38.何かがおかしい(2)
<<日花里>>
さすがに、今の琴音になんて言葉をかけていいのか、わからなかった。
ていうか、私もショックで何も言葉が思い浮かばなかった。
琴音の弟の悟も、さすがに心配しているみたいだった。
「ねえ日花里、姉ちゃんどうしちゃったの?」
「ゴメン、悟、私にもわからない。」
私にもなんて答えていいかわからなかった。
琴音は、さっきからずっと
「私のせいで、ミディアちゃんが死んじゃった。」
とつぶやき続けていた。
琴音の気持ちが痛いほどわかった。
自分のせいで、友達が殺されるなんて耐えられない。
しかも、ミディアちゃんの最期の表情・・・
あんな顔で見つめられて、琴音は絶望したに違いない。
でも、琴音にはどうすることもできなかった。
あの覆面の言葉を思い出した。
「だから、今日は行くのをやめておけと言ったのだ。」
覆面は琴音が傷つくのがわかっていたから、行くのを止めたんだ。
だとしたら、私の中途半端な助言のせいで、琴音は覆面の忠告も聞かずにラーヴォルンに行ってしまった。
これは、私の責任だ。
「日花里ちゃん、琴音に一体何が起こってるの?」
おばさんに色々と聞かれたけど、私もどう説明したらいいか困ってしまった。
「おばさん、琴音から夢の話を聞いたことありますか?」
「夢?そう言えば、以前、夢のことで落ち込んでいたことがあったけど。
もしかして、今、琴音が苦しんでいるのもそうなの?」
おばさんはさすがに信じられないといった表情だった。
「昨日、琴音の様子がおかしくなったのは、朝起きてからじゃなかったですか?」
「そうね、前の日はむしろいつも以上に元気だったわね。」
「そして、今朝も起きた後に様子がおかしくなったですよね。」
「じゃあ、本当に夢で琴音は苦しんでるってこと?」
「ええ、そうです。」
「日花里ちゃんはどうして琴音が夢で苦しんでいることを知ってるの?」
おばさんにそう聞かれた。
当然の疑問だと思うけど、どう説明しようか困ってしまった。
琴音に触れていたら、私にも琴音の見ているものを見ることができる。
そんなことを言っても、おばさんに信じてもらえるだろうか?
でも、ここまで来た以上、もう全部を素直に話すしかないと思った。
「実は、琴音は夢を見ている間、ラーヴォルンという場所に行ってるんです。
それで、琴音がラーヴォルンに行く時って、眠っている時に来ている服なんです。
だから、琴音に触れていれば、私もラーヴォルンに行けるんじゃないかと思って、琴音の手を握って眠ったんですよ。
残念ながら、私はラーヴォルンに行けませんでしたが、琴音の見た風景を見ることはできました。
だから、今日も琴音の身に何が起きたのか、私は知っているつもりです。」
「それで、琴音の身に何が起きたの?」
おばさんは私に尋ねてきました。
おばさんは私の話したことは、突拍子もないことだと思いつつも、今は琴音に何が起こったのかを知りたいといった感じだった。
だから、素直にあったことをそのまま話すことにした。
「琴音の親友のミディアって子が、スパイ容疑で捕まったんです。
スパイの特徴があまりにも琴音にそっくりで、憲兵隊はミディアちゃんの命と引き換えに、琴音に姿を出すように言ってきました。
でも、琴音の姿は、あっちではミディアちゃんとラーファちゃんという2人の子にしか見えないんです。
琴音は必死で何とかしようとしたけど、どうすることもできなくて、それで琴音の目の前でミディアちゃんが憲兵隊に・・・」
それ以上は言いたくなかった。
「そう、そんなことがあったの。」
おばさんも察してくれたみたいだった。
「琴音は、ミディアちゃんが死んだのは自分のせいだと思っているようです。
でも、向こうの世界では琴音が見えるのは、ミディアちゃんとラーファちゃんの2人だけなんです。
他の人には見えないし、触れることも、話すこともできない世界なんです。
琴音にはどうしようもなかったんです。」
「日花里ちゃんもつらかったでしょう。」
「ハイ・・・」
私は涙をこらえきれなくなっていた。
琴音を助けるつもりだったのに、逆に精神的に追い詰めてしまった。
私は一体どうしたらいいのだろう?
何も思いつかなかった。
「でも、なんか変じゃない?」
おばさんが私にそう言ってきた。
「何が変なんですか?」
「だって、琴音の姿が見えるのは、ミディアちゃんとラーファちゃんだけなんでしょ?
じゃあ、憲兵隊はどうやって、琴音の情報を入手したのかしら?」
おばさんがそう言った瞬間、私もハッとなった。
そうだ、あの憲兵隊は一体どこから琴音の情報を入手したのだろう?
だって、琴音の姿が見えるのは、ミディアちゃんとラーファちゃんだけ・・・
そう言えば、学校の帰り、ラーファちゃんの姿はどこにもなかった。
彼女は一体どこにいたんだろうか?
そう考えて、すごい嫌な考えが頭の中をよぎった。
まさか、ラーファちゃんが憲兵隊に情報を流したってこと?
ラーファちゃんがミディアちゃん達をスパイ容疑者に仕立て上げたってこと?
そんな、いくらなんでも信じられない。
だって、コンサートの時、ミディアちゃんとラーファちゃん、あんなに仲よかったじゃない。
ラーファちゃんがそんなことをするとは考えられない。
でも、じゃあ、あの時ラーファちゃんは一体どこにいたの?
これはどう考えたらいいのだろう?
きっと、今は動揺していて、冷静に考えられないだけだ。
絶対にラーファちゃんがそんなことをするはずがない。
大体、私がラーヴォルンに行ったのは、たったの2回だけだ。
しかも、琴音が見た物を見ていただけだ。
きっと、何か別の要因があるに違いない。
そのためには、もっと情報を集めないといけない。
「そう言われればそうですね。
そこは、琴音に詳しく話を聞かないとわかりませんが、今の琴音に話を聞くのは難しいと思います。」
「そうね、今は琴音のことを考えてあげないとね。」
「私はラーヴォルンに行ったのは2回だけだし、琴音みたいに話しかけることもできなかったので、私にとってはミディアちゃんは友人とは言えないでしょう。
でも、琴音は違います。
いつも学校でラーヴォルンの話を聞いてましたけど、琴音にとってミディアちゃんは親友です。
その親友が自分の目の前で・・・
今の琴音がどんな気持ちなのか、私には全く想像できません。
琴音をどう慰めてあげたらいいのか、私にはわかりません。」
「時間をかけるしかないわね。
今は私達は、見守ることしかできないでしょうね。」
琴音の回復には時間がかかるだろう。
今しばらくは、琴音を見守るしかない。
このままじゃいけないと思ったけど、私にはどうすることもできなかった。
<<ミディア>>
どうしよう、さっきからモヤモヤする。
私とラーファ、エレーネ先輩にアイ、いつもの学校帰りの光景のはず。
それなのに、なぜか、誰かが足りないと思えて仕方がない。
もう一人、黒い髪の女の子がいたような気がする。
でも、はっきりと思い出せない。
「さっきからどうしたの、ミディア?」
ラーファが心配そうな表情で私に話しかけてきた。
「ねえ、本当に私達以外に誰かいなかった?」
「誰かって、誰よ?」
「黒い髪の女の子とかいなかった?」
「さっきから変なことを聞くわね。
そんな子、いなかったと思うけど。」
ラーファはエレーネ先輩やアイにも聞いてくれた。
でも、2人とも知らないと首を横に振った。
「ミディア、さっきから様子が変よ。」
「ウン・・・ゴメン。」
これ以上謎の女の子の話はやめることにしよう。
考えれば考えるほど、胸が苦しくなるだけだから。
「じゃあ、今日もどこかに遊びに行こうか?」
「ダメだよ、さすがに今日はお仕事手伝わないと。」
ラーファは何かと家の仕事をさぼろうとするので、私がしっかりしないといけない。
「ミディア、真面目すぎるよ。」
「ウン、そうだよ。」
私はラーファの挑発には乗らずに、今日は家に帰ることにした。
すると、ラーファもブツブツ言いながら、私の後をついてきた。
家に向かって歩いている途中で、憲兵隊がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「なにか、事件でもあったのかな?」
エレーネ先輩は興味深そうに、憲兵隊の方を見ていた。
エレーネ先輩、こういうの好きそうだなあ。
「憲兵隊、こっちに向かってきていますよ。」
アイもエレーネ先輩と一緒に憲兵隊を見ていた。
憲兵隊は、こっちに向かってきていた。
私達の方向は、街に続く道なので、街で事件でも起こったのかな?
憲兵隊は、私達のすぐ傍まで来て、そして横を通り過ぎていった。
やっぱり、街で事件でもあったようだ。
「もう、観光都市で犯罪とか勘弁してほしいんだけど。」
ラーファはため息をついた。
ラーヴォルンは観光都市だから、犯罪の発生は観光客の増減にモロに影響してくる。
小さな犯罪ならともかく、大きな犯罪の場合は深刻だ。
「憲兵隊が出動するほどの事態って、よっぽどの大きな事件じゃないか?」
エレーネ先輩は野次馬根性丸出しで、走り出す。
「ちょっと、行ってみようよ。」
ラーファが私の手を引っ張って、強引に走り出した。
「えー、今日は家の仕事を手伝わないと・・・」
「ちょっとぐらいいいじゃない。」
結局、ラーファに連れられて、憲兵隊の後を追いかけることになった。
まあ、私も少しだけ興味はあったからね。
ちょっとぐらいならいいかと思って、4人で見に行くことにした。
憲兵隊は、北街行きの港に集まっていた。
港には、エレーネ先輩のお母さんも来ていた。
「一体、何があったんですか?」
ラーファがエレーネ先輩のお母さんに聞くと、
「何でもヴェルク帝国のスパイが捕まったらしいわよ。」
スパイとはまた物騒な話だなあ。
「リーヴァは、ヴェルク帝国とガルティア帝国に挟まれた小国でしょ。
しかもラーヴォルンはアトゥア中の観光客が集まる街だから、よくスパイが潜入しているって話は聞いたことがあるわ。」
ラーファがそんなことを言ったから、なんかすごい不安になった。
ラーヴォルンに住んで3年になるけど、そんな話初めて聞いたよ。
私は今までそんな物騒なことを考えずに、日常を過ごしてきた。
ラーヴォルンは素敵な街だし、ラーファ達と一緒に過ごせて、毎日が楽しかったから。
でも、どんなに素敵な街でも悪い人はいるわけで、犯罪がないわけではない。
しかも、今回は帝国のスパイ。
嫌でも不安になってくる。
そうでなくても、最近、ヴェルク帝国とガルティア帝国が小競り合いを起こしているニュースをよく見る。
もしかしたら、ラーヴォルンも戦争に巻き込まれてしまうんじゃないだろうか。
こういう事件が身近に起こると、嫌でもそんな不安なことを考えてしまう。
「なるほど、そう言うことかあ。」
突然、私の隣にいた人が声を上げたので、私は驚いて、思わず隣の人の方を見てしまった。
そして、そこに立っている人を見て、私はもう一度驚いた。
「黒い・・・髪の・・・女の子。」
その子は美しい黒髪を持った女の子だった。
しかも、半透明で、向こう側が透き通っており、空中に浮いていた。
これは、まさか、幽霊!?
「ヒ、ヒィ。」
思わず悲鳴をあげてしまった。
でも、私の悲鳴に、周囲の人達が反応することはなかった。
なぜなら、いつの間にか周りの人達が止まった状態になっていた。
まさか、これは時間停止の魔法?
時間停止の魔法が存在するというのは聞いたことあったけど、実際に見たのはこれが初めてだ。
しかも、私と黒髪の女の子だけが動いている。
まさか、この女の子が魔法を使ってるの?
黒髪の女の子は、私の方を見ると、ニコッと微笑んだ。
「怖がらせてゴメンね、ミディア。
でも、君にしか聞ける相手がいないんだ。
少し質問させてほしい。」
黒髪の女の子はそう言うと、私に質問してきた。
「ミディア、君は私を覚えているかい?」
「ウウン、わからない。
あなたは一体誰ですか?」
「そっかあ、それは残念だ。
でも、ミディアは私のことを知っているはずなんだ。
ウウン、ミディアだけでなく、ラーファ、エレーネ、アイもね。
でも、3人とも恐らく覚えていないんだろうね。」
「多分、そうだと思います。」
私がさっき同じことを聞いた時、3人ともわからないって言ってたから・・・
ってまさか、この子がもしかして、さっき一瞬脳裏に浮かんだ黒髪の女の子なのかな?
「私、あなたが誰かはわからないけど、あなたに会ったことはきっとあるんだと思います。
さっきも黒髪の女の子の記憶がちょっとだけ見えたから。
でも、どうしてもはっきりとは思い出せないんです。」
「そっかあ。」
黒髪の女の子は笑顔で頷くと、今度は別の質問をしてきた。
「じゃあ、昨日、何をやっていたかは覚えている?」
「昨日は、私の魔法検定の結果がよかったので、午後からみんなと遊びにいきました。
街中歩いて、空港まで行ったりして、すごい楽しかったのは覚えてます。
でも、その後、お店でなぜかラーファが突然飛び出して、それからのことは・・・
ゴメンなさい、どうしても思い出せない。」
「どうして空港なんかに行ったの?」
「えーっと、それは・・・」
誰かに空港を見せるためだったはず・・・
でも、誰に見せようとしたんだっけ?
「誰かに見せようとして行ったんだけど・・・思い出せない。」
「じゃあ、ラーファはどうして店を飛び出したの?」
「私とエレーネ先輩の話を聞いて飛び出したみたいなんですけど、ゴメンなさい。
何を話していたのか、どうしても思い出せないです。」
「そっかあ、それじゃ仕方ないね。」
黒髪の女の子は、そう言うと、私の目の前まで近づいてきた。
私の目の前まで顔を近づけてきたので、何だかすごい恥ずかしい。
ってあれっ、前にもこんなことなかったっけ?
その時、私の脳裏に、お祭りの中で突然姿を現した女の子のことがよぎった。
「もしかして、ルフィル・コスタの日に会ってますか?」
私がそう言ったら、黒髪の女の子は笑顔で頷いた。
「そう、あの時、初めて私と君は出会ったんだよ。
よかった、ミディア、君の記憶は消滅したわけじゃない。
何者かに封印されているだけのようだ。」
えっ、誰かが私の記憶を?
「ミディア、お願いがあるんだけど・・・」
「ハイ、なんでしょうか?」
「もし、次に私を見かけることがあったら、優しく声をかけてほしい。」
「いいですよ。」
もしかして、私に友達になってほしいってことなのかな。
でも、彼女は一体誰なんだろう?
「あ、あの、あなたのお名前は?」
でも、彼女は小さく首を横に振った。
「今はまだ、教えることはできない。
でも、次に出会った時には、きっとミディアも名前を思い出せていると思うよ。」
「そ、そうですか?」
「そうだ、ヒントを一つあげよう。」
「ヒント?」
「君の部屋に、見覚えのないイデアが残っているはずだ。
それを見てみるといい。」
「はあ、わかりました。」
見覚えのないイデアって何だろう?
そんなの私の部屋にあったかな?
イデアに何かヒントが隠されてるのだろうか?
とその時、女の子の体中が光り始めた。
あれっ、この感じ、以前にもあった気がする。
「そろそろ私は帰らないといけない。」
「どこに帰るの?」
「それも、そのうち思い出せるよ。
だから、次に会う時には、また仲良くしてね。」
女の子は笑顔でそう言うと、光の中へと消えて行った。
それを見た瞬間、また黒髪の女の子の笑顔が頭の中をよぎった。
確か、その子も確か、帰る時は光の中に消えたような気がする。
そして、いつも帰る前に、明日会う約束をしていたような気がする。
そのことを思い出した瞬間、急に胸が苦しくなって、なぜか涙が止まらなくなってしまった。
「ど、どうしたのミディア?」
ラーファが驚いた顔で、こっちを見ていた。
気がつくと、周りの景色も人も動き出していた。
「大丈夫、ミディア?」
アイも声をかけてくれた。
「ねえ、黒髪の女の子のこと、覚えていない?」
もう一度みんなに聞いてみたけど、やっぱりみんな首を傾げるだけだった。
あの子は言っていた。
何者かが私達の記憶を封印したと。
誰が一体どうしてそんなことをするの?
あの子の顔を思い出すたびに、胸が苦しくなって、涙があふれてくる。
どうして、私とあの子の思い出を奪うようなことをするの?
お願いだから、私達の記憶を返してよ。
結局、私が泣き止まなかったので、私はラーファに連れられて家に帰った。
帰り道、ラーファは事件のことを話してくれた。
捕まったのは3人組の男女のスパイで、ヴェルク帝国からの観光客を装ってラーヴォルンに来たらしい。
彼らが何の目的でラーヴォルンに来たのかは、これから取り調べされるそうだけど、スパイが捕まったことで今後は検閲が厳しくなりそうだと話していた。
「あのスパイのおかげで観光客が減ったら、どうしてくれるのよ。
ルーイエ・アスクがつぶれたら、あのスパイのせいだからね。」
ラーファが私に冗談ぽくそう言った。
多分、私を元気づけるために言ったのだろうけど、私はそんなラーファの思いやりに気づける余裕はなかった。
「ねえ、本当にどうしたの、ミディア?
私でよければ、相談に乗るよ。」
でも、ラーファはあの子のことを覚えていない。
だから、どうしようもなかった。
「ウウン、今日は悪いけど、お仕事休ませてほしい。」
「わかった、お父さんとお母さんに言っておくから、部屋でゆっくり休むといいよ。」
ラーファの言葉に甘えて、部屋で休むことにした。
こんな泣きはらした顔でお客様の前に出るわけにはいかないし、今の私は何かのきっかけですぐに泣き出してしまいそうだった。
「ゴメンね。」
ラーファに謝って、自分の部屋に戻った。
部屋に戻って、しばらくぼーっと過ごしていた。
今日は何もする気がしなかった。
私の記憶に出てくる黒い髪の女の子。
あの子のことを思い出すだけで、どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう?
多分、あの子は私の親友だったんだと思う。
すごい楽しかったとか、そういう記憶の断片だけは残っていた。
そして、その断片が頭によぎるたびに、すごい悲しい気持ちになった。
今日会った黒い髪の女の子は、何者かが私達の記憶を操作したと言ってたけど、誰が一体何の目的でそんなことをしたんだろう?
そう言えば、黒い髪の女の子がなんか言ってたなあ。
私の部屋に見覚えのないイデアがあるって。
部屋を探してみたら、確かにあった。
なんだろう、このイデア?
試しにイデアフィールズで再生してみたら、そこには黒い髪の女の子が映っていた。
「この子はさっきの・・・まさか、念写?」
その時、頭の中に、昔の記憶が流れ込んできた。
「ところで、まだ時間があるからさ、一つやってほしいことがあるんだけど・・・」
「イデア? これで何をしろと?」
「だから、これに・・・の姿を念写してよ。」
これは、北街にハーメルトンのコンサートを見に行った時の・・・
空いた時間を使って、エレーネ先輩が、ラーファに誰かの念写をしてって頼んだんだっけ。
「ねえ、ラーファ・・・」
「な、なにかな?」
「北街で・・・を念写したイデア、ちょっと見せてほしいんだけど・・・」
「ラーファ、出して。」
「ハイ・・・」
「ねえ、ラーファ、このイデアに映っている女の子、一体誰?」
「そ、それは、・・・のつもり・・・だったんだけど・・・」
「合ってるの、服装と黒髪だけじゃない。
肝心の顔を編集しすぎだよ。
足も長くしすぎだし。」
そうだ、このイデアは確かラーファが編集したものだったっけ。
それで、この後ラーファにもう一回頼んだんだよね。
そうしたら、ラーファがなぜか怒りだして・・・
どれもついこないだのことばかりなのに、遠い昔の思い出のように思える。
そして、どの思い出にも、私の隣にはあの子がいた。
「私のためにイデアに映像残してくれて、アリガトね。
私、ミディアちゃんのことが、もっと大好きになっちゃった。」
そう言う彼女の満面の笑顔を思い出した瞬間、私の目から大粒の涙がこぼれた。
初めて好きって言われた時は、すごい衝撃的だった。
だからかな?
「ダメだよ、好きっていう言葉は、将来を誓い合った人に対して言うものだよ、琴音。」
そうだ、あの子の名前は、由姫咲 琴音だった。
私、ようやく思い出せたよ。
よかった、あなたのことを思い出せて。
また、ラーヴォルンに来てくれるよね?
来てくれるでしょ、琴音?




