表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
71/254

25.グラド・ルガンテ

<<琴音>>

「ちゃんとニホンのスカートと同じ長さにしてくれたら、私、制服着てもいいです。」

 ミディアちゃんがそう言うと、エレーネちゃんの表情がパーッと明るくなった。

「本当か、ミディア?」

「ハ、ハイ・・・本当はすごく恥ずかしいですけど・・・」

「まあ、ミディアならそう言ってくれると思って、実は琴音と同じスカートもちゃんと用意してるんだよ。」

 エレーネちゃんはそう言うと、机の上から残りのスカートを全部持ってきた。

 って、もしかして、丈の短いスカートって、エレーネちゃんとアイちゃんがつけているのだけだったの?

「アンタ、ちゃんと作ったのがあるんだったら、先にそっちを見せてよ。」

 ラーファちゃんは怒りながら、エレーネちゃんからスカートを取り上げた。

 なんだかんだ言って、ラーファちゃんも着る気満々だ。

「じゃあ、私も・・・」

 ミディアちゃんもエレーネちゃんからスカートを受け取ると、恐る恐る着替え始めた。


 そして、数分後・・・

「すっごい、かわいい・・・」

 制服姿のミディアちゃんとラーファちゃんに、私は見惚れていた。

「おお、いいじゃん。」

「ミディアもラーファ先輩も、すごい似合ってますよ。」

 エレーネちゃんもアイちゃんも絶賛していた。

「でも、少し恥ずかしい。」

 ミディアちゃんにとっては、普段私が着ているスカートの長さでも恥ずかしいみたいだ。

 私のスカートの丈は、膝より少し上ぐらいなんだけど、それでもダメなのかなあ?

 普段私が着ているスカートでも恥ずかしいと言われてしまうと、なんかちょっとショックだ。

 そんな私の感情に、ミディアちゃんはすぐに気づいたようだった。

「ゴ、ゴメンね、琴音。

 別に、このスカートが恥ずかしいって言うことじゃないんだよ。

 琴音のスカート、すっごいかわいいと思ったのは本当だし。

 でも、それを自分が着るとなったら、なんかすごい恥ずかしくて・・・」

「ミディアちゃん、そんなに必死に謝らなくてもいいよ。

 ウン、確かにそういうのってあるよね。」

 小学校の頃、人の着ている水着がかわいくて、お母さんに同じものをねだって買ってもらったことがあった。

 でも、いざ自分で着てみたら、あまりにも恥ずかしくて、結局押入れの中に入ったままになったことがあった。

 だから、ミディアちゃんの気持ち、よくわかるよ。

「確かにこれをベイ・カロッサに着て行くってのは、抵抗があるわね。」

 ラーファちゃんもそう言った。

 私にとっては普段着ているただの制服かもしれないけど、ミディアちゃん達にとってはコスプレのようなものだからね。

 それを着て、大勢の人達の前に出るのは、確かに抵抗があるかもしれないね。


「ミディアもラーファも本当に恥ずかしがり屋だなあ。

 まあ、ミディアならそう言うと思って、こんなものも用意した。」

 エレーネちゃんがそう言って持ってきたものは、スパッツのようなものだった。

「下にこれをはけば、ミディアも安心だろう。」

「ハイ、これなら・・・」

 ミディアちゃんはそう言って、エレーネちゃんからスパッツを受け取り身に着けた。

 それにしても、スカート姿のままスパッツを穿くのって、なんか少しエロい。


「えっと、エレーネ先輩、私のスカートは・・・」

 短いスカートのアイちゃんがエレーネちゃんに尋ねると、

「お前のスカートは今身に着けてるだろ。」

「これはいやだあああああ!!!」

 さすがのアイちゃんも、自分が露出するのは嫌だったようで・・・

「冗談冗談、ちゃんとアイの分も用意しているから。」

 アイちゃんはエレーネちゃんからスカートを受け取ると、慌てて着替えていた。


「なんか、やけに用意周到ね。」

 ラーファちゃんがそう言って、エレーネちゃんの方をじっと見る。

「だって、今年こそ、みんなお揃いの衣装でルフィル・カロッサに出たかったんだもん。」

「この衣装、全部揃えるのに、結構かかったんじゃないの?」

「まあね。

 ルーイエ・アスクとの業務提携で、お母さんからもらったおこずかいが全部すっ飛んじゃった。」

 エレーネちゃんがそう言うと、ラーファちゃんは驚いた表情になった。

 どうやら、ラーファちゃんだけがエレーネちゃんのおこずかいの額を知っていたようだ。

 表情から察するに、かなりの額をもらってたんだろうなあ。

「エレーネ先輩・・・そこまでして・・・

 わかりました。

 明日はみんなでこれを着て、ルフィル・カロッサに行きましょう。」

 ミディアちゃんは、エレーネちゃんの熱意に心を打たれたみたいだった。

「じゃあ、私も・・・」

 明日は制服で来るよ。

 そう言おうとしたら、


「琴音には別のニホンの衣装着てきてほしいね。」

 エレーネちゃんがそう言うと、

「きっとニホンにもこの手のイベントがあると思うから、ニホンの仮装衣装で着てほしいなあ。」

アイちゃんからも無理難題を突きつけられてしまった。

 そんなこと言われても、明日は旅行で出かけるし、衣装を用意する時間なんてないよ。

「琴音、明日旅行なんでしょ。

 みんな、あんまり無理言ったら、琴音が可哀想だよ。」

 ミディアちゃんは私が旅行に行くことを覚えてくれていた。

「ありがとう、ミディアちゃん。」

「とりあえず何か探してみるけど、明日旅行で多分あまり準備する時間もないから・・・

 何も見つからなかったら制服で来るね。」

「ウン、それでいいよ。」

 ミディアちゃんは笑顔で頷いてくれた。

 やっぱり、ミディアちゃんは私の天使だよ。



「へえ、みんなうちの学校の制服着るんだ。」

 私の話を聞いて、日花里ちゃんは目を輝かせていた。

 日花里ちゃんは、みんなのことを知ってるから、すごい楽しみなんだろうなあ。

「だから、制服なんか持ってきたんだ。」

 ニコちゃん、いつの間にか私のかばんから制服を取り出していた。

「ちょっと、勝手に人の荷物出さないでよ。」

「ゴメンゴメン。

 カバンから制服っぽいのが見えたから、もしかしてと思ってね。」

 まあ、友達との夏休みの旅行で、学校の制服を持っていくなんて、私も変だとは思う。

 でも、ミディアちゃん達が制服を着る以上、私も制服で行きたいと思った。


「でも、みんなは琴音ちゃんには別の衣装を着てほしいって言ってたんでしょ。」

「ウン、まあ、そうなんだけど・・・」

「それだったら、別の衣装を着て行こうよ。」

 ニコちゃんは簡単に言うけど、私、何の準備もできてないんだよ。

 それに、仮装なんて私やったことないし・・・

「大丈夫、それは私に任せて。」

 ニコちゃんが笑顔でそう言った。

 なんか、嫌な予感がするなあ。

 本当に大丈夫なんだろうか?


「でも、異世界の女の子が、こっちの学校の制服を着るなんて、確かにすごい見てみたいなあ。」

 ニコちゃんがすごい楽しそうにそう言った。

「琴音がすごいもの見ちゃったって言うから、どんなものを見たのかと思ったけど・・・

 確かに、これはすごいものだわ。」

 日花里ちゃんもそう言って、満足そうに頷いた。

 えっと、納得してくれているところ、申し訳ないんだけど、なんか2人とも勘違いをしているようだ。

「あのう、何か勘違いしているみたいけど・・・

 今朝、私が話したすごいものってのは、この後に出てくるんだけど・・・」

「えっ、これじゃないの!?」

 ニコちゃんが驚いた表情になった。

 確かに、ミディアちゃん達がこっちの学校の制服を着ること自体、とてもすごいことだと思う。

 でも、そのインパクトをかき消しちゃうくらいのものすごいことが、この後に起こっちゃったからね。

「ウン、実はね、この後にね・・・」



 みんな学校の制服に着替え終わった後、エレーネちゃんが演奏を見に行こうと言い出した。

「えっ、この格好のままですか?」

 ミディアちゃんが恥ずかしそうにそう言う。

「明日、ルフィル・カロッサに着て行くんだぞ。

 予行演習だよ。」

 エレーネちゃんがそう言って、超ミニスカートのまま部屋を出ようとしたところを、ラーファちゃんが慌てて止めた。

「アンタ・・・まさか、このスカートのまま外に出るつもり?」

「ウン、そうだよ。」

「やめてよ、エレーネもちゃんとしたスカートに着替えてよ。」

「別に私の下着が見えるだけだし、恥ずかしい思いをするのは私だけだからいいだろ。」

「一緒にいる私達も恥ずかしいから、さっさと着替えて。」

 ラーファちゃんはそう言って、エレーネちゃんの両肩を力強く握りしめる。

「イタタタタ・・・わ、わかったから・・・肩から手を外して。」

 ラーファちゃんの力強い説得で、エレーネちゃんは渋々着替えだす。

 エレーネちゃん、本気であのスカートもどきを着て、外に出るつもりだったんだろうか?

 なんか、エレーネちゃんって、色々とすごいなあ。


 エレーネちゃんが着替え終わって、部屋を出たところで、エレーネちゃんのお母さんが慌てて2階に駆け上がってきた。

「ちょっと、みんな。

 さっき、山にいた観光客が、グラド・ルガンテが見えたって言ってたわよ。」

「えっ、本当に!?」

「天気がよければ前日から見えるかもしれないって話は聞いてたけど・・・

 まさか、本当に見えるとはね。」

 ラーファちゃんが驚いた表情でそう言った。

「行ってみようぜ。」

 エレーネちゃんに連れられて、全員店の外に駆け足で飛び出して行った。


「ねえ、ミディアちゃん。」

「なあに、琴音?」

「グラド・ルガンテって何?」

「あっ!!!」

 ミディアちゃんが小さな声を上げた。

 ラーファちゃんも「しまった」と小さく呟いていた。

 その様子から、どうやらこれも当日まで秘密にしておきたかったことのようだ。

「まあ、これだけのお祭りだから、何もかも当日まで秘密にするのは無理だろ。」

 エレーネちゃんがそう言うと、ミディアちゃん達も小さく頷いた。


 海岸沿いは、凄まじい観光客でぎっしりと埋まっていた。

 何人か空中に浮かんでいる人がいたけど、後ろの人が見えないと言って石を投げていた。

 きっとみんな、そのグラド・ルガンテとやらが見えると聞いて、ここに来たんだろう。

 でも、どうして海岸に?

「みんな、あの中に飛び込んでいくか?」

 エレーネちゃんがみんなに尋ねると、全員首を横に振った。

 海岸に集まっているってことは、船の名前かな?

 そのグラド・ルガンテとかいうのは?


「仕方ないなあ。

 最初に琴音と会った時に行った絶景スポットにでも行くか。

 あそこも結構人がいると思うけど、ここよりは絶対マシだと思うから。」

「そうね。」

 というわけで、私達は最初に会った時の絶景スポットに行くことになった。

 あそこから見る景色は今でも心に残っていて、もう一度見てみたいと思っていた。

 だから、エレーネちゃんの提案は本当に嬉しかった。


「ミディアとラーファは、絶景スポットに着くまでに、琴音にちゃんとグラド・ルガンテのことを説明しておくように。」

 しかも、見えない私のこともちゃんと気遣ってくれる。

 なんか、今日のエレーネちゃんはすごいなあ。


 こうして絶景スポットに向かうことになったんだけど、絶景スポットに行くには険しい山道を登る必要があった。

 ミディアちゃんの息はすぐに上がってしまって、私に説明どころじゃなくなってしまった。

「ミディアちゃん、大丈夫?」

「ウン・・・これくらいなら・・・でも・・・」

「わかってるよ。

 話は着いてからで構わないから、気をつけて歩いてね。」

「ありがとう。」

 しかし、ミディアちゃん以外の3人は、平気な顔でスイスイと山を登って行く。

 ミディアちゃんの体力がなさすぎるのか、あの3人の体力がすごすぎるのか。

 でも、しばらくして、どちらでもないということに気づいた。

 だって、3人の体、ほんのわずかだけど空中に浮いていたからね。

「みんな、なんか浮かんでいるように見えるんだけど・・・」

 驚いてミディアちゃんに聞いてみると、

「あれは・・・飛空魔法だよ。

 私は・・・まだ使えないから・・・こうやって歩くしか・・・ないんだけどね。」

「へえ、みんな、空を飛んだりできたんだ。

 普段、空を飛んだりするところを見たことないから、ちょっと驚いたよ。」

「ラーヴォルン市内では、特別な場合を除いて魔法の使用が禁止されているからね。」

 歩くのに必死なミディアちゃんに変わって、ラーファちゃんが教えてくれた。

 ミディアちゃんはゼイゼイ言ってるし、これ以上話しかけるの申し訳ないので、代わりにラーファちゃんに話を聞くことにした。


「魔法って禁止されてるの?」

「日常生活で使用する必要最低限以外の魔法以外はね。

 特に飛空魔法は市内での使用が強く禁止されている。

 まあ、こういった登山で使用する分には、特に問題ないけどね。」

「そうなの。

 でも、どうして?」

 魔法って便利なんだから、もっと日常でもバンバン使えばいいのにと思った。

 でも、どうやらラーヴォルン特有の複雑な事情があるみたいだった。

「ラーヴォルンって、北街と南街の間に海峡があるんだけど、海峡を飛空魔法で渡ろうとする観光客が増えて問題になったのよ。」

「確かにそんなことされたら、誰も船に乗らなくなっちゃうし、問題だね。」

「ウウン、そうじゃなくてね。

 このラーヴォルン海峡ね、見た目よりも結構距離があるのよ。

 しかも、飛空魔法って普通の日常魔法よりも魔力の消費量が大きいからね。

 すぐ近くだと思って飛んで行ったものの、途中で魔力が尽きて、海に落ちる人が続出したのよ。」

「そうなんだ。」

「ラーヴォルン海峡は時間によって潮の流れが激しく変化するから、流されて亡くなった人も結構いたらしくてね。

 そんなわけで、飛空魔法を使って海峡を渡ることが禁止になったんだけど、それでも渡ろうとする人が後を絶たなくてね。

 結局、市内での魔法の全面使用禁止になったってわけ。」

「なるほど。」

「まあ、私達住人まで全面禁止にすると、生活上困るので、住人は必要最低限の魔法の使用だけは許可されてるんだけどね。

 それでも、みんな、できるだけ使用しないようにしているみたいね。」

 それで、市内で魔法を使う人をほとんど見かけなかったわけだ。

 今まで私が魔法を見たのって、魔法検定でミディアちゃんが炎の魔法を使ったのと、あと街のお掃除で魔法を使っていたのを見たところぐらいだ。

 そういえば、ミディアちゃんが魔法の特訓をしたのも、魔法学校の中だけだった。

 魔法のある世界なのに、あまり魔法を見かけないなあと思ったら、そういう理由があったんだね。


 ラーファちゃんと話をしているうちに、いつの間にか目的地の絶景スポットの近くまでやってきていた。

 ミディアちゃんは肩で大きく息をしていた。

「大丈夫・・・ミディアちゃん?」

「ハァ・・・ハァ・・・だ、大丈夫・・・」

 ウーン、あまり大丈夫そうに見えない。

 それにしても、みんな飛べるんだったら、ミディアちゃんを抱えて飛んであげたらいいのに。

 ミディアちゃん一人だけ、なんかかわいそうだよ。

「琴音、今私達がミディアを運んであげたらいいのにって思わなかった?」

 ラーファちゃんにそう聞かれて、ドキッとなった。

 どうして、私の考えていることがわかったんだろう。

 私の驚いた表情を見て、ラーファちゃんはクスッと笑った。

「そんなこと、誰もが思うことでしょ。

 でもね、人の運搬に関しては、私達住人も使ってはいけないことになってるの。」

「えっ、どうして?」

「ラーヴォルンで昔子供の誘拐が多発したんだけど、それで使われたのが飛行魔法だったの。

 小さな子供とかは空が飛べないから、従順になるらしくて、楽に誘拐できたんだって。」

「なんか、嫌な話だね。」

「ラーヴォルン・・・ていうかリーヴァ王国は、ヴェルクとガルティアの2大帝国に挟まれているから、昔から色々とあってね。

 傍から見ると変な法律でも、ラーヴォルン特有の色々な事情があるのよ。

 まあ、法律を作ったところで、犯罪者が素直に従うとは思えないんだけど・・・

 でも、みんなが街中で飛行しなければ、飛空魔法使ってる人を見つけやすいでしょ。

 そんなわけで、私達はミディアを運んであげたくてもあげられないってわけ。

 まあ、私は別にミディアを運んでもいいと思ってたんだけどね。」

「ダメだよ。

 地元民である私達が法律を破ってたら、観光客の人だって法律を守ってくれなくなっちゃうよ。」

 ミディアちゃんは、普通に話せるくらいまでには回復していた。

 まあ、ミディアちゃんの言う通りなんだけど、ミディアちゃんって本当に真面目だなあ。

 ミディアちゃんが日本にいたら、きっと車が全く通ってない道でも青信号になるまできちんと待ってそうだ。

 私は・・・えーっと・・・時と場合によるかな。


「なあ、お前ら、さっきから何の話をしてるんだ?」

 エレーネちゃんがミディアちゃんとラーファちゃんに話しかけてきた。

「何って、琴音にラーヴォルンの魔法に関する法律について説明を・・・」

「ルガンテの話はどこに行ったんだよ。」

「あっ、そう言えばそうだったわね。

 どこで、魔法の法律の話に変わったんだろう。」

 ラーファちゃんはそう言って首を傾げる。

「もう登っちゃったし、琴音には実物を見てもらいながら説明しよう。」

「まあ、その方が早いわね。」

 結局、グラド・ルガンテが何なのかわからないまま、私はみんなと絶景ポイントに行くことになった。

 茂みに隠れていて、知る人ぞ知る絶景スポットだったけど、この日は既に何人かがここに来ていた。

「やっぱり、ここにも結構人が来てるなあ。」

 観光客の姿を見て、エレーネちゃんはため息をついた。

「みんな、北街の奥のエルフィーゼの塔の方を見ているよ。」

 ミディアちゃんが指を指した方向には、すごい大きな塔が建っていた。

 北街にあんな大きな塔があったんだ。

「どうやら報道されてた通り、北西の方角からやってくるみたいだね。」

 ラーファちゃんはそう言うと、手を前に上げて、何やら呪文のようなものを唱え始めた。

 すると、ラーファちゃんの前の空間が、何やらレンズのようになった。

「何、これ、すごいね。」

「多分、ルガンテはまだ遠くにあるだろうから、これで拡大してみるわよ。」

 ラーファちゃんはそう言って、何やら呟き始める。

 すると、レンズに映る景色がどんどん拡大されていく。

 向こうの山や塔がドアップになるほど映像が拡大されても、さらに拡大していく。

 すると、遥か彼方に何やらポツンと浮かんでいるのが見えてきた。


「あれがグラド・ルガンテ?」

 ミディアちゃんに尋ねると、ミディアちゃんは「多分」と言った。

 まあ、これだけ拡大してもほとんど点にしか見えないし、これじゃ何か特定できないよね。

 でも、エレーネちゃんは

「これは、ルガンテに間違いない。」

と断言した。

「まあ、あんなところを飛んでいるのは、グラド・ルガンテ以外ありえないでしょうね。」

 ラーファちゃんもそう言った。

 みんなの会話から、グラド・ルガンテが空を飛んでいるものだってことはわかった。

 でも、あれは一体何だろう?

 そう思って見ていたら、ミディアちゃんが説明してくれた。


「琴音、グラド・ルガンテは浮遊大陸の名前だよ。」

「えっ、浮遊大陸!?」

 そんなものが、このアトゥアには存在するんだ。

 ゲームとかでは見たことあるけど、まさかここで浮遊大陸が見れることになるとは思わなかった。

 どれくらいの大きさなんだろう?

 どんな形しているんだろう?

 浮遊大陸という言葉を聞いただけで、色々なイメージが頭の中に浮かんできて、すごいワクワクした。


「まあ、浮遊大陸のようなものっていうのが正確なんだろうね。」

 ラーファちゃんがレンズに集中したままの状態でそう言った。

 浮遊大陸じゃなくて、浮遊大陸のようなもの?

 なんかイメージができない。

 おかげで、さっきまでのワクワク感が、なんか少ししぼんでしまった。

 困惑している私に、ミディアちゃんが説明してくれた。

「グラド・ルガンテは浮遊大陸なんだけどね。

 今まで誰も上陸できたことがないんだよ。」

「えっ、そうなの?」

「ウン、飛空船で上陸しようとしても、すり抜けちゃうんだよ。」

「すり抜けちゃう?」

「そう、幻のような浮遊大陸なんだよ。」

「誰も上陸できないのに、浮遊大陸って呼ぶのもどうかと思ってね。

 それで、さっきは浮遊大陸のようなものって言ったのよ。

 でもね、ルガンテが来ると、日光が遮られるし、ちょっとした重力異常なんかも起こる。

 物理現象が起こっているから、ただの幻ではないのよ。」

 ラーファちゃんがミディアちゃんの説明を補足してくれた。


 ミディアちゃんとラーファちゃんの説明を聞いて、グラド・ルガンテがどういうものかようやくわかってきた。

 グラド・ルガンテは誰も上陸できない、幻のように見えるけど確かに実在する浮遊大陸。

 なんかすごいファンタジーだ。

「今じゃ宇宙にまで行けるほど進歩したって言うのに、ルガンテには誰も行けないって言うんだからね。

 なんか変な話だよなあ。」

 エレーネちゃんがそう言った。

 好奇心が旺盛なエレーネちゃんのことだから、グラド・ルガンテに行ってみたいって思ってるんだろうなあ。

「アンタのお兄さんが異常なまでにグラド・ルガンテに執着してたわよね。」

 ラーファちゃんがそう言うと、エレーネちゃんは苦笑した。

「兄貴はアトゥアの秘境を映像に収めるために、旅をしているけど、ルガンテはアトゥア最大の謎だって言ってた。

 その謎がラーヴォルンに近づいてきてるのに、兄貴はどこをほっつき歩いているのやら・・・」

 エレーネちゃんはそう言って、小さくため息をついた。

 あれっ、エレーネちゃん、どうしたんだろう?

 なんか少し寂しそうだ。

 こんなエレーネちゃんの表情、初めてみるよ。

「もしかしたら、ラーヴォルンに向かってるかもしれないわよ。」

 ラーファちゃんがそう言うと、

「あっ、その可能性はあるかも・・・」

エレーネちゃんはそう言って、満面の笑みを浮かべた。

 もしかして、エレーネちゃん、本当はお兄さんと会えなくて少し寂しいのかな?


「まあ、そんなわけで、グラド・ルガンテのことは何一つわからないから、みんな色んな憶測をたてるようになったのよ。

 その中で一番有力なのが、グラド・ルガンテがルフィルのいる神聖な大陸だって説ね。」

「ていうか、もはやその説しか残ってないだろ。

 グラドってのは、神聖な人や場所に対してつける言葉なんだけど、その説が定着するまで、みんな普通にルガンテって言ってたそうだし。

 今じゃ、アトゥアのほとんどの人が、グラド・ルガンテはルフィルの住む神聖な大陸だから、人間は上陸できないんだって信じきってる。」

 エレーネちゃんがそう言って苦笑した。

 その表情からして、エレーネちゃんはそうは思っていないみたいだね。

「リーヴァ王国が建国祭をラーヴォルンでやるって一方的に発表した時に、最初ラーヴォルンはすごい反対したのよ。

 ルフィル・カロッサと思い切り日程が被っていたからね。

 でも、その後、グラド・ルガンテがラーヴォルンを通るって予測が出たら、じゃあその日にルフィル・カロッサをやろうって話になったのよ。

 ルフィルが住むグラド・ルガンテがやってくる日に、ルフィル・カロッサを開こうってね。」

 なるほど、ルフィル・カロッサの日程が変わった理由はそれだったんだ。

「グラド・ルガンテはほぼ単調に動いているから、進路予測はしやすいんだけど、アトゥアの自転とかの影響もあってね。

 なかなかラーヴォルンの上空に来てくれないのよ。

 前回、ラーヴォルンの上空に来たのは、5年前だったわね。

 しかも、真冬だった。」

 ラーファちゃんがそう言って苦笑する。

「近くに来ることはあっても、ラーヴォルンの上空を通ることは本当に珍しいからね。

 科学者の計算によると、次にラーヴォルンに来るのは、4年後の夏って言ってた。」

 4年後かあ。

 その頃にも、私はラーヴォルンに来れてるといいなあ。

「今回みたいに秋にラーヴォルンに来るのは、25年も待たないといけないんだって。」

 ミディアちゃんがそう言った。

 さすがに、25年後には私はラーヴォルンにいないだろうな。

 ということは、グラド・ルガンテが来るルフィル・カロッサを見れるのは、これが最初で最後ってことになる。

「そんなわけで、今年のルフィル・カロッサは例年以上の観光客がラーヴォルンに来ているみたい。」

 なるほど、今回のルフィル・カロッサがすごいレアなお祭りだってことはよくわかったよ。


(1)ルフィル・カロッサ

ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。

毎年秋に開催される。


(2)ルフィル

星の生命の流れを導く存在。

死にゆくものの魂を天に返し、生まれゆく者の魂をこの星に導くための存在。

アトゥアでは、自分達が生きていられるのは、ルフィルのおかげと思っている人達が多く、ルフィル信仰が盛んである。


(3)グラド・ルガンテ

アトゥア唯一の浮遊大陸。

しかし、これまで誰も上陸できた人はおらず、いつからかルフィルの住む島として神聖視されるようになった。

グラドとは、神聖な人や場所につける称号で、ルフィル説が定着するようになってから、グラド・ルガンテと呼ばれるようになった。


(4)ヴェルク帝国

アトゥアで一番大きな帝国

リーヴァ王国北方にある帝国で、もう一つの大陸にあるガルティア帝国と対立している。

そのため、ガルティア帝国と接しているリーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(5)ガルティア帝国

アトゥアで2番目に大きな帝国

リーヴァ王国東方に広がる大陸を支配している帝国で、アトゥアの覇権をめぐってヴェルク帝国と対立している。

ヴェルクと同様に、リーヴァ王国にスパイを送り込んでいる。


(6)エルフィーゼの塔

ラーヴォルン北街のはずれにある100階建ての巨大な塔。

北街の観光名所の一つとなっている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ