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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
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42.秋がやってくる

<<日花里>>

 我ながら、ぶっ飛んだ推論だってことはわかってる。

 ヴェルク帝国はアトゥアで最大の魔導帝国だから、上位の魔導士がたくさんいるだろう。

 ヴェルク帝国がどういうタイミングで琴音のことを知ったのかはわからない。

 多分、情報源はラーファちゃんだったんだと思う。

 何らかのタイミングで、ラーファちゃんからヴェルク帝国に情報が渡った。

 だから、ラーファちゃんに感情操作を行なった。

 そして、ラーファちゃんを通じて、琴音のことをずっと監視を行ってきた。


「まさかまさか・・・

 ヴェルク帝国の監視対象になるとは、琴音も随分大物になったものだ。」

 覆面は私の推理をバカバカしいと思っているのだろうか?

 いや、むしろバカバカしいと言ってくれた方がよかった。

 だって、もし私の推論が合っていたとしたら、あまりにも恐ろしすぎる。

 だが、覆面は私の話をバカバカしいとは言わなかった。


「日花里、お前の言う通り、ヴェルク帝国が犯人としてだ。

 なぜ、ヴェルク帝国は琴音を排除しようとしたのだ?」

「それは、私にもわかりません。

 でも、琴音は彼らにとって未知の存在です。

 琴音にマーシャント干渉を使うことで、未知のテクノロジーや知識を他国が手に入れることを恐れたんじゃないかと思います。」

「なるほどな。

 でも、それなら、ヴェルク帝国が手に入れればよかったのではないか?」

「そこで質問なんですけど、ラーヴォルンにいる時の琴音を拘束できる魔法とかあるんですか?」

「なるほど、そういうことか。

 琴音を拘束できる魔法は、あると言えばある。

 だが、それをヴェルク帝国が使うことはないだろう。」

 何だろう?

 あるのに使わない魔法って?

 もしかして、使いたいけど使えない魔法ってことだろうか?

 使えるけど使えないもので思いあたるのは、核兵器の類だが、まさか琴音一人のためにそこまでやるとは思えない。

 まあ、いずれにしても、琴音がいるのはラーヴォルンで、ヴェルク帝国にとっては他国の領域だ。

 そして、リーヴァ王国の向こうには、もう一つの大国であるガルティア帝国がある。

 下手に動くことで、ガルティア帝国に動かれるのは嫌だったのかもしれない。

「つまり、ヴェルク帝国には、琴音を拘束する手段が事実上ないってことですね。

 琴音のマーシャントから得られる情報を自国が手に入れるメリットと他国が手に入れるリスクを比べたんじゃないですか。

 その結果、琴音をラーヴォルンから追放しようという結論になったんだと思います。」


 パチパチパチ・・・


 覆面が私に向かって拍手をしていた。

「いやあ、なかなかの推論だった。

 ヴェルク帝国が犯人とは、さすがに考えもしなかった。」

 覆面はそう言うと、拍手を続ける。

 でも、表情がわからないので、褒められてるのかバカにされてるのかわからなかった。

「それで、私の推理はどれくらい当たってそうだと思いますか?」

 ストレートに覆面に聞いてみることにした。

「さてな。

 それは、これから調べてみないとわからないが、おかげで調査対象を一つ増やすことができた。

 だが、ヴェルク帝国は強大で広大な帝国だ。

 調べるにしても、一筋縄ではいかないだろうな。」

 どうやら覆面は、私の話を聞いて、ヴェルク帝国を調査対象に追加したようだ。

 でも、私はそんなことどうでもよくなっていた。


「お願いです。

 これ以上、琴音をラーヴォルンに連れて行くのはやめてください。

 あまりにも危険すぎます。」

 覆面に言われて推論を立ててみたけど、考えれば考えるほど、危険な場所だと思った。

 なるほど、覆面の言ってた通り、ラーヴォルンは理想郷なんかじゃない。

 むしろ、琴音にとってとても危険な場所だ。

「琴音がラーヴォルンにもう行きたくないと言うのであれば、連れて行くのをやめる。

 だが、今の琴音は、ラーヴォルンに行くことを願っている。

 その琴音の意志を無視してまで止めるのは、琴音に悪いだろう。」

「ヴェルク帝国に監視されているかもしれないのに、あまりにも危険すぎます。

 お願いです。琴音をラーヴォルンに連れて行くのをやめてください。」

「断る。」

 覆面は強い口調でそう言った。

「日花里、一昨日、琴音にこんなことを言ってたよな。

 類推に類推を重ねた結果の話なんか、何の信ぴょう性もないってな。

 今のお前の話は、まさにそれじゃないのか?」

 確かにそんなことを言った。

 でも、それは覆面の地球侵略とかバカバカしい話だと思っていたからだ。

 じゃあ、ヴェルク帝国が、ラーファちゃんを使って琴音を監視し、排除しようとしている。

 これもバカバカしい話だと笑い飛ばしてしまえばいい話なのだろうか?

 一昨日の私だったら、笑い飛ばしていたと思う。

 でも、あれから色々ありすぎて、何がバカバカしい話なのか自分でもわからなくなっていた。

 多分、あの時の琴音も、こんな不安な気持ちだったのだろう。

 笑ったりして、琴音に悪いことしたな。


 覆面はあくまでも琴音をラーヴォルンに連れて行くつもりのようだ。

 一度は連れて行くのを辞めようとしたのに、どうして今は連れて行くことに執着してるのだろう?

 改めて、その理由に興味がわいてきた。

「あなたはどうしてそこまでして、琴音をラーヴォルンに連れて行きたいんですか?

 琴音をラーヴォルンに連れて行く目的は何なんですか?」

「それは琴音にも同じ質問をされたな。

 そして、今は答えられないと言ったはずだ。」

「じゃあ、いつかは話してくれる日が来るんですか?」

「もちろん、その時が来たら、琴音には話すつもりだ。

 だが、日花里、お前には話すつもりはない。」


 突然、私の体が光り始めた。

 まさか、もう目覚める時間なの?

 そんな、まだ話は終わっていない。

「もう一度言っておく。

 私は琴音が連れて行くなと言わない限り、やめるつもりはない。」

 覆面はそう言った。

「じゃあ、私が説得するわ。

 今話したことを、琴音に話して・・・」

「残念だが、ここで話したことは、目覚めたら覚えていないだろう。」

「えっ、どういうこと?」

「何のために、お前にここで推論を立てさせたと思っている?

 魔法を知らないお前は気づかなかったと思うが、実はここには特殊な魔法結界を張っていたのだ。

 部外者のお前が、どこまでラーヴォルンのことを把握しているのか知っておきたかったのだ。

 いささか、お前は鋭いところがあるのでな。」

 私がどれだけラーヴォルンのことを知っているのかを把握したかっただって?

 その割には、随分と私に情報を提供してくれたよね。

 覆面から得た情報の方が、今までラーヴォルンに行って得た情報よりも多いくらいだ。

 どうせ記憶は消えるんだから、大盤振る舞いしてくれたってこと?

 それだけとも思えないけど、もうそれを推理している時間はなさそうだ。

「お前の立てた推論や知識は、この魔法結界に捕らわれた。

 目が覚めたら、お前はきれいさっぱり忘れていることだろう。」

「私がラーヴォルンのことを全て忘れていたら、琴音が不審がるわよ。」

「心配するな。

 一部の情報だけは残しておいてやる。

 琴音と日常会話できる程度の情報はな。」

「私の記憶を消すとか、やってることはXと同じじゃない。

 あなたもXと同じよ。

 信用できない。」

 光がさらにまぶしくなった。

「日花里、非常に楽しい時間だった。」

 覆面の声が聞こえてきた後、視界が真っ白になり、気がついたら、目の前に琴音の顔があった。


「日花里ちゃん、おはよう。」

「おはよう、琴音。」

 琴音はすっかり元気を取り戻していた。

 よかった。

 琴音はやっぱりこうでないとね。

「朝食できてるって。

 早く食べて学校に行こう。」

 琴音は学校に早く学校に行きたくて仕方がないって感じだった。

 まあ、二日も休んでたから、しょうがないか。


 由姫咲家の朝食は非常に賑やかだった。

「よかった。琴音が元気になって。」

 おばさんはすごいホッとしたようだった。

「姉ちゃん、どうして急に元気になったんだ?」

 悟はわけがわからないといった感じだった。

 まあ、昨日の琴音の状態見てたら、あまりにも違いすぎて驚くわよね。


「じゃあ、私は教科書取りに一旦家に帰るわ。」

「ウン、また後でね。」

 家に帰ると言っても、私の家は琴音の家の隣なので、すぐに帰れる距離だ。

 カバンに教科書を入れて、制服に着替えて学校に行く準備をする。

 でも、朝起きてからずっと何かが引っかかっていた。

 それが思い出せなくて、なんかモヤモヤした気分だった。

「何か琴音に話すことがあったような気がするんだけど、何だっけ?」

 でも、何も思い出すことができず、結局、私はそのモヤモヤした気持ちのまま、学校に行くこととなった。


<<琴音>>

「日花里ちゃん、学校に行こう。」

 学校の準備をした後で、日花里ちゃんを迎えに行った。

 日花里ちゃんはすぐに出てきたけど、なんか難しい顔をしていた。

「どうしたの、日花里ちゃん?

 なんか難しい顔してるね。」

「なんか琴音に話すことがあったんだけど、思い出せなくてね。」

 あーわかる。

 のど元まで出かかってるのに、思い出せないのってイラッと来るよね。

「まあ、そのうち思い出せるよ。」

「そうね、そのうち思い出して見せるわ。」

 なんか日花里ちゃん、妙に張り切っちゃってるな。


「琴音ちゃん、日花里ちゃん?」

 後方から、突然声をかけられてびっくりした。

 振り返ると、そこにはニコちゃんが立っていた。

「あーニコちゃんおはよう。」

「ニコちゃんおはようじゃないよ。

 二日も休んで、すっごい心配したんだからね。」

 ニコちゃんの目がウルウルしていた。

「昨日は日花里ちゃんまで休んじゃうし。

 私、すごい心配したんだよ。」

「ニコにも心配かけたわね。」

「ゴメンね、ニコちゃん。

 でも、もうこの通り。

 完全回復したよ。」

 私がそう言ったら、ニコちゃんも涙を拭いて微笑んでくれた。

「で、こんなに完全回復したのって、一体何があったの?」

 ニコちゃんにそう聞かれたけど、どう答えたらいいかわからなかった。

 偽世界のこととか、あまり話したくないから悩んでいると、日花里ちゃんが


「琴音はね、ミディアちゃん達の愛を感じることができて喜んでるのよ。」


と言ったから、ニコちゃんの目が一気に輝いた。

「えーっ、そうなの?

 でも、琴音ちゃんは私のものだよ。」

 そう言って、ニコちゃんは私の手を掴んだ。

 いや、私は私のものです。

「琴音、聞いてよ。

 琴音が休んでいる時、ニコがずっとね・・・」

「わーーーーっ、言うなあああ。」

 ニコちゃんが慌てて日花里ちゃんの口を塞いだ。

「何があったの?私にも教えてよ。」

「ダメーーーッ!!!」

 ニコちゃん、すごい慌ててるけど、何があったんだろう?

 すごい気になるけど、今は追及しないでおこう。


 放課後、ニコちゃんがカラオケに誘ってきた。

「こないだカラオケに行けなかったし、今日こそ一緒に行こうよ。」

「ゴメン、今日はちょっと・・・」

 ミディアちゃんとの再会を記念して、またおしゃれをして行かないとね。

 でも、その時、覆面の言葉が頭をよぎった。


「ラーヴォルンも大事だが、お前の住む世界のことも大事にしろ。」


 もしかして、覆面の言いたかったことは、こういうことだったのかな。

「そうだね、今日は一緒にカラオケに行くよ。」

「やったあ。」

 ニコちゃんが私に抱きついてきた。

 よっぽどカラオケに行きたかったんだね。

「あーでも、2人でカラオケはきつくない?」

 だって、片方が歌っている間、もう片方が曲探してて全然聞いていないというパターンになりそうだ。

「今日は私も行くよ。」

 そこに日花里ちゃんも割り込んできた。

「えーっ、でも、日花里ちゃん、テニス部の練習は?」

「病気明けで、まだ運動できそうもないので欠席・・・ということにするつもり。」

「さすが、日花里ちゃんだ。」

「どういう意味だ。」

 日花里ちゃんに頭を掴まれた。

 久しぶりと日花里ちゃんと遊べてすごい嬉しい。

 でも、すごい痛いから、アイアンクローはやめてほしい。


 その後、3人でカラオケに行った。

 私は主にジャパニーズロックを歌いまくった。

 一方、日花里ちゃんは、3文字4xの曲が多かった。

 ニコちゃんは、アニソンが多かった。

 みんなバラバラのジャンルだったので、色んな曲が出てきて楽しかった。

 カラオケに行った後、近くのカフェに入っていろんなことを話した。

「夏休み、海に行こうよ。」

 ニコちゃんはすごい海に行きたがってた。

 でも、日花里ちゃんは、

「海はいろんな生き物がうごめいていて嫌だ。プールにしよう。」

と言い出して、それからニコちゃんと日花里ちゃんによる海vsプールの対決が始まった。

 2人が争ってる分には見てて楽しかったんだけど、決着がつくわけもなく、しまいには、

「琴音はどっちがいいの?」

「琴音ちゃんは海の方がいいよね?」

と私の意見で決着つけようとするから、タチが悪い。

 仕方がないから、

「私は山に行きたい。」

と言っておいた。

 たまには、こんなのも悪くはないと思った。


 家に帰って、久しぶりにお母さんや悟とも色々話した。

 悟は私立の進学校に行きたいと話していた。

 悟は私と違って、成績優秀なので、多分合格できると思う。

 私は、ラーヴォルンの話をした。

 この2日間のことがあったので、お母さんも悟も真面目に聞いてくれた。

 でも、私が話し終わると、やっぱり信じられないという表情にはなっていた。

 まあ、さすがに無理ないかな。

 でも、お母さんと悟に話を聞いてもらえただけでもうれしかった。

 そして、お母さんは、私達の話が聞けて良かったと言ってくれた。

 これからも、お母さんや悟と話す機会を増やそうかなと思う。

「そう言えば、今年はお父さんもアメリカから帰ってくるそうよ。」

 そっか、じゃあ、今年は久しぶりにお父さんにも会えるんだ。

 お父さんは私の話を信じてくれるかな?


 そして、私の一日はラーヴォルンで終わる。

 正直、全く不安がないわけじゃない。

 覆面の話が気にならないと言えばウソになる。

 でも、


「あっ、琴音だ。」

 笑顔で迎えてくれるミディアちゃんがいるだけで、どんな困難でも耐えられる気がする。

 それに、ラーファちゃんにエレーネちゃんにアイちゃん。

 これからも、みんなと色んな思い出を作っていきたい。

「ミディアちゃん、行こう。」

「ウン。」

 多分、これからも色んなことがあるだろうけど、ミディアちゃん達が一緒だったら、きっと乗り切っていけると思う。

 そう、私達のラーヴォルンの日々はこれからも続くんだ。

 昨日の大きな風が今日も吹いた。

 いよいよ、ラーヴォルンも本格的な秋が訪れるようだ。

 私達の世界はこれから夏休みだから、季節のずれに少し変な感じがした。

「秋のラーヴォルンは、いろんなイベントがあるんだよ。」

 ミディアちゃんはそう言うと、秋にあるラーヴォルンのイベントを色々と教えてくれた。

 ラーヴォルンは秋から冬にかけて、一番イベントが多いらしい。

 夏休みに秋のラーヴォルン、きっと楽しい日々になるだろう。

 期待を膨らませる私達に向かって、もう一度大きな秋風が吹いた。


黄昏のラーヴォルンを読んでいただきありがとうございます。

今回の話で晩夏編は終了になります。

次の秋編は7~8月ぐらいに投稿する予定です。

今しばらくお待ちくださいませ。

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