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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
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3.ミディアとラーファの大ゲンカ

<<琴音>>

 しばらくエレーネちゃんのお店でゆっくりした後、ルーイエ・アスクに戻ることにした。

「実は、ラーヴォルンにはエレーネ先輩のお店のイデア目的で来る人も結構いるんだよ。」

「へえ、そうなんだ。」

「何せ、アトゥア中の珍しい景色を映したイデアが集まってるからね。」

 なるほど、つまりエレーネちゃんのお店のおかげで、ラーヴォルンに来る観光客がさらに増えているってわけだ。

「でも、それだけ売れるんだったら、他のお店も真似すればいいのに。」

「それは絶対に無理だよ。」

 ミディアちゃんはぴしゃりと言い切った。

「えっ、どうして?」

「ラーヴォルンは観光都市で、アトゥア中から観光客が来るからできることなんだよ。

 他の街ではちょっと無理だと思う。」

 えっ、そんなにラーヴォルンは観光都市としてアトゥア中に認知されているの?

「それだけじゃないんだよ。

 エレーネ先輩のお兄さんが、アトゥア中を旅しててね。

 簡単には行けないような秘境とかに行って撮影してくるんだよ。

 このイルキスのイデアも多分、エレーネ先輩のお兄さんが撮影したイデアだと思う。

 そういうイデアは他のお店ではちょっと手に入れられないんだよね。」

 なるほど、それは確かにすごい。

 ていうか、このアトゥアという世界にはまだ秘境がたくさんあるのか。

 いいなあ。

 今度行ってみようかな?

 この世界の私は体浮いてるし、どこにでも簡単に行けそうな気がする。


 しばらく歩いて、ルーイエ・アスクに戻ってくると、そこではすごい光景が広がっていた。

 みんな空を飛んで、2階や3階の掃除をしていた。

 しかも、なんか人が水流を操っているようにも見えた。

「ねえ、ミディアちゃん、みんな浮いてるよ?水を操ってるよ?」

 でも、ミディアちゃんは全然驚いていなかった。

 多分、これはラーヴォルンの日常の光景なんだろう。

「ああ、これは魔法を使っているんだよ。」

「ええっ!!!魔法!!?」

 思わず変な声を上げてしまった。

 ここって実はファンタジーな世界だったのかあ。

「えっ、琴音の世界には魔法はないの?」

 ミディアちゃんが尋ねてくる。

「ないない。魔法はアニメやゲームにしか出てこない架空のものだよ。」

「えっ、そうなんだ。でも、魔法がないと不便じゃない?」

 そりゃあ、魔法があれば便利だと思うけど。

「じゃあ、ミディアちゃんも魔法が使えるの?」

「私は・・・その・・・まだ全然使えなくて・・・」

 あれっ、何かすごい落ち込んでいる。

 何かマズいことでも聞いちゃったかな?

「実はね・・・私、魔法がなかなか使えなくて、学校の成績もかなり悪いんだよね。」

「えっ、こっちの学校って魔法を習うの?」

「ウン、でも、私、実技がさっぱりなんだよ。」

 実技ってのは、多分魔法のことだよね。

 そっかあ、ミディアちゃんも苦労してるんだね。

「でも、ミディアは理論の成績は同学年で一番でしょ。」

 とそこに、ラーファちゃんが話に割り込んできた。

 私の方をかなり警戒しながらだけど。

「理論ができても、実技が全くできないんじゃ意味ないよ。」

「そんなことない。

 事故で記憶をなくして、全部忘れちゃったはずなのに、あっという間に私達に追いつくなんてすごいよ。

 そのうち絶対にミディアにも魔法が使えるようになる。」

「本当に?」

「ウン、絶対。私が保証する。」

 ラーファちゃんがそう言うと、ミディアちゃんはようやくいつもの笑顔を見せてくれた。

 どこの世界でも、学生は苦労しているんだなあ。


「と、ところでミディア・・・」

 ラーファちゃんはそう言うと、私の方を怯えた表情で見る。

 やっぱり怖がられてる。

 そりゃあ、2人にしか見えない存在だから、怖がるのもわかるけど、やっぱりなんだかすごく傷つくよ。

「はい、ラーファ、これおばさんじゃなくてラーファの注文でしょ?」

 ミディアちゃんはそう言うと、さっき買ってきたイデアをラーファちゃんに手渡した。

 あれっ、ラーファちゃんのお母さんの注文じゃなかったっけ?

 でも、どうしてラーファちゃんの注文だってわかったんだろう?

「ど、どうして私が頼んだってわかったの?」

 同じことをラーファちゃんも聞いていた。

「だって、イルキスに行ってみたいって、私に何度も話してくれたじゃない。

 おばさんに話を聞いてすぐに、これはラーファのためのものだってわかったよ。」

「そ、そうなんだ、ありがと。」

 ラーファちゃんはお礼を言うと、ミディアちゃんからイデアを受け取った。

 そして、それをギュッと抱きかかえると、2階へと上がっていってしまった。

「なんか、今のラーファちゃん、ちょっと乙女じゃなかった?」

「そ、そうかな?」

 ミディアちゃんは苦笑する。

 あれ、何だろう、この空気は?

 心なしか変な空気を感じる。


「琴音、ゴメンね。

 イデアを一緒に見るって言ってたけど、ラーファが持ってっちゃったから見れなくなっちゃった。」

 なんかミディアちゃんの様子も少しおかしい。

「じゃあ、ラーファちゃんに見せてもらいに・・・」

「それはダメ。」

 ぴしゃりと断られた。

 どうしてだろう?

 それは、ミディアちゃんがすぐに答えてくれた。

「実はね、ラーファ、エレーネ先輩のお兄さんのことが好きみたいなの。」

 なんと、そう言うことだったのかあ。

 じゃあ、今頃は部屋の中で、エレーネちゃんのお兄さんが撮影した映像を見て、キュンキュンしているってことかあ。

「なるほど、それは邪魔しちゃ悪いね。」

「ウン・・・」

 あれっ、今度はミディアちゃんが元気がない。

 もしかして、これはやきもちってやつですか?

 なんかやきもち妬いているミディアちゃんもすごいかわいい。

「ミディアちゃん。」

 なんか無性にミディアちゃんに抱きつきたくなってしまい、抱きつこうとしたけど、やっぱり触れないんだよね。

「もう、どうしてミディアちゃんに触れないんだよ。」

 思わずそう叫んじゃった。

 でも、そんな私を見て、ミディアちゃんがクスッと笑った。

「琴音って本当に面白いね。」

「そ、そうかな?そんなことより、ミディアちゃんの部屋見せてよ。」

「そうだね。」

 ミディアちゃんは小さく頷くと、私を部屋に案内してくれた。

 従業員の部屋は、宿泊客の泊まる部屋とは別の棟にあり、ミディアちゃんの部屋はそこの2階にあった。


「散らかってるから、あまり人を入れたくなかったんだけど・・・」

 ミディアちゃんはそう言ったけど、すごい綺麗な部屋だと思う。

 ベッドの上の布団が多少乱れているくらい。

 多分、朝寝坊して慌てて起きたんだろうなあ。

「どこか適当なところにどうぞ。」

 そう言ってくれたので、ミディアちゃんのベッドの上に思いっきり寝ころんだ。

 ああ、ここでミディアちゃんは毎晩寝てるんだなあ。

 それにしても、ミディアちゃんの部屋にはあまり物がない。

 奥にタンスと机があるけど、それ以外のものがあまりないなあ。

 机の上には、いくつかイデアが置かれていた。

 私の部屋にたくさんあるぬいぐるみをミディアちゃんにプレゼントしてあげたいよ。

「琴音になにかおもてなししたいんだけど、何もできなくてゴメンね。」

 ミディアちゃんはそう言うと、私に謝る。

 ミディアちゃんが謝る必要なんてないのに。

「ねえ、せっかくだから、色々お話ししようよ。」

「ウン、私、琴音の住んでいる街のこと、もっと知りたい。」

「私も、ラーヴォルンのこと、もっと色々と教えてよ。」


 それから、私とミディアちゃんはずっと部屋で色々話した。

 私は自分の住んでいる街や学校のこと、友達の日花里ちゃんのことなんかを話した。

 ミディアちゃんは、ラーファちゃんやエレーネちゃんのことや、学校のことを話してくれた。

 この世界は、ほとんどの人が魔法が使えるらしい。

 もっとも、ほとんどの人が使えるのは、日常生活で必要な魔法で、私がイメージするようなモンスターを倒すための魔法ではないらしい。

 さっきのように、空中に浮かんだり、掃除するために水の流れを操ったり、料理するために炎を起こしたり、一般人が使える魔法はそんな魔法ばかりらしい。

 でも、魔法が存在するってことは、もしかしたら魔物はいるかも?

「魔法があるってことは、街の外には魔物とかいるの?」

「えっ、どうしてそうなるの?

 このアトゥアにはいろんな動物がいるけど、魔物はいないと思うよ。

 人に危害を及ぼす生き物はいるけどね。」

 私達の地球も、人間に襲いかかる動物はいるけど、魔物かと言われると、確かに違うかな。

 てことは、ここは魔王とかいない魔法の世界ってことか。

 魔王がいないから、多分勇者とかもいないんだろうなあ。

「でも、私達みたいな一般人と違って、すごい魔法を使う魔導士と呼ばれる人達はいるけどね。

 そういう人達が、この国の治安を守ってくれてるから、私達は安心して暮らしていけるんだよ。」

「ふーん、そうなんだ。」


 窓の外を見ると、いつの間にかもう日が暮れかけていた。

 もっと色々と話を聞きたかったけど、体が光り始めた。

 これって、昨日の流れだと、多分もうすぐ目が覚めるってことなんだろう。

「私、もうすぐ目が覚めちゃうみたい。」

 私がそう言うと、ミディアちゃんが寂しそうな顔になった。

「大丈夫、昨日も今日も会えたんだし、明日もきっと会えるよ。

 ミディアちゃんの部屋もわかったし、明日はここまで遊びに来るから。」

「でも、明日は学校に行ってるから、私いないかも。」

「じゃあ、帰ってくるまで待ってるよ。」

「じゃあ、学校終わったら、急いで帰ってくるね。」

 体の輝きがさらに強くなる。

「明日、また来てよ。絶対だよ。」

 ミディアちゃんはそう言うと、私の方に手を伸ばしてくる。

 触れることはできないけど、私もミディアちゃんの方に手を伸ばした。

「絶対に来るよ。約束する。だから、また明日ね。」

 私がそう言うと、ミディアちゃんは笑顔で「ウン」と頷いてくれた。

 そのミディアちゃんの笑顔が、光の中に消えていき、気がつくと、目覚ましのタイマーが鳴り響いていた。

 一気に現実の世界に引き戻されて、朝から一気に憂鬱な気分になった。

 これから毎日こんな感じなんだろうか?

「琴音、もう7時よ。早く降りてきなさい。」

 1階からお母さんの声が聞こえてくる。

 それを聞いて、もう一度深いため息をついた。


<<ミディア>>

 あーあ、琴音いなくなっちゃった。

 でも、明日になったら、またきっと会えるよね。

 だから、昨日ほどの不安はないかな。


 コンコン・・・


 扉のノック音が聞こえてきました。

「はい。」

 返事をすると、部屋の中にラーファが入ってきた。

「ミディア、アイツはもういないよね?」

 ラーファは部屋の中をキョロキョロ見渡して、琴音の姿がないことを確認すると、ホッとした様子で私の隣に座った。

「ねえ、どうして琴音をそんなに怖がるの?」

 私にはラーファが琴音を怖がる理由がさっぱりわからない。

 確かに、私とラーファにしか見えないし、触ることもできないけど。

 でも、琴音が悪い人じゃないってことだけはわかる。

 だから、ラーファにも琴音と仲良くなってほしい。

 そう思って

「ねえ、一度でいいから、琴音と話してみてよ。

 琴音はラーファが怖がるような子じゃないよ。」

と頼んでみたけど、

「嫌よ、あんな得体の知らない子・・・」

と軽く一蹴されてしまった。

 ラーファが怖がりなのは知ってたけど、ここまでとは思わなかった。

「琴音は、ラーファに怖がられて、すっごく傷ついてるんだよ。

 せめて、普通に話すぐらい―――」

「どうして、あんな得体のしれない化け物なんかと仲良くしないといけないのよ。」

 突然、ラーファが大声で叫びだしたから、びっくりしてしまいました。

「ミディアはあの化け物に騙されてるのよ。

 ねえ、早く目を覚ましてよ。」

 ラーファは、私にすがりながら、そう言ってきました。

「化け物・・・」

 その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがプツンと切れた。

 琴音は私の大事な友達だから、ラーファにも仲良くなってほしいと思ったのに・・・

 友達を化け物呼ばわりするなんて・・・いくらラーファでも許せない。


「・・・・・・出てって。」

「えっ!?」

「出て行ってよ。ラーファなんか大嫌い!!!」

 気がつくと、ラーファに向かって大声で怒鳴って、無理やり部屋の外に追い出していた。

 私が怒鳴った姿を見て、ラーファは驚いて固まっていた。

 そういや、今までラーファとケンカしたことなかったなあ。

 だから、部屋を追い出された後、ラーファはしばらく私の部屋の前で泣きじゃくっていました。

「ラーファイム、どうしたの?」

 私の大声が聞こえたのか、1階からラヴィおばさんが上がってきました。

 ラーファの泣き声を聞いて、すごい心がチクチク痛くなった。

 でも、琴音のことを化け物と言ったことだけは絶対に許せない。

 ラーファが謝るまでは絶対に許さないんだから。

 でも・・・ラーファが謝ってくれたら、すぐに許すよ。そしたら、私も謝るから・・・

 だから・・・お願いだからラーファ・・・謝ってよ・・・


 結局、私も泣いてしまいました。

 部屋の外ではラーファが泣いてるし、部屋の中では私が泣いてるし。

 きっと、ラヴィおばさんもどうしたらいいか困ったと思います。


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