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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
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36.琴音の決断

<<琴音>>

 ゲームは結局すぐにやめてしまった。

 私の持っているゲームは、RPGとアクションゲームがほとんどなので、こういう気分の時にはあまり向いていなかった。

 RPGはシナリオが頭に入ってこない。

 単純なレベル上げを行なうには向いてるかもしれないけど、やってるうちに寝ちゃいそうだし。

 かといって、アクションゲームをやるほど集中力もない。

 いくつかスマホにもゲームを入れてあるけど、今日はあまりしたい気分じゃなかった。

 というわけで、結局、またダラダラとテレビを見ていた。

 途中で、学校から帰ってきた悟が様子を見に部屋に入ってきたけど、私の顔を見たら、無言で部屋を出て行った。

 私の顔はそんなにひどいことになってるのかな?

「琴音、日花里ちゃんの布団、ここに置いておくね。」

 お母さんは、私に何も聞こうとはしなかった。

 何も聞かずに、それでいてずっと見守ってくれている、そんな感じだった。

 そんなお母さんの気持ちが、今はとても嬉しかった。

 多分、悩みをうまく説明できないし、説明できたところで、お母さんにはきっと理解できないだろう。


 お母さんは夕飯も部屋に運んできてくれた。

「ありがとう、お母さん。」

 素直にお母さんにお礼を言うと、お母さんは部屋を出ていく時にこんなことを言った。

「琴音、悩み事は一人で抱えてちゃダメだからね。

 お母さんに相談してくれてもいいし、お母さんがダメなら日花里ちゃんでもいい。

 とにかく、誰かに相談してみてね。」

「ウン、わかってる。」

 お母さんはそれだけ言うと、部屋を出て行った。

 私は夕飯を食べながら、日花里ちゃんにどう説明しようか考えていた。

 日花里ちゃんだって、直接覆面に会ったわけじゃないし、説明したところで、答えを出してくれるかどうかわからなかった。

 でも、今は日花里ちゃんにすがるしかなかった。


 食事を終えて、お風呂に入っている間に、日花里ちゃんが家に来ていた。

 日花里ちゃんは、私の部屋でお母さんが出したお茶とお菓子を食べながらテレビを見ていた。

「やあ、琴音、少しは元気出た?」

「日花里ちゃんは随分と元気そうだね。」

「その様子だと、あまり調子よくなさそうね。」

「ウン。」

 私は部屋の扉を閉めると、日花里ちゃんに向かって座った。

「それで、一体何を悩んでるの?

 私には話してくれるんでしょ。」

「ウン、実は・・・」

 それから、私は昨日起こったことを全て話した。

 ラーヴォルンから帰る途中で、謎の覆面に出会ったこと。

 以前、その覆面と一回出会っていたこと。

 私をラーヴォルンに連れてっていたのは、その覆面の仕業であること。

 そして、覆面がラーヴォルンに行くのをやめさせようとしていること。

 覆面が何の目的でこんなことをしているのかわからず、どうすればいいのか困っていること。

 日花里ちゃんは、茶化すことなく、最後まで真面目に聞いてくれた。


「なるほど、謎の覆面ね。」

 日花里ちゃんはそう言いながら、何やら考え込んでいた。

「ラーヴォルンに初めて行った日に、実は覆面に会ってたんだよ。

 でも、日花里ちゃんには結局あまり詳しく話してなかったよね。

 翌日話そうと思ったんだけど、その晩に見たラーヴォルンのインパクトがあまりにも強すぎたから・・・」

「まあ、それは仕方がないわね。

 私もラーヴォルンやミディアちゃん達を初めて見たら、覆面のことなんてすっ飛んでいたでしょうし。」

 日花里ちゃんも小さく頷いた。

「で、琴音はどうしたいの?」

 日花里ちゃんが私に聞いてきた。

 私がどうしたいかなんて、そりゃあ決まってる。

「私は、今はまだミディアちゃん達と別れたくないよ。」

「じゃあ、そうすればいいんじゃない。」

 日花里ちゃんはあっさりとそう言った。

「でも、あの覆面が何を企んでいるのか、さっぱりわからないんだよ。

 もし、覆面が人類にとって敵で、私をラーヴォルンに送り込んでいるのはそのためだったとしたら?

 私をラーヴォルンに送り込むことに、何のメリットがあるかわからないけど・・・

 もしそうだとしたら、私がラーヴォルンに行くことで覆面に協力することになっちゃうよ。

 私、人類の敵になっちゃうよ。」


「アハハハハハハハハハ・・・」


 突然、日花里ちゃんが大笑いした。

 こんなに大笑いする日花里ちゃんを見るのは、久しぶりかもしれない。

 でも、こっちは真剣に悩んでるのに、思いっきり笑われて、すごい気分が悪くなった。

「どうして笑うの?

 私、真剣に悩んでるんだよ。」

「ゴメンゴメン、だって、琴音の悩みがあまりにもぶっ飛んでたから・・・」

 まだ笑ってるよ。

「ヒドイよ日花里ちゃん。」

「ゴメン、琴音。

 でも、話を聞く限りでは、そんな心配する必要はないと思うんだけどなあ。」

 えっ、日花里ちゃん、もしかして今の話だけで覆面の目的がわかったのかな?

「もしかして日花里ちゃん、覆面の正体がわかったの?」

「別に覆面の正体や目的がわかったわけじゃないよ。

 でもね、琴音と覆面の会話を聞く限りでは、世界征服の心配はなさそうだなって思っただけ。」

「どうして、そんなことが言えるの?」

 日花里ちゃんは笑うのをやめると、私に説明してくれた。


「まず、覆面は、周りの世界を止める力を持っていて、それを使って琴音に接近してきたんだよね。」

「ウン、そうだよ。」

「私が思うに、その時点で、今の人類には絶対勝てない相手だよ。」

「それはまあ、そうだね。」

「どんなにすごい兵器を持っていても、時間や空間を止める相手には絶対勝てないよ。

 覆面はこの世界では既に無敵の力を持っている。

 だから、さっさと世界征服しちゃえばいいと思うんだよね。」

「でも、覆面一人じゃ、すごい力を持っていたとしても、世界征服するのは大変だと思うけどなあ。」

 私がそう言ったら、日花里ちゃんは首を傾げた。

「あれっ、琴音は覆面が世界征服するかもしれないって心配してたんじゃないの?」

「いや、まあ、そうなんだけど・・・あれっ?」

 もしかして、私はなんか変な思い込みをしていたのかな?

「さっき、琴音が覆面一人じゃ世界征服は大変だって言ったけど、それは私も同じ意見。

 いくらすごい力を持っていたとしても、一人で世界征服は大変だと思う。

 世界を滅ぼすんだったら、一人でもすぐにできると思うけどね。

 まあ、本当に覆面が一人だけなのかどうかはわからないけどね。」

「えっ、あんなすごい力を持つのが、何人もいるってこと?」

「それは私にもわからないよ。

 でも、もし覆面が世界征服や世界滅亡を狙っているとして、なぜ今すぐに行動に移さないのか?

 私が思いついた理由は3つ。

 一つは、覆面は一人もしくは少数しかいない。

 もう一つは、世界征服に必要なエネルギーが不足している。

 そして、最後の一つは、覆面には世界征服する意思がない。

 今はこれぐらいしか思いつかない。」


 日花里ちゃんの話には、妙に説得力があった。

 正直、あんなすごい力を持つ覆面が大人数いるとは思いたくなかった。

 覆面に世界征服の意志がないのが一番だけど、今は最悪の事態を考えるべきだ。

 となると、やっぱりエネルギーかな。

 だとしたら、覆面が言ってたメリットってのもわかってくる。

「もしかして覆面の言ってたメリットってのは、エネルギー?」

 私がそう言うと、日花里ちゃんはなぜか笑い出した。

「えっ、どうしてそこで笑うの?」

「ゴメンゴメン、あまりにも琴音が真剣に話に食いついてくるから・・・」

 えっ、もしかして、今までの日花里ちゃんの話って、全部冗談だったの?

 なんか、すごい不愉快な気分になった。


「そもそも、琴音はこのままラーヴォルンに行ったら、覆面の味方をしてしまうんじゃないかって心配してたけどさ。

 話を聞く限りでは、覆面はむしろ、琴音をラーヴォルンに行くのを辞めさせたがっているように思えるんだよね。」

「確かに・・・」

 覆面は、ラーヴォルンは理想郷じゃないと言ってきた。

 いろんなことを言ってきたのは、私をラーヴォルンに行きたくなくならせるためだったのかもしれない。

「覆面の目的が何なのかわからないけどさ。

 もしかしたら、覆面の目的は達成されたんじゃないかな。

 もう目的を達成したので、琴音に用はなくなった。

 だから、これ以上琴音をラーヴォルンに連れて行く必要もなくなったので、やめたがっているってところじゃないかな。」

「なんか、日花里ちゃんの言ってる通りのような気がした。」

「それで、覆面の目的だけど、琴音、何か心当たりない?」

 そう言われましても、私にも皆目見当がつかないわけで。

 でも、そう言えば、最初に覆面に会った時にこんなことを言ってたな。


「そうだ、最初に覆面に会った時に、こんなことを言われたよ。

『琴音、お前の退屈な日常を私が解決してやろう。』

 確かにあの頃は、私は毎日退屈だと思ってた。」

「なるほど、覆面にとっては、日常に退屈している人間が必要だった。

 それで、琴音を見つけ出して、ラーヴォルンに連れて行った。

 そして、琴音は楽しい毎日を過ごすようになった。」

「でも、私を退屈な日常から解放することで、覆面に何のメリットがあるんだろう?」

「覆面に何のメリットがあったのかはわからない。

 時間を止めるような高度な文明を持つ者の考えることだし、私にわかるわけがない。

 でも、さっき話してたエネルギーが目的だとしたら、感情の変化がもたらすエネルギーとか、そんな感じなのかもしれないね。」

 まるでアニメやゲームに出てきそうな設定だ。

 でも、私にもそれ以外のメリットは思いつかなかった。

 謎の高度な生命体が、わざわざ私を元気にするために、こんな大掛かりなことをしたとは考えにくいし。

「エネルギーが目的で、それが達成されたんだったら、とっくに覆面は世界征服に必要なエネルギーを得ているってことになるね。」

「もしかして、私のせいで人類が滅んじゃうの?」

 ゾッとなった。

 私がラーヴォルンに行ったばかりに、人類滅亡の危機になってしまった。

「どうしよう、日花里ちゃん。」

 この時の私は顔面蒼白状態だったと思う。

 でも、日花里ちゃんはそんな私を見て、

「プッ、本当に琴音は面白いわね。」

 なぜか吹き出した。


「もしかして、今までの話も全部冗談?」

 さすがに2回目なので、少しムッとなった。

 でも、日花里ちゃんは首を横に振った。

「ウウン、冗談で言ったつもりはないよ。

 あくまでそうなっている可能性もあるってだけの話だよ。」

 可能性の一つだったら、やっぱり人類滅亡の危機じゃない。

 笑ってる場合じゃないよ。

「結局ね、類推に類推を重ねた結果の話なんか、何の信ぴょう性もないってこと。

 大体、この話って覆面が地球侵略することが出発点になってるけど、本当の覆面の目的だってはっきりしていないんだから。」

 言われてみたらそうだ。

 確かに、私は覆面が地球侵略するものと思い込みすぎていたのかもしれない。


「それにさ、琴音の話を聞く限りでは、覆面ってそんなに悪い人には思えないんだけどなあ。」

「えっ、どうして?」

「だって、覆面がラーヴォルンに連れて行ってくれたおかげで、琴音はこんなに明るくなった。

 あんなにつまらなそうに毎日を過ごしていた琴音と同一人物だなんて思えないよ。」

 日花里ちゃんはすごい嬉しそうにそう言った。

 その日花里ちゃんの表情で、私は気づいてしまった。

 以前の私が、日花里ちゃんを散々心配させてきたってことに。

 それでも、日花里ちゃんは私を見捨てずに友達でいてくれた。

 私にはもったいないくらいの素晴らしい親友だ。


「日花里ちゃん・・・私・・・今までずっと・・・」

「おっと、それ以上は何も言わなくていいよ。

 そんなことより、今は覆面の話でしょ。」

 日花里ちゃんは覆面の話に強引に戻した。

 なんか、日花里ちゃんの顔が赤い。

 もしかして照れてるのかな?

「私が思うに、覆面がラーヴォルンに行くのを辞めるって言い出したのって、琴音がラーヴォルンのことを理想郷なんて言い出したからじゃないの。

 これ以上、琴音がラーヴォルンの世界にはまってしまうのを危険だって思ったんじゃない。」

 どうして、私がラーヴォルンにはまるのが危険なんだろう?

「だって、琴音、今まで毎日つまらないって言ってたでしょ。

 ラーヴォルンにはまりすぎた結果、現実の方をまたつまらないとか言い出して、無気力に戻ってしまうことを恐れたんじゃないの。

 多分、覆面が琴音をラーヴォルンに連れて行ったのは、旅行的な意味合いが強かったんだと思う。

 日頃のストレス解消に、休日に旅行に行ったりするのは私達もよくやるでしょ。」

「つまり、ラーヴォルンに連れて行って、私のストレスを解消しようとしてたってこと?」

「まあ、そんなところ。

 だから、覆面は最初は数日程度を想定してたんじゃないかな。

 ところが、琴音がミディアちゃん達とすっかり仲良くなって、琴音はすっかりラーヴォルンにはまってしまった。

 しかもミディアちゃんと勝負するとまで言い出したから、覆面もなかなか言うに言えなくなったんじゃないかな。

 でも、その勝負のおかげで、こっちの世界でも琴音は元気になったので、覆面は当分様子を見ることにしたんだと思う。」

 もし、覆面が日花里ちゃんの言う通りの人物だとしたら、覆面の印象が随分と変わってくる。

 それでもどうしても納得できないことはあるけどね。


「覆面はどうしてそこまで私のことを気にかけてくれるの?」

「そんなこと、私にわかるわけないでしょ。」

 そりゃあそうだ。

 でも、もし覆面が私のことを気にかける理由があるとしたら・・・

 そうしばらく考えてみて、思いついたのは自分でも馬鹿馬鹿しいと思うことだった。

「実は、私が覆面にとって特別な存在だって可能性はないかな?」

「ウン、その可能性もないとは言い切れないわね。

 覆面にとって、琴音は重要な存在で、だから力を貸した可能性もなくはないね。」

 いや、冗談で言ったつもりだったんだけど、まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった。

 ウーン、でも、私、頭だってそんなによくないし、自分が特別な存在だなんて思えないけどなあ。

「特別な存在って言っても、別にすごい力を持ってるとか、そう言うことじゃないと思うよ。

 例えば、恋人だって特別な存在でしょ。

 要はその人にとって、特別かどうかってことで、覆面にとって琴音は特別な存在だってことも考えられるわね。」

「えー、私、覆面に一目ぼれされたってこと?」

「いや、恋人ってのはあくまで例えで出しただけだから・・・」

 覆面が何者なのか、ますますわからなくなってくる。

「そうねえ、私の印象だと、恋人というよりは、おかんみたいだよね。」

 プッ、おかんって。

「日花里ちゃん、おかんなんて今時関西人でも言わないよ。」

「そうなの。まあ、お母さんみたいな存在って言いたかっただけよ。」

「まさか、私のお母さんが、覆面の正体!?」

 そういや、今日一日、お母さん、何も言わずに見守ってくれてたけど、もしかして覆面だから何もかも知っていたってこと?

「へえ、琴音のお母さんって、時間を止めることができるんだ。」

 日花里ちゃんがそう言う。

「ゴメン・・・さすがにないかな。」

 お母さんにそんな力があると思えない。

 それに、昔からお母さんってあんな感じだった。

 でも、お母さんじゃないとしたら、もしかしてお父さん?

 いや、それはもっとないな。

 悟はもっとないし、そうなると本当に誰も思い浮かばないよ。


「でも、別に死にそうになっていたわけじゃないんだよ。

 ただ日々退屈そうに過ごしている私を見かねて、高度な生命体が私をラーヴォルンに連れて行ってくれたってこと?

 やっぱり、ちょっと考えられないなあ。」

 それだったら、さっきの感情エネルギーうんたらの方がまだ納得いく。

 私がそう言うと、日花里ちゃん苦笑した。

「メリットはあったでしょ。

 だって、琴音が元気になったし。」

「だから、それだけのために、わざわざこんな大掛かりなことをしたとは思えないんだよ。」

 私の元気になるのがメリットとか、覆面は一体私の何なんだ?

「さっきも言ったけど、相手は私達よりもはるかに高い力を持つ存在だからね。

 私達の考えが及ばないところに理由があるんだと思う。

 だからね、私達がいくら考えても、覆面の目的なんてわかるわけないってこと。

 だから、結局こういう質問になっちゃうんだよ。

 琴音はどうしたいの?

 自然解除とやらが起こるその日までラーヴォルンに行き続けるか、それとももう行くのをやめるか。

 結局、琴音がどうしたいかで決めるしかないと、私は思うよ。」


 日花里ちゃんの言いたいことはよくわかった。

 私は、覆面が何を企んでいるのかわからないというその不気味さの方ばかり考えていた。

 でも、日花里ちゃんに色々話を聞いて、考えが変わった。

 今大事なことは、私がどうしたいかってことだ。

「ウン、私、決めたよ。

 私は自然解除されるその日まで、ラーヴォルンに行き続けるよ。」

「まあ、琴音ならそう言うと思ったよ。

 覆面に今の自分の気持ち、叩きつけてやれ。」

「ウン。」

 なんだか、すごい気分が軽くなった気がした。


「ちなみに、覆面の正体だけどね。」

「えっ、日花里ちゃん、覆面の正体がわかったの?」

 私はびっくりしてしまった。

 でも、日花里ちゃんは違う違うと腕を振った。

「私に覆面の正体がわかるわけないでしょ。

 でも、琴音は1回目は赤川市で、2回目はラーヴォルンで会った。

 ということは、少なくとも、地球とラーヴォルンのあるアトゥアだっけ?

 覆面は両方の世界を知っている人物ってことになる。」

 地球とアトゥアの両方を知っている人物か。

 まあ、そうじゃないと、私をラーヴォルンに連れて行くのは無理だから、当然かもしれない。

「そして、これは推測だけと、覆面は地球の文明とアトゥアの両方の文明を持っている可能性が高い。

 地球の科学文明と、アトゥアの魔法文明の両方をね。」

 なるほど、日花里ちゃんの言いたいことがわかってきた。

「つまり、私が体験した時間の止まった世界は、魔法の可能性があるってこと?」

「そういうこと。

 だから、今日、ラーヴォルンに行ったら、時間を止める魔法の存在について聞いてほしいの。

 ミディアちゃんやラーファちゃんだったら、知ってるかもしれない。」

 もう何て言うか、日花里ちゃんは本当にすごいと思った。

 私は今日一日ずっとパニくってて泣いてただけなのに、日花里ちゃんは私の話を聞いただけで、ここまで思いつくなんてすごいよ。

「ウン、今日、ミディアちゃんに聞いてみるよ。」

「よし、じゃあ、今度は私の頼みを聞いてくれる?」

「私をラーヴォルンに連れてって、でしょ?」

「あったりー」

 日花里ちゃんはそう言うと、私に抱きついてきた。

「ちょっと、暑苦しいよ。」

「だって、琴音と接触していないと、ラーヴォルンに行けないんだから、仕方がないでしょ。」

「前は手をつないだだけで行けたでしょ。」

「実は、こないだは琴音が寝た後で、抱きついて寝たんだよ。」

「ウソ!?」

 こないだ、そんなことになっていたとは知らなかった。


 日花里ちゃんのおかげで、ラーヴォルンに行く勇気が少し出てきたよ。

 今日、覆面が出てきたら、私の意志を突きつけてやるんだ。

 ラーヴォルンに行けなくなる日が来るまで、私はラーヴォルンに行き続けるってね。


「琴音、またその恰好で行くの?」

 私は、以前コンサートで着て行った服装に着替えていた。

「あの日はすごい楽しかったからね。

 今日はなんかこの服を着て行きたい気分なんだよ。」

 時計の針は、10時を回ったところだった。

 いつもより少し寝るの早いけど、今日はいろいろありすぎて、なんかどっと疲れた。

「じゃあ、寝よっか。」

「えっ、もう寝るの?」

 日花里ちゃんは驚いていた。

 まあ、前に来た時は、夜中まで起きてたからね。

「よほど泣き疲れたのね。」

「ウン、そんなところ。」

 今日一日で、1年分ぐらい泣いた気がする。

 寝る前に水分補給をしておこう。

 台所に行って、お茶をコップで2杯ほど飲んだ。

「琴音、水飲みすぎて、おねしょするのは勘弁よ。」

「ちょ、ちょっと、私がおねしょする歳に見える!?」

 私が大声を張り上げる。

 その時、ちらっとお母さんの姿が見えた。

 お母さんはニコッと微笑むと、自分の部屋に戻って行った。

 ずっと、心配かけてたもんね。

「お母さん、ありがとう。」

 小さな声でお母さんにお礼を言った。


 その後は、寝るのが大変だった。

 日花里ちゃんが思い切り抱きついてきて、暑苦しいことこの上なかった。

「これじゃ絶対に眠れないよ。」

「わかったわよ。

 じゃあ、また琴音が眠ってから抱きつくよ。」

「本当に眠ってから抱きつくつもりなんだ。」

 なんか暑苦しくなって、途中で目覚めそうだなあ。

 それだけは勘弁してほしい。


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