21.謎の守護人とリッカの大誤算
<<エレーネ>>
とりあえず、ラーファの体に大きな外傷とかはないみたいだった。
呼吸は・・・よかった、正常に息している。
窓を突き破って飛び出したから、どこか怪我してるんじゃないかって気にはなってたんだ。
お医者さんに診てもらわないと、正確な症状はわからないけど、この様子だとひとまずは大丈夫なようだ。
少しホッとした。
「私がラーファのこと嫌いになるわけ・・・ないじゃないですか。」
ミディアの口調は非常に歯切れが悪かった。
それに、ミディアはラーファのことを心配しつつも、ラーファのことを怯えているようだった。
ラーファが眠っているベッドに近づこうとせず、私の背後からラーファの様子を見るだけだった。
私は直接現場を見ていないからわからないんだけど、よっぽど怖い目に合ったんだな。
かわいそうに。
突然、医務室の扉が勢いよく開いた。
「ラーファ先輩が倒れたって、本当ですか?」
やっぱり、入ってきたのはアイだったか。
アイはベッドで横たわっているラーファの姿を見て、ひどく狼狽していた。
「ラーファ先輩は大丈夫なんですか?
な、なんか、意識がないみたいですけど・・・」
「体に異常はないみたいだし、呼吸もしているから、多分大丈夫だと思う・・・」
ミディアがアイにそう言うと、アイは少しだけ安堵の表情を見せた。
とりあえず、ここは私が様子を見ておくことにして、ミディアとアイには授業を受けてもらおう。
「ラーファのことは私が見ておくから、2人は教室で授業を受けてこい。」
私はそう言って、半ば強引にミディアとアイを医務室から追い出そうとした。
アイは
「私も一緒にいます。」
と散々抵抗したんだけど、ミディアが
「ラーファのことをお願いします。」
と言ってあっさりと出て行っていくと、アイは驚いて慌ててミディアの後を追いかけていった。
どうやら、アイもアイなりに何かを感じ取ったようだ。
「むしろ、今一番気がかりなのは、ミディアなんだよなあ。」
でも、お医者さんが来るまでは、私もここを離れるわけにはいかないし・・・
それに、私自身もこれまであったことを少し整理したい。
まだ、朝の授業が始まったばかりだ。
そんな時間だと言うのに、今日は朝から衝撃的なことがたくさんありすぎた。
ラーファは、まるで何事もなかったかのようにぐっすり眠っていた。
でも、実際には色々と起こったわけで・・・
「ラーファ・・・目を覚ましたらショック受けないといいけどなあ。」
ルーイエ・アスクに着く前から、私はラーファの異変には気づいていた。
私はいつも寝る前に、おやすみの挨拶をルティアで送る。
ラーファはうっとおしがって、よく拒絶されるんだけど、昨日はラーファに全くつながらなかった。
拒絶じゃなく、つながらなかったことに少し違和感を覚えたけど、昨日はお誕生会で疲れていたから、特に深く考えることもなくそのまま眠りについた。
でも、早朝だった。
「助けて・・・助けて・・・」
突然、頭の中に人の声が聞こえてきて、目が覚めた。
最初は怖いと思った。
明け方とはいえ、まだ太陽が全く出ていない時間。
そんな時間に、頭の中でこんな声が聞こえてきたら、誰だって怖いと思うだろう。
しばらくすると、もう一度声が聞こえてきた。
「助けて・・・助けて・・・」
さっきよりは少し冷静になって声を聞くことができた。
そして、冷静になって聞いてみれば、よく聞き覚えのある声だってことに気づいた。
「ラーファ・・・ラーファなのか?
どうした、何があった?」
すかさず、ルティアでテレパシーを送り返してみたけど、ラーファからの返事はなかった。
こんな明け方に、ラーファが私にテレパシーを飛ばしてくるなんて、普通じゃ考えられない。
しかも、ラーファ、助けを求めていた。
しばらく起きて様子を見ていたけど、ラーファからのテレパシーは飛んでこなかった。
きっと、さっきのは気のせいだ。
そう思って眠りたかったけど、さっきのラーファの声が頭の中に残って、どうしても眠れなかった。
そうこうしているうちに、だんだん外が明るくなってきた。
仕方がないので、登校にはかなり早いけど私は学校に出かける準備を始めた。
顔を洗って、制服に着替えて、いつもの学校のカバンを手に取った時だった。
「助けて・・・ミディアが・・・襲われる。
ミディアを・・・助けて・・・お願い・・・」
今度ははっきりとラーファの声が聞こえてきた。
って、ミディアが襲われるだって!?
これはただ事じゃない。
私はすぐに部屋を飛び出した。
「今日はえらい早くに学校に行くのね。」
起きたばかりのお母さんにそう聞かれたのだけは覚えている。
適当に返事を返して、私は慌ててルーイエ・アスクに向かった。
今になって冷静に考えたら、この時、私は大人の力を借りるべきだったと思う。
お母さんに話して、憲兵隊に通報するとか、ラーファの両親に話すとか。
でも、この時の私は、自分がラーファとミディアを守るという考え以外、全く持っていなかった。
ルーイエ・アスクに着いたら、ラーファの両親に適当な理由をつけて、一気にミディアの部屋に乗り込むつもりだった。
けど、ルーイエ・アスクに到着してみると、ミディアはラヴィおばさん達と一緒にいた。
見たところ、何の被害も受けてなさそうだ。
あれっ、じゃあ、もしかして私の聞いたあれは、ただの私の錯覚だったのかな?
朝早かったから、寝ぼけてたのかなあ?
いや、あのラーファの言葉が嘘だったとは思えない。
ここは一つ確認してみるか。
私はラヴィおばさんと適当に話をした後、ミディアに頼んだ。
「そんなわけで、ミディア、ちょっとラーファ起こして来てくれない?」
瞬間、ミディアの体がピクッと震えるのを見た。
間違いない、やっぱりミディアは襲われたんだ。
でも、自力で脱出して、ここまで逃げてきたんだ。
結構ミディアもやるなあ。
少し感心したよ。
ミディアはひどく怯えていたけど、とりあえず被害は受けていなかったようだったので、ひとまず安心した。
これで、あとはラーファを助けるだけだ。
そう考えたら、かなり気が楽になった。
「いやあ、ラーファってミディアのことが本当に大好きなんだなあ。」
私がこう言ったらミディアはすごい怒った。
まあ、ラーファにひどく怖い目に合わされたみたいだし、ミディアが怒るのも無理はない。
でも、自分の方が危険な状態のくせに、ラーファは自分のことよりミディアのことを心配していた。
まあ、ラーファらしいと言えばラーファらしいんだけど、ミディアのことが本当に大好きなんだなあと思った。
階段を上がってミディアの部屋に行ってみると、ラーファはミディアの部屋でなんか悔しがっていた。
大方、ミディアを取り逃がしたことをずっと悔しがっていたんだろう。
それにしても、ラーファ、すごい怖い顔してるなあ。
こりゃあ、ミディアが怖がるのもわかるよ。
ここに来て、初めて私は誰か大人の力を借りるべきだったと少し後悔した。
目の前のラーファはどう考えても異常だ。
その異常の要因は大体察しがついてるが、だったら尚更大人の力を借りるべきだった。
でも、ラーファは私に気づいちゃったみたいだし、時すでに遅しだった。
「おはよう、ラーファ。ミディアの部屋で何やってるのかな?」
とりあえず、いつもの軽い感じで挨拶してみたけど、ラーファの表情は全く変わらなかった。
それどころか、何事か小さな声でつぶやいた。
ここからじゃ何言ってるかわかんないけど、まあ、なにやろうとしているかは大体察しがついた。
だから、私のすることも決まっていた。
うまくできるといいけど・・・やるしかないか。
ラーファの目が光る前に、私は間一髪で自分の前に魔法結界を貼った。
案の定、ラーファの目から飛び出した光は、私の結界に跳ね返されて、ラーファの体の中に戻されていた。
久しぶりに使った割には、結構上手にできた。
「なっ!?」
ラーファは驚いていた。
いや、正確に言うならば、ラーファに取りついている奴が驚いていたんだけど。
「ただの一介の学生に、対憑依魔法の結界なんて・・・」
まあ、驚くのも無理はない。
人に取りつく憑依魔法自体、学校はおろか普通の社会では全く使われない魔法だ。
こういう魔法を使う人達ってのは、総じて表じゃない社会で活躍する人達だ。
ラーファに憑依しているのも、おそらくその手の輩に違いない。
そんな憑依魔法を封じる魔法を、ただの学生に過ぎない私が使ったんだから、そりゃあ驚きもするだろう。
「私の兄貴が魔法の天才でね。
アトゥア中を旅しては、色んな魔法を覚えて帰ってくるんだけど・・・
世の中には危険な魔法があるから、エレーネも知っておいた方がいいって、兄貴が教えてくれた魔法がいくつかあったんだよ。
今、私が使った対憑依魔法もそのうちの一つさ。」
「バ、バカな・・・」
ラーファに取りついている奴は、ひどく怯えていた。
「クソッ、このままじゃ・・・これ以上、この体にいるのもキツイし・・・クソッ。」
キツイ?
ラーファに憑依している奴は、なんかすごい苦しそうだった。
もしかして、憑依にはタイムリミットでもあるのかな?
そんなことを考えながら、ラーファの方を見ていたら、ラーファは突然窓の方に向かって突進した。
次の瞬間、凄まじい爆発が起こった。
突然の爆風で全く備えていなかった私は衝撃で吹き飛ばされて、腰を壁に思い切り打ちつけてしまった。
「アイタタタ・・・」
奴は、本当はそのまま窓から逃げるつもりだったみたいだけど、私が態勢を崩したのを見て、反転して攻勢に打って出てきた。
「しまった。」
この態勢からじゃ、魔法を使うこともできないし、間に合わない。
いくらすごい魔法を知っていても、私の魔法スキルは所詮学生レベルだ。
クソッ、これまでか。
正直、奴に憑依されることを覚悟した。
実際、奴の魔力が、私の体に入ってきたのを感じた。
でも、次の瞬間、私の体内から別の力が突然発生すると、奴の魔力を私の体外にはじき出してくれた。
その時、確かに私は聞いた。
(貴様ごときに俺の大事な妹を穢させはしない。)
あれは、確かに兄貴の声だった。
そう言えば、魔法を教えてくれたあの日、おまじないと言って私に何かやってたのを思い出した。
まさか、あの時のおまじないって、これだったの?
かわいい妹を放ってどこに行ってるんだって思っていたけど、兄貴はずっと私のことを守ってくれてたんだ。
「な、一体なんなんだお前らは!?」
奴はラーファに再び戻ると、今度こそ窓の外から飛び出して行ってしまった。
「いや、その質問は、むしろ私の方がしたいよ。」
一体なんなんだお前はってね。
て言うか、お前「ら」ってどういうことだよ?
それにしても、思い切り腰を打ちつけた。
それに、さっきの爆発で、ミディアの部屋は無残なことになっていた。
こりゃあ、さすがにおばさんに怒られるなあ。
そう思ったけど、駆けつけたラヴィおばさんは私の体のことを気遣ってくれた。
本当に、ラーファはいい両親に恵まれてるなあ。
いや、別にうちの両親が酷いってことじゃないよ。
ただ、友達の両親から、こういう優しさを受けた時って、妙に嬉しくなるんだよね。
ミディアの学校に行く準備が終わるのを待っている時に、私は、いつの間にか手に結晶のようなものを握っていることに気づいた。
「なんだろう?」
その時、私の頭の中で声がした。
『それは奴の魔法エネルギーの一部を結晶化させたものだ。
後で、憲兵隊にでも渡すといい。』
それは兄貴の声だった。
「兄貴、もしかして、この近くにいるの?
いるんだったら、私に姿を見せてよ。」
でも、それ以降、兄貴の声がすることはなかった。
結局、私は兄貴に助けられた。
でも、どれだけ周囲を探しても、兄貴を見つけることはできなかった。
「兄貴・・・会いたいよ。」
私が呟いたちょうどその時、医務室の扉がノックされた。
「入るわよ。」
どうやら医務室のお医者さんのようだ。
きれいな女性のお医者さんだった。
「この子が倒れていた子ね。」
お医者さんは私にそう確認すると、ラーファのベッドの方へと向かった。
ラーファは体中に小さな傷があり、魔力も体力も完全に消費しきっていた。
ただ、お医者さん曰く、一日ぐっすり休めば回復するだろうとのことだったので、ラーファは家に帰ることになった。
迎えに来たラヴィおばさんはすごい心配していた。
そりゃあ、窓を破って家から飛び出した挙句、学校で倒れてたなんて話を聞いたんだから、心配するのも無理はない。
私も今日はラーファの傍にいてやろうと思い、一緒に学校を早退することにした。
「ラーファ先輩・・・大丈夫ですか?」
早退間際にちょうど休憩時間になって、アイは医務室に飛び込んできた。
「ラーファさんは極度に体力と魔力を消耗していますが、一日安静にしていれば、明日にはいつもの元気なラーファさんに戻りますよ。」
お医者さんの話を聞いて、アイは安堵していた。
しかし、私はそれよりも気になることがあった。
「なあ、アイ、ミディアは?」
「ミディアも誘ったんだけど、私はいいって断られた。」
まあ、ミディアの気持ちもわからなくはない。
多分、ラーファのことが怖いんだろう。
それに、まだ全てが解決したわけじゃないからね。
「そうだ、学校に憲兵隊も来ているのよ。
ラーファさんに少し話を聞きたいそうなんだけど、これじゃ無理ね。」
お医者さんはそう言うと、憲兵隊の待っている部屋に行こうとした。
「とりあえず、私が話します。」
「あなたが?そう、わかったわ。」
お医者さんは頷くと、私を憲兵隊の待っている部屋に連れて行ってくれた。
ラーファをこんな目に合わせた犯人を早く捕まえてほしかったし・・・
そのためにも渡さないといけないものもあったからね。
<<リッカ>>
憑依魔法を使っての内偵調査なんて、これまで数えきれないほどやってきた。
だから、今回の内偵調査もすぐに終わる。
今回の対象は学生だし、はっきり言って楽勝だと思った。
ついでだから、ターゲットのミディアも頂いちゃおう。
私って、かわいい女の子には手を出さずにいられないんだよね。
何も知らなさそうな無垢な少女を、ありとあらゆる快楽で染め上げる。
考えただけで、ゾクゾクした。
正直、内偵調査よりも頭の中はそっちのことでいっぱいだった。
まずは、ミディアにもっとも身近なラーファに憑依して、数日観察してから・・・グフフフ・・・
まあ、それくらいの余裕があったということだ。
しかし、その余裕は最初でいきなり崩れた。
ラーファに憑依魔法をかけて乗っ取るところまでは完璧だった。
ところが、そこから先が全て予想外の出来事だった。
ラーファに憑依した瞬間から、私の魂を押し出そうとする謎の凄まじい力が襲いかかった。
人に憑依するのに、それなりの魔力は必要ではあるけど、こんなに拒絶の力が働くケースは今まで体験したことがなかった。
「何なの、この子は?」
いや、ラーファの魂は無意識状態だ。
じゃあ、一体何が?
そう思い、ラーファの魂を観察していて、ラーファの魂にエヴィラル痕があることを発見した。
「う、嘘でしょ!?」
17歳でエヴィラル痕って・・・この子・・・まさか・・・信じられない。
さらに、ラーファの体内を調べるうちに、ラーファに2つの強力な魔力術式が施されていることがわかった。
私を追い出そうとしているのは、そのうちの一つの力によるものだった。
ラーファイム・ルーイエ・ラーヴォルン。
私の事前調査ではごくありふれた普通のラーヴォルンに住む女の子のはずだった。
でも、これはどう見ても普通の女の子じゃない。
ただの17歳の女の子の魂に、エヴィラル痕があったりしない。
ましてや、体内に強力な2つの魔法術式が施されていたりしない。
『なあ、お前、いつまでラーファの体にいるつもりだ?』
突然、声が聞こえてきた。
『何を驚いてる?お前もルティアの仕組みは知ってるだろう。』
いや、ルティアのことぐらい知っている。
問題は誰がルティアを使って、私に語りかけてきているのかってことだ。
『またまた、本当はわかってるんだろう?』
まさか、魔法術式が私に語りかけてきている?
信じられなかった。
まさか、この魔法術式は、意思を持っていると言うのか?
だとしたら、これはもはや魔法術式なんてレベルじゃない。
もはや守護人だ。
とりあえず、最低限の仕事だけはしないといけない。
守護人は、すごい力で私を押し出そうとするけど、私は全力でラーファの体内に踏みとどまった。
でも、ラーファの記憶は完全に防御されていて、私には情報を入手することができなかった。
ラーファの部屋から手がかりを得ようと思ったけど、ラーファの部屋は非常に物が多かった。
棚には大量のイデアが並んでいるし、とてもじゃないけど全部すぐに見られる量じゃなかった。
ミディアの部屋に入って、手がかりを得る方が手っ取り早いと思った。
大体、私の今回のターゲットはミディアなのだから。
本当はもう少し慎重に機会をうかがってから、ミディアの情報を調べるつもりだった。
でも、気を抜くとすぐにラーファの体から追い出されそうになるこの状況では、時間をかけることもできなかった。
そうだ、ついでに、多少強引でもミディアの体も頂いてしまおう。
たっぷりと快楽を与えた後で、ミディアの体に取りついて、今度は内から快楽を与えてやろう。
こんな状況でも、こんなことを考えている自分に少し笑いそうになった。
でも、強い感情は近くにいる魂に伝達しやすいということを忘れていた。
私の黒い欲望はよっぽど強い感情だったらしく、無意識状態だったラーファがいつの間にか意識を取り戻していた。
そして、どこかに向かってルティアを放っていた。
ただ、それを阻止するほどの力の余裕はなかった。
誰かを呼んだとするなら、すぐに事を済ませないと。
『へえ、君って同性愛者なんだ。
しかも、かなりのド変態だね。』
守護人が私の集中力を乱すように、色んなことを語りかけてきた。
でも、相手にしたらダメだ。
少しでも気を許したら、ここからはじき出されてしまう。
ミディアの部屋にそっと入った。
明け方が近い時間ではあったが、ミディアはまだぐっすりと眠っていた。
眠っているミディアの姿は、本当にかわいかった。
その姿を見ているうちに、再び欲望がムラムラと湧いてきた。
ああ、この子をメチャクチャにしたい。
ダメだ、今は任務に集中しないと。
このままだと成果0で終わってしまう。
ミディアの部屋は、ラーファと違ってベッドと机とタンス以外、ほとんど何もなかった。
とりあえず、机の上のイデアを魔法でざっと眺めてみる。
ほとんどが風景のイデアで、ミディアが映っているものも少なかったのでつまらなかったが、興味深いものもいくつか見つけた。
この部屋では、イデア以外に見るべきものも特になさそうだし、やっぱりここはミディア自身をじっくり観察するしかない。
そう、これは大事な任務だ。
相変わらず、ラーファからはすごい力で追い出されそうな状態だし、ここは一度ミディアに乗り移った方がいいかも・・・
本当であれば、乗り移る前にミディアと事を済ませたかったんだけど、そうも言ってられない。
しかし、私が近づくと、気配を察したのか、ミディアが目を覚ましてしまった。
こうなったら仕方がない。
私はミディアの上に乗っかり、ミディアの体を強引に押さえつけた。
あとは乗っ取るだけ・・・なんだけど必死に逃れようと身をよじらせているミディアを見ているうちに、黒い欲望が完全に目を覚ましてしまった。
やっぱり、せっかくだから頂いてしまおう。
ミディアは必死に抵抗していたけど、私の手を払いのけることもできない。
実にかわいい抵抗だ。
「じゃあ、いただきます。」
そう言って、ミディアの顔に近づいて、まずはディープなキスから始めようと思った。
でも、それはかなわなかった。
正直、自分の身に何が起きたのかわからなかった。
気がついたら、向かいの壁に叩きつけられていた。
ベッドの方を見たら、ミディアが起き上がって、私を突き飛ばすような姿勢になっていた。
ということは、多分あの子に突き飛ばされたんだろうけど、なんて早業だ。
突き飛ばされた記憶が全くない。
ミディアは慌てて部屋を出て行こうとした。
マズイ、これは実にマズイ。
ミディアに騒がれて大事になったら、内偵どころではなくなる。
まずはミディアの動きを止めよう。
私はミディアに向かって束縛魔法を放った。
束縛魔法は確実にミディアを捉え、ミディアは全く動けなくなるはずだった。
しかし、ミディアは平気で束縛魔法を打ち破り、そのまま部屋を出て階段を降りて行ってしまった。
「どうして、私の魔法が効かないのよ?」
もちろん、自分の体の時ほど自在に放てるわけではないけど、この程度の魔法であれば何の問題もないはず。
『お前、もしかして気づいてなかったのか?』
また、守護人の声が聞こえてきた。
ていうか、気づいていないってどういうことだ?
『お前は魔法を放ったけど、その前にラーファが微妙に手の向きをずらしたんだよ。
だから、魔法はミディアにはかすりもしていない。』
手の向きがずれていたなんて、全く気づかなかった。
憑依されている魂は、体から切り離された瞬間に意識を失う。
それなのに、さっきからラーファの魂は意識があるようだった。
意識があるのは、恐らく守護人の影響に違いない。
しかし、体から切り離された状態で下手に動こうとすると、魂に負荷がかかり、寿命に影響しかねない。
それなのに、ラーファはルティアを使ったり、手を動かしたり、魂だけになりながらも必死に抵抗していた。
まさか、ここまで抵抗されるとは思わなかった。
マズイな・・・やっぱりここは一度この子から離れるしかない。
だが、撤退するにあたって、一つ問題があった。
いつもであれば、対象の憑依前後の記憶を消してから離れるので、憑依を解除しても対象は自分が憑依されたことを覚えていない。
しかし、今回は別だ。
ラーファの体内には、なぜか守護人がいる。
この守護人のおかげで、ラーファの記憶にアクセスすることすらできない。
記憶が消せないとなると、憑依を解除した時点で事件が発覚してしまう。
まあ、ミディアのおかげで既に発覚はしてしまっている。
それに、ラーファの体で確認しておきたいこともある。
であれば、多少厳しくても、ここはラーファの姿のままで行くべきだ。
とはいえ、さすがに魔力が限界に達しようとしていた。
まさか、こんなことで魔力を大量消費することになるとは、思わなかった。
ここは一旦、態勢を立て直してから、直接ミディアに憑依した方がいいとそう思った時だった。
一人の女の子が部屋に入ってきた。
用語集
(1)ルティア
意識間での意思伝達を行なう魔法。
意識は魂が体に憑依した時にできるものなので、魂から直接使うことも可能である。
本来はテレパシーだけの魔法だけだったが、最近では拡張されて仮想の魔法世界に意識を転送する魔法としても使われる。
魔法世界は個々の街や国単位で持っており、ラーヴォルンの場合はラヴォルティアという魔法世界が存在する。
(2)アトゥア
ミディア達が住む世界のこと。
幾つかの国が存在し、エレーネ曰く秘境と呼ばれる場所が存在するらしい。
(3)守護人
特殊な魔法により、意思を持った魔法。
大抵は術者の意識、魂の一部を魔法術式によって対象にかける。
対象に何らかの危機が訪れた場合に、守護人は発動する。
守護人は対象を脅威から守るために様々な行動を起こすが、実際にどういう行動を起こすかは守護人による。
(4)魔法結晶
魔法エネルギーを結晶化させたもの。
魔法結晶から術者の特定を行なうことができる。
(5)イデア
様々な用途で使用される魔法媒体のこと。
ミディア達が使う場合、イデアは、主に映像を記録した映像イデアのことを指す。
(6)エヴィラル痕
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