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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
5/254

1.少し毒のある幼馴染と涙の再会

<<琴音>>

 その日、いつも以上に学校に行くのが苦痛に感じた。

「おはよう。」

 日花里ちゃんが家に来た時も、今日は学校休むって言ったくらいだ。

 当然、お母さんに怒られて、学校に行くことになったんだけど。


「どうしたの?

 今日はいつも以上にテンション低いわね。」

 朝から激しくため息をつく私に日花里ちゃんが声をかけてくる。

「だってー、あんな素敵な場所にもう二度といけないかもしれないって思ったら・・・」

「素敵な場所?」

 日花里ちゃんが首を傾げる。

「ラーヴォルンってところなんだけど、とっても素敵な場所でね・・・

 理想郷みたいなところだったんだよ。」

 私は日花里ちゃんに、昨日見た夢のことを話した。

 ラーヴォルンという素敵な街にいたこと。

 そこで、ミディアちゃん、ラーファちゃん、エレーネちゃんという素敵な女の子と友達になれたこと。

 エレーネちゃんが連れてってくれた絶景スポットがあまりにも素敵な場所だったこと。

 素敵な場所だったのに、いつもより30分も早く目覚めて、すごい損をした気分になったこと。


 日花里ちゃんにラーヴォルンのことを話し始めるうちに、私のテンションはどんどん上がっていった。

「へえ、それは楽しそうな夢ね。」

「でしょ?だから、夢から覚めた後、現実とのギャップで激しく落ち込んでたんだよ。」

 そう言ったら、日花里ちゃんに笑われた。

「そんなに笑うことないでしょ。」

「いやあ、実に琴音らしいなって思って。」

 日花里ちゃんの言う私らしいって、一体どういう人のことを言うんだろう?

「それはそうと、数学の宿題やってきた?」

 日花里ちゃんがそう言った瞬間、私の頭の中からラーヴォルンのことが消えていく。

 そう言えば、今日、数学の授業あるんだった。

「やってない。日花里ちゃん見せて。」

「そう言うと思ってたよ。」

 こんな感じで、いつもの日常へと戻っていった。

 ありきたりで退屈なごく普通の日常生活に戻っていった。

 でも、心の中では、ずっとラーヴォルンのことが引っかかっていた。

 できれば、もう一回ラーヴォルンに行ってみたい。

 私は強くそう思った。


<<ミディア>>

「大変、琴音が突然消えちゃった!!」

 目の前で突然起こったことに、私はパニックになってしまいました。

「落ち着け、ミディア。何があった?」

 エレーネ先輩が、私の元に慌てて駆け寄ってきました。

「琴音が・・・突然輝き出したと思ったら、光の中に消えちゃったんです。」

「そうなのか?」

 エレーネ先輩はラーファの方を見ます。

 でも、ラーファは「私は見ていない。私は見ていない。」と言うばかり。

 そんなに琴音のことが怖いのかな?

 確かに、私とラーファにしか見えない存在ってことを考えたら、もう少し私も怖がるべきなのかもしれない。

 でも、琴音はそんなに怖い子ではないと思うけどなあ。

 初めて見た時は、確かに少し怖かったけど・・・

 でも、あんな素敵な笑顔ができて、景色を見て泣いてしまうような子が悪い子だとは思えない。

「琴音・・・またいつか会えるよね?」

 気がつくと、さっきまで琴音が見つめていた黄昏のラーヴォルンに向かってそう呟いていました。

 琴音はまたきっと来てくれる。

 今はそう信じたいと思います。


<<琴音>>

 なんだか今日は疲れた。

 朝から体育の授業があって、無駄に走らされるし、大嫌いな数学と国語の授業があったし。

 でも、いつも以上に疲れた気分になるのは、多分あんな夢を見たからだと思う。

「ラーヴォルン、素敵な街だったなあ。」

「まだ、そんなこと言ってるの?」

 日花里ちゃんが呆れた表情で私の方を見ていた。

「だってえ、本当に素敵な街だったんだよ。

 それに、みんなかわいい子ばっかだったし。」

「アンタがそんなに夢の話ばかりすることって、今までなかったよね。」

「でも、私が見たのって、本当に夢だったのかな?」

 そう、本当にあれは夢だったのだろうか?

 夢にしては、ミディアちゃんにラーファちゃんにエレーネちゃん。

 ラーヴォルンの街並みや美しい景色。

 あまりにもリアリティがありすぎて、なんか夢のような感じがしなかったんだよね。

「夢かどうかなんて、夜になればわかることなんじゃないの?」

「えっ、どういうこと?」

「だから、本当に夢じゃないとしたら、今夜寝たら、また行けるかもしれないでしょ。

 普通、夢の世界って1話完結でしょ。

 実在していて、何らかの理由でその世界にいけるようになったんだったら、今夜も行けるんじゃない。

 まあ、実在していればの話だけど。」

 日花里ちゃんのその言葉で、私の心は一気にパーッと明るくなった。

 そうだ、夢じゃないとしたら、今晩またラーヴォルンに行けるかもしれない。

 また、あの素敵な街に行けるかもしれない。


「でも、次行ったら、みんなお婆ちゃんになってたりしてね。」

「えっ、どういうこと?」

「いや、だから、何十年もたった後のラーヴォルンに行ったりしてね。

 で、みんな琴音のことを忘れていて。」

「そんなのヤダー!!!」

 私は思わず頭を抱えて大声で叫んでいた。

 でも、夢だとしたら、ありえない話ではない。

 もし、本当にそんなことになったらどうしよう。

「えっと、そんなに深刻に考えなくても・・・」

 日花里ちゃん、必死にフォローしようとしてるけど、日花里ちゃんの一言は私の心に深い傷を負わせてくれたよ。

 どうしよう、なんだか夜寝るのが怖くなってきちゃった。


「琴音、どうしたの?あまり食が進んでいないみたいだけど。」

 夕飯ではお母さんに心配される始末。

 でも、今日、もし眠って変なところに行ったらどうしようと思ったら、不安で不安で。

「姉ちゃん、何か悩み事でもあるの?もしかして生理か?」


 ガツン


 思い切りグーで殴ってやった。

「本当に何か悩みでもあるんだったら、お母さんに話してくれてもいいのよ。」

 お母さんはそう言ってくれるけど、でも、こんなこと言っても信じてくれるだろうか?

 でも、このまま不安を抱えて眠れなくなっても困るし、思い切って話してみるかな。

「あのね、実は・・・」


 10分後―――


「アーッハハハハ、夢見るのが怖くて眠れないとか、姉ちゃん歳いくつだよ。」

 横で話を聞いていた悟に思い切り笑われた。

 本当に憎たらしい弟だ。

 もう一回グーで殴ってやろうか。

 でも、話を聞いていたお母さんからは、悟と違って意外な反応が返ってきた。

「夢ねえ・・・私もそんな時期があったわね。」

 これは意外だ。

 さっきまで笑ってた悟も驚いてる。

「お母さんもあったの?」

「私の場合は、友達に夢のことを話したら、勝手に夢占いされてね。

 ひどい占い結果が出たのよ。」

「どんな占いだったの?」

 私が尋ねると、お母さんはさらりと笑顔でこう答えた。

「お前は一生結婚できないってね。」

 どんな夢占いかわからないけど、ひどい占いだな。

 たった一晩の夢で、一生を占ってるし。

 夢占いってそういうものだったっけ?

「それって思い切り外れてるよね。」

「まあ、今でこそ笑い話だけど、当時の私はそれでかなり落ち込んだのよ。

 また変な夢を見ないかって怖くなっちゃって、寝るのが怖くなってしまってね。

 ちょっとしたつまらないことに真剣に悩んだりして、今から思い返してみるとバカみたいと思うことが結構あったりするものよ。

 まあ思春期なんて、そんなものじゃないかな。」

「えっ、どういうこと?」

「つまり、今は思い切り心配したらいいんじゃないかな。」

 えっ、つまり、何の解決もなしってこと?

 たまにお母さんは何が言いたいのかわからない時がある。

 悟に笑われるし、お母さんに相談するだけ無駄だった。


 結局、お風呂でもそのことばっかり考えて、気がついたら寝る時間になっていた。

「ああ、どうしよう。」

 でも、よく考えたら、ラーヴォルンに行けるとは限らないよね。

 ていうか、普通に考えたら、あれは昨日限りの夢で、もう二度と見ることはないって可能性の方が・・・

 ダメだ、その可能性は考えたくない。

 だって、ミディアちゃん達にお別れしないで終わっちゃうなんて悲しすぎるよ。

 でも、ラーヴォルンの夢を見たとしても、ミディアちゃん達が私のことを覚えていてくれるだろうか?

 昨日の夢は昨日で完結して、リセットされてる可能だってあるよね。

 どうして、私は夢の中で会った女の子達のことで、こんなに苦しんでるんだろう?

 それは多分、あの時の景色が頭に焼き付いているからだろう。

 一人ぼっちの私に色々教えてくれて、仲良くなってくれたミディアちゃん。

 私を絶景ポイントに案内してくれて、あんな素敵な景色を教えてくれたエレーネちゃん。

 ラーファちゃんには怖がられてるけど、今度こそ仲良くなってみせる。

 だから、お願い、私をもう一度昨日と同じラーヴォルンに連れてって。

 私は一回大きく深呼吸をして覚悟を決めると、ベッドに潜り込んだ。


 気がつくと、私は廃墟にいた。

 昨日、夢の中で見たのと同じルフィルの遺跡だった。

「てことは、ここはラーヴォルン?」

 またラーヴォルンに来られたことを、本当ならもっと喜んでもよかったと思うけど、今の私にはそんな精神的余裕はなかった。

 ここは確かに、昨日夢で見たルフィルの遺跡だった。

 でも、昨日と違うところは、ほとんど人がいないことだった。

 たまに人が来ては、見たことない機械を手に持ってて、あれは撮影でもしているのかな?

 ちょこっと遺跡の周りをうろついて、みんなすぐに帰っていく。

 そして、しばらくすると、誰も人がいなくなってしまった。

 廃墟と化した遺跡に一人でいるのは、とても怖い。

 こういう怖い状況に置かれたら、嫌でも悪いことを考えてしまう。


「いや、だから、何十年もたった後のラーヴォルンに行ったりしてね。

 で、みんな琴音のことを忘れていて。」


 日花里ちゃんの言葉が、頭の中で何度も何度もリプレイされる。

 もしかして、ここはあれから何十年も経ったラーヴォルンなんだろうか?

 もしかして、ミディアちゃん達はもう・・・

「ミディアちゃん、ラーファちゃん、エレーネちゃん・・・」

 気がついたら、目に涙を浮かべながら彼女達の名前を呼んでいた。


「やっぱりここにいた。」

 とその時、遠くから聞きなれた声が聞こえてくる。

 この声は間違いない。

 ミディアちゃんの声だ。

 周りをきょろきょろ見渡して、ミディアちゃんを探すけど、ミディアちゃんの姿はどこにもいない。

「あれ、さっき、ミディアちゃんの声が聞こえたような・・・」

 でも、周りに人の姿は見えない。

 とうとう、夢の中で幻聴が聞こえるようになってしまったのかな?

 そう思い、その場にしゃがみこもうとしたその時、


「わっ!!!」


 背後から大声をかけられて、私の体は思わずビクンと跳ねてしまった。

 恐る恐る背後を振り返ると、そこには昨日と同じミディアちゃんの姿があった。


「驚いた。琴音?」

 ミディアちゃんが笑顔で尋ねてくる。

 昨日と変わらないミディアちゃんの笑顔を見た瞬間、私の涙腺は一気に決壊した。

「うわああん、ミディアちゃんに会えてよかった。」

 相変わらずミディアちゃんに触れることはできなかったけど、私はミディアちゃんに抱きつく格好で、思いっきり号泣してしまった。


<<ミディア>>

 どうしよう?琴音が号泣しています。

 同じ年の女の子がこんなに号泣しているところを見たのって初めてかも。

「こ、琴音、ゴメンね。ちょっと脅かしてみたくなっただけなんだよ。」

 私が謝ると、琴音は泣きながら何か話し始めた。

 でも、泣きながら話しているので、何を話しているのかよくわからなかった。

 とりあえず、琴音を落ち着かせるしかないみたい。

 本当に琴音を泣かすつもりはなかったんだよ。

 もしかしたら、琴音も私と同じで、すごい怖がりなのかな?

 そうだとしたら、なんか悪いことしたなあ。


 10分ぐらいして、ようやく落ち着いた琴音から色々話を聞くことができました。

「昨日と違って、全く誰もいないし、日花里ちゃんの嫌な話ばかり頭を駆け巡って、本当に不安だったんだよ。」

 琴音はそう言うと、また少し目をウルウルさせていました。

「ヒカリってのは、琴音の友達なの?」

「ウン、すっごく意地悪な幼馴染だよ。」

 幼馴染ってことは、ラーファとエレーネ先輩みたいな感じなのかな。

 あの二人はすごい仲がいいけど、幼馴染って仲がいいとは限らないのかな?

「でも、よかったよ。またミディアちゃんに会えて。」

 琴音はそう言うと、また私の体を抱きつこうとしてきた。

 本当に琴音はすぐに抱きついてくるんだけど、これって二ホンでは当たり前なのかな?

「ところで、ミディアちゃんはどうしてこんなところに一人で来たの?」

 琴音は私から体を離すと、私の顔をじっと見つめながら、そう聞いてきた。

 ていうか、本当に顔近いよ。

 こんな近くでじっと見つめられると、恥ずかしくてたまらないよ。

「えーっとね。昨日、琴音、突然消えちゃったでしょ。

 せっかく友達になれたのに、お別れの挨拶もしないで消えちゃったから・・・

 だから、昨日琴音が現れたここに来たら、もう一度会えないかなって思って、昨日と同じ時間に来てみたんだよ。」

 本当はダメ元のつもりで来たんだけどね。

 でも、本当に、また会えるとは思わなかった。

「ミディアちゃん、私のことを友達と思ってくれてたんだ。嬉しい。」

 琴音はそう言うと、また私に抱きついてきた。

「私もミディアちゃんやラーファちゃんやエレーネちゃんのこと、友達だって思ってるよ。」

 琴音は私にそう言ってくれた。

 なんかすごい嬉しい気持ちになった。


 しばらく再会を喜んでたけど、ずっとこの廃墟にいても仕方がないので、とりあえず2人で散策することにしました。

 今日は夕方まで空いているので、それまで琴音にラーヴォルンを案内すると言ったら、琴音は大喜びしてくれた。

 琴音はラーヴォルンの街を一目で気に入ってくれたようです。

「ところで、どうやってラーヴォルンに来てるかわかった?」

 昨日と同じ質問をしてみたけど、やっぱり琴音は首を傾げるだけでした。

「さあ、どうやって来ているのか、私にもわからないんだよ。

 でも、私が眠っている時に来ているのは間違いないみたい。」

「それは、意識だけ飛ばされて、ラーヴォルンに来ているってこと?」

「んー多分そうだと思う。」

 それはすごい。

 琴音の住んでいる二ホンって、意識だけを他世界に飛ばせるほどの高度な魔法がある文明なんだ。

 きっと、すごい魔法や機械がある国なんだろうな。

 もしかしたら、アトゥアと同じくらいか、それ以上かもしれない。

「それって、もしかして、二ホンにある召喚魔法を使ってるんじゃない?」

「召喚魔法ってRPGとかに出てくるやつ?

 でも、私ロープレってあまり真面目にやったことないから、よくわからないんだよね。」

 琴音はそう言うと、ハハハと笑い出した。

 RPG?ロープレ?

 琴音は一体何の話をしているんだろう?

 私にはさっぱりわかりません。

 もしかして二ホンには、そういう名前の召喚魔法があるのかな?


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