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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
64/254

18.日花里が元気がなかった理由

<<琴音>>


 すっきりとしない朝の目覚めだった。

 ラーファちゃんとアイちゃんのお誕生会があって、そこでミディアちゃんの過去話が聞けて、個人的には大満足のはず・・・なんだけど・・・


「じゃあ、今度は、琴音の昔話でも聞かせてほしいなあ。」


 帰り際のラーファちゃんのその一言で、楽しい気分は一瞬で消えてしまった。

「フッ、私の過去話なんて・・・」

 ミディアちゃんは事故で両親を亡くして、記憶喪失になっても一生懸命頑張っていた。

 あんな話聞かされたら、恥ずかしくて、とてもじゃないけど私の過去話なんてできないよ。


「琴音、日花里ちゃんから電話があったわよ。」

 1階からお母さんの声が聞こえてきた。

 日花里ちゃんから電話って・・・まさか・・・

 慌てて時計を見ると、時計の針は7時半を指していた。

「なんだ、まだ7時半じゃん。」

 今日は日花里ちゃんとニコちゃんと会う約束をしていたんだけど、待ち合わせ時間10時だし、全然余裕があった。

 てことは、もしかして別の用事だろうか?

 スマホで日花里ちゃんに電話してみる。

 すると、すぐに日花里ちゃんが電話に出た。

「早っ。」

 思わず、そう呟いてしまった。

 だって、電話かけて本当にすぐに出たからね。

「もしもし、日花里ちゃん。」

「あっ、琴音、ちょうどいいところだったわ。」

 こんな朝早くに何の用だろう?

「琴音、今日の集合場所って、ニコの家だったと思うんだけど。」

「ウン、確かそうだったね。」

「アンタ、ニコの家の場所って知ってたっけ?」

「・・・・・・・・・あっ!」

 そう言われると、私、ニコちゃんの家の場所知らないや。

 電話で話した時にどうして気づかなかったんだろう。

「その様子だと、どうやら知らないみたいね。」

「ウン、まあ日花里ちゃんについて行くつもりだったから・・・」

「ニコの家って結構遠いのよ。

 しかも、途中の道が今工事で通行止めらしくて、結構遠回りしないといけないみたいなのよ。」

 へえ、ニコちゃんって結構遠くから通学してたんだ。

「まあ、そんなわけで、少し早くにそっちに行くから、早めに支度済ませておいてね。」

「ウン、わかった。」


 日花里ちゃんとの電話を済ませてから、1階に降りて朝食を取って、顔を洗った。

 こんなに早くに顔を洗ったのは、終業式以来かもしれない。

 夏休みに入ってからは、家でゴロゴロするのが基本だったからね。

 それから1時間ぐらいして、日花里ちゃんがやってきた。

 時間はまだ9時だけど、ニコちゃんの家に行くのにそんなに時間がかかるのかな?

「おはよう、琴音。」

 日花里ちゃんは、いつもと変わらない笑顔を見せてくれた。

 少し前まで元気がなかったのが嘘のようだ。


 ここしばらくずっと家の中に引きこもっていた。

 だから、すっかり忘れていた。

 外が真夏だということに。

 扉を開けた瞬間、外から強烈な熱気が入ってきた。

「うわっ、暑い。」

「どう、久しぶりの外は?」

「無理、でかけるのやめる。」

「バカ言ってないで、さあ出かけるわよ。」

 日花里ちゃんはおかまいなしに私を紫外線の下へと引きづり出した。

「ぎゃあああ!!!」

「アンタは吸血鬼か。」

 でも、ずっと引きこもっていた私には、この紫外線はあまりにもきつすぎるよ。


 それから5分ほど歩いて近くのバス停に着くころには、すっかり汗だくでヘトヘトに疲れていた。

「えっ、バスで行くの?」

「自転車で行きたかったの?」

「ウウン、バスでいい。」

 危ない、もう少しで藪をつついて蛇を出すところだった。

 こんな炎天下で自転車をこぐなんて想像できないよ。

 バスの方がいいに決まってるよ。

 でも、この炎天下の中でさらにバスが来るのを10分も待たないといけないのは辛い。

「ちょっと早く着きすぎちゃったわね。

 もう少し、琴音がゴネて時間がかかると思ってたんだけど・・・」

 時計を見ながら、日花里ちゃんがそう言った。

 一体日花里ちゃんは、私がどれくらいゴネると思ってたんだろう?


 しばらく待つとバスがやってきた。

 バスの中はクーラーが効いていて、非常に快適だった。

 これでようやく一息つけるよ。

「何、大仕事したみた感じになってるのよ。

 ちょっと歩いて、バス来るのを待ってただけじゃない。」

「だって、この日差しはきつすぎるよ。」

「本当、琴音は相変わらずね。」

 日花里ちゃんはそう言って、クスッと笑った。

 本当、今日の日花里ちゃんはなんか元気だ。


 結局、バスに乗ってたのは10分ほどで、そこからまた灼熱地獄の中を延々と歩く羽目になり、ニコちゃんの家に着いた時にはまたまた汗だくになっていた。

「本当、琴音、だらけきってるよね。」

 そんなことない、と言い返せないところが少し悔しい。

 結構外に出た記憶があるんだけどと思いつつも、よくよく思い返してみたら、全部ラーヴォルンの記憶だった。

 いくらラーヴォルンで外に出てても、実際の私はベッドの中だからなあ。

「それにしても・・・」

 ニコちゃんの家は由緒正しきお家柄なんだろうか?

 大きな木造の門と塀に囲まれた立派な和風の家だった。

「いらっしゃい・・・って琴音ちゃん、随分お疲れのようだね。」

「ニコちゃん、早く涼しい部屋に入れておくれ~。」

「ハイハイ。」

 ニコちゃんに案内されて、玄関を入ると、これまた立派な庭が広がっていた。

 小さな池まであるし、鯉が泳いでるし。

「ニコちゃんの家って、結構大金持ちなの?」

「みんなそう言うよね。

 でも、全然そんなことないんだけどなあ。

 そんなにお金持ちに見える?」

 そりゃあ、こんな立派な家と庭を見せられたら、誰だってそう思うよ。

 ニコちゃんに連れられて、家の中に入る。

「木の床を歩くとギシッてなると思ってたんだけど、ニコちゃん家はあまりならないね。」

「そ、そうかな?」

「それにしても、家の中すごい涼しいね。」

「冬は超寒いんだけどね。」

 ニコちゃんはそう言ってクスッと笑った。


 ニコちゃんに通された部屋は結構広い部屋だった。

 部屋の中央には、大きな座卓と、その上に一台のノートパソコンが置いてあった。

「あー、このノート、無線LANでネットとつながってるから、自由に使ってくれていいよ。」

「ウン、ありがとう。」

 へえ、古い家っぽいけど、インターネット環境は整ってるんだね。

「それで、今日の要件について、そろそろ話してくれないかな。」

 日花里ちゃんがニコちゃんにそう言う。

「そりゃあ、今度の旅行についての話だよ。」

「旅行についての話って、こないだテレビ電話で話したことで大体済んだと思ってたんだけど・・・

 足りないことがあったら、また電話で話せばいいと思うんだけど、どうしてわざわざ呼び出したのかってことよ。」

 あれ、日花里ちゃん、もしかして少し怒ってる?

「まあ、それは・・・その・・・久しぶりにみんなと会いたかったからだよ。」

「ニコちゃん・・・」

「いやいや、アンタ、そういうこと考えるタイプじゃないでしょ。

 さあ言え。

 何の目的で私達を呼んだ?」

 いや、多分、ニコちゃんと接する時の日花里ちゃんは、いつもこんな感じなんだろう。

 私と会話する時とは、また少し違う感じがする。

「私もみんなと久しぶりに会って遊びたかったから来たんだけどね。

 ニコの家の向かいの家の表札を見て、何かすごい嫌な予感がしてるんだけど。」

 日花里ちゃんがそう言うと、ニコちゃんは日花里ちゃんから素早く視線を逸らした。

 あっ、これは日花里ちゃんの予感がどうやら正解のようだ。

 私がニコちゃんの家に見とれている間、日花里ちゃんはお向かいさんの表札をチェックしていたとはね。

 でも、お向かいさんって誰なんだろう?

 私達が知ってる人なのかな?


「あっ、誰か来たみたい。」

 ニコちゃんはそう言うと、慌てて部屋を飛び出して行った。

「まさか・・・本当に呼んだのか?」

 日花里ちゃんは頭を抱えていた。

 なんか、私だけ置いてきぼりだ。

「日花里ちゃん、どうしたの?」

「ゴメン、琴音。

 これはニコの罠だった。」

「えっ、ニコちゃんの罠ってどういうこと?」

 でも、日花里ちゃんに話を聞くことはできなかった。

 前に、部屋の扉が開いて、部屋の中にニコちゃんが入ってきた。

 でも、入ってきたのはニコちゃんだけじゃなかった。

 ニコちゃんの後に入ってきたのは、すごい大きな男の人だった。


「あっ、この人って・・・」

 確か、終業式の日に私に告白してきた人だ。

「よ、よう、由姫咲、ひ、久しぶりだな。」

 なんか、すごい緊張しているみたいだ。

「そ、そうだね。」

 なんか、私も緊張が伝染したみたいだ。

「えっと、琴音ちゃんはもう大吾のことは知ってるよね?」

 ニコちゃんが私に聞いてきた。

 まあ、知ってると言えば知ってるんだけど、名前なんだっけ?

 えーっと、えーっと・・・・・・そうだ思い出した。

「えっと、確か野々村君だったっけ?」

「野々川だよ。」

 すかさず、野々川君のつっこみが入った。

 でも、そんなに大声で突っ込まなくても・・・

 野々川君、大きな体だから、迫力があって少し怖いよ。

「大吾、そんなに大声出すから、琴音ちゃん怖がってるじゃない。」

「ス、スマン。」

「大吾はさ、そういうところを気をつけた方がいいと思うんだよね。」

「お、おう。」

 ニコちゃんと野々川君ってどういう関係なんだろう?

「私、ニコの家に何回か来たことあったけど、向かいの家が野々川の家とは知らなかった。」

 日花里ちゃんは深いため息をついていた。


「まさか、終業式の日の続きをここでやろうってわけじゃないわよね?」

 日花里ちゃんがニコちゃんの方を睨み付けた。

「えっ、終業式の続きってどういうこと?」

「琴音、気づいてなかったの?

 あれ、ニコが事前にクラスメートに声かけて、琴音と野々川の2人っきりになるように仕掛けたんだよ。」

「えーっ、そうだったの!?」

 知らなかった。

 あれ、ニコちゃんプロデュースだったんだ。

「1学期の終わり頃に、大吾と一緒に帰る機会があったんだけどさ。

 その時に、大吾が琴音ちゃんのことを好きだって知ってね。

 仕方がないから、幼馴染のよしみとして、ここは一肌脱いであげようと思ったわけよ。」

「えーっ、ニコちゃんと野々川君って幼馴染だったの。」

 今日一番の驚きだった。

「どうして、野々川は琴音のことが好きになったの?」

 一方、日花里ちゃんはと言うと、すごい不機嫌な表情になっていた。


「中学の頃から、由姫咲のことはずっと気になってたんだ。

 でも、由姫咲ってすごい顔はかわいかったけど、すごい不愛想だっただろう。

 だから、今までは声をかけるのもはばかられたんだけど・・・

 でも、高校に入ってから、由姫咲、すごい明るくなって・・・

 楽しそうに笑ってる由姫咲を見ていたら、すごい気になるようになってしまって・・・」

 野々川君、すごい大きな体なのに、なんか話し方がモジモジしているなあ。

 でも、今モジモジしたいのは私の方かもしれない。

 かわいいとか言われるのに慣れてないのに、2度もかわいいって言われた。

 しかも、男の人にかわいいって言われた。

 体の奥がカーッと熱くなるのを感じた。

 なんか、すごい体が熱い。

 さっきまで涼しいと思ってたのに、すごい汗が出てきた。


「おお、琴音ちゃん、顔真っ赤だ。

 大吾、これは案外いけるかもしれないよ。」

「ほ、本当か、美咲?」

 なんか、ニコちゃんと野々川君が盛り上がってるところ悪いんだけど、そうじゃないんだよ。

 これは脈ありとか、そういうことじゃなくてね。

「へえ、そうだったんだ。」

 日花里ちゃんが無表情のままそう言った。

 ていうか、さっきから日花里ちゃん、なんか変だよ。

「もしかして、日花里ちゃん、大吾に琴音ちゃんを取られると思って、やきもち妬いてるの?」

「バカッ、そんなんじゃないわよ。

 単に私が気に入らないからよ。」

「そういう気に入らない気持ちってのは、大抵やきもちだったりするんだよね。」

「だから違うって言ってるでしょ!!!」

 突然、日花里ちゃんが大声を張り上げた。

 その日花里ちゃんの表情を見て、さすがのニコちゃんの表情も強張った。


「日花里ちゃん、どうしたの?」

 さすがに日花里ちゃんのことが少し心配になってきた。

 この前まで日花里ちゃんの様子がおかしかったけど、今日はすごい明るかったからもう大丈夫なんだと思ってた。

 でも、もしかしたらそうじゃないのかもしれない。

「ゴメン、大声張り上げて。

 でも、何でもないから・・・」

 日花里ちゃんはそう言うけど、とてもそうは思えない。

「あっ、そう言えば・・・」

 とその時、野々川君が何かを思い出したのか、私達に話しかけてきた。

「俺、陸上部で運動場にいること多いから、他の運動部の情報も結構入ってくるんだけどさ。

 藤島、お前、テニス部辞めたんだってな。」

「えっ!?」

 私が驚きの声を上げるのとほぼ同時に、日花里ちゃんの平手が野々川君の頬を思い切り叩いていた。

 パチン!!!

 すごい大きな音が部屋中に響き渡った。

「ええっ!!!」

 ニコちゃんは目を丸くしていた。

 私も驚いていた。

 ニコちゃんが野々川君を叩いたこともそうだけど、テニス部を辞めたってことに驚いた。

 だって、日花里ちゃんがテニス部を辞めてたことを知らなかったから・・・

 もしかして、最近ずっと日花里ちゃんが暗かったのって、テニス部と関係あったのかな。


「な、何すんだよ。」

 野々川君は驚いた表情で日花里ちゃんの方を見ていた。

「うるさい!!!」

 日花里ちゃんはそう言うと、部屋の外に飛び出して行ってしまった。

「わ、私、日花里ちゃんを追いかけるね。」

 私はニコちゃんと野々川君にそう断ってから、日花里ちゃんの後を追いかけた。


「日花里ちゃん、どうしたの?」

 幸いにも日花里ちゃんにすぐに追いつくことができた。

 相変わらず、日花里ちゃんの足が遅くて、この時はよかったと思った。

「私、アイツのこと、嫌い。」

 日花里ちゃんがこんなにはっきりと人のことを嫌いって言うのを聞いたの、これが初めてかもしれない。

 どちらかというと、今まで日花里ちゃんは人付き合いのいい方だと思ってた。

 どんな人とも、好き嫌いの分け隔てなく接することができて、いつも傍から見ていた私は、日花里ちゃんってすごいなあって思ってた。

 中学時代の私のことも、ずっと面倒見てくれた。

 だから、そんな日花里ちゃんの口から、まさか嫌いという言葉が出てくるとは思わなかった。

「ねえ、日花里ちゃん・・・テニス部を辞めたって本当なの?」

 私が尋ねると、日花里ちゃんは小さく頷いた。

「どうして、話してくれなかったの?」

「少し気持ちを整理してから話したかったから。

 部活のことでは、琴音と結構張り合ってたでしょ。

 運動音痴の私に運動部は無理だって琴音に言われて、それで意固地になってたってのもある。」

 確かにそんなこと言ったことあったけど、日花里ちゃんがそんなに気にしていたなんて思わなかった。


「うちの学校のテニス部って結構強かったんだよ。

 特に今の3年生はすごくてね。

 男子も女子もインターハイ予選で準決勝まで行ったのよ。

 準決勝で負けてインターハイには出られなかったけど、それでも今までの弱小テニス部じゃ考えられないすごい快挙だった。

 今の3年が歴代最強だってみんな言ってるし、私もそう思う。」

 へえ、今年のテニス部ってそんなに強かったんだ。

 部活動に全く興味がないから、全く知らなかった。

「でもね、それが今の2年にはすごいプレッシャーだったみたいでね。

 今の2年には3年ほどのすごい選手がいないから、特にプレッシャーなんだと思う。」

 あー、なんかそう言うのすごいよくわかる。

 周りの人ってなにかと比較したがるからね。

 2年生のプレッシャー、わかるなあ。

「そんなわけで、2年生がキャプテンになってから、練習量が一気に増えたのよ。

 今までだってかなりの練習メニューだったのに、さらにきつくなった。」

「その練習メニューに、日花里ちゃんは耐えられなくなって辞めたの?」

「多分、そういうことになるんだろうね。

 期末試験が終わってからの練習はかなりハードだったし、夏休みに入ってからは特にきつかった。

 今までですらついて行くのがやっとだった私は、次第にみんなの練習ペースについていけなくなった。」

「そうなんだ。」

「3年生がいた頃は、練習はきつくても、部全体はリラックスした雰囲気だった。

 でも、2年生がキャプテンになってから、妙にピリピリした雰囲気になっちゃってね。

 度々ケンカとか起こるようになった。」

「うわあ、それは最悪だね。」

「私の練習を見てくれていた2年生の先輩がいたんだけどね。

 3年生がいた頃はすごい面倒見のいい優しい先輩だった。

 でも、3年生がいなくなってから、何回かキャプテンとケンカするようになって、すごいイライラするようになってね。

 おまけに、私が運動音痴で全然上達しないから、それで先輩のストレスはさらに増して行って・・・

 やがて、ストレスの矛先を私に向けるようになった。」

「日花里ちゃん、まさか2年生の人達にひどい目に合わされたんじゃ・・・」

「別に暴力とかふるわれたわけじゃないよ。

 ただ・・・あんなに優しかった先輩の豹変ぶりがすごい悲しかった。

 延々と一人だけ走らされたり、特訓と称して試合させられたりしてね。

 試合と言っても、私の場合、運動音痴だから、ただただ一方的に打ち込まれるだけだった。」

「・・・・・・」

「そんな日が続くうちに、朝起きたら吐きそうになったり、手足がしびれが走るようになってね。

 病院で見てもらったけど、体に特に異常はなく、精神的な疾患の可能性が高いって言われた。」

 精神疾患!?

 まさか、日花里ちゃんがそんなことになってたとは知らなかった。

 日花里ちゃんが陥っていた状況に、私はショックを受けていた。


「お医者さんからは安静にした方がいいと言われたけど、私はテニス部に通い続けた。

 ここで辞めるのは逃げることになる。

 その気持ちの方が強かったからね。

 それに、なんだかんだで先輩は私の面倒を一生懸命見てくれている。

 だったら、私は先輩の気持ちに応えないといけないって思った。」

 そんな状態になっても、まだ先輩の気持ちに応えようと頑張るなんて、日花里ちゃんはすごいよ。

 私だったら、とっくに辞めてると思う。

「でも、ある日、先輩が他の先輩に私のことを話しているのを聞いちゃってね。

 藤島はどうしてテニスを辞めないんだろう?

 藤島さえいなくなったら、自分の練習時間を増やすことができるのにってね。」

「ヒドイ。」

「その先輩の言葉で、私の心の中で何かがプツンと切れた。

 結局、それがきっかけでテニス部を辞めちゃった。」

「日花里ちゃん・・・」

「本当にダメだなあ、私。」

「そんなことないよ。

 よく頑張ったね、日花里ちゃん。

 すごいよ、私には絶対に真似できないよ。」

「まさか、琴音がそんなこと言ってくれるなんてね。

 部活辞めたことを琴音にどう話そうか悩んでいたのがバカみたいだ。」


 日花里ちゃんにとって、私に部活を辞めたことを報告することが、そんなに重いことになっていたなんて知らなかった。

 もしかしたら、日花里ちゃんをここまで追い詰めたのは私なのかもしれない。

 私自身は日花里ちゃんを追いつめるようなことを言ったつもりはないんだけど、こういうのは相手がどう思うかだからね。

「そんなわけで、色々気持ちの整理をつけて、ようやく今日になって琴音に話そうって決心がついたところだった。

 でも、その矢先に、あのバカが全部話しちゃうんだから、本当にもう頭に来ちゃってね。」

 なるほど、日花里ちゃんが野々川君に激怒していたのはそう言う理由だったんだ。

 でも、日花里ちゃんの心の葛藤を野々川君がわかるはずがないし、これは野々川君がちょっとかわいそうだなあ。


「日花里ちゃん、琴音ちゃん。」

 とそこに、ニコちゃんがこっちに向かって走ってきた。

「日花里ちゃん、本当にゴメン。

 とりあえず大吾には帰ってもらったから、戻ってきてよ。」

 ニコちゃんがそう言って、私と日花里ちゃんにすがりついてきた。

 これは、後からニコちゃんに聞いた話なんだけど、日花里ちゃんがこんなに怒ったところを見たの初めてだったらしい。

 だから、日花里ちゃんが飛び出して行った後、何かとんでもないことをしてしまったんじゃないかって真っ青になったらしい。

 まあ、

「ニコ、さっきは怒鳴ってゴメンね。」

と日花里ちゃんがすぐに謝ったから、ニコちゃんもすぐにいつもの笑顔に戻ったけどね。

 そんなわけで、私達は改めてニコちゃんの家にお邪魔することになった。


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