表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第1章 ラーヴォルンにようこそ
4/254

4.黄昏のラーヴォルン

<<琴音>>

 いけない、ついつい調子に乗ってしまった。

 全く知らないラーヴォルンという街で、かわいい女の子と友達になれたせいか、つい嬉しくて、はしゃぎすぎちゃった。

 私は自分からスキンシップを取るタイプじゃないけど、今日は別かな。

 だって、私、わかっちゃったんだよね。

 これは夢だって。

 現実の私は、赤川市に住む、しがない一女子高生だもん。

 そんな私が、突然見知らぬ場所に来ているこの状況、どう考えても夢としか思えない。

 試しにほっぺをつねってみたけど、やっぱり痛くない。

 ウン、これは夢だよ。

 だからね、普段しないようなことを思い切ってやってみよう。


 それにしても、この街、すごい綺麗な街だなあ。

 海沿いにあって、建物は中世ヨーロッパ風(私が想像する)だし。

 みんなの来ている服は民族衣装っぽいし、住んでいる人達みんな楽しそうだし。

 きっと、ここの空気、すごい透き通っていて、おいしいんだろうなあ。

 この世界の風を肌で感じてみたい。

 この世界の空気を思い切り吸ってみたい。

 この世界で生活してみたい。

 最初は、誰も自分のことを認識してくれず、見知らぬ場所に一人ぼっちだったので、そんなことを考える余裕もなかった。

 友達ができただけで、こんなにも心に余裕ができるものなのかな?

 ミディアちゃんにラーファちゃん、それに私の姿は見えないけどエレーネちゃん。

 みんなすごいかわいい女の子で、夢の中だとわかっていても、こんな友達ができてとても嬉しい。

 今は、エレーネちゃんがこの街の絶景スポットに連れてってくれるそうで、ミディアちゃん達と一緒に移動中です。

 でも、ラーファちゃんが私のことを怖がってるのは少し残念。

 ラーファちゃんとももっとお話ししたいのに。


「ところで、琴音の住んでいるところは、どんなところなの?」

 ミディアちゃんが私に話しかけてきた。

 私の住んでいるところかあ。

 どんなところかと聞かれても、特に思いつくことないかなあ。

 少なくとも、ラーヴォルンみたいな美しい街ではないね。

「人がそれなりにたくさん住んでいる普通の街かな。

 外に出るのって普段学校に通うくらいだから、あんまり気にしたことないなあ。」

「そうなの?」

「赤川市もラーヴォルンみたいな街だったら、きっと毎日楽しいだろうね。」

 それはそうと、さっき自己紹介を聞いて、一つ気がついたことがあった。

「ミディアちゃん、ここの人達の名前って、みんなラーヴォルンってつくの?」

「ウン、名前と姓の後に、住んでいる街の名前がつくんだよ。

 同じ街の人同士で自己紹介する時にはつけないんだけど、琴音はラーヴォルンの人ではないみたいだからね。」

 へえ、この世界には変な習慣があるんだなあ。

 私の名前をラーヴォルン形式にしたら、コトネ・ユメサキ・アカガワになるのか。

「じゃあ、引っ越ししたら、最後につく街の名前も。」

「ウン、もちろん変わるよ。」

 でも、名前を聞いただけで住んでいる場所がわかるのはいいかもしれない。

 ただ、ストーカーとかにつきまとわれたら、逆に面倒な気がするけど。


 街には観光客と思われる人達で溢れかえっていて、いろんなお店が出ていた。

「それにしても、なんかすごい賑やかだね。」

「ウン、今日はルフィル・コスタってお祭りの日なんだよ。

 だから、アトゥア中から観光客が集まってきているんだよ。」

 ミディアちゃんが笑顔で教えてくれた。

 そうなんだ。

 今日はお祭りの日なんだ。

 道理で賑やかなはずだ。

「ルフィル・コスタって、どういうお祭りなの?」

「簡単に言うと、ルフィルに感謝するためのお祭りだよ。」

 本当に簡単な説明ありがとう。

 でも、ルフィルってなんだろう?

「ルフィルってのは、このアトゥアに宿る全ての生命の魂を管理する存在だよ。

 誕生する生命の魂を天界から導き、そして、亡くなった生命の魂を天界まで導くのがルフィルの役割なんだって。」

「へえ、じゃあ、ルフィルがいないと大変だね。」

「だから、アトゥアでは、ルフィルに感謝するお祭りが結構たくさんあるんだよ。

 ルフィル・コスタもその一つなんだよ。」

 どうやら、この世界はルフィル信仰が盛んらしい。

 それにしても、アトゥアの全ての生命の魂を導くって、ルフィルの仕事も大変だね。

 もし地球にもルフィルがいたら、人口多いし過労死しそうだな。

「ところで、ミディアちゃん、アトゥアって何?」

 私がそう聞くと、ミディアちゃんは驚いた表情になった。

「えっ、私達が住んでいるこの星の名前だよ。

 もしかして、琴音って、アトゥア以外の場所から来たの?」

「えーっと、そういうことになるのかな?

 地球って言う星から来たんだよ。」

「地球?

 聞いたことない星だけど、アトゥアの近くにある星なの?」

 そう聞かれても、アトゥアがどの辺にあるのかわからないから、答えようがないよ。

 それに、アトゥアの位置とか教えてもらったところで、多分何も答えられないと思うけど。

 私の持つ宇宙の知識なんて、地球が太陽系の第3惑星だってことぐらいしか知らないからね。

 その太陽系がどこにあるかと聞かれても、銀河系の端っこのどこかってことぐらいしか知らない。

「ウーン、わからないかな。」

 適当にごまかすことにした。

「えっ、じゃあ、どうやってアトゥアまで来たの?」

 それは私に聞かれても困る。

 私が知りたいぐらいだ。

 確か、日花里ちゃんに電話をした後、眠ったらいつの間にかここに来ていたわけで。

「ウーン、部屋で寝てたら、いつの間にかここに来ていた。」

 ここは素直にありのまま答えることにした。

 でも、当然、ミディアちゃんは首を傾げる。

「じゃあ、どうやって帰るの?」

 ミディアちゃんにそう聞かれて、少し不安になってきた。

 これ、夢だと思ってるんだけど、本当に夢だよね?

 夢にしては周りの景色や人があまりにもリアルすぎて、だんだん夢に思えなくなってきたよ。

 いくら赤川市での毎日がつまらなくても、いくらラーヴォルンが素敵な場所でも、いきなり放り込まれるのは嫌だ。

 ラーヴォルンに住んでみたいって思ってたけど、もしかしたら本当にラーヴォルンに住むことになるかもしれない。

「ま、まあ、眠ってこっちに来たってことは、目が覚めたら戻るかもしれないよ。」

 ミディアちゃんが落ち込んでいる私を必死に慰めようとしてくれていた。

 こんなかわいい子に気を遣わせたらダメだ。

「ウン、そうだね。」

 とりあえず、ミディアちゃんに笑顔で応えた。

 今は帰りのことは忘れることにしよう。

 ミディアちゃん達との時間を大事にしよう。


 ミディアちゃんと話しているうちに、いつの間にか海岸に到着していた。

 ここから見える海を見て、言葉を失った。

 なんてきれいな海だろう。

 エメラルドグリーンの海ってのは、こういう海のことを言うんだろうなあ。

「ちょっとだけ寄って行くか。」

 エレーネちゃんに誘われて、みんな浜辺の方へと向かって行く。

「琴音も行こう。」

 ミディアちゃんが私に声をかけてくれて、私も一緒に浜辺へと向かう。

 浜辺に着くと、みんな履物をぬいで、裸足になった。

 その砂浜はとても真っ白で美しく、打ち上げる水は透き通っていて、今まで見たことない美しい砂浜だった。

 その美しさに思わず見とれてしまった。

「ここ、私達のお気に入りの場所なんだ。

 私達、よくここに遊びに来るんだよ。」

 ミディアちゃんはそう言うと、楽しそうに笑った。

 こんな美しい砂浜が近くにあるなんて、なんて羨ましい。

 残念ながら、水に入っても何も感じることができなかった。

 きっとひんやりとした冷たい水なんだろうなあ。


「そろそろ行こうか。」

 エレーネちゃんの声で、私達は砂浜を離れて、いよいよ絶景スポットに向かうこととなった。

 私的には、もう少しあの砂浜を堪能していたかったけど、絶景スポットの方が興味があったからね。

 こんな美しい街の絶景スポットって、どんな場所だろう?

 私にとっては、ここから見える景色が既に絶景なんだけど、これ以上の絶景なんてあるんだろうか?

 ニコニコしながら、みんなの後をついて行った。

 絶景スポットに行くのは結構大変らしく、途中で山道を登ることになった。

 私は空中を浮いてるから全然平気なんだけど、ミディアちゃんは山道をゼイゼイ言いながら必死に登っていた。

 なんだかとっても大変そうだ。

 できることなら、私が手を貸してあげたいけど、ミディアちゃんに触ることできないし、私にはどうすることもできない。


「もう少しだよ。」

 上からエレーネちゃんがミディアちゃんに手を差し伸べていた。

「ありがとうございます。エレーネ先輩。」

 ミディアちゃんがエレーネちゃんの手を掴む。

 この2人、学校の先輩後輩の関係らしいけど、なんかいいなあ。

「もうすぐだから頑張ってね。」

「ハイ。」

 この先輩後輩、傍から見ているとすごい和む。

「ところで、私に見えない女の子・・・えーっと琴音だっけ?

 その子もちゃんと来てる?」

 しかも、見えない私のことまでちゃんと気にかけてくれている。

 エレーネちゃんって本当に優しいなあ。

「ハイ、私の横にいます。」

 笑顔で応えるミディアちゃんもかわいい。

 ああ、どうして私はラーヴォルンに生まれてこなかったんだろう?

 そうすれば、思いきり2人にスキンシップできるのに。

 2人を見ていると、可愛すぎて無性に悶えたくなってくる。

「琴音、どうしたの?」

 そんな私を変に思ったのか、ミディアちゃんが私の方をじっと見ていた。

「な、何でもないよ。」

 そうごまかすと、早く絶景スポットに行こうとミディアちゃんに言う。

「もう、琴音は浮いてるから楽だけど、私達は大変なんだよ。」

「ゴメン、ミディアちゃん。」

「私の方こそゴメンね。

 責めるつもりじゃなかったんだよ。

 そうだね、早く絶景スポットに行こう。」

 ミディアは私が傷ついたと思ったのか、私に謝るとニッコリ微笑んでくれた。

 本当にかわいい。

 こんな女の子、日本じゃもはや絶滅危惧種だよ。

 なんだろう、ミディアちゃん達を見ていると、すごい胸がキュンキュンする。

 こんなこと、今までなかったことだ。


 しばらくして、私達は少し茂みの多い場所に出る。

 どうやら山頂ではないらしい。

「観光客はみんな山頂に行っちゃうんだけど、絶対こっちの景色の方が綺麗だよ。」

 エレーネちゃんはそう言うと、私達に早く来るように手招きする。

 それに誘われるように、私達はエレーネちゃんのいる茂みの方へと駆け寄った。

 しばらく茂みの中を進むと、開けた場所に出て、視界が一気に広がる。

 そして、そこからの景色を見た瞬間、私は言葉を失った。


 いつの間にか、夕方になっていた。

 山からは水平線まで見えて、太陽が水平線に沈もうとしていた。

 そして、その手前には、ラーヴォルンの街並みが見えた。

「山頂だと、別の山で街並みが隠れちゃうんだよね。

 それに、ここからだと、耳を澄ませば街の音も聞こえてくるし。」

 本当だ。

 賑やかなお祭りの音が聞こえてくる。

 それに、ここからだとラーヴォルンの街並みがはっきりと見える。

 夕暮れの空の向こうには、飛行船が飛んでいた。

 その向こうには、大きな島が見えた。

「ラーヴォルンは海峡の街なんだよ。

 こっちは南街で、あっちに見えるのが北街だよ。」

 ミディアちゃんが、海の向こうに見える街並みを指す。

 へえ、ラーヴォルンは海峡を挟んで二つに分かれてるんだ。

 じゃあ、あっちに見えているのは島じゃなくて、もしかしたら大陸なのかな?

 渡り鳥が北街の方からこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

 やがて、太陽が沈んで、でもまだ少し明るくて・・・

 この時間のことを何て言ったっけ?

 そうだ、黄昏時だ。

 黄昏時になって、次第に北街と南街に明かりが灯り始める。

 その街明かりが徐々に灯っていく光景が、また幻想的で素晴らしくて・・・

 なんだか、目の前に広がる全ての光景が、夢のような光景だった。

 これは夢なんだから、夢のような光景って言うのもなんか変だけど。

「やっぱり、この時間にここから見る景色が、最高の景色だと私は思うよ。」

 エレーネちゃんは自信満々にそう言った。

 エレーネちゃんの言う通りだ。

 こんな素敵な景色、今まで見たことがない。


「琴音、どうして泣いてるの?」

 えっ?

 ミディアちゃんに言われるまで、自分が泣いていることに気づかなかった。

 今までいろんな場所に行ったことあるけど、景色を見て泣いたのはこれが初めてだ。

 どうして泣いてるのか、自分でもわからない。

 でも、一つ気づいたことがあった。

 いつも心の奥底にあったモヤモヤした感情が、いつの間にかなくなっていた。

「わからない・・・でも、多分感動してるんだと思う。」

 そう、多分感動してるんだと思う。

「えっ、琴音泣いてるの?」

 私が泣いてると知って、エレーネちゃんは慌てていた。

 でも、ミディアちゃんが説明してくれた。

「そっかあ、琴音が泣くほど喜んでくれるとは思わなかった。私も嬉しいよ。」

 エレーネちゃんはそう言うと、本当に嬉しそうにニコッと笑った。

「ミディアちゃん、エレーネちゃん、本当に素敵な景色をありがとう。」


 突然、周囲が光り輝き出す。

「えっ、何、これ!?」

 突然のことに、私は驚いてると

「琴音、なんかすごいまぶしいよ。」

 ミディアちゃんが私の方をまぶしそうに見ていた。

 どうやら、私の体がすごいまぶしく輝いてるみたいだ。

 でも、私にはどうしていいかわからない。

 そのうち、私の視界もどんどんまぶしい光で消えていく。

 もっと、この景色を見ていたい。

 そう思う私の感情に反して、光は私の視界を遮り、気がつくと・・・


 気がつくと、私はベッドで目覚めていた。

「あれっ、ここは?」

 見慣れたはずの自分の部屋なのに、自分がここにいることに驚いた。

 やっぱり、夢だったんだ。

 そう思い、私は頬に涙が伝っていることに気づく。

「そっか、私、夢を見て泣いてたんだ。」

 私は涙をぬぐうと、体を起こす。

 時間はまだ6時半だった。

 私の家から高校まで、歩いて15分ほどなので、8時に家を出ても余裕で間に合う。

 時計のタイマーは7時に設定していた。

 つまり、いつもより早く起きてしまったってことだ。

「ああ、どうしてこんな時に早起きなんかするんだよ。

 私のバカ、バカーッ!」

 最後に見たあの景色、あれが夢だとしたら、もう少し見ていたかった。

 あんな素敵な夢、もう二度と見ることができないかもしれない。

 そう思ったら、もうため息しか出なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ