2.私達にはあまり時間がない
<<琴音>>
「―――てなことがあったんだよ。」
昨日あったことを、ミディアちゃんとラーファちゃんに話した。
「琴音、男の子に告白されたんだって。」
ラーファちゃんは楽しそうにエレーネちゃんとアイちゃんに話していた。
「琴音、告白されたの?
二ホンでは、16歳でもう求婚活動をするんだ。」
エレーネちゃんがなんか壮大な勘違いをしていた。
「ダメよ、琴音は男なんかに渡さないんだから。」
アイちゃんはアイちゃんで、なんか変なことを言ってるし。
「・・・・・・」
ミディアちゃんは真っ赤になって固まっていた。
そうだった。
ミディアちゃん、この手の話、苦手だったんだ。
いや、苦手というよりは、恋愛話に変に構えてしまうところがあると言う方が正しいかな?
「琴音は・・・琴音は・・・」
ミディアちゃんは真っ赤な顔で、潤んだ瞳で、こっちを見つめてきた。
どうしよう?
すごいドキドキする。
もう、ミディアちゃん、かわいすぎるよ。
「琴音は・・・もう結婚しちゃうんだ。」
「ちょ、ちょっと、ミディアちゃん、話が飛躍しすぎだよ。
大体、男の人に告白されたのだって、これが初めてなんだし。」
「えっ、そうなの?」
途端にミディアちゃんのテンションがダウンした。
誤解が解けたのは嬉しいけど、真っ赤なミディアちゃんが見られなくなって少し残念。
ラーヴォルンの恋愛観がどんなものかわからないけど、ここはきちんと日本の恋愛観について説明しておいた方がいいかもね。
なんか、もう結婚するみたいに思われて、ちょっとびっくりしちゃったし。
「えっとね、高校生の恋愛なんて、そんな深いものじゃないよ。
それに、大抵はいろんな人とくっついては別れ、くっついては別れを繰り返して、生涯のパートナーを見つけるんだよ。」
「そうなんだ。」
あれっ、ミディアちゃんの表情が変わった。
なんかがっかりしているみたいだ。
もしかしたら、ミディアちゃんの恋愛観を傷つけちゃったのかな?
「どうしたの、ミディアちゃん?」
「ウウン、なんでもないよ。」
「絶対、なんでもあるよ。
ミディアちゃん話してよ。」
私がそう言ったら、ミディアちゃんは小さく頷いた。
「私達、まだその繰り返しの入口にすら入ってないんだなって思って・・・」
なんだ、別に恋愛観を傷つけられたわけじゃなかったんだ。
よかった。
「そういや、私達、まだ誰も男の子と付き合ったことないわね。」
ラーファちゃんがそう言った。
「何言ってるかな。
ラーファは散々告白されても断ってるくせに。」
「それは言わないでよ。」
へえ、ラーファちゃんってモテモテなんだ。
やっぱり、ラーヴォルンでもこれくらいの年齢になったら、告白とかするんだね。
よかった。
どうやら日本とあまり変わりはないらしい。
「でも、ラーファ先輩、どうして誰とも付き合おうとしないんですか?」
アイちゃんがラーファちゃんに尋ねる。
「それは、まあ、私も好みとかあるわけで・・・」
ラーファちゃんって、もしかして結構男性の好みにうるさいのかな?
「私は・・・告白とか全然されたことない。」
一方で、ミディアちゃんはなんか不安な表情になっていた。
「大丈夫だって。
ミディアちゃんの前にも、そのうち素敵な男の子が現れるよ。」
「本当に?」
「ウン、保証するよ。
だって、ミディアちゃん、こんなにかわいいんだし。」
私がそう言ったら、ミディアちゃんの顔がまた真っ赤になった。
ミディアちゃん、本当にかわいいなあ。
私が男だったら、絶対にミディアちゃんのこと放っておかないけどなあ。
「そうだよ、すぐにミディアも告白の一つや二つぐらいされるようになるさ。」
こういう時のフォローは、さすがエレーネちゃんだ。
「そう・・・だといいですね。
だって、私達、あまり時間がないですし。」
「ウン、まあそうだな。」
えっ、どういうこと?
今、ミディアちゃんがさらっと言った、時間がないってのはどういうことだろう?
「ああ、そんなに気にすることじゃないよ。」
私の不安な表情に気づいたラーファちゃんが、別に大したことじゃないと言わんばかりに笑顔のままそう言った。
「まあ、青春時代はあっという間に過ぎていくって言われてますし。」
アイちゃんがそう言うと、みんな一斉に頷いた。
なんだ、青春の話か。
何とかそう思いこもうとしたけど、ミディアちゃんの時間がないって発言が、やっぱり気になった。
もしかしたら、またコピーされた偽世界で、もうすぐ時間切れということかもしれない。
だとしたら、また何らかのトラブルに巻き込まれる可能性もないとは言い切れない。
一度気になりだすと、どんどん悪いことを次々と考えてしまう。
最近の私の悪い癖だ。
これというのも、あの事件のせいだ。
「琴音、どうしたの、さっきから難しい顔して?」
「えっ、私、そんなに難しい顔してた?」
「ウン、なんか変だったよ。」
「そんなことないよ。」
ミディアちゃんにそう言いつつ、私は心の中で強く覆面に対して念じていた。
何かあった時は、強く念じて呼び出せと覆面は私に言った。
だから、少しでも何か変なことがあったら、覆面を呼び出すようになっていた。
また、あんな思いだけはしたくないからね。
(覆面さん覆面さん・・・聞きたいことがあるの?
お願い、出てきて。)
しばらく念じていると、頭の中に声がしてきた。
(またか。
今日は一体何の用だ?)
覆面、かなりウンザリしている感じだね。
まあ、私がしょっちゅう呼び出してるからなんだけどね。
でも、何か気になることがあったら念じろって言ったのは覆面だし、気にしない気にしない。
(ねえ、ここは本当にラーヴォルンなの?
また、前みたいに、偽物の世界なんてことないよね?)
(その心配はない。
今お前がいる場所は、正真正銘ラーヴォルンだ。
敵が動いた様子も見当たらない。)
とりあえず、偽物の心配はないってことはわかった。
偽物の心配がなくなったら、ミディアちゃんがさらっと言った一言が気になりだした。
(ねえ、ミディアちゃんがさっき、私達にはあまり時間がないって言ったんだけど、どういうことか何か知ってる?)
(お前・・・ミディアの言ったことを私から聞くつもりか?
そんなこと、ミディア本人から聞けばいいだろう。)
そんな正論が聞きたいんじゃないんだけどなあ。
確かにミディアちゃんに直接聞けばいいんだろうけどさ。
さっき、嫌な感じがしたから、なんか聞きづらいんだよね。
(嫌な感じとか言ってるが、どうせ一週間もしたら忘れてるんだろう。
最近のお前の嫌な感じって、全部その程度だ。)
そう言われると、何も言い返せない。
昨日、呼び出した時に、一週間前に気になったことを覚えているかと覆面に聞かれて、全く答えられなかったんだよね。
(あんな事件があった後だ。
神経質になるのは仕方がないにしてもだ。
お前の場合は少し神経質になりすぎだ。)
確かに、最近、ラーヴォルンに来ている時、少し神経質になりすぎてるのかもしれない。
でも、二度とあんな思いしたくないもん。
せめて犯人が特定できていたら、こんなに神経をすり減らすこともないんだけど。
(あと、時間がないのは琴音、お前も同じだぞ。
ラーヴォルンに来られる時間にリミットがあることを忘れるな。)
そうだった。
私がラーヴォルンに来られるのもリミットがあるんだった。
私にかけられた魔法のリミットが切れたら終わりだ。
でも、そのリミットがいつ切れるのか、覆面は教えてくれない。
そもそも、私をラーヴォルンに連れてきている目的も教えてくれない。
そのおかげで、ますます神経質になるんだよ。
私が神経質なのは、覆面にも原因があるんだけどなあ。
「どうしたの、琴音?」
ミディアちゃんが私の顔を覗き込んでいた。
と同時に、覆面との会話が途切れた。
「な、何でもないよ。」
「そう?
さっきね、みんなで北街に遊びに行こうって話をしてたんだよ。
琴音の初告白記念に、琴音を北街に案内しようってね。
琴音、北街には1回しか行ったことないから、まだ知らないところいっぱいあると思ってね。」
「ありがとう、みんな。」
そうだ、せっかくラーヴォルンに来ているんだから、ミディアちゃん達ともっと楽しまないと。
私だって時間がないという意味では同じなんだから。
でも、初告白記念ってのはどうなんだろう?
それだと、まるで私が告白したみたいなんだけど。
まあ、どうでもいいかな。
遊びに行くための口実のようなものだし。
それにしても、時間がない・・・か。
リミットの時のことを、できるだけ考えないようにしてはいたんだけどね。
「琴音、どうしたの?」
ミディアちゃんが無邪気な顔で、もう一度私の方を覗き込んできた。
本当にかわいい。
こんなかわいい子と、いつか会えなくなるなんて・・・
いやいや、違うでしょ。
今はそんなことを考える時じゃないでしょ。
ここは、ミディアちゃん達と今を楽しむ時でしょ。
確かに、最近の私は少し神経質なのかもしれない。
こんなことで、ミディアちゃんを心配させてはダメだ。
「ミディアちゃん、行こう。」
なんか、無性にミディアちゃんに抱きつきたくなった。
だから、ミディアちゃんに思い切り抱きついた。
と言っても、ミディアちゃんに触れられないから、本当に抱きついているわけじゃないんだけどね。
「また、琴音は、いつもいつもいつもミディアにベッタリして。」
例によって、ラーファちゃんがジェラシー全開だ。
「まあまあ、本当に抱きついてるわけじゃないんだし、これくらい大目に見てよ。」
「仕方がないわね。」
ラーファちゃんはそう言うと、ミディアちゃんに抱きついた。
「ちょっと、ラーファ、暑苦しいよ。」
「なんか、ミディアだけいつもズルい。」
アイちゃんはすごい不満そうにミディアちゃんの方を見ていた。
「アハハハハ・・・みんな相変わらずだな。」
エレーネちゃんが豪快に笑った。
ウン、いつものみんなだ。
今までと変わらない。
でも、今はそれがとても嬉しく思えた。
これからも、ラーヴォルンで楽しい日々を過ごせるといいなあ。




