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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
45/254

41.まさかの組み合わせ

<<琴音>>

 その日はいつも以上に盛り上がった。

 ラーファちゃんは私の念写をしてくれたけど、それが例によってかなり編集されていて、ミディアちゃんが激怒していた。

 また、エレーネちゃんからは、日本のことについて色々と聞かれた。

 どういう話の流れでそうなったのかわからないけど、今日は日本のテレビ番組について聞かれた。

 バラエティの話をしたら、結構みんなに驚かれた。

 ラーヴォルンにはあまりバラエティ番組ってないのかな?

 その他、ニュースや討論番組とかも聞かれた。

 でも、私はあまりその手の番組は見ないので、あんまり説明できなかったけど。

 そして、例によってアイちゃんは、妄想イデアを作って、それを見たミディアちゃんがまた激怒していた。

 今日は来るのが遅かったので、ラーヴォルンにいられる時間はいつもより短かった。

 でも、今まで溜まっていたものが一気にはじけた感じで、今までの中で一番楽しく感じた。


「今日は来るのが遅くなっちゃって、ゴメンね。」

「ウウン、いいよ。

 だって、また明日も来てくれるんでしょ?」

 ミディアちゃんがそう聞いてきた。

 それに対して、私は

「もちろん。」

と笑顔で応えた。

「じゃあ、明日、楽しみに待ってるね。」

「ウン、じゃあ、また明日。」

 ミディアちゃんと挨拶すると、視界が真っ白になった。


 気がつくと、自分の部屋で目覚めていた。

 日花里ちゃんはまだ眠っていたけど、日花里ちゃんの目から涙が流れた後があった。

「日花里ちゃん、泣いてたんだ。」

 でも、人のことは言えなかった。

 私も泣いた跡が残っていた。

 でも、今日の涙はうれし涙だ。

 日花里ちゃんには感謝してもしきれなかった。

 私が心折れそうになった時、一生懸命支えてくれた。

 ウウン、昨日今日だけじゃない。

 私がダメダメになった時も、ずっと支えてくれた。

 ありがとう、日花里ちゃん。

 この感謝の気持ちを、なんか形にして日花里ちゃんにお礼がしたい。

 そうだ、今度、日花里ちゃんに何かプレゼントしよう。

 日花里ちゃんだったら、何を喜んでくれるかな?

 日花里ちゃん、早く目を覚まさないかな。


<<日花里>>

 突然、視界が真っ暗になった。

 どうやら、琴音がラーヴォルンから戻ったらしい。

 だから、てっきり私も帰ると思っていた。

 でも、私だけ真っ暗な場所に来ていた。

 ここは、少し前まで琴音が覆面と会っている場所と似ている気がした。

「まさかね・・・」

 でも、次の瞬間、突然目の前に、あの覆面が姿を現した。

「お前は藤島 日花里、琴音の友人だな?」

 覆面は私に向かって、そう言ってきた。


 参った・・・これは参った。

 正直、この展開は想像していなかった。

 私はラーヴォルンに関しては当事者じゃないと思っていた。

 だって、私は琴音の見たものが見えるだけで、実際にラーヴォルンに行ってるわけではないのだから。

 だから、覆面の話のことも、琴音のために一生懸命考えてはいたけど、どこかで自分には関係ないことだと思っていた。

 でも、今、私の目の前に覆面がいる。

 しかも、琴音はいないにも関わらずだ。

 つまり、覆面は私に用事があって、直接アクセスしてきたということだ。


「ハイ、そうですけど。」

 覆面に向かって、恐る恐る返事をした。

「琴音に触れることで、ラーヴォルンの景色を見ることを発見するとは大したものだ。

 それに、先日の琴音との会話を興味深く聞かせてもらった。」

 覆面はそう言うと、単刀直入に私に尋ねてきた。

「今回の事件、お前はどう思う?」

 なんでそんなことを私に聞いてくるのだろう?

「どう思うとは、どういうことでしょう?」

「この二日、私や琴音の話を聞いたり、琴音と一緒にラーヴォルンに行ってみて、何かわかったことがあったかということだ。」

 まさか、私の推理を聞きたいのか、この人は?

「私を呼び出したのは、私の考えを聞きたいからですか?

 どうして私なんかの意見を聞きたいと思ったんですか?」

 覆面が何を考えているのかわからない。

「こないだのお前と琴音の話を聞いて、お前に興味を持っただけだ。

 お前なら何か思いついたんじゃないかって思ってな。」

 どうしよう?

 覆面に興味を持たれてしまった。

 これはどうしたものだろうか?

 まあ、私も覆面について色々知りたいことがあるからな。

 琴音のためにも、ここはお互い腹の探り合いをしてみるかな。


「今回の犯人を仮にXとしておきますが、Xの目的は琴音の追放だけだったと思います。」

「ああ、それは私も同意見だ。」

「だって、ラーヴォルンのコピーを作ったり、琴音の記憶について消したわりには、琴音に関するものが全部残っていたりします。

 ラーファちゃんが念写したイデアが残っていたり、日本のことを書いた紙が残っていたり。

 本当に琴音の記憶を消したいのであれば、琴音に関するもの全てを消去するはずです。」

「そう、これじゃあ、せっかく記憶を封じても、これでは思い出すのは時間の問題だ。

 おそらく、犯人の目的は、琴音の記憶を消すことではなかったのだろう。」

「あれは多分、失敗した時の保険だったんだと思います。」

「君は本当にすごいな。

 私も同じ意見だ。」

 覆面は私を褒めているみたいだけど、覆面をしているので、どんな表情をしているのか全く分からなかった。

「Xは恐らく、今回の作戦に失敗した場合のことを考えて、全員の記憶を封印したのだろう。。

 琴音が来ても、全員が琴音のことを忘れていたら、琴音はショックを受けて来なくなるとでも考えたのだろう。

 その後、仮にミディア達に記憶が戻っても、琴音さえいなくなってしまえば何の問題もない。」

「でも、ミディアちゃん達だったら、実際の琴音の姿を見たら、すぐに記憶を戻してたような気もしますけど。」

「そうだな。

 Xは琴音が来ることで、記憶が戻る可能性については考えてなかった。

 あの様子だと、ミディアはすぐに琴音のことを思い出してただろうな。

 そういう意味では、片手落ちのお粗末な作戦だ。

 実に稚拙な作戦だ。」

 覆面しているので表情はわからないけど、もしかして覆面怒ってるのかな?

 何か、言い方にすごい棘がある気がする。

 大体そこまでわかっているんだったら、どうして私の話を聞こうなんてするのだろう?

 覆面の考えることがさっぱりわからない。


「私がわからないのは、どうしてXが琴音を追放しようとしたのかと言うことだ。」

「それは、Xの正体とも直結すると思いますが・・・

 あなたは、犯人が誰かおおよそ予想がついているって言ってましたが、それを教えてくれませんか?」

「ああ、あれは嘘だ。」

「えっ!?」

「あれは琴音に安心してラーヴォルンに行ってもらうためについた嘘だ。

 現時点では、犯人の検討は全くついていない。」

 この人、琴音をラーヴォルンに連れて行くために、平気で嘘をついたのか。

 そこまでしてまで、どうして琴音をラーヴォルンに連れて行きたいのだろう?

 でも、そんなことよりも、じゃあ、琴音は犯人がわからない状態のまま、これからもラーヴォルンに行き続けるってこと?

 それって、最悪じゃない。

「あなた、琴音のことを守るって言ってましたよね?

 犯人の検討もついていない状態で、どうやって守るつもりなんですか?」

「だから、日花里、お前の意見を聞かせてほしい。

 Xの正体は誰だと思う?」

 そんなこと、たった3回しかラーヴォルンに行っていない私にわかるはずもないって言ってやりたかった。

 なぜ私がここに呼び出されたのかはよくわかった。

 琴音に犯人の検討はついていると言ってしまった以上、すぐに犯人を特定しなければならない。

 だから、私なんかの意見まで参考にしたいってことか。

 嘘をついてしまって、後には引けなくなってしまった子供みたいだ。

 まあ、琴音のためにも、少し考えてみるかな。

 私に犯人の特定なんて、できるかどうかわからないけど。

 でも、私がラーヴォルンに行ったのはたったの3回。

 あまりにも情報が不足している。

 まずは、情報の収集から始めてみるかな。

 できれば、ついでに覆面の情報も・・・


「Xの正体を特定する前に、いくつか確認したいことがあります。」

「なんだ?」

「今回のXが行なったラーヴォルンの複製および記憶操作。

 こんなことのできる魔法使いが、アトゥアにはどれくらいいるんですか?」

「いずれも高度な魔法なので、かなり上位の魔導士でないと使えない。

 それに、ラーヴォルンの複製は、人間一人ではまず不可能だ。」

「一人では無理と言うことは、複数人だと複製可能ってこと?」

「そうだ。」

「てことは、Xは複数の上位魔導士の可能性が高いということになりますね。

 あるいは、あなたみたいなのがラーヴォルンにもいるとかね。」

「まあ、そういう結論になるな。

 だが、私にラーヴォルンの複製はできんぞ。」

「ウソ、時空を止めることができるのに、街一つ複製できないの?」

 これは意外だった。

 時空を止めるくらいだから、街の複製ぐらい簡単にできると思ってたのに。

「魔法にも色々種類がある。

 私とて、全ての魔法を取得しているわけではない。」

 まあ、それもそうかな。

 でも、おかげで、覆面が魔法を使えることがわかった。

 時空を止めているのは魔法じゃないかと薄々思ってたけど、これで覆面は魔導士であることが確定した。

 案外、覆面も抜けてるところがあるわね。

 じゃあ、次の質問に行くかな。


「Xの正体に迫るために、もう一つ聞きたいことがあります。

 先日、偽物の世界のミディアちゃん達が話したことを覚えてますか?」

「ああ、面白いことを言ってたな。

 エレーネがリリムという女性に頼んでマーシャント干渉で琴音と会話を試みようと話したら、ラーファが飛び出していなくなったらしいな。」

「マーシャント干渉ってどんな魔法なんですか?」

「マーシャント干渉とは、マーシャントに干渉するための魔法だ。」

 そのまんまだな。

 でも、その説明はマーシャントが何かを知ってる人にしか通用しない。

「そのマーシャントってのは何ですか?」

「そうか、お前達はマーシャントを知らないんだったな。」

 ここで言うお前達ってのは、多分地球人類のことなんだろう。

「マーシャントとは、簡単に言うと、この宇宙にあふれる生命エネルギーと言ったところだ。

 魂はマーシャントを使って、生命に宿る。

 生を受けた後も、魂はマーシャントを消費しながら生命活動を続ける。」

 魂とか宇宙とか、いきなりすごい話になってきたな。

 マーシャントは魂を宿らせるためのエネルギーで、生命活動を行なうためのエネルギーってことか。

「マーシャントが必要なのは、生命だけではない。

 星もマーシャントを使って、活動を行っている。

 星に住む生命体は、星のマーシャントを使って生命活動を行っている。」

「てことは、もしかして地球にもマーシャントが?」

「もちろん存在する。

 だが、魔法文明のない地球ではマーシャントを認識できていないだけだ。」

 へえ、それは面白い。

 初めて、アトゥアと地球の接点が見つかったような気がした。

 でも、魔法文明と何の関係があるのだろう?

「魔法文明がないと、マーシャントが認識できないんですか?」

「お前は魔法を使っているところを見たことがあるか?」

「ええ、まあ。」

 魔法を使ってるところを見たって言っても、ラーファちゃんの念写だけなんだけどね。

 琴音の話だと、炎を出したり、水を操ったりもできるそうだけど、私は見たことないな。

「では、魔法を見た時に疑問に思わなかったか?

 魔法のエネルギー源はどこから来ているのかってな。」

「まさか・・・魔法のエネルギー源はマーシャントなの!?」

「そうだ。

 魔法文明とは、マーシャントを基盤とした文明と言っても過言ではない。」

 多分、アトゥアでは、大昔にマーシャントを発見した人がいたんだろう。

 で、マーシャントを使った魔法文明を築き上げた。

 地球では、残念ながらマーシャントを発見できなかった。

 だから、魔法は使えない代わりに、科学技術を発展させた。

 それにしても、そんなすごいエネルギー源があるとはね。

 全宇宙にあふれる生命エネルギーか。

 地球でも使えるようになったら、エネルギー問題は一気に解決するわね。


「星や生命は、マーシャントを消費するが、その時に様々な情報をマーシャントに残していく。」

「えっ、マーシャントってエネルギーじゃないの?」

「ただのエネルギーではない。

 ラーヴォルンにはイデアというのがあるだろう?

 イデアはマーシャントの情報を記録する性質を利用して作られた魔法媒体だ。」

 星や生命はマーシャントを使って生命活動を続けるけど、その時にマーシャントに情報を残していくってことか。

「古い地層や遺跡には、その時代のマーシャントが残っていることがある。

 そのマーシャントから情報を引き出すための魔法が、マーシャント干渉と呼ばれているものだ。

 正式な魔法名はすごい長い名前なので、ルークって略称で呼ばれている。」

 なんか、ジェ○イっぽい名前だな。

 まあ、名称とかどうでもいい。


「そのマーシャント干渉を使えば、琴音の意識にアクセスできるという話をエレーネちゃんがしたら、ラーファちゃんが怯えて姿を消したそうです。」

「ラーファはどこに行ったと思う?」

 一番聞かれたくない質問が来た。

「それは私にもわからないです。」

「ラーファは本物のラーヴォルンにはいたが、複製先のラーヴォルンでは行方不明のままだった。

 これは何を意味していると思う?」

「もしかして、あなたはラーファちゃんが怪しいと思ってるんですか?」

「普通に怪しいと思わないか?」

 覆面はもしかしてラーファちゃんを疑ってるの?

 でも、ラーファちゃんがあんなことをするとは、どうしても思えない。

 それに、ラーファちゃんはただの学生だ。

「さっき、複製世界を作ったり、人の記憶を封印したりするのは、上位の魔法だと言いましたよね?

 ただの学生に過ぎないラーファちゃんに、そんなことができるわけがない。」

「そう、ラーファにはできない。

 でも、ラーファがXと通じているとしたら?」

「えっ!?」

 覆面が突然、とんでもないことを言い出した。

 ラーファちゃんがXの仲間だってこと?

 Xの命令に従って、ミディアちゃん達を・・・

 信じられない。


「で、でも、ラーファちゃんはミディアちゃんの姉であり、親友でしょ?

 いくら、琴音を追放するためとはいえ、ミディアちゃんをあんな残酷な目に合わせるとは思えない。」

「どうして、そんなにラーファをかばおうとするのだ?

 お前も薄々感じていたのではないか?

 ラーファは怪しいと。

 Xが琴音の情報を入手する方法として、一番簡単な方法が、見える者から情報を入手する方法だ。

 Xは、ラーファから情報を入手していたと考えるのがもっとも合理的だろう?」

 私も、ラーファちゃんが怪しいと思ったことがあった。

 状況的には、確かに怪しい。

 でも、私はラーファちゃんを信じたい。

「本物のラーヴォルンの方では、ラーファちゃんも記憶を失ってました。

 Xの仲間だったら、ラーファちゃんの記憶が封印されているのはおかしいでしょ。」

「別におかしいことではない。

 Xにとって、ラーファは末端に過ぎない存在だとしたら?

 ミディアと親しいラーファに騒がれても困るから、一緒に記憶を封印したのだろう。」

「・・・・・・」

 私は何も反論できなかった。

 やっぱり、ラーファちゃんはXの仲間だったのだろうか?

 でも、琴音やミディアちゃん達と一緒にいる時のラーファちゃんを知ってるから、やっぱり信じられない気持ちだった。


「まあ、ラーファに自覚があったかどうかはわからないがな。」

「それはどういうことですか?」

「上位の魔導士の中は、人を操ることができる魔法を使うことができる者がいる。

 私が思うに、ラーファは無意識のうちにXに情報を流すように操られていた可能性が高い。

 何せラーヴォルンにはラヴォルティアがあるからな。」

「まさか、ラヴォルティアでXはラーファちゃんの意識に!?」

「その可能性は十分あり得る。

 ラーファはラヴォルティアを使いたがらないと言ってただろう。

 でも、それはエレーネ達が知らないところで使っているのかもしれない。」

 覆面の話を聞いて、背筋がぞっとなった。

 もし、それが事実だとしたら、ラヴォルティアはなんて危険な場所なんだろう。

 ラヴォルティアはただのSNSのようなものだと思ってた。

 でも、ラヴォルティアは、意識が集まる世界だ。

 その危険性は、SNSの比ではない。

 もしかしたら、ラーヴォルンはラーファちゃん以外にも多くの情報提供者で溢れかえっている可能性が高い。


「ラーファは琴音にマーシャント干渉を使う話を聞いて怯えたそうだが、それは植え付けられた感情の可能性が高い。」

「えっ、どういうこと?」

「多くの観測対象がいる場合、観測者は全ての観測対象を一々観測しきれない。

 だから、特定のキーワードだったり状況に反応するよう予め洗脳しておくのだ。

 大きな感情の乱れを誘発するようにしておけば、観測者は観測対象の感情が乱れた場合だけチェックすればよくなる。

 非常に効率的な観測方法だ。」

 効率的かどうか知らないけど、人の感情まで操るとか鬼畜の所業だわ。

「今回の場合は、マーシャント干渉だ。

 だが、ただのマーシャント干渉ではないだろう。

 恐らく、琴音を対象にした時にだけ発動するようになっていたのだろう。

 マーシャント干渉自体は、それほど珍しい言葉ではないからな。」

「てことは、ラーファちゃんが感情操作されたのは、琴音と初めて会った日以降のいつかってこと?」

「そうなる。」

 琴音が来てから今までの間って、本当につい最近ってことになる。

 その間に、ラーファちゃんの身に何かが起こった。

 でも、私がラーヴォルンに来たのは、たったの3回だけだ。

 特定するには、あまりにも情報が少なすぎる。

「ラーファちゃんがいつ感情操作されたのか、あなたにはわからないんですか?」

 覆面は毎日琴音をラーヴォルンに連れてきている。

 私なんかよりも、覆面の方が時期を特定できるはずだ。

「私も別に琴音をずっと監視しているわけではないからな。

 一つ言えるのは、ラーファが感情操作を受けたのは、琴音やミディアと一緒にいない時だと言うことだ。」

 これは、後で琴音に確認してみるしかないわね。

 でも、琴音だってラーヴォルンにいるのは昼間だけだから、それ以外の時間のことはわからないはず。

 ミディアちゃんにも聞いてもらうしかないな。


「私の推察はこんなところだが、結局のところ、犯人特定の決定打がなくてな。

 困っていたところだったのだ。

 私の話を聞いた上で、改めてXの正体が誰なのか、お前に考えてもらいたい。」

 そんなこと、私に言われても困る。

 何度も言うけど、私はたった3回しかラーヴォルンに行ったことない。

 そんな私が、どうやって犯人の特定ができると言うのだろう?

 それに、正直、私は自分の推論に自信がなかった。

 中途半端な推論のせいで、琴音を傷つけてしまった。

「今の私の話を聞いて、日花里はXの正体に何となく気づいたんじゃないのか?」

「気づいたなんて、そんな大げさなものじゃありません。」

「それでも構わないから、話してくれないか?」

 なんだろう?

 どうして、この人は私の推論をこんなに気にするんだろう?


 それにしても、覆面の話は恐ろしい話ばかりだった。

 ラーヴォルンが理想郷なんてとんでもない。

 むしろ、ラーヴォルンは最も危険な場所かもしれない。

 推論が当たっているかどうかはともかく、琴音のためにも、ここは整理しておいた方がいいだろう。


「もう一つ確認があるんですけど、ラーヴォルンにスパイが潜入したのは、実際にもあったことなんですよね。」

「ああ、ヴェルク帝国のスパイだそうだ。」

「よく捕まえられましたね。」

「ラーヴォルンの憲兵隊が優秀なんだろう。」

「本当にそれだけでしょうか?」

「というと?」

「ヴェルク帝国って、アトゥアで一番大きな帝国なんですよね?

 そんな帝国のスパイがあっさり捕まったことがちょっと引っかかるんですよ。」

「どういうことだ?」

「ここからは、本当に私の想像って断っておきますけどね。

 Xは偽物の世界を作るために、わざと憲兵隊にスパイの情報を流していたんじゃないでしょうか?」

「そうすれば、複製した後、憲兵隊の情報を琴音にすり替えるだけでいいからな。

 その可能性は十分あり得るな。」

「ラーヴォルンのあるリーヴァ王国は、ヴェルク帝国とガルティア帝国に挟まれた国で、両国から多くのスパイが潜入している。

 恐らく、今回捕まったスパイは、これとは全く関係ない別のことでラーヴォルンに潜入していたんだと思います。

 エレーネちゃんの発言後に、Xは複製世界を作るために、スパイの情報を憲兵隊に流したんでしょう。」

「なるほど。

 だが、肝心なことが一つ抜けている。

 Xはどうやってスパイの情報を入手したのだ?

 一般人がスパイの情報を入手するのは非常に難しいぞ。」

「確かに、普通の人達がスパイの特定を行なうのは難しいでしょう。

 でも、Xがスパイを送り込んだ人達だとしたら、その限りではない。」

「何だと・・・」

 覆面が珍しく驚いていた。

「まさか、日花里、君が考えるXの正体は―――」

「ヴェルク帝国の可能性が高いと思っています。」

 これが私の結論だった。


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