 ここは、私が何とかしないと。

 でも、どうやってミディアちゃんを励まそう?

 そんなことを考えていたら、列の先頭の方が、何やら慌ただしくなってきた。

「そういや、琴音には、あの機械のこと、話してなかったわね。」

 ラーファちゃんはそう言って、私の方をじっと見る。

 そのラーファちゃんの表情から、私に何をしてほしいのか、何となくわかった。


「ねえ、ミディアちゃん、あの機械って何に使うの?」

 落ち込んでいるミディアちゃんに、空気を読まずに尋ねてみる。

 すると、ミディアちゃんは少しだけ笑顔を浮かべて、私に説明してくれた。

「ああ、あれはベイ・カロッサで使うんだよ。

 もうすぐ、ベイ・カロッサの始まる時間だけど、それまでに魔法エネルギーを充填して、ベイ・カロッサが始まる前に・・・」

「おっと、それ以上は話しちゃダメ。」

 ラーファちゃんが割り込んできた。

「ええっ、そこまで説明してくれたんだから、もう全部教えてくれてもいいじゃん。」

「ダーメ、もうすぐ時間が来るんだし、それまで我慢してなさい。」

「うう、わかったよ。」

 どうしても、ラーファちゃんは、私に教えてくれないようだ。

 もっとも、私も別に知りたくて、聞いたわけじゃないけどね。

「琴音、あともう少しでベイ・カロッサだから、それまでの我慢だよ。」

 私達の会話を聞いていたミディアちゃんが、そう言ってニコッと笑った。

 ウン、私もラーファちゃんも、この笑顔が見たかっただけなんだから。


 それから、またしばらくみんなでおしゃべりした。

 ミディアちゃんもすっかり元気を取り戻したみたいで、楽しそうに会話に参加していた。

 さっきのウィリーって人が、他の仲間と一緒に演奏を始めたため、山頂は一気に賑やかになった。

 私達の話題の中心は、やっぱりグラド・ルガンテだった。

 まあ、それは私達だけでなく、他の観光客もそうだったみたいだけど・・・

 並んでいる間って、音楽聞くか、上空のグラド・ルガンテを見る以外にすることないからね。

 話題の中心となっているグラド・ルガンテはというと、いつの間にかラーヴォルンの上空まで来ていた。

「そろそろ始まるわよ。」

 ラーファちゃんがそう言うとほぼ同時に、何やら大勢の人達があの大型機械の方へと向かいだす。


「これより、ベイ・カロッサを開始します。」

 山頂に元気のいい女性の大きなアナウンスが流れると、一斉に歓声が上がる。

 いよいよ、ルフィル・カロッサの中でも最大のイベント、ベイ・カロッサの始まりだ。

「ねえねえ、いよいよあの機械の出番なの?」

 ミディアちゃんに尋ねると、ミディアちゃんはウンと頷いた。

「琴音、きっと驚くよ。

 私も初めて見た時は、ビックリしたからね。」

「へえ、それは楽しみだなあ。」

「初めての時は、ミディア、思わず腰抜かしたからね。」

「もう、アイ、余計なことを言わないでよ。」

 ミディアちゃんが真っ赤になって怒っていた。

 腰をぬかすって、そんなに凄まじいことがこれから起こるの?

「フフフ、まあ、楽しみにしていて。」

 ラーファちゃんの笑い方も、なんか不気味だなあ。


「現在、必要なエネルギーの95%が充填完了しています。

 これより、エネルギー充填を加速します。

 最新の注意を払いますが、もし気分が悪くなった方がいれば、遠慮なく言ってください。」

 再びアナウンスが流れると、またしても観光客から歓声が起こる。

 今はどんなアナウンスが流れても、歓声が上がりそうだ。

 それくらい、山頂の盛り上がりはヒートアップしていた。

 それはそうと、なんか気になるアナウンスをしていたなあ。


「ねえ、どうして機械のエネルギー充填で、みんなの気分が悪くなることがあるの?」

 ミディアちゃんに聞いてみると、ミディアちゃんは丁寧に説明してくれた。

「あの機械のエネルギー源は、マーシャントなんだよ。」

「マーシャント?」

 あれ、この言葉、どこかで聞いたことがあるような・・・

「マーシャントってのは、星や生命が生きるために必要なエネルギーでね。

 マーシャントはこの宇宙に満ち溢れていて、無限に存在するって言われている。

 ただ、あの機械がマーシャントを集めると、この辺一帯のマーシャントが少なくなるでしょ。

 マーシャントが少なくなると、生命活動に影響が出ることがあるんだよ。」

 ミディアちゃんの話を聞いて、少し背筋に寒いものが走った。

「それって、結構ヤバいんじゃ・・・」

 私がそう言うと、ミディアちゃんはクスッと笑った。

「大丈夫だよ。

 人の体に影響が出ない程度の速度で、あの機械は今までずっとマーシャントを貯め続けていたからね。

 その速度を、ほんのちょっとだけ早めるだけだから、普通は全く影響ないよ。」

「でも・・・」

「実は、私達の使っている魔法の力の源も、マーシャントなんだよ。」

 私達の話を聞いていたエレーネちゃんがそう言った。

「つまり、私達は、大自然の偉大なる力を借りて、生きているってことよ。

 だから、ちゃんと自然に感謝して、適切に使わないといけない。」

 ラーファちゃんがいつになく真面目な表情でそう言った。

「星や人間が生きるのに必要なマーシャントを、宇宙からアトゥアに導いているのも、ルフィルの役割なんだよ。

 だから、私達はルフィルに感謝しないといけないんだよ。」

 ミディアちゃんがそう言った。

 なるほど、みんながルフィルに感謝するのは、そう言うことだったんだね。

 結局、私の心配は稀有に終わった。

 ミディアちゃん達も観光客も、体調が悪くなるどころか、逆にすごい盛り上がっていた。


「エネルギー充填120%!!!発射準備完了。」

 大きなアナウンスが聞こえてきて、会場は一気にヒートアップする。

 エネルギー充填120%って、波動砲でも撃つつもりだろうか?

「目標、エルフィーゼの塔最上階。

 対ショック対閃光フィールド展開。」

 次の瞬間、前方に巨大なバリアのようなものが展開される。

「あれ、何?」

「あれは、衝撃と閃光を和らげるためのバリアだよ。」

「本当に波動砲みたいだね。」

 私がそう言うと、ミディアちゃんは首を傾げる。

「ねえ、琴音、波動砲って何?」

「えっと・・・何でもないよ。」

 うまく説明できそうにないし、下手に説明して、日本に対して変な誤解を与えるのもマズイ。


「発射10秒前!!!9、8,7・・・」

 カウントダウンの合図とともに、会場から一斉にカウントダウンが起こり始める。

「さあ、琴音も一緒に。」

 ミディアちゃんもそう言うと、カウントダウンに加わる。

 じゃあ、私も・・・

「4,3,2,1・・・ゼロ。」

「発射!!!!!!!!!!!!!!」

 なぜかここだけ、野太いおっさんのすさまじい号令と共に、何かが発射されて、次の瞬間、目の前の視界が真っ白になった。

 これじゃ、本当に波動砲だよ。

 一体、目の前で何が起こってるんだろう?


用語集

(1)グラド・ルガンテ

アトゥア唯一の浮遊大陸。

しかし、これまで誰も上陸できた人はおらず、いつからかルフィルの住む島として神聖視されるようになった。

グラドとは、神聖な人や場所につける称号で、ルフィル説が定着するようになってから、グラド・ルガンテと呼ばれるようになった。


(2)マーシャント

マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。

星や生命は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。

地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。


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