13.雨のラーヴォルンと真っ赤なミディア
<<琴音>>
今日はなんか最初から恥ずかしい目にあってばかりだよ。
特に今日のラーファちゃん、おしゃれしててすごいきれいだから、あんなに間近でじっと見つめられると体がすごい熱くなるよ。
「琴音、大丈夫?」
ミディアちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫、でも、この格好じゃ今日は思い切りミディアちゃんに抱きつけないなあ。」
みんながこの制服を気に入ってくれたのは本当に嬉しい。
でも、ミディアちゃんに思いっきり抱きつけないのが少し残念だ。
「そんなこと言わないで、いつものようにミディアに思いっきり抱きついてよ。」
ラーファちゃんが私にそう言ってきた。
って、ラーファちゃん、また頭を下げて、私のスカートの中を覗き込んでる。
「もう、だから、スカートの中を覗き込まないでよ。」
「女の子同士なんだし、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。」
「女の子同士だろうが、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ。」
ううっ、ラーファちゃんのセクハラがヒドイよ。
「じゃあ、誕生日である私の命令と言うことで・・・」
ラーファちゃんが邪悪な笑みを浮かべながらそう言った。
まさか、私にセクハラまがいのことを命令するんじゃ・・・
「琴音、今すぐスカートを―――」
「ラーファ!!!」
ミディアちゃんの呼ぶ声で、ラーファちゃんはミディアちゃんの方を振り返り、そして固まった。
「ミ、ミディア・・・」
「いい加減にしようね、ラーファ。」
「ハ、ハイ・・・」
ミディアちゃんがどんな表情をしているのか、ここからだとラーファちゃんに隠れて見えないけど、多分、見ない方がいいんだと思う。
ラーファちゃんが本気で怯えているみたいだし。
<<ミディア>>
今日のラーファはなんかいつもと少し違う。
今までのお誕生会で、こんなにラーファのテンションが高いことあったかなあ?
せっかくきれいに着飾ってるんだし、もう少しおしとやかにしてほしい。
「ミディア、そろそろ食べ物持ってきてよ。」
さっきまで琴音のイデアに夢中になっていたアイが、私の方にやってきた。
エレーネ先輩はというと、琴音のイデアを見ながら、なにやらノートに書きこんでいた。
本気であの制服を作るつもりなんだ。
こういう時のエレーネ先輩の情熱は本当にすごいと思う。
エレーネ先輩がイデアに夢中になってるから、仕方がないので私一人で食べ物を取りに行くことにした。
「私も一緒に行くよ。
私じゃ何も運ぶことできないけど。」
琴音が私についてきてくれた。
1階に降りると、ラヴィおばさんが料理を作っていた。
「そろそろ来る頃だと思ってたよ。」
ラヴィおばさんはそう言うと、私をテーブルの方に連れて行った。
テーブルの上には既に多くの料理の皿が置かれていた。
「おや、料理取りに来たの、ミディア一人だけかい?」
「えっと、みんな、いろいろとやっててね。」
「じゃあ、私も運ぶの手伝おうか?」
「いいですよ。何回か取りに来ますから。」
「そうかい、じゃあ、私はそろそろお店に戻るね。」
ラヴィおばさんはそう言うと、部屋から出て行った。
ルーイエ・アスクに併設しているレストランはお昼時で今一番忙しいのに、わざわざお店を抜けて料理を作ってくれていた。
本当にラヴィおばさんには感謝です。
明日からいっぱいお店のお手伝いをしないとね。
それから、私は何度か琴音と一緒に往復して料理を持って行った。
「ねえ、ミディアちゃん。」
「なあに?」
「今日のラーファちゃん、やたらテンションが高いけど、いつもこんな感じなの?」
「ウウン。
毎年、お誕生会やってるけど、こんなにテンション高いラーファ見たの初めてだよ。」
「何かいいことでもあったのかな?」
「そういや、これからいいことが起こるって言ってたけど、何か変なことでも企んでるのかな?」
今日のラーファは琴音にセクハラを繰り返すなど、例年以上の傍若無人ぶりを発揮しているからね。
他にも何か企んでいる可能性は十分考えられる。
そういや、今年は私にも何かやってもらうとか言ってたし、まさか私に何かするつもりなんだろうか?
「まさか、今度はミディアちゃんにセクハラをするつもりなのかな?
どうしよう、私じゃ止められないよ。」
琴音も同じことを考えてたみたいだ。
どうしよう、ラーファが変なことを考えてたら?
ラーファだけに、完全に否定できないよ。
<<琴音>>
ミディアちゃんが料理を持っていったら、みんな一斉に食べ始めた。
みんな、実はすごいお腹すいてたんだね。
「もう、みんな、一斉にがっつきすぎだよ。」
ミディアちゃんは呆れていた。
ラーファちゃんなんか、あんなにきれいなドレス来て着飾ってるのに、なんか色々残念だ。
「いやあ、イデアとにらめっこしてたら、なんかすごいお腹すいてきて。」
エレーネちゃんは、あれからずっと私のイデアを見ていたらしい。
正直、あのイデアをあまり見てほしくないんだけど、でもエレーネちゃんに制服を作ってほしいと思うし、なんか複雑な気分だ。
「ところで、お昼食べたらどうする?」
ラーファちゃんがみんなに聞いてきた。
「そうだな。
私はもう少しあのイデアを見ていたいんだけど・・・」
「そんなに見たいんだったら、あとでコピーしてあげるから。」
「本当?やったあ、ラーファ大好きだよ。」
「ええい、くっついてくるな。」
ラーファちゃんとエレーネちゃんは相変わらず仲がいい。
「私は何でもいいですけど・・・
できれば、もう少しみんなといろいろお話ししたいですね。」
アイちゃんが意外なことを言いだした。
「アイ、どうしたの?
お腹でも痛くなった?」
「失礼だなミディア。
私だって、みんなと話したい時ぐらいあるよ。
それに、今は外は雨降ってるから、外に出たくないし・・・」
アイちゃんはそう言うと、カーテンを開ける。
本当だ。
外はいつの間にか雨が降っていた。
全く気付かなかった。
あれほど、雨に濡れたラーヴォルンを見たいとずっと思ってたのに。
「やった・・・やったあ、雨のラーヴォルンだ。」
気がついたら、私は外に飛び出していた。
私が来る時はいつも晴れていたラーヴォルン。
青い空に青い海のラーヴォルンは見ていて美しいと思うけど、この街並みには雨も合うんじゃないかとずっと思ってた。
やっぱり、思った通りだ。
何て言うか、雨の中のラーヴォルンは少し幻想的だ。
まだお昼なのに、街に明かりが灯り始める。
北街にも明かりが灯りだして、ラーヴォルン海峡から見える景色もいつもと違う。
「琴音、いきなり飛び出してどうしたの?」
窓からミディアちゃんがこちらを覗き込んでいた。
「ゴメン、ミディアちゃん、初めて見る雨のラーヴォルンに見とれてたよ。」
「そういや琴音、前から雨の景色を見てみたいって言ってたね。」
「ウン、やっぱり思ってた通りの美しい景色だったよ。」
晴れの日も雨の日も美しいなんて、本当にこの街は素晴らしい。
もう少し、この幻想的な光景を見ていたい。
そう思ってたけど、しばらくするといきなりすごい土砂降りの雨が降ってきた。
叩きつけるような大雨というのは、多分こういうのを言うんだろう。
大雨が地面に叩きつけられて、すごい大きな音を響かせていた。
私は雨には濡れないけど、土砂降りのおかげで、うるさいし、視界も雨で遮られるし、いろいろ残念なことになってしまった。
仕方がないので部屋に戻ると、なぜかミディアちゃんが涙目になっていた。
「あっ、琴音が戻ってきた。」
ラーファちゃんがそう言うと、アイちゃんとエレーネちゃんがニヤリと笑った。
ウーン、これは何か企んでいる時の悪い顔だ。
「えーっと何かあったのかな?」
この雰囲気、何か嫌な感じだ。
せっかくのお誕生日会だというのに、一体どうしたんだろう?
「この雨だし、外に行けないから、部屋で過ごそうって話になってね。」
ラーファちゃんが私に話しかけてきた。
「まあ、この雨じゃ仕方がないよね。」
「それでね、せっかくだから、琴音に私達のことをもっと知ってもらおうって話になってね。
そんなわけで、琴音にミディアの昔話でもしようって話になったんだよ。」
私のために、そんなことを考えてくれてたんだ。
みんなのことをもっとよく知りたかったから、これはとっても嬉しい。
でも、どうしてみんなの昔話じゃなくて、ミディアちゃんの昔話なんだろう?
それに、ミディアちゃんの様子がおかしい。
「ミディアちゃんどうしたの?」
「ああ、ミディアなら大丈夫だから。」
ラーファちゃんは笑顔でそう言うけど、ミディアちゃん涙目だし、絶対に大丈夫じゃないよ。
「ミディアの昔話と言ったら、やっぱり初めて会った時の話をするしかないですね。」
アイちゃんがそう言うと、涙目のミディアちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。
「ねえ、その話はやめようよ。
私の昔話なんてしても、琴音だってつまらないと思うよ。」
ミディアちゃんはそう言うと、懇願するような目で私をじっと見てきた。
涙目で顔が赤くなったミディアちゃんに、すごいキュンとなった。
でも、どうしよう?
ミディアちゃんの昔話、すっごい聞きたい。
でも、ミディアちゃん、なんだかすごい嫌そうだし。
ミディアちゃんが嫌がるようなことはしたくないけど・・・でも、聞きたいなあ・・・
「琴音、私の昔話なんか聞いてもつまらないよ。」
ミディアちゃん、なんかすごい必死だ。
でも、そんなに必死になられると、ますます気になっちゃうよ。
「ミディアが初めてここに来た頃の話をしてあげる。
ミディアが私やアイと会って、仲良くなった時の話。
どう、琴音も興味あるでしょ?」
私の耳元で小声でそっと囁くラーファちゃんの言葉で、私の心はあっさり陥落した。
「ウン、聞きたい。」
ゴメン、ミディアちゃん、好奇心に勝てなかったよ。
私が頷くと、ラーファちゃんは笑顔でアイちゃん達に私が聞きたがってることを話していた。
その一方で、ミディアちゃんはガックリとうなだれていた。
「じゃあ、そう言うわけで、今からミディアの昔話を始めるね。
話は、アイ、お願いね。」
「任せてください。
私が面白おかしく、ミディアの話を盛り上げてみせます。」
アイちゃんがそう言うと、ミディアちゃんの顔が再び真っ赤になった。
「ヤダヤダヤダ・・・私の昔の話なんてつまんないだけだって。」
「どうして、そんなに恥ずかしがってるの、ミディアちゃん?」
「琴音は思い出したくない記憶ってないの?」
ミディアちゃんが真っ赤な顔で私に聞いてきた。
「えっ、もしかして、そんなに思い出すのも嫌な記憶なの?」
私がミディアちゃんにそう聞くと、ミディアちゃんは頭を抱える。
「別に嫌なことがあったわけじゃないんだよ。
でも、その頃の自分のことを思い出すと、たまらなく恥ずかしくなるんだよ。」
ミディアちゃんの話を聞いて、ミディアちゃんが何を嫌がってるのか、ようやくわかった。
確かにあるよね。
昔の自分のことを思い出して、たまらなく恥ずかしくなることが・・・
でも、そんな反応されると、ますます聞きたくなっちゃう。
「ラーファちゃん、アイちゃん、ミディアちゃんの昔話、よろしくお願いします。」
私がそう言うと、ラーファちゃんとアイちゃんは満面の笑みで頷いた。
その一方で、ミディアちゃんは俯いてしまった。
ウーン、さすがにこんなに落ち込まれると、話を聞くのが気が引けてくる。
そう思った時だった。
「ミディアは、私達と初めて会った時のことが、そんなに恥ずかしいことなの?」
珍しくアイちゃんが怒っていた。
「私にとって、ミディアと出会った時の思い出は、すごい大事な思い出なんだよ。
それなのに、ミディアにとっては恥ずかしい思い出なの?」
アイちゃんがそう言うと、ミディアちゃんが慌てた表情に変わった。
「ち、違うよ、アイ。
みんなと出会えたのは、すっごい嬉しいし、私にとっても大事な思い出なんだよ。
でも、あの時の自分が、たまらなく恥ずかしいっていうか。」
「ウンウン、わかるよ。
若気の至りってやつだな。」
話を聞いていたエレーネちゃんが頷いていた。
若気の至りって、昔のミディアちゃんって今とそんなに違ったのかな?
これはますます聞きたくなってきた。
「ミディアは昔の自分のことを恥ずかしいと思ってるかもしれないけど、私にとってはそれも含めて全部大事な思い出なんだよ。」
「アイ・・・」
「アイだけじゃないわよ。
私にとっても、ミディアとの出会いは大事な思い出よ。
生まれてから今までの中で一番と言ってもいいくらいのね。」
ラーファちゃんもアイちゃんに続いた。
「ラーファ・・・アイ・・・」
「私は昔のミディアがそんなに変だとは思わなかったけどなあ。
どうしてミディアがそんなに恥ずかしがってるのか、私にはわからないよ。」
エレーネちゃんがそう言うと、ラーファちゃんもアイちゃんも頷いた。
「ミディアとの出会いは、私達にとってすごい大事な思い出なんだよ。
だから、それを琴音にも聞いてもらいたいって思ったんだよ。」
「ミディア、お願い。」
ラーファちゃんやアイちゃんがそう言うと、頑なに拒絶していたミディアちゃんの表情も少し和らいできた。
「琴音、もうひと押しよ。」
ラーファちゃんが小声で私に囁いた。
「えっ、ラーファちゃん?」
「もう少しで、ミディアを落とせるわよ。」
ラーファちゃんはそう言うと、小さく含み笑いを浮かべた。
あれっ、なんかいい話っぽい展開だと思ってたのに、なにかおかしいぞ。
ラーファちゃん、もしかしてこの状況を楽しんでるの?
もしかして、アイちゃんもエレーネちゃんも?
ミディアちゃんにこんなことして本当に大丈夫なのかな?
でも、私もミディアちゃんの昔話を聞いてみたいし、ラーファちゃん達に乗っかるか。
ゴメンね、ミディアちゃん。
「ミディアちゃん、私、ミディアちゃんともっと仲良くなりたいって思ってたんだ。
だから私、ミディアちゃんのことをもっとよく知りたいんだよ。
だからお願い、ミディアちゃん。」
まあ、これは本心だ。
前に、ミディアちゃんとアイちゃんの仲のよさを知って、2人の間に何があったのか知りたいとずっと思ってた。
だから、ミディアちゃんに悪いけど、私、どうしてもミディアちゃんの昔話を聞きたいんだよね。
ミディアちゃんはしばらく俯いていたけど、しばらくすると真っ赤な顔のまま、私の方を見て小さく頷いた。
「ウ、ウン・・・琴音がそこまで言うんだったら・・・いいよ。」
グハッ!!!
破壊力ありすぎるよ、その表情。
「堕ちたな。」
「やりましたね、ラーファ先輩。」
私のすぐ後ろで、ラーファちゃんとアイちゃんが小声でそう言ってるのが聞こえてきた。
やっぱり、楽しんでたな、この2人。
まあ、ミディアちゃんには聞こえてないみたいだからいいけど。
ミディアちゃんの許可は取れたけど、ミディアちゃんの表情は相変わらず赤いし俯いてるし、本当によかったのかなあ?
そう思ってたら、
「大丈夫よ、琴音。
そのうちミディアの機嫌も戻ると思うから。」
ラーファちゃんが自信ありげにそう言った。
今日のラーファちゃん、いつもよりテンション高いと思ってたけど、本当に今日はどうしちゃったんだろう?
まあ、ミディアちゃんと付き合いが一番長いラーファちゃんがそう言うんだったら、多分大丈夫なんだろう。
じゃあ、ミディアちゃんの過去話、聞かせてもらいましょうか。




