7.秘密のアイの部屋と小芝居
<<琴音>>
それはそうと、さっきアイちゃん、隣の男の人のことをお父さんって呼んでたな。
てことは、あの人がアイちゃんのお父さんかあ。
小柄で普通のおじさんって感じだ。
いや、おじさんっていうのは難しいなあ。
見た目には少し年上のお兄さんにしか見えなかったから。
本当にラーヴォルンに住んでいる人は、みんな異様に若く見える。
16歳の子供がいるってことは、年齢的には30代後半から40代だと思うんだけど、見た目はどう見ても20代前半だよ。
ラーファちゃんのお母さんといい、エレーネちゃんのお母さんといい、アイちゃんのお父さんといい・・・
もしかして、ラーヴォルンに住めば、永遠の若さでも手に入るのかな?
「さすがに眠たくなってきたから、私はもう寝るけど、アイも一緒にどうだ?
もちろん、裸で一緒にだ。」
えっ、今なんて言った?
あの人、アイちゃんのお父さんだよね?
娘と一緒に裸で寝るとか、どんな親子だよ。
これがアイちゃんのお父さんかあ。
噂には聞いてたけど・・・これはヒドイ。
見た目はさわやかなお兄さんっぽいのに、超アブナイ人だったよ。
「ウウン、私はもう少しやってから寝るよ。
イデアグラルまで、もうあまり時間がないしね。」
私にとってはアイちゃんのお父さんの発言はトンデモ発言なんだけど、アイちゃんは普通に対応しているな。
きっと、アイちゃんのお父さんがああいうこと言ってくるのに、もう慣れちゃってるんだろうな。
でも、それはいいことなのだろうか?
アイちゃんのお父さんは、眠たそうな顔で家に戻って行った。
でも、アイちゃんはさっきの建物に戻っていった。
何だろう、あの建物は?
さっき、イデアグラルのこと言ってたけど、もしかしたら出展する作品を作っているのかな?
だとしたら、覗くのはやめた方がいいかも・・・
やっぱり、アイちゃんの作品はみんなと一緒に見たいからね。
でも、あの建物が何なのか、すごい気になる。
どうしようかな?
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
しばらく考えた末に、アイちゃんと一緒に建物に入ることにした。
というのも、アイちゃんの作品は見ないで、建物の中だけを見ればいいんだと言うことに気がついたからだ。
「アイちゃんの作品は見ないようにしないとね。」
アイちゃんの後について、そーっと入ってみる。
建物に入ってすぐに大きな部屋があった。
部屋には、何やら色々ゴチャゴチャとおいてあった。
たくさんのイデアがあり、壁にはたくさんのポスターが貼ってあった。
そのほとんどがホラー系。
しかも、ただのポスターじゃなくて、動くんだよね。
目や口・・・
このポスターも多分、イデアなんだろうな。
真夜中の薄暗い部屋で目がギョロギョロ動いたり、ニヤッと笑いだすホラーポスターは、さすがに怖い。
キャアアアア・・・
「ヒイッ!!」
思わず悲鳴を上げてしまった。
というのも、ポスターから小さな悲鳴が聞こえてきたからだ。
いや、それ以外にも、よく聞けば色んな効果音が聞こえてくる。
私はホラー系の映画もよく見るから、この手の効果音には結構聞き覚えがあった。
ゾンビが人に噛みついた時の音とか、金属バットで人を殴った時の音とか刃物を研いでいる時の音とかに似ている。
あと、ずっと聞こえてくるのが、シャベルで地面を掘っている音。
そんなに掘って、一体何を埋めるつもりなんだろう?
普通だったら、ゴミとか答えるのかもしれないけど、この部屋で聞いたら、人間の死体とかどうしてもそっち系の発想になってしまう。
アイちゃんは何事もないように普通に歩いてるけど、この部屋怖すぎるでしょ。
なんで、悪趣味な部屋なんだろう。
部屋をしばらく進むと、今度はたくさんの人形が置いてあった。
「あっ、これは、ラーファちゃんの持ってた人形だ。」
ラーファちゃんの部屋にもあった、顔のない人形がたくさん置いてあった。
ラーファちゃんの部屋で見た時はただの変な人形だと思ったけど、この部屋のおかげで、この人形もすごい不気味なものに思えて仕方がなかった。
突然人形が起き上がって、こっちに歩いてきても全く違和感がない。
私はミディアちゃんやラーファちゃんよりは怖いものに耐性がある方だと思ってたけど・・・
この部屋は怖すぎると思った。
きっと、ミディアちゃんとラーファちゃんがこの部屋に来たら、すぐに気絶しちゃうだろうな。
ガチャリ
アイちゃんは奥の扉を開けると、向こうの部屋に入って行った。
多分、奥の部屋がアイちゃんの部屋なんだろう。
てことは、ここは多分、アイちゃんのお父さんの部屋だね。
色々と話には聞いてたけど・・・想像以上だった。
この部屋は一体何だろう?
アイちゃんのお父さんって、確か空想士って職業らしいんだけど、もしかしたらこの部屋で作品を生み出しているのかな?
確かに、グロ系ホラー作品を生み出すには、これ以上ない素晴らしい環境かもしれない。
私はこんな部屋にもういたくないけど・・・
早くアイちゃんの部屋に行こう。
アイちゃんの部屋は、多分エロポスターとかでいっぱいかもしれないけど、そっちの方が遥かにマシだ。
この部屋にいると、頭がおかしくなりそうだ。
私はそう思い、急いでアイちゃんの部屋に飛び込んだ。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
しかし、アイちゃんの部屋に入った瞬間、さっきまでとは別の衝撃に再び打ちのめされることになった。
人って心の準備ができていない時に、衝撃的なものを見てしまったら、何も言葉が出て来なくなるものなんだね。
アイちゃんの部屋を見た瞬間、あまりの衝撃に固まってしまった。
正直、アイちゃんの部屋は、さっきの部屋ほどのインパクトはないだろうと完全に油断していた。
アイちゃんの入っていった部屋にも、大量のイデアと人形が置いてあった。
でも、衝撃を受けたのはそこではなく、壁一面に隙間なく張られた大量の写真だった。
いや、正確に言うと、少しはポスターも貼られていた。
ちょっぴりエロいポスターばかりだけど、衝撃を受けたのはそこではなかった。
壁のほとんどを占有していたのは、ラーファちゃんの写真だった。
右を見ても、左を見ても、貼られているのはラーファちゃんの写真ばかり・・・
そして、衝撃的なのは、天井に巨大なラーファちゃんの笑顔の写真が貼ってあることだった。
アイちゃんが、ラーファちゃんのことを好きだってことは知ってたけど、さすがにこれは・・・
アイちゃんは部屋の真ん中で寝転がり、天井のラーファちゃんの顔を見つめていた。
「ラーファ先輩、全然いいアイデアが思いつかないですよ。」
そして、天井のラーファちゃんに向かって、語りかけていた。
これは怖い。
さっき、翌日会って気まずくなるようなものは見たくないって言ったけど・・・
これは私の想定していたものとは違う方向性のヤバいやつだ。
「そういや、今日、琴音、夜遅くにこっちに来るって言ってましたね。
もしかして、今、ここに来てたりして・・・なあんてね。
さすがに、そんなことはないかな。
この部屋のことは誰にも話してないし・・・」
アイちゃんは天井のラーファちゃんに向かって、笑顔でそう語りかけた。
いや、そのまさかだよ。
私、今アイちゃんのすぐそばにいるよ。
やっぱり、みんなには誰も話してなかったんだ。
そりゃそうだろう。
ミディアちゃんやラーファちゃんが知ったら、多分とんでもないことになるだろう。
「そうだ!!」
突然、アイちゃんは何か思いついたのか、勢いよく起き上がると、部屋の片隅にある机の方へと向かいだした。
「ん?」
今一瞬、アイちゃんの手が光ったような気がしたけど、気のせいかな。
きっと気のせいだろう。
この建物に入ってから、散々驚かされてきたから、手が光るぐらいの錯覚があっても仕方がないか。
それにしても、とんでもない部屋だな。
改めて、部屋を見渡してそう思う。
それはそうと、アイちゃんは何しに行ったのかな?
そう思い、アイちゃんの机の方を覗き込んだ瞬間・・・
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
第2波の衝撃が私に襲いかかってきた。
そこにあったのは、以前、私が見た全裸でアイちゃんとちゅっちゅしている写真が置いてあった。
でも、私が衝撃を受けたのは、その写真ではなかった。
その写真の下には、私の別の写真があった。
そこには、もうちゅっちゅだけでは済まされない壮絶な妄想の数々が・・・
「私、アイちゃんの妄想の中で、こんなすごいことをされていたなんて・・・」
ショックで言葉も出てこなかった。
これは、なんてエロい・・・じゃない、ヒドい。
「琴音って、本当にかわいいよね。
琴音の姿を見ることができないのが、残念で仕方がないよ。
琴音の体を触れられないのが残念で仕方がないよ。」
アイちゃんはそう言って、写真の中のあられもない姿の私をスーッと指でなぞった。
背筋がゾッとなった。
もし、私に触れることができるようになったら、写真にあるようなことを私にするつもりなんだろうか?
姿が見えなくてよかった。
心の底からそう思った。
そして、私の写真の下には、何とミディアちゃんの写真もあった。
ミディアちゃんも私と同じように、すごいことをされていた。
「そんな・・・ミディアちゃんまで・・・」
これはマズい。
アイちゃんとミディアちゃんは親友だと思ってたけど、アイちゃんはミディアちゃんのことをこういう風に見ていたんだ。
これは、ラーファちゃんに教えないと、ミディアちゃんが危ない。
「そういや、最近、ミディアも小さくてかわいいなあって思ってたんだよね。」
アイちゃんがポツリとそう呟いた。
えっ、ウソ、まさか・・・
「今だったら、私の方が背も大きいし、力もあるから・・・多分いけるかな。」
何がいけるというのだろうか?
さっきから、悪いことばっかり想像してしまう。
「明日、ラーファ先輩とエレーネ先輩は景色撮りに出かけるって言ってたから、ミディアと2人っきりになれるなあ。
じゃあ、その時に、グフフフフ・・・」
アイちゃんの笑いに背筋がゾッとなった。
これはミディアちゃんの貞操がヤバい。
「でも、やっぱり私の中では、ラーファ先輩が一番ですよ。」
アイちゃんはそう言うと、部屋中に貼り付けているラーファ先輩の写真に頬ずりし始めた。
これ以上この部屋にいたら、気がおかしくなりそうだ。
私は慌てて、この部屋から出ることにした。
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
とんでもないものを見てしまった。
明日、っていうか、今日は早く寝て、ミディアちゃんを守りにこないと。
でも、透明な私に何ができると言うのか?
実際にミディアちゃんが襲われても、私には何もできない。
前に、偽物の世界に連れて行かれた時も、私には何一つできなかった。
そう、私がミディアちゃんを守ることはできない。
だとしたら、私にできることはただ一つ。
ラーファちゃんを全力で引き留めるしかない。
ミディアちゃんの身に危険が迫っているって言ったら、さすがにラーファちゃんもミディアちゃんにつきっきりでマークしてくれるだろう。
今日は早く寝て、私がミディアちゃんを守ろう。
<<アイ>>
「あーなんかバカバカしくなってきた。」
この部屋に琴音がいたら、きっと驚くだろうなあと思って、一人小芝居をやってみたんだけど・・・
琴音がいるかどうかもわからないし、やっているうちにすごいバカバカしくなってきた。
「わざわざ、魔法でイデアフィルに写っている顔をミディアや琴音にすり替えたりしたけど・・・
顔だけ変えてるから、よく見たら違和感がありすぎるんだよね。」
イデアフィルは一部の切り取った映像や音を収める小容量の薄いイデア媒体。
だから、普通のイデア媒体よりも、外部から操作しやすい。
魔法で顔をすり替えるくらいの操作は、学生でも簡単にできるけど、その分ばれやすい。
魔法で、効果を打ち消すことができるし、多分ラーファ先輩やエレーネ先輩にはすぐにばれるだろう。
でも、琴音は魔法のない世界から来ているそうだから、多分ばれないだろう。
ただ、すり替えた顔が、瞬間的に妄想で生み出した顔だから、多分本人の顔とは若干違ってて、そこからばれる可能性もある。
琴音はイデアでしか見たことないのでわからないけど、ミディアの顔はかなり違和感があったからね。
「ハァ・・・何やってるんだろう?
なんか、さっきからすごいバカなことばっかりやってる気がする。」
これと言うのも、イデアグラルに出す作品のアイデアが全く思いつかないからだ。
「今まで3回応募したことあるけど、こんなこと初めてだよ。」
そう、今までは自分の思いついたままに作品を作って送った。
でも、今回はラーファ先輩やエレーネ先輩、それにミディアが見て喜んでくれる作品じゃないといけない。
みんなに全年齢ものを作るって言った以上、ちゃんとしたものを作らないといけない。
でも、そう考えれば考えるほど、何を作ればいいのかわからなくなってくる。
さっきの小芝居もエロスだったし、私のアイデアはどうしてもそっち方面ばっかりになっちゃうんだよね。
どんなものを作ったら、みんな喜んでくれるのかな?
私が好きな作品は確実に好まれないと言うことだけはわかる。
じゃあ、どういう作品を作ればいいのだろう?
「もう、今年は応募するのやめようかな?」
いや、それはダメ。
みんなに見に来てと言った以上、そんなことは絶対にできない。
それに、私は早く一人前の空想士になりたい。
空想士は、イデアに関するありとあらゆる技術が必要と言われている。
だから、イデアグラルは空想士を目指す私にとって、絶好の修行場だ。
「エレーネ先輩はどんな作品でも受け入れてくれそうだからよしとして・・・
やっぱり問題はミディアとラーファ先輩だな。」
特にミディアに受ける作品を作るのは難しい。
何を作れば喜んでくれるのか、全く見当もつかない。
ミディア、あまりイデアフィールズ見ないから、ミディアがどういう番組が好きとかあまり知らないんだよね。
それに、やっぱりラーファ先輩が喜んでくれる作品を作りたい。
でも、どんな作品を作ればいいんだろう?
本当に思いつかないよ。
困ったなあ、どうしよう。




