10.ルフィル・カロッサの前に
<<ミディア>>
ルフィル・カロッサまであと10日。
街のあちこちでルフィル・カロッサの準備が始まり、ラーヴォルンは少しずついつもと違う街並みへと変わっていく。
その変化は、毎日の登下校の中でも感じることができた。
このお祭りが始まる前の、この少し慌ただしい街の空気が、私はたまらなく好きだ。
まだお祭りまで日があるのに、すごいワクワクドキドキしてくる。
この高揚感がたまらなく好きだ。
「ねえ、ミディアちゃん、ルフィル・カロッサってどんなお祭りなの?」
いつものように、今日も琴音は下校時間にこちらに来ていた。
琴音も街の様子がいつもと少し違うことに気づいたのか、ルフィル・カロッサについて興味津々のようだ。
「ラーヴォルンでは、四季ごとにルフィルのお祭りをするんだけどね。
ルフィルのお祭りの中でも最大級なのが、このルフィル・カロッサなんだよ。」
「へえ、そうなんだ。」
「ルフィル・カロッサも、ルフィルに感謝するためのお祭りには違いないんだけどね。
他のルフィルのお祭りと決定的に違うのは、参加型のお祭りだってことだよ。」
「参加型?」
琴音が首を傾げる。
もしかして、ニホンには参加型のお祭りってないのかな?
「もちろん、ルフィル・カロッサにもルフィルの神殿で祈祷したり、儀式的なものはあるんだけどね。
ルフィル・コスタの場合は、そういう儀式的なものを見るだけの祭りだったから、はっきり言ってつまらないのよね。」
ラーファがそう言うと、エレーネ先輩もアイも頷いた。
「確かに、ルフィル・コスタはつまらなかったね。」
「私なんか、ルフィル・コスタの日は、お父さんと一緒に出かけてたし。」
そう言えば、あの日アイはいなかったけど、お父さんと出かけてたんだ。
一体どこに行ってたんだろう?
いや、それは多分、私は知らない方がいいような気がする。
「それに引き換え、ルフィル・カロッサは私達にも参加できるイベントがあるからね。」
「へえ、そうなんだ。
それはどんなイベントなの?」
琴音がラーファに尋ねる。
「ベイ・カロッサっていうイベントがあってね。
これは、私達はルフィルのおかげで元気で過ごしてますよってことを、天にいるルフィルに向かってアピールするためのイベントなんだけど・・・
そのベイ・カロッサは一般人も参加できるイベントなんだよ。」
「天にいるルフィルに元気であることをアピール?」
ルフィルのことをあまり知らない琴音にとっては、今一つピンとこないみたいだ。
いや、多分、ルフィルのことを知っているラーヴォルンの人でも、さっきの説明じゃよくわからないと思う。
まあ、わざとまわりくどい説明をしてるんだけどね。
「ルフィルのおかげで、私達は生きていけるってのは、前にも話したでしょ。」
「たしかルフィルのおかげで、生物に魂が宿るんだったっけ?」
「ウン、みんながアトゥアで生きていられるのは、ルフィルのおかげなんだよ。
だから、ルフィルに対する感謝をするってのが、ルフィルのお祭りの起源なんだよ。」
「でも、ルフィル・カロッサの場合は、街中の人達がそれに参加するから、感謝の規模が他の祭りとはケタ違いなのよ。」
ラーファが補足してくれた。
でも、琴音はやっぱりよくわからないと言った感じだった。
「それで、具体的にどんなことをするの?」
琴音がそう聞いてきた。
まあ、具体的なことを一切話していないから、琴音の質問は当然だよね。
こんなまわりくどい話し方をしているのは、実はみんなと話し合った結果なんだけど、なんか少し琴音には申し訳ない気がする。
今朝、学校でルフィル・カロッサの話をしてた時に、ラーファが
「ミディア、琴音には当日まで楽しみにしてもらおうよ。
今年はグラド・ルガンテも来るからね。
多分、あの子、また泣くわね。」
なんて言うから、エレーネ先輩やアイまで面白がってしまい、結局、琴音には当日までお預けにしようと言うことで決まっちゃった。
でも、それだとやっぱり琴音に悪いから、ちゃんと説明しようと思ったら、
「それは当日までのお楽しみだよ、琴音。」
ラーファに先を越されてしまった。
「ダメだよミディア。
今、琴音に教えようと思ったでしょ。」
ラーファが小声でそう言ってきた。
ラーファには全てお見通しだったようで・・・
でも、ハ―メルトンのコンサートの時みたいに、琴音がすごく喜んでくれるんだったら、私としては全然問題ない。
「ウン、そうだね。
琴音、それはルフィル・カロッサの日に直接見てほしい。」
「そっかあ、またお預けかあ。」
あれっ、琴音の反応が前と少し違う。
前は、当日まで楽しみにしてくれてたのに、なんか今日の琴音はすごいガッカリしているように見えた。
「えっと、琴音が嫌だったら、今すぐ話すけど・・・」
私がそう言ったら、琴音はニコッと笑った。
「ウウン、別に嫌じゃないよ。
私、こういう楽しそうなことは、むしろ焦らされるくらいがちょうど楽しくていいと思っているからね。
すごいワクワクしてるんだよ。」
「でも、さっき、またって言ったから、てっきり嫌なのかと思って・・・」
「ウウン、違うよ。
ルフィル・カロッサにイデアグラル。
私の中で楽しみなことが増えて、嬉しいなって思ったんだよ。」
琴音はそう言うと、もう一度ニコッと笑った。
でも、なんか今日の琴音、いつもと違って少し元気がないみたいだ。
「なんか元気ないね。」
「そ、そんなことないよ。
最近、夏休みで暇を持て余しすぎてるだけだよ。」
琴音は笑ってそう言うけど、やっぱりなんかいつもと違う。
「何か気になることでもあるの?」
「ミディアちゃんには、私が何か気になることがあるように見える?」
「ウン。」
私が即答すると、琴音は小さくため息を吐いた。
「なんか、ミディアちゃんってすごいね。
私、これでも隠していたつもりなんだけどなあ。」
琴音はそう言うけど、全然隠しきれてなかったよ。
私だけじゃなく、多分ラーファだって気づいていたと・・・
「えっ、琴音、何かあったの?」
全然気づいてなかったみたいだ。
もしかして、ラーファって相当鈍感なのかな?
「えっとね、大したことじゃないんだけどね。」
琴音はそう言うと、私達に元気のない理由を話してくれた。
「実はね、最近、日花里ちゃんに何かあったような気がするんだよ。」
「日花里って、琴音の親友の子だよね?
何かあったような気がするって、どうしてそう思ったの?」
「どうしてって言われても困るんだけど・・・
こないだ、遊びに行こうって珍しく日花里ちゃんの方から誘われて遊びに行ったんだけどね。
なんか、いつもと違ってボーッとしていることが多かったんだよね。
少し様子がおかしかったから、思いきって聞いてみたんだけど、何でもないって言うばかりなんだよ。
でも、あれは絶対に何かあったんだと思うんだよ。」
琴音の元気がないのは、親友の日花里の様子がおかしくて気になってたかららしい。
ラーヴォルンに来てもずっと気になるなんて、琴音にとって日花里はすごい大事な友達なんだろうね。
「多分、まだ琴音に話す整理ができてないんじゃないかな?」
おっと、ラーファが話に割り込んできた。
「でも、あんなにボーッとしている日花里ちゃん、初めて見たし、すごい気になるよ。」
「琴音を遊びに誘ったのは、多分、琴音に話そうと思ったんだよ。
でも、いざ誘ってみたら、話せなくなってしまったんじゃないかな。」
「えっ、日花里ちゃんの悩みって、話すことすらためらうような重たいことなの?
一体、日花里ちゃんの身に何が!?」
琴音の表情が真っ青になってる。
「重たいことかどうかわからないけどさ。
琴音を呼び出したってことは、琴音には話そうと思ってるってことだよ。
だから、もうしばらく待ってあげたらいいと思うよ。」
「そっか、そうだね、ありがとう、ラーファちゃんのおかげで少し元気が出たよ。」
琴音はそう言うとニコッと笑った。
「私、ルフィル・カロッサを楽しみに待ってるよ。」
「琴音に元気が戻ってきてよかった。」
「ありがとう、ミディアちゃん。
それにしても、ルフィル・カロッサにイデアグラル。
本当に秋はたくさんイベントがあるんだね。」
そう言えば、前に琴音に秋はイベントが多いみたいなことを話したような気がする。
「他にもまだまだあるわよ。」
ラーファがそう言うと、琴音は驚いていた。
「まだあるの?」
「今年はリーヴァ王国建国祭もラーヴォルンであるんだよね。
でも、私が一番楽しみにしているのは、モンフェルンへの魔法研修だけどね。」
「それは私も楽しみだ。
私達がラーヴォルンの外に出られることなんて、滅多にないことだからね。
しかも、今年の魔法研修は首都モンフェルンだし、今からすごい楽しみだよ。」
エレーネ先輩が大きく頷いた。
エレーネ先輩って、もしかしてラーヴォルンにいるのを退屈に思っているのかな?
「モンフェルンの魔法研修では、有名な魔導士や空想士に会えるって話だし、私もすごい楽しみにしてるんです。」
そっか、アイも楽しみにしてるんだ。
「ミディアはどうなの?」
「うっ!?」
ラーファに聞かれて、どう返せばいいかわからず、思わず変な声が出てしまった。
だって、一昨年、去年の魔法研修に、あまりいい思い出がなかったから。
自由時間になっても、成績の悪い私はずっと居残りで魔法研修を受けさせられて・・・
ラーファ達は私が終わるのを待っていたせいで、自由時間ほとんどなくなっちゃったし・・・
「私、魔法研修にあまりいい思い出ないし・・・」
「それは去年までの話でしょ。
今のミディアは魔法が使えるようになったんだし、今年はきっと楽しい思い出になるわよ。」
「そうだよ。
今のミディアちゃんだったら、絶対に大丈夫だよ。」
「ウン、そうだね。
今年はいい思い出が出来そうな気がするよ。」
私がそう言ったら、琴音とラーファは笑顔で頷いてくれた。
「まあ、そんな先のイベントのことはとりあえず置いといて。
私達にはその前に、直近で一つ、すごい大切なイベントがあるでしょ。」
突然、アイが話題を変えてきた。
まあ、そのことで今日は私の部屋に集まることになってたから、話題を変えるのはいいんだけどね。
アイが何を言いたいのかわかってるけど、まさか自分から話題をふってくるとはね。
「あーそう言えば、あったわね。
明後日に、ものすごい大事なイベントが。」
アイの話に、ラーファも乗っかってきた。
ていうか、ラーファの言い方も実にしらじらしい。
「ミディアちゃん、明後日何かあるの?」
当然、そんな話をしたら、琴音は私に聞いてくるわけで、それを見越しての2人のわざとらしい会話に思わずため息が出た。
しかも、さっきからラーファとアイ、じっと私の方を見ているし。
あれ絶対、私が言うのを待ってるよね。
でも、こういうことをされると、すこし意地悪をしてみたくなってしまい、
「えっと、何かあったかな?」
2人の表情に少しムカッとした気分にもなったので、ここはとぼけてみることにした。
「そんな、ミディア、私の誕生日を忘れちゃったの?」
ラーファはすごい落ち込んでいた。
ほんの軽い冗談のつもりなのに、どうしてそんなに落ち込むかなあ。
「ミディア、私達、親友だよね?」
アイもかなりショックを受けているみたいだった。
「あーもう、2人の誕生日のことを忘れてないから、そんなに本気で落ち込まないでよ。」
「よかった、ちゃんと覚えてくれてたんだ。」
ラーファもアイも本気で安堵していた。
ラーファはともかく、まさかアイまで本気にするとは思わなかった。
さっき学校で誕生日のことを話してたのに、どうして本気にするかなあ。
なんか、この2人には気軽に冗談も言えなくなったよ。
「ラーファちゃんとアイちゃんの誕生日って、2人の誕生日同じなの?」
琴音は驚いていた。
まあ、今の話だけを聞いたら、そういう風に誤解しても仕方がないね。
「違うよ。
アイの誕生日が一日だけ早いんだよ。
でも、ほとんど同じだから、いつも一緒にお祝いしているんだよ。」
「そっかあ、でも一日違いってすごいよね。」
「あっ、でも、誕生日の話をするとね・・・」
「ああもう、どうしてもう一日だけ後に生まれてこなかったんだろう。
私のバカバカバカ・・・」
「アイは毎年同じこと言ってるよな。」
エレーネ先輩が苦笑する。
そう、アイは毎年ラーファと同じ日に生まれてこなかったことを悔しがるんだよね。
「でも、一日違いとか、やっぱり私とラーファ先輩って、なんか強い絆で結ばれていると思うんですよ。」
そして、すぐに元気になって、毎年おんなじことをラーファに言う。
それで、ラーファはそれを聞いて、いつも苦笑している。
ラーファも、いい加減に毎年同じことばかり言って飽きたって言ってやればいいのに。
でも、そういや、ラーファがアイと会話してるのって、あまり見たことないなあ。
アイがラーファのことを大好きなのは知ってるけど、ラーファはアイのことをどう思ってるんだろう?
ルーイエ・アスクに到着すると、みんなと一緒に私の部屋へと向かう。
最近、みんなが私の部屋に来る回数が増えた。
いつの間にか、私の部屋がみんなの遊び場になっているような気がする。
みんなと遊べるのは嬉しいんだけど、でも、お仕事手伝えなくなっちゃうから、すごい悩ましいんだよね。
今日も夕方までお仕事できそうにない。
みんなと遊べるのは、本当にすごい嬉しいんだけどね。
「ミディア、ラーファ、お帰り。」
部屋に向かう途中で、ラヴィおばさんとバッタリ会った。
「おや、今日はみんな一緒なのかい?」
ラヴィおばさんが笑顔で私に声をかけてきた。
「ウ、ウン・・・今日はラーファとアイの誕生日のことでね。」
「そうかい、じゃあ、何か飲み物でも出さないとね。」
最近、心なしか、レームおじさんやラヴィおばさんが、私に声をかけてくる回数が増えたような気がする。
いや、一緒に住んでるんだし、会話すること自体は別に変なことじゃないんだけどね。
ただ、何て言うか、すごく2人に気にかけられているような気がするんだよね。
今だって、私とラーファが一緒にいるのに、ラーファには全く声をかけないで、私にばかり話しかけてくるし。
私、なんか2人に心配かけるようなことでもしたかな?
正直、全く身に覚えがないんだけど・・・
ラヴィおばさんは下に降りようとしたけど、エレーネ先輩の姿を見つけると、立ち止まってエレーネ先輩に声をかけた。
「そうだ、エレーネ。
あなたのイデア、お客様に評判よくて、すごい助かってるわ。」
「えっ、そうなんですか?ありがとうございます。」
エレーネ先輩は少し照れているようだった。
エレーネ先輩、何で嬉しそうなんだろう?
って、あっ、そうか。
つい先日、ルーイエ・アスクでレンタルイデアのサービスを始めたんだっけ。
ここでレンタルしているイデアのほとんどは、エレーネ先輩が撮影してきた風景イデアだ。
エレーネ先輩が撮影したものをレンタル用に編集したもので、前に見せてもらったけど、すごいきれいな景色ばかりで、初めて見た時は私も少し感動した。
「いやあ、すっごい嬉しいよ。
最初に話を聞いた時はすごい不安だったんだけど、評判よさそうでよかったよ。」
エレーネ先輩は、すごい嬉しそうだった。
「私のダメ出しがよかったってことね。」
ラーファがクスッと笑いながらそう言う。
「ちょっと、そこは私の撮影技術と絶景スポットの選択がよかったからでしょ。」
「まあ、そういうことにしておいてあげる。」
それからしばらく、ラーファとエレーネ先輩の言い合いが続いた。
さっき、ラーファはアイとあまり会話しないって思ったけど、エレーネ先輩とは逆に話す回数がすごい多い。
それに、ラーファもエレーネ先輩も、遠慮なく何でも言い合ってる感じだ。
こういう2人の言い合いを見るたびに、ラーファとエレーネ先輩って本当に仲がいいんだなって思い、少し羨ましくなる。
「どうしたのミディアちゃん、さっきからニコニコしちゃって?」
「えっ!?」
琴音に言われるまで、自分がニコニコしていることに気がつかなかった。
「何かいいことあったのか、ミディア?」
さっきまでラーファと言い争っていたエレーネ先輩が、いつの間にか私の方をじっと見ていた。
「えっと・・・何でもないです。」
さすがに、ラーファとエレーネ先輩を見てニコニコしてたとは言えなかった。




