表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
65/254

19.琴音の中学時代

<<琴音>>


 ニコちゃんの家に戻ると、本当に野々川君はいなくなっており、私達がここに来る前と変わらない静寂さを保っていた。

「まあ、2人ともとりあえず座ってよ。

 冷たい麦茶でも持ってくるからさ。」

 ニコちゃんはそう言ってから、部屋の外に出る。

 冷たい麦茶はありがたい。

 ただでさえ、最近家から出てなくて、暑さに慣れてなかったのに、日花里ちゃんを追いかけて炎天下の中で全力疾走しちゃったからね。

 私も汗だくだったけど、よく見たら日花里ちゃんも汗だくだった。

「もう、こんな暑い中で日花里ちゃんが全力疾走なんかするから・・・」

「悪かったわね。」

「でも、日花里ちゃんの機嫌がよくなってよかったよ。」

 私がそう言うと、日花里ちゃんは少し照れくさそうに笑った。


 しばらくするとニコちゃんがお茶を持って入ってきた。

 私と日花里ちゃんはニコちゃんからコップを受け取るなり、あっという間にお茶を飲み干してしまった。

「おかわりもあるからね。」

 ニコちゃんはそう言うと、テーブルの上に冷水筒を置いた。

「それで、どうして日花里ちゃんは大吾のことが嫌いなの?」

 しばらく落ち着いてから、ニコちゃんが日花里ちゃんに尋ねた。

「個人的には野々川のことなんかどうでもいいと思ってる。

 でも、アイツが琴音と付き合うのだけは嫌だ。」

 日花里ちゃんはそう言うと、

「えっと、それってやっぱり嫉妬なんじゃ・・・」

 ニコちゃんが恐る恐るそう言い返すけど

「だから、そんなんじゃないって言ったでしょ。」

日花里ちゃんが怒ったので、ニコちゃんはビクッとなって固まってしまった。

 個人的には、日花里ちゃんがやきもちをやいてくれているんだったらすごい嬉しいなあと思った。

 だって、日花里ちゃんがそれだけ私のことを大事に思ってくれているってことだからね。

 でも、私も日花里ちゃんはやきもちで不機嫌なわけじゃないと思った。

 私が思うに、日花里ちゃんは不機嫌というより、なんか恐れているって感じがした。

 でも、一体何を恐れているんだろう?


「日花里ちゃんが嫌がる気持ちもわかるけどさあ。

 でも、大吾も結構真剣なんだよ、日花里ちゃん。」

 ニコちゃんが恐る恐る日花里ちゃんに訴える。

 でも、日花里ちゃんの表情は不機嫌なままだった。

「大吾は、中学の時からずっと琴音ちゃんのことが気になってたらしいんだよ。

 でも、アイツ体はでかいけど超奥手だから、今まで琴音ちゃんに声もかけることができなかったんだよ。

 でも、ようやく勇気を出して、こないだ、ようやく勇気を出して琴音ちゃんに告白したんだよ。

 日花里ちゃんの気持ちもわかるけど、ここは大吾の気持ちも・・・」

「ニコは私の気持ちなんかどうでもいいんだ。」

 日花里ちゃんの声が一層荒くなった。

 さすがにこれ以上黙っては見ていられなかった。

「日花里ちゃん、もうやめようよ。」

 私がそう言ったら、日花里ちゃんはようやく少し落ち着いたみたいだった。

「ゴメン・・・なんかヒステリックになっちゃって・・・

 でも、私は・・・昔の琴音に戻ってほしくないの。」

 えっ・・・どういうこと?

 日花里ちゃんが何を心配しているのかわからなかった。

「大吾が琴音に告白したら、琴音ちゃんが昔に戻るってどういうこと?」

 ニコちゃんも気になったらしい。

 でも、日花里ちゃんはそれ以上何も答えようとしなかった。

「野々川君に告白されたからって、私が昔の私に戻るなんてことないよ。」

「どうしてそんなこと言えるのよ。

 どうせ、アイツが中学の時に琴音を好きになったのって・・・」

 とそこで、日花里ちゃんは口をつぐんでしまった。

「大吾が琴音ちゃんのことを好きになったのは・・・何なの?」

 ニコちゃんが日花里ちゃんに尋ねるけど、日花里ちゃんは何も答えようとしない。

 私も理由がわからなかったので、日花里ちゃんに尋ねた。

「日花里ちゃん、心配しすぎだって・・・

 どうして、私が野々川君と話すと、私が昔に戻っちゃうのさ?

 だって、私と野々川君が話したのって、終業式の日が初めてじゃない。」


「えっ!?」「えっ!?」

 驚きの声が2つ上がった。

 もちろん、日花里ちゃんとニコちゃんだ。

 でも、日花里ちゃんもニコちゃんも、どうして驚いているんだろう?

「琴音・・・もしかして・・・」

「えっ、何を驚いてるの、日花里ちゃん?」

「ウウン・・・何でもない。」

 日花里ちゃんはそう言うと、何事もなかったかのように話を終わらせようとした。

 だけど、もう一人のニコちゃんの方はそうはいかなかった。

「あれっ、琴音ちゃんと大吾って、中学2年の時に同じクラスだったって、大吾から聞いたんだけど。」


 ニコちゃんがそう言うと、日花里ちゃんの表情が再び険しくなった。

「アンタ、どうしてそう余計なことを言っちゃうのよ。」

「あれっ、言ったらマズかった?」

 ニコちゃんは日花里ちゃんに向かっててへっと笑みを向ける。

 私は茫然としていた。

 高校1年の終業式の日に初めて話したと思っていた野々川君と、実は中学2年の時同じクラスだった?

 まったく記憶にない。

 っていうか、中学2年生の時の同級生って、日花里ちゃん以外に誰がいたっけ?

 驚いている私に、ニコちゃんが話を続けた。

「何でも、2年の2学期の始業式の日に、琴音ちゃんが大吾に何か話しかけたんだって?

 それで、大吾は琴音ちゃんのことが気になったって言うんだから、男って単純だよね。」

 ニコちゃんが笑いながらそう言った。

 でも、部屋の中で笑っているのはニコちゃんだけだった。

 私は茫然となってたし、日花里ちゃんは手を頭にあてていた。

 2年の2学期の始業式といえば、今からほぼ2年ほど前の話だ。

 しかし、私が野々川君に話しかけた記憶なんて全くない。

 これは一体どういうことなんだろう?


「どうして・・・どうして言っちゃうのよ!?このバカ!!!」

 日花里ちゃんがニコちゃんの方をキッと睨みつけた。

「えっ、も、もしかして・・・これも言ったらマズかった?」

 ニコちゃんが恐る恐る日花里ちゃんの顔を覗き込んで、息をのんだ。

 ここからだと日花里ちゃんの顔が見えないけど、ニコちゃんの怯えっぷりからして、きっと日花里ちゃん、すごい形相してるんだろうなあ。

「日花里ちゃん、大丈夫?」

 心配になって、日花里ちゃんに声をかけるけど、しばらく日花里ちゃんから返事が返ってこなかった。

 仕方がないので、ニコちゃんに話を聞くことにした。

「ねえ、ニコちゃん、私が中学2年の時に、野々川君に話しかけたって本当?」

「ウン、本当のことだよ。

 っていうか、どうして当事者の琴音ちゃんが覚えてないんだよ。」

 ニコちゃんの疑問ももっともだ。

 私、今の今まで野々川君と初めて会話したのは高校1年の終業式の日だと思ってた。

 これは一体どういうことだろう?

「私の方から、野々川君に話しかけたんだよね?

 なんて話しかけたか聞いてる?」

「それが、大吾の奴、その辺のことは絶対に教えてくれないんだよ。

 琴音ちゃん、なんか大吾にエロいことでも吹き込んだんじゃないの?」

「そんなことするわけないでしょ。」

 ニコちゃんに向かって慌てて否定した私のすぐ後ろで、日花里ちゃんはブツブツ小さな声で何やら話していた。

 日花里ちゃんなら絶対に知ってると思うんだけど、なんか聞ける雰囲気ではなかった。


「あーあ、せっかく、大吾の奴、もう一回琴音ちゃんにちゃんと告白したいって言ってたのになあ。

 まさか、日花里ちゃんに邪魔されるとはなあ。」

 ニコちゃんはそう言って、日花里ちゃんの方を横目でちらりと見る。

 私も、野々川君と付き合うかどうかはともかく、普通にお話しするくらいはいいと思うんだけど、どうして日花里ちゃんは嫌がるんだろう?

 さっきから、日花里ちゃんはずっと何やらブツブツ話していた。

「琴音・・・本当に覚えてないの?」

 日花里ちゃんがもう一度私に確認してきた。

「ウン・・・中学の時に野々川君と話したってのは初めて聞いたよ。」

「その顔は、何を話したのか知りたいって顔ね。」

「ウン。」

 さすが日花里ちゃん。

 付き合いが長いとはいえ、顔を見ただけで私の考えていることがわかるとは大したものだ。

「本当は、琴音が忘れているんだったら、このまま忘れてくれればいいと思ってた。

 でも、あの野々川が琴音に近づいてきちゃったし、そうも言ってはいられないわね。」

 日花里ちゃんは意を決した表情でこちらを見た。

「野々川は中学の時に琴音のことが気になったって言ったわよね。」

「ウン。」

「それ、間違いなく、その時の会話が原因だから。」

 日花里ちゃんはそう言うと、その時の様子を詳しく話し始めた。


<<日花里>>

 中学2年生の2学期の始業式、琴音は遅刻してきた。

 ていうか、1学期の後半ごろから、琴音がまともに学校に来ること自体珍しくなってたから、この日も多分休みだろうと思ってた。

 でも、2時間目が始まる少し前ぐらいに、突然琴音が教室に入ってきた。

 教室に入ると、自分の席には行かずに、なぜか教室の隅っこの方に座っていた野々川の方へと歩いて行った。

 その時、確か私はクラスの友達と一緒に話をしていたと思う。

 当時流行っていたスマホのゲームの画面を見せてもらってたんだと思う。

 友達と話しながらも、琴音が野々川の席に向かっているのが見えていたけど、どうせ大した理由はないとその時は思っていた。

 どうするつもりなんだろうと見ていたら、琴音の方から席に座っていた野々川に話しかけた。


「ねえ、アンタさ。」

「アンタじゃねえ。俺の名前は・・・」

「名前なんかどうでもいいじゃん。

 アンタって、もしかしてこのクラスで一番でっかい?」

「ああ、確か俺が一番背が高かったはず・・・」

「それに、アンタ、ガタイもすごいよね。」

「ま、まあ・・・一応陸上部だから・・・」

 野々川は少し照れていた。

 女の子にこんなこと言われたの初めてだったみたいだし、まあ無理はない。

「よし、アンタに決めた。」

 琴音はそう言うと、野々川に向かってこう言った。

「ねえ、アンタ、今から私とセックスしよう。」


 クラス中の誰もが耳を疑った。

 琴音の言ったことに、私も信じられなかった。

 そこから先は大変だった。

 中学2年生と言えば、思春期の真っ盛り。

 そんな生徒が集まる教室のど真ん中で、女の子がそんな発言をしてただで済むはずがなかった。

 男子どもは、野々川を羨ましがる声や「由姫咲、俺とやろう。」みたいな自分を売り込む連中が殺到するし

 女子はというと、ひそひそ話する子や琴音のことを不潔だとか言って軽蔑する子達の声など、クラス中が喧騒に覆われた。


<<琴音>>

「ヒュウ~、琴音ちゃんって意外にも大胆なんだね。」

 日花里ちゃんの話を聞いて、ニコちゃんは奇声を上げていた。

 でも、私は日花里ちゃんの話を聞いて、驚くしかなかった。

「ウソッ、わ、私・・・そんなことを・・・」

 確かに、中学の頃の私は、何事にも絶望していてつまらないと思っていた。

 性格も今よりずっと荒んでいたとは思う。

 でも、いくらなんでも、教室のど真ん中でそんなことを言うはずがない。

「琴音・・・思い出した?」

 日花里ちゃんに聞かれても、私は混乱していた。

 こんな出来事・・・私の記憶の中には・・・・・・・・・あった。

 ていうか、今頭の中に突然思い浮かんできた。

 そうだった。

 前の日、お父さんと大ゲンカをして、家を飛び出して・・・

 もう何もかも自分自身を壊してしまいたい。

 多分、そんなことを考えていたと思う。

 そっか、それでようやく思い出せた。

 私がいつも口癖にしていた「どうせ・・・」の言葉の続き。

 確か、「どうせ・・・私が何をやっても誰も認めてくれない。」だ。

 でも、そんなことよりも、本当に私はそんなことを言ったのだろうか?

 記憶にあるとはいえ・・・自分がそんなことをしたなんて全く信じられなかった。


「琴音、大丈夫?」

 日花里ちゃんに体を思い切り揺さぶられた。

 どうやら、茫然自失状態になっていたらしく、日花里ちゃんはヤバいと思ったらしい。

「思い出したよ。

 どうしてあんなことを言ったのかも・・・野々川君に話したことを覚えていなかったのかも・・・」

 多分、自分を壊してくれる人であれば、誰でもよかったんだ。

 そこでたまたま目をつけたのが野々川君だったってだけのことだったんだ。

「まさか、あの時話したのが野々川君だったとは。」

 そりゃあ、日花里ちゃんが私と野々川君を会わせたくない気持ちもわかるよ。


「私ね、今の琴音が大好きなんだよ。」

「おお、日花里ちゃんの大胆百合発言来た。」

「ええい、茶化すな。」

 日花里ちゃんがニコちゃんにそう言ってから、私の方を見た。

「中学校の時の琴音は本当に酷かった。

 琴音は一人でいることが多くて、私ともろくに話してくれなかった。」

「えっ、日花里ちゃんとも?」

 今では信じられないことだ。

 何かあったら、いつも日花里ちゃんに相談しているし、日花里ちゃんと話さないことなんて考えられない。

「一体、琴音にどういう心境の変化があったのかわからない。

 でも、今の琴音は誰とでも気軽に会話できるし、私にも何でも相談してくれる。

 何より、自分のことをすごく大事にしてくれている。

 今の琴音は、本当に素敵でかわいい女の子だと思う。

 本当、私にとってかけがえのない親友だよ。」

「もう、面と向かってそんな恥ずかしいこと言わないでよ。」

「だから、今の琴音に、中学の頃の闇の部分を近づけたくなかった。

 これから琴音は野々川と会うたびに、必ず中学のあの出来事が頭によぎることになるだろう。

 そうやって思い出すたびに、また昔の琴音に戻ってしまったらどうしようって、すごい不安なのよ。」

 日花里ちゃんがどうして私と野々川君をくっつけたくないのかが、ようやくわかった。

「でも、大吾は、本気で琴音ちゃんのことが好きみたいなんだけど・・・」

 ニコちゃんが私と日花里ちゃんにそう言ってくる。

 これは、私が何とかしないといけない。

 そう思った。


「ニコちゃん、もう一度野々川君を呼んでくれる?」

 ニコちゃんに頼むと、ニコちゃんはすぐに電話で野々川君を呼び出してくれた。

「琴音、一体、何をするつもり?」

「決まってるでしょ。はっきりさせるの。」

 私がそう言うと、日花里ちゃんは小さく頷いた。


「ねえ、日花里ちゃん、野々川君が来るまでに聞いておきたいことがあるんだけど・・・」

「なあに、琴音?」

「日花里ちゃん、私に部活をやめたことを話すことを渋ってたよね。

 もしかしたら私、日花里ちゃんに中学時代に酷いことを言ったのかなあって思っちゃって。」

「なんだ、琴音、やっぱりそれも忘れてたんだ。」

 日花里ちゃんはあっけらかんとそう言ったけど、私はショックを隠せなかった。

 やっぱり、私は日花里ちゃんに何か酷いことを言ってたんだ。

「中学2年の時、琴音が体育の授業さぼろうとしたことがあったでしょ。」

「多分、たくさんあったと思う。」

「で、その時、琴音が私に言った言葉が、今でもずっと心に残ってたのよ。」

 なんだろう、私はそんなに人の心をえぐるような言葉を残してきたのだろうか?

 しかも、親友の日花里ちゃんに対してまで・・・


「琴音、私にこう言ったんだ。

『授業さぼっても、私、真面目に授業出ている日花里ちゃんより運動神経いいから。

 今度のマラソン大会も、絶対に日花里ちゃんに勝てるよ』ってね。」

 うわあ、あの時の私のバカバカバカ・・・

 どうして、親友の日花里ちゃんにこんなことを・・・

「この話には続きがあってね。

 マラソン大会で琴音はなんと学年15位になった。

 昔から琴音はすごい足が速かったからね。

 一方、私はというと、相変わらずの最下位だった。

 ヘトヘトになりながらゴールした私に向かって、琴音はこう言ったんだ。

『ほらね、私の方がずっと上でしょ。』ってね。」


 ああ、当時の多分ドヤ顔しているであろう私の顔を思い切り思い切りひっぱたいてやりたいよ。

 でも、私、いくら暗かったからって、日花里ちゃんにそこまで酷いことを言うなんて信じられない。

 こんなことを言ったなんて・・・私の記憶の中には・・・・・・ある。

 まただ、さっきと同じで、突然記憶が浮かんできた。

 しかも、その後、私は日花里ちゃんに対して・・・


「私、日花里ちゃんに言ったんだよね。

 人には向き不向きがあるって。

 日花里ちゃんは運動神経は0だけど、勉強はすごいできるから、それでいいじゃない。

 私なんて勉強はできないし、運動神経だって中途半端な何のとりえもないクズなんだし、それに比べたら日花里ちゃんはまだいいって。」

「その様子だと、どうやら琴音も全部思い出したようね。」

 日花里ちゃんはそう言ってクスッと笑ったけど、私は笑えなかった。

 だって、

「私、決めた。

 高校に入ったら、絶対に運動部に入って、琴音を見返してやる。」

 日花里ちゃんが運動部に入る宣言をしたのはこの時だったのだから。

 日花里ちゃんは一体どんな気持ちで、私にこんな宣言をしたのだろうか?

 今だったら、何となくわかる。

 でも、当時の私は日花里ちゃんの気持ちなんか気にも留めないばかりか、全く本気にすらしていなくて・・・

「ハハッ、無理無理。どうせ日花里ちゃんが運動部に入っても、半年も持たないって。」

 そう言って嘲笑したんだっけ。


 思い出しながら、自分の発言や行動に腹が立って仕方がなかった。

 普通だったら、ここまでバカにされたら嫌われて、口もきいてくれなくなりそうなものだけど・・・

 でも、日花里ちゃんはずっと私の面倒を見続けてくれたし、友達でい続けてくれた。

 この嫌な記憶を思い出す作業の中で、本当にそれだけが唯一の救いだった。

「で、実際に琴音の言う通りになっちゃったから、さすがに落ち込んじゃってね。

 どうやって、琴音に言い訳しようかいろいろ考えてたのに、肝心の琴音が全部忘れてるんだもん。

 なんか拍子抜けしたよ。」

 日花里ちゃんはそう言って、ニコッと笑ったけど、私は笑えなかった。

「日花里ちゃん・・・私・・・」

 何か言おうとしたけど、続けて言葉が出てこなかった。

 ついさっきまで全く忘れていた記憶。

 どうして、こんなヒドイことを言って、私は何事もなかったかのように忘れることができたのだろう。

 言った方はすぐに忘れるけど、言われた方はずっと覚えている。

 何かの本で読んだことがあったけど、まさにそれだと思った。


「ああ、謝る必要なんかないよ。」

 私の考えていることを見通してたかのように、日花里ちゃんがそう言ってきた。

「日花里ちゃん・・・」

「まあ、中学生の時に言ったことなんか、一々気にしない。」

 日花里ちゃんはそう言って、笑顔を見せてくれた。

 でも、私はやっぱりどうしても笑うことができなかった。


 しばらくすると玄関のチャイムが鳴って、しばらくすると野々川君が部屋にやってきた。

「よ、よう、由姫咲。」

 少し照れ気味に挨拶してきた野々川君に対して、私はいきなり直球をぶつけることにした。

「野々川君、私、中学時代に野々川君にすごいこと言っちゃったんだよね。」

 私がそう言ったら、野々川君は何のことかわかったらしく、顔を真っ赤にした。

「あの時の私の言ったこと、わかってると思うけど・・・ただの冗談だからね。」

 私の顔も多分、すごい真っ赤だと思う。

 公衆の面前であんなことを言うなんて、今でも自分がやったなんて信じられない。

 でも、記憶に残っている以上、間違いなく私がやったことなんだ。

「あの時のことはもういいんだ。

 すごいビックリしたけど、今じゃもうどうでもいい。」

「そう、よかった。」

「俺は、今の由姫咲琴音のことが大好きなんだ。

 だから、俺と付き合ってくれないか。」

 野々川君は真っ赤な顔のままで、改めて私に向かって手を差し出してきた。

 昔、何かのテレビ番組で、相手に告白する時にはこういうポーズをしていたけど、野々川君のそれはまさにそのものだった。

 正直、人にここまで想われたことがなかったので、私はすごい戸惑っていた。

 そして、やっぱり結局前に話したことに戻ってしまう。


「私、野々川君のことを全然知らないんだ。

 中学の時、同じクラスだったのに、その時のことも全然覚えていないくらいだから。」

「ウン。」

「だからね、まずは友達になって、お互いのことをもっと知ってからの方がいいと思うんだよ。」

 前と同じ返答をした。

 すると、

「じゃあ、由姫咲は俺と友達になってくれるのか?」

 あれっ、前回と違う反応が返ってきた。

「ウ、ウン・・・」

 私が頷くと、野々川君は「やったあ。」と大喜びをしていた。

 あれっ、前回の時とはえらいリアクションが違う。

「大吾はね、さっきまで琴音ちゃんに嫌われたんじゃないかって、すごい不安がってたんだよ。」

 ニコちゃんがそっと教えてくれた。

 そういや、途中で部屋を飛び出したりしたからなあ。

 じゃあ、とりあえず友達でOKということでいいのかな?


「私はやっぱり野々川のこと嫌いだけど、まあ友達ぐらいだったらいいんじゃない。」

 日花里ちゃんだけはご機嫌斜めで、最後まで野々川君のことを睨んでいた。

 きっと、私のことを心配してくれているんだろう。

「じゃあ、親睦を深めるという意味で、パーッと飲んで食べようよ。」

 それから、色んな食べ物や飲み物が出てきて、散々ごちそうになってしまった。

 それからみんなと色々話したけど、一番記憶に残っているのは、帰り道、日花里ちゃんと話したことだった。

「日花里ちゃん、私のことを心配してくれてありがとう。

 でも、日花里ちゃんが一緒にこうしていてくれる限り、由夢咲琴音は昔に戻ったりなんかしないから。

 絶対に約束するよ。」

 私が日花里ちゃんの手を握ってそう話したら、日花里ちゃんはようやく笑顔を見せてくれた。

 でも、私は最後まで心から笑うことはできなかった。


 今回、私は2つの中学時代の記憶を思いだしたけど、本当に私がやったことなのだろうかと疑いたくなる。

 いや、記憶にバッチリあるってことは、私がやったって何よりの証なんだけど、正直私がやったって実感がまるでない。

 確かに中学の時の私は少しダメダメだったけど、ここまでひどくはなかったはず・・・

 ・・・・・・そう思いたいけど、中学時代の私は本当に自信がない。

 ラーファちゃんが私の中学時代の話を聞かせてほしいと言ってたけど、丁重にお断りしよう。

 こんな話、聞いても楽しくないし不快になるだけだからね。

 下手に話したら、ミディアちゃん達に思い切り嫌われかねない。


「中学時代の話はせがまれても、断固拒否する。」

 寝る前に声に出して、意志を固いものにしてから、この日は眠りについた。

 ただし、幸いというべきなのだろうか、ミディアちゃん達が私の中学時代について聞いてくることはなかった。

 なぜなら、あっちはあっちで大変なことが起こっていたようで、それどころではなかったからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ