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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
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39.絶望の琴音

<<琴音>>

「私がミディアちゃんを殺した。私がミディアちゃんを殺した。私が・・・・・・」

 頭の中に、ずっと同じ言葉が繰り返し流れていた。

 私をじっと見つめていたミディアちゃんの顔が忘れられない。

 私がミディアちゃんを殺したんだ。

 あの時、私が覆面の言う通りに引き返していれば、こんなことにはならなかったんだ。

 でも、憲兵隊は私とミディアちゃんが仲良くしていることを知っていた。

 だから多分、私がラーヴォルンでミディアちゃんに会った時点で、この結末になっていたんだろう。

 私がミディアちゃんと仲良くならなければ・・・

 もう、ラーヴォルンに行きたくない。

 でも、私、あの覆面に言ってしまった。


「あなたは、ラーヴォルンは理想郷なんかじゃないって言ったけど、私にとっては、ラーヴォルンは理想郷そのものなんです。

 素敵な景色に囲まれていた美しい街で、ミディアちゃんのような素敵な友達ができたんですよ。

 私にとっては、ここは理想郷なんです。

 だから、お願いです。

 これからも、私をラーヴォルンに連れて行ってください。」


 なんで、あんなことを言ってしまったんだろう?

 もしかして、これからもラーヴォルンに連れて行かれるんだろうか?

 ミディアちゃんが死んでしまったラーヴォルンに毎日毎日毎日毎日・・・・・・

 そんな毎日を過ごしたら、きっと気が狂ってしまう。

 ラーヴォルンの街を見るたびに、ミディアちゃんとの思い出を思い出して、そのたびに最期の時のミディアちゃんの表情を思い出すんだろう。

「ハハハ・・・死にたい。」

 こんなの絶対に耐えられない。

 どうせ、こんな世界で長生きしても仕方がない。

 そういや、どうせって思うの、久しぶりだなあ。

 まあ、どうでもいいや。

 楽になりたい。

 そう思った。


 最初に首つりを考えたけど、残念ながらこの部屋にはひもがなかった。

 でも、カッターナイフは確かあったはず。

 机の中を開けると、こないだ買ったばかりのカッターナイフがあった。

 確か、これで脈を切れば死ねるんだっけ?

 でも、痛そうだなあ。

 こんなことだったら、自殺方法をもっと知っておくんだった。

 なんで数学や国語を必死になって勉強してたんだろう。

 私はバカだ。

 そんなことに時間を割くぐらいだったら、楽に死ねる自殺方法でも勉強しておくんだった。

 カッターナイフの刃を出して見た。

 これで脈を切ればいいだけ。

 たったそれだけで、この世からおさらばできる。

 でも、それだけのはずなのに、怖くて、手が震えて、なかなか切ることができない。

 ミディアちゃんは刀で切られたのに、私はカッターナイフですら自分を切ることができない。

 自分のヘタレっぷりが本当に嫌になった。


「琴音、何やってるの!?」

 部屋に入ってきた日花里ちゃんが、慌てて私のところに駆け寄ってきた。

 そして、私から強引にカッターナイフを奪い取った。

「大丈夫だよ、日花里ちゃん。

 私、自分をカッターで切る勇気すらないヘタレだよ。」

「自分をカッターナイフで切る人のことを勇気のある人だなんて言わないよ。」

「ミディアちゃんはこれよりもずっと大きな刀で切られたのに、どうして私を切る刀は、こんなに小さい刃しかないの?

 しかもそれすらできない。

 日花里ちゃん、私、どうやったら許されるのかな?」

「しっかりしてよ琴音。あれは琴音のせいじゃないでしょ。」

「でも、私、これからもラーヴォルンに行くんだよ。

 ミディアちゃんのいないラーヴォルンに毎日、毎日、毎日、毎日・・・・・・」

「大丈夫、琴音、そんなことにはならないから。」

「どうして、そんなこと言えるのよ!!」

 思わず大声を張り上げていた。

 覆面が何を考えているのかわからないって、日花里ちゃんも言ってたくせに。


「琴音、夜中に一度目覚めた後、もう一回眠ったでしょ。

 その時にラーヴォルンに行った?

 私、琴音の手を握って一緒に寝たけど、何も見なかったよ。」

 そう言えば、あの後ラーヴォルンに行ってない。

 もしかしたら、私は覆面に解放されたのかな?

 そうだといいな。

 もうラーヴォルンには行きたくない。

 どんなに素敵な景色があっても、ミディアちゃんのいないラーヴォルンは楽しめない。

「琴音、お願いだから、もうこんな真似しないでよ。」

 日花里ちゃんが私にしがみついて泣いていた。

「日花里ちゃん・・・」

「琴音がどんなに苦しんでるか、私には琴音の苦しみは想像できない。

 でも、お願い。

 もう二度と、こんなことしないでよ。」

 日花里ちゃんはそう言うと、そのまま泣き崩れた。

 日花里ちゃんがこんなに号泣しているところを初めて見た。

 日花里ちゃんは私の幼馴染で、かけがえのない親友だ。

 私がダメダメな時も、見捨てずにずっと友達でいてくれた。

 私が自殺しようとしただけで、こんなに泣いてくれる親友がいる。

 日花里ちゃんを悲しませたら絶対にダメだ。

「ゴメンね、日花里ちゃん。

 私、もうこんなこと二度としないから。

 約束するよ。」

 日花里ちゃんにそう言うと、日花里ちゃんは小さく頷いてくれた。


 気がついたら、もう夜になっていた。

 今日は朝食も昼食も取っていなかったので、さすがにお腹がすいた。

 多分、日花里ちゃんのおかげで、お腹がすいたと感じられるようになったんだと思う。

 その後、日花里ちゃんと一緒に夕飯を食べて、久しぶりに一緒にお風呂に入った。

 昔はよく一緒にお風呂に入ることがあったけど、最近は全然なかったので、すごい懐かしい気分になった。

 日花里ちゃんのおかげで、ほんの少しだけ元気が出た。


 久しぶりに日花里ちゃんとの時間を過ごしているうちに、時計の針は10時を指していた。

 そろそろ寝る時間だ。

 いつもなら、楽しみにしていた時間。

 でも、今日は・・・

 寝ることを意識した途端に、頭の中にミディアちゃんの顔が浮かんできて、すごい怖くなった。

 体がガタガタ震えた。

 私が怖がっていることに、日花里ちゃんも気づいたみたいだった。

「大丈夫、琴音はもうラーヴォルンから解放されたから。」

 日花里ちゃんはそう言ってくれたけど、本当にそうとは思えなかった。

 どこかに連れて行かれるとしても、まずは覆面に会いたい。

 いきなりラーヴォルンに連れて行かれるのだけは絶対に嫌だ。

「琴音、もしラーヴォルンに連れて行かれたら、街には行かないで、ずっとルフィルの遺跡にいるのよ。

 あの遺跡、普段はほとんど人が来ないって言ってたでしょ。

 だから、そこで夜になるまで待っていれば大丈夫。」

「ウン、わかった。」

 そうだ、私がラーヴォルンにいる時間は、眠っている間だけだ。

 もし、ラーヴォルンに行ってしまったとしても、時間をつぶせばいいんだ。

 でも・・・できればやっぱり行きたくないな。

 ラーヴォルンに行ったら、きっと色んなことを思い出してしまうから。


 本当は寝るのは嫌だったけど、どんだけ頑張っても睡魔にはかなわなかった。

「人間は眠るようにできている生き物だから、こればかりは仕方がないよ。」

「そうだね。」

 これ以上睡魔に抗っても仕方がないので、腹を決めて眠ることにした。

 今日も日花里ちゃんと一緒に寝ることにした。

 日花里ちゃんがずっと手を握ってくれていて、安心できたからかな。

 布団に入ると、私はすぐに眠ってしまった。


 気がつくと、真っ暗な場所に一人立っていた。

 一体どこなんだろう、ここは?

 でも、不思議と怖さはなかった。

 なぜなら、今の私にとって、一番怖い場所はラーヴォルンだから。

 しばらくすると、目の前に覆面が現れた。

 まあ、来ると思ってたよ。

 むしろ、私の方が覆面に色々話したいことがあったからね。

 来てくれてよかった。

「琴音、話したいことがある。」

 どうやら覆面も、私に用事があったみたいだ。

 多分、昨日のことだろう。

「ウン、私も話したいことあったから、ちょうどよかったよ。」

「お前が何を言おうとしているのかは、大体想像がつく。

 だが、その前にまず私の話を聞いてほしい。」

 何だろう?

 もしかして、この期に及んで、まだ何か私に要求するつもりだろうか?

 今度はラーヴォルンとは別の場所に行ってほしいとか。

 だったら、速攻で断ってやる。


「琴音、ミディアは生きている。」

「えっ!?」

 思い切り頭を殴られたような衝撃が走った。

 もしかしたら聞き間違いかもしれない。

「今・・・何て言ったの?」

「ミディアは生きていると言ったのだ。」

 今度ははっきりと聞き取れた。

 覆面は、はっきりとミディアちゃんが生きていると言った。

 でも、どういうこと?

 ミディアちゃんは、確か憲兵隊に捕まって、そして憲兵隊に・・・

 ダメだ、その時のミディアちゃんの顔を思い出すと、また泣きたくなってしまう。

「昨日、琴音が行ったのは、ラーヴォルンであって、ラーヴォルンでない世界だ。」

「えっ、どういうこと?」

「昨日ラーヴォルンに行ってきて、ミディアに色々と話を聞いてきて、大体のことはわかった。

 今はもうなくなっているが、どうやら何者かが、ラーヴォルンを複製したらしい。」

「えっ、複製?どういうこと?」

 ラーヴォルンを複製って言われても、よくわからなかった。

 複製って、コピーのことだよね?

 ラーヴォルンって結構大きな街だと思うんだけど、そんなものを簡単に複製できるものなの?

 わけがわかんない。


「一昨日、琴音が帰った後、ミディア達はデザート店によって、そこでラーファと何かあったらしい。

 そして、ミディア達は、その辺の時間から翌日までの記憶がほとんどない。

 そして、琴音、お前に関する記憶もなくなっている。」

 えっ、ミディアちゃん達の記憶がないって、どういうこと?

 私に関する記憶もって、ミディアちゃん達に何が起こってるんだろう?

 一体、ラーヴォルンで何が起こってるの?

「私の会ったミディアちゃんは、一昨日はずっとラーファちゃんを探してたと言ってた。

 デザート店でエレーネちゃんがリリムさんって人にマーシャント干渉を使ってもらって私と会話できるか試してみたいって話をしたら、ラーファちゃんが怯えて出て行ったって言ってた。」

「複製先のミディア達には、記憶が残されていたようだな。

 おそらく、そっちのミディアの話したことが真実なのだろう。

 だが、その記憶は、本物の世界では封印された。

 恐らく、ミディア達が眠っている深夜のうちに、何者かがラーヴォルンのコピーを作り上げた。

 それと同時に、本物の世界の方のミディア達の記憶を封印した。

 加えて、琴音に関する全ての記憶も封印した。」

 ようやく覆面の言いたいことがわかってきた。

「つまり、私は昨日、何者かが作った複製されたラーヴォルンに行ったってこと?」

「そうだ。」

 覆面は大きく頷いた。

 でも、誰が一体何のためにこんなことを?

 ラーヴォルンのコピーを作ったり、みんなの記憶を封印したり・・・

 これももしかしたら魔法なのかな?


「ラーヴォルンをコピーしたり、記憶を封印したりする魔法なんて存在するの?」

「魔法自体は存在する。

 だが、複製魔法も記憶操作の魔法も、一般人には到底扱えない上級魔法だ。

 ましてや、ラーヴォルンを複製なんて、人間一人の魔力では到底不可能だ。

 しかも、そいつは琴音がラーヴォルンに召喚されるタイミングに合わせて、強制的に時空を歪めて召喚先を変更させた。

 こんなことは、私が琴音をラーヴォルンに召喚している方法を知っていないと絶対に不可能なことだ。」

「つまり、どういうこと?」

「つまり、そいつは琴音の存在も、琴音がどうやってラーヴォルンに来ているのかも知っているということだ。」

 ミディアちゃんとラーファちゃん以外にも、私の姿が見える人がいるってこと?

 しかも、その人はすごい力を持っている人らしい。

 覆面を騙して偽物の世界に誘導するなんて、多分とんでもない魔導士なんだろう。

 とりあえず、覆面と同じぐらいの力を持ってそうなので、そいつのことを覆面2号と呼ぶことにする。


「もしかして、覆面2号ってあなたと同じくらいすごい力を持つ人なの?

 どこか遠い宇宙からやってきたすごい力を持つ宇宙人?」

「覆面2号って、もしかして今回攻撃を仕掛けてきた敵のことか?」

「アンタと同じで、すごい力を持ってそうだから、そう呼ぼうかと。」

「・・・・・・」

「ダメだった?」

「別になんとでも呼べばいい。

 それに、私にはこれを仕掛けてきた存在の正体はおおよそ見当がついている。

 まだ確証はないがな。

 わからないのは、その存在がどうして琴音を排除しようと考えたかだ。」

「えっ、私を排除しようとしたの?」

 覆面の話を聞いて驚く。

 私はラーヴォルンでは、ミディアちゃんとラーファちゃんとしか直接話したことがない。

 だから、覆面2号との面識はないはず。

 それなのに、どうして覆面2号に排除されないといけないのだろう?

「そう、敵の目的は、ラーヴォルンから琴音を排除することだ。

 でも、ラーヴォルンでは琴音は実体を持っていないから、琴音に直接攻撃することができない。

 じゃあ、どうすればいいか?

 敵は琴音がラーヴォルンに来たくなくなるようにすればいいと考えたのだろう。

 そのために利用されたのが、ミディアだ。」

 私がラーヴォルンに行きたくなくなるようにするためだけに、ミディアちゃんにあんなヒドイことをしたって言うの?

 どんなすごい宇宙人なのか知らないけど、ものすごい腹が立った。


「昨日あったことを整理するとこうだ。

 私はお前をラーヴォルンに連れて行ったつもりだったが、実はそいつの作り上げた世界に誘導された。

 その世界では、明らかにお前を罠にはめるための記憶操作が行われていた。

 憲兵隊はヴェルク帝国のスパイを調査していたが、コピー世界では、スパイの情報が琴音とミディア達にすり替えられていた。

 琴音の目の前で、ミディアを処刑するように憲兵の思考も操った。

 全ては、琴音をラーヴォルンから排除するため。

 ラーヴォルンに到着して、私はすぐに違和感に気づいた。

 だから、お前を連れ戻そうと思ったが、お前が駄々をこねたので、そのままにしておいた。」

 そのおかげで、私はとんでもない目にあったってわけだ。

「そこまでわかってるなら、無理やりにでも戻してくれたっていいじゃない。」

「お前の目を覚ますいいチャンスだと思ったからな。

 いいか、ラーヴォルンは理想郷なんかじゃない。

 昨日、お前の行ったラーヴォルンは確かに偽物の世界だったが、操作された部分以外は全く同じ世界だ。

 コピー元の世界にヴェルク帝国のスパイがいたからこそ、今回の世界を作り上げることができた。

 ラーヴォルンに住んでいる人は善人ばかりではないし、リーヴァ王国の置かれている状況も深刻だ。

 それをお前が認識しないと、本物のラーヴォルンに戻った時に痛い目にあう可能性があると思ったのだ。」

 そういうことか。

 日花里ちゃんの言う通り、覆面は何だかんだで私のことを気遣ってくれているみたいだった。

 でも、本物のラーヴォルンに戻った時にってどういうことだろう?

 まさか、私をまだラーヴォルンに連れて行くつもりだろうか?


「今回の事件で分かったと思うが、お前の存在を認識しているのは、ミディアとラーファだけではない。

 強大な力を持つ何者かがお前の存在を認識していて、しかもそいつはお前に敵意を持っている。

 だから、これからもラーヴォルンに行くことになれば、きっと色々なことが起こる可能性がある。」

 大体、どうしてそんな得体のしれない存在から敵意を向けられて、罠を仕掛けられないといけないのか?

 色々と考えてみたけど、会ったこともない存在の考えることなんて私にわかるわけがなかった。

 でも、覆面は私をラーヴォルンに連れて行くことで、何らかのメリットを得ていると言っていた。

 ということは、その得体のしれない存在にとっては、私がラーヴォルンに来ることで、何らかのデメリットが発生しているのかもしれない。

 一生懸命考えた末に、思いついたのはその程度のことだった。

 そして、その悪意を持った存在は、これからも色々と仕掛けてくる可能性があるらしい。

 昨日の罠でダメだとわかったら、より強力なものを仕掛けてくるに違いない。

 でも、昨日の罠ですらかなり堪えているのに、これ以上の罠なんて来たら、とてもじゃないけど耐えられそうにない。


「お前にこのことを話した上で、あえて尋ねたい。

 琴音、お前はこれからもラーヴォルンに行きたいか?

 それとも、もうラーヴォルンに行くのはやめるか?

 どうする?」


 覆面が私に尋ねてきた。

 私の見たあの光景は、何者かが作った光景だってことはわかった。

 ミディアちゃんが生きていることもわかった。

 でも、本当にいいのだろうか?

 私がラーヴォルンに行けば、またきっと嫌がらせをされることになる。

 しかもただの嫌がらせじゃない。

 ミディアちゃん達は記憶を封印までされているらしい。

 私だって、ミディアちゃん達に会いたい。

 でも、これ以上、ミディアちゃん達に迷惑をかけたくない。

 私が返事をしようとしたその時だった。


「私は、これからもお前にラーヴォルンに行ってもらいたい。」

 覆面がそう言った瞬間、頭で考えていたことが全て吹き飛んでしまった。

 ついこないだまで、私のラーヴォルンに行くなと言ってたくせに、今度は私にラーヴォルンに行ってほしいだって?

 覆面が何を企んでるのかわからないけど、すごい腹が立った。

「ふざけないで。

 アンタの目的が何かわからないけど、アンタの都合で私達を振り回すのはやめてよ。」

 気がついたら、覆面に向かってまくしたててた。

 覆面は私の話を黙って聞いていた。

「もう嫌よ。

 私のせいで、ミディアちゃん達にまで迷惑をかけられない。

 だから、私、もう行くのをやめる。

 絶対にラーヴォルンには行かない。」

 本当はミディアちゃんに会いたくて会いたくてたまらない。

 でも、あんな目に合うくらいなら、もう行かない方がいいと思った。

 ミディアちゃん達にも、これ以上迷惑をかけたくない。

「お前は本当にそれでいいのか?」

 覆面はもう一度確認してきた。

「ウン、いいよ。」

 私がそう答えると、覆面は指で空中に円を描いた。

 すると、円の中に、見慣れた光景が映し出された。

「これは、まさか、ラーヴォルン?」

「そう、現時点のラーヴォルンだ。

 このまま別れるのも嫌だろうから、最後にミディア達を見せてやろう。

 お前もミディアが生きているのを確認したいだろう?

 ここからミディア達と話すこともできるが、どうする?」

 映像は動き出すと、学校帰りのミディアちゃん達の姿を映し出した。

 映像の中では、いつものようにミディアちゃん達が学校から帰る姿が映し出されていた。

「ミディアちゃん・・・本当に生きていたんだ。よかった。」

 実物のミディアちゃんを見た瞬間、涙をこらえきれなくなってしまった。

 それは、いつもの学校帰りの光景だった。

 でも、みんな今は私のことを忘れてるんだった。

 だから、これは私が来る前の光景だ。

 私が来る前は、きっとこんな感じだったんだろう。


 みんな、私のことを忘れているんだから、私が声をかけてもミディアちゃん達は混乱するだけだろう。

 だったら、このままお別れの挨拶はせずに別れた方がいい。

 みんなに会えなくなって辛いけど、でも、みんなは私のことを覚えていないんだし、これでいい。

 でも、さっきから、ミディアちゃんがみんなに必死に何かを訴えかけているようだった。

「何を話しているか聞いてみたいか?」

「・・・・・・ウン。」

 どうしようか迷ったけど、最後にミディアちゃんの声をどうしても聞きたかった。

 ミディアちゃんのことを忘れないように、心に声を刻んでおこう。

 そう思った。

 覆面が念じると、映像と一緒に声が聞こえてきた。

「本当だよ。琴音って女の子が私達と一緒にいたんだよ。」

 ミディアちゃんの声を聞いて、驚いてしまった。

 ミディアちゃんが、私の話をしている。

 どうして?

 記憶がなくなったんじゃないの?


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