5.覆面にお願いしてみた
<<琴音>>
えっと、ミディアちゃん、だからの前と後が全然つながってないような気がするんだけど・・・
どうして、そういう結論になったんだろう?
ウーン、よくわからない。
それにしてもミディアちゃんの話は、私にとってかなりショックな話だった。
「私、実は3年前からほとんど成長してないんだよ。」
16歳にしては小さいなあとは思ってたけど、まさか3年前からほとんど成長していないとは思わなかった。
これってやっぱり、3年前にミディアちゃんが巻き込まれたっていう事故のせいなのかな?
「私、考えたんだ。
自分の体は、どう頑張っても自分の意志で大きくできないでしょ。
でも、人間的になら、自分の力でも何とかすることができるでしょ。
だから、せめて人間的に大きく成長したいなあって思ってね。
そのためには、琴音みたいに異世界に行って、色んな経験をするのが一番じゃないかなって思ったんだよ。」
「ミディアがエレーネ先輩みたいなことを言ってる。」
アイちゃんが驚いた声をあげる。
私も驚いた。
ミディアちゃんが地球に行きたいなんて言い出したの、これが初めてだったから。
「琴音、こないだ、自分をラーヴォルンに連れてきている人のことを話してたよね?」
「ウ、ウン。」
実はあの事件の後、ミディアちゃん達に覆面の存在のことをさらっとだけ話した。
あの時は、エレーネちゃんだけがやたら話に食いついてきたけど、ミディアちゃん達はあまり関心なさそうだった。
「まさか、ミディアちゃん・・・」
「お願い、その人に、私を地球に連れてってくれるよう頼んでもらえないかな?
もちろん、琴音みたいに、夜寝ている時だけでいいから。」
ミディアちゃんの発言に、みんなビックリしていた。
「そっか、その手があったか。」
ミディアちゃんの発言に真っ先に反応したのは、やっぱりエレーネちゃんだった。
次にエレーネちゃんが何を言うか、大体想像がつく。
「ミディア、私も地球に連れて行ってくれるよう、琴音に頼んでよ。」
私の予想は見事なまでに的中した。
やっぱりね、エレーネちゃんなら絶対にそう言うと思ったよ。
もしかしてミディアちゃんもエレーネちゃんも、私が覆面と仲がいいと思ってるのかな?
何でも気軽にお願いできるような、そんな関係じゃないんだけど。
「で、でも、私、別に覆面と仲がいいわけじゃないし、多分無理だと思うよ。」
「お願い、琴音。
一回だけでいいから、頼んでみてくれないかな?」
「ミディアちゃん・・・」
必死に頼み込むミディアちゃんの姿を見たら、断りきれなくなってしまった。
どうしようかな?
「じゃあ、一回だけ頼んでみるね。」
私がそう言うと、ミディアちゃんはエレーネちゃんと抱き合って大喜びしていた。
ミディアちゃんがどうしてこんなことを言いだしたのか、話を聞いても今一つよくわからないんだよね。
正直、私はミディアちゃんがなんか焦っているように思えて仕方がなかった。
でも、「どうしてそんなに焦っているの?」と聞く勇気はなかった。
「だって、私達、あまり時間がないですし。」
こないだのミディアちゃんの一言が、ずっと引っかかってるんだよね。
もしかしたら、それと関係があるのかも。
あれは本当はどういうことだったのか、ラーファちゃんに聞いてみようと思ったんだけど・・・
今日はラーファちゃん、さっきからボーッとしててなんか様子おかしいし。
ていうか、今日は、ミディアちゃんとラーファちゃんがほとんど会話してないんだよね。
ラーファちゃんはずっとぼーっとしてるし、ミディアちゃんはラーファちゃんに全く話しかけようとしないし。
なんかあったのかな?
「ねえ、ラーファちゃんはミディアちゃんが地球に行った方がいい思う?」
思い切って、ラーファちゃんに声をかけてみた。
でも、ラーファちゃんはずっとボーッとしていて、私の声に気づいていないようだった。
それに、さっきまで楽しそうに話していたミディアちゃんの表情もなんか暗くなっちゃったよ。
ウーン、これはやっぱり何かあったみたいだ。
「ラーファちゃん。」
もう一度、ラーファちゃんに声をかけると、ようやくラーファちゃんは私の方を見てくれた。
「琴音、私に何か用?」
「えっとね、さっきのミディアちゃんが地球に行きたいって言ってたんだけどね。」
「ええっ、ミディアが地球に!?」
あっ、ラーファちゃんがいつもの感じに戻ったような気がする。
「ラーファちゃんもミディアちゃんが地球に行った方がいいと思う?」
「ダメダメダメ、絶対にダメよ。
ミディアはラーヴォルンが嫌いになったの?
それとも、昨日のあれで、私のことが嫌いになって・・・」
「違うよ。
昨日のことは関係ないよ。」
「じゃあ、どうしていきなりそんなこと言い出すのよ。」
「だから、人間的にもっと成長したいからって言ったでしょ。
それに、地球に行くのは、琴音みたいに夜眠っている間だけって言ったでしょ。」
ミディアちゃんがそう言うと、ラーファちゃんの表情が少しだけ和らいだ。
「よかった。
てっきり、ミディアにもう会えなくなっちゃうのかと思って、絶望しかけたよ。」
ラーファちゃんはそう言うと、ミディアちゃんに抱きついた。
「ちょっと、ラーファ・・・暑苦しいよ。」
でも、いつもと違って、今日のミディアちゃんはラーファちゃんに抱きつかれても離そうとしない。
やっぱり、2人の間に何かあったんだ。
さっき、ラーファちゃんも昨日のあれって言ってたし。
一体何があったんだろう?
色々聞いてみたいとは思うけど・・・
「もう、ラーファは本当に仕方がないなあ。」
ミディアちゃんにもいつもの笑顔が戻ったし、まあいいかな。
「まあ、夜だけだったら、別に地球に行ってもいいんじゃない。
ていうか、私も行ってみたい。」
まさか、ラーファちゃんまで加わるとは思わなかった。
「ラーファ先輩が行くんだったら、私も行きます。」
アイちゃんまで加わったよ。
「じゃあ、4人で地球に行こう。」
「おー!!!」
なんか、4人ですごい盛り上がってるけど、まだ行けると決まったわけじゃないんだからね。
「というわけで、琴音、私達を地球に連れてって。」
もう一度ミディアちゃんにお願いされた。
正直、覆面が連れてってくれるとは思えないけど、でも、頼むくらいならやってみるかな。
ミディアちゃんとラーファちゃんが、楽しそうに話す姿を見てそう思った。
(というわけで、ミディアちゃん達4人を地球に連れてってくれないかな?)
私は頭の中で覆面にお願いしてみた。
すると、すぐに覆面から返事が返ってきた。
(アホか。)
ミディアちゃん達の願いは、たったの一言でバッサリと切り捨てられた。
ウン、そう言うと思ってたよ。
(まあ、そう言わず、そこを何とか・・・)
(大体、ミディア達を地球に連れて行くことで、私に何のメリットがあると言うのだ?)
そうだった。
覆面は自分にメリットがあるかどうかだけで行動する人だった。
(そこは、ほら、ミディアちゃん達に日本のことをよく知ってもらえるし、異文化交流だよ。)
(だから、その異文化交流で、私は何のメリットを得られるんだ?)
覆面は、再びメリットを聞いてきた。
まあ、その聞き方の時点で、覆面には何のメリットもないってことがよーくわかった。
それにしても、本当に損得勘定でしか動かないんだな、この覆面は。
(どうしてもダメ?)
(ダメだ。)
即答された。
これは、何度お願いしても無理だろう。
(琴音、お前はもうこないだの事件のことを忘れたのか?)
覆面が私に尋ねてきた。
(忘れるわけないよ。)
忘れられるわけがない。
今でも時々、あの時のことを思い出して、ゾッとなることがあるくらいだ。
(だったら、ミディア達を地球に連れて行った時のリスクについて、もっと考えた方がいい。)
覆面にそう言われて、私はハッとなった。
そうだった。
今は、何者かが、私がラーヴォルンに来るのを妨害しようとしている状況だった。
私と覆面のことを認識できるその犯人はまだ捕まっていない。
今でも、どこかから私と覆面のことを見張っていて、再び妨害しようと企んでいるかもしれない。
そんな状況で、もし、覆面がミディアちゃん達を地球に連れて行ったとしたら・・・
きっと、その犯人は黙ってはいないだろう。
そして今度は、ミディアちゃん達が犯人のターゲットになる可能性が高い。
(ゴメン・・・)
(わかればいいんだ。)
覆面との会話は、そこでプツリと途切れた。
覆面の言う通りだ。
私の考えが浅かった。
今、ミディアちゃん達を地球に連れて行くことが、どれだけ危険なことか、全くわかっていなかった。
覆面に言われるまで、全く考えもしなかった。
ミディアちゃん達を危険に巻き込みたくないと思っていたのに、私はなんてバカなんだろう。
「ミディアちゃん、ゴメンね。
今頼んでみたんだけど、それはできないって断られちゃった。」
私がそう話すと、ミディアちゃんとエレーネちゃんは思い切りガッカリしていた。
2人のガッカリする顔を見たくはないけど、こればかりは仕方がない。
「まあ、ダメだったら仕方がないわね。」
ラーファちゃんの反応は普通だった。
多分、ラーファちゃんは、地球に行けても行けなくてもどっちでもよかったんだと思う。
ただ、ミディアちゃんと一緒にいたかっただけなんだろうね。
「私の人間力向上計画が・・・」
「何が人間力向上計画よ。
大体、ミディアはアトゥアのことだってロクに知らないじゃない。」
アイちゃんがミディアちゃんに向かってそう言った。
「アイ・・・」
「ミディアはラーヴォルンの外のことだってロクに知らないんでしょ。
だったらわざわざ地球に行かなくても、ラーヴォルンの外に行くだけで、十分に異世界気分を味わえるんじゃない?」
「確かに・・・アイの言う通りかもね。
アイ、ありがとう。」
おお、ミディアちゃんに元気が戻った。
さすがはミディアちゃんの親友だけのことはある。
アイちゃんはプイッと横向いちゃったけど、あれはきっと照れ隠しだね。
「私は思い切りガッカリしてるよ。」
エレーネちゃんは思い切り落ち込んでいた。
本当に日本に行ってみたかったんだな。
しょうがないなあ。
「じゃあ代わりに、私が今までの2倍、日本の話をたくさんするよ。
赤川市のことや日本のこと、私達の住む世界のことを、いっぱいいっぱい話すから。
聞きたいことがあったら、私になんでも聞いてくれていいよ。」
私がそう言うと、ミディアちゃんが、
「えっ、本当にいいの?」
と笑顔で言った。
私が話したことを、ミディアちゃんがエレーネちゃんとアイちゃんに伝えると、2人とも大喜びしていた。
そして、
「じゃあ、早速色々質問してもいい?」
エレーネちゃんはそう言うと、カバンに入れてあったノートを取り出した。
早速、質問ですか。
もしかして、あのノートに、聞きたいことをため込んでいたのかな?
「私も琴音に色々と聞きたいことがあったんだよ。」
アイちゃんも笑顔でそう言った。
「よかった。
私も色々聞きたいことがあったんだよ。」
ミディアちゃんも笑顔でそう言った。
しまった、これはマズいことを約束しちゃったかも。
「琴音の住んでいる街はどんなとこなの?
人口は?面積は?
ていうか、二ホンはどれくらいの大きさなの?
どんな地形しているの?」
「琴音の行ってる学校って、どんな学校なの?
生徒はどれくらいいるの?
二ホンではどんなこと勉強するの?」
「琴音は男の子と女の子のどっちが好き?」
「地球って、やっぱりアトゥアと同じで丸い惑星なの?
大きな大陸はいくつぐらいあるの?」
「二ホンの乗り物って、どんなものがあるの?」
「琴音が今穿いている下着の色は?」
「二ホンの首都って、やっぱり大きな街なの?
人口はどれくらいいるの?」
「二ホンではどんな食べ物があるの?
琴音はどんな料理が好きなの?」
「琴音はお風呂では体のどこから洗うの?」
それから、ミディアちゃんとエレーネちゃんとアイちゃんにすごい質問攻めにされた。
ていうか、明らかに性質の違う質問が2,3個ほど紛れていたような気がするんだけど・・・
それにしても困った。
これは、えらいことを言ってしまったかもしれない。
特にエレーネちゃんは、ノートに書き留めるくらいに聞きたいことがあったようで、質問の数が半端なさそうだ。
もしかしたら、これからずっと質問攻めにされるかもしれない。
でも私だって、赤川市や日本のことをそんなに知っているわけじゃない。
これからの夏休み、私は赤川市と日本の勉強をする羽目になるかもしれない。
「まあ、でも、ミディアちゃん達が喜んでくれるなら・・・」
この笑顔を守るためにも、少しは頑張ってみるかな。
「琴音の住んでいる世界の情勢について教えてほしい。」
「琴音の住んでいる街はどんな産業が盛んなの?」
あまり難しいことはさすがに無理だけど・・・ウン、頑張ってみよう。




