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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
68/254

22.意識を取り戻したラーファ

<<リッカ>>

 この子は確か、ラーファの親友の・・・エレーネ・ヴォルティス・ラーヴォルン。

 さっき、ラーファがルティアで呼んだのは、もしかしてこの子なのか?

 なら、ちょうどいい。

 こうなったら、まずエレーネに憑依して、この子からミディアに憑依しよう。

 これ以上は、本当にもちそうにない。

 本当であれば、憑依した痕跡は全部クリアしたいんだけど、コイツがいる限り無理だろう。

 それにしても、この守護人は一体なんなんだ?

 コイツのせいで、私の計画は全てメチャクチャだ。


 私は前方のエレーネに向かって、魔力を集中する。

 憑依魔法では、まず魔力で魂の通り道を確保して、相手の魂を体から分離させる。

 そして、空いた体に、魔力で作った道を通って、魂が入るという仕組みになっている。

 私はエレーネの魔力をはじき出すために、エレーネに向かって憑依魔法を放った。

 相手はただの学生だし、普通に憑依に成功すると思っていた。

 でも、私の魔力は、エレーネが直前に放った魔法バリアに弾かれてしまった。

「バ、バカな・・・今のは対憑依防御魔法・・・」

 驚くしかなかった。

 元々、憑依魔法自体、私のようなスパイをやっている人間とか、極々一部の人間にしか使えないものだ。

 もちろん、対憑依防御魔法も同じで、本来学生が知っているような魔法ではない。

「ど、どうして・・・」

 驚きのあまり、それ以上言葉が出てこなかった。

 エレーネは、自分の兄に教えてもらった魔法だと話した。

 対憑依魔法は確かにそれほど難しい魔法ではないが、それでも学生が使うには相当難しい魔法のはず。

 ラーファもエレーネも一体なんなんだ?


『なあ、もう諦めて出て行ってくれないか?』

 守護人の圧力が一層強くなった。

 でも、私にも大事な任務がある。

 さっき、ミディアのイデアで興味深い情報を手に入れた。

 本当はそれを確認するまでは、ラーファから離れたくなかったが、これ以上は私の魔力がもちそうになかった。

 まさか、こんな憑依魔法を使った内定調査程度で魔力を使い果たすことになるなんて思わなかった。

 どうする?

 やはり、目の前のエレーネに憑依して、体勢を立て直すしか・・・

 だが、さっきの対憑依魔法が、その判断を躊躇させた。

 エレーネの魔法技術がどの程度のものかわからない以上、ここは一旦逃げた方がいい。


 私はエレーネに背を向けると、窓に向かって威力を抑えた爆撃魔法を一発はなった。

 しかし、威力は抑えたとはいえ、爆撃魔法だ。

 窓に激突して爆発すると、部屋中に凄まじい爆風が襲いかかった。

 ふと見ると、その爆風のショックで、エレーネが体勢を崩していた。

 今なら、相手は無防備だ。

 私は、再びエレーネに向かって憑依魔法を放った。

 エレーネもこっちに気づいたようだが、その体勢では魔法を撃つこともできまい。

 今度は、エレーネの魔法が放たれる前に、私の魔力がエレーネの体内に到達することができた。

 よし、これで憑依できる。

 その思って、少しホッとした瞬間だった。

 エレーネの体内から、凄まじい魔力が発生して、私の魔力を一気に外に押し返そうとする。

「こ、この魔力は・・・ま、まさか・・・」

 あの魔法術式・・・エレーネにも仕掛けていたのか。

 しかも、ラーファの時の威力とは比べものにならない。

 凄まじい力で、あっという間に私の魔力はエレーネの体からはじき出されてしまった。

 その時、

『貴様ごときに俺の大事な妹を穢させはしない。』


 守護人の声が聞こえてきた。

 この声・・・ラーファの中にいた守護人と同じ声だ。

 妹・・・ってことは、さっきから私の邪魔をしているこの守護人の正体は、エレーネの兄ということになる。

 なるほど、エレーネの言う通り、彼女の兄は天才魔導士なのかもしれない。

 エレーネとラーファの2人に、ここまでの守護魔法を仕掛けるなんてね。

 並の魔導士にできることではない。


 エレーネの憑依に失敗した以上、ラーファの体に留まるしかなかった。

『また出て行かないのか?うっとおしい奴だ。』

 相変わらずラーファの守護人が私を追い出そうとしているが、こちらの力はエレーネほどではなかった。

 とりあえず、ラーファの体のまま、窓から飛び出して脱出することにした。

 なんてことだ。

 誰にも気づかれることなく調査を行うのが私の仕事だと言うのに、窓を爆破するは、憑依に失敗して敗走とか・・・

 どうしよう?

 こうなったら、魔法学校に行って、誰でもいいから一旦憑依しよう。

 これ以上は、もう耐えられそうにない。

 学校に行けば、ミディアに憑依するチャンスはきっとあるはずだ。


 まだ朝も早かったので、学校には誰も来ていないようだった。

 とりあえず校舎で誰か手頃な生徒が来るまで隠れていよう。

 そう思い校舎に入ろうとした時、私の、いや、ラーファの体に強力な衝撃が走った。

「何、何が起こってる!?」

『さてはお前、ラーヴォルンの法律をきちんと見ていないな。』

 守護人が私に話しかけてきた。

 法律だと?

『ラーヴォルンでは、魔法学校を始めとした一部の公共施設には魔法結界が貼られている。

 それで、関係ない不審な人物が入ろうとした瞬間に結界が作動するんだよ。』

「なんだと!?」

 そういえば、そんなことをどこかで見たような気がする。

『ラーヴォルンの観光案内でも、注意喚起されていたはずなんだけどなあ。

 ダメだなあ、観光案内ぐらいはちゃんと目を通しておかないと。』

 守護人の話を気にする余裕はなかった。

 魔法結界の威力は凄まじく、これ以上ラーファに憑依し続けるのは不可能だった。

『特に未成年者の集まる魔法学校の魔法結界はかなり強力でね。

 邪悪な感情を持った部外者が入ろうとしたら、全ての体力と魔力を吸い尽くされて、恐らく立っていられないだろうね。

 この威力・・・魔法結界はお前を最大級の危険人物と判断したようだな。』

 守護人の言う通り、もう私にはどうすることもできなかった。

『そして、結界が作動したから、数分で憲兵隊もやってくる。

 まあ、憲兵隊に憑依しようだなんて、間違っても考えないことだな。」

 そんなことを考えるまでもなく、私の魔力はもう底をついていた。

「クソッ。」

 私はラーファの体を離れて、一旦自分の体に戻るしかなかった。


 結局、何がいけなかったんだろう?

 こんなに簡単な内偵調査で、どうしてこんなにも失敗してしまったのか?

 私はルーイエ・アスクの自室の自分の体に戻ってから、いろいろと考えてみたが、原因は一つしか思いつかなかった。

 今回の失敗の原因は、全てあの守護人のせいだ。

 あの守護人・・・エレーネの兄らしいけど、自分の妹はともかくどうしてラーファにまで?

 もしかして、ラーファに取りついて、時々いやらしいことでもしているんじゃ・・・

 ああ、汚らわしい。

 これだから男は・・・


 なんて冗談を言っている場合じゃなかった。

 今回の内偵調査は、あまりにも多くの痕跡を残しすぎた。

 楽勝の任務だと思ってたから、チェックインする時も普通にサインしちゃったし。

 ラーファの記憶操作は一応やったけど、恐らくうまく行っていないだろう。

 だとしたら、ラーファに憑依したのが私だってばれるのも、時間の問題だ。

 しかも、今気づいたが、私の魂にいつのまにかルーアの糸がつながっていた。

 ルーアの糸・・・逃げる相手の魂を追跡するためにつける魔法の糸。

 自分の体からはすぐ消去したけど、学校からこの部屋までは、ルーアの糸がおそらくずっと残っているはずだ。

 憲兵隊がこの糸を辿ってきたら、容易にここにたどり着くだろう。

 早くここから逃げないと・・・

 あーあ、リッカ・モンディールはこれまでかな。

 結構、気にいってたんだけどなあ。


 それに、全く成果がなかったわけでもない。

 まあ、ミディアに関しては、結局ほとんど何もわからなかったんだけど、もう一つの依頼については重要な情報を入手できた。

 できれば、この目で確認だけはしておきたかったけど、とりあえずイデアのデータは向こうに送付済みだ。

 ミディアとラーファにしか見えない「コトネ」と呼ばれる女の子の存在。

 一体何者なんだろう?

 イデアの映像を見たけど、美しい黒髪の女の子で、実に私好みだ。

 一度、この目で見てみたい。

 でも、「コトネ」を見るためには、ミディアかラーファに憑依するしかないのか。

 ・・・・・・

 これを報告したら、おそらく次はこの「コトネ」の調査になるに違いない。

 もっとも、ここから無事に逃げ切って、上司が今回の失態を許してくれたらの話だけど・・・


<<エレーネ>>

 気がついたら、夕方になっていた。

 私はラーファの部屋で、ずっとラーファの傍につきそっていた。

 ラーファの意識はまだ回復していない。

 ミディアとアイも、もうとっくに学校から帰ってきているはずなんだけど、2人とも姿を見せなかった。

 きっと、今はラーファを安静にしておきたいってことなんだろう。

 ミディアは少し違うかもしれないけど・・・

 そう言えば、結局、ミディアにはまだ何も説明していないんだっけ。

 ミディアにどう説明しよう?

 実に難しいところだ。


 私が思うに、今回の憑依者の目的は、きっとミディアだ。

 ミディアの部屋を探っていたみたいだし、ミディアにも憑依しようとしたようだし。

 ラーファに憑依したのは、ミディアに近づくためだろう。

 事前調査でミディアがラーファと同じ家に住んでいることは知っていただろうし、まずはラーファに憑依して、ミディアに近づこうと考えたんだろう。

 でも、犯人はどうしてミディアを狙ったのだろう?

 もしかして、ミディアには何か秘密があるのだろうか?

 私達は3年前からのミディアしか知らない。

 3年より前のミディアのことを、私達は全く知らない。

「まさか、ミディアがどこぞの国の王女様・・・なんてことはさすがにないかな。」

 王女の失踪なんてことがあれば、連日ニュースになるだろうし、ミディアの顔を見て一目で気づく観光客だっているだろう。

 でも、王女の失踪なんてニュースは聞いたことないし、ミディアが観光客に注目されることもない。

 ラーヴォルンじゃあ金髪が珍しいから、その点でたまに注目されることはあるけど、せいぜいその程度だ。

 もしかしたら、3年前は闇の世界で暗躍していたとか・・・あのミディアに限ってそれはないかな。

 ミディアが闇の世界で暗躍している姿なんて想像もできない。


「エレーネ・・・」

 かすかにラーファの声が聞こえた。

 驚いてベッドの方を見ると、いつの間にかラーファは目を覚ましていた。

「ラーファ、気がついたか?」

「エレーネ・・・助けてくれてありがとう。」

 ラーファの目から涙がこぼれていた。

 よっぽど怖かったんだろうな。

 でも、本当に助けてあげられたとは言えない。

 だって・・・

「残念だけど、ラーファに憑依した犯人はまだ捕まってないよ。」


 そう、今回の犯人はまだ捕まっていない。

 あの後、憲兵隊の部屋に行って、これまでに起こったことを全部話した。

 ラーファはまだ意識を取り戻していなかったけど、お医者さんはラーファの体内に残っている残留魔力のマーシャント分析を行なった。

 私は憲兵隊と話をした時にあの魔法結晶を手渡した。

 憲兵隊は魔法結晶を見て驚いていたが、学校の成績が優秀だったらこれくらいのことはできるとか言ってなんとかごまかした。

 本当は、あの魔法結晶を作ったのは、兄貴なんだけどね。

 そして、私は憲兵隊に知っていることを全て話した。

 昨日ラーファの姿を最後に見たのはリッカ・モンディールという人の荷物を運んだ時だったこと。

 今朝には既に豹変していたこと。

 リッカ・モンディールは、このルーイエ・アスクの宿泊客で、リーヴァ王国建国祭の準備のためにラーヴォルンに来ていること。

 ルーイエ・アスクに戻った時には、すでに数名の憲兵隊が来ていた。

 なんでも、ルーアの糸を辿ったとか言ってたけど、私には何のことかさっぱりだ。

 私の話を聞いた憲兵隊はルーイエ・アスクに記録されたリッカのサインを、マーシャント分析で調べた。

 ルーイエ・アスクでは宿泊時にサインを記録するが、その時のサインは魔力で行なわれる。

 その魔力をマーシャント分析にかけた結果、ラーファの体内に残っていた残留魔力のマーシャント分析の結果と完全に一致した。

 さらに、魔法結晶の分析結果も同じ結果だったため、今回の犯行はリッカ・モンディールの仕業で間違いないと断定された。


 早速、憲兵隊はリッカ・モンディールの部屋に向かったが、既に部屋には何の痕跡も残っていなかったらしい。

 また、首都モンフェルンのリーヴァ王国建国祭運営委員にも問い合わせたところ、リッカ・モンディールなんて運営委員は存在しないことも判明した。

 憲兵隊はリッカ・モンディールを重要参考人として指名手配したけど、まだ捕まったという話は聞いていない。

 憲兵隊は、この手の人物は複数の色を持っている可能性が高く、捕まえるのは非常に難しいと話してくれた。

 普通、人の魂は、一つの色に染まっている。

 ここでいう色とは、個性とか人格とかそう言うことではなく、マーシャント分析で表示されるスペクトルのことを指すらしい。

 分析結果のレポートの表紙には、スペクトルを色に変換した映像がつくことから、いつからかみんな色って言うようになったらしい。

 魂の色は一人一人微妙に違っていて、誰一人として同じ色の人はいないらしい。


 魔法の力の源泉はマーシャントだけど、人間は直接マーシャントを消費して魔法が使えるわけではない。

 まず、魂がマーシャントを吸収し、人間は魂が吸収したマーシャントを魔法エネルギーに変えて魔法を放つことができる。

 その魂がマーシャントを吸収する過程で、吸収されたマーシャントに色がつくらしい。

 そんなわけで、人の放った魔法には、全てその人の魂の色がついているらしい。

 だから、マーシャント分析で色を特定できれば、誰が使った魔法なのかを特定することができる。

 魔法を使った事件とかを調べる場合には、必ずこのマーシャント分析が使われるらしい。

 へえ、初めて知ったよ。


 ところが、中にはごくわずかにだけど、複数の色を持っている人がいるらしい。

 特にスパイや探偵といった人達は、複数の色を使い分けることができるらしくて、憲兵隊曰くリッカもそういう類の人じゃないかってことらしい。

 だとしたら、そいつはリッカを切り捨てて、別人になって、また私達に近づいてくる可能性があるってことだ。

 何とも恐ろしい話だ。

 本来ならミディアやラーファにちゃんと話した方がいいんだろうけど、下手に怖がらせるだけのような気もするし、どうしよう?

 あの2人、ただでさえ怖がりだからなあ。


「そっか・・・リッカさん、捕まってないんだ。」

 ラーファは明らかに落胆していた。

 そりゃあそうだ。

 犯人が捕まらないと、ミディアもラーファも安心できないだろう。

「でも、エレーネ、本当にありがとう。」

 ラーファは私にもう一度お礼を言った。

「でも、私、そんなに大したことできなかったよ。

 ミディアが襲われた時も、私は結局間に合わなかったし、ミディアは自力で脱出したみたいだしさ。」

「それでも、私の声を聞いて・・・ミディアを助けに来てくれて・・・ありがとう。

 ミディアの身に何かあったら、私・・・私・・・」

 ラーファの目から大粒の涙がこぼれる。

 まったく、大変なのは憑依されたラーファの方だってのに。

「でも、これからが大変だぞ。

 なんせ、ミディアは今でもラーファが襲ってきたって思ってるだろうし・・・」

「ウウン、ミディアが無事だったらそれでいい。

 私はまた一からミディアの信頼を取り戻せるように頑張るよ。」

 ラーファはそう言って涙をぬぐった。

 本当に、ラーファはミディアのことが大好きなんだなあ。

 わかったよ。

 ラーファのためにも、ここは私がミディアの誤解を解いてあげるかな。


 って待てよ。

 ここで、私はとんでもないことを見落としていたことに気づいた。

 そうだ、今、ミディアはどこにいるんだ?

 もうとっくに学校は終わっているはずの時間なのに、まだ姿を見せない。

 魔法学校は結界が貼られているから大丈夫だけど、学校から一歩出たら、ミディアを守るものは何もなくなる。

 いや、一応、ルーアの糸とやらがあった学校からルーイエ・アスクまでのルートは、憲兵隊がたくさんいるから大丈夫なはず・・・

 でも、ミディアが寄り道でもしたらどうなる?

 そして、ミディアが逃走中のリッカ・モンディールと出会ってしまったら・・・

 ラーファのことばかりに気を取られて、ミディアのことまで頭が回っていなかった。

 もしかして、ミディアがまだ帰って来てないのって・・・リッカに・・・

 だとしたら、ミディアを助けに行かないと・・・

 そう思って、勢いよく立ちあがった時だった。


 コンコン・・・

 ラーファの部屋の扉を叩く音がした。

「ハイ、どうぞ。」

 ラーファがそう言うと、ゆっくりと扉が開いた。

 扉の向こうには、ミディアが立っていた。


<<ミディア>>

 今日は学校の授業の内容は、ほとんど頭に入ってこなかった。

「ラーファ先輩、家に帰るそうだけど、ミディア、一緒にお見舞いに行こうよ。」

 休み時間、アイがそう言ってきたけど、私は断った。

 だって、どんな顔してラーファに会えばいいかわからないから。

 私を襲ってきた時のラーファの表情が、恐ろしくて頭から離れない。

 ラーファのあんな怖い顔、初めて見た。

 ラーファに襲われたこともショックだけど、あのラーファの豹変ぶりも私にはショックだった。

 今はラーファは医務室で眠っているけど、いつ目覚めてまた襲いかかってくるかわからない。

「ラーファ・・・一体どうしちゃったの?」

 朝からいろんなことがありすぎて、正直パニック状態だった。

 優しかったラーファと、怖い顔のラーファ・・・

 二つの顔がグルグルと回って、私を混乱させる。


 しばらくすると、琴音が学校に来た。

 すごい心配した顔になっているところを見ると、多分、私の部屋に行って、惨状を見たんだろう。

 琴音は励ましてくれたけど、今はそれが逆に辛かった。

 なんか、うまく気持ちを整理できない。

 ラーファとの関係は、もう元には戻らないのかな?

 そんなことを考えたら、涙が止まらなくなってしまった。


「ミディア、何があったの?

 ラーファ先輩は倒れてるし、ミディアはずっと暗いし、絶対に何かあったとしか思えない。」

 アイは私が何も話さないことに少し苛立っていた。

 その様子だと、どうやらエレーネ先輩も何も話さなかったみたいだ。

 アイは親友だし、できるだけ隠し事はしたくないと思っている。

 でも、こんなことを一体どう話せばいいんだろう?


「ミディアちゃん、本当に大丈夫?」

 何も話していないのは琴音も同じだ。

「私なら大丈夫・・・」

 そう返すのがやっとだった。


 そうこうするうちに、いつの間にか下校時間になっていた。

「帰ろう、ミディア。

 食事・・・する気分にもなれないでしょ。」

 アイが私にそう聞いてきた。

「ウン・・・」

「じゃあ、帰ろっか。」

「そうだね。」


 そうだねと頷いてみたものの、本当に帰っていいのか、私にはわからなかった。

 家にはラーファがいる。

 そう思ったら、体がすくんだ。

 ラーファに会いたいけど、会いたくない。

 自分でもわけがわからなくなっていた。

「ミディアちゃん・・・もしかして、家に帰るのが怖いの?」

 琴音が私に尋ねてきた。

 どうやら、私の様子を見て、そう思ったらしい。

「・・・・・・ウン・・・」

「わかるよ。

 何があったかわからないけど、あんなに部屋がメチャクチャになるなんてただ事じゃないもんね。」

「琴音は見たんだよね。私の部屋。」

「ウン・・・それで慌てて学校まで飛んできたんだ。

 だからね、ミディアちゃんの無事な姿を見た時は、本当にホッとしたんだよ。」

 琴音はそう言って、ニコッと笑った。

 琴音にもアイにも、すごい心配をかけている。

 このままじゃダメだ。

 やっぱり、ここは2人にあったことをきちんと話さないといけない。


「アイ、ちょっと寄り道して帰らない?」

「えっ、いいけど・・・

 ミディアが寄り道しようなんて言うのって珍しいなあって思って・・・」

「琴音もいい?」

「私はミディアちゃんの行くところなら、どこにでもついて行くよ。」

 琴音も笑顔で頷いてくれた。


用語集

(1)守護人

特殊な魔法により、意思を持った魔法。

大抵は術者の意識、魂の一部を魔法術式によって対象にかける。

対象に何らかの危機が訪れた場合に、守護人は発動する。

守護人は対象を脅威から守るために様々な行動を起こすが、実際にどういう行動を起こすかは守護人による。


(2)魔法結晶

魔法エネルギーを結晶化させたもの。

魔法結晶から術者の特定を行なうことができる。


(3)イデア

様々な用途で使用される魔法媒体のこと。

ミディア達が使う場合、イデアは、主に映像を記録した映像イデアのことを指す。


(4)ルーアの糸

逃げる相手を追跡するために、相手の魂につける魔法の糸

対象が気づいてはずすまで、延々と伸び続け、対象の移動した痕跡を残すことができる。

ルーアの糸は一部の人にしか見ることができず、またごく一部の人にしかその存在を知られていない。


(5)マーシャント

マーシャントとは宇宙にあふれる生命エネルギーのようなもの。

生命や星は、マーシャントを消費しながら生命活動を行なう。

地球ではマーシャントの存在は認識されていないが、アトゥアではマーシャントの存在は知られており、魔法やイデアなどに活用されている。


(6)魂

すべての魂は、マーシャントから生まれてくる。

魂はそれぞれ独特の色を持っており、同一の色を持つ魂は存在しないと言われている。

色とは魂のマーシャントスペクトルを色で表したものだが、こちらの方がわかりやすいからか、いつからか色と呼ばれるようになった。


(7)魔法

魔法はマーシャントをエネルギー源とするが、直接マーシャントを利用することはできない。

魂が吸収したマーシャントを魔力に変換することで、魔法を放つことができるようになる。

吸収されたマーシャントには魂の色がつくため、それをエネルギー源とする魔法にも色がつく。

人が扱える魔力の大きさは、魂が一度に吸収できるマーシャントの量に依存している。


(8)マーシャント分析

憲兵隊が魔法事件を調査する時に使用する。

残存魔力等を分析して、魔力の色を調べることで、誰が放った魔法かを特定することができる。


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