1.夏休みは衝撃的な事件から始まった
みなさん、お久しぶりです。
いよいよ秋暁編の始まりです。
晩夏編ほどの早いペースでは投稿できませんが、1週間に1話ぐらいのペースで投稿していきたいと思います。
秋暁編もよろしくお願いします。
<<琴音>>
昨日、1学期の終業式が終わり、いよいよ今日から夏休みが始まる。
でも、実は1学期最後の日に、とんでもない事件が起こったのだ。
「なんかいきなり事件って物騒だね。」
ミディアちゃんがそう言ってきた。
ミディアちゃん達と話していることからわかると思うけど、私は今、ラーヴォルンに来ている。
ミディアちゃんは、ラーヴォルンに来て初めてできた友達で、ちょっぴり小柄で金髪のかわいい女の子。
一度でいいから、ミディアちゃんに思いっきり抱きつきたいなあ。
「最近、変なことが起こったばかりだし、物騒な話は遠慮したいところね。」
そう言ってきたのは、ラーファちゃん。
ミディアちゃんのお姉さんを自称している子だ。
すごい面倒見はいいんだけど、たまに方向性がずれている時もある。
「そうそう、二ホンの話を聞かせてくれるのは嬉しいんだけどさあ。
記憶が消されるとかそういうのはもう勘弁願いたいね。」
エレーネちゃんは、日本のことにすごい興味を持っている。
とはいっても、私とは直接会話できないので、ミディアちゃんやラーファちゃんを介して会話することになる。
私も直接話せたらいいと思うけど、そのために物騒なことが起きるのは私も嫌だった。
結局、あの事件に関しては、犯人の正体も目的も何一つわからないままだ。
ミディアちゃん達は記憶を封印されただけだったけど、私は偽世界に連れて行かれた挙句、目の前でミディアちゃんを・・・
やめよう。
その時のことは、もう思い出したくない。
偽物の世界のことだとわかっていても、あの時のミディアちゃんの表情を思い出すたびに胸が痛くなる。
犯人はすごい力を持った魔導士の仕業のようだし、今は覆面に任せるしかない。
「それで、琴音の言う事件って何なの?」
アイちゃんはミディアちゃんと同級生の女の子。
結構妄想癖が激しく、しかも結構エロい妄想ばかりしている女の子だ。
ちなみに、アイのお父さんは凄腕の空想士らしいけど、内容がかなりグロいらしく、ミディアちゃん達はアイちゃんのお父さん達とは会いたがらない。
ってみんなの自己紹介をのんきにしている場合じゃない。
そうだ、事件の話だった。
「えーっと、事件と言っても、別に物騒な話じゃないよ。
でも、私にとってはすごい衝撃的な大事件だったってわけで・・・」
「そうなんだ。
一体、何があったの?」
ミディアちゃんが興味津々に目を輝やかせていた。
多分、物騒な話ではないとわかって、警戒心より興味の方が上回ったんだね。
みんなの警戒心が解けたところで、早速今日起こったことを話すことにした。
昨日は1学期の終業式。
私はいつものように日花里ちゃんやニコちゃん達と学校に行って、いつもと同じ学校生活を過ごしていた。
まあ、終業式だったので、いつもと違って少し浮ついた気分だったとは思う。
それは私だけじゃなくて、多分クラス中のみんながそうだったと思う。
でも、まさか、あんなことが起こるとは思わなかった。
「琴音ちゃんおはよう。」
クラスの友達が私に挨拶してきたので、私もおはようと返す。
ニコちゃんと仲良くなってから、他のクラスメイトともなんか仲良くなって、気がつけば普通にみんなと会話するようになっていた。
ほんの数週間前までは、誰にも話しかけられることなく一人でいることが普通だったことを考えると、すごい変化だと思う。
クラスのみんなと一緒に、放課後遊びに行ったこともあった。
日花里ちゃんは部活でいなかったけど、なんか普通にみんなと接することができた。
「アンタ、いつの間にかクラスの人気者になってるね。」
日花里ちゃんも驚いていた。
まあ、ほとんどがニコちゃんの友達なんだけどね。
チャイムが鳴って、終業式があって、その後は通知表をもらってとありきたりのことが過ぎていき、普通に1学期の終業式は終わった。
で、あとはニコちゃんと一緒に学校を出て家に帰れば、いつもと変わらない一日になるはずだった。
でも、その日は少しだけ様子が違った。
「琴音ちゃん、私ちょっと用事ができちゃって、悪いんだけど今日は先に帰るね。」
ニコちゃんはそう言うと、慌てて教室を飛び出して行ってしまった。
何やら緊急の用事ができたらしい。
「今日は久しぶりに一人で下校かあ。」
まあ、たまには一人で下校するのも悪くはないかな。
そう思い、カバンに教科書を入れている時だった。
「由姫咲、ちょっといいか。」
いきなり、男の人から声をかけられた。
後から気づいたことだけど、これが男子高校生との初めての会話だった。
「えっ、私!?」
最初は人違いかと思ってたけど、その男の子は私の方をじっと見ていた。
「お前しかいないだろ。
ちょっと顔貸してほしいんだ。」
教室には、いつの間にか私とその男の子の2人きりになっていた。
あれっ、さっきまで結構人がいたような気がしたんだけど・・・気のせいかな?
それにしても、顔貸すって、なんか物騒だな。
私、彼に何か悪いことでもしたかな?
でも、彼と会話するのは、これが初めてだし・・・
直接ではなくても、間接的に何か被害を与えていたとか、そういうことかな?
でも、それも全く心当たりがなかった。
間接的にしても、私と彼はあまりにも接点がなさすぎる。
その時は、そんなことばかり考えていたと思う。
どうもあの事件以降、変に深読みする習慣がついてしまったような気がする。
彼はなんか体格がゴツくて、逆らうと何されるかわからなかったので、ここは素直についていくことにした。
とはいえ、あまり人気のないところに行こうとしたら、全速力で逃げるつもりだけど。
こう見えても、私、足だけは速いからね。
「で、どこに行けばいいの?」
「いや、別にここでいいけど・・・」
顔貸せって言われたから、どこかに連れて行かれるのかと思ったんだけど、そうじゃなかったみたいだ。
どうやら、自分の話を聞けというのを、彼流の表現に直すと顔を貸すと言うことになるらしい。
まあ、人気のないところに連れて行かれるわけではないので、とりあえずはホッとした。
いや待て、今の教室も私と彼しかいないわけだし、人気がない場所と言う意味では大して違わないような・・・
「好きだ。」
「ええっ!?」
彼がいきなり大声で叫んだので、ビックリして思わず変な声を上げてしまった。
ていうか、彼は今なんて言った?
私の聞き間違いじゃなければ、確か好きだって言ったような気がする。
何が好きなんだろうとかボケるつもりはなかった。
その一言で、彼が私を呼んだ理由はよくわかった。
これは、俗に言う告白というやつだ。
遠い別世界の男女の間で行われる恒例行事と思ってたけど、まさか自分が当事者になるとは思わなかった。
しかも、告白される側。
さすがにこれにはビックリした。
でも、一つ困ったことがあった。
えーっと、彼の名前、何だったっけ?
クラスメートの名前、女子の名前は大体覚えたけど、男子の名前は1学期が終わる今でも記憶が怪しいのが何名かいた。
で、彼はその記憶があやふやな一人だった。
どうしよう?
名前もあやふやな人から、突然告白されてしまった。
「俺、お前のことがずっと好きだったんだ。」
でも、今まで一言も話したことなかったよね?
ていうか、彼、なんかすごい怖い顔になってるよ。
告白って、男の子も少し顔を赤らめて、照れながらするものじゃないの?
彼の顔、どう見てもこれからケンカしに行く時の顔だよ。
どうして、そんなに固まってるんだろう?
「えっと・・・私のどういうところが好きなの?」
ここは一つオーソドックスな質問でもしてみよう。
彼は、しばらく色々と考えた末に
「全部だ。」
と力強く答えた。
だから、どうしてそんなに表情が強張ってるんだろう?
少し怖いって。
それにしても、どこが好きって聞いてるのに、全部って言われてもねえ。
それって、何もないって言ってるのと同じに思えるのは私だけだろうか?
男の子は私の機嫌が悪くなったと思ったのか、必死に自己アピールを始めた。
「えっと、俺は陸上部で、すごい体鍛えてるから、ケンカはかなり強いんだ。」
あれっ、陸上部ってそういう部活だったっけ?
確かに、ゴツイ体格ではある。
私はてっきり柔道部かレスリング部の人かと思ったよ。
「だから、俺が、絶対にお前のことを守ってやる。」
私の日常って、そんなにバイオレンスな日常じゃないんだけどなあ。
まあ、どうしても守ってくれるって言うんだったら、覆面から守ってほしいなあ。
覆面は私をラーヴォルンに連れてってくれている正体不明の人。
どこの宇宙人なのかもまだわかっていない。
多分、彼がどう頑張っても、覆面には勝てないと思う。
それにしても、彼、結構面白い人かもしれない。
なんか彼の言うことに一々突っ込みたくなる。
まあ、付き合うかどうかはともかく、まずは名前を確認した方がいいよね。
「あのう、盛り上がってるところ悪いんだけど・・・」
「な、なんだ?」
「えっと、まず、あなたの名前を教えてくれない?」
彼は見た目がゴツイ体型をしていたけど、心はガラス細工だったらしい。
私が名前を知らなかったことを知り、ショックのあまり、片膝を地面についていた。
「アウトオブ眼中だとは思ってたけど、まさか名前すら覚えられてなかったとは・・・」
アウトオブ眼中って、今時そんな表現使うとは・・・
さっきまでと違い、彼はなんか今にも泣き出しそうな顔になっていた。
まあ、確かにアウトオブ眼中だったんだけど、そんなにショックだったのかな。
「俺の名前は野々川 大吾だ。」
「野々川君か。覚えておくよ。」
あまりにもかわいそうだし、とりあえず、名前だけでも覚えておいてあげよう。
「で、返事は?」
野々川君が聞いてきた。
返事って、さっきの告白のことかな?
でも、さっきまで名前すら知らなかった人に、いきなり告白されて、はいOKって返す人が果たしてこの世にどれくらいいるのだろうか?
だから、私の返事は自然とこうなる。
「えっと、そういうのは、もう少しお互いのことを知ってからの方がいいと思うんだよ。」
「それって、ダメってこと?」
彼はどうしてすぐに結論に持って行こうとするんだろう。
そう聞かれてしまうと、結論として「ウン」と答えるしかなかった。
「どうしてだよ?
もしかして、他に好きな男がいるのか?」
なんか、急にまた怖い顔になってキレ始めた。
さっきまで泣きそうな顔してたのに、感情の変化が激しすぎるよ。
これは困ったなあ。
なんとか穏便に済ませて、家に帰りたい。
「別に好きな男の子とかいないよ。」
「だったら、俺と付き合ってくれてもいいじゃないか。」
「だって、私達、お互いのこと、全然知らないし・・・」
「俺は由姫咲のこと、何でも知ってるぞ。」
「えっ!?」
それはそれで引く。
さっきまで面識のない人に、自分のことを全部知られているとか、気持ち悪いとしか思えない。
でも、彼が本当に私のことを何でも知ってるのか、怪しいけどね。
というわけで、一つ試してみることにした。
「本当に私のことを何でも知ってるんだったら、ラーヴォルンのこと知ってるよね?」
「えっ、ラーヴォルンって何だ?」
なんだ、何でも知ってるわけじゃなかったんだ。
少しホッとした。
「ウウン、知らないんだったらいいんだよ。
ゴメンね、変なことを聞いて。」
「なあ、誰とも付き合ってないんだったら、俺と付き合ってくれてもいいだろ。」
「えっと、ゴメンね。
私、今、誰とも付き合うつもりないんで・・・じゃあね。」
私がそう言ったら、野々川君はガックリうなだれていた。
なんでだろう?
何も悪いことしてないはずなのに、なんだかすごい悪いことをしたような気分になってしまった。




